**************************************** 「ずるずるずる…」 科学部部室にカップ麺をすする音が響く。 ぱたん 「ごちそうさま」 カップを机の上に置いて手を合わせるジン。 そのまま動きが止まる。 ややあって、 「………やってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ずがしゃーん! 某野球馬鹿親父もかくやと言わんばかりのちゃぶ台返しが炸裂した。 「毎日毎日カップ麺カップ麺カップ麺! たまには人間らしい食事させろ!」 ガーガー怒鳴りながらズカズカ部屋を歩き回る。 「ティーナの馬鹿は「ボクの料理の腕はお兄ちゃんと旦那様のためだけのものなんだよ」 だのぬかしやがるし…大体何故セリオの分際で料理ができない!」 彼の横で無表情に突っ立っている、セリオ赤、セリオ青、セリオ黄にビシッと指を突き 付ける。 「──戦闘用にカスタマイズされていますから」(0.1秒) 「料理ぐらいできるようにしといてくれよセンセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 ジンは頭を抱えてしゃがみ込んだ。 「うう…たまにはちゃんとした食事がしたいよう…ミネラルとビタミンが恋しいよう…… このままじゃ秋山以下だよう…」 どうやら後者が本音らしい。 なんか酷い言いようだが、かなり事実なので仕方ない。 「この際千鶴さんでもいいから、手料理が食いたいよぉぉぉ…」 ジンが禁断の扉を開けてしまいそうになっていた時だった。 「喜べジン!」 「いや! やっぱり千鶴さんの手料理は遠慮する!」 ジンは正気を取り戻し、布団を頭から引っ被った。 「…何を言っとるのだ………まあいい、我々の新しい同志だ! 紹介しよう!」 柳川が体をずらすと、三人の少女が顔を覗かせた。 「料理&雑用の川越たける、オペレーターの電芹、戦闘要員のたまだ!」 「おおっ、料理!」 ジンは布団を跳ね除け、がっしりとたけるの両手を握った。 そして、真面目な口調で語り掛ける。 「たける…お前だけが俺の希望だ………お前さえいてくれれば、俺はいくらでも戦える!」 「え? え? で、でも私達まだ高校生だしそういうのはちゃんと付き合ってお互いに気 持ちを確かめてからの方がいいなってあのその別に付き合いたいって言ってるわけじゃな くってもしそういう事になったらそうした方がいいなと思ってでも私まだ恋とかそういう の分からないしだからえっとどうしよう電芹〜〜〜」 「たけるさん、違いますよ。プロポーズしてるわけじゃありません…」 真っ赤になって錯乱するたけるを、電芹はやれやれまたかといった顔でなだめていた。 ☆★☆ その日の夜… 久しぶりに美味い手料理を堪能したジンは、早々に布団へ潜り込んでいた。 (ああ、明日もまともな飯が食える…やっぱり健全な生活は健全な食事からだよなぁ) ジンがそんなささやかな幸せに浸っている時だった。 さわさわ… (ん…?) ジンは額のあたりに変な感触を感じて意識を呼び起こした。 どすんっ (むぐっ! な、何だ!?) 今度は腹に何かが乗っかったような重みが。 (も、もしかしてこれが金縛りってやつか!?) 別にジンは幽霊の類が恐いわけではない。 しかしこれは初めての体験。 驚かない方がおかしい。 (落ち着けジン、落ち着け俺………いいか、俺は最強のエルクゥだ。恐いものなんぞこの 世には………約一名いるけど…いいか、この震えは闘うためのエネルギーなんだ。このエ ネルギーがさらに俺を強くしてくれるんだ。俺は強い! 俺は強い! 俺は強い! 俺は …つよぉぉぉ─────い!!!) ジンは勇気を振り絞って目を開いた。 