Lファンタジア第三話「お尋ね者に鉄拳を」 投稿者:風見 ひなた
 考えてみたら「勇者」って不思議な言葉だ。
 何故かファンタジー世界で勇者と呼ばれる生き物は悪の魔王をぶちのめしたりでっかい
ドラゴンをへち倒したりしなくてはならないらしい。
 つまりは正義の味方って事だ。
 でも、ちょっと考えてみれば言葉の意味とは必ずしもそぐわないことがよく分かる。
 勇者ってのは勇気がある奴のことのはずだ。
 それが何だって悪を倒す必要があるんだ?
 それとも悪と戦う勇気がある者のことなんだろうか。
 何だって良いんだが、それはともかくとして。
 まぁ………悪と戦う奴が清廉潔白ってわけじゃないしな。
 なぁ?
 勇者にも金は必要なのさ。

「智波」
 つつっと汗を垂らしながらアヤカは突っ込んだ。
「だからって警備兵の懐から財布を探るのは止めなさい」
「やっぱまずいか?」

 Lファンタジア第三話「お尋ね者に鉄拳を」

 某街のそこそこ綺麗なトラベラーズ・イン。
 俺はぽんぽんと金のたんまり入った麻袋を掌の上で弄んだ。
 うーむ、ずっしり。
「結構持ってたよなぁ、あんなとこに配置されてた連中にしては」
「給料日直後ですからね」
 にっこりと琴音は応じる。順応性が高い奴だ。
 それに引き替えアヤカはまだ後ろでうじうじと呟いている。
「ああああああああっ、なんでこんな奴が勇者なの………?」
 しつこいやつだなぁ。
「勇者に倒された奴は金を差し出さなきゃいけないんだろう?」
「だからってケンカの仲裁に入ってきた警備兵から奪っていくなっ!」
 全く細かい奴だ。
 大体酔っぱらいのケンカなんかに首突っ込む方が悪いのさ。
「たかだか100アクアだろうが。はした金はした金」
 俺はぱたぱたと手を振って見せた。
 アヤカはひきつった表情で俺の方を睨み付ける。
「あんたねぇ……警備兵の給料、大体一月50アクアよ」
 んー?そうすっと、財布ちょろまか……いや、徴収した警備兵は二人居たわけだから…。
 琴音はずずーーっと紅茶を啜って、ぼそっと呟いた。
「今日の夜半には一家で首吊ってますね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 アヤカは頭を押さえて喚いている。
 全くこれくらいで良心の呵責を覚えるとは軟弱な奴だ。
 大体顔も覚えちゃいねえ奴が路頭に迷おうが心中しようが俺の知ったことかよ。
 え?ボランティア精神が極端に不足してる?
 けっ、知ったことか。大体ボランティア活動なんて自分の満足感を買ってるもんだ。
 所詮人間てめーだけが可愛いのさへへっ。
 俺がそんな汚れまくった心で午後のひとときを過ごしていると、向こうの方から一人の
少女がこちらに歩いてくるのが分かった。
 おどおどして、ちょっと可愛い。
 後ろ手に両手を置いて、もじもじと俺の横に立つ。
 黒いマントに身を包んでいるが、身につけている服は白かった。
「あの、すみません。もしや、あなたは勇者様では?」
 うーん、俺ってば有名人。
 最近街で呼び止められるんだよな。
「ああ、そう呼ばれてるぜ」
 俺が返事すると、彼女はぱあっと目を輝かせた。
 うーん、おどおどしている姿も良いが笑顔もまた確実だ。
 芹香様がいなけりゃ彼女に………って、こいつは失言だが。
 俺の様子を察して、隣に座ってる琴音がぴりぴりとした殺気を放射するのが分かる。
 ふふん、勝手に嫉妬でも何でもしてやがれ。
 少女は本当に嬉しそうに笑うと、俺の方を見た。
「よかったぁ!私、勇者様を捜してここまで来たんです!」
「ほぉ、そいつぁ光栄だな」
「あの……お願いがあるんですが、聞いていただけますか?」
 可愛い女の子に頼られるのは悪くない。
 悪くないが取るもんはしっかり取らせて貰うぜ。
「報酬次第だな」
「はい、実はですね……」
 そう言うと、少女ははにかみながら後ろに回していた両手を振り上げた。
「お願い死んでくださいっ!」
 がぐしゃああああん!と少女が振りかざした戦斧がテーブルを両断する。
「げっ!?」
