オカルト研… 普段は怪しげな実験やら、サクリファイスやらで妙な賑やかさを誇る部屋である。 そんな場所に、いつもとは違う顔ぶれが集まっていた。 工作部の誠治と智子。 ジャッジの岩下とセリス。 唯一のオカルト研所属、芹香。 そして浩之と琴音。 一同は浩之から事のあらましを聞かされていた。 「そんな事があったのか…」 誠治は腕組みをして難しそうな顔をする。 「それで、ヒメカワの使者が来た時、それを追い返すか姫川さんを護るかして欲しいとい うわけだね」 「そういうわけです」 岩下の念押しに答える浩之。 「でもな…」 智子がずいっと前に出た。 「確かに嫌がる娘を無理矢理連れ帰るんは悪やと思う。そやけど、それが星の存亡に関わ る事ならウチらが口出しするべき事じゃないんやないか?」 「そ、それは…」 浩之が返答に困る。 その時、今までずっと黙っていた芹香が口を開いた。 「何や先輩…『当事者である女王候補自身が護って欲しいと言っているのだから問題は無 い。私達はそれをサポートするに過ぎない』…まあ、そう言われてみればそうかもしれん が…」 智子が(完全では無いにしろ)納得して元の席に戻ると、浩之は「サンキュ」と芹香にジ ェスチャーを送った。 芹香はそれにコクンと肯いて答える。 しかし、その後の呟きを捕らえる事ができた人はいただろうか? 「…私も同じような境遇ですから。人事には思えないんです」 ☆★☆ それからというもの、浩之達『琴音保護チーム』は秘密裏に作業を進めていた。 とにかくこの作戦は機密性が重要だ。 下手に広まると暴走しかねない。 だから学校側はもちろん、科学部や警備保障などの危険な(好戦的な)組織にも伝えてい ない。 あと琴音に惚れている人物にも。 とにかく琴音ひとりを逃がす事さえできればこちらの勝ちなのだ。 別に大きな戦力は必要ない。 必要なのは作戦を練り、刻々と変化する状況に対応できる冷静さと頭脳と決断力だ。 「えっと、ここの通路はどうします?」 「ここは退路として確保しておきたいな」 「それじゃこーゆールートで行きますか」 「了解」 水面下で作業を続けるチームのメンバー。 そんな彼らを、離れた場所からレミィは寂しそうな顔で見つめていた。 「コトネ…」 フッと、自分の宿敵だった人物の名前を呟く。 「任務が終わるのに…何でこんなに寂しいんダロ…」 理由は嫌と言うほど分かっているのだが、そう愚痴っていなければやりきれなかった。 ☆★☆ 日時の経つのは早いもので… 今日は日曜日、琴音の迎えが来る前日だ。 すでに浩之達は必要な準備を終え、リハーサルも何度も何度も行っていた。 「さてと、今日の練習はここらへんにしとこか」 「ういーっす」 何時の間にか場を仕切っていた智子の声が響く。 「泣いても笑っても明日が本番や。気合入れていくで!」 「でも今日は気を休めて早く寝るぞー」 「な、何気の削げる事を…」 誠治ははっはっはと笑いながら逃げるように帰っていった。 「ったく、それじゃみんなも今日の復習したらさっさと寝や!」 智子も去ってゆく。 そして、雪崩式に残りのみんなも帰ってゆき… その場には浩之と琴音だけが残された。 「どうした琴音ちゃん、帰らないのか?」 「え…あ、はい」 「帰らないの?」 「あの、その…」 もじもじと体を揺らす琴音。 何か頬が赤いような気もする。 「ふ、藤田さん…」 「何?」 「今日…藤田さんのお宅に泊めてもらってもいいですか?」 「へ? 今なんて?」 間抜けな声で聞き返す浩之。 「あの、だから藤田さんの家に泊めてもらいたいと…」 「………」 浩之の時間が止まった。 「………」 「………」 「………」 「………」 「あの…?」 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 派手にガッツポーズを決める浩之。 完全復活。 「あ、あの、誤解しないで下さいね。