その日の学園は常にはあるまじき感情に満ちていた。 怒り、悲しみ、嘆き、諦観、絶望、恐怖、一言でそれを言い表すのは難しい。 だがその全ての根底に横たわるものはただ一つだった。 恐慌。 未知なる何者かの生み出す破滅への恐れ。 何も見ない振りをする者。 登校を拒否する者。 自ら敵を捜そうとする者。 それら全てを等しく呑み込んで……。 今、『眠り』が『現実』を侵食していく。 「風紀委員会特種戦闘部隊、全滅!!」 「救援隊急げ!!一人残さず回収させろ!!」 「オカルト研からの連絡はまだか!?」 「生徒会からの通信途絶えました!!」 「ジャッジからの返答は!?」 「ありません!……現在捜索隊が……」 喧噪の絶えない対策本部の前を通り過ぎてbeakerは微かにため息を吐いた。 初めの発症者の出現から既に数日が経つ。 あの時は誰もこんな大きな事件になるなどとは想像していなかった。 現在学園内の約三分の一が機能を停止している。 もはやこの学園の中には何処にも安全地帯などはあり得ない。 『眠りをもたらす者』………そう呼ばれる謎の敵は何時何処にでも出没する。 そしてその場にいる生徒達に永遠の夢を与えていずこへかまた去って行く。 眠りに就いた生徒達はあらゆる手段を講じても二度と目覚めることはなかった。 西洋医学、東洋医学、心霊治療、電波、精神感応……全ての治療は否定された。 被害者達は目覚めることのない眠りの中、栄養投与を受けながらゆっくりと、だが確実 に生命活動を停止していった。何かに吸い取られるかのように生命力がその身体から失わ れ、生きながらにして枯死して行く。未だに死亡した者は居ないものの、このまま放置し ておけば彼等の緩慢な死は避けられないと思われた。 学園は恐怖していた。 謎の敵の存在を前に、未知なる怪物への怖れと眠りへの恐れが生徒達を包み込んでいた。 beakerは第二購買部奧のドアに入り、椅子に座って小さく息を吐いた。 第二購買部部長室……ここはbeakerの城であり、静寂に満ちた自らの居場所である。 しかしいつもは落ち着くはずの部屋の空気も、今日は更に彼を苛立たせるだけだった。 焦燥感。 不思議なことにそう呼ばれる感情が彼の内部に渦巻いていた。 おかしい。何故自分がそんなものを感じる必要がある? そうは思ってみても、この感情は抑えようもなかった。 学園内の多数の生徒達は被害にあったが、購買部のメンバーからは誰一人被害者は出て いない。自分が動かねばならない理由はない。 そもそも自分は軽々しく動いてはならない。 何故なら……そう、何故なら自分は第二購買部の部長だから。 自分一人の運命を背負うのではなく、多くの部員達の人生も引き受けているから。 故にbeakerは私的な感情では動くわけには行かない。それが自らに課せられた責任とい うものなのだから。 だが……何だというのだ、このやり場のない感情の波は。 beakerは強く頭を振ると、手を額に当てて呟いた。 「何故だ…何故僕はこんなに苛立っている?僕が動かねばならない理由など……ないのに」 「いや、お前は動かねばならん」 静かで、なお力強く厳めしい声がその呟きを否定した。 beakerは反射的に椅子を立つと、鋭い視線を部屋の隅の人影に向ける。 老人は微かな笑いを浮かべながらも、その視線を動じることもなく受け止めていた。 いや、この場合beakerの視線を呑み込んでいたと言った方が正しかったかも知れない。 「おじいさん……いたのですか」 「ああ。最初からここで待たせて貰っていた」 老人はそう呟き返すとゆっくりと立ち上がった。 直立するとその歳を感じさせない壮健なシルエットがますますはっきりする。 beakerはわずかに困惑した表情で彼をみつめ、口を開いた。 「どうして僕が動かねばならないのですか?」 「……そうしなければならない理由がある」 初代beakerと呼ばれる老人は孫を静かにみつめ返しながらそう呟いた。 「それは、第二購買部部員全員の安全よりも重い理由なのでしょうね?」 挑戦的に言い放たれたbeakerの台詞に初代は深く頷いた。 「部長であるからこそお前は動かねばならない……それが責任というものだ」 「責任……まさか!?」 beakerは初代の言い回しの意図するところに気付き、声を挙げた。 「そうだ。今回の事件……元凶は我等第二購買部にあるのだ」 「どういうことです!?」 