 俺達は急いでテーブルから離れていた。
 椅子を蹴飛ばして飛び下がると、少女はじりっと戦斧を構えてにじり寄った。
「……避けましたね?」
「避けなきゃ死ぬわっ!」
 可愛い顔してこの子もやっぱり変な奴かっ!?
 ………よく見りゃこの子見たことあるぞ。
「お前……トレジャーハンターの沙耶香じゃねえか………」
 学園の購買部のスタッフだ。
 くっ、結局俺って異世界に来てまで学園の連中から逃れられんわけな。
「今はバウンティハンターの沙耶香です!さあ勇者様、お覚悟!」
「するかっ!」
 そう叫ぶと俺はアヤカと琴音の手を取って人混みの中に突撃していった。
「えっ!?逃げるんですかっ!?」
「戦ってられっか馬鹿野郎!」
 琴音にそう絶叫を返しつつ俺は人混みの中を強引に蹴飛ばして突き進んで行く。
「卑怯ですよっ、大人しくやられて下さい!命までは取りませんからっ!」
 そう叫びつつ沙耶香は戦斧をぶんぶん振り回して突っ込んでくる。
 思いっきり説得力ないわっ!
 俺は心の中で絶叫しながら走り続ける。
 だが、敵の迫力はなかなか大したもので(当たり前か)人混みは自分から避けていって
るようだ。
「今投降すれば腕をぶったぎられたり上下半身泣き別れになったりしないで済みますよっ!」
「お前さっき死んでくださいって言わなかったか!?」
「言葉の綾ですっ!」
 信じられっか!!!!!
 俺は人混みを突破して酒場のドアを蹴り破った。
 そこに待っていたのは………。
「我が名は剣士ハルカ・ハジメ!勇者智波、貴様に決闘を………」
「ふははははは、僕こそ真の勇者カレル!どちらが正当な………」
『邪魔だぁぁぁぁ!!!』
 俺とアヤカと琴音の全力魔術が訳の分からない変人どもをぶっ飛ばした。
 ったくこの忙しいのに往来の真ん中で高笑い上げやがってうっとおしい!
 さて、ここからどうするか?
 さすがの俺も可愛い細腕して戦斧振り回すような女の子なんてふざけた存在に真っ向か
ら勝負を掛けるような気にはなれない。
 とっとと逃げ出したいところだが、荷物は宿屋だ。
 そして宿屋は先ほどの酒場の二階にあるというわけで………。
 帰るに帰れねえ。
「一体なんだ、あの子は!?」
「賞金稼ぎよ」
 アヤカは冷静に言った。
「あたし達の首には賞金120万アクアが掛けられてるわ。いろんな奴が来るわけよ」
「……そうだった……」
 昨晩の酒場のケンカも実は酔っぱらった冒険者が俺達に賞金をいただくとぬかして襲い
かかってきたことから始まったんだよな。
「見つけましたよ!さあ、勇者様黙ってお縄を!」
 げげっ、来やがった。
 相変わらずクソ重そうな両手斧をぶんぶん振り回している。
 あんなモノで攻撃されたら絶対に死ぬぞ。
「生け捕りに限るんじゃなかったのか……?」
「世の中には常識が通じない連中もいるのよ」
 アヤカが諦めたように言う。
 うーん、ってことはあの娘斧でぶったぎられても生きてるんだろうか。
 まぁ実行するのは不可能だけどな。
「智波さん、どうしましょう?」琴音が俺に意見を窺う。
 まぁこの場合一つっきゃないわなぁ。
「確か俺達全員捕まえなきゃ賞金にならなかったはずだ。三手に別れて逃げるぞ!」
 アヤカもこくっと同意する。
「そうね、夕方に宿屋で落ち合いましょう」
 ただ一人不安そうな顔をしたのは琴音だ。
「ええええっ、私一人で逃げるんですかっ!?」
 俺は琴音の紫色のフードをむしり取った。
「大丈夫だ、俺達の格好は目立つから逆に変装すれば見つけられにくくなる!」
 ん?
 ………言ってから気付いたんだが、俺達本気ですっげー目立つ服装してるよな。
 俺はブレザー、アヤカは純白の巫女服、琴音は紫色のローブときたもんだ。
 これに純和風の刀があったりして………。
 やっぱしヘンだぞ、ファンタジー世界。
 これだから劣等………しつこいな。省略だ。
 まぁともかく指針は決まった!
 俺は十字路で右に曲がった。
「んじゃ夕方にな!絶対に掴まるなよ!」
「気を付けてね!」
「ううっ、心細い……」
 まったく、無事で居ろよ?


