Lメモ 「暗闇を跳梁するは黒のさざめき」 投稿者:昂河
 悪の組織。
 そこは、陰謀蠢く深い闇である。
 その明るい陽の射さぬ空間で、彼らは日々謀略を練っているのだ。
 そこでは、戦闘員は全員同じ服を着て同じ言葉しか言わず、幹部は協調性も無く着
飾り、ボスは通信にしか姿を見せず、しかも顔は黒かったりするのである。
 すなわち、ゴールデンハムスターは一般的には茶と白のぶち模様であり、求めやす
いお値段だが、単色やら毛の長いのやら、白と黒のぶち──ドミノと呼ばれる──の
やらは、値段が高いものと決まっているように。
 悪の組織には、お約束というものが存在する。
 それは「彼ら」にとっても例外ではなく──
 場は、暗い場所から始まるのである。


「…どうだね、首尾は」
「ええ、順調ですよ」
 暗い部屋の中は、かろうじてそこに人がいると分かるくらいの光しかない。
 その光の中に白いコートの人物が立っていた。薄闇の中、つり上げたような瞳で
奥を見ている。
 その視線の先──奥の椅子に座っている人物が、脇のサイドテーブルに手をやっ
た。
 テーブルにはグラスが置いてあった。それは部屋のわずかな光を受けて、小さい
輝きを放っている。
「実行のめどは?」
「すでに仕込みは最終段階に入っています。太田委員とすこちゃんがそれぞれの場
所と連絡をとっているとこですが」
「うむ……」
 グラスを手に取ると、男はゆったりとした動作で、グラスを揺らした。中の乳白
色の液体が、淡い光の中で揺らぐ。
「よかろう。そのまま作戦を進めてくれたまえ」
「はい」
 答えた白衣の少年の口端が、わずかに引き上げられる。
「…ときに月島会長」
「なんだね、Rune君」
「盛り上がりますかね」
「そのための我々だ」
「…まー、確かに近頃かたい話も多くなってきましたからね、この学園も」
「だからこそ、日々のハプニングを演出することが、以前にも増して必要なのさ」
 暗躍生徒会会長、月島拓也。
 もともと細い目を更に細め、グラスをゆっくりと口に持ってゆく様は、まさに悪
の首領である。
「ま、自分らはやっぱこー、悪の組織ですからね」
「うむ、犯行声明は抜かりなくなルリコ」
「…………」
「…………」
「…やっぱ言いたかったんですね」
「ならわしだよ」
 拓也は言うと、グラスの中身を口に含んだ。乳白色の液体が、グラスの中で微か
にきらめく。
 それを飲み込んで、拓也は闇の中で満足気な笑みを浮かべた。
「…やはり、カル○スはホットに限る。そう思わんかね」
「自分は、飲めりゃそれでいいですけど」
「ポットに入っている。君も飲むといい」
「……ポットの中全部ホットカ○ピス?」
「その通りだ」
「じゃあ、ここでお茶を入れてもコーヒーを入れても全部カ○ピス風味だと?」
「無粋だな」
 拓也の口端が引き上げられる。
「カル○スは、蜂蜜を入れて飲むものだ。……本来なら原液でな」
 恐るべし、悪の総裁月島拓也。
 それはともかく。
 今まさに、暗躍生徒会が動き出そうとしていた──。




     Lメモ「暗闇を跳梁するは黒のさざめき」




「…これでよしっと」
 2年生棟エディフェルの、とある教室の中。
 二人の女生徒が、ごそごそと何かやっている。
「はー。あと何箇所?」
「んー、10箇所くらいかな」
「次の授業は休めないんだよ。千鶴先生の授業だよ?」
「分かってるってば。ちゃっちゃとやっちゃおーね」
 女生徒は言うと立ちあがった。どうやら授業はサボっているらしい。
「……でも、いいのかな。私達ジャッジなのに…」
 片方が溜息混じりに言う。栗色の髪を1本おさげにして、前の方に垂らしている。
おとなしそうな顔立ちだ。
「しょうがないよ、暗躍の方も手は抜けないもん」
 もう片方が答える。深緑の髪はふわっと広がったショートで、眉のはっきりした顔
立ちは、気の強い印象を見る者に与える。
 二人とも、黄色いセーラー服を着ている。
 分かる方は分かるだろう。
 そう、左子と右子である。
 ちなみに、左子は気弱で赤面症、右子は明るくおちゃらけているという性格付けが
なされているのは御存知だろうか(雫・痕設定集参照)。
「だ〜れ〜が、左と右ですって?」
 君ら。
「ちゃんとした名前があるのに〜」
 だって、誰も名前で言っても分からないし。
「ひどい〜」
「しくしくしくしく」
 人によっては、髪型でしか覚えてなかったりするし。
「あうう」
「(ワカメ涙)」
 いや、でも、気にかけてる人もいるし。
 主に二人だけど。
「…うーん、気にかけてくれてる…のかな?」
「…先輩(ぽっ)…」
 実はこの話も、君ら書くためのものだし。あんまり出ないけど。
 まあ、これを機会にぼちぼちと。
「だといいんだけどね」
「あっ、由紀、早く次に回らないと授業が…」
「いけない、急がなきゃ!じゃーねっ」
 はーい。がんばってねー。
 そして右子と左子は、連れ立って次の仕掛けの場所へと急いだのだった。
 ちなみに、おさげの方が左子で名を桂木美和子、ショートの方が右子で名を吉田由
紀という。みんな、ちゃんと覚えてね☆