思わず聞き返しながらも、beakerには大体の予想が付いていた。 第二購買部が誇る鉄壁の危険物安置所、第二購買部倉庫。 そこに眠る特A級ランクのアイテムならばこのような大きな事態を引き起こすことも可 能だろう。 彼の推測を裏付けるように初代は頷くと、語りだした。 「お前は錬金術を知っているか?」 「はい。前中世の西欧・イスラム社会においてオカルティズムの影響を受けて発生した、 後に近代自然科学へとつながる学問のことだったと……」 beakerの答えに初代はまあいいだろう、といった表情で頷いた。 「そうだ。オカルティズムと西洋科学……異なる二つの学問の中間に位置し、多数のアイ テムを生み出した学問だ。……では、その目的が黄金の精製でなかったことももちろん知 っているな?」 「ええ。中には本当に黄金を作ろうとした者も居たそうですが、彼等の真の目的は共通し て無限にエネルギーを供給する装置……今で言う永久機関、『賢者の石』の発明だったと 記憶しています」 beakerの答えに初代は微かに顔を曇らせた。 「そう……大体はそれでいい。だが、全員がそうだったわけではないのだ。ホムンクルス は埋もれた黄金の在処を指し示すための人造人間のことだったと言われることもある…… 無論そんなものもあっただろう。しかし全てが全てそうであったわけではなく、ホムンク ルスの誕生と育成を至上の目的とした者もいた」 「はあ……」 初代の言葉の真意を察しかねて、beakerは困惑した口調で呟いた。 そんな孫の顔を眺めながら初代は意地の悪い笑みを浮かべた。 「例えばそれは神の国へのきざはしだった。自らの血をもって育てたホムンクルスを一年 間飼育することに成功すれば、ホムンクルスが錬金術士を神の国へと導いてくれる……… そんな考えを抱いた者も居たのだよ」 「ナンセンスですね。キリスト教と錬金術は基本的に関係がないはずです。しかもホムン クルスの作成は万物は主によって創造されたという教義にすら反するじゃないですか」 beakerの指摘に初代は世にも嬉しそうに笑った。 「いや、違うな!彼等の野望は生命を作り出すことにより自身も神となることだったのだ! 人間を越える理想の生命の誕生!!それによって彼等は神を越えようとしたのだ!!」 「理想の……生命?」 「そう。そして、彼等は己の目指す理想の生命をこう呼んだ……『理想球体』」 初代は一度言葉を切るとにやりと笑って続けた。 「もしくはこう呼ぶ。『マテリア』………と」 「マテリア?」 「聞き覚えはないだろうな。事実、誰もそれを作り出すことは出来なかった。不老不死、 強力な魔力を持ち絶対なる美貌を持つ人間……そんなものが存在しうるわけがない」 「そりゃそうでしょう。そんなのが生まれてたら人間なんか滅ぼされてますよ」 beakerが相槌を打つと、初代は数回指を振って孫を見つめた。 「違うな。マテリアはお前が考えている理由で存在しないのではない……だがそれを私の 口から説明するのは難しい。ともかくマテリアはこの世に存在しない。ただ一つの例外を 除いては、だ」 「それが……倉庫から消えた『敵』なんですね」 先を読んだbeakerの言葉に初代は満足げな笑みを浮かべた。 「そうだ。第二購買部倉庫……これが封じるのは敵の攻撃だけではない、内部からの脱出 を主に防ぐために強力な防壁が存在する。だが目覚めたマテリアにとってそんな魔力防壁 など取るに足りないものだ」 「僕の使命は……それを捕獲することなんですね」 「違うな」 初代は孫の言葉を言下に否定すると、酷薄にすら見える笑いを浮かべた。 「『捕獲』ではない。お前自らの手を持って『破壊』するのだ。それが我等が第二購買部 の汚名をそそぐただ一つの手段だと知れ」 「はい」 beakerは何も問わずに頷いた。 その反応にふっと笑うと、初代は孫の肩を叩いた。 「まず『敵』を知ることだ。その説明が出来る人間はこの学園に二名存在する……」 校内は不気味な静寂に包まれていた。 全ての生命が絶えてしまったような、そんな不快な予感を禁じ得ない空気。 beakerは次第に自分の中で苛立ちが大きくなるのを感じながら、祖父に言われた部屋の 前に立った。 ネームプレートには『社会科準備室』と記されている。 beakerはドアをノックすると、一礼してノブを取った。 