クリスマスLメモ「聖夜を彩る、それぞれの願い」』  投稿者:きたみちもどる

街のざわめきは、休まることはない。
おそらく今日一日中は、人も街も眠ることはないだろう。
そう、今日は・・・・・・・・・・
クリスマスイブなのだから・・・・・・・。




クリスマスLメモ「聖夜を彩る、それぞれの願い」




街には活気があった。
ケーキ売りの声。
街を彩る、イルミネーションの海。
そして、ジングルベル。
街は、今夜眠ることを諦めるだろう。
「ちちうえ、すごいねっ!人が一杯だし、いっぱいお化粧して、街が奇麗だね」
靜は、初めての経験に大はしゃぎの様だ。
今日は、この娘が、初めて経験するクリスマスイブ。
その、一年の中でも重要なイベントを、前から心待ちにしていたのは分かっていた。
で、その当日になって少し戸惑いを見せていたようだが、今では、すっかり
人々の熱気にあてられて、興奮状態になっている。
そんな靜を、僕は、はぐれないようにしっかりと手を繋いだまま
少し、苦笑気味に見て
「そう・・・だね」
と言った。
すると、不意に靜が、ぐいぐいと僕の手を引っ張った。
「靜・・・・・どうしたんだい?」
「ちちうえ、おなかすいたよ・・・・・。
ヤクドナルドで、なにかたべようよ?」
と、にこやかに言ってきた。
僕は、またまた苦笑を浮かべ
「今日は、夜から学校でパーティーあるんだから・・・・・」
と言った。
すると、靜は
「それはわかってるよぅ、けどヤクドナルドでも食べたいの」
と、きっぱりと、しかも少し甘えた声で言い切った。
(どういうわけか、食欲だけは僕に似てますね・・・・・)
靜の言葉を聞いて僕はそう心の中で思った。
「ちちうえ、はやくはやくぅ〜」
靜が僕をせっつかすように、ぐいぐいと手を引っ張っていった。



その日の夕刻。
靜の仕度をしつつ、自分も仕度を整えていく。
ひとまず、仕度が終わり一段落したところで
「さてと・・・・・僕は先に行くから、貴姫おねえちゃんが迎えに来るまで
ちゃんと留守番してるんだぞ?」
と、靜の頭に手をやりながら、僕はそう言った。
すると、靜はにっこりと笑って
「うん、ちちうえもバイトがんばってね」
といって、その小さな手で僕の手を握りしめてくれた。
僕は自然と顔が緩み
「うん、がんばってくるね」
といって、そのまま自分の手をゆっくりと靜の顔に沿って降ろした。
先日、beaker君から奨められた洋画のビデオを見た時に
気に入った動作だ。
靜も、結構気に入ってくれているらしく、今も結構嬉しそうな顔をしてくれている。
「それじゃいってくるよ・・・・・」
そう言って、僕は家を後にした。



会場はすでに色とりどりの飾り付けがされていた。
所狭しと、他の生徒達がテーブルの設営などの準備に追われている。
その陣頭指揮を執っているのは、beaker君だった。
そもそも、今回のクリスマスパーティーを企画したのは、他ならぬ彼だった。
締まり屋の彼が何故?と誰しもが思ったが、当人はけろっとした顔で
「まぁ、一年に一度の行事ですし、それに日頃のご愛顧の意味も込めて・・・ですよ」
と言ったものだった。
ひとまず僕は更衣室に行き、黒いロングコートを脱いで、自分の仕事をすることにした。




