朝の凍てつくような陽を浴びたとき、俺はあまりの身軽さに歓喜した。 昨日まで背負っていた俺には不要だった物は全て消え去った。 もはや俺の行動を妨げる物など何もないのだ。 内側でどろどろと腐臭を上げていたあの暗い海ももう見えない。 俺は生まれ変わったのだ。 さあ、行けハイドラント! 輝かしい正義のために! Lメモ外伝「ジキルとアレ!!」 「ふわぁ……眠い」 風見はいつもの通学路を歩きながら欠伸を漏らした。 大口を開けた風見を、美加香が苦笑しながら見上げる。 「もぉひなたさんたら…早く寝れば良かったのに」 「よく寝ても冬は寒いから寝床から出たくない」 「…ダンゴムシみたい」 要らないことを言って美加香が殴られるところまでいつもどおりな会話を交わしながら 二人は校門をくぐり、顔をしかめた。 『諸君!我々は今までの全ての過ちを清算するべく学内における治安の維持に勤めること を今ここに宣言し、それとともに今後一切の……』 キンキン響くスピーカーに風見は思わず耳を塞いだ。 「だぁぁぁ、うるさいっ!生徒会立候補演説ですか!?」 「うー、朝っぱらから騒がしい人も居るんですねぇ」 思わずそこらへんのちょっと大きめビッグサイズな石ころを後頭部に投げつけようとし たとき、そのショッキングなニュースは届いた。 『ダーク十三使徒による破壊活動を放棄する!』 「なっ!?」 風見はその声の主を思いだし、次にその発言の内容を理解して声を挙げた。 どうやら周囲の生徒達も一緒らしくざわざわとうろたえの声が広がる。 そんな彼等を無視するように、彼は声をあげ続けた。 『さらにっ!これから私ハイドラントは来栖川綾香を全力を挙げて幸福にすることを誓う!』 「えええっ!?」 風見は再び声を挙げた。 あのハイドラントが、純愛宣言を出すとは。 そして彼は目を丸くしている風見にびしっと指を指すと、言った。 『私はこれまでの罪の贖罪のため、ジャッジの一員として正義のために力を奮おう!!』 「げえええーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 今度こそ風見は絶叫を上げた。 何があったのかは分からないが、とにかくこれは確かだ。 異常事態発生。 「信じられないねぇ……本気で」 背後から声を掛けられ、振り返れば岩下達ジャッジメンバーが立っていた。 「い、い、い、岩下さん!?何なんですかヤツのあの異常な言動は!?」 「それはこちらとしても測りかねているんだが……」 岩下はこりこりと頭を掻いた。 と、新たに背後に生まれた異様な気配に風見は振り向く。 そこには眼をキラキラと輝かせた穏やかな表情のハイドが立っていた。 「おはよう、風見君」 まるで一月の朝の空気のように澄み切ったハイドの表情を見て、風見は呟いた。 「イ、イッてる!?」 「違うっ!俺は、俺は正義に目覚めたんだーっ!風見、色々あったけど今日から俺達親友 だぜ!」 「……………」 この男、クリスマスにあんだけやっていきなり許せとほざくか。 風見はそう思いつつもあまりにも突然な態度の変化に戸惑っていた。 そして、ある一つの確信にたどり着くと目頭を押さえて呟いた。 「いくら寂しいからってクスリに頼らなくても……」 「いきなり失礼なことを哀れみたっぷりに呟いてんじゃねえ!誰がクスリ系だ!?」 「貴様」 「野郎」 そんな不毛な漫才をやっていると、後ろから涙に濡れた声が掛けられた。 「導師様!?突然何を一体……早くお戻り下さいませ!」 「葛田か」 ハイドが呟くと、確かにそこにはダーク十三使徒におけるハイドの一番部下、葛田がう ろたえながら立ちつくしていた。 「残念だが葛田、俺はもう悪を働くつもりはない。ダーク十三使徒は解散だ」 「な…なんですって!?」 「今日からライト十三使徒に改名するからな」 (名前変えただけかい!?) とその場の全員が思ったが、葛田だけはショックを受けたような表情をしていた。 「そ……そんな!何があったのです、導師!?」 「何もない。強いて言うのなら……闇の底を覗くことに飽いた」 ハイドがそう呟いた瞬間……葛田の張り手が炸裂した。 「導師の、導師のバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」 「げふっ!?」 そして、そのまま葛田は走り去って行く。 