するとそこには… 「にゃ?」 たまがいた。 彼女はジンの体をまたぐ様にして乗っかっている。 「てめえ…真夜中に人にのしかかって何のつもりだ?」 「にゃにゃっ」 たまはジンの問いには答えず(ってゆーか、人の言葉喋れないし)後ろから小さな棒状の 物を取り出した。 その物体に、ジンの目が釘付けになる。 「お…おい、お前まさか…」 たまはそれをジンに近づけてゆく。 「よせっ! やめろ! ぶ、ぶっ飛ばすぞジョ○カー!」 ジンは必死に抵抗しした。 いや、抵抗しようとしただけであって、実際には抵抗らしい抵抗はできなかった。 彼の全神経はそのたまの手にある物に注がれており、ぴくりとも動く事ができなかった のだ。 キュッ 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ☆★☆ 「おーいおいおいおい…おーいおいおいおい…」 その日はジンの鳴咽から始まった。 「一体ジンはどうしたんだ?」 「私が様子見て来るよ」 たけるはジンにあてがわれている一室に入ってゆき…肩を震わせながら戻ってきた。 「どうしたのですか? たけるさん」 「鉄…鉄が………ぷぷっ…」 「「???」」 電芹と柳川にはさっぱり意味が分からない。 たけるは笑いを堪えるのに精いっぱいで、まともに話すらできない状態だった。 仕方なく、ふたりは実際にジンに会ってみる事にした。 ギィィ… 扉を少し開けて中の様子を伺う。 ジンはこちらに背中を向け、部屋の隅で小さくなっていた。 ここから見た限りでは別段おかしな所はない。 ふたりは足音を忍ばせてジンの正面に回り込んだ。 「おいジン、お前一体どうし………プ…プッ、ククク」 「柳川さん、いきなりどうしたんですか? え、顔? ………プププッ」 「うぉぉぉぉぉぉぉ! そんなに笑わなくてもいいじゃんかよぉぉぉぉぉ!!!」 なんと、ジンの額には黒いマジックででかでかと『鉄』と書かれていたのだった。 「おーいおいおいおい…おーいおいおいおい…」 ジンはまだ泣いている。 「ねえ柳川先生、ジン先輩の額の文字消えないの?」 たけるがなるべくジンの方を見ないように尋ねた。 「ああ、どうやら俺が開発した超速乾性強力耐水防熱超物質オリハルコンマジックペン黒 (極太)で書かれてるらしくてな…いろいろ試してみたが落ちなかった」 同じくジンの方を見ないように柳川が答える。 「どうしてそんな物を開発したんですか?」 やっぱりジンの方を見ないように電芹が当然の質問をする。 「ん? いつか「こんな事もあろうかと開発しておいたのだ」とか言って出そうと思って な…まさかこんな事になろうとは」 ロボット物の謎が今一つ解けた。 「それにしても一体誰がこんな悪質な悪戯をしたんだ? ティーナ、貴様か?」 「違うよっ!」 疑われたティーナは強い口調で反論する。 「柳川先生、勝手に決め付けるのは酷いよー」 「そうですよ、私もたけるさんと同じ意見です」 普段大人しいふたりにまで言い返され、柳川は少し圧倒された。 「それに…それに…」 ティーナはさらに追い討ちをかけた。 「もしボクだったら『鉄』だなんて月並みな事書かないよ! どうせなら『危険物』とか 『産廃』とかもっと洒落た事書いて、怒るジンさんを馬鹿にしながらおもしろおかしく一 日を過ごすよ!」 ガ・ビーン 「…ま、ティーナでは無いのは分かった………すると一体誰がこんな事を…」 「ねえたま、誰がやったか知らない?」 「にゃ?」<既に忘れている ウーッ! ウーッ! ウーッ! 「きゃーっ! 何? 何!?」 突如、部屋全体にけたたましいエマージェンシーコールが鳴り響いた。 「くそっ! 憂学機団の奴等だ!」 「ええぇ〜〜〜!? ジンさんがいない状態で戦わなくちゃいけないのぉぉぉ!?」 ☆★☆ 「なるほどねぇ〜、科学部の連中にやられたってわけ?」 「そうなのぉ〜」 校庭には、志保と、この前ジンにやられた理緒がいた。 「でもジン先輩はミサイルやレーザーの類は一切使えなかったはずよ? それなのにどう して負けたの?」 「それでも十分強かったんだもの…」 「えーい! 文句言わなーい」 ぐりぐりぐりぐり 「ひぇぇぇぇぇ…」 「ほら、またぐりぐりされたくなかったら私の言う事に文句言わないのよ」 「ううっ…私って不幸…」 「行けっ! ティーナ、たま、量産セリオ!」 柳川の声と共に、科学部の窓からバーニアを背負ったティーナ、爪を光らせたたま、そ れぞれモーニングスター、ライフル、回復設備を装備した量産セリオが飛び出した。 「来たわよ雛山さん!」 「は、はいっ!」 どかっ! ばきっ! ずきゅーん! 科学部と憂学機団は膠着状態に陥っていた。 たまが特攻して一般生徒をなぎ倒せば、彼らは数に物を言わせて袋叩きにする。 一般生徒が大挙して科学部部室に押しかければ、待ち受けていたティーナとセリオ青が 集中砲火を浴びせる。 「柳川先生、このまま持久戦になった場合、数に劣るこちらの方が不利です」 「分かっている!」 オペレーターをしている電芹に、いらついた声で柳川は答えた。 「せめてジンが正気を取り戻してくれれば…」 「正気かぁ…ジン先輩、ジン先輩」 たけるは未だに部屋の隅でウジウジしているジンの肩を叩いた。 「山は、死にますか〜 海は、死にますか〜」 ジンは演歌デビューしていた。 「無理だ川越たける、ジンは今『心の壁』を展開しているのだ」 「心の壁って…あの電波使いしか使えないっていう奥義?」 「その通りだ」 「やっかいな物をマスターしてくれますね…」 電芹は、はぁ…と溜め息をついた。 ウーッ! ウーッ! ウーッ! 「な、何ですかっ!?」 「しまった、奴等校舎の中から攻めてきやがった!」 「ええっ! どうしようどうしよう恐いよ電芹助けてーっ!」 「さあっ、別動隊行きなさい! 守りの無い科学部部室を占拠するのよ!」 「長岡さん…ノッてるね…」 オーバーアクションで叫びまくっている志保。 「それにしても校舎内から攻めるなんて頭いいわねー」 「これって戦術の基本中の基本なんだけど…」 理緒の頭にはでっかい汗マークが表示された。 「こんな事思い付くなんて…あんた実は性格悪いでしょ」 「そんなぁ〜」 「ジン! いいかげん目を覚ませ!」 ゆさゆさゆさゆさ… 「………父さんはこのために僕を呼んだの…?」 「ジ〜〜〜ン!!!」 ジンの意識は今まさにイデに導かれようとしていた。 「このままでは科学部は占拠されてしまいます!」 「分かってる! くそっ、どうすれば…」 説得するのがもう無理だと分かると、柳川はジンをほっぽって頭を掻きむしった。 そしてそのままがっくりと座り込んでしまう。 「もう…ここまでなのか…」 その痛々しい様子を見ていたたけるは、ゆっくりと柳川に近づいた。 「柳川先生…」 「なんだ川越…って、貴様なんのつもりだ!?」 たけるは震える手で一丁のライフルを抱えていた。 「ジン先輩が戦えないのなら…私が、私が戦います!」 「なんだと!?」 「たけるさん! そんな無理です!」 「ううん…大丈夫、大丈夫だから…頑張るから!」 しかしその目にはうっすらと涙が浮かんでいる。 当然だ、今まで自分から戦いなどした事無いのだから… それでも彼女は戦う事を選んだ。 自分の大切な人を守るため… 「分かった…」 「柳川先生!」 止めてくれると思っていたのだろう、電芹は非難の声を上げた。 しかし柳川はそんな電芹には一瞥もくれない。 たけるの前に立つと、肩に手を置いた。 