「ねぇ、ねぇ、『命』おねえちゃん」 『なぁに?靜ちゃん』 「いつもみたいに昔話聞かせて!」 時は、昼休み。 僕こと、東西と、その肩に乗っている『命』、 そして、茶飲み友達となっている、きたみち靜ちゃんと、 その保護者である、きたみちもどるさんは、僕のお気に入りの場所にて、御茶を飲んでいた。 『そうですねぇ………』 『命』が、珍しく逡巡し、僕の方に視線だけを巡らし、 くすっ 笑った……『命』の、悪戯を思いついたときの癖だ。 「おい……」 『何です?東西』 顔がにやけてるぞ……『命』…… 『私が話してはいけないのですか?』 「『命』おねえちゃん、お話ししてくれないの?」 『東西が何か文句があるそうですから……』 口調こそ、さも残念そうだが……顔が笑ってるぞ…… 靜ちゃんはこっちを泣きそうな顔で見てるし…… きたみちさんは……言うまでもなく、恐い顔になってるし…… 「なんでもない……姫君にお話ししてやりなさい……」 『命』が、満足げに頷く、 『では、始めましょうか』 靜ちゃんが、うん、うん、と頷いて、すでに話を聞く状態に入っている。 『命』の奴………何を話すつもりやら…… 『これはね、精霊界に残ってるお話の一つなの。 昔々の話 一人の少年と 一人の精霊…… 私たちを見ることが出来た少年と この世界で少年と共にあることを望んだ精霊のお話……』 ……こいつ……僕たちのことを話すつもりか? そう考えたとたん、それを肯定するかのように『命』がこちらを向き、 ぺろり 舌を出して、くすくす笑ってる。 ……まぁ、いっか……靜ちゃんに聞かせたらやばいようなことは上手くぼかすだろう…… 『そう……二人の出会いは……』 そう、僕たちの出会いは…… いつの間にか僕は、『命』の話に乗りながら、遠い昔を思い出していた…… Lメモ過去編 「昔語り」 『二人が出会ったのは少年がとても小さかった頃、 その精霊が普通の精霊と同じように名前も持っていなかった頃……』 僕が小さな頃、それがおかしな事だとは思わなかった…… 「君は誰?」 一人で遊ぶことが多かった僕には…… 『私には名前はありません…… 私は精霊『生命の精霊』……』 精霊が見え、精霊の声が聞こえることは…… 「ふぅーん……可哀想だから僕がつけたげる。」 だけど……精霊と友達になったのは彼女が初めてだった…… 「昨日の約束守りに来たよ。 『みのり』でどう? 昨日お父さんと考えたんだ。よく、わかんないんだけど……せいめい、っていうのにはピッタリだって」 『みのり…… 私の……名前?』 そう、漢字もわからなかった僕は、平仮名だけの名前を送った…… それから、僕たちは一緒に遊ぶようになった……と言っても、 普通の状態の精霊に、触れられるわけもないので、もっぱら、『命』の話を聞くだけだったが…… 『精霊に名前を与えてからは、その子供は、触れることが出来ぬ友達として、 今の靜ちゃんのようにお話をして楽しんでいたの…… その精霊も少年にお話をすることを楽しんではいたのだけれど…… 二人とも、お互いに触れて、普通に遊ぶことを望んでもいた。 そして、その子供が少年になって、人間のお友達とよく遊ぶようになると……』 「うそつきー!」 「そんなモノいるわけないだろう!」 今でも鮮明に浮かんでくる……あの時の光景…… 小学校に上がったとき、友達とよく遊ぶようになってから、そう言われるようになった。 「草なんか蹴っても悲鳴なんか上げないよ!」 そう言って、その辺の草を蹴る遊び友達。 「泣いてるよ!何にもしてないのに、邪魔にもなってないのになんで蹴られるの、って、泣いてるもん!」 僕にだけ聞こえる声でなく精霊達、それを知っていながらも何もできなかった、僕。 ただただ悔しかった…… 「そのお兄ちゃん可哀想……」 ぽつりと呟いた。 『命』は、少しだけ困ったような顔をして話を続けた。 『そうね、でも、少年は、精霊達との付き合い方は変えなかった…… そして、漢字を覚えるようになってからね……』 「これが『みのり』が、使える力なんだ……」 初めて書いたへたくそな「命」と言う字…… 僕は習ったばかりの漢字を見て嘆息していた。 『ええ、生きているみんなが持っている力…… とても大切なモノ……』 「ふーん、じゃあさ、これ、君の名前につかっちゃおう!」 『「みのり」という、読み方はありませんよ?』 「いいじゃん、『あてじ』って、やつだよ♪」 そういって、ニコッと笑う僕、意味もよくわからないのに使った言葉、 それに対して、『命』は、 『では、頂きましょう』 仕方ないですね、とでも言うように肩をすくめて笑っていた。 