窓の外には揺らぐ陽炎。空に沸き上がる入道雲。 みんみんと蝉の声。海に出れば潮騒。コンクリートにこぼれ落ちる汗。 口に運ぶアイスが美味しい。 悪名高いダーク十三使徒の地上前線基地では青い髪の少女が一心にラムネバーをぺろぺろ舐めていた。 ラムネバーなのだから囓ればいいのだが、何を思ってか少女は舌先だけで食べることに拘っているようだ。 そのせいで唾と暑さに負けて溶けた部分がだらだら手に落ちてくるのだがお構いなしである。 まあ幼いと言えば幼い仕草なのだが、それにしては目つきが妙に凶悪だった。 ついでに舌の動きが妙に下品である。淫靡とか妖艶とか言い換えることも出来るのだが、そういった類の 単語は深夜とかベッドサイドとか熟女とかそんなキーワードとセットで使われるモノであって、目さえ見な ければ可憐で通用する少女には全く似つかわしくない。 まあそんなわけで可憐で下品な少女という形容をしておこう。 この可憐で下品な少女はラムネバーをすっかり食べ終わってしまうと手に垂れ落ちた元アイス液体を指の 先までぺろぺろと相変わらず下品な舌使いで舐め取ると、その場で大きく伸びをした。 そして身体が最大限まで伸びたと同時に大声で一人ごちた。 「夏だーーーー!!」 あまりにも大きな声。 少女の傍で安らかな午睡を貪っていた少年は、びくんと痙攣して身体を起こした。 こちらの少年は大人しそうな男の子だ。充分美少年と呼んでいい容姿だが、目の奥の油断ならない光が若 干その魅力を削ぐ。そこがいいという人もいるだろうが。 この少年は彼にとって致命的な事に、可憐で下品な少女の部下である。 「うう、一体なんですか。僕は寝てたんですけど……」 「ベネディクト君、寝てる場合じゃないのよ! 君と私がこうしてる間にも『今週のYAMABA』が! 『今週のYAMABA』が疾風のように現れて嵐のように消えて行こうとしているのよ!!」 「相変わらずワケわかんねえよ高橋」 まあこの可憐で下品な美少女、高橋千夜の頭の中が壊れてるのは今に始まったことではない。 そんなことはベネディクトが彼女の部下というかお守りというか、要するに十三使徒最大の危険人物の監視 という最悪の厄介事を押しつけられる前から分かっていたことだ。 問題はこの壊れ少女が最悪にもダーク十三使徒随一の『天才科学者』であることだった。 軽いジャブで昼寝の爽快感を害されたベネディクトの目の前で、当の問題児は腕をワキワキ踊らせている。 何か宗教的な意味があるのかも知れないが一切謎だ。 「そうなのよ! 人生は全て不可解なのよ! ティガ? ティガなの? どうでもいいのよティガは!!」 「いやどうでもいいのはお前だ」 「それよ! どうでも良いことの中に最大の娯楽が埋まっているのだわ! 娯楽は文化! 文化が大革命!! 折しも季節は今まさに……夏ッッ!!」 そこで高橋はシャキーンとポーズを取ると、うねうねと踊りながら指を中空に突き立てた。 「夏と言えば……エロッッ!! 今日はエロに迫ってみたいにょろりーーーーん!!」 「一人で迫ってろよ」 「否ッ! エロは二人じゃないと迫れないのよ! どっかのインド人もチャクラの為にはエロと言った!? 時代は今まさにエロ!! エロゲーバブルが弾け多数のプログラマーやシナリオライターが路頭に迷う今! 更なるエロが追求されるべきなのよ!! もっと激しく! もっとエロく!! エロマンセェェェーーー!!」 「…………お前、何処の業界人だ」 ベネディクトが若干引き気味に腰を浮かせた瞬間、高橋の目がキュピィィーンと怪しく光った。 「ボクは竜騎士になるんだ!!」 そんなワケの分からないことを叫びつついきなり天井すれすれに飛び上がると、ベネディクトの股間に向か ってダイブを敢行する高橋。突如として襲いかかるカミカゼ特攻にベネディクトの顔が引きつる。 「いっただきまーーーすっっ!!」 「イヤァァァァァァァ!?」 滝のような涙を流すベネディクトの瞳孔一杯に獲物を狙う鷹の姿が映った。 最早これまでか、と脳裏に数千年に渡る走馬燈が浮かぶ。 その瞬間、これまで黙って帳簿と向き合っていたダーク十三使徒きっての女帝が動いた。 傍に置いてあった金属バットをひっつかむと、舞い降りる敵に照準を合わせてそれを一閃。 「五月蠅い!!」 「踊るバビローン!?」 