学園中で壮絶なる部費獲得フラッグ戦が繰り広げられていたその頃…。 「もらったぁ!」 ピュー、ピュー 「きゃぁ!」 「あ、笛音ちゃん!!」 「どーだ、すごいだろ〜 へへ」 「くそぉっ、笛音ちゃんの仇!」 ピュー 「うわ、冷たっ」 : : : 「ふぃ〜、平和っていいねぇ」 「全くだ。あ、霜月そこの煎餅取って」 「お、ほいほい」 フラッグ戦には参加していない来栖川警備保障の面々&お子様軍団は警備保障の スタッフルームでくつろいでいた。 そもそも警備保障自体は部活ではなく、れっきとした会社組織である。で、本来なら この時間帯も誰かしらが見回りの巡回に出なくてはならないのだが、こんな状況なんで それもなし。他にこれと言った部活に属していない霜月とOLHはのんびりと茶をすす る至福の時間を過ごしているのであった。 「ところで、榊はどした?」 「あいつ今ごろ剣道部に顔を出しているん筈だぞ」 煎餅を咥えたままOLHが答える。 「で、おまえ自身はいいの?」 「何が?」 「一年の姫川だっけ?」 その単語を聞いた瞬間に、OLHが苦虫を噛んだ表情になる。 「いや、そーなんだけどさー、行って美術部の助っ人に赴きたいんだけどさぁ…」 「どしたん?」 「琴音ちゃんから笛音やティーナの事お願いされちゃって…」 正確にいえば、テニス部の河島はるか、お料理研の斎藤勇希の両顧問。更に言えば 西山英志・風見ひなた・赤十字美加香からもお子様軍団が危なくないようにとお願い されていたのだ。 つまりお子様軍団の保護者の中で一番暇であり、非武装地帯となっている警備保障 が一番安全だという配慮からだ。 「目を離すわけにもいかないしなぁ……と、そういう霜月自身はいいのかよ?」 「ん?」 「美術部にはなんだかんだで、お前と仲のいいコ多いじゃないか。彩ちゃんとか詠美 とかメイフィアとか」 「いや、そーなんだけどさー…」 今度は霜月が苦虫を噛み潰した表情になる。 「報酬としてヌードモデルになってくれって言われたら、引っ叩かれた」 「あぁ、で『それ』か」 OLHが霜月の右頬を指差す。 「ま、銃に関してはカラキシだからいても大して役に立たなかったろうがね――」 ピュー、ピュー 「うわっ、冷たっ」 天井を見上げてつぶやいた霜月の顔目掛けて水が吹き付けられる。 水が飛んできた方向を見やると、さっきから水鉄砲ごっこをしていたルーティーが こちらを見ている。 「あ、霜月のおにーちゃん、ごめんね〜」 「ってルーティー、水鉄砲ごっこは向こうでやりなさい」 「はぁ〜ぃ」 他の子供たちが小さめの水鉄砲なのに対して、ルーティーは体いっぱいの大きさも ある水タンクを背中に背負ってみんなの所に戻っていく。 「うわ、びちょびちょ…」 「災難だったな」 「ちょっと、着替えてくるわ」 霜月が更衣室に入ろうとした時、出口に向かうDセリオを見た。 が、声をかけようとした途端、霜月の目にありえない物が映る。 「あれ、電柱? って事は電芹? 何の用だ?」 電芹とおぼわしき人物は霜月に気が付くことなく、そのまま警備保障を出て行く。 「…ま、いっか」 「やはり、煎餅は固焼き醤油に限るな」 OLHが4枚目の煎餅を手に取った時、へーのきがやってきた。 「お、へーのきも煎餅食べるか?」 「それよりもセリオさんの姿見なかった?」 「Dセリ? いないの?」 「うん、ちょっと前までメインルームでモニタをずっと見ていたんだけど…」 へーのきの心配はただ一つ、Dセリオがこのフラッグ戦に乱入しないかどうか。 ジン・ジャザムと並んで一騎当千の実力を持つ彼女。Dセリオが動くだけで、 弱小クラブの大半が壊滅する。いくらなんでもそれだけは勘弁してくれと、警備保障 (というかへーのき個人に対して)多方面からの要請が来ていたのだ。 で、へーのきがあの手この手でDセリオに対して、今回は大人しくしているという 確約を取り付けていたのだ。 