Lメモ世界の重なる場所で=@序、「終への助走」 投稿者:神海

 雨が好きだ。

 願わくば、風の無い闇夜の細雨が。

 閉ざされるが故に果て無く開ける闇と。
 淀みも温度も洗い流された空気に包まれる。

 それは、自分が世界を感じる手段の一つ。

 今。
 自分の前に開ける世界を覆うのは。
 闇ではなく、白濁の天蓋。
 墓石の林の先に見えるのは。
 黒いコートの男と、紺色の傘を傍らに落とした女性。
 そして、女性の頭上に浮かぶ、黒い甲冑の少女――
 負の精霊、シュヴァルツヴァルキューレ。

 けぶるように佇む全ての姿たちに。
 無数の、同時に不断の雨音と、灰色の空にわだかまる雷鳴とが被さって――

 そして、声が透る。

「……ハイドラントさん」

 涙が出そうなくらい穏やかで。

 震えるほどに安らぎに満ちた、声が。

「私と一緒に死んでくれませんか」


 衝動が、湧き上がる。
 世界を変えたいという、衝動。
 ――そして、それを可能にする、力。
 言葉。
 閃くは、白いイメージ。


 ――白雷が、世界に満ちた。


『世界』を――変える。
 痛いほどに、それを自覚したのは数瞬の後。一つの影が宙に掻き消え、残る二人の気配
が明らかに集中を失った時。

 畏れにも似た後悔が一瞬だけ胸を襲い。
 ……次いで、それを越える強い感情がそれを駆逐して。

 二人へ、歩き始めた。


 ……遅れた雷鳴が、鈍くたちこめている。


 ――雨は止まない。














                 ――人が感動する、とは、既視感と記憶の混乱と
                 最大公約数的な妄想に由来するとは思いませんか?
                            (White Album 篠塚弥生)






             Lメモ世界の重なる場所で


                序、「終への助走」





 夏休み。
 昨日、つまり七月最後の日に襲来した嵐が過ぎ去ると、隆山は本格的に酷暑の季節を迎
えていた。
 つい昨日、来栖川警備保障Leaf学園支部を襲った人の手になる嵐にも関わらず、試
立Leaf学園は早くも平穏な日常を取り戻していた。
 積乱雲が高く昇りつめる時刻、第三美術室。
 室内には、油絵の具の匂いが漂い、幾つかの絵画や彫刻が飾られている。名画のレプリ
カから、これまでの教師や美術部員が手がけたものまで様々だ。
 美術教師篠塚弥生はその特別教室で、昨日の補習授業の結果をまとめていた。
 数千人の生徒を抱える試立Leaf学園だけに、一教科の担当に充てられる教師の人数
も多く、それに応じて特別教室の数自体も多くなる。この第三美術室は、ほぼ彼女一人が
使う教室だと言えた。
 さらに夏休みともなれば、人が出入りすること自体少なくなる。周囲の教室や廊下には
人の気配もない。
 ただ、窓から見える広大なグラウンドからは方々に散らばった運動部の様々な掛け声が
響き、逆方向の裏山からは油蝉達がその合唱を届けている。
 熱気の中の静粛さ、という表現は正しいのか、教室はそんな空気に包まれていた。

 ふと、ノックの音が響いた。

「――どうぞ」
 応えながら顔をあげると同時に、扉が引かれる。
 知っている顔。姿を現したのは一人の男子生徒だった。
 その生徒の名は、神海といった。弥生とは、表向きには単なる同じ学校の教師と生徒と
いう関係に過ぎないが。
 いつも通りの変哲もないブレザーの夏服を着ている。
 変わっている部分といえば、真夏だというのに長袖のワイシャツだということと、もう
一つ……。
「失礼します」
「何か、ご用でしょうか」
 訊ねると、その生徒は裏表の無さそうな――
 ――有り体に言えば、何も考えていないような表情で微笑し、左手に持っていたものを
持ち上げた。
「……何か?」
 その意図が解らず、訊く。
 彼は、大輪のひまわりの花を、彼女に差し出していたから。
「昨日の嵐で折れてしまったそうで、長瀬さんに頂いてきました」
「………」
「花瓶をお借りしますね」
 弥生の返答を待たずに、写生用の花瓶の中から大きめのものを見繕い、生ける。
 ――つまり、贈り物ということらしい。
 見栄えを整える手つきが意外に器用だ、と思いながら、そう彼女は理解した。どんな酔
狂か見当もつかなかったが。
 彼は振り向くと、こちらの内心など知らないような様子で訊く。
「お仕事中ですか?」
「ここが仕事場ですので」
「それもそうですね」
 皮肉も通じない。
「少し、絵を見せてもらってもいいですか?」
 その問いに無言で頷くと、弥生は彼の後ろ姿をしばらく見据えていた。
 彼は、『SS使い』。
 この学園に多くいる特異な能力者の一人であり――