篠塚弥生の渾身の振り抜きと共に、高橋は意味不明の叫びを残して窓の外に消えていった。 ================================================== Lメモ外伝「エロネタで行こう!」 ================================================== 「助かりましたありがとうございますありがとうございます!」 涙を流して裾にすがりつくベネディクトを押しのけながら、弥生はふうと金属バットを肩に載せた。 「全く……人が真面目に仕事している時くらい静かに出来ないものでしょうか」 「弥生様、経理部が今月分の食糧決算報告の承認は終わったかと訊いていますが」 入り口のドアを開いて顔を出す電芹に、弥生は血糊がべっとり付いたバットを見せて答えた。 「いえ、まだ終わっていません。どうにか赤字を減らしたいところなのですが」 「ああ、この前の新使徒募集以来、食料費が赤字続きですからね」 「全く導師も考え無しに手駒だけ増やそうとするのはやめて戴きたいのですけどね……」 新使徒のバイト料奉納によって賄われるはずの財源は、折りからの雇用不足により正常に機能していなかった。 自力で喰えない使徒には食糧を供給して急場を凌いでいるのだが、既に財政破綻を起こしかけている現状だ。 ……役立たずを多数背負い込んでいるからという噂もあるが。 「役立たずといえば……」 弥生は額に指を当て頭痛を抑えながら、忌々しげに馬鹿が消えていった窓の外を見やった。 「あの気狂いときたら、役に立つことなど一つもしない割に始終訳の分からないことをわめき散らして……」 「失敬だな!? それは失敬だよチミィ!?」 「きゃっ!?」 突然背筋を走る甘美な感覚に総毛だち、弥生は思わず可愛らしい叫びを上げて背中の物体を引き剥がす。 そこにはいつの間に帰ってきたのか、猫のポーズを取った高橋がニャフフフと笑いを上げてぶら下がっていた。 「ウーニャ」 「何処の常春の国の王子様ですか貴方は!?」 「失礼な! 誰が純情パインだ!!」 何の関係もない事を言いながら高橋はくるくるしたんと床に着地した。 どこからそんな打ち切り作品が出てきたのかは謎だが、弥生さんの発言もミステリアスだった。 そんな疑問は捨て置き、高橋はビシッとポーズを決めると弥生に向かって叫んだ。 「おのれ飯塚弥生! この私に向かって役立たずとはナイス根性!? 根性なのか!? どうよ!?」 「私に訊かないで下さい。あと篠塚です」 「分かった、ナイス根性だな!? 飯塚篠塚よ!!」 「誰ですかそれ」 「そんなワケでナイス根性なオマエに許せない私! 役立たずじゃないことをビンゴ証明……しまった弥生は何処!?」 「だから飯塚は要りません」 あまりにもデッドボール連続すぎ。 「弥生さん、ホンマモンをマトモに相手しちゃダメだ! 狂うぞ!!」 「どうやらそのようですね」 見かねたベネディクトの心からの忠告を、初めて弥生は素直に受け入れる気になっていた。 気分はデッドボールで押しだし一点といったところ。 「それで、結局何が言いたいんですか貴方は」 「よくぞ訊いた訊かれた!! つまり私がこの食糧難を解決してやろうというわけさ!! ズギャァァーーン!!」 高橋は自分では格好良いと思ってるらしい効果音を口で言いながら大口上を述べた。 しかし、彼女を見つめる弥生とベネディクトと電芹の反応は冷たい。 「……貴方が?」 「……あんたが?」 「……(冷めた視線)」 全然信用されていない。 「ちよちんショーーーック!?」 「今更ショックを受ける前に一度自分の無惨を把握してみたらどうですか」 「うわ、キッツい女……!」 弥生の冷血発言に本職魔族も思わずゾクゾク。 だが高橋はこれで参るような素直な気狂いさんではなかった。 「やい雪女さん!! 今から食糧を確保してやるからそこで待ってなさい!! そしてその時こそ貴方が私に屈服 して胸をはだけながら『もう好きにしてくださいギャフン』と言うときよ!!」 「万が一出来ても言いません、あと誰が雪女ですか」 「……まさか自覚無いの?」 一同、激しく同意。 「まあいいや。そんなこんなでベネ君、愛の逃避行ーーー!!」 「っておおおおおおおっ!?」 