「ふうううううん」 にやりと笑った崇乃に、昂河は軽く口をとがらせた。 「なんだよ、その顔は」 「いいや? 吉田さんも大変だなあ、と思ってさ」 「確かにダイエットってのはとてつもなく根気のいることだけどさ」 商店街アーケードのCD店の中。 昂河達は目当てのCDを探して陳列棚の前にいた。 「それにしても、鈴花。なんでいきなり吉田さんにそんなことを?」 きいた崇乃に、昂河の頭の上の鈴花は得意げに胸を反らせた。 「昂河しゃんのためでしよ」 「……え?」 「晶のため……ねえ」 昂河は目だけを頭の上に向け──無論、頭の上までは見えない──、崇乃は 考えるような顔をした。 「好きな女の子がプロポーションがいいのは、幸せなことだと言ってたでし」 「僕はそんなこと言ってないよ」 「言っていたのは陸奥しゃんでしよ」 鈴花の口から出てきたのは、昂河の工作部の後輩の名前だ。 「セリオしゃんに、そう言っていたでしよ」 「…………」 確かに、その場に昂河も居合わせた。 そう言われたセリオは戸惑ったような表情を浮かべて、陸奥を大慌てさせた のだったが。 「だから、晶もそうじゃないかと思ったのか?」 「はいでし」 「それ、もしかして……その、マナさんにもダイエットすすめたりとか、した のか?」 「してないでしよ」 平然と言った鈴花に、崇乃は頭をかりかりとかいた。 「よかった。マナさんは今のままで十分──」 「十分、なに?」 「魅力的………………って、うわあっ!?」 ずざざっ、と後ろに下がった崇乃が陳列台にぶつかる。 台はほんの少し、ぐらりと揺れた。 「はっはーん。やっぱり、八塚くんって観月さんのこと好きなのねえ」 「来栖川さんっ?! あ、いや、そのっ……」 「うふふ、大丈夫。言ったりしないから安心してよ。そして、昂河くんは吉田 さんが好き、と」 「来栖川さん……な、なんで」 「だって、ねえ?」 来栖川綾香は、後ろに立つオレンジ色の髪の少女を振り向いた。 「──はい。今までの言動から推察する事は可能です」 「ほら、セリオに言われちゃうんだから」 にやり、という形容がぴったりの笑みを浮かべた綾香に、男2人は赤面した。 「鈴花ちゃんが気を使うのも当然よねー」 「分かってくれるでしか?」 「ええ。だって分かりやすいもの」 当然、と言った顔で綾香は笑った。 「でも……どうしていきなり……」 「んー、セリオの話が耳に入ったからね。この子、それでちょっと悩んでて」 「悩む?」 昂河は不思議そうにセリオの顔を見た。 セリオは、いつものように無表情だ。 ……ちょっと見は。 「悩んでるって、なんで?」 「それがねえ……」 きいた崇乃に、綾香はちょっと考えるような顔をした。 「2人とも、時間ある?」 「ん、ちょっと待ってくれるかな。CD買えば用事はすむから」 「どれ探してるの?」 それに答えて、崇乃と昂河がそれぞれの目当てのCDの名を言うと、綾香は セリオを促すように見た。 「──検索は終了しています。八塚さんのお探しのCDはそちらの棚の2段目 にあります。昂河さんのお探しのCDは、あちらの特設コーナーにあります」 「すごいな……店の中のことまで分かるんだ?」 「──はい。この店は来栖川のデータベースに店内のデータを公開しています。 そのデータから検索しました」 「そっか。鈴花にはそこまでできないからなあ」 「仕方ないでし。スペックの違いでし」 崇乃の言葉に、鈴花はしょんぼりと肩を落とした。 「気にすることはないさ。それは仕方ないことだよ」 「昂河しゃん……」 ふにゃあ、と鈴花は昂河の頭の上に転がった。 つ、と白い手が昂河の頭の上に伸びる。 「え?」 「ふみ……」 セリオが、鈴花の頭をなでなでしていた。 「…………」 昂河は、目の前にいるセリオの顔を見た。 セリオは無表情だ。いつもの表情。 その目にはなんの感情も浮かんでいない。 けれど、その手は優しく鈴花をなでていた。 「さ、それじゃ手早く目的を果たしてくれる? ちょっと相談したいことがあ るのよ」 「相談って、俺達に?」 「そう。メイドロボのマスターと工作部員くんにね」 綾香はそう言ってにこっと笑った。