 彼女から、大事なものを奪った男と同種の存在。



 絵を見たいというのは口実だけではなかったらしい。
 弥生が仕事を再開させると、神海は室内に展示されている絵画をゆっくりと巡り始めた。
 この男子生徒とは、単純な教師と生徒という関係以外に、他人に知られていない多少の
縁がある。
 と言っても、さして縁深い間柄というわけでもない。ある一人の生徒が組織する、言っ
てみれば宗教団体――『ダーク十三使徒』に属する者同士。ただそれだけである。組織の
活動自体には何の思い入れもない弥生にとっては、彼は同僚だとしても、同胞や同志など
では有り得ない。

 ただ……。

 しばらくは、無言が続いた。
 けたたましい蝉の音と。運動部の掛け声と。弥生が滑らせる万年筆と。時折捲るノート
のページ。それらだけが、美術室にある音の全てだった。
 神海は変わらぬ様子で、壁沿いの絵や彫刻を見て歩いている。音も立てずに。
 ……ただ。と、弥生は思う。
 一つだけ、重大な懸案がある。
 四日前の雨の日のこと。
 ――彼女が、彼女らの上司、『ダーク十三使徒』首長ハイドラントの命を狙う者である
という事実を、神海は知っている。
 実のところ、それ自体は構わない。誰が何を思おうが、何を知ろうが、本来弥生は頓着
しようとも思わない。
 ただ、目的を妨害されるのが困るだけだ。
 特に、ダーク十三使徒の構成員達は、大半の者がハイドラントの掲げる理想を信じ、文
字通り死をも厭わぬ忠誠を捧げている。幹部の中には、打算によって力を貸している者も
いるが、ハイドラントに対して明確に悪意を抱いている者はさすがに殆どいない。
 その中で、神海が十三使徒に所属した理由が未だ不明確なのが、弥生の判断を遅らせて
いる理由の一つだった。
 ……正確に言うと、その理由が、弥生には理解できなかった。
 なにしろこの生徒は、その動機を『興味本意で』などと公言しているのだから。
 そんな理由で死と隣り合わせの任務を遂行できるとしたら、それはよほどの変人だろう
し、そんな人間を気にする風でもなく部下にすることが出来るハイドラントの神経もまた、
弥生の理解の範疇を超えたものだということになる。
 いずれにしても、この訪問がただの絵画鑑賞で終わるはずがない……。
「絵画がお好きなんですね、篠塚さん」
 不意の声。
「ええ……。好きですわね」
 仮にも美術教師に向かってあるまじき言葉だったが、構わずに弥生は返答した。
 一瞬だけ視線を上げると、彼はまだ、壁の絵を見つめたままでいる。弥生からは、足を
揃えて姿勢よく立つ姿と、横顔が見えた。
「俺にも一つ、好きな絵があります」
 神海はそのままの姿勢で続け。
「バロック期の、教会の天井画だったと思うんですが。描かれている天井を突き抜けて、
天からの光が注いでいる――。多くの天使達が舞い、空と雲の彼方に彼らの信じる者の姿
が描かれている。そんな絵です」
 弥生は万年筆を滑らせる手を止め、顔を上げる。神海の表情は、変わらず絵に向けられ
たままだったが。
「アントニオ・ポッツォの、『聖イグナティウス=デ=ロヨラの栄光』でしょうか。サン
ティニャツィオ聖堂の天井画です」
 そこでやっと、神海は弥生を振り返った。
 子供らしさこそないが、邪気のない落ち着いた笑顔。
「そうですか。名前を忘れていたので、助かりました。ありがとうございます」
「………」
 弥生は、そこでファイルを閉じた。
 立ち上がり、神海に目を向ける。
「神海君」
「はい?」
「仕事、終わりましたので」
「あ、そうですか」
 本題に入って頂けませんか――?
 そう、弥生は言うつもりだったのだが。
「それでは」
 神海の、何の変化も感じられない声に、先を取られた。
「これから、散歩でもしませんか?」