別にその…あ、あんな事とかそんな事とか…そうい うのを期待しているわけでは無くて、そのですね…不安な気持ちとかがあって、ええと…」 「安心しろって、それぐらいは分かってる」 そう言いながらもいっひっひといやらしく笑う浩之。 琴音も笑って答えるが、なんだか顔が引きつっている。 「さてと」 普段の状態に戻ると、浩之はぽんっと琴音の肩に手を置いた。 「んじゃ帰るか」 「はい…」 そして、夜が来た。 初めは琴音を自室のベッドに寝かせ、自分は居間のソファーで寝るつもりだったのだが、 琴音が手の届く場所にいて欲しいと言うのでいろいろ検討した結果、何故か両親の使って いたダブルベッドで眠る事になってしまった。 「お休みなさい…」 「そ、それじゃお休み…おっと、電気消さなきゃ」 ぱちっ 明かりは消え、部屋は真っ暗闇に包まれた。 (さて寝るか、明日はいろいろ大変なんだし) 琴音の事を意識しないよう、さっさと寝るように努める浩之。 (さあ寝るぞ、やれ寝るぞ、いざ寝るぞ) しかし… 「藤田さん…」 きゅっ (#+P$E*&%#Q”=*¥!!!!!) 声にならない叫びをあげる浩之。 なにしろ琴音の方から体を摺り寄せて来たのだから。 「こ、琴音ちゃん…」 必死に自分の煩悩を押え込みながら琴音の名を呼ぶ。 「ごめんなさい…でも、でもわたしとっても不安で…」 不安… その言葉を聞いた時、浩之は彼女の体がガタガタ震えているのに気が付いた。 そのとたん、浩之の中の琴音に対する愛欲は薄れ、逆に護ってあげたいという強い気持 ちが湧いてきた。 (もう大丈夫だ) なんとか平常心を取り戻した浩之は、自分のパジャマを控えめに掴んでいるだけの琴音 を、優しく胸に抱き入れた。 「あっ…!?」 「安心しな、琴音ちゃん。絶対にオレが護ってやるからさ」 「………」 不安げな瞳で浩之を見上げる琴音。 「な?」 もう一度念を入れる。 「はい…」 弱々しくも、しっかりと彼女は答えた。 ☆★☆ ついに運命の日がやってきた。 「いいかい琴音ちゃん。みんなへの挨拶が終わったら、すぐにオカルト研へ来るんだ」 「はい」 最後の確認を済ませるメンバー。 「それでは…」 「作戦開始や!」 「「「おーっ!!!」」」 智子の気合の入った声と共に、全員が拳を挙げた。 午前9時、朝イチに琴音の挨拶が行われた。 別れを惜しむ人、涙を流す人… 反応は様々だが、ほとんどの人達は自分がここからいなくなる事を惜しんでくれている 事は分かった。 (だから、絶対に作戦は成功させないと…) 壇上で挨拶をしながら、琴音は新たな決意を固めていた。 午後10時、挨拶が終わり、琴音は指定通りにオカルト研へと向かった。 そこには既に芹香と浩之とセリスが待っていた。 「………」 「あ、はい、この護符を身につけるんですね。え? あとこの聖水を体に振り掛ける…で すか」 これらの魔法のアイテムにより、琴音達は姿も気配も全く感知できなくなった。 いや、然るべき方法を使えばしっかり分かるのだが、そもそもそんな用意を普段からし ている人物などまずいない。 「いざという時は岩下さん達がちゃんとサポートしてくれるからね」 「じゃあ行くか、琴音ちゃん」 「はい」 浩之、琴音、セリスの三人は、窓からこっそりと部屋を出て、地面へと降り立った。 「じゃ、先輩。行って来るぜ!」 浩之は右手をぶんぶん振った。 芹香はそれに答え、控えめに浩之と同じ右手を挙げた(芹香には三人が見える) その時だった。 ゴゴゴゴゴゴ… 「な、なんだ?」 突然の地響き、大気もビンビンと震えている。 「そ、そんなまさか…!?」 琴音の顔が青ざめる。 なんと、空に無数の円盤が浮かんでいたのだ。 「あれは…UFO?」 「ただのUFOじゃありません! 軍で採用されている戦闘機です!」 「なんだって!?」 その次の瞬間… 世界は光に包まれた。 「く…一体何があったんだ…」 浩之が頭をもたげたのと、セリスが意識を取り戻したのはほぼ同時だった。 周りを見回してみると、身につけていた護符などは砕けたり千切れたりして四散していた。 