 場面変わって、こちらは1年生棟リネット。
 ここでも、教室の隅でごそごそやっているのが2人。
 こちらは、男女のペアである。
「よーし、完了。おーい、こっちはすんだぞ」
 手に持ったトランシーバーに向かって、目つきの悪い黒っぽい服装の少年──Hi
−waitが言うと、
『了解。じゃあ、予定時刻までは自由行動ね』
 女性の声が返ってきた。
「時間にポジションにつけばいいんだな?」
『ええ。よろしくね』
「りょーかい」
 答えて、Hi−waitは隣にいるポニーテールの少女──月島瑠香を見やった。
「よし、飯食うぞ」
「え、でもまだお昼じゃありませんよ?」
「作戦実行は4時間目終了から10分後だ。飯を食ってる時間はないぞ」
「それはそうですけど、授業は出ないんですか?」
「僕の邪魔をするものはすなわち悪。飯の邪魔をする授業もまた悪だ」
 言い捨てると、Hi−waitはさっさと歩き出した。
「あっ、置いていかないで下さい、Hi−waitさん」
 瑠香もその後を急いで追った。



「Hi!カナコ」
 黄色いセーラー服を着た、肩までの髪の長さの少女に、ピンクのセーラー服に金髪
碧眼の少女が声をかけた。
 太田香奈子と宮内レミィである。
「こっちは終わったヨ」
「ご苦労様」
 レミィの言葉に、香奈子は笑顔で応じた。
「なんか、久しぶりに動きましたね」
 レミィと一緒に来たほんのり茶色い髪の少年──城下和樹が、首を軽く左右に傾け
た。
「このところ、様子見だったからね」
 香奈子の隣にいた健やかが微笑む。この少年は、相変わらず人を和ませる雰囲気を
漂わせている。
「由紀と美和子からも連絡があったし……これで仕込みは完了したわ。ふふ……もう
しばらくすれば、全校生徒が私達の力を思い知ることになるでしょう」
 不敵な笑みを浮かべる香奈子。その様は、まさに悪の女幹部にふさわしい。
「久しぶりに悪のスマイルですね☆」
「ワタシも楽しみデス」
 にっこりと城下が笑った隣で、レミィが目をキラキラさせる。
「久しぶりに馬鹿騒ぎができるといいね」
 健やかの言葉に、3人はうなずいた。
「カナコ、そろそろ風紀の見回りが来る時間だヨ」
「そうね。じゃあ、みんなも次の配置についてちょうだい。くれぐれも、風紀委員に
は気をつけてね」
「はいっ」
「ラジャー!」
 香奈子の言葉に元気良く答えて、城下とレミィが駆け出す。
 それを見送って、香奈子と健やかも次のポイントへと歩き出した。



 ざっ、と整列するメタオ軍団。
 タケダテルオは彼らを見渡すと、にやりと笑った。
「けっけっけ、俺達の出番だ。いいか、あれを操れるのは俺達だけだ。奴らに目に物
見せてやろうぜ!」
「「「けっけっけっけっ」」」
 メタオ達は一斉に笑った。






「準備完了」
 香奈子からの連絡を受け、Runeは拓也にそれだけを告げた。
 拓也はおもむろにうなずくと、立ち上がり片手をサッと横に振った。
「よし、行動を開始せよ!ゆけ、暗躍生徒会!」
 言ってから──
「…だルリコ」
 ポッと頬を赤らめて、拓也は小声で付け足した。