 夏休みではなければ土曜日の放課後という時間のせいか、中庭の周囲にも既に人の気配
はほとんどなくなっていた。
 綺麗に整えられた芝生や立ち木の間を縫う。一歩斜め前を歩く神海は、弥生が視線を上
に向なければならない程度には長身だった。ただ、特に極端な痩身というわけでもないの
に、その身のこなしからは妙に重みを感じない印象を受ける。軽薄、というのもまた正確
ではないようだが。
 噴水による涼やかな風が届く場所で、神海が足を止めると、弥生は口を開いた。
「今日は、なんのご用ですか?」
 駆引きなどする必要は認めない。
「先日のことです」
 振り向くと、神海は言った。
 頭を下げず。
 まっすぐに、弥生を見つめて。

「差し出がましいことをしました。申し訳ありません」

 それは、弥生にとって不審に思える行動だった。
「……なぜ、です?」
「なぜ、とは?」
「立ち聞きされていたのならご存知でしょうけれど」
 少し語調を強めたが、神海の気配は変わらない。
「私が抱く望みは、貴方の立場にとって看過しえない類のものであるはずでしょう。つま
り、貴方はあの時、義務を果たしただけです。
 なぜ、私に謝る必要があるのですか?」
 すると――。神海は、少し考える素振りを見せた。小首を傾げる、という動作で。
「義務で行動したわけではないからでしょうか。俺がハイドラントさんに負う義務は、あ
の方の意志にそって労働力を提供すること、それだけです」
「では、なぜです?」
 神海はまた少し考えたようで、今度は苦笑した。相変わらず、そこに深刻さは見えない。
「とても口に出せるようなことではありません。つまらない私情ですから」
「……私情?」
「ええ、私情です」
「……つまりそれは、貴方があの組織に属している動機と、同じものだと、解釈してよろ
しいのでしょうか?」
 ――つまり、興味本位、と。
 すると、ほんの僅か。
 返答の前に、一つ息を吸うよりも短かい沈黙があったような気がした。
「はい、そうです」



 ……会話の跡切れた理由は、中庭の端を生徒が通りかかったためだった。
「……常々、思うのですが」
 弥生が口を開くと、はい、と神海は一々肯く。
「あなた方は、なぜここにいるのですか?」
「俺達、とは?」
「SS使い……世界を書き換える者。そう呼ばれる方々の事です」
「ああ――。確かに、そう呼ばれているようですね」
 神海は、さほども態度を変えず、相変わらず気楽げに肯く。
 SS使い。
 その発露の仕方は様々であろうとも、自らの意志により『何か』を『変える』力を秘め
る者達。人の能力と願望の結晶とも言える力の使い手。
 学園には、そんな者達が多く集まっている。そしてそれが、学園に溢れる狂騒の最大の
原因と言える。
 弥生もまた、変わらない口調のままで続けた。
「正義と自称するにせよ、義憤と呼ばれるものにしろ、あなた方の振る舞いの多くが行き
着くのは、破壊や抑圧を代表とする力の誇示にすぎません。
 ある者は傍若無人に我を主張し、他者の存在を侵す。ある者は徒党を組み、無軌道な抗
争に明け暮れる。
 混乱を招き、或いは望み。時には、人を傷つけ……そして、何の関わりも無い命を、奪
い――」
 そう言ったとき、微かに声が落ちたが、次に口を開いたときには、元に戻していた。ま
っすぐに、相手を見据える。
「興味本位とやらで、他人の想いをかき回す」
 相手の視線は揺れない。
「ある意味、人の世というものの見事な縮図だとは思いますが。
 あなた方は、ここで自分達のしていることの意味を理解していますか? それらから生
まれる結果を、本当に見据えていますか?」
「力とか権利とかいうものには、責任や義務が付随する、と考えられているようですよ。
一般には」
「社会論を申しているのではありません」
 言葉遊びにも駆け引きにも興味はない。
「例えば」
 言って、歩を進める。
 その半歩手前で立ち止まると、弥生は自分の右手を、相手の脇腹に押し当てた。
 相手は別段表情を変えなかった。
 弥生は言った。呼吸が聞こえるほどの間近で相手を正視して。
 ――その実、相手の呼吸は聞こえなかったが。
「この引き金を引く動機が、私にはあります。それはとてもエゴイスティックな動機です
が、少なくとも私は、その結果の意味を承知しているつもりですし、ここにいる目的のた
めならば、躊躇うことはありません。貴方が四日前に安易になしたことと、これには明確
な差異があると、私は考えます。
 では、貴方には、自分がこの学園でなすことの意味が見えていますか?」
 中庭には、盛夏の陽光が降り注いでいる。正面にいるのは、多少大人びているだけで、
一見普通の高校生。他の者が見れば、さぞや奇妙な光景だろう、と弥生は思った。