言うが早いか、高橋はベネディクトを小脇に抱えて姿を消した。 後に残された弥生は、やれやれ時間を無駄にしたと言わんばかりに帳簿に向き直っていく。 電芹はその態度に若干戸惑いながら、恐る恐る弥生に声を掛けた。 「あの……いいんですか? 二人ともどっかに行ってしまいましたが……」 「何か問題でも?」 「え……だからあの二人の事は気掛かりじゃないんですか?」 「まさか。何で私があのような連中の事をいちいち心に懸けてやらなければならないんですか」 「だって、あの二人は食糧問題を解決するために外に出たんでしょう?」 電芹の言葉に、弥生は溜息を吐いた。 「私は馬鹿に期待するほど愚かではありませんよ。そんな暇があれば自力で何とかすべきでしょう? 道理が分か らない愚物に扱えるほど、世の中は甘くはない。貴方とてそれくらいは分かっているはずです」 「……いえ、私が言いたいのはそういうことではなく……」 「貴方としたことが煮え切りませんね。一体何だというのですか」 弥生の言葉に、電芹はちらと上目遣いで彼女を見ながら答えた。 「放っておくと被害が大きくなると思うんですけど……」 「……あっ」 「こんなこともあろぉうかとォォォーーーーーーっ!!」 小脇に子供一人抱えた上で謎の建物まで数百メートル全力疾走してきた高橋は、息も切らさずにずびしいっと目 の前の建物を指さして叫んだ。 「あらかじめ作っておいた食糧確保の為の僕等のドリームファクトリー!! 日本語ではドキドキパニック夢工場!? それがあの高橋印のダーク十三使徒専用食糧供給工場なのゼ!?」 「これは……」 ベネディクトは目の前の妙に小綺麗な建築物をみやり、思わず自分の目を疑った。 いつの間に建てられたのか全く不明な自称工場とやらだが、その大きさこそ小さいものの予想外なほど小綺麗な様相 を呈している。妙な悪臭が漂ってくることもなければ、中から物音も聞こえない。それでいて中からは人が働く気配が 感じ取れていた。 つまりそれは、この内部が空調・騒音対策を完備しているれっきとした生産拠点であるという事だ。 「まさか、本当に食糧供給を?」 「フフ……この私が伊達酔狂でダーク十三使徒開発総部長を名乗ってないことを証明してやるのゼ」 高橋は余裕の笑みを浮かべながらパチンと指を打ち鳴らした。 すると同時に工場の中から衛生服を着込んだ筋骨隆々の美男子達がわらわらと皿を手に現れ出る。 何故工員がマッチョ美形ばかりなのかは微妙に気になったが、この際ベネディクトは皿に載せられた料理に注意を奪 われていた。驚くべきことに、それらは全て一般的に食べられるものばかりだったのである。 「信じられない……まさかあんたが裏でこんなマトモな事をしてたなんて……」 「イエス驚き呆れなさい! いや呆れなくてもいい! 許す! とにかく驚け!!」 高橋は相変わらず訳の分からないことを喚いているが、彼女を見るベネディクトの目には確かに変化があった。 「正直見直しました、高橋さん。謝りましょう……これまで貴方を只の気狂いとばかり思っていましたが、それは僕の 間違いだったようです」 「黄昏の流星は明日のマニフェストと言うわ、ベネ君。ポエミーな少年の見る夢は多少ムーがかっても許されるのよ! しかし最早そんなことはどうでもいいのよ!! さあ早速試食してプリーズしろ!!」 「おうさ!! おうともさあ!!」 高橋の放つ妙なノリに流されながら、ベネディクトは皿の上に並べられた料理に手を伸ばした。 何はともあれ今は夏、真っ白なバニラアイスを掴み取っておもむろに囓りつく。 「しゃくしゃくしゃく……うん、これは!?」 「どうですのんブラァァァザー? スペシャルブレンドによる夢のドリームテイストは!!」 「………………臭ッ!! 生臭ッッ!?」 ベネディクトは口に入れたアイスをべっとその場に吐き捨てると、手にした残りを全力で地面へ叩き付けた。 「これが人間の食い物かボケエッ!! 口に入れた瞬間吐き気がしたわっ!!」 「さもあらんさもあらん!? 何しろこれはミーの特製ブレンドによる物故! さあベネ君、お味は!?」 「生臭いわっ!! いや生臭いっつーかむしろイカ臭かったぞ!?」 ベネディクトがそう言った瞬間、高橋はチャキーンと蠍拳の構えを取ってブルブルと左右に震えた。 「ビンゴその通り! そのアイスはイカ臭えのだぁぁぁぁ!!」 