「セリス先輩、大丈夫ですか?」 「ああ、それより姫川さんは…」 「怪我は無いみたいです。運良くオレ達がクッション代わりになったみたいで」 「そうか、まあ無事でなにより…」 チャキッ 「へ?」 突然浩之とセリスの鼻先に黒光りする銃口が突き付けられた。 恐る恐る上を向くと… 全身を装甲で覆った、大人の姿をしたヒメカワ星人達がいた。 「あなた達は一体…」 「琴音様」 女性…いや、兵士はセリスの問いには答えず彼女の名を呼んだ。 「お迎えに参りました。さあ、行きましょう」 「な…!?」 浩之がガバッと跳ね起きた。 「何が迎えに参りましただ! テメエら自分達が何しでかしたか分かってんのか!?」 「分かっていますとも」 兵士は事も無げに答えた。 「私達の任務は琴音様を母星にお送りする事。その際手段は選ぶなとも言われています」 「本気かよ…」 「では」 兵士のひとりが琴音に歩み寄る。 「させるか!」 「邪魔です」 ドカッ! 「ぐわっ!?」 体が思うように動かない浩之は、あっけなく張り倒された。 兵士が琴音に手を伸ばす。 「や、やめ…ろ…」 その時、凛とした女性の声が響き渡った。 「──サウザンドミサイル!」 「!?」 ズドドドドドドドドドドドド…!!! 無数に降り注ぐペンシルミサイルが兵士達をゴミのように吹っ飛ばした。 「な…何!?」 この大音響と振動に、気絶していた琴音もさすがに目を覚ます。 「ど、どうなってるの? 何があったの!?」 あたりは一面クレーター、その周りにはヒメカワ兵がバタバタと倒れている。 「これは…!?」 「ああ、コイツらがいきなり襲い掛かってきやがったんだ。何がなんでも琴音ちゃんを連 れ帰るんだとよ。手段も選ばねえとさ」 倒れている兵士達を見据えながら、緊張感のこもった声で浩之が答えた。 「そんな…どうして私を連れ戻すのに軍隊が…?」 「いや、そこまでは知らねえけど…」 「おかしいですよ…絶対におかしすぎます! 女王様はこんな事をするような人じゃあり ません!」 「ま、まあ落ち着けよ…」 「もう嫌っ! 一体どうなってるのよ!」 琴音は耳をふさいでイヤイヤと首を振った。 「落ち着けって!」 「──あの、お取り込み中のところ悪いのですが…」 「うわっ!?」 「きゃっ!?」 ずずいっとDセリオが浩之と琴音の間に入り込んだ。 「──理由は分かりませんが、この騒動の直接の原因は琴音さんですね? よってあなた には今から私達の管理下に入って頂きます」 「ちょっと待て!」 「違う!」 浩之とセリスが叫ぶ。 が、Dセリオはそれを気にした風も無く琴音の後ろに回った。 「でぃ…Dセリオさん、その…」 琴音が弱々しくも説得しようと試みる。 「──それでは琴音さん、この騒動の責任を取ってもらうために…」 「おいDセリオ! 琴音ちゃんは…」 「──…あなたに学園外への追放を命じます」 「悪いのは姫川さんでは無くて…え?」 「──では、刑の執行です」 Dセリオは琴音の腰に手を回すと、背中からせり出したバーニアを点火した。 「──琴音さんの罪を軽くしたいのなら、くれぐれも追跡者などを出したりしないように してくださいね」 「あ、ああ…」 「──では!」 その一声と共に、Dセリオは琴音を抱えて学園外へと飛び出した。 後に残されたのは浩之とセリスのふたり。 「とりあえずこれで琴音ちゃんを逃がすって目的は達せられたと考えていいのかな?」 唖然としたままセリスに問う浩之。 「ああ、でもこれからが大変だぞ。姫川さんがまだ学園内にいると敵方に思わせなければ いけないからな」 ☆★☆ 学園は阿鼻叫喚の坩堝と化していた。 別にヒメカワ星人が集団で現れる事自体は珍しくない。 しかし、それが大人の姿をしていて、武装していて、さらに自分達に敵意を持っていた らどうなるか? さすがにそんな状況は初めてだった。 浩之達メンバー以外の生徒は何故こんな事態になったのか分かっていない。 それでもとにかく、自分と友人、大切な人を護るために皆全力で戦っていた。 