「これは………」 「ふふふ、驚いたか?」 「………これの素材は…?」 「一目瞭然だろう?」 「……」 「先日の一件で得た、奴等の有していた技術。あれは面白い。 面白すぎて、早速使ってしまったのさ。少し、変則的にな」 「…………なぜです?」 「ん?」 「なぜ、よりにもよって貴方が、こんなものを?」 「…………『導き手』だよ」 「……」 「君にとっては妹――皐月がそうだったように…。これも、その役目を果たす」 「…!」 「が、これだけでは無理だ。監視役、コントロール役が必要だな。リスクを考 えると、私や君がやる訳にもいかんが……。 よし、『ベネディクト』を呼べ。奴に任せる」 「……はい」 「フフフ、面白いゲームになりそうだ。 楽しみだよ……」 「…………」 Lメモ私的外伝9 随分と久しぶりな私的外伝〜♪ 皆様、いかがお過ごしでしょうか。 この第九作は、会議室で言っていた「彼女」登場編。 では、ど〜ぞ〜。 「その名はアヤメ」 「嫌な予感がする」 男子生徒A――もとい藤田浩之は、問答無用で断言した。 「ああっ、オレの名前がしっかりと……ますます危険な気配が……」 校庭の一角、渡り廊下の真ん中。 膝を抱えて独り呻いている浩之を、通行人が奇異の目で見ながら通り過ぎて いく。 「大体、このアホ作者のLメモに登場して、オレがいい目を見た事が一度でも あったか? いつもいつも、虎頭の大男にぶっ飛ばされたりアホの光熱波で焼 き飛ばされたり風見のミサイルにされて投げ飛ばされたり、そんなんばっかじ ゃねえかっ!」 ばっ――! 浩之は立ち上がると、天に向かって拳を掲げた。 「もーやだ! もー御免だ、そんな扱いは! そもそも、SS使いの扱いかた についてはあれこれ論議される癖に、リーフキャラ、特にオレのような主人公 の扱いの酷さに誰も文句を言わないってのは絶対におかしい! 不公平だ! 何かが狂ってるっ!」 絶叫。 それはまさに魂の叫びであった。 神に一片ほどでも情けがあれば、彼に助力せずにはおれなかったろう。 だが生憎、それは今朝燃えないゴミに出したばかりなのだ。すまん浩之。 「とゆー訳で、どっか青空のその辺にいるLメモ責任者! オレはここに要求 する! 今後、リーフキャラには出演――」 「うあーん!」 「出演拒否権を与えろっ! これはつまり――」 「うえーん!」 「つまりだ、Lメモを掲載する前にまずリーフキャラの許可を――」 「うわーん!」 「やかましぃぃぃぃぃっ!!!」 浩之は泣き声に向けて怒鳴りつけた。 そこにいたのは、五歳くらいの男の子。 「うああああああああん!!!」 当然、ますます激しく泣き出す。 「……あれ?」 浩之はその子供に見覚えがあった。 「おお、そーだ。三月五日の自動イベントで登場する、迷子のヒロアキ!」 正解。 ちなみにLメモ世界では、初等部の生徒ってことにした。 「おーけー。てことは、高等部に迷い込んできちまったのか、ヒロアキ?」 「うええええええん!!」 泣いてる子供は、騒いで語らない。 「うー、まいったな……」 「そこのあなたっ!」 「あ?」 どうしたものかと頭をかいていた浩之に、突然怒気をはらんだ声が飛んだ。 見ると、一人の少女が彼を睨み付けている。 「……誰?」 少女は巫女の服を身に纏い、あまつさえ弓と薙刀を持っていた。 奇人変人博覧会常時開催中のL学園においても、十分に目立つ身なりである。 にも関わらず、浩之は彼女に見覚えがなかった。 (いや……) 少女の顔立ちは、誰かと重なるような気がする。 誰だったか……? などと思索に耽っている時間は、実のところ浩之には全くなかった。 「あなた、子供を泣かせてましたねっ!? 最低ですっ!」 