あまりの光景に唖然とする風見の後ろでは岩下とセリスが囁き合っていた。 (どうも芝居じゃないみたいだな) (でもまだ分かりませんよ。これも芝居の一部かも……) 一同の視線を受けつつ、ハイドラントはゆっくりと立ち上がると呟いた。 「すまん、葛田……」 そんなハイドラントに向かって風見は思わず声を挙げていた。 「バカな!?ハイドラント、悪人じゃない貴様なんて……貴様なんてっ!貴様が悪人じゃ なくなったら誰が悪役をやるんだ!?SS使いで悪役張って喜んでるアレなんて貴様ぐら いのものだと思ってたのに!」 「そうですよ!バカすれすれの懲りない悪役ぶりがハイドラントさんがハイドラントさん たる理由だったのに!」 続けられた美加香の台詞に、ハイドは肩を落とした。 「ンな俺が悪役しか能がないみたいに言わんでも…」 『他にあったのか?』 一同の冷静なツッコミにハイドはしゃがみ込んで地面に『の』を書いた。 そこへ一つの声が重なる。 「騙されるな、みんな!そいつは偽物だーーっ!」 「なにいっ!?」 一同が振り返ると、そこにはいつもよりもちょっと人相の悪いハイドがロープでぐるぐ る巻きにされて倒れていた。 「ハイドラント様が二人……まさか!?」 貴姫ははっとして声を挙げた。 「心当たりがあるのか、貴姫!?」 貴姫はごくりと唾を飲み込むと、呟いた。 「……『ザ・ピーナッツ』?」 一瞬の沈黙。 やがて美加香が首を傾げながら「なに、それ?」と呟いたところではっと一同は我に返 った。 「そんな古いの、誰が覚えてるかっ!?」 と風見がツッコミを入れようとした瞬間、冬月が呟いた。 「いや、もしかしたら『パンプキンズ』の方かも」 「ああ、そうですね」 (分かってるのーーーーーー!?) ただ一人美加香だけがギャグの意味が分からず呆然としている。 何故そこでそんな古い人たちが出てくるのかは謎だった。 テレビに出る双子なら今でもちびっこいのがいるのに。 「ところで例の双子のばーさんたちの片一方が死んだらやっぱり緑葉帝崩御の時くらい 大騒ぎになるだろうか?」 「貴様、余裕あるじゃねーか……」 ヤバいネタを振ろうとした人相の悪いハイドをとりあえず踏みながら、風見は話を本題 に戻した。 「で、何故歩く産廃ことハイドラントが二人!?」 「勝手に変な愛称付けるんじゃねえっ!」 「液漏れしてるだろうが!これが消火栓だからまだいーが原発なら……」 脱線禁止。 「とゆーわけでさあとっとと吐きなさい!」 強引な場面転換にも関わらず、風見は悪いハイドラントを踏みながら言った。 「うぬぬ……実は昨日の夜の話だ」 そう人相の悪いハイドラント略して悪ハイドは切り出した。 「ふとラジオを聴きながら己の甘さに気付いた俺は通販で購買部から取り寄せた『性格二 極分解薬』を飲み己の甘さを物理的に排除しようと!」 「……やっぱ寂しいヤツなんじゃないのか、貴様……」 「いきなりラジオですからねー……」 風見と貴姫の哀れむような視線にめげず、悪ハイドはむくっと起きあがった。 「失礼なっ!俺にだって友達……」 そう言いかけてから、ふっと寂しい笑みを浮かべた。 「……友達はいないが手下は百人以上居るぞ!」 そんな悪ハイドを眺めながら、岩下とセリスは囁いていた。 「どう思う、今の笑みは?」 「きっとオーフェンネタと被りかけたから無理矢理ギャグを飛ばしたんですよ」 図星である。 「で、部下百人うんぬんはどう思う?」 「さあ……たった今解散しちゃいましたしねぇ」 哀れである。 「正義の学園にそんなものは不要♪」 「てんめぇぇぇぇぇぇ!!!ブッ殺す!」 人相の善いハイド略して善ハイドの言葉に、朝縛られたらしいロープを引きちぎり悪ハ イドが立ち上がった。 SSファイトレディーゴォ!! 「はっはっは、相手にならんな」 「ってなんで俺が一方的に負ける!?」 悪ハイドはボロボロになって地面に這いつくばった。 善ハイドにとっては圧勝、悪ハイドにとっては完敗である。 「うーん……なんだか『甘さ』を排除したわりにはあんまり変化ないですね、悪ハイド様」 貴姫が首を傾げた言葉に、風見はぽんと手を打った。 「あっ、そうか」 「どうしたんです?」 風見はぴっと悪ハイドを指さすと、美加香に向かって解説を始めた。 「この悪ハイドは『綾香猟奇殺人』の部分だ」 「はぁ」 続いて風見は善ハイドを指さした。 