そんな喧騒から少し離れた部屋、暗躍生徒会本部。 ここは番組の最後あたりにならないと部外者は踏み込む事ができない…と校則に定めら れている。 それは地球外から来たヒメカワ星人に対しても同じ事、よってここだけは平和だった。 「………」 そんなこの部屋の片隅で、ひとりの少女が机に突っ伏している。 「ハア…」 溜め息を吐き、体を揺する。 傍目には、本当は何かをしたくてうずうずしているのに、無理矢理落ち着こうとしてい るように見える。 「ねえレミィちゃん」 「What!? ア…ルリコ」 何時の間にか自分の前に立っていた瑠璃子に驚きつつも、レミィは体を起こして瑠璃子 と話をする体勢を取った。 「ドーしたノ? アタシに何か用?」 「レミィちゃん、無理は良くないよ」 「エ!?」 レミィは背筋が寒くなるのを感じた。 (アタシの考えを読んでいる?) そんなレミィに対し、くすくすと笑いながら、事も無げに瑠璃子は言った。 「レミィちゃんから寂しそうな電波がいっぱい出てたから」 そうらしい。 「とっても寂しそうな電波だったから。ちょっと興味があって受信しちゃった」 そう言ってまたくすくす笑う。 「興味って…そんな勝手に人の心を読まれたら困りマス…」 もう諦めた風にレミィが答える。 「そうだね、秘密は人に知られたくないから秘密なんだもんね。他の人が見ちゃったら秘 密が秘密じゃ無くなっちゃう」 またくすくすと笑う。 レミィはその人を食ったような態度にカチンと来た。 「ルリコ…一体何がいいたいネ?」 普段の彼女なら絶対にしない、ブスッとした表情で瑠璃子を睨む。 「ん…琴音ちゃんと良く似てたから、電波」 「エ…」 琴音という言葉に反応するレミィ。 「ねえレミィちゃん、行ったら?」 「行くって…ドコへ?」 「琴音ちゃんのところ」 「………」 「ミヤウチのエージェントとして、ヒメカワの女王候補を拉致するのって大手柄だと思うよ」 「…ナルホド!」 パンと手を叩く。 「フッフッフ…そうと決まれば善は急げヨ! 首を洗って待っているがいいワ、コトネ!」 レミィは部屋のドアをぶち破り、高笑いをあげながら爆走していった。 「頑張ってね…レミィちゃん」 ☆★☆ 「琴音様は一体どこへ行ってしまわれたのだ」 「さあ…」 ヒメカワの兵士達は体育館裏に集まり、お互いに情報交換を行っていた。 「もしかしたら既にこの場から離れているかもしれんな」 「将軍殿!」 軍服を纏った、将軍と呼ばれたその女性は、兵士達の輪の中心へと歩み出た。 「しかし将軍殿、もしそうだとしたら姫様を探し出すのは至難の技」 「分かっている」 彼女はニヤリと壮絶な笑みを浮かべた。 「その対策もしっかり立ててある。誰かテレパシー能力に長けた者を連れて来るのだ」 ☆★☆ 来栖川警備保障Leaf学園支部本部…略称警備保障。 ここではヒメカワ軍団の襲撃のおかげでてんてこまいになっていた。 「──現在B−23地区に五人のヒメカワ一般兵を確認」 「すぐに防火シャッターを降ろして進行を押さえて!」 「へーのき君、D−05地点に八人の一般兵とふたりの重装歩兵が…」 「ええ〜っと…エルクゥ同盟! 近くにいるエルクゥ同盟に連絡!」 「ねえねえへーのき君、このモニターってどうやって見るの?」 「T君! 先生にモニターの見方…ってどこ行っちゃったの〜!?」 隊長であるDセリオが不在のため、そのパートナーであるへーのきがみんなを仕切って いる…正確にはその役目を押し付けられたのだが。 現在警備保障にいるのは、みんなを指揮しているへーのき。 モニターを監視しているDマルチ、榊。 モニターの監視をしようとしているらしいが正直言って邪魔しかしてない由綺。 DガーネットとDボックスは、ヒメカワ兵排除のために校内を暴走…もとい巡回している。 「はーっ、はーっ、はーっ…」 限界を超えた仕事量に、へーのきのストレスがどんどん溜まってゆく。 「あーっ! やってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ついにキレた。 