「ローストチキンが仕上がったよ!」
「あそこのテーブルの皿・・・もう少しで空っぽになってしまいます」
「ねぇ、そこの調味料とって・・・違う違う、その右隣の奴」
「おいしそう・・・(じゅる)」
「つまみ食いは厳禁だよ」
などと、厨房は活気を帯びている。
それを横目に見ながら、僕はできあがった料理をテーブルへと運んでいく。
いわゆる、ウエイターが今回の僕の仕事である。
どこぞのファミレスの男子制服のような服に身を固めて、せっせと運んだり
客の相手をしたりする。
これはこれでなかなか大変だが、実際にやってみるとなかなか面白い。
その人のナリとかを直に味わえるからだ。
そうこうしている内に、見知った人と出会い、向こうもこちらに気付いたようだ。
「貴姫さん、こんばんわ」
「きたみち様、こんばんわ」
と、貴姫さんは、優雅に挨拶を交わしてくれる。
貴姫さんの格好は、かなりきらびやかな赤いイブニングドレスだった。
身に付けたアクセサリー類が、より一層、貴姫さんを引き立てる。
その姿を見て僕は、素直に美しいと思った。
と同時に、天神さん本体(?)のことを、可哀想だと思った・・・・・。
ま、それはともかく・・・・・。
「貴姫さん、すいません。無理矢理、靜のお守りを押しつけちゃって・・・・・」
と、僕はぺこりと頭を下げた。
「いいえ、別にかまいませんよ、それに、皆さん、マルチ様のことが好きなようで」
と、にこやかに貴姫さんが言った。
「?」
どういう事なのか気になって、靜の姿を探し求めると・・・・・いた。
マルチさんと一緒に、いろんなものを見て回って
「すごいですぅ〜」
とか言っている。
マルチさんの格好は、よく見ると貴姫さんと同じだ。
ただし、色はマルチさんの方が白だが。
「それより、お仕事の方はいいんですか?」
「あっ・・・いけない・・・・・」
貴姫さんに言われて、慌てて僕は仕事にもどろうとする。
「がんばってくださいね」
相変わらず、にこやかに言う貴姫さんに向かって
「ありがとう」
と一言だけ礼を言って、僕は仕事にもどった。



やがて、厨房も一段落つき、調理していたお料理研究会の面々(千鶴さん除く)も
すでにパーティ会場にそれぞれ散っていった。
この場に残っているのは
「疲れましたねぇ〜」
「そうですね・・・・・マスター・・・」
「・・・・・腕が痛ひ・・・」
「お腹が空いたよぅ・・・・・」
第二購買部のメンバーである、beaker君、沙留斗君、僕、理緒さんであった。
みんな、机に突っ伏して一様にだらけたような格好になる。
しばらく、みんなそうやっていると
「ところで・・・理緒ちゃん?」
唐突に、beaker君が口を開いた。
「はい?」
理緒さんも、あまりにも唐突だったのできょとんとしている。
「あなたは、パーティーに出席しなくてもいいのですか?」
「え・・だって・・・一緒にいく人だっていないし、それに・・・・・・」
「それに?」
「・・・・・ドレスだってないし・・・・・」
確かに、今は給仕用の服だ。
だが・・・・・・・
僕ら三人は、互いに顔を見やり笑みをこぼした。
「さて、今宵はクリスマスイブ。一年で最もステキな日」
すっくと立ち上がりながら、beaker君。
「そして、どんな願いも叶うと言われている日」
同じようにして沙留斗君。
「今夜は、働き者で真面目で一生懸命な少女のために、天から贈り物があります」
そして、僕。
「え?」
理緒さんは、いきなりこの様なことを言われたので戸惑うばかりだ。
彼女の戸惑いをよそに、僕らは「仕度」に取りかかる。
沙留斗君が、奧から奇麗にラッピングされた大きな箱を取り出してくる。
それを、beaker君が受け取る。
そして、僕は入り口の近くに移動する。
「はい、どうぞ」
そういってbeaker君が、その大きな箱を理緒さんに手渡す。
「え・・・これは・・・・・」
「我々からの心からの、クリスマスプレゼントですよ」
「あ・・・ありがとう・・・開けてもいいかな?」
「ええ、いいですよ」
beaker君がそう言うと、理緒さんは、箱を開封していく。
すると、中から出てきたのは、奇麗なドレスだった。
「こ・・これは・・・・・こんな高価なもの・・・・本当に良いの?」
「ええ、勇希先生に頼んでつくってもらったものですよ。快く受け取って下さい」
にこやかに沙留斗君。
「そして、奇麗なお姫様をエスコートをする騎士もいますよ」
そういって、僕はいきなり入り口のドアを開ける。
がちゃりっ
「!!」
そこにいたのは、猫町櫂君だった。
「猫町君!?」
理緒さんも驚いたような声をあげる。
「どどどどどどどどどうして・・!?」
「さっきからばればれですよ」
僕は、やや呆れを含むため息と共にそう言った。
「さぁ、それより速く着替えてきなさい。くずくずしていると
パーティーが終わってしまいますよ」
beaker君が理緒さんにそういう。
「きっちりと、エスコートしてあげるんだよ」
僕は、櫂君にそういう。
そうして僕たちは、幸せなこの二人を送り出した。