 彼女の手には、無骨な大型拳銃が黒く光っている。

 10年。
 弥生は、一つの目的のためだけに生きてきた。
 それこそが、自分の全てだった。自分の世界の全てだった。
 だから自分は、終わりを見据えている。自分の望む、ただ一つの終幕を。それに向かっ
て進んでいる。
 それが、自分がここにいる理由だ。
 だが、この学園の者達はどうか。この目の前の相手は。
 力を持ちながら、向ける方向を知らず、抑える術もないのであれば。

 それは、10年前のあの日に天空を焦がした、あの白い炎と同じだ。

 いつかは、総てを無為に消し去る。意味も意義もない無為に。

「この学園は――」
 神海は応えて、口を開いた。
「世界達の重なる場所≠ナすからね」
「……重なる?」
「おっしゃることは、耳に痛いです。
 ですが、価値の数だけ存在する道が、ここではさらに深く複雑に絡み合ってしまう、そ
んな場所です。終わりの見えない場所。それぞれの世界が、他の世界に引き込まれ、際限
なく歪められてしまう……。弁解じみますが、そんな中で明確な終着を見つめていられる
のは難しいことだと思います。
 だからこそ、それを見極めたく思う場所だとも思いますが。それが『興味がある』とい
う意味です」
 僅かだけ語を区切って。

「特に、ハイドラントさんの見る "終わり" には、ね」

「それは――」
「ただの勘違いですよ」
 弥生の言葉に被せて神海は続けた。
「エゴによる錯覚、身勝手な興味。自分が欲するものの代償を他者の中に求める行為。共
有という妄想……。
 本来ただ在るだけのものに、価値を後付けしてそれを真理と思う勘違い。人だけが持つ
叡智――あるいは知恵の実の成果、とでも。偉そうに言えば、『興味』というのは、その、
価値を後付けする部分です」
「………」
 沈黙したのは、神海に、弥生が口にしかけた言葉を取られてしまったから。
 そしてそれ以上に、どこかで聞いた言い回し、と感じたから。以前も、同じような会話
をした事が――確かにある。ただし、主客を逆にして。
 今、彼が言ったようなことを、自分は口にしている。
 多分、何年も前に。
 ……その相手は……?
 一瞬想いに沈んだ弥生に、神海はふと、思わせぶりな笑みを浮かべた。
「……と、いうのは、ただの口実だったりしますけどね」
 誰に対する「口実」なのか不明だったが。
「実は、本心は別にあるんですよ。こちらの方が多分、篠塚さんの問いへの疑問になると
思いますが。なぜここにいるのか、という」
「―――?」
 視線で問うと、神海は一転して、ここに来て初めて笑顔を、消し。

 まっすぐに弥生を見据えて、静かに言った。







「貴女を、止めるために」







 引き金を引いた。

 重い銃声が、校舎に反射して消えた。







「口が過ぎました。冗談です」
 神海は、咄嗟に横に払って銃口を逸らしていた。
 静かな声で弁明する。
 真摯なほどに、静かな声で。
「私は、冗談ではありませんでした」
 弥生は構わず、熱い銃口を神海の喉元に押し付ける。強く。
「それを――理解、していますか?」