「いいぞ………今の貴様は最高にカッコいいぞ…」 柳川は壮絶な笑みを浮かべた。 「行け、川越たける! お前ならあいつ等なんぞに負けはしない! 俺が保証する!」 「先生…」 感極まったたけるの目に涙が光る。 「ふふふ…泣くのは勝利祝いにしとけ」 「はいっ!」 たけるは元気に部屋を飛び出していった。 (ああ…今の俺は最高にカッコ悪いぜ…) 今のやり取りを聞いていたジンは、ますます落ち込んでいた。 (護るべき女に護ってもらうなんてよ…もう死んじまおうかなぁ…) もう泥沼であった。 たけるの投入が精神的にいい方へ働いたのか、科学部軍団はじわじわと勢力を取り戻し、 ついには一般生徒達と志保&理緒を撃破した。 ☆★☆ 「ううっ、ぐすっ…」 その日の夜、ジンはまだぐずっていた。 「ああ、死にてぇ…」 何度その言葉を繰り返しただろうか、突然ジンの動きがぴたりと止まった。 「そうだ、死んじまおう。死んじまえば全て解決だ」 ジンは開き直った。 こんな事で開き直られても困るような気がするが、人生開き直りが肝心とも言うし、ま あいいだろう。 「おっ、ちょうどいいところに出刃包丁が。これで腹掻っ捌いて死のう」 ジンはブレザーの前を開くと、出刃包丁を逆手に持って目をつぶった。 「さらば現世」 ガキッ! ぽろっ 出刃包丁は根元から折れた。 「うぉぉぉぉぉぉ!!! 俺は今ほど自分の強さを恨めしく思った事はねぇぇぇ!!!」 「そうだジン! お前は強いんだ!」 「柳川!?」 ジンの背後には、何時の間にか柳川が立っていた。 その手には二つの紙袋が握られている。 「ジン! お前は俺達に必要なんだ!」 「ほっといてくれ! 魂的敗北を喫した俺には、生きていく資格すら無いんだ!」 「魂的敗北…? ふっ、下らんな」 柳川は軽く一笑にふした。 それが、ただでさえ機嫌の悪いジンの感情に油を注いだ。 「なんだと…? いくら先生とはいえそれは聞き捨てならないな」 「いいかジン、これを見ろ」 柳川は紙袋のひとつをジンの前に置いた。 「これは…『キ○肉マン』?」 その中には『キン肉○ン』全巻が入っていた。 「そうだ、そしてもうひとつ」 もうひとつの紙袋の中には『3×○eyes』が入っていた。 「先生、これは何のつもりだ?」 「いいから読め」 「?」 ジンはとりあえず言われるままに読んでみる事にした。 熟読中… 「うぉぉぉぉぉ…」 ジンは感動して泣いていた。 「ジン、浸ってる最中悪いのだが…このふたつを読んで何か得られる物は無かったか?」 柳川の言葉に、ジンはすっくと立ち上がった。 「あったぜ………『額に文字は主人公の証』!」 「そうだ! 額に文字はカッコいいんだ! トレンディでナウなヤングにバカウケだ!」 「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」 ジン・ジャザム、ここに復活す。 ☆★☆ 翌日… 「昨日は不覚を取ったけど、今日こそは絶対に勝つわ!」 「はーっはっは! このジン・ジャザムに勝つつもりか!?」 「ええっ!? なんでジン先輩立ち直ってるの?」 「問答無用! そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 理緒、三度撃沈 次回予告! 快進撃を続ける科学部軍団。 しかし、憂学機団の物量に物を言わせた攻撃にだんだん苦戦しはじめた。 そんな現状に危機感を持った柳川は、中立の生徒を味方に引き込もうと画策する。 柳川に命じられ、スカウトに向かうジン。 彼は見事新たな仲間を獲得する事ができるだろうか? 「もし仲間にしたいのなら…私を倒してみる事です!」 今回の新人さん 紫音(ラージオン)…川越たける 皐月(デスオーク)…長岡志保