 昼休み。
 弁当を持って移動する生徒、パンを求めて購買部へと殺到する生徒。
 誰もが、思い思いに昼食の時間を楽しもうと動いていた。
 4時間目終了の鐘が鳴って10分ほどたち、ある程度教室内が落ちついた頃。
 ぱん、と軽い破裂音のようなものがした。
「んあ?」
 浩之は、あかりの作ってきた弁当を頬張りながら、音のした方をちらりと見た。
 教室の隅。何やら黒い点がざわざわと──
「へっ?」
「どうしたの、浩之ちゃん?」
 それに気付いたあかりがそちらを見て──動きを止める。
 カサカサカサカサ。
「なっ──」
「あ…あ…」
 黒い点は、独特の音をたてながら、教室の床を四方に散っていく。
 特有の色とつやを持ったその点達。
 誰もが悪寒を感じずにはいられないその姿。
 そう、それはまごうことなき──
「ちゃっ……チャバネメタオ!!」
「きゃあああぁぁぁっっ!!」
「うわわっ、足にぃっ!」
「ひええっっ!」
 教室内は、一瞬にしてパニックに陥った。



「はわわ〜、チャバネメタオさんです、いっぱいいます〜」
「大丈夫だよ、マルチ。僕がついている。君には指一本触れさせない!」
 食堂にもそれらは現れた。迫り来る触角チャバネメタオ。
 マルチを後ろにかばいつつ、MAフィールドを張り、手にしたモップでチャバネメ
タオを掃き飛ばすセリス。吹っ飛んだメタオが周囲の人間に降りかかってもおかまい
なしである。
 一番賑わう時間に現れたチャバネメタオに、食堂は蜂の巣を突ついたような騒ぎに
なっていた。
「あ〜ん、きりがないです、ひなたさん」
「ちっ、メタオのくせにしぶといですね」
 言いながら、暗器でメタオ達を仕留めていく風見ひなた。
「…ええい、ここは一気に飛ばしてしまうのが吉!いきますよ美加香!」
「ええぇ〜、嫌ですぅ〜」
「口答えは許しません!」
 がつっ、と美加香を掴むと、ひなたは彼女を盛大にぶん回した。
「鬼畜ストライク!」
「みゃああぁぁぁぁぁぁっっ!」
 ワカメ涙を流して飛んでいく美加香。

 ちゅど〜〜ん!!!

 ……チャバネメタオと一緒に生徒達が吹き飛ばされたのは言うまでもない。



 植木の間から現れ近づいてきたそれらに、綾香は眉を上げた。
「なんで外なのにこいつらが……って、あんた達?」
 ベンチから立ち上がった綾香をかばうように、ハイドラントと悠朔が前に出た。
「綾香、お前は私が守る。…貴様に出る幕はないぞ、悠」
「一人で格好つけさせてたまるか」
 お互いを牽制しながら、二人はチャバネメタオを睨みつけた。
 そして。
「──プアヌークの邪剣よ!」
「くらえっ!真・魔皇剣!」
 光熱波が植木もろともメタオ達を焼き焦がし、衝撃波が地面をえぐり、メタオ達を
散らす。
 瞬く間に、3人の周りからおぞましいゴ●ブリもどきは姿を消した。
「ふっ…見たか綾香。私の力なら、ざっとこんなものだ」
 ハイドラントが人差し指を額につけ、口端を笑みの形に釣り上げた。悠が剣をしま
いながら、横目で見る。
「お前一人の力じゃないだろう」
「ふん、貴様なぞいなくても変わらん。というか邪魔だ」
「悪かったな。だが、お前も綾香の邪魔をしているだろうが」
 グリグリ。
「私は邪魔などしとらん。あくまでさりげなく傍にいるだけだ」
 ビローン。
「どこがひゃりげなひって?」
「力いっぱいさりげないだろうが」
 グリグリ。
 ビローン。
「あんた達は…」
 ハイドラントの頭を拳でグリグリする悠と、悠の両頬を思いきり引っ張っているハ
イドラントに、綾香は肩を落としてため息をついた。
「それにしても……これ、どうなってるわけ?ここだけじゃないようね」
 遠くから聞こえる混乱の音に、綾香は校舎に目を向けた。
「こんな馬鹿騒ぎを起こすのは、あいつら以外にいないだろう」
「あいつらって?ハイド」
「すぐに分かる」
 悠の頬をたてたてよこよこまるかいてちょんして、ハイドラントはニヤリと笑った。
 頭のグリグリ攻撃は更に激しくなっていたが。



 校内の至る所で、混乱は起きていた。
 所狭しと走りまわる触覚チャバネメタオ達。
 逃げる者、逆に動けない者、退治に励む者。
 そして、事態を収拾しようとする者。
「委員長、3つの校舎は元より、外にもあれらが出没しているようです」
「そう…。明らかに、計画的犯行ね」
 うつむいて腕組みをする風紀委員長、広瀬ゆかり。
 当然、風紀委員達はこの混乱を収めるべく動いている。
「こんな事を実行してみせるのは‥」