「失礼します」 「おお……遅かったな」 男はそう言ってシニカルな笑みを浮かべた。 その笑いはどう見たところで自分に向けられているようだったが。 beakerは男の右腕から流れる血を見て目を丸くした。 「先生!!どうしたんですか、その腕!?」 「これか……?何、自分でやったんだ。気にするな」 緒方英二は白衣を自らの血に染めながらいつもどおりの笑いを浮かべた。 もちろん普段より数段生気がなかったが。 「さて……聞きたいことがあったはずだろ?」 「あ、はい。祖父が先生に『敵』の正体を聞け、と」 「そうだな……まず奴の正体は『マテリア』と呼ばれるホムンクルスだってことは知って るな?」 beakerが頷くと、緒方はふうと苦しそうにため息を吐いて語りだした。 「奴の能力は人間に眠りを与えること、ではない。人間のESを解決してしまうことによ って人間を植物状態にし、その生気を奪い取る……それが奴の力だ」 「ES?」 聞き慣れない響きにbeakerは首を傾げた。 緒方は軽く頷いて、鉛筆を握り白紙の上に数個の丸を書いた。 「フロイト的精神分析理論によると無意識と呼ばれる抑圧された意識が人間の意識的活動 を定義するのだという。その中核となるものがES、リビドーと呼ばれる性衝動の根源だ」 beakerの唖然とした顔を見て緒方は頭を軽く掻くと、丸の中にがりがりと文字記号を書 きこんでいった。 「分かりやすく言うと、フロイトのおっさんが言うには人間はみな欲望を叶えるために生 きているのだと。その欲望の大元となる性衝動を抱えているのがESって呼ばれる無意識 の核、つまり人間の本能だ」 「なんか人間って性欲しかないみたいだな……」 beakerが呟くと緒方は苦笑して頭を振った。 「人間はまず生物だからな。種の保存のために性欲は切り離せない」 そこまで言ってから緒方は不意に真面目な表情になった。 「そう…人間が生きるためには欲望が必要なんだよ。人間の三大欲求である食欲、睡眠欲 なども生存のために必要不可欠だ。人間は欲望があるからこそ生きていられるのだと言っ ても過言ではないだろう?」 「まあ、そりゃそうですね」 beakerが頷くと、緒方はぎりっと左手を傷口に突き立てた。 指の間を伝って更なる血液が体外に流れ出す。 驚くbeakerを手で制すると、緒方は苦しそうな表情で言葉を続けた。 「苦痛を与えていないと……保ちそうになくてな。それで……君は人間から欲望を奪い去 るとどうなると思う?」 「え?……そりゃあやっぱり生きる意志をなくして……あっ」 「そういうことだ。精神の核であるESを満たされてしまった人間は自我どころか本能を までも消滅させられてしまう!!理想生命体であるマテリアは自らの欲望を持たない代わ りに他人の欲望を満たし植物状態にすることが出来るんだ!」 緒方の言葉にbeakerはぎょっとして立ちすくんだ。 驚くbeakerを無視して緒方は更に続ける。 「植物状態となった人間は生への欲望をも放棄し緩慢に死へと向かう。一方でマテリアは 人間の欲望を奪い取ることで更に強力に成長する……だがここで矛盾が生じることに気付 いたか?欲望なくしては生命とは言えない……ならば欲望をもたないマテリアは生命では 有り得ず、故にマテリアは存在し得ない。マテリアは正確には生命体とは言えず、常に受 動的ないわば『道具』としてのみ存在する」 緒方は傷口にさらに指を突き入れ、ぎりっと奥歯を噛みしめた。 「さらにホムンクルス達は制作途中で著しく製作者の精神の影響を受ける。その際にホム ンクルスは必ず製作者の欲望をも受け継いでしまい、マテリアの制作は事実上不可能だ。 それがマテリアの存在しない理由だ……」 「だけどマテリアは今存在して、学園内で暴れまくってるじゃないですか!?」 「そう!何らかの理由で誕生したマテリアを操っている奴が居る。それが……真の敵だ」 緒方はそれだけ言うと、ばたっと机に突っ伏した。 beakerが慌てて駆け寄ろうとしたとき、窓が弾け飛んだ。 「何いっっっっ!?」 叫ぶbeakerの腕を取って、緒方は最後の力を振り絞るように囁いた。 「いいか、敵はお前の願望を満たそうとするはずだ。だが絶対にそれに乗るな…マテリア に精神汚染されてESを消されるぞ………!」 「くそっ!!」 beakerは緒方を背後にして窓に向かって身構えた。 