んでもってストレスは毒電波に変換され… ちりちりちりちりちりちり… 「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 鎖で椅子にがんじがらめにされているOLHに放たれた。 「ふう」 すっきり爽快。 へーのきは元気に業務へと戻っていった。 「ってなんで俺はこんな役ぅぅぅぅぅ!?」 だって琴音ちゃん追っかけて騒動起こすでしょ? 「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 だくだくと理不尽な仕打ちに対し涙を流すOLH。 そこへ、小さな女の子がテクテクと歩いてきた。 「おにいちゃん」 「ああっ、笛音ちゃん! 頼むからこの鎖を解いて…」 「だめ、おねえちゃんのところにいっちゃうから」 「しくしくしくしく…」 笛音はぴょいとOLHの膝に飛び乗った。 「でもそのかわり、わたしがおにいちゃんとずっといっしょにいてあげるよ」 「笛音ちゃん…」 そんな少し倫理にひっかかりそうなラブラブフィールドが形成されようとしていた時だ った。 「──へーのきさん、Dセリオさんから連絡が入りました」 「ホント!? 今どこにいるって?」 「──現在は…」 Dマルチは皆を集め、テーブルの上に地図を広げた。 地図の上を彼女の細い指がシュッと走る。 「──この地点からこちらへ移動、その後三分程の小休憩でバーニアを冷却し、現在はこ こにいるそうです」 「だいぶ遠くまで行ったみたいだね」 「──はい、見つかっても時間稼ぎが出来るようにと…しかし、このままでは完全に孤立 してしまいます」 「それじゃ援護に何人か送った方がいいよね」 「でも敵さんにばれないようにしないと」 「う〜ん」 「どうしよっか?」 「「「うわぁっ!?」」」 何時の間にか笛音はみんなの間に入り込み、腕を組んでいっちょまえに頭を捻っていた。 「ささ、笛音ちゃんはOLHさんと遊んでて」 へーのきが素早く手慣れた風に笛音の背中を押す(お子様の世話まで押し付けられている らしい、この男) 「けちー」 笛音がブーブー言いながらも、OLHの膝の上に戻ろうとした時だった。 ドクンッ! 「!?」 笛音の体がガクンと傾き、そのまま前のめりに床に倒れた。 「笛音ちゃんっ!?」 「どうしたの!?」 慌ててへーのきが駆け寄る(OLHも駆け寄りたかったのだが鎖で(以下略)) 「笛音ちゃん! 笛音ちゃん!」 「こらへーのき! 笛音ちゃんから離れろ!」 「あ、あたまが…」 「頭…?」 笛音は小さくなって頭を抱え込む。 「なにかが…なにかがあたまにはいってくるよ…いたいよ…いたいよぉ…」 「頭の中に入って来る…?」 「笛音ちゃんは俺んだぁぁぁ!」 「黙れ」 ゴスッ 榊の容赦無い一撃。 OLHは昏倒した。 「一体どうしたんだ、笛音ちゃん」 「あたまが…あたまが…」 「──へーのきさん…」 心なしか青ざめたような顔で、Dマルチが口を開いた。 「どうしたの、マルチさん」 「──ヒメカワ星人にはテレパシー能力があるといいます」 「それは知ってるけど…」 周知の事実だろ? と返すへーのき。 「──もし、その能力を使って相手の記憶を無理矢理取り出す事ができたら…?」 「な…!?」 絶句する一同。 「──あくまでも笛音さんの状態から導き出した推論に過ぎません。しかし、もしこの推理 が当たっていれば…」 「まずい! セリオさんの居場所がばれた!」 へーのきは慌てて通信装置に向かった。 ☆★☆ 昼間にも関わらずほとんど光の届かない深い森。 時折聞こえる鳥のさえずり以外は何も聞こえない、静寂の世界。 そんな場所で、Dセリオと琴音は背中合わせに座り込み、しばしの休憩を取っていた。 「──さて…」 Dセリオがゆっくり立ち上がり、伸びをする。 「──それでは行きましょうか?」 「はい」 琴音が立ち上がり、後ろにDセリオが回ったその時。