「さすがに姿見ないと心配だなぁ。他は?」 「マルチさんは茶道部に、ガーネットさんは剣道部に行ってるよ。どちらも表には 出さないようにって言ってはいるけど…」 「Dマルチはともかく、Dガーネットはねー」 実際の所、Dマルチは茶道部室の周囲に超硬質ワイヤーのトラップを張り巡ら せて最強の守りを固めていた。守りも彼女一人で十分に賄われており、西山やハイド ラントといった残りの部員は攻めに専念できていた。 一方、Dガーネットはというと…。 「わ〜ちょっと、俺たちは味方だって!!」 「榊先輩、同じ警備保障として止めてくださいよ!」 「出来たらとっくにやってるよ。YOSSYこそ頼む!!」 「無茶言わんで下さい!!!」 …激戦の末弓道部を落として凱旋してきた剣道部員&格闘部員を敵と認識して攻撃。 Dガーネットを止めるのに更なる犠牲を出すこととなり、結局剣道部・格闘部合わせ ての総フラッグ数は三本(自陣の含む)。弓道部から奪取したフラッグの分配を巡っ て剣道部と格闘部で一悶着あるのだが、またそれは別のお話。 「ふぃ〜、着替えついでにシャワー浴びてきちゃったよ。お、へーのき君もいたのか」 着替えから戻ってきた霜月が、髪の毛をタオルで拭きつつ戻ってきた。 「霜月さんはセリオさんみませんでした?」 「いや〜、見なかったけど…あ、そう言えば電芹はなんか用事でもあったん?」 「「電芹?」」 OLHとへーのきの素っ頓狂な声がハモる。 「さっき更衣室に入るときにちょうど入り口に向かって電芹が出て行ったからさ」 「って、私も会ってないんですが…」 へーのきがOLHの方を向くと、こちらも首を振る。 「勘違いじゃないのか?」 「なんぼなんでも電柱担いだセリオなんて他にいないだろー、他のセリオと並ばれたら ともかく目立つ目印があるんだし」 自分の見間違いではないと言い張る霜月。 「案外Dセリオが電芹の格好してるんじゃねーのか? この前のQ芹の事もあるんだし」 OLHの言葉に三人は声をあげて笑う。 が、その笑い声がピタリと止む。 「「「まさか……」」」 Leaf学園リネット棟屋上。 少し強めの風に髪の毛を棚引かせながらそこに立つ。 眼前に広がるのは中庭にペイント弾の雨を降らせながら、豪快に暴れる見知った顔。 「あんなに楽しそうに…」 一方では決死の覚悟で突撃してくる一団をマシンガンで一斉に沈黙させている光景。 「みなさん、ズルイです」 肩に担いでいたそれを担ぎ直し、先端を屋上の手すりに固定する。 「目標は……あの辺にしましょうか」 ちょこんと伸びたスコープから目標を見定める。 「私も楽しみ……たいです」 引き金を引いた。 「諸君、校内では部費争奪フラッグ戦等とくだらない目的のために校内は混乱し、 罪亡き一般生徒が苦しめられている。学内に秩序をもたらす為に、悪逆の限りを 尽くす部活を解散に追い込むのだ!!」 いつもの調子で一同に対して訓示をたれるのはディルクセン。生徒指導部員は 完全武装でいつでも出撃できる体制が整っていた。 「あーそれはいいんですが」 「どうした、たくたく」 「『くだらない』と言っている戦いにどうして私たちが参加してるんです?」 たくたくが指差すその先、ディルクセンの後ろには一本のフラッグが立っていた。 「力押しだけでは能がないだろう。ここでフラッグ戦に参加して合法的に奴等の 部費を押さえ込めれば、自然に部活は成り立たなくなり我等に反抗しようなどと いう輩も少なくなる」 たくたくは内心、むしろいつも以上に力押しとなのではと思ったが口に出すのは 憚られた。 「ここで我々が力をどれだけ示せるかが、学園に安定をもたらす第一歩となる。 なぁに、所詮は戦い方も知らぬ烏合の衆。集団戦における戦いとはこうするもの だと目にものを見せてくれようぞ! 生徒指導部出撃!!!」 ズドォォォォンンンン!!! ディルクセンの高く上げた右手が振り下ろされた瞬間、屋上か聞こえる轟音。 