第8ブロック2回戦第1試合、TaS、電芹組vs西山、柏木楓組の一戦は TaS組の勝利という番狂わせで決着した。 「悔しいが、さすがとしか言いようがないな。次も頑張れよ。」 「HAHAHAHA! 最善をつくしマスヨ!」 敗れてなお豪胆。さすが西山英志。 二人の男の手が、がっちりと握られたのである。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 その一瞬後。 無念の雄叫びを上げて暴走して行く西山の姿があった。 「よっぽど悔しかったんデスネエ…」 主に温泉旅行の件で。 「まあ、無理からぬことでしょうね。」 観客席からずっとこの試合を見ていた男。 番狂わせをみても、さして驚きもしなかった男、NTTTがぼそりと呟いた。 「西山君の本業はあくまでも格闘。 まあ、あそこまでテニスをやってのけたというのも、彼の才能なのでしょうが、 それにしても、そのベースは素手での格闘にある。 対してTaS君は棒術を嗜んでいたとか。 それをベースとしてしまえば、結構あっさりとテニスに溶け込むことができる。 この試合、言ってしまえば、棒術の土俵に素手格闘家が上がって試合をしたようなもの。 西山君にしてみれば、相性がすこぶる悪かった。こう考えるしかないでしょうかね。」 誰にともなくそう呟き、整理中のコートに目を移す。 「とは言ったものの、結局は私にもよくはわかりませんけどね。」 さて、第1ブロック2回戦第2試合、橋本、来栖川芹香組vsEDGE、ハイドラント組の試合が間もなく始まろうとしていた頃、 ハイド組の控室に一人、客が訪れていた。 「いい、ハイド? これはテニスなんだから、ちゃんと正々堂々と闘うのよ?」 言わずと知れた、彼らの対戦相手の来栖川芹香の妹、来栖川綾香である。 「テニスってのは、紳士のスポーツなんだから…」 ここまで言って、綾香は何か使命感にとりつかれていたのかもしれない。 目の前にいるハイドラントと闘うことになる橋本の心配。 この場合は、試合以前に潰されるのではないかという危惧であるのだが、 その橋本の危惧を事前になんとかしようと、彼のパートナーの芹香が ハイドラントと親しい綾香に、それとなく言ってくれるよう頼んでいたのであるが、 姉の頼みとはいえ、少々気負いすぎていたのかもしれない。 今目の前にいる男は、紳士という概念からは、ある意味最も外れている男であるのだから。 「…で、綾香さんは私達に何をしてほしいわけ?」 傍で聞いていたEDGEが問い掛ける。 「だから、正々堂々と闘ってほしいわけよ。」 自分の頼みを耳に入れてるのかどうなのかよくわからないEDGEらの態度に少々口調が強くなる綾香。 「…まあ、そうしろって言うんならそうするけど。ね、ハイドくん。」 「御意。」 「…え?」 あまりにあっさりとした受諾に拍子抜けする綾香。 「だって、別に汚い手を使うとか、使わないとか、そんなレベルの相手じゃないだろうし。」 ぴく。 綾香のこめかみが僅かに動く。 「てっきりはるか先生のペアが勝ち上がってくると思って、それに備えていたのに。 確かに綾香さんのお姉さんが魔術の腕では凄いってのは知ってるけど、 テニスにそれがどれほど活かせるかは所詮未知数でしょ?」 淡々と続けるEDGE。 「それに………えっと………」 「それに?」 不意に言葉を詰まらせるEDGE。 「ねえハイドくん、綾香さんのお姉さんのパートナー、誰だったっけ?」 「………すみません師匠、失念してしまいまして。」 ナメてる。 綾香は少々イラついていた。 これでは自分はまるで道化ではないか。 芹香、橋本組がハイドらのラフプレーに潰されないよう、事前に釘をさしておこうと思ったのに、 当のEDGEとハイドラントは、対戦相手の名前すらマトモに覚えていない現状なのであるから。 「…帰るわ。」 「あ、わざわざお疲れさま〜」 やや不満を顔に出しながら帰る綾香を揶揄するかのようなEDGEの反応。 「これだけは言っておくけど。」 不意に振り返り、二人を見据える綾香。 「足元、すくわれないようにね。」 「…師匠、少々大人げないかと。」 「…そうだけどさ。だって、失礼だよ。”正々堂々と闘え”なんてさ。 まるで私達がマトモに闘ったら勝てないような言い草じゃない。いくら綾香さんでもねえ…」 「まあ、確かについこないだまでテニスなんてロクにやったことありませんでしたからね。」 