「父上、あてじって何?」 「うん、当て字って言うのは、 正しい読み方をしないで、その字の雰囲気とかで、勝手に読み方を作ってしまうことだよ」 きたみちさんが、靜ちゃんの頭を優しく撫でながら、教える。 こういう所を見ると本当に父親のように見えるなぁ。 『命』も、その様子を微笑ましげに見て、説明を終えるのを見てから話を続けた。 『そして、少年が大人に近付けば近付くほど、 周りの人間の少年に対する対応は酷くなっていったんです……』 ……今の表現で大丈夫だろうな? 靜ちゃんには変な知識をつけたくないからな…… すでに、靜ちゃんは、『命』の話にのめり込んでしまっていて、瞬きすら忘れているようだ。 小学校三年の時だったかな…… 「まだ、そんなこといってんのかぁ?」 「こいつ、漫画の見過ぎでおかしくなってるんじゃないの?」 その頃になると、完全に周囲から奇異の目で見られていた。 校内、校外を問わずに、喧嘩をふっかけられることもしばしばだった。 しかし、僕は、精霊達がそんな理由で喧嘩をすることを嫌っていたために、黙ってその環境になれていった。 「精霊さん達はなんで、そのお兄さんを助けなかったの?」 ……あー、『命』は一応押さえて話してたが……ちょっと、きつかったかな? 『精霊達はね、この世界に、普通姿を見せることが出来ないの…… だから、少年が、嘘つきでないことを教えようにもどうしようもなかったの……』 「ふーん……でも、『命』おねえちゃんは、いつも、靜にも見えるよ?」 この話の本題だな…… 『私はね、特別なの、この話に出てくる精霊も後で私と同じようになるのよ』 「ふーん、じゃ、早く話して、話して」 『はい、はい。』 『命』、お姉さん気取りだな……ま、はるかに年上だけど…… 『それから、少年が剣術を習うようになった、いじめっ子を適当にあしらうようになるために…… そして、運命の日……「精霊達の宴」の日……』 『命』に、漢字を当てはめてやって殆どすぐの夏休みだったかな…… 「精霊達のお祭り?」 『ええ、精霊達が集まって、宴を催すのです。年に何回かですが』 その時の『命』は、すでに宴に思いを馳せていたのかとても楽しそうだった。 「今まで、そんなこと一言も言ってなかったのに……」 その時まで、何年も付き合ってきたのに初めて聞いた僕は少しだけ不機嫌になった。 その様子に気付いた『命』が、慌てて言いつくろってきた。 『い、今までは東西といるのが楽しかったから参加しなかっただけです。』 その様子を少しだけ面白く感じた僕は意地悪をする気になった。 「じゃあ、『命』はもう僕といても楽しくないんだ……」 あの時はホントに名演技だと思った……涙すら流してたもんな僕。 『え、ちが、そうではなく、えっと……』 あんな、あわてふためく『命』は初めて見たなぁ、その後泣き出してなだめるのが大変だったけど…… 「精霊達の宴ってどんなの?」 ……靜ちゃんがあの時の僕と同じように聞いている。 あの時は『命』どう答えたかな? 『別に、珍しいモノではありませんよ、人間が催すのと同じ様なモノです』 そうだ……あの時もこう言ってたんだ……無用な好奇心を刺激しないために…… 『精霊達の宴は、あくまでも精霊達だけのモノ…… その時は獣達ですらも遠ざけて楽しむのです。 それなのに……』 そう、それなのに僕は…… 「うわぁーーーーーー!」 ダン! 「精霊達の宴」の場所に張り巡らされた、風の結界に捕まり、高く舞い上げられたと思った次の瞬間、 地面にたたきつけられていた…… 「い…た……いよ」 すでに僕にはどうしようもなかった…… 体の中から「必要な力」が抜けていくのを感じていた。 (これが……『命』の力かな?) 痛みが激しく、気絶することすら許されない中、僕は『命』のことを考えていた。 楽しく遊んだ思い出、 叱られた思い出、 虐められて泣いているときに慰めてくれた思い出、 名前をあげたときのかお、 初めて漢字で名前を書いて上げたときのかお、 『命』との思い出が浮いては消える……砂を手ですくっているときのように、留めることも出来ずに流れていく、 (会いたいな……『命』、 来ないって、約束破ったの許してくれるかな?) その時、風の流れが変わった…… 皮肉なことに、死に面して極限にまで研ぎ澄まされていた感覚はそれを僕に教えてくれた。 『東西、東西!どうしてきたのです!?』 『命』が、僕の目の前に立ち泣いていた。 (ああ、会えたな……泣いてるけど……) 死にそうになっていたのに、僕は微笑むことが出来た……神様に感謝しながら…… 『若き「生命の精霊」よ……』 『命』以外の精霊が『命』に声をかけていた。 すでにぼやける視界の中、『命』を見ることだけに集中していた僕にはそうとしか表現できない。 『助けたいか?その人を……』 『はい!』 その問いに、『命』は、僕から目を背けず、即答する。 『ならば……その人と、契約を交わすがいい……その人の一生涯を一つとなり過ごすと言う契約を……』 『はい…… 東西……ごめんね……私、貴方とまだいたいの……ごめん』 (なんで謝るんだろう?謝るのは僕なのに……) その理由は後でわかったが…… 『我、汝と契約を結ばん これより先、我は、汝ともっとも近き他人 これより先、我は、汝ともっとも遠き双子 これより先 汝が精神を我に 我が力を汝のモノとせん』 (気持ち良い……) 身体から漏れだしていくモノが戻ってくる感触、 心の何処かで新しく何かを得た感触、 そして……鼻先に初めて感じる、『命』の手…… 色々な新しい感触の中、僕の意識は闇に溶けていった…… 「どうして、その精霊さんは、お兄ちゃんに触れることが出来たの?」 僕が目を覚ましたとき、日は高く上がっていた。 僕は、おなかの前で何かを包むような形になっている両手の中で眠る『命』を見付けて驚いた。 『命』は、僕の両手に包まれて眠っていたから…… 『精霊はね、精霊使いが私たちの力を使うとき、 私達が精霊使いの精神力を借りて力を放出する状態の時だけ触ることが出来るようになるの。 さっきその精霊が結んだ契約は、普通の精霊使いが結ぶ契約とは別の契約…… 契約を結んだ、精霊と、精霊使いは精神の一部をくっつけるの、そうすることにより、 触れるようにするための精神力を貰い続けることが出来るようになるの』 ……難しいだろ……靜ちゃんには…… 「よくわかんないけど……触れるようになったんだ」 やっぱり……くっくっく、っと、忍び笑いが聞こえたかな、『命』がこっちをにらんでる。 「でも、なんでその精霊さんは謝ってたの?」 『それはね、その少年を死ねなくしちゃったの……』 「なんで死ななくなるのに謝るの?靜、死ぬの恐いからやだよ?」 ……普通そうだよねぇ……死にたがるのは……よっぽどの目にあった人だけだもんな…… 『そうだね、おかしいね?』 そう言って、『命』も、話を打ち切った。 『そして、少年は、周りの人間にその精霊を見せて回ったの……』 両親は喜んでたなぁ……娘が出来たみたいだって……今考えるとホントに非常識な親だ。 でも…… 「うわぁ、お前珍しいモノもってんなぁ」 「人形か?」 みんな、面白がってみているだけだった…… いや、それだけならまだ良かった…… 「貸してみろよ!」 「『命』は、玩具じゃないから駄目!」 滅多にしない僕の反応にそいつはカッと来たんだろう、いきなり殴ってきた。 不意をうたれた僕はまともにくらってしまって、唇を切ってしまった、 倒れるときに手や足にちょっとした擦り傷が出来た程度だった。 『東西!』 その傷も『命』の力で、治して貰ったんだ………そうしたら…… 「化け物!」 いきなりだった……すばやく、治っていく傷を見ながら、そいつは「化け物」と言って、逃げていった。 その帰り道、僕たちは無言になっていた…… 「あれ?東西か?」 その声に振り向くと、 「幻八さん……」 そこには、町内でも変わり者で、子供の間では「変な人」で通っている、幻八さんがいた。 「なに?その肩にいるのは?」 幻八さんは、僕の肩に座って俯いている『命』を指していった。 「……『命』」 「『命』?ひょっとして、いつもお前が話してた精霊の?」 僕は黙って頷く、 幻八さんは、家が近所と言うこともあって、近所付き合いをよくしていた。 変わった人ではあるが、気さくな人で僕の話も馬鹿にしないで聞いてくれていた人、 『命』の事を、話している数少ない人だ。 「へぇー」 一頻り『命』を眺めてから、人差し指を『命』の前に差し出す。 「?」 僕も、『命』も幻八さんのしていることの意味が分からず困惑していると、 「握手……といっても、君はこのサイズだからね、人差し指で堪忍してくれ」 『命』は、慌てて幻八さんの人差し指を握って返した。 「ありがと」 そういって、今度はその人差し指で『命』の頭を撫でる。 「で、こんなに嬉しいことがあったのに……お前はなんでしょげてるんだ?」 