少女はそう決め付けると、携えていた薙刀をびしりと構えた。 一分の隙もない構え。 「あなたのような人は、成敗しちゃいます!」 「うひぃぃぃぃっ!?」 浩之が弁解する暇もなく。 少女の薙刀が唸りをあげて彼に襲い掛かった。 「平和だねえ」 そんな事を呟きつつ、YOSSYFLAMEは校庭を歩いていた。 麗らかな日差しが心地よい。 サワサワ…… 「風が葉を揺らす静かな音……」 ピィー…ピィー…… 「僅かに寂寥感を覚える鳥の声……」 わー…… 「誰とも知れぬ生徒達の歓声……」 どごーん…… 「耳に優しい爆音……」 うぎゃぁぁぁぁ…… 「哀愁漂う悲鳴……」 …………………………………… 「平和だ。」 それを見つつ、YOSSYFLAMEは再び呟いた。 まあ確かに、タコられている浩之など珍しくもない。 目を引く点があるとすれば、彼をげしげしと踏みつけている巫女姿の少女の 方だろう。 (合格。) 彼女の顔を見て、YOSSYFLAMEは胸中の美少女メモに新人用の欄を作った。 (……でも、誰かに似てるような気もするな。誰だろ……?」 「タケミナカタっ!!!」 「ぎゃひぃぃぃっ!!」 少女が一言叫ぶと、彼女の手から光熱波が放たれ、浩之の背中を焼いた。 黒魔術である。音声を媒介にして物理現象を起こす魔術。 「かなりのレベルの黒魔術士ね……でも誰かしら?」 「『塔』出身のお前に分からないんじゃ、俺に分かる筈もない」 そう言ったのは、YOSSYFLAMEではなかった。 後ろを振り向くと、そこにはいつからいたのか、悠と綾香が並んで騒ぎを見 物していた。 「あ……」 その瞬間。 YOSSYFLAMEの頭の中で、ばらばらだったジグソーパズルが一気に組み上がっ た。 「そーだ、来栖川さんに似てるんだ! あと悠さんにも!」 「え?」 「は?」 「いや、あの子の顔立ちが――」 何の事か分からない二人に説明しようと、YOSSYFLAMEが少女の方を指差した 時。 彼女はこちらを見ていた。 「……綾香? 悠?」 唇が小さく動く。 彼女はもう男子生徒A(「浩之……だ……」)など見ていない。 その瞳は、綾香と悠だけを映している。 「あ、あの……?」 綾香が何かを言おうとするよりも早く。 顔中を喜びで満たして、その少女ははっきりとこう言った。 「パパ! ママ! 会いたかった!!」 時が、止まった。 「つ、つまり……」 あの後。 教室に場所を移し、綾香たちは少女から詳しい事情を聞き出していた。 悠、綾香、少女の他に、YOSSYFLAMEも成り行きで同席している。 「あやめ……ちゃん? 貴方は未来から来た、私とゆーさくの娘、なの……?」 綾香は声が震えるのを自覚しつつも、彼女に確認した。 「はいっ!」 あやめと名乗った少女は、元気良く頷く。 「パパの名前は悠朔、ママの名前は悠綾香。 そしてわたしは悠綾芽(はるか あやめ)。十五歳ですっ!」 「顔立ちを見れば、疑う余地はないですねー」 YOSSYFLAMEがうんうんと頷いた。 「全体的なつくりは来栖川さんに似てるし、目は悠さんに良く似てる」 「良く言われますぅ」 「……そ、それで…」 何とか言葉を続ける綾香。 酷く疲れたような顔をしている。 「あなたは……どうして、ここに来たの?」 「………」 あやめは俯いた。 「どしたの?」 「…………分からない」 YOSSYFLAMEの声に、あやめはぽつりと呟く。 「分からないんです。どうしてここに来たのか、どうやってここに来たのか…。 まるで、頭に霞がかかってるみたいに……思い出せないんです」 「歴史の自衛作用、ってやつですかね?」 YOSSYFLAMEがそんなことを口にした。 「ほら、良くあるでしょ。