■ その1 グレードアップ ■ 最近Dボックスの姿を見ない。 変に思ったへーのきはDセリオに聞いてみた。 「──実はですね……」 ・ ・ ・ 「ええっ、Dボックスさんがグレードアップ!?」 驚愕の事実。 「──はい、数日後には完成するはずです」 「あの箱がグレードアップするって?」 その噂は瞬く間に学園中に広まった。 「やっぱりAIだろ」 「そうだよなー。ちゃんと人間らしい会話ぐらいできてほしいよな」 「でも確かあの箱女性人格だったぜ」 「あの形で女って言われてもねぇ……」 「形はどうなるんだろ」 「足が付くのかな」 「それは変だろ。やっぱキャタピラじゃないか?」 「飛ぶのかも」 「あの箱が?」 「もしかしたら箱じゃなくなるとか」 「美少女型!?」 「なんか違和感が……」 「それ以前に名前に偽りありだよ」 いろいろな噂の飛び交う中、とうとうお披露目の日がやってきた。 皆の前には白い布がかぶせられた箱が鎮座している。 「やっぱり箱のままだ」 「じゃあ中身の改造なのか?」 「どうだろうなぁ」 「──何故こんなに人が集まっているのかは知りませんが、これから除幕です」 待ってましたとばかりに観衆達が歓声をあげる。 「──最新のトレンドも取り入れたニューモデル……」 Dマルチの手が布にかかった。 そして、一気に捲り上げる。 「──HMX-01D改、Dボックスキューブ!」 「──キューブデス、キューブデス」 し〜ん…… 「──どうしましたか?」 「「「変わってねぇぇぇぇぇ!」」」 本当に何も変わっていなかった。 P.S.ちなみにRAMが増設されただけらしい。 ──────────────────── G4キューブにゲームキューブときたら本家(謎)も黙ってはいられないのです! ■ その2 世紀末覇王伝 ■ 人気のない学園の中庭。 ひょうひょうと風の唸るその場所で、ふたりの少女が対峙していた。 ひとりは幼さの残る、小柄な少女。 ひとりは中肉中背の、冷めた瞳の少女。 「どうしてもやるの……?」 「やるわ、これはどうあっても避けられない闘いなのよ」 じりっ、 冷めた瞳の少女が足を一歩出した。 小柄な少女は両手を前に出し、構えを取る。 「くすっ」 能面のようだった顔に初めて表情と呼べる物が浮かんだ。 一触即発な状況とはおよそ無縁な──無邪気な笑み。 「何故逃げようとしないの?」 「えっ」 そうだ、何故逃げようとしなかった。 その気になればいつでも逃げれたではないか。 「あなたも望んでいるのよ……この闘いをね」 「私が……?」 そうなのかもしれない。 自分の“血”が闘いを望んでいるのかもしれない。 「素直になりなさい」 素直に…… 心の奥深くに眠っていた闘いの本能が、徐々に頭をもたげてゆく。 「いくわよ」 「はいっ!」 ふたりの、渾身の一撃が交錯した。 「初音ブレード!」 「なつみブーメラン!」 少し離れた物陰にて。 「ああ……私の、私のイメージが壊れていく……」 「……」(これがなつみさんの抑圧された欲望なのでは?) 「違うわよっ!」 ──────────────────── やっちまいました(死) ■ その3 老兵は消えゆくのみ…… ■ シャッ! 勢いよくカーテンを開けると眩しい朝日が部屋いっぱいに飛び込んできた。 「とうとうこの時が来てしまいましたか……」 beakerは凝り固まった肩を鳴らしながらゆっくりと部屋の中を見回した。 ノートパソコン、デジカメ、レーザープリンター、資料に使った各種雑誌等。 今まで自分と苦楽を共にしてきた思い入れのある器材──しかしそれも今日は妙に無機質で、寒々しい感じを受けた。 「もうここに来る事もないかもしれませんね」 肩掛けバッグをひょいっと持ち上げる。 「軽い……」 最盛期はこの数倍の重みがあった。 「時代は流れてゆく、そういう事ですね」 そう、この世に変わらない物などない。 全ては時間という大海に漂うゴミのような物。 簡単に、流され、沈み、消えてゆく。 beakerはバッグを肩にかけ、ゆっくりと、人気のない廊下を歩く カツン、カツン。 廊下に響き渡る自分の靴の音。 誰かいないだろうか。 この広い学校、一人ぼっちは寂し過ぎる。 コンコン。 頭上で何かを叩く音がした。 