「そうそう、”手に酢”なんてしょーもないギャグかますどっかのお弟子さんもいたしねえ。」 互いに苦笑いする二人。 「…橋本と来栖川芹香ですね。緒戦の相手は。」 「うん。なんか特訓やってたみたいだけど、どんなもんだろうね。 注意すべき点といえば、彼らのバックに工作部がついていること、くらいかな。」 EDGEが綾香に対してあんな態度をとったのは、あくまでからかい以外の何者でもない。 伊達に校内エクストリーム大会で、風紀委員長・広瀬ゆかりを叩き伏せ、 そして、柏木耕一争奪戦にて、あの柏木千鶴と張り合える実績をもっているわけではない。 勝利に対しての執着は誰にも引けを取らない。それが神威のSS宗主、EDGEという少女。 事前に調べられるデータがあれば、必要なだけ全て集めることなど、彼女にとって当然のこと。 例え、あきらかに格下と思われる敵のそれでも。 「でも、調べてみても、やっぱりねえ…」 口とは裏腹に、彼女の気には一寸の隙すらない。 「ふう…」 対して、ここは橋本、芹香組の控室。 「姉さん、ちょっと…」 試合の準備をしていた芹香を呼び出す綾香。 ちなみに橋本とはいうと、間近に迫った恐怖に脅えていたり。 そもそも彼らが勝ち残った1回戦からして、1球もネットを越えることなく 相手チームの九条和馬がリタイアした、いわゆるタナボタ勝ちであった。 まあ、経緯はなんであれ勝ちは勝ちである。あの河島はるかを破った大金星であることには違いはない。 しかし、そのおかげで2回戦、 全チーム中1,2を争う残虐チームと評判のEDGE、ハイドラント組と相対することになったのである。 彼の脅えようはただごとではない。 しかし、そんな彼も外にいた綾香の話が耳に入った途端、人が変わったように生き生きとしてきた。 ”EDGE、ハイドラント組は、ラフプレーは今回封印してかかってくる。” 「ホントか綾香さんっ!」 「わっ、橋本先輩…」 喜色満面で芹香と綾香の会話に割り込む橋本。 「ええ、それは間違いないわ。」 その異様な迫力にやや圧されながらも、話を伝える綾香。 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 よほど怖かったのだろうか。 最大級の声で叫んで体中で喜びを表現する。 「…それともう一つ、耳寄りな話があるわよ。」 橋本の喜びように呆れながらも、もう一つの話を芹香達に伝える。 「ハイド達は姉さん達を完璧にナメてかかってくるわ。…いい、そこが狙い目よ。」 無論綾香とてEDGEやハイドラントの態度をそのまま真に受けてなどはいない。 しかし、やや調べていたとしても、どこかに油断がある。 綾香はそう読んでいた。 その一筋の油断に付け込むことができれば… 「ハッハッハ、馬鹿じゃねえのかハイドラントの奴! ちょっと学園で幅きかせてるからって、自分が何でもできるスーパーマンとでも思い込んでるのかね。」 さっきの態度は一体なんだったのであろうかと思わんばかりの橋本の増長ぶり。 「だいたいテニスもろくに出来ねえくせに、綾香さんの色気に負けてラフプレー封印だってよ。 てめえらからラフプレーとったら一体何が残るかって!」 「……………をい。」 「……………」 既に顔が引き攣りまくってる綾香に、それでも平然としてる芹香。 「しかしチャンスだぜこれは、あの先輩を先輩とも思わんEDGEのアマ、 この機会にぶちのめして、ヒーヒー言わせてやらあ! なんたって、テニスの腕ならどう考えたって俺らのほうが上手なんだからな!」 「……私、帰る。」 「…………」 「うん。姉さん、怪我だけはしないでね。」 こくこく。 「おっ、橋本達が出てきたぞ…」 Aコート。ここには既に菅生誠治と柏木梓、それに長谷部彩が橋本と芹香の応援で、既にスタンバイしていた。 しかし、誠治達にはもう一つの目的があった。 ”ハイドラント組の監視” 既にFENNEK、陸奥崇、八希望、昂河晶の工作部メンバーが散らばって警備をしていた。 それとは別に、へーのき=つかさ、Dセリオなどの警備保障残留組も警備を厳戒体勢に切り替えた。 抑止役にEDGEがいるとはいえ、ハイドラントという男の危険度が、これを見てもわかるというもの。 それはそれとして、すっかり増長した橋本は彩の手を取って何やら話しこんでいる。 「この勝利を君に捧げるよ…」 「は、はあ…」 当然の反応だが、困惑する彩。 「…どうしたんだあいつ? さっきまであんなに脅えていたのが。」 