清められ、白装束を着せられた少年少女達。 花で埋め尽くされた棺。 最後の、別れの場。 その中に、青年にとって特別な存在が居た。 青年はその少女を苦手としていたし、時には疎ましく感じた時もあった。 反発もしたし、意見を違え、激しく口論した事もあった。時には対立し、時には親しく。 それは家族として……あまりに当然の事。 しかしそれは総て過去の事になってしまった。 病や寿命であったなら、納得出来たかもしれない。 それが事故であったなら、時間がかかったとしても、或いは諦めることも出来ただろう。 しかし少女の命は何者かの手で奪い取られた。 ――何故だ!? その資格が誰にあったというのか? 若い命を奪い取る資格を持つ者など、何処に居ると言うのか!? 無限の可能性があった。 憧れている異性もいた。 夢もあったはずだ。 あるいはその夢に向かって、努力を重ねていたかもしれない。人には――兄である自分 にさえ――気付かれないように。 努力しているところを見られるのを嫌う少女だった。 恥ずかしいから、と。 いつでも強がって、何でもない振りをして……それでも最後には、父でもなく母でもな く、兄である自分を頼って来た。 かけがえの無い妹。 父兄として、保護者という立場から解放されるまではと、頼れる兄であろうとしてきた。 行き違いもあったし、余計な世話だと怒られた事もあった。 けれど……。 ――その結末がこれか!! 今彼に、少女の為に出来る事は何一つなかった。 ――なにが頼れる兄だ! SS不敗流宗家だ!? ……そんなものが今、なんの役に立 つ? 青年の名は西山英志。 10代の若さで新たな流派を創設した、曲者揃いで知られるLeaf学園の中でも最も 洗練された格闘技を使うと言われる男。 けれど今のその姿は、失ってしまった家族、友人を思い、涙を流す大多数のうちの一人 にすぎない。 その握力故に、両の拳から血が流れ出ていた。 やり場のない怒りがあった。 憤りがあった。 そして、何より深い悲しみが。 涙は……止まらなかった。 Lメモ魔王大戦 「硝子の現実」 『第三幕 "転" 涙と怒り』 それが夢だとわかっていた。 わかっていて、目覚めたくなかった。 目を覚ませば、そこには冷たい現実が待っているのを知っているから。 「ほ〜らヒロ! なにぐずぐずやってんのよ!」 「うるせ〜な。いいだろ別に。んなに急がなくてもヤクドは逃げないぜ?」 「いいじゃない。お腹減ってんだから」 皮肉げな口調で返す浩之に平然と答える志保。 そんな二人に、あかりと雅史がクスクス笑いながら同意する。 「そうだね。私もお腹すいちゃった」 「僕も。ここからならそんなに距離もないし、ヤクドまで競争しようか?」 「賛成! ドベになったらみんなに一品おごる事!」 雅史の提案に志保が飛びつき、即座に走り始める。 「あ! テメ、きたねぇぞ!」 「ずるい卑怯は敗者の戯言! 勝てば官軍よ! この志保ちゃんの鍛えぬかれた脚力に付 いて来られる!?」 志保の言うとおり、学園のレポーターとして走り回る彼女の足は意外にも速い。 「言ったなてめぇ! あとで吠え面かくなよ!」 叫んでいる間に、両隣からあかりと雅史が飛び出す。 これも速い。 雅史はサッカー部で将来を嘱望される次期エース最有力候補だし、あかりはどこで何を 思ったのか、剣の道を目指し始めて随分経つ。 要するに日夜鍛えている彼らと、日々だらけている浩之では地力が違うのだ。 「ほらほら浩之ちゃん。急がないと本当にビリになっちゃうよ?」 「僕だって手加減はしないよ。浩之も頑張って」 ――や、やばいぜ。こんな所で出費がかさんだら、今月買う予定のCDが……。 二人とも他人を気遣う余裕まであるのだ。このままではビリ確定である。 「待てよお前ら! オレのオゴリなんて冗談じゃないぜ!」 ――あ? 駆け出そうとしてつんのめる。 足が言う事を聞かない。 「行くよ二人とも! にっくき藤田浩之を貧乏地獄に叩き落とすのよ!」 「おー!!」 「私はそういうのは別にいいんだけど、今月はちょっとピンチなの! ……という訳で御 免ね浩之君!」 一年生トリオ――EDGE、M・K、隆雨ひづき――が情け容赦無く浩之を追い抜いて いく。 浩之は信じられないものとして、その姿を捉えていた。 ショックを受けていた。 ――出て来るな……出て来るなよおい。俺達は"4人"で出かけたんだ。お前らはいなか ったんだ! こんなところにお前らがいるはずがねぇんだ!! 「ちょ……ちょっと待てよ……おい………………」 「待つのは君です。藤田くん」 呼び止められた先に居たのもまた、ここにいるはずのない、見知った男だった。 眠たげな、というより開いているのかいないのかわからない、メガネの奥に輝く瞳。 いつも目深にかぶった黒い帽子。 そして手に持った分厚い本。 「お、お前……T−star−reverse? こんな所でなにやってんだ?」 「それはこちらの台詞です。