「何だと!?」 「ナゼナラバナゼナラバ!!」 高橋は何処かで見た天使のポーズを取ってコキコキと首関節を捻らせながら、背後に控える筋肉質の美男子達を指さ して高らかに言い放った。 「そのイカ臭いアイスはこの高橋配下の筋肉質な男達450名が抽出したエキスを使用しているからなのだよ!!」 「何ぃーーー!?」 ベネ君の脳裏によぎった連想。 (エロネタ→マッチョメンエキス+白いアイス→マッチョメンの白い液体から作ったアイス) 「げろげろげろげろげろ……」 ベネディクトは物凄く嫌な想像をして胃の中の残留物を残さず吐き出した。 そんなベネディクトに構わず、高橋はびしいっとそのエキスの正体を明らかにしようとする。 「そう!! その名もぉぉーー!!」 「やめろっ!! 言わないでくれぇぇぇぇ!!」 ベネディクトは血涙と血の混じった胃液を流しながら叫ぶが、高橋の知ったこっちゃない。 「その名も!! イカエキスなーーのねぇーーー!!」 「……はい?」 「450名の筋肉質な男達が毎日毎日丹精込めてイカから搾り取ったイカ汁を洩れなく固めて作ったイカアイス!! その生臭さ足るや、もうっ!! もうっっ!!」 高橋はぎゅっと自分の身体を抱き締めてその場でふるふると震えた。 「これを支給された女子使徒が『いやーんもう、イカ臭いよぉ』とか言って鼻を摘みながらアイス棒を必死に頬張る 姿を想像しただけでもう! 私はもう辛抱たまらんですのよーーー!?」 よりにもよって高橋が自分自身で興奮してふるふる震える女子高生を実演してしまっているが、まあ少なくとも見た 目だけは可憐系なので敢えてそれは見なかったことにしたい。 「更に姉妹品としてイカナタデココ! イカパンナコッタ! イカゼリー! どれもイカ臭さと歯ごたえが堪らない通 好みの一品に仕上げてみました! 喉が渇いたら是非このイカカルピス!! ああ、もうナイススメルーー!?」 「死んじまえこのクサレ脳味噌がぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」 「ダイナミックお星様ーー!?」 竜に変化したベネディクトの手から放たれた大火球が高橋を遠くのお空へぶっ飛ばした。 その後をゴワスゴワスと叫びながら美形筋肉男の群れが追ってゆく。 ベネディクトは目の前に並べられたイカジュース料理を工場ごと火の海へと放り込んだ。 「あの壊れ畜生めがぁぁぁぁーーー!!」 「ヒヒヒヒヒ、ヒドイ!! あんまりなのよー!?」 昼日中に突如として行われた凶行にいつの間にか還ってきた高橋が抗議の声を挙げた。毎度の事だ。 「黙れこのチンカス野郎」 「千夜ちゃんは女の子だからソレないですの! 両方あったらいいなとは思うけど!」 「うるせえうるせえこのエロティックファンタジストめが!! お祓いしてやる!! 岩塩に頭ぶつけて死ね!!」 「ひどいのー!?」 高橋はぐねぐねとその場でヘビダンスを踊りながら、何度も地面を踏みならした。 「地団駄なのよ! 地団駄なのよ! 人の苦労をフイにしやがってヒドイとは思いませんか!?」 「これっぽっちも思わねえ! 大体何でイカに拘るんだお前は!」 「イカ臭い臭気を漂わせながら登下校する女の子って男のロマンだと思わないの?」 「産まれてから一度も思ったことねえよ! 言っとくが俺の半生は長えぞコラ!」 「そんな悪い子にはウラミハラサデオクベキカーー!! くらえ呪いビーム、ビビビビビ〜〜!!」 そう言って高橋は両手の人差し指だけをベネディクトに向けて口で謎の効果音を発し始めた。 「アホかてめえは! そんなんで呪いがかかるか!!」 「呪いは存在を知った瞬間かかると京極堂と導師が言ってたの! そんなわけで君は呪いにかかりました! ベネ君の右腕は数日待たずに特大ソーセージが超お似合い〜〜!!」 「うわ、何かてめえが言うと本当に罹った気分!? とりあえず解きやがれコラ!!」 「イヤでプー!! 右腕ソーセージで女をヒイヒイ言わせるがいいさーー!! バンジーーー!!」 「んだとてめえーー!?」 念のために二人の後を追跡した電芹は若干ためらった後、弥生に通信を入れた。 「高橋千夜嬢とベネディクト氏の作戦について報告します。あの二人は本物のバカです!!」 