過去を変えようとタイムスリップした主人公が色々 と行動するんだけど、何故か予定外の事件が起きてうまくいかないっての。 あやめちゃんもそれで記憶を無くしたのかも……」 「はあ、そういうことがあるんですかぁ……」 感心したように頷くあやめ。 綾香が額を押さえた。 「あのね……あなた……」 「まあいーじゃないか、そんなこと」 彼女の声が横から遮られる。 今の今まで黙りこくっていた悠の声に。 「未来の世界から『俺たち』の娘がわざわざ会いに来てくれたんだろう? なら、それでいいじゃないか、うん。 そうは思わないか、綾香……いや、『おまえ』……」 「あ、あのね……」 悠に言い募ろうとした綾香は「うっ」と息を呑み込んだ。 満面に幸せ色の絵の具を塗りたくった男がそこにいる。 瞳の中では星が輝いているようにも見えた。 「あやめ……良く来たな……」 「パパ……会いたかったよ……」 「あやめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「パパぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ひしっ! 親子は固く抱き締め合った。 「うーん、感動的だなぁ……」 思わず貰い泣きするYOSSYFLAME。 「さあ綾香……お前も恥ずかしがってないで娘を抱き締めてやるがいい」 「ママ……」 「……い――」 「い?」 「いい加減にしなさいっ!!!」 綾香がキレた。 あやめがびっくりしたように見詰める。 「突然現れて、私の娘ですって!? 詳しい事情は覚えてない!? それで納得しろっての? あんた一体何なのよ!? 言っておくけど、私はあなたを娘なんて――」 「……うっ」 「娘なんて思って――あ……」 綾香が言葉に詰まった。 あやめが目に一杯の涙を溜めているのを見たからだ。 「ママ……わたし、来ない方が良かったですか?」 ぽろり。 大粒の涙が頬をつたう。 「迷惑……だったんですか?」 「え……いや、あの……」 怒りに水を差され、しどろもどろになる綾香。 「ママが嫌なら……私、帰ります。帰りかた分からないけど……。 でも、ママの側からは消えます」 「あ、あのね……」 「綾香……」 「来栖川さん……」 「うっ……」 あやめと悠とYOSSYFLAME、六つの眼差しに囲まれ、綾香は怯んだ。 「……わ、分かったわよ。もう……。 娘だって認めた訳じゃないけど。側にいるくらいなら、別に邪魔じゃ……」 「ないんですかっ!?」 「え、ええ」 「ありがとう、ママ!」 あやめははしゃいで綾香に飛びついた。 「……ま、こっちの話はまとまったとして……」 困惑しつつも引き離せずにいる綾香を面白そうに見つつ、YOSSYFLAMEが言う。 「問題が一つありますね」 「……そうね」 「?」 「何の事だ?」 綾香は頷いたが、幸せボケした悠とあやめは分かっていない。 「いや、一人いるでしょ。この話を聞いたら逆上しそうな人が。 彼の耳にこの事が入らないよう、手を打たないと――」 「!」 「えっ…!」 YOSSYFLAMEが言いかけた時。 黒魔術士である綾香とあやめは、『それ』に気付いた。 突然――あまりにも突然に彼らの周囲の空間を覆った『それ』。 「伏せてっ! 巨大な魔術の構成が――」 綾香が声を上げようとした。 叫び声が響き渡ったのは、その瞬間である。 「ガディムの叫びよぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオ!!!!!」 放たれる構成。 解放される魔力。 奇跡の具現。 ……そして。 二年部校舎は爆砕した。 