僕は、いきなり泣き出してしまった…… さっきのやつのことが悔しくて、 幻八さんの行動が嬉しくて、 いきなり泣き出された幻八さんは慌てていたが、 精神の深い部分でつながっている『命』には僕の心情がわかっていたので優しく微笑んでいた。 『その少年も、精霊もね。 一部の心ない人々に蔑まされて寂しい思いをしたの…… でもね、一部の優しい人々に励まされもしたのよ』 「それで?そのあと、そのお兄ちゃん達はどうなったの?」 靜ちゃん完全に話にのめり込んでる…… 『命』も話し手冥利に尽きる、というものだろう。 『そうねぇ…… 靜ちゃん、精霊使いはね。 精霊と、人が共存できるようにするのが使命なの』 ……なに? 『その後の、少年はねぇ 精霊達と人間が幸せに暮らせるように、努力したのよ』 ……何が言いたい……こいつ…… 「どんな事してたの?」 『精霊達の声を人間に伝えたり、 たまに暴走する、精霊達の力を押さえ込んだり、 人の役に立つこと、 精霊達が困らないようにすること、 その両立を目指して、二つの種族の渡し船として幸せに暮らしたのよ』 おーい……『命』さぁーん……勝手に話の締めを作らないで欲しいんだけど…… いや……こっち向いてくすくす笑われても…… ともかく、靜ちゃんは、あの話で満足したようだった。 靜ちゃんは話を聞けてほくほく顔で帰っていったし、 きたみちさんは、靜ちゃんの嬉しそうな顔に満足して『命』にお礼を言って帰っていった。 「なぁ、『命』……」 『はい?』 「最後の締めな……僕は、ああすべきなのか?」 『命』は、微笑みながら、 『いいえ、東西は東西のやりたいようにすればいいと思います』 「……そっか」 でも、間違えはお前が正してくれるんだよな……いつも。 あの時、僕が、泣きやんだ後、家の近くの公園で幻八さんと話をしていた。 「ふぅん、そんなことがあったのか……」 僕は言葉を出すと又泣いてしまいそうだったので、頷くだけだった。 「で、お前はどう思ってるんだ?」 「?」 「お前が化け物と言われてイヤだったのか? 『命』ちゃんが化け物扱いされたのがイヤだったのか?」 沈黙するしかなかった……考えてもなかったことだから…… 自分が化け物扱いされたのがイヤだったのか? 違うと思った。 『命』が化け物扱いされたのがイヤだったのか? ……そうなのかもしれない…… 「もし、『命』ちゃんを、化け物扱いされてイヤだったのなら……」 「イヤだったのなら?」 「今は我慢しとけ……『命』ちゃんも、自分のことで東西が誰かと争うのを良しとしないだろう……」 その言葉に僕は『命』を見た、困った顔をしていた…… その時に僕の覚悟は決まったのかもしれない。 「それにな、お前が強くなれば、虐めたやつをいつでも返り討ちに出来るという余裕が生まれるぞ! そうなればその余裕の中で努力すればいい、毎日を楽しくする努力をな」 幻八さんは、そう言って、笑っていた。 その時から何年も経っている。 その年月はとても辛いことが多かった。 でも、『精霊』の事を理解してくれる人達もいた。 ……僕も、良い意味でも悪い意味でもかなり変わった。 変わらないことは『命』との関係だけなのかもしれない。 少し、その生活に飽いてきたところに、しばらく前にどこかに行ってしまった幻八さんからの手紙。 ここに来るきっかけになった手紙が届いた。 『どうしました?』 結構な時間考え込んでしまったらしい、『命』が顔をのぞき込んでくる。 「いや、来年のことを言うと鬼が笑うって言うのに、そんな先のこと考えるとどうなるのかなってね」 ……我ながらつまらないな……言うことが、 『そうですね』 そう言って、くすくすと笑っている。 『そろそろ、午後の授業が始まりますよ』 時計を見る、授業開始、五分前……急げば間に合うな。 「じゃあ、行こうか」 『はい』 ここで僕はどう変わっていくのだろう? とても興味深いことだが……先になればわかること。 それよりも、ここでの生活が、僕と『命』にとって、楽しいモノであるよう努力しよう。 東西 :えー、Lメモ六作目「昔語り」いかがでしたでしょうか? 『命』:楽しんでいただけたのなら、とても嬉しいことです。 東西 :ご出演下さった、きたみちもどるさん、並びに、きたみち靜ちゃん、誠に有り難う御座いました。 『命』:有り難う御座いました。 東西 :そして、アドバイスを頂いた、幻八さん、有り難う御座いました。 『命』:とてもためになりました。 東西・『命』:そして、この作品を読んで下さった皆様、有り難う御座いました。