『知ってます』 簡潔な返答だった。 「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」 「むにゅ、めにゅ、もにゅー……」 今時幼稚園児でもやらないほど低能な言い争いを止めた二人は、小休止を挟んで再び顔を合わせた。 「高橋さん、あんたマジであんなのしか作れないのかよ!?」 ベネディクトが疲れ過ぎて半ば逆ギレしながら訊くと、高橋は目を剥いて叫んだ。 「断じて否ッッ!! 我が奥の手は未だ健在なり!! なんて嘘!? 実は本当!!」 「どっちだよ」 「本当だ!! ならばこれを見よ!?」 高橋がざっと右手を掲げると、例の筋肉質で美形な男達がイーーッと叫びながら背後の広大な面積に 被せられた布を一気に剥ぎ取った。その下から現れたのは青々とした植物が繁った畝の連立、要するに 世間一般で言うところの畑である。 二種類の太い茎からは完全に熟し切る前の野菜が生えており、美味しそうな輝きをみせていた。 「いわゆる一つの夏野菜!? 高橋印のキュウリ畑とナス畑にて候!!」 「ああっ、マトモだっ!?」 「しかもこちらには既に塩もみキュウリと浅漬けナスが調理済み! 料理上手と呼ばないで!?」 「おまけに料理上手さんですとーー!?」 ベネディクトは高橋のまっとうな業績と隠れたスキルにとことん戦慄した。 浅漬けの素を使ってない浅漬けだ! 実はこの女密かにぬか床作成中!? 高橋はそのまま白衣の下から取り出した皿を激しく発光させながらエビ反り大ジャンプ、そのまま空中三回転をキメ ながら皿ごとベネディクトの口に突っ込んで絶叫した。 「さあ! 食べてみてよーー!!」 「いただきますモフモフーー!?」 皿と野菜をボリボリ言わせながら咀嚼するベネディクトは、目をビカーと輝かせながら口から光線を放つ。 「美ー味ーイーゾォォーー!?」 「当然さ! この高橋千夜が作り出したバイオケミカル神野菜『撲殺ってUPA!!』は生命の神秘に片足突っ込んだ DNA戦士!? 遺伝子組み替えと核汚染は使用しておりません!?」 「おおお、目から涙が!? しかも肩から猛烈に垢が零れて肩こり解消!? アンタすげえよッ! 最高の料理人だ!」 「否!! ミーは科学者だぁぁーー!! ズビィィィンズギャギャーーン!!」 調子に乗った高橋は五倍速でタップスピンをかましながら謎のスイッチを取り出した。 「しかもぉ! このスイッチを押しますとこの野菜の真価が!?」 「まだ何かあるのですかーー!?」 「スイッチオーーーーン!!」 高橋がスイッチを押すと、ベネディクトの中からブィィィィンという音が聞こえてきた。 その音と共に急速にベネディクトの顔色が悪くなり、顔中から脂汗を垂らしながらがくりと膝を突く。 見れば、ベネディクトが食べなかった分のキュウリとナスが振動音をあげながら上下左右に震えていた。 「てめえ何しやがった高橋」 「一目瞭然!? これぞ私の新発明、全自動震動キュウリと全自動震動ナス!? スイッチ一つで驚きの振動数に!?」 「全く不要な機能だーー!?」 しかしベネディクトのコメントに高橋はちっちっと指を振ると、震動を続けるキュウリを高々と掲げてみせた。 「何と愚かな!? いわばこの機能こそ驚きの真骨頂!! これでもう野菜プレイとかが完全無欠なのですヨーー!? 完全オートバイブレーションによって女子使徒達ももうメロメロー!! 男のロマンぜ男のロマンなのぜぇぇーー!? 私はもう見ただけで生唾じゅるじゅるごっくんなのですよぉーーーーーー!!?」 「貴様は魂の奥底から下衆すぎるぅぅーー!?」 ベネディクトは目の前の存在のあまりのしょうもなさにことごとく打ちのめされた。 更にそれと同時に、ここまでくだらないことに全力を注げる壊れ具合に心底畏怖に似た感情を覚えた。 「あたかも中学生並の妄想と中年並のエロぢからを併せ持つ!? アンタッ、パーフェクトジオングかぁぁーーーっ!?」 「ジ・オ・ン・グーーーーーッ!! 飛びます飛びます頭が飛びます!? 貴様、飛頭蛮だなぁーー!?」 「ビームライフルをくらえーー!! ズババーーン!!」 「きゅぃぃぃーーんひゅごごごーーーん!? 獣の槍ーー!! ケダモノは私だーー!!」 「車掌は僕だーーー!?」 