私的Lメモ「どこかでこんなバレンタイン(笑)」 投稿者:霜月祐依

「じゃ、お先〜」
 闇の向こうからそんな声が漏れたかと思うと、一筋の光の帯がその闇を裂く。
 溢れ出した光は扉を形作るかのように広がり、中から一人の男が出てきた。
 その男の名はOLH。
 今回の話の主人公である。

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        私的Lメモ「どこかでこんなバレンタイン(笑)」
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 来栖川警備保障のバイトはどうしても夜遅くにまで及ぶ事が多い。
 昼間は本分である学業があるからというのもあるが、放課後から深夜の学内警備
が主な業務であるからだ。
 まぁ、中には深夜巡回ばかりシフトで組まれて、授業中にひたすら寝ている霜月
のようなくされアルバイトもいたりするのだが。

 ともあれ、OLHがバイトを終えて警備保障を後にしたのは午後11時になろうか
という時間帯。珍しく澄んだ冬の空には星が見えず、まさに闇夜と言う表現が適切で
あろう。
(………♪)
 そんな不安にさせるような夜であっても、OLHの表情は明るい。
 理由は彼が至極大切に両腕で抱えているラッピングされた小さな箱。

 今日は2月14日、バレンタインデーなのだ。

 彼が抱えているその小箱の中身はもちろんチョコレート。
 姫川琴音からもらったものだ。
 ただ、琴音がそのチョコレートを渡す際にはいつものお約束として、(全員分ある
にも関わらず)東西・神凪との壮絶な争奪戦を繰り広げた結果だと言う事をここに特
筆しておく事にしよう。
 その結果、外箱はいい感じでひしゃげ外箱が汚れたりしている上に、チョコを
貰えたことがあまりにも嬉しくてバイトの最中も文字通り肌身離さず持ちつづけた
肝心のチョコがどうなっているかは、懸命な読者諸氏ならご理解頂けてると思うが。

 ちなみにOLHの幼妻ティーナに笛音からのチョコはまだ貰っていない。
 今日は二人とも警備保障に立ち寄らなかったというのもあるが、数日前から彼に
内緒でキッチンに立っていた事からも、家に帰ったら手作りチョコが待っている事
ぐらい想像がつく。
 そう考えるとOLHの頬も一層緩むものだ。

 やがて自宅に到着したOLHは、ポケットから鍵を取り出し玄関を開ける。
「ただいま〜」
 さすがにこの時間ともなると二人とも寝ているだろう。
 お楽しみは明日の朝かなと思いつつ、返事を期待しない挨拶をした。

 が…

「あ、お帰りなさぁ〜い。遅かったのね☆」




「ゆ、ゆ、勇希がなんでここに!?」

 震える指を突き刺し、動揺たっぷりに口を動かす。
 OLHを出迎えたのは『第三の妻』もとい『本当の落し所』もとい幼馴染の
斎藤勇希であった。
「ご飯にする? お風呂にする? それともあ・た・し?」
 エプロン姿の勇希はOLHのカバンを受け取ると、お約束で出迎える。
「とりあえずメシ…じゃなくって、なんでお前がここにいるんだ!」
「あっきれた…。帰りが遅くなる日は、私にティーナちゃんと笛音ちゃんの晩御飯
作ってってお願いしたの他ならぬ君でしょ?」
「あ…」
 何かを思い出したかのように、両手で相槌を打つ動作をする。
 子供二人でおいておくのも心配だからと、勇希にお願いした事をすっかり忘れ
ていたのだ。
(こいつのエプロン姿って結構サマになるよなぁ…)
「ほらほら、そんな所に突っ立ってないで早くご飯にしよ。…ん? どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもねぇ」
 OLHの赤くなった表情に気がつく勇希。
(ひょっとしたら、こいつっていい奥さんになるんじゃねぇのか?)
「ほらほら、なんだか私っていい奥さんでしょ」
 エプロン姿で片足をあげてくるりと回転してみせる。
 残念ながら(?)エプロンの下は普通に服を着ていたが、これはこれでかなり
ポイントは高い。
「んなくだらない事やってないでとっととメシにするぞ、この無自覚女!」