『はーっはっはっはっはっ!!』

 その時、ゆかりの台詞を遮って、突如高笑いが響いてきた。
「どこっ!」
「放送だわ、ゆかり」
 貞本夏樹が、音のする方を見て言う。
「しかも、校内放送のものじゃない。別な場所に仕掛けられているようね」
「そのようね」

『はっはっは、久々に大暴れさせてもらったぞ!
 今日の趣向はお気に召したかな、全校生徒の諸君!』

 嬉々とした声が、全校に響き渡る。
「この声……Rune!」
「やはり、あそこね……」

『というわけで、今回のこの事件が我々暗躍生徒会の犯行であることを、今ここに明
言するっ!!
 なおっ!この拡声器は自動的に消滅する!っつーわけで、お後よろしく☆』

 ぼむっ!
 部屋の隅で、細い煙が立ち昇った。
 おそらく、校内のいたるところで同じ事が起きているに違いない。
「やってくれるわ」
 ゆかりは苦笑すると、夏樹を振り返った。
「とにかく、残りのチャバネ退治を急いで。私達だけでは足りないでしょうから、他
の人達にも協力してもらって」
「はい」
「とにかく、事態の収拾を最優先にね」
 そう言うと、ゆかりはため息をついた。
「この所あまり派手じゃないと思ったら、こういう時に、ね。……いえ、こういう時
だからこそかしら」
 ゆかりの呟きを、夏樹は黙って聞いていた。






「ふっふっふ…完璧だルリコ。よくがんばってくれた、諸君」
 拓也は満足気に笑うと、皆にねぎらいの言葉をかけた。
 暗躍生徒会室。今は電気がついていて、拓也の座る会長席の後ろのドクロマークも
はっきり見える。
 ちなみに、この部屋の壁紙は、すべて黒で統一されている。
 更に言うなら、ドクロマークの書かれている壁は、スイッチ一つで反転して月島瑠
璃子の肖像画が出てくる。
「今回の立案は、まあ割と楽だったからな。実働部隊の皆さんのがんばりでしょ」
 Runeが言いながら、目の前に置かれているせんべいに手を伸ばす。
「準備に時間かかったものね。1週間、風紀の目を逃れながら仕掛けまくったし」
「久しぶりに大作戦だったからね」
 香奈子の言葉に、健やかがうんうんとうなずいて続ける。
「ほんと、みんなよくやったね」
「ふっ、全ては正義のためだ、気にするな」
「なんか楽しかったですよ」
 Hi−waitと瑠香が、さわやかな笑みを浮かべた。
「いやあ、これで特捜部のネタもできたことだし。大団円てやつですね」
 城下が、コップをみんなに回しながらにこにこする。無論、中身はホットカ○ピス
である。
「うん、そーネ。喜色満面、気分壮快、デス」
 レミィが自分も嬉しそうに笑う。
「うむ、それでだルリコ。今回の成功を祝って、我らが顧問がごちそうしてくれると
言っているルリコ」
「ええっ!?僕ぅ?!」
「わぁっ、本当ですか、七瀬先生」
「わーい、何ごちそうしてくれるんですか?」
 美和子と由紀がはしゃぐ隣で、七瀬彰はがっくりと肩を落とした。
「うう、給料前なのに……」
「まーまー、せっかくうまくいったんだし。大丈夫、自分は少食だから」
「…君が一番食べるだろ」
「そんなことないですよ、はっはっは」
 恨めしげに睨む彰を、Runeは軽くいなした。
「ま、何はともあれ、久々の作戦成功を祝して、まずは乾杯といきますか」
 香奈子がコップを持ち上げる。それに合わせて、みんなコップを持つ。
「さ、会長」
「うむ。では、諸君の健闘を祝して……乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

 なんだかとってもアットホームな暗躍生徒会であった。



 後日談1:
  チャバネメタオが退治された後、その残骸を片付けるため、全校あげての大掃除
 となった。
  焼却炉に運ばれたメタオの残骸は50メートルほどの山を築き上げ、彼らを焼く
 炎は3日3晩途切れなかったという。

 後日談2:
  タケダテルオは、チャバネメタオと共に退治され、メタオの残骸と共に打ち捨て
 られて危うく一緒に焼かれるところを、からがら逃げてきたそうな。

 後日談3:
  生徒有志が集まって、一気に暗躍生徒会に報復。全員ボコボコにのされたとか
 のされなかったとか……

                             <おしまい>