「さて・・・・そろそろ我々もパーティーに行きますか」
beaker君がそういった。
「そうですね」
沙留斗君が賛同の声をあげる。
「僕は・・・・・」
僕がそう言いかけたところで、突然beaker君がすっと入り口辺りを指差した。
「?」
するとそこには、二名の女の子がいた。
見かけたことがない顔のところを見ると普通の生徒だろうか?
その女の子達は僕の方に来ると
「あのぅ・・・きたみちさん、よかったら一緒にパーティー回らせてもらえないかな?」
と言ってきた。
「ぼ・・・僕?僕で良いの?」
そういうと、女の子達はこっくりと頷いた。
「わかりました・・・・・じゃ・・・行きましょうか」
僕は彼女達と一緒に部屋を出ていった。



パーティーは華やかだった。
そしてそれに興じる人達も・・・・・。
普段なんだかんだといがみ合っている、YOSSYFLAME君と広瀬ゆかりさんの
二人はなかなか息のあったダンスを披露している。
ジンさんは、緊張した顔をしながら千鶴先生と踊っている。
ゆき君は、初音さんと楽しげに踊っている。
風見ひなた君は赤十字美加香さんと一緒だ。
ちょっと、憮然としたひなた君に対して美加香さんは結構嬉しそうだ。
向こうでは早速、櫂君と理緒さんが踊っている。
beaker君と好恵さんは、スピーディーな踊りを披露している。
沙留斗君は、理奈姉と、華麗なダンスを披露している。
西山さんは、何故だか向こうの方で悶絶している。
ハイドラント君と悠朔君は綾香さんを巡って争っている。
秋山君と日吉さんは梓さんを巡って争っていて
それぞれに梓さんから鉄拳制裁を受けている。
普段と変わりない風景。
だが、それぞれの表情にいつもの険しさはない。
皆それぞれに、どこか嬉しさや楽しさを含んでいる。
だが、パーティーの間、僕の心は複雑だった。
このクリスマスイブという日。
この日は僕にとって特別な日なのだから。
僕が愛した『あの人』との想い出・・・・・・。
それが今も鮮明に思い出される。
そしてそれが僕の心を突き刺す。
だから、この日は苦手だ。
僕は、一人でぼんやりとその風景を眺めていた。
その時、後ろに人の気配を感じた。
後ろを振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
その女性は見たことがある。
確か、生徒会役員の桂木美和子さんだったか・・・・・?
「あのぅ・・・・・」
彼女が声をかけてきた。
その時、僕の胸が高鳴った。
こんな経験は、久々だった。
そう、『あの人』と初めて出会ったときの気持ちと・・・・・。
「こんな所で、何しているんですか?」
そう、彼女が言った。
僕は、心の動揺を抑えつつ
「ちょっと・・・・・ね・・・・・」
と苦笑混じりにそういった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
気まずい一瞬。
それをどうにかしようと、僕は彼女に声をかけようとした。
「「あの・・・・・」」
二人同時に声をかけた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
再び気まずい時間が流れる。
「そちらからどうぞ・・・・・」
「先輩からどうぞ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
僕たちは少し顔を赤らめながら、顔を俯かせる。
また気まずい時間が流れる。
(どうにかしなければ・・・・・)
そう思ってまた声をかけることにした。
「「あ・・・あの・・・・・・・」」
また二人同時に声をかけた。
また、気まずい時間が流れようとしたが、僕は意を決して声をかけることにした。
「あ・・あのう・・・差し出がましいとは思いますが、僕と一緒に・・・・・
踊っていただけませんか?」
緊張のためにさらに胸が高鳴っている。
そして、気のせいか頬が妙に熱い。
ちらっと桂木さんを見ると、彼女の顔が妙に赤くなっている。
そして、はにかんだ笑顔を浮かべて
「・・・よろこんで・・・・・」
と言った。
僕の胸は子供のように高鳴り、今にも飛び出しそうになった。
それをなんとか押さえて、優雅に彼女の手を取り会場へと戻った。



悲しいことや辛い想い出を・・・・・
会場の息吹がみんな飲み込んでいく・・・・・。
人の琴咒(ノイズ)が消し去っていく・・・・・。
そして、幸せな気持ちが会場を包み込む。
外では、白い雪が真綿のような白い絨毯を敷いていった。
まるで、会場内の全ての人を祝福するかのように・・・・・。


                (「POWDER SNOW」が流れつつエンド)