 へっ、逃げ切れたようだな。
 俺は壁にもたれかかりふっと息を吐いた。
 今の俺の服は通りすがりのおうちから拝借したシーツだ……制服の上からこれを被せて
いる。
 まったく、しつこい奴だったぜ………。
 手の甲で汗を拭った俺の首筋に冷たいものが押しつけられた。
 びくっと俺は立ちすくむ。
 そして冷たい斬撃が振り下ろされ……と思ったが、そんなことはなかった。
 俺の前に現れたのは水が滴るリンゴだ。
 それを今度は俺の頬に当てながら、彼女は俺の前に現れた。
「智波さん、井戸水でよく冷えてて美味しいですよ」
「こ…琴音か………」
 あー、びっくりしたぜ。
 一瞬死を覚悟したもんな。
 俺はまだどきどきする胸でリンゴを受けとるとしゃりっとかぶりついた。
 かみ砕く度に冷たい果汁が口内を満たして行く。
 うん、確かに旨いな。
 とりあえず最後まで食べきった俺の前で琴音はにっこり笑った。
「智波さん、この服じゃやっぱり目立つんで洋服屋さんに行きませんか?」
 断ろうとして、俺は自分の格好を見下ろした。
 ……やっぱりフリル付きのシーツはやばいよなぁ。
「しょーがねーな、付き合ってやる」
 そう言うと、琴音は嬉しそうに笑って俺と自分の腕を絡めてきた。
「じゃあ行きましょうか!」
 俺の腕に頭を預け、琴音は言った。
 まぁなんというか…………………………。
 これが世間一般に言う「デート」ってもんに他ならないって気付いたのは琴音の着せ替
えごっこに付き合わされ15着くらい服を替えた頃だった。