あまりもの橋本の豹変に呆気にとられる梓。 しかし誠治は一人、そんな橋本を厳しい目で見据えていた。 観衆がざわめく。 ついにお出まし。ハイドラント、EDGEの二人がコートに入場してきた。 その様子には、なんの気負いも感じられない。 不意にEDGEと選手専用席に陣取る綾香の目とが合う。 挑発するかのような目で綾香を見据えるEDGE。 「(…あいつ。)」 その飄々としたスタイルを崩すことなく、綾香も視線をEDGEにぶつける。 「よお、今日はよろしくなハイドラント!」 いつにもまして軽い口調で橋本がネット向こうのハイドラントに話しかける。 なにか小馬鹿にでもしているような口調にもとれる。 そんな彼を睨むでもなく、殺気をぶつけるでもなく、ただ見ているハイドとEDGE。 「ところでお前ら、テニスって何だか知ってる? なんだったらやりながらでも教えてやるよ。」 ハハハと笑いながら己の陣地に戻ってゆく橋本。 絶対自分に危害が及ばないという自信、テニスなら間違っても負けないという自信が 彼の口を一層滑らかにしていた。 「では―― 2回戦、橋本、来栖川ペア 対 EDGE、ハイドラントペア、――プレイっ!」 「見ててよ芹香さん。この試合――」 橋本がボールを高く投げ上げる。その身体が後ろにしなる。基本に忠実なサーブのフォーム。 「――あいつらにゃ、1ゲームだって渡しはしねえ!」 すぱぁぁぁん! 橋本のフラットサーブがコート隅目がけて疾走する! このタイミングなら間違いなく―― パァンッ! 「え…?」 反応すらできなかった。 ”撃ち返されたボール”は、橋本の足元でバウンドして、後ろの壁にぶつかり止まった。 「イン! 0−15!」 審判の声が響く。 「ねえ、橋本”先輩”っ。」 ことさら”先輩”を強調してEDGEが声をかける。その横でニコリともしないハイドラント。 「テニスって、こんな感じでよかったですか〜?」 規格外。 モンスター。 化け物。 ありとあらゆる単語が橋本の頭をぐるぐる回転していた。 自分の放つ全てのショットが、全部、何から何まで全く通用しない。 予想に反してフェアプレーに徹しているハイド達に、最初は脅えていた観客も、次第に声援を送り始める。 「(なんでだ…)」 橋本とは言えば、最初の勢いなどカケラも感じられない虚ろな表情を浮かべている。 「(話が違うじゃねえか…)」 しかし、ハイドラントにしてもEDGEにしても、それほどテニスに詳くなったわけではない。 例えば、彼らが知ってる知識を挙げてみると、 ”要するに、来たボールを枠の中に叩き込めばいい。” 言ってしまえばそんなものである。 しかし、それしか知らなくても十分通用する運動能力と順応性を二人とも持っていた。 加えて今大会のルールは、従来のものよりかなり緩やかになっている。 早い話がこの二人、ラケットを武器あたりとしか想定していない。 「ゲーム! EDGE、ハイド組、3−0!」 それでも、現在パーフェクト。 すっ… 芹香の細い腕が上げられる。 「来栖川選手、どうかしましたか?」 「…………」 何やら審判に話している芹香。しかし当然と言うかなんというか、審判には聞こえていない。 仕方なく芹香のところまでいって話を聞く。 「来栖川選手、靴のヒモが切れたため、緊急タイムをとります!」 にこり。 芹香がかすかに笑ったように、ハイドラントにはそう見えた。 「(やるな、さすが綾香の姉とでも言おうか。)」 実は芹香、不測の事態に備えて、自分の靴紐を切れやすい状態にしておいたのである。 理由は単純。今のような緊急タイムをとり、試合の流れを変えるため。 基本的にテニスでは中途のタイムは認められない。 それで芹香はこのような非常手段を考えていたのである。 そう、ハイド達との対戦が決まった、そのときから。 がんっ! 「ちくしょう! 全然話が違うじゃねえか!」 ラケットを乱暴にコートに叩きつけて、喚きたてる橋本。 「おいっ、いい加減に…!」 バキッ! 見かねた梓が強くたしなめようとしたその一瞬前、誠治の拳が橋本を殴り飛ばしていた。 「…落ち着け!」 強い意志がこもった言葉。 「相手をナメ過ぎだ! 奴等は普通の相手じゃないって知ってるだろ! テニスを知ってる知ってないなんて概念、奴等に通用するわけないだろう!」 「……………」 黙り込む橋本。 相変わらず厳しい、しかし真摯な眼で彼を見据える誠治。 