「そしてあの善ハイドは『綾香十三歳モエモエ☆』の部分だ!」 「おおっ!それは確かにロリコンの方が強いですね!」 「って誰がロリコンだーーーーっ!」 納得顔の美加香に思わず怒鳴り返す悪ハイド。 そんな彼の背中を見ながら、岩下とセリスが囁き合っていた。 「自覚がないみたいだな」 「困った人ですねぇ」 そんな二人の更に後ろで、貴姫がぼそっと呟いていた。 「ってあなた方に言われたらオシマイだと思うのですが……」 「あんたも言えたクチじゃねーっての」 さらに後ろではSOSが密かにツッコミを入れていた。 そんなごたごたを一切ひっくるめ、善ハイドが宣言する。 「はっはっは、とゆーわけで善ハイドってゆーかネオ俺の方がより強くてしかもみんなの 噂のマトってコトが証明されたところで年貢の納め時のようだな悪ハイドっつーか俺の恥 ずかしい部分っつーかオールド俺!」 「貴様の方がよっぽど恥ずかしいわっ!」 叫び返す悪ハイドを見ながら、岩下とセリスは囁き合っていた。 「善ハイドの方は確かに正義かもしれんがアタマ悪そーだぞ」 「アタマ悪いけど正義なんですよ」 どっちもどっちである。 善ハイドはびしっと悪ハイドを指さすと高らかに宣言した。 「とゆーわけでっ!さらばだっ、イロイロと恥ずかしい俺!」 「ぬうううっ!?」 悪ハイドが思わず眼を閉じた瞬間……。 「やめてえええええええ!!!ハイド、自分同士で殺し合うなんて不毛な闘いは止めて!」 びくっとして善ハイドは攻撃を中断する。 「綾香……!」 突然現れた綾香を、悪ハイドはきらきらと輝く目で見つめていた。 「ああ、綾香……やはり俺を助けに!?」 戯言をほざく悪ハイドを無視して、綾香は声を張り上げた。 当然の判断である。 「そんな……そんな善人なハイドなんてハイドじゃない!」 その言葉にガーンと善ハイドは衝撃を受けて思わず綾香に叫び返した。 「で、ではどんなのが俺だと!?」 「ハイドは……あたしの知ってるハイドは!」 綾香はぐぐっと拳を握りしめると叫んだ。 「ハイドはもっとドロドロして猟奇でソフトネクロフィリアでペドで友達居なくてセコく てその上シスコン入ってるゲス野郎なのよっ!!」 「な、なにぃぃぃぃぃ!?」 あまりのショックに善ハイドはそのままばたりと真っ白になって倒れた。 悪ハイドは半ば血を吐きながら、綾香に叫んだ。 「綾香!今日という今日はお前が俺をどー思ってるのか非常によく分かったがそれはそれ として俺を選んでくれるんだな!?」 「あ、アタシあんたはもっとキライ」 「ぬわぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」 ガラガラガラガラガラ。 「やっぱり……刺激が強すぎたんでしょうか……?」 変身を解いた貴姫はつつっと汗を垂らしながら真っ白に砕け散った二つの屍を見下ろし つつ、そう呟いた。 「見事に燃え尽きたねー」 岩下もうんうんと頷く。 「どうしよう、この二つ……」 セリスが呟いたところで、寒い寒い風が吹いた。 きーんこーんかーんこーん………………。 始業ベルが鳴ったところで、風見が言った。 「埋めよう」 こうしてハイドラントは凍土の下に埋葬された……。 だが、これであのハイドが死んだとは思えない。きっとその内土の中で融け合って合体 し、蘇って来るであろう! 負けるな、ハイドラント!とりあえず春になったら氷は溶けるぞ!! 「って勝手に封印するなああああああああああ!!!」 あっ、善ハイドのみ復活。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ひ:えーーっと………やーみぃが「ハイドさんがやっていいって言ってたよー」なんてい うもんで書いてしまいましたが……。全部やーみぃが悪いのでやーみぃに言ってやっ て下さい。 み:って何全責任をなすりつけてんですか!? ひ:だって、だって……あんまりにもアレだもん!(苦笑) み:鬼だ(汗) ひ:えー、そゆわけでハイドさんしばらく善バージョンで頑張ってね☆ み:ってしかも人にわけのわからない設定を押しつけるなーーーっ! ひ:ハイドさんがいいって言ったんだもん(汗汗) み:知りませんよ、どうなっても…… ひ:てなわけで「ハイドさんの変化は一時的だぞっ!」風見ひなたと! み:「いいのかなーいいのかなー(汗)」赤十字美加香がお送りしました!