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「!?」 突如大地を揺るがす大音響。 「まさか…」 「──そのまさからしいですね」 空に浮かぶ十数機の戦闘用UFO。 その一機から降伏を促す勧告がされた。 『我々としては手荒な事を望まない。そちらが大人しく降伏するなら…』 「──手荒な事を望まない…? 大人しく降伏…? ふ、ふふふふふ…よくもまあそんな事 をぬけぬけと…」 様子が怪しい。 「あの…Dセリオさん?」 「──Get Ready…Fight!」 戦いの火蓋は切って落とされた。 「──ファイナルD・D!」 いきなりDセリオは切り札のひとつであるドリルミサイルを放つ。 不意を突かれたUFOは、あっけなく直撃をくらい、爆発、四散した。 『そちらが抵抗する気ならこちらも遠慮はしませんよ』 「──もとより遠慮する気は無かったでしょう…? サウザンドミサイル!」 Dセリオの全身から無数のペンシルミサイルが放たれ、次々に派手な爆発を起こす。 しかし相手は分厚い装甲を纏った兵器。 たとえ数が多くとも、一発一発の威力が無いペンシルミサイルでは装甲に傷を付けるぐら いしか効果は無い。 『そのような子供だましの武器では我々には勝てません………な!?』 しかし、身を隠す煙幕としての効果は十分にあったようだ。 爆風と煙が晴れた時…既にDセリオと琴音の姿は消えていた。 「──こちらHMX-13D、応答願います」 し〜ん… 「──…駄目みたいですね」 「駄目って…何がですか?」 「──通信を妨害されているみたいです」 Dセリオはやれやれと肩を竦めた。 「──通信ができない以上、この場を離れるのは得策ではありませんね。こうなったら援軍 が来るまで隠れていましょう」 「そうですね」 ふたりは地面に腰を下ろした。 そのまま沈黙が訪れる。 「あの…Dセリオさん?」 その沈黙を破るように琴音が口を開いた。 「──なんでしょうか?」 「済みません…」 「──?」 突然謝られて、Dセリオは目を丸くした。 「こんなわたしのために、体を張って護って下さって…」 「──それは違います」 俯いてしまった琴音の顔をグイと上げさせ、人差し指を立てる。 「──あなたがどういう理由で仲間に追われているのかは知りませんが…私はただ学園施設 を護るという最重要任務を遂行しているだけ。そのためには琴音さんを学園から連れ出すの が最適だと判断したのです」 みえみえの嘘をつくDセリオ。 でもまあ、こういうところが彼女らしいと言えば彼女らしいのだろう。 その意地でも素直にならない態度に、琴音はクスリと笑みを浮かべた。 「──何を笑っているのですか」 「あ、済みません」 謝りながらもニコニコとしている琴音。 「──まあ、いいですけどね」 Dセリオは嫌そうな顔をするとそのまま地面に仰向けに寝転んだ。 その瞬間 「──!?」 彼女は何かが接近して来るような気配を感じた。 慌てて飛び起きる。 次の瞬間… ドウンッ!!! 「──うあっ!」 Dセリオは右肩を吹っ飛ばされ地面を転がった。 「Dセリオさん!」 琴音が駆け寄る。 「──だ、駄目です! こっちに来たら…」 Dセリオと琴音の周囲をヒメカワ兵が取り囲む。 絶体絶命の大ピンチ! しかし、救いの手はあっという間に現れた。 ブロロロロロ… 「?」 何かの駆動音が聞こえてきた。 UFOでは無い。 「これは…車?」 琴音が呟いた瞬間。 草むらから一台のスポーツカーが飛び出した。 その車はヒメカワ兵を軽く蹴散らし(轢き殺すとも言う)、琴音とDセリオの正面に急停止 した。 「早く乗って!」 「急げ!」 ドアを開け顔を出した人物、それは誠治と浩之だった。 琴音とDセリオが乗り込むと、車は急発進し、あっけにとられている兵士達を置いて逃走 を開始した。 「済みません! 済みません!」 「──もういいですよ…い、痛たたっ!」 車に乗り込んでから、琴音はずっとDセリオに謝り続けていた。 