 今の一言は、篠塚弥生という存在への宣戦布告に等しいことを。

「……以後気を付けます」
「………」
 返答は一言。
 その後は、沈黙。

 吹き抜ける風が、噴水の音を乱していく。

 それ以上を引き出せないと悟ると、弥生は一つ吐息して、銃口を、下げた。





             ◇     ◇     ◇     





 暮色が満ちていく。
 大分慣れ親しんだ中庭。
 茶番の、ままごとの舞台。
 変わらない日常、という名の箱庭。
 今、その景色の中に佇むのは、一人の女性――

「ありがとうございました」

 不意に、口から滑り出た言葉。……そのまま、弥生を見据える。
 それは確かに、唐突な言葉だったには違いない。
 突然口を開いた自分を、彼女は警戒を残しながらも、怪訝そうに小首を傾げた。意味が
判らない、と言うように。
 その表情もまた、夕焼けの色に染められている。
 神海は答えず、微笑する。一番馴れた、いつもの表情で。
「今日はここで失礼します。また――第二茶道部で、ということになりますか」
 そのまますれ違い、校門へ歩き出す。
 名を呼ばれたのは、十歩ほど後のことだった。
「神海君」
「はい?」
 振り返る。
 涼気が増してきた空気の中に、黒い髪の女性が佇んでいる。
 彼女は半分振り向いただけ。身体は横に向けたまま、横目で人を捉える仕種。
 一見高慢な――だがその実、最も少女らしさが出るように思える仕種。
 ――どんな形にしても、人と触れ合うことに馴れていないのだと信じさせる仕種。
 ……初めて逢った時から、変わらない、仕種。
「昨日欠席された補習授業、来週の月曜日に行いますので。次はその時、ということにな
るかと思います」
 そんな仕種で口に出された言葉は、そういうものだった。
 にこり、と微笑みを返して。
「承知しました。ハイドラントさんも引っ張って行きますから」
「よろしくお願いします。それでは、失礼します」
 彼女は相変わらず笑いもせず、それだけ言うと、丁寧な一礼を残して歩き去った。



(行く末を見極めたくなる、――か)
 彼女の後ろ姿が消えると、神海は浅く嘆息した。
 聞いて呆れる。

 あの雷光の瞬間の自分の行動を。そしてつい先刻の一言を。

 神海は後悔していたし、これからも後悔し続けるだろう。
 もし自分があの場所にいなかったら。
 そして『結果』のみを後に知らされていたら。
 自分は決して、後悔などしなかったはずだ。失望を禁じ得なかったとしても。
 にも関わらず、もう一度あの瞬間に戻ることができたとしても、自分は再び光の魔術を
編み上げるだろう。
 あの瞬間の。
 羨望と。
 ――共感と。
 そして、そのどちらでもない――ただ、どちらとも重なる――想いと。

 自分は、責任を取れるのか?
 世界を変えた責任を。
 いや、責任などという言葉を使う必要はない。
 衝動のままに為した行いに対して、何か意味のある答えを。
 ……答えを。

 それは、終わりを探すということ。未来を見るということ。

 自分が。
 喉の火傷に触れる。その感触は、悪くない。
(……参ったな)
 神海は笑った。意外な楽しみを見つけたように。
 この学園は、つくづく。


 しばらくしてから、神海は第二茶道部へと足の向きを変えた。
 あの人には、謝ることは出来そうにないな、という呟きを最後に――

 巡る想いを、意思の奥に押し込んで。



                              「終への助走」 了

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





           **  先ず私信  **

  (……15ヶ月の遅刻?(汗))
   ということでハイドラント様。大変遅くなりましたが。
   L出演&十三使徒洗礼、ありがとうございました御礼Lメモでした(礼)。
  (…って、ハイドラント様へのお礼になってないです?(汗))
   これは元々、初めてLメモに出演させて貰って三十時間ほど浮ついてニヤニ
  ヤしまくらせて頂いたお礼に書き始めたものでした。
   思えば最初期の構想では、神海は本当にぎりぎり、弥生さんが最後の行動に
  出る土壇場でしか動かないつもりだったのですが(つまり、「未来編」で勝手
  に書いてそれっきり)、あんな場面(作品)を見せられては、動かないわけに
  もいきません(笑)。
   今更ですが、改めてありがとうございました。これからも何とぞよろしくお
  願いします。
  (今回、導師が出演しない理由は、ラスト二行が全てです。……いやだって、
  洒落じゃなくまだ殺されたくありません、神海(笑))

           **   **   **


 ……というわけで。
 とうとう始めてしまいました、十三使徒中心(予定)シリアスLメモシリーズ『世界の重
なる場所で』。見切り発車です、きっぱりと。
 今回は完全に一人相撲Lですが……ここが『スタートライン』ということで、ご勘弁く
ださい。
 劇中の期間は、このLメモの緑葉帝73年8月1日から、10月『魔王政変』勃発まで。
 雀鬼からナイトライターまで、これまでのリーフ作品での、ファンタジー方面のシリア
ス要素を出来るだけ入れる予定です。私なりの、L学園世界の再構成、ということに出来
れば、と思っています。(……大言壮語)
『私録』とは別シリーズにしたのは、設定等、かなりの無断変更が予想されるからです(笑)。
半別時空くらいの感じでお楽しみ頂ければ幸いです。

 では、次回、

 Lメモ世界の重なる場所で=@一、『焔』(仮)

 で、なるたけ早くお会いできますよう。


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                              001108 神海