そして――。 バッシャァ!! 脳天に衝撃を受け、教室の壁まで吹き飛ばされる。 壁に強かに身体を打ちつけた瞬間、自分の視界が紅く染まった。 「キャァァァァァアアアアアーーーーーー!!!」 「初弾命中」 スコープ越しに目指す目標物に無事命中したことを確認すると、すばやく傍らの 箱に手をやる。 中にあるのはペイント弾。 但し、弾の大きさがハンドボール程ではあるが。 そしてすばやく砲身――傍から見たら電柱そのものの概観なのだが――に装填する。 「第二弾いきます」 再び引き金を引く。 大きな衝撃音とともにペイント弾が射出される。 迂闊にも窓を開けっ放しにしていた生徒指導部の居室に向かって。 「え? あの…?」 たくたくには訳がわからなかった、勢いよく号令を下したディルクセンの全身が 吹き飛ばされ真っ赤に染まったのだ。前列にいた松原美也や永井・鈴木といった面々 も返り血というか、紅く染まっている。 響き渡る女生徒の悲鳴。 その声で気が付いたディルクセンは目をこすり、顔面についた液体を手にとってみる。 紅い。 「なんじゃこりゃぁーーーー!!!」 「第二弾命中、続いて第三弾」 「馬鹿者! 外から狙われているのにボサッとしてるな!!」 この状況で我を見失わないあたりはさすがディルクセンで、混乱を最小限に抑えよ うとするのだが… 「きゃぁ〜!! ゾンビが喋ったーー!!!」 「え? 何で? 死人が生き返るなんてあるんですか!? お願い御茶○水博士、 僕に常識をプリーズぅ〜!!」 ついてくる兵隊がこの有様ではどうしようもない。 混乱に追い討ちを掛けるように第二弾・第三弾と次々と着弾し、周囲の人間にも 被害は拡大していく。 入り口付近にいて、慌てて脱出しようとした一般指導部員達も廊下に出た瞬間に 他部同士の流れ弾で一人、また一人と倒れていく。 混乱の中いつしか生徒指導部自身のフラッグもどこかにいってしまい、生徒指導部 最大にして最速の敗北劇はこうして幕を閉じた。 Fin. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− おまけ(その1) 「あ、セリオさんどこに行ってたの?」 「不埒物が出ないように校内巡回を行っていました」 「そうなんだ、ところで霜月さんが電芹さんらしき人が来ていたっていうんだけど 何か知らない?」 「電芹さんなら終日体育館でバレーボール部員として参加されているハズですが」 「うん、そーだよね。知らないならいいや」 おまけ(その2) ディルクセンは結局この混乱を静めるために大いなる出費(胃薬代)を強いられ、 直撃したペイント弾を洗い流した際に多大なる犠牲(と書いて抜け毛と読む)を 支払うこととなった。 おまけ(その3) 「牧村先生、我々生徒指導部の部費がこれだけというのは何かの冗談ですよね」 「いいえ、他の部と同じですけど」 「我々は校内の治安と規律を束ねる最高にして最大の組織ですよ、そんじょそこ らの部活動扱いをされては困ります」 「はぁ…でも、フラッグ戦で獲得したフラッグの本数によって部費が増減する というルールを承知した上での参加ですよね。承諾書もここにありますし」 「ですから我々は部活動では――」 「生徒指導『部』……ですよねぇ」 「広瀬――!!」 「『馴れ合いは御免だ』って、会計も別にするように言ったのは他ならぬ ディルクセン先輩自身じゃありませんでしたっけ?」 「ぐっ……」 この結果、スタンバトンや鉢がねの支払いも残っていた生徒指導部は財政事情が 急速に悪化。以降活動資金を不良グループからの取り立てに求めていくことになる。 風紀動乱へ続く…?>マテ おまけ(その4) 「玲子〜、部費ばっちり獲得してきましたよ」 「魔樹クン、どうしたのすごぉ〜ぃ」 「棚からぼた餅って奴ですかね。これで新しいコス衣装が作れますね」