 …ハタから見たらただの新婚夫婦のノロケにしか見えない光景には目を瞑るとして。



「ふぅ〜、ごっそさん」
「お粗末様」

「…しっかし、さすがに二人とも寝ちゃったな」
 食後、OLHがリビングからティーナと笛音の部屋の扉を起こさないように
少しだけ開けて、食器の片づけをしている勇希に向かって呟く。
「明日も学校だから、夜更かしさせるわけにもいかないでしょ」
 台所から聞こえる勇希の声に「そうか」とだけ呟く。
 仕方のない事だが、ため息に少し残念さがこもる。
「まぁ、あの子達も君が起きてくるまで起きてるんだってダダこねて大変だったのよ」
 ゆっくりと、子供達の部屋の扉を閉めて振り返る。
 すると勇希が両手で何かを包み込むようにして、台所から戻ってきた。

「それは?」
「お楽しみは明日に取っておくとして、今日はコレでガマンしなさい」

 勇希の手の平からリビングのテーブルに転がったそれは、キャンディーのように
かわいくラッピングされていた。
「ん? チョコ? 買ってきてたんか」

「ティーナちゃんと笛音ちゃんが作ってた時に材料が余ったから、
ちょっと作ってみたのよ」
 OLHのそのセリフを聞いてちょっと頬を膨らませながら答える。
「手作りか、意外だなぁ」
 これはOLHにとってホメ言葉とも言える。
 遠慮なくそのうちの一つを摘むと、外装のフィルムを剥がし口に入れる。

「ハグハグ…。おっ、ボンボンじゃねーか」
 口の中に広がるのは、ほのかなブランデーの味。
 言葉にこそしなかったが、OLHは僅かな材料でここまで作った勇希の力量に
感心することしきりだ。

「うん、ちょっと特製のブランデーがあったからね」
 優しく微笑む勇希。
 その表情にドキリとさせながらも、味わったボンボンを喉へと流し込む。

「おや?」
 と、同時に強烈な酔いとも眠気ともつかない感覚がOLHが襲う。

 その日、OLHが記憶を留めていたのはそこまでであった。



 〜翌日〜

「おっはよーございます、斉藤センセ」
 警備保障での夜勤を終えた霜月は、勇希を見つけて声を掛ける。
「あら、霜月君おはよ〜♪」
「どうしたんですか? なんかえらくゴキゲンですね」
「そ〜ぉ? わかるぅ〜(^^)」
 いつになく朝からテンションの高い勇希に少し驚く。
「お肌も今日は一弾とキレイですよ」
「もぉ〜、霜月君ったら、おだてたってナニも出ないわよ。モウッ!」
 霜月の方をバンバンと叩く。
 本人は謙遜しているつもりだが、指摘して欲しくって仕方がなかったという感じだ。
「じゃ職員室行かなきゃいけないから、まったね〜」
 言うや否や、スキップするかのように軽やかな足取りで去っていった。

「なんなんだ…」
 違和感を感じつつも、霜月はどこかで見たような感じがしてならない。
 だが、その思考別の声によって遮られる。

「おー、霜月かおはよぉ…」
「OLHか、どーした朝からそんなにやつれて」
 クラスやバイトでいつも顔を合わせるOLHと違って覇気がない。
「昨日はバレンタインだったから、ホラティーナちゃんや笛音ちゃんからチョコ貰って
大変だったのか?『お兄ちゃんボク(私)のを先に食べて!!』って」
 霜月がジェスチャーをしながらOLHをからかってみる。
「二人からは今朝貰った。…そうだったらどんなに良かったことか」
「ん? 違うの?」
 もはや答える気力もないのか、首の上下運動だけで答える。
「ったく、俺なんて結局長谷部からのチョコ貰えなかったし。
 貰えるだけ羨ましいが。
 もしかして、クリスマスん時みたいに喰いすぎてスッカラカンとか?」

「喰ったっつーより、むしろ喰われた…」

「はぁ?」
 解せない表情を浮かべる霜月をさておいて、教室へと向かうOLH。
 さすがに小一時間ほど問いつめて志保ちゃんニュースに提供する気にもなれず、
静かに見送った。
 OLHが老化の角を曲がって姿が見えなくなってから、霜月は先ほどからの疑問が
一気に氷解した。

「あぁ、保健室に連れ込んだ後の千鶴センセと耕一センセだ。あの二人…」

                                 今度こそ続かない(笑)