「クックックックック……」 「は、ハイド……」 重力制御魔術で十メートルほど上空に浮かび、黒衣の魔術士は瓦礫の山とな った校舎を見下ろしていた。 その顔には、はっきりと狂気の笑みが張り付いている。 「フフフ……気付かなかったよ。ああ全く。 まさかお前達の間に子供が生まれていようとは……俺はただの道化だったの だな……」 「いやあのね、これには事情が……」 「えーい、聞きたくない聞きたくない!」 綾香の言葉を、ハイドラントは首をぶんぶか振って遮った。 そして、彼女とあやめを(ちなみに悠とYOSSYFLAMEは瓦礫に埋もれている)、 ぎろりと睨み据えると、血を吐くような声音で言う。 「かくなる上は、俺に出来ることは全てを無に帰すことのみ。 お前らを殺して、俺も死ぬだけよ……」 「ハイド……」 (まさか、本気――!?) 綾香は彼の顔を見た。 既に眼がイっている。 「本気ね」 暗澹たる気持ちで呻く綾香。 彼女を見下ろしつつ、ハイドラントは再び破壊的な魔術の構成を編み上げた。 壊れた笑みを口元に浮かべ、宣告する。 「さあ……時間だ、綾香。覚悟を決めるがいい……」 「覚悟するのはてめえだ、あほぉぉぉぉぉぉっ!!!」 怒声と共に飛んできた拳大の石が、ハイドラントの後頭部に命中した。 「はぅあっ!?」 魔術の集中が解ける。 墜落した彼に、たちまち無数の人間が群がった。 「いきなり校舎吹っ飛ばしやがって! テロリストか貴様は!」 「俺の弁当返せっ!」 「あほんだらぁっ!」 「死んどけっ!」 「天翔熊閃!」 「蹴撃刀勢っ!」 西山、へーのき、委員長、デコイ、あかり、ディアルト、ひめろく、Fool、 えとせとらえとせとら。 要するに、巻き添えになって吹っ飛ばされた二年生たちであった。 「やれやれ……」 溜め息をついた綾香は、ふと背中のあやめが震えていることに気が付いた。 そう言えばあやめは、先程から綾香の背中に隠れたまま一言も発していない。 「どうしたの?」 綾香が声をかけると、あやめは怯えた声で呟いた。 「あの人……恐い」 「いや、そりゃ初対面が攻城戦術級魔術だったら当然だけど……」 「……違うんです」 綾香の言葉に、あやめはかぶりを振る。 「どこかで、会ったような記憶があるんです……。あの人……」 「どこかでって……未来で?」 「分かりません……。でも、すごく恐い記憶……。 何も思い出せないけど、でも、恐い……!」 「あやめ……」 震え続ける彼女に、綾香は何も声を掛けてやることが出来なかった。 その後。 悠綾芽は、一年生として学園に入学した。 身元保証は来栖川。 色々と揉めた末ではあったが、最終的にはうまくまとまったようである。 「パパ、ママ! 一緒にお弁当食べよっ!」 「よし、親子水入らずといくかぁ〜(にへら)」 「認めん! 絶対に認めんぞぉぉぉぉ! 綾香、今からでも遅くない。私とも子供を……」 「だから、娘じゃないって言ってるでしょーがっ!!」 とっぴんぱらりのぷー。 ・ ・ ・ ・ 「……ベネディクト」 「はいはい、ここにいるよ」 「今回の作戦は、全てお前に一任する。 『あれ』を操り、見事彼らを闇に導いて見せよ」 「おっけー、おっけー、僕に任せておきなさい。 あのオモチャ、存分に使わせて貰うからね。 どんなやり方が一番面白いかな? ふふふ、楽しみだよ。とっても」 「そうか、お前も楽しみか」 「そりゃそうさ。僕たち魔族の最高のご馳走は、人間の負の感情だからね。 真実を知った時、あいつらはどんな顔をするかと思うと……居ても立っても いられなくなるよ」 「では、行け。彼らを私の元へ導くために」 「はいよ。期待して待っててね、導師……」 Lメモ私的外伝9「その名はアヤメ」 END