 店を出た俺達はまさに単なる町人に見えただろう。
 どこにでもいる町人カップルだ。
 だがそんなごく普通の二人の前に頭からすっぽりと黒フードを被った怪しすぎる奴が立
ちはだかっていた。
 壁に手を付けているが……はたして力がこもりすぎて煉瓦が粉状になっていることに気
付いているんだろうか?
 そしてその壁を握り潰しながら暑い最中黒ローブを頭から被った男は笑っていた。
 この上なく愉快そうに。
「………見つけたぞ。勇者智波!」
「お、お前………誰だっけ?」
 轟音を立てて残った煉瓦が崩れ去る。
「だ・れ・だ・っ・け・だ・と・ぉぉぉーーー!?」
 目を血走らせて男は絶叫した。
「てめえ人の女横取りしといて良くそんな口が利けるなぁぁぁっ!?」
 ばさばさと突風が吹き、男の顔が露になる。
「げげげっ、OLH!?」
「そうだっ!てめえに告白を託したのに無視された上に駆け落ちされた魔道士だ!」
 ううっ、こいつ俺を追って来てやがったのか! 
 なんて暇な奴!
「お……OLHさん?」琴音が唖然とした声を上げる。
「何でこんな所に?」
 OLHは赤いロッドを煌めかせながら叫んだ。
「あなたを追ってきたんです!」
「は?」
 きょとんとしている。
 たりめーだわな、自分に片思いしてるって事すら知らないんだから。
 だが頭に血が上ったOLHには関係ないらしい。
「琴音さん、俺は……俺は、あなたの心が欲しいんです!」
 おーおー。一気に告白しちまった。その勇気が初めからあればねー。
 だが琴音は俯いてしまった。
 そして俺の腕にしがみつく。
「済みません、私にはもう心に決めてしまった人が居るんです。……それに」
 俺は迷惑だがな。
 そう思っていた俺を後目に、琴音は言った。
「私、しつこい人って嫌いですし」
 ………えぐいぞ、その断り方。
 OLHは予想通り真っ白になると………………………。
 突然虚ろな笑いを浮かべ初めた。
「あっはっはっはっは、……完璧に振られたってわけかい。わはははははは…………」
 こういう笑い方をする奴は大抵俺の敵になる。
 そして今回の場合もそれは例外ではなかった。
「勇者ぁぁぁ………てめえ、ぶっ殺す!てめえのせいで振られちまったじゃねーかっ!」
「あああっ、結局こうなるっすかぁぁぁぁ!?」
 OLHはロッドの先端を地に付けぶつぶつと呟いた。
 もちろん俺にはそれが何か分かっている。
 魔法を使う際の「詠唱」だ。
「いざ来たれ闇の霧!」
 途端にOLHの頭上にばひゅん!と音を立てて魔法の門が開き、中から名前通りに黒い
霧があふれ出てきた。
 いっちゃあなんだが滅茶苦茶身体に悪そうだ。
 だが俺はこれが単なるめくらましにしか過ぎないって事を……知っていたのだが琴音に
押し倒されてしまった。
「な、何しやがる!?」
「智波さん、あの人は暗黒魔道士OLH!『闇の王』の異名をとる魔道士教会屈指の実力
を持つ魔道士ですよ!」
 弱小SS使いのくせに何が闇の王だ!
 俺は憤然として立ち上がり、唖然とした。
 俺達の頭の上を通り過ぎていったダークミストは背後にあったでっかい店を食いつぶし
ていた。中にいる人間ごと。
「卑怯者め……琴音さんを人質に取るとは!」
 とってねえけどそれはともかくなんなんだよ今のはっ!?
 思いっきり実力変わってるじゃねえか!
 俺は琴音の手を取るとだだっと走り出した。
「あんな奴に関わってられるか!俺は逃げるぞ!」
「はい、お供します!」
 そんな俺達の後ろから気安く触るなとか待てとか罵声が飛んでくる。
 冗談、誰がまともに戦うかよ!
 俺は琴音の手を取って町中を逃げまくった。
 奴の居場所はすぐに分かる。
 なんせ闇の霧を後先考えずに召喚してるからな。
 奴とは反対の方向に逃げればいいわけだ。
 さて、破壊音もそろそろ静まった頃。
 俺は琴音から手を離して息を吐いた。
「ふう、逃げ切れたか……」
「はい」
 琴音は自分の手首を撫でて、ほうっと息を吐いた。
 まぁそこは俺が握ってた所なんだが。
 ………けっ、ざーとらしいぜ。そんなもんで俺の心を握ろうなんざ100年早いな!