「──私はロボットですから、故障しても直せばいい事です」 「でも…」 「ほら、本人がそう言ってるんだからお言葉に甘えちゃいなよ」 Dセリオに応急手当をしている誠治が琴音に言う。 「そうそう、こんな程度の怪我なんてしょっちゅうだろ? Dセリオは。だから琴音ちゃん は気にする事ねえって」 「──浩之さん、今の言葉は私のメモリーの一番大切なところに入れておきます」 「しまったぁぁぁぁぁぁぁ!?」 浩之、墓穴。 「そう言えば…」 ようやく平常心を取り戻し、琴音は車内を見回した。 「運転手さんがいないんですけど」 一番始めに気付くべき異常に今頃気付いた。 「ああ、これね」 それに事も無げに答える誠治。 「実はこの車FENNEK君なんですよ」 「?」 誠治の言っている事が分からずハテナマークを浮かべる琴音。 「あ、知らないのか…ええっと、まあ、ぶっちゃけて言えば意志を持った車だよ」 「そうなんですか、すごいですね」 琴音は感心して車内を見回した。 「さてと…とにかくこのまま逃げ続けるぞ。追手はエルクゥ同盟とジャッジに任せてある」 「準備万端ですね」 「まあね」 ところが… ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「………」 「………」 嫌な予感がして誠治が窓から顔を出してみると… 「たくさん追手が来てるじゃないか〜〜〜!!!」 『悪かったな!』 誠治のポケットが文句をたれた。 「?」 琴音とDセリオの頭にハテナマークが浮かぶ。 「いや、これは通信機が入ってるんであって…どうしたんだ、ジン君」 『はっきり言って数が多すぎる! デカイ奴は撃破できたがちいせえのは何体か逃しちまっ た。そっちでなんとかしてくれ』 「なんとかって…」 誠治は頭を抱えた。 (今いる戦力は…) Dセリオは負傷中。 狙われている琴音を出すわけにはいかないし… 空の相手では浩之も手も足も出ないだろう。 当然自分も論外だ。 結論… (迎撃できる人間がいない!) 「ど〜するんだよ誠治先輩!」 「俺に訊かないでくれ!」 今取れる行動は『逃げる』ただひとつだけである。 しかしこちらは車。 対して相手は空飛ぶ円盤、しかも多数。 追いつかれるのは時間の問題だ。 (ならば…) 浩之の中の卑怯回路が起動し、高速演算を開始した。 (相手を騙すのみ!) 「琴音ちゃん!」 「は、はい…きゃっ!?」 浩之は琴音を抱き寄せた。 「おい藤田君! こんな非常時に…」 「誠治先輩。オレ達はここらで降りさせてもらうぜ」 「は?」 「え?」 誠治と琴音は思わず間抜けな声を出してしまった。 「ちょっと待て。こんなところで止めたらすぐ掴まるぞ」 「分かってる。だから走ってる状態で飛び降りる」 「おい! 今何キロで走ってるか知ってるのか!?」 誠治が食って掛かるが、浩之は全く動じない。 「知らねえよ。とにかく茂みだかなんだか飛び出しても目立たねえ場所を走ってくれ。そこ でやるからさ」 「藤田さん、そんな事したら助かりません! もういいですから!」 「何がいいんだ」 「わたし大人しく星に帰ります! もうこれ以上みなさんに迷惑かけられない!」 「………」 「そうすれば全て丸く治まります!」 「ふざけんな!」 ビクッ 浩之の声に、琴音、そして誠治の体が震えた。 「琴音ちゃん、自分の事しか考えてないだろ」 「え…?」 琴音は目をぱちくりさせた。 「もしここで琴音ちゃんが諦めちまったらよ、オレ達のやってきた事はみんな無駄だった事 になるんだぞ!」 「あ…」 自分がとんでもない事を口走っていたのに気付き、琴音は顔を下に向けた。 「よし、じゃあ行くぞ」 「え、でも…」 琴音が抗議の声を上げた時、ちょうど車の進行方向に深い茂みが見えた。 「助かりたかったら念動力で護ってくれ。行くぞ!」 浩之はドアを開けた。 「藤田君!」 「藤田さん!?」 「そりゃぁっ!」 背中と胸元からの声を無視し、浩之は琴音を抱きかかえたまま身を投げた。 〜続く〜