二階の窓にぼんやりとシルエットが浮かび上がる。 その手に輝く光弾を見たとき、beakerは絶叫を上げていた。 「させるかぁぁぁぁ!!!!」 光弾がこちらに放たれる直前、ドアが蹴破られ少女の声が響いた。 「耳を塞いで床に伏せてっ!!」 少女が手に持っているものの正体を見て、慌ててbeakerは緒方を下にして床に倒れ込ん だ。そのすぐ後に部屋を揺るがせる大轟音がbeakerの頭の上を通過する。 何かが破壊される凄まじい音が立て続けに響き、最後に自分たちの横から何か重たい物 を動かす音がしてそれが轟音を上げて飛んでいった。 「へーのきさんの真似っこ!!似非デスククラッシャーー!!!」 「がっ!?」 これまでと違った衝突音があがり、敵の気配が消え失せる。 撒き上がる埃の中でbeakerは激しく咳き込みながら涙目で体を起こした。 部屋の中は既に凄まじい惨状である。 足下には少女の持ち出してきたらしいバズーカ砲が転がり、緒方の座っていた机が部屋 の中から影も形もなくなっていた。 少女は緒方の顔を持ち上げてしきりに呼びかけていたが、返答がないのを見て悔しそう に呟いた。 「とうとう緒方さんまでが犠牲に……っ」 「……あなたは赤十字さん?」 beakerが声を掛けると、美加香は顔を上げてため息を吐いた。 「こうなったらもうあなたしか頼れる人はいないみたいですね……」 「何で君がこんなところに?それに緒方先生は……?」 美加香はバズーカ砲を拾い上げながら哀しそうな顔で呟いた。 「緒方さんはマテリアの攻撃を受けながらも必死に耐えてたんです。一人でも多く敵につ いて教えるまでは……って」 beakerの脳裏に自ら血を流して激痛に耐える緒方の様子が浮かび上がった。 そういうことだったのだ。緒方は精神力で睡眠に耐えていたのだ。 「もう……緒方さんも芹香様もティーさんも……魔法知識がある人が全員倒れてしまった 今、マテリアの正体を教えられるのは私だけになってしまいました。敵は必ず私を狙って くるはずです……」 「ちょっと待て!芹香さんもやられたのか!?」 beakerが驚いて声を挙げると、美加香は何を今更と言わんばかりに眼をしばたかせた。 「学園内の生徒達の大半は眠りに就きました。残った生徒達は既に隠れたり学校を脱出し たりしています。SS使い達は……」 美加香はぐっと拳を握ると悲痛な表情で呟いた。 「隠れていた者を除き全滅しました」 「こ、購買部は!第二購買部のみんなはどうなったんだ!?」 beakerは美加香の肩を掴むと必死の形相で激しく揺さぶった。 「え……?さあ、まだ多分大丈夫だとは思いますけど……」 面食らった表情で美加香が答えると、beakerはぎりっと奥歯を噛みしめて部屋を飛びだ した。 「あっ!駄目です、単独行動は危険です!!」 背後から美加香の声が追ってくるが、beakerは構わず走って行く。 湧き上がる黒い予感が急激な勢いで心を満たしていく。 beakerは千々に乱れる思考の中で部員達の安全を何度も祈った。 渡り廊下を駆け抜け、beakerは荒い息を吐きながら部室の前に立った。 中からは……話し声が聞こえてくる。 どうやら無事だったようだ。 ほっとしたbeakerは安堵の息を吐きながら部室のドアを開けた。 「び……beakerさんっ………」 沙留斗の手が最後の力でbeakerに伸ばされ……ぱたりと落ちた。 部員達が倒れる部屋の中央で好恵の首を持ち上げる真珠色の肌の少女がいた。 そいつはbeakerの方を向くとくっくっと笑いながら言い放った。 「お遅いお着きで」 「びー……かー………」 好恵は彼の方を向いて涙目で呟いた。 だが真珠色の肌の少女が指に力を入れたとき……糸が切れたように好恵は力を失ってだ らりと崩れ落ちた。 「貴様」 beakerは表情を全く微動だにさせず呟いた。 「殺してやる」 「あなたにそれが出来るのかな?」 真珠色の肌の少女……『マテリア』が問い返したとき、beakerはガバメントを抜き放ち 即座に全弾をマテリアに向けて繰り出していた。 それは一つ一つが強力な破壊力を持つ必殺の銃撃。 「くくっ!」 マテリアは喉の奥で笑うと、銃弾の方へ身体を向けた。 たちまち直径数センチの穴が十近くマテリアの身体に穿たれる。 だがマテリアはその状態でなお笑いを浮かべながらbeakerを嘲るように呟いた。 