 本当にうっとりしてるという可能性は微塵も考えないらしい。嫌な奴だよな(BY作者)

 また空耳がしやがる。この世界に来てからいつもそうだ。
 なんだってんだ?
 琴音はそっと俺を上目遣いに見上げると、ぽっと頬を染めた。
 ちっ、作者めティーナ×笛音の18禁SS書いた余韻でちょっとアレな感じだ。
 あんなちびどものどこが良いんだロリコンどもが。

 殺すぞ(BY風見&OLH)

 ああ、もう無視だ無視。
 俺は何も聞こえねえ。
「智波さん」
「あ?」
 俺は琴音の方を振り向いた。
「やっぱり優しいんですね」
「何が?」
「私の手を取ってくれたじゃないですか。見捨てても良かったのに」
 ……………………………………………………………………………………。
「普通は握っていくと思うが。はぐれたら困るしな」
「でも今までそんなことしてくれた人居ませんよ」
 それって……。
「今までロクな奴と付き合ってこなかったんだな………」
 しみじみ思うぜ。
 男運ない奴だなぁ。まぁ俺やひなたんの女運のなさには負けるがな。
「まぁそれはおれとして………智波さん」
「何だ?」
「好きです」
 そう言うと琴音は眼を閉じてつつっとにじり寄ってきた。
 あー、それって俗に言う………。
 『キスして』コールって奴だな。わっはっは。
 笑ってる場合じゃねえな。
 えーと、どうしよう。
「あー、なんつーかこうもっと自分を大事に………」
 そう言いながら俺はじりじりと下がっていった。我ながら情けねぇな。
 琴音は眼を閉じたまま俺を追う。
 まずいな。まぁキスぐらいなら良いか………?
 と浮気心を起こし掛けた途端…………。
「覚悟っ!」
 俺の背後から凶刃が振り下ろされた。
 すんでに身をかわした俺は後方に向かって魔術をぷっぱなす。
「我は呼ぶ異界の炎!」
 背中に焼け付くような熱気を感じながら、俺は琴音を庇いつつ振り返る。
 驚くべき事に敵は俺の魔術を喰らいつつも平然と炎の中に立っていた。
 抜き身の刀を両手に構えた姿は一種強烈な威圧感を与えてくる。
「勇者智波だな?」
「あ、ああ……」
 俺はごくっと唾を呑みながら敵を睨み付けた。
「勇者の称号………私が貰い受ける」
「何?」
 俺は眼を細めて敵を見つめ………はあっと息を吐いた。
「なーんだ、ゆーさくか………」
「初対面の相手にゆーさく言われる筋合いはないわっっ!!!」
 熱気のせいで眼がよく見えなかったが、何のことはない。
 ゆーさく……もとい、悠朔だ。
「刀なんかでいきなり斬りかかりやがって……名乗りあげるのが規則なんじゃないのか?」
「規則?ああ、それは決闘のだろう。これは辻斬りなのだよ」
「辻斬りだぁ?死んじまったら賞金貰えなくなっちまうぞ」
 半眼で言うと、ゆーさくはきょとんとした顔で俺を見た。
「賞金………?」
 そう呟いていたが、やがてくっくっと肩を振るわせ始めた。
 こいつ、綾香に嫌われるあまりついにキちまったか。
「なむなむ……」
「何念仏唱えてやがる!」
 むぅ、この世界半分一神教のくせに仏教がありやがるのか?
 なかなか奥が深い。
「大方アヤカに嫌われるあまり…とか思ってんだろうが違うぞ!私は貴様の愚かしさのあ
まり失笑を禁じ得なかったのだ!」
「はぁ?」
 俺がざーとらしく何を言ってるのかわかんねぇ、という顔をして見せたらゆーさくは得
意そうに胸を張った。
「この剣士ハルカ・ハジメは魔王軍の賞金ごときに動かされるちっぽけな男ではないわっ!
私は貴様を殺し勇者の称号を奪って、アヤカを手に入れるのだよ!」
 馬鹿だ。
 俺は断定した。
 普通べらべら自分の考え他人に話すか?
 まぁ情報は手には入った。そうか、俺に賞金かけやがったのは魔王か。
 ……って、魔王?なんでそんなもんに狙われてんだ、俺?
「なぁなんで俺が魔王に狙われるんだろ?」
「魔王は世界一の暇人ですから、強い人に興味があるんですよきっと」
 ぼそぼそと琴音が俺に囁きかける。
 そういうもんかなぁ。
 まぁ生け捕りっつってたし。
「そんなことより勇者智波!ここが貴様の墓場になる!」
「けっ、やってみやがれへっぽこゆーさく!」
「ぬかしたなっ!?」
 ぞわっ……とゆーさく…もとい、ハルカの剣が剣気を立てた。
 強烈な殺気がゆ……ハルカから迫ってくる。
 まずい。こいつの破壊力、さっき背後から斬りつけられたときに感じたとおりだったか!?
「必殺!真・魔皇剣!!」
 どっかできいたような名前の技が両手に構えた刀からクロスして解き放たれる……。