そして、心配そうな、しかしながらしっかりと意志のこもった瞳で橋本を見つめる芹香。 「(…………何やってんだ俺は!? たかだかラフプレーをしてこないってだけで、勝ったもんだと思い込んじまって… それに、誠治や、…芹香さんにまでこんなに心配をかけさせやがって…っ!)」 ばしゃっ! 水分補給用の水筒の水を思いきり頭にかける橋本。 「………頭が冷えたぜ。」 その面持ちは、さっきまでの足が地に付いていない彼とは違っていた。 「誠治、軌道解析ツールとパワーアシストグローブを貸してくれ。 奴等相手には、それくらいしなければ勝てない。そのくらいの相手だってことがやっと、認識できた。」 「…よし。」 橋本と芹香にアイテムを渡す誠治。 さっきまでの橋本なら、渡しても使いこなせなかっただろう。そのくらい慢心していた。 しかし今は違う。このアイテムの力を十二分に発揮させることができるだろう。 誠治から手渡されたアイテムをつけ、再びコートに戻る橋本と芹香。 「…芹香さん。」 「……………」 「――勝とう!」 「ゲーム! 橋本、来栖川組、2−3!」 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「いいぞ二人とも、あと少しで同点だっ!」 工作部から割れるような歓声が飛ぶ。 まさに威力抜群の工作部謹製アイテム群。 軌道解析ツールは、サングラス状になっていて、敵のフォームを読み取ってボールの軌道を読める優れもの。 来るボール来るボール、スイングの段階でボールがどこへ来るかが一目瞭然なのである。 パワーアシストグローブ。 敵のショットの威力を計算し、その力と同等のパワーをプレイヤーに身につけさせる。 これでハイド組のスピードとパワーは封じることができた。 そして、技術、つまりテニスにおける緻密さ、正確さは、こればかりは経験豊富な橋本達のほうが上であった。 その威力を駆って、ついにあと1ゲームにまで追いついた橋本組。 彼らも応援団も大歓声。 EDGEがサーブを放つ! が、何の変哲もない普通のサーブ。 「けっ! ついに観念したか!工作部の科学力の前にはSS使いの能力なんててんで役立たずだな!」 橋本も難なく打ち返す。 そのボールをハイドラントがまたも無難に打ち返し、そのボールを芹香が打ち返す。 長く長く、長いラリー合戦に次ぐ合戦。 しかし、先程前述したように、ショットの正確さと緻密さばかりは橋本組のほうが上。 いつしかハイド組は追いつかれ、そして逆転されてしまった。 . . . . . 「ゲーム! アンド、マッチウォンバイ――EDGE、ハイドラント組! ゲームポイント、6−4!」 「ふう、ちょっとは疲れたね、ハイドくん。」 「疲れました? ちょっと運動不足なんじゃないですか、師匠?」 テニスというスポーツはことの他ハードである。 例えどんなスポーツ、武道をこなしても、何十分もラリーを繰り返していれば汗をかく。 気持ちよさげな、適度な汗をかいているハイド達の向こうには、 力尽きて倒れ伏している橋本と芹香の姿があった。 「最初から本気でくれば、もしかして私達を倒せたかもしれないのに。 私達がその機械の弱点に気づく前にね。」 「弱点だと…」 聞きとがめて立ち上がる誠治。 「スタミナよ。」 さらっと答えるEDGE。 「いくら凄いパワーを誇って、いくら私達の弾道が読めようとも、 スタミナばかりはどうしようもできない。だから持久戦に持ち込んだのよ。 …一度は逆転されるのを承知でね。」 そして、ちっちっと指を振って言葉を締める。 「あなたたちの敗因は、私達が自分の能力におんぶにだっこしていると思い込んだこと。 パワーがなくても、スピードがなくても、スタミナさえなくたって―― ――なんとかできるのが、SS使いってヤツなのよ。」 EDGE×ハイドラント組…3回戦進出! 橋本×来栖川芹香組…2回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:こんばんは、広瀬ゆかりです! で、今作のコンセプトは? よっし:『SS使いの底力』。 ゆかり:ほぉ、具体的には? よっし:言わない。EDGEさんが作中で言ってるでしょ? ゆかり:あそ。じゃあ次回は? よっし:第3,5,7ブロックのいずれかです。 ゆかり:それでは、次回もよろしくお願いいたします! ハイドラントさん、EDGEさん、今大会への出場、誠にありがとうございました。