上を向いてみれば、天井の板を外して顔を覗かせた線の細い男。 葛田玖逗夜 「ちょうどよかった。これを渡そうと思っていたんですよ」 バッグの中から薄い冊子を取り出した。 「ありがとう」 葛田はそれを嬉しそうに手にとった。 beakerの胸がちくりと痛んだ。 表紙を見た葛田の顔が、じわじわと蒼白になってゆく。 「beakerさん……」 「仕方なかったんですよ」 俯いたまま、beakerは言った。 「僕だって本当は……!」 「わかってます、わかってます!」 開きっぱなしのバッグから、冊子が一冊抜け落ちた。 爆弾乙女会報『燃え燃え生活』最終号。 来栖川警備保障のDセリオを慕う者達の会、爆弾乙女。 一時は数十人規模にまで膨れ上がり しかしあろう事か警備保障自身が圧力をかけてきたのだ。 脱退者は増える一方、そしてとうとう活動停止に追い込まれてしまったのだ。 「僕は諦めていませんよ」 beakerは硬く拳を握り締めた。 爪で皮膚が裂け、血が滲み出るほどに…… ──────────────────── 誰も憶えてないに30カノッサ(笑) ■ その4 安上がりパワーアップ作戦 ■ 「──最近Dマルチさんが武器代を出してくれないのです」 居間──もとい休憩室で茶などをすすりながら羊かんをつついていたへーのきと由綺は、 突然のDセリオの告白に顔を見合わせた。 知らない人のために説明しておくと、来栖川警備保障Leaf学園支部の本部には仕事用の メインルームや倉庫などの他に休憩用の部屋がある。 それだけなら別に珍しくもなんともないのだが、この休憩室は日本かぶれ──もとい日 本の文化に造詣が深いDマルチが設計したため古きよき時代の茶の間を再現した形になっ ているのだ。 よって、床は畳、机はちゃぶ台、テレビはダイヤル式でドアは障子だ。 隣接する給仕室もその時代の台所を再現しており雰囲気はばっちり。 壮絶な日常を送る警備保障アルバイト達にとって、ここは勤務中にゆったりとくつろげ る数少ない場所なのである。 そして話は冒頭に戻る。 Dマルチが武器代を出してくれない。 へーのきには──いや、彼に限った事ではないが──すぐ理由がわかった。 Dセリオの見境ない武器の乱用──これしかない。 彼女は全身に膨大な量の重火器その他の武装を装備、もしくは内蔵している。 それを揃えるだけでも大変なのに、出動がある度にそのほぼ全てを撃ち尽くしてきてし まう。 はっきり言って今までちゃんと金が出ていた方が不思議なのである。 チラリと台所──もとい給仕室を覗いてみると、ぴーぴー鳴るやかんの横でDマルチが 思考の海に沈んでいた。 相当困っているらしい。 ここは少し手伝ってあげるべきだろう。 その小さな親切が大きな厄災となって返ってくるのが常なのだが、この男はまだきちん と学習しきれていなかった。 「セリオさん、もうお金って全然ないの?」 「──いえ、しかしこれだけではミサイルの補充もままならないですし、他に……」 Dセリオの物欲は止まらない。 ちらりと時計を見るへーのき。 休憩時間はあと10分。 貴重な休み時間がもうすぐ終わってしまう。 それに羊かんも食べ途中だ。 流石のへーのきもこれ以上付き合ってはいられなかった。 「せっかくだから第二購買部で一般に売ってる武器を見てみたら? 案外いい物があるか もよ」 だからこの憩いの時を邪魔しないでくれ。 流石にこれは口にはしなかったが。 「──そうですね、」 Dセリオは素直に納得して部屋を出て行った。 これで安心して残り10分を休む事ができる。 「さてと、それじゃ羊かんを……」 残っていなかった。 「あ、へーのき君が話してる間に食べちゃったんだけど……いけなかった?」 済まなそうな顔をする由綺。 「べ、別にいいですよー」 「ホント? ごめんねー」 「いや、ははは……楽しみにしてたのに……」 正直に怒る事ができない自分がちょっと悲しいへーのきだった。 所変わって、第二購買部。 商品の陳列をしていた部長のbeakerはお得意様の姿を見つけて顔を上げた。 「いらっしゃいDセリオさん。何か注文ですか?」 「──いえ、今日は一般向けに売っている物を見に来ました」 「おや、珍しいですね。ではこちらへ」 beakerの案内した先には、ひのきの棒から銃器まで様々な武器が並べられていた。 