「我は防ぐ瑠璃の盾っっっ!」
 気休めにしかならねえかっ!?
 そのとき横から琴音が走り出て、ばっと懐から呪符らしきものを取り出した。
「智波さん、ここは私に任せて逃げて下さい!」
「しかし女に任せて逃げるというのは……………」
「でもその……智波さんはあんまり強くは……………」
 ぐっ。それって……俺が琴音より弱いって事か?
 琴音はすっと息を吐くと、呪符を地面に叩きつけた。
「プロージット!(意味不明)」
 やっぱりどっかで見たような光景と共に、呪符から光が迸る。
 そして悠の攻撃は俺達を素通りして背後へ突き抜けていった。
「え?」俺はきょとんとして自分の身体をはたく。
「物質の透過力だけを強めたんです!さあ、はやく!」
 仕方ない、ここは琴音に任せるか!?
 振り返った俺が見たのはばっさりと十字に切り裂かれた街の時計台だった。
 ………あそこまで50Mどころか500Mはあるんですけど。
 逃げよう。人間の太刀打ちできるレベルじゃない。
 俺はそう決めて琴音を残して逃げた。
 なんだか自分が情けなくて、走りながら涙が出てきた。
 ある程度まで逃げると、俺はがくりと膝を突いた。
 悔しかったし、情けなかった。
 勇者と呼ばれても、女の子一人救うことは出来ないらしい。
 なんてぇ情けねえ勇者だ………。
「だから、とっととママに呑ませてくれれば良かったのに」
 誰かがそう呟いた。
 また、空耳か………。
「ちょっとお兄ちゃん、こっち向いてよ!」
 ああ、しつこい空耳だ。
「えい」
 ごべきっ!
「何しやがるんだこのクソガキがっっっ!!!!!」
 俺はげんこつ大の石を持った紫フード小娘に怒鳴った。
 畜生、誰かと思えば作者に18禁書かれた笛音じゃねえか。
「お前、何しに来たんだ?」
 俺が聞くと、笛音はにっこりと笑ってタリスマンをちらちらと見せびらかした。
 確か、ヨークのタリスマンとか言ったな。
 これがあれば魔力は数倍……奴等にも対抗できるな。
「よこせ」
 俺が手を伸ばすと、笛音はぺんと手を叩いた。
「ママに反惚れ薬呑ませてくれないとあげないもん」
 ちっ……いや待てよ。今ならだまし取れるんじゃねえか?
 なんせ相手はちびっこいガキだしな。
「そのママを助けるのにそれが必要なんだよ!それがないと俺は琴音を助けられねぇ」
 笛音はこくっと首を傾げると、タリスマンを見つめた。
「これを渡さないとママが死んじゃうの?」
「ああ。だからよこせ!」
 ふっふっふ、琴音が死んじまったら元も子もねえもんな。
 さあどうする?
「………あとでママにお薬のませてくれる?」
「おお、約束しよう!」
「指切りしてくれる?」
「ああいいぞ」
 ふん、ちょろいぜ。
 俺は小指を笛音と絡めた。
「ゆーびきーりげーんまんうっそついたら死神に首とーらすっゆっびきったっ」
 なんか凶悪な部分があったような気がするが、まぁいい。
「はい、じゃあタリスマンとお薬。絶対だよ!」
 俺はタリスマン(とついでに薬)を受け取ると、早速首に付けた。
 途端にぐっと身体に力がみなぎり、脳が冴え渡ってくる。
 素晴らしいぞ、こいつぁ。今なら空間転移魔術だって使えそうだ。
 ふふん、やっぱちびは馬鹿だぜ。こんなものをやすやすと……。
 そう思った瞬間、びりびりと割れるような衝撃が頭の芯から響いてきた。
「あじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「あ、やっぱり嘘だったんだ」
 笛音は冷たい瞳で俺を見ていた。
 こ、こいつまさか謀ったのか!?
「お前何を………」
「今交わしたのは『契約』の呪文。お兄ちゃんが口約束しないようにしたの。私との約束
を破ろうなんて考えるだけで地獄の苦しみが襲いかかるわ」
 なんてガキだ!俺なんかよりよっぽどあくどいんでやんの!
 笛音はにっこりと無邪気な笑みを浮かべると俺に微笑み掛けた。
「無理に抵抗すると発狂するよ。……約束守ってくれるよね?」
「ああ……」
 俺が呟いた瞬間頭痛は収まった。
 くそっ、ちっさいのに何て魔力だ。
 ここじゃ俺の方が弱小になっちまうってことか。
 ともあれ、これで連中をはっ倒すことが出来る。
 俺はクソガキの方を見ないようにして立ち上がると、琴音の方へと駆けていった。
 後ろから笛音の明るい声援が聞こえてくる。
 畜生、あとで復讐して………
 あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!