何か大事な物が吹っ飛んだらしいベネディクトは、そのままワケのわからないことを喚きながら高橋と一緒に回りだした。 世間一般ではこの状態を錯乱という!! それはまさに一分の隙もない錯乱っぷりだった!! そのままぐるぐると全力で回った後、高橋はびしいとコマネチしながら高らかに宣言した。 「これにてハッピイエンドォーー!!」 「ってお前これで成功にするつもりかよ!?」 「無論!! これであの行き遅れ年増ブリザード雪女もシワを気にすることなく私の奴隷ーー!?」 「……それは興味深い発言ですね」 ぞわり、という音と共に周囲の温度が3度下がった。 ベネディクトは自分の身体が心底震え上がるのを感じ、かつて味わったことのない怖気に背中を総毛立たせた。 しかし高橋は一向に気にした風もなく、心なしいつもよりも無表情な弥生の肩をバンバン叩いた。 「いやーー弥生ちゃん! 丁度良いところに!! これで貴方の男っ気ない寂しすぎる欲求不満生活にもピリオドが!!」 「そうですか」 「良かったね飯塚!! とりあえず今日から私をご主人様と呼んで可!! まあ私みたいにピチピチの女子高生と比べたら 肌のハリが違うだろうけど爛熟した腐りかけの色香もまた良し!? 私のパッツンパッツンの胸と貴方の垂れ下がりかけの 胸を並べて今夜もベッドで新宿シバーサイッ!? さあ私の胸に飛び込んでカモンなのーーーっ!?」 「……言いたいことはそれだけですか?」 弥生は底冷えする声でそう言うと、背後の焼け落ちた工場を親指で指さした。 「ちょっとお話があります。そこまで付き合って貰えますか?」 「それは事前報酬!? 『もうたまらないスキスキ私をスキにしてぇん』ってコトですかなっ!? よかろうですオッケー ですお爺ちゃんもうハッスルして止まらないです!! さあ愛と感動の楽園にレッツゴーにょろりんなーーのねーー!!」 「よく動く口ですね……」 弥生はくねくねと身悶える高橋の首根っこを掴んで持ち上げると、そのままドアの向こうに引きずっていった。 「……ってあれ? 何だか強引ですよ? 強引というか連行ですよ!? ギャワワッ顔が怖いですよ年増さーーーん!?」 「…………冥福を」 ベネディクトは逆十字を切ると、二人が消えていったドアを凝視していた。 と、その腕が突如何者かに羽交い締めにされ、ベネディクトは動きを封じられる。 「ああああっ、電芹っ!? 僕に何すんだ!?」 「すみませんベネディクト様、弥生様が貴方も逃がすなとのご命令です」 「ぼ、僕は関係ないぞ!! 関係ないんだ!! いやぁぁぁ、信じてぇぇぇぇ!?」 恐怖に凍り付いたベネディクトが暴れれば暴れるほど、電芹の捕縛は際限なく強力になっていく。 そして冷血女帝篠塚弥生の判決が執行された。 「この小娘がッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘 がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!! 小娘がッッ! 小娘がッッ! 小娘がッッ!!――――」 「ぎゃぶっ!? げぎゃっ!? おぶうっ!? ぎがぁっ!? めごぉっ!? のがぅっ!? みごぉっ!? ぬぎょぉ!? じょぎぃっ!? にがゃあっ!? じゅぶぅ!? ごがっ!? めがっ!? ぎがっ!? じがっ!? ぶぎゃあああっ!? ぬじぉっ!? みしゅぎゃぁっ!? おぶううっ!? ぼぎゃっ!? めりぃっ!? ぼぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!?」 ごとん、かんころころ……。 ドアの向こうから聞こえてきた暴力的極まりない音のオンパレードの後、静かにドアが開き冷たい瞳だけがこちらを見た。 「次は貴方です―――」 「ひ、ひゃぁぅぅぅぅーーーーーー!?」 「こうしてダーク十三使徒の食糧危機は回避され、畑では仲良く肥やしになった高橋とベネディクトの姿が見られたそうです」 「弥生さん、自分でやっといてそうですも何も……」 おわり ======================================================== 壊れ、極めました(笑) さすがにこのノリだと一日10kが限度ですー。 それにしても久々に投稿してこれですか、僕(笑)