「それで今日はどのような物を」 「──私が使う銃器が欲しいのです」 「とりあえず銃器なら……こんな物はいかがでしょう?」 beakerが差し出したのは44マグナム。 拳銃の中ではトップクラスの威力を誇り、人相手ならかすっただけで死に至る事もある という映画や漫画などにもよく出てくる有名な銃だ。 しかし、派手好きな彼女はちょっとお気に召さなかったようだ。 「──拳銃はちょっと……マシンガンはありませんか?」 「マシンガンは意外と需要がなくて在庫がないんですよ。そうですね、威力を求めるなら このロケットランチャーはどうでしょうか?」 beakerの提示したそれはかなり大きく、全長2メートル弱もある。 Dセリオは試しに肩に担いでみた。 ずっしりとした重みが頼もしい。 「──これなら戦車相手でもいけますね?」 「ええ、一発限りですけど」 「──一発!? それでは対戦車ヘリが追撃してきた時どうすれば!」 「そんな事を聞かれても……」 確かに困る。 「──余分な弾はいらない、一発で仕留めるだなんて言葉は戦いをなめた連中の自己満足 の戯言です。弾は多ければ多いほどいいに決まっています、経験的に!」 Dセリオの必殺技オンパレードな戦い方では一発で決めるなどという理念はこれっぽっ ちもないようだ。 「でも一撃必殺というのもなかなか味があると思いますよ?」 「──…確かにそれもいいですが、波動砲やイデオンソードの類ならともかく、ロケット ランチャー程度では……」 ロケットランチャー程度ときたものだ。 「いえいえ、Dセリオさんはもう少し火力ではなく戦略による戦い方を憶えた方がいいで すよ。というわけで、次のお勧めはこれです」 翌日の昼休み。 ジンは珍しく中庭のベンチで昼寝をしていた。 戦いの中でしか生きられない男の束の間の安息。 しかし、不幸の星の元に生まれた彼にはそんなささやかな休息すら与えられないのだった。 突然ビクリと跳ねあがり、芝生に倒れこむジン。 ざわざわと騒ぎ立てる生徒達。 いったい何が起きたのか。 原因を考えてみるが、どれも憶測の域を出なかった。 例えば── 頭にパンチを受けすぎて脳にダメージを受けていたとか。 千鶴料理の食べすぎで悪質なウイルスに感染したのかもとか。 いや、サイボーグらしくコンピュータウイルスかもしれないとか。 ちなみに遠巻きで見守っているのみで助け起こそうとする人物はひとりもいない。 自爆装置の爆発に巻き込まれるかもしれないからだ。 ──もちろんそんな物はないのだが、彼に対する生徒達の認識はそんな物である。 「くぅ……いってぇ〜」 だから彼が頭を抑えながら起き上がった時皆の胸に飛来したのは『これで自爆だけはな いな』という安心感であった。 しかし安心するには少し早すぎた。 「誰だぁぁぁぁぁ! 人が寝てる時に銃弾撃ち込んだのはっ!」 吼えるジン、慌てて中庭から逃げ出す生徒達。 「お前かっ! それともお前かっ!?」 しかし頭に血が上ったジンは相手を確かめる事もせずに、片っ端から地の海に沈めてゆ く。 それからわずか数分。 あたり一面に横たわる屍の山。 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図さながらであった。 一方狙撃したDセリオはというと。 「──あんまりスカッとしませんね」 早々と本部に戻りライフルの違法改造に取りかかっていた。 「──この超小型反物質爆弾を弾丸に詰めてみましょうか」 どうやら倉庫に残っていたパーツを元に自分で理想の武器を作ってみる事にしたらしい。 創造的で大変よろしい。 この調子ならしばらくの間出費を低く抑えられるかもしれない。 でも結局一週間持たなかった。 倉庫に山と積まれていたスクラップの山は何時の間にかなくなり、出費の額はすぐ元に 戻った。 へーのきはやっぱりなと肩をすくめた。 Dマルチは本社へどう言い訳しようかと頭を抱えて思考の無限ループに陥った。 由綺は何も考えていなかった。 ただ一人、以前のように武装を強化できるようになってDセリオは大満足だった。 ──────────────────── 書きながら、もしかしたら警備保障が学園で一番金持ちの組織なのかもしれないなーと か思ったりしました。