「智波さん、何で戻ってきたんです!?」
「ふん、逃げても無駄だと悟ったか!」
 二人の声を無視して俺は叫んだ。
「我が腕に入れよ子ら!」
 その瞬間、街の煉瓦を突き破って出現した半径600メートルの大顎が時計台もクソも
みんな飲み込んで闇へと帰した。
 予想を遥かに超えた超威力に、俺はひきっとひきつる。
 これって、街の殆どが消滅しちまったんだが………。
 目の前にはぽっかりと大穴が開いているばかりだ。
「智波さん、すごいです!ここまでの大魔術を使いこなすなんて!実力を隠していらした
んですね!?」
「いや、そういうわけじゃ……ないんだが…………」
「ち〜な〜みぃ〜〜!!!」
 その恨みがましい声に俺はびくっと竦み上がった。
 アヤカが大股でずかずかと迫ってきている。
「あんたね〜、危うく空間転移したから良いようなものの何てことしてくれんのよ!危う
く異界に飛ばされるとこだったじゃないの!街もこんなにしちゃって!」
「いいじゃん、助かったんだから」
 俺は猛烈な眠気に晒されていた。
「悪い、もうだめ………」
 俺はそう呟くと、ばったりと倒れた。
 魔力……使いすぎちまったなぁ。


「ぷはっ!」
 OLHは影の中から飛びだした。
 空間を浮かび上がり、なんとか虚無に飲み込まれずに済んだらしい。
「あー、お兄ちゃんだ!」
 笛音はOLHの姿を認めだきっとOLHに抱きつく。
「やれやれひどい目にあったよ」
 OLHは笛音の頭を撫でてやりながら呟いた。
「勇者め、なんでいきなりあんなに強くなったんだ?誰かがタリスマンを与えたのか…?」
「笛音、わかんない」
「いや笛音は気にしなくて良いんだが………どうなってるんだろうな?」
 OLHは胸の中の笛音がぺろっと舌を出している事に気付いていない。
 そのすぐ横では塵から復元した沙耶香がぶるぶると頭を振っていた。