貴方こそいつまでこんなところで遊んでいるつもりです?」 不機嫌の極みだと言わんばかりに、T−star−reverseは口元を歪めた。 「いつまでも起きてこないのは何故かと思えば、安穏な夢に逃避していたとはね。もう少 し気概のある人だと思っていましたが、正直見損ないましたよ」 「な……んだと?」 「現実を忘れた訳でも無いでしょうに……」 T−star−reverseが腕を一振りする。 それだけで先を走っていた6人の姿が消える。 街並みが消えていく。 すべての物が霞み、消えた。 乳白色の世界に残ったのは藤田浩之とT−star−reverseだけ。 「お、おい……なんだよ、こりゃ」 「貴方の帰りを待つ者もいると言うのに……いいかげん目を覚ましませんか?」 「わけわかんね〜こと言ってねぇで、なんとかしろよこれ。お前の仕業なんだろ?」 「……残念ですね」 悲しげな表情を作ると、T−star−reverseはもう一度、腕を振った。 「なら……悪いけれど貴方が見たであろう最後の光景を見せてもらうよ。……私達にはも う余裕がないんだ」 何も無かった空間に、ヴィジョンが浮かぶ。 あの夜の光景が、脳裏に焼き付いた記憶が、再現される。 恐怖に引き攣った幼なじみたちの顔。 助けを求める腐れ縁の少女の顔。 手を伸ばす事さえ出来なかった自分。 悲しいほどに無力だった。 「止め……ろ」 「傷痕を抉る真似をしている事はわかってます。こんな事をして許されるとは思ってない。 でも……」 ギリッと、食いしばった歯が嫌な音を出した。 「誰かがやらなくちゃならないんだ……」 T−star−reverseは決然と浩之を睨み据えた。 この事件を引き起こしたのが誰なのか? それはまだわかっていない。 ――もう野放しには出来ない。これ以上被害が広がる前に。葵さんに危害が及ぶ前に。 「止めろ……」 それでも浩之は呟いた。 電波の渦があかりに襲いかかる光景が再現される。 彼女の顔が苦痛に歪み、涙が流れ、唾液が地面にばらまかれる。 「止めろ! もう止めてくれ!!」 浩之の目から涙が流れ出る。 志保が、雅史の精神が壊されていく様をもう一度見せ付けられ、浩之はうずくまり、泣 き叫んだ。 「すまない……これは私のエゴだ。許してくれとは言わない。それだけの事をしているん だから。苦痛は……もう終わる。君は忘れていい……。ここで眠り続けなさい、藤田くん。 ……会えて楽しかったですよ」 T−star−reverseは気付いていなかった。 それが勘違いであった事に。 その言葉がT−star−reverseに向けられたものでは無い事に。 「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 浩之の叫びは、肺腑の空気を総て出し尽くさんと欲した。 弾かれたように跳ね起きる。 視界は涙で曇っていた。 それでも、自分がベットに寝かされていたことはわかった。 何を掴もうとしたかさえわからない、突き出された右腕。 掴むものは何も無い。 目の前にあるのはただ、白い壁。 「浩之! 目を覚ましたか!」 「ダーリン!! ……よかった…………」 YOSSYFLAME、四季。 浩之を心配し集った面々を、しかし浩之は見ようともしない。 「畜生……畜生!」 ベッドに拳を叩き付け、人目をはばからず号泣する。 それはなにも出来なかった自分に対する憤りと、悔しさから出た涙だった。 「藤田くん……」 手に持っていた笛――遊想笛。この笛を吹き鳴らせば、眠っている相手の夢を操る事が 出来るという宝貝――を降ろし、T−star−reverseは呆然と呟いた。 ――私はまだ、藤田くんの事を見誤っていたのか……。 涙に覆われた浩之の瞳には紛れもない怒りと、そして闘志が宿っていた。 「セリス!!」 大音響と怒鳴り声を伴って、ジン・ジャザムは遺体安置所となった体育館に飛び込んだ。 全力疾走してきたのか、入り口で立ち尽くすその肩は激しく上下していた。 呼吸が荒い。 それでも金色の双眸が辺りを睥睨する。宿敵の姿を求めて。 ポカンと気の抜けた様子でそれを見つめていた人々の中から、彼が目当てとする人間を 見付け出すのは比較的簡単だった。 その傍らに、マルチと天神昂希がいたから。 「てめぇ! 俺と決着をつけるんじゃなかったのかよ! いつまでも寝てんじゃねぇぞコ ラァ!!」 「ジ、ジンさん落ち着いて! 霊前ですよ!?」 背後から駆け寄ってきた幻八がジンにしがみつく。 「やかましい! あいつがそんなに簡単にくたばる訳がねぇ!」 幻八を振り払おうとさえせず、ずかずかと歩を進めるジン。 「起きやがれ! 勝ち逃げする気か!? 俺との因縁はまだ終わってねぇだろうが!!」 諦めに来たのではなかった。 ほんのわずかな、かすかな希望に……あるいは縋っていたのかもしれない。 信じられなかった。信じられるはずもなかった。 あの男が自分以外の者の手で倒れたなど。