「効かないなぁ……私は不死にして不滅の理想の生命体よ?そんなオモチャで私を殺せる とでも思ったのかしら?」 「ちっ!怪物め…」 beakerはガバメントを握りしめて舌打ちした。 口では悪態を吐きながらも冷や汗が背中を迸る。 マテリアはにやにやと笑いながらbeakerに言った。 「400年前……この島国へやってきた私はあなたの祖父にひどく世話になったわ。力を 封じられ、暗い闇に閉じこめられる日々……それは理想の生命である私にとってどれだけ の屈辱だったか。その恨みここで晴らしてあげる。あなたには充足の眠りではなく無念の 死を与えてあげるわ!!」 そう言ってマテリアは手を銃の形に作るとbeakerに向けた。 銃弾を返すつもりだ。 敵の意図を悟ったbeakerは素早く地面に転がると机の背後に逃げ込んだ。 たちまち返された数発の弾丸が机を打ち砕いて木片をまき散らして行く。 「くそおっ!じじいのせいで殺されたくなんかないですねっ!!」 叫びながらbeakerはここでマテリアを相手取ることの難しさに気付いた。 初代がマテリアを封じたという事は、確かに奴にも弱点があるということだろう。 だがここでは敵の攻撃を避けるのに精一杯だし、何より周囲には意識を失った部員達が 転がっている。いわば奴は人質を大量に取っているというわけだ。ここで戦うわけには行 かない。 相手もそれを意識して戦っていたようで、数発撃ったところで机の後ろのbeakerに叫ん だ。 「大人しく出てきなさい……さもなくばあなたの仲間を殺すわよ!!」 「ふん……理想の生命とやらがずいぶんと姑息な真似をしてくれるじゃないですか」 「挑発には乗らないわ。3秒で出てきなさい、さもなくばこの女を殺すわ」 女というのは多分好恵のことだろう。 マテリアは殺すといったら確実に容赦なく殺す。 beakerには考える余地もなかった。 「くっ……」 屈辱の呻きを上げてbeakerは机の裏から這い出た。 マテリアはわずかに感心したような表情を浮かべてほうっと声をあげた。 「珍しいわね……てっきり見殺しにするとばかり思ってたわ」 「生憎と僕の背負った責任は打算で考える類のものじゃないんでね」 「その潔さに敬意を表して一撃で殺してあげるわ。心臓がいいかしら?脳がいいかしら?」 そう言いながら指でbeakerの身体に狙いをつけ始める。 飛びだしたもののbeakerの側には策など全くなかった。 ただ飛びだしてしまっただけだ。もちろん自分の決定に後悔などはしてないが。 マテリアはにやっと笑うとbeakerの左胸に指を突きつけた。 「決めた。心臓にするわ。眼を閉じちゃ駄目よ……そのときはこの場の全員を殺すから」 より恐怖が強い方を選んだようだ。 つくづく悪趣味な奴だと内心で苦笑いしながらbeakerは覚悟を決めた。 こんなところで死ぬのなどまっぴらごめんだが、残念ながら手が思いつかない。 beakerの背中を一筋の脂汗が伝っていった。 「だから一人で行動しないでって言ったのに……」 不意にそんな声が聞こえてきた。 「誰っ!?」 マテリアが声を挙げた途端、先ほど同様窓が破られて人影が乱入する。 「beakerさん、こいつには攻撃しても無駄!!操っている奴を倒さなくちゃね!!」 美加香はそう叫びながら一枚の銅鏡を背後からマテリアに突きつけた。 「照魔鏡っ!?そんなものをみすみす……」 マテリアが美加香に指を向ける。 だが次の瞬間にbeakerが体当たりを喰らわせて、マテリアは大きくよろけた。 「beakerさんナイス!!喰らえっ、化け物!!!」 「がああっ!!!」 みしっと銅鏡にひびが走り、鋭い閃光を周囲に飛び散らせて四散する。 マテリアは、正確にはその背後の影が絶叫を上げてうずくまった。 美加香は不意の閃光に目が眩んでいるbeakerの手を握ると勢いよく走り出した。 「今です!!逃げましょう!!」 「ちょっと待ってくれ、それじゃ解決に……」 「場所を変えるだけです!!どうせここまでやられた以上私達を追ってきますよ!!」 美加香はそれだけ言って全力で走っていく。 「くっ、待てっ……!」 背後から声が聞こえてくるが聞く必要はもちろんなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 続きが気になる方は後編も読んでくれると嬉しいですっ!! てなわけで後編に続くっ!!