「………どっからきたの、あなた達」
 魔王は冷たい目で二人の侵入者を見つめた。
 その膝の上にはムラサキがのっかっている。
「え?えーと、ここは………」
「ハルカ、ここって魔王城じゃ…………」
 ハルカとカレルはつつっっと汗を垂らした。
「あなたたち誰?」
 魔王の言葉にだくだく汗を流しながらハルカはこりこりと頭をかきかき空を見つめた。
「えーと、剣士ハルカ・ハジメっつーもんなんですけどぉ……」
「私は恋愛勇者カレルだ」
 馬鹿。
「ふぅん………噂の勇者って言うのはあなたのことなの?」
 その眼に危険なものを感じ、ぶるぶるとカレルは首を振った。
 と、部屋に全力で一人の男が入ってくる。
「魔王、侵入者はどこに………あっ!?」
「あっ」
 三人の声が唱和した。
『ハイドラント!?』
「ハルカにカレル!?」
 立ちすくむ三人に、魔王が声を掛ける。
「何?知り合いなの、あなたたち?」
「ええっと………なんというか………まぁ宿敵だな」
 ハイドラントはあらぬ方を見て呟いた。
 ムラサキが相変わらず無邪気に鎌を構えて笑った。
「ねえねえ、人間の最近血を見てないの。その二人殺しちゃっていい?」
「あたしも最近人間の命食べてないからなぁ………」
 二人のほのぼのとした表情から出る意見に、人間の二人はびくっと震え上がった。
 ハイドラントは二人の耳元に顔を近づけると、ぼそぼそと囁く。
「死にたくなかったら俺の言うとおりにした方がいいぞ。あの二人、本気だ」
「ううっ……仕方ない、アヤカのためだ」
「勇者ともあろう者が魔王に屈服するとはっ………」
 ハイドはくるっと魔王の方を振り向くと、こほんと咳払いした。
「日陰、こいつらは俺の部下にする。いいな?」
 だが女性陣二人は不満そうな顔をした。
「えー?ムラサキその剣士の血しぶき見てみたかったのにー!」
「あたしも勇者の生気啜ってみたいなー」
 ハイドは結局二人を納得させるために魔界に転移された街の人間を残さず差しだした。
 こうして剣士、勇者、大魔族による対勇者包囲網が完成された……。


 乗り合い馬車の中。
「良く寝ますねぇ、智波さん」
「ホントに……気楽な奴」
 琴音とアヤカはぐっすりと眠り込んだ智波を見て呆れたように呟いた。
 そんな二人を見てくすくすと笑う女性が一名。
 黒髪が光るエキゾチックな東洋風の少女だった。
「寝顔は無邪気なんですねぇ、勇者様は」
 その言葉に反応してアヤカと琴音が振り返る。
 少女はまたくすくすと笑うと、リュートを手に取った。
「ああ、ご心配なさらずとも私はしがない吟遊詩人。勇者様を襲うなんていたしませんよ」
「あなたは……?」
 少女はリュートをかき鳴らすと、にっこりと笑った。
「私は貴姫。街から街へ言霊を伝える娘です」


 新キャラ登場、包囲網完成!
 めちゃくちゃなまでの力を手に入れた勇者智波!
 だが「使える」と「制御できる」は別問題だ!
 いちいち眠ってちゃ勝てるものも勝てないぞ!
 すすめ智波、怪しい新キャラを連れて!

智波 勇者  武器:ヨークのタリスマン 防具:町人の服
HP500
MP0(昏睡中)
状態:呪われている

アヤカ 武闘巫女  武器:マジックナックル 防具:女神のローブ
HP500
MP600
WP200

琴音 魔道士  武器:名刀「一葉」 防具:町人の服
HP300
MP500

ハイドラント 魔王のマスター  武器:魔剣デスブリンガー 防具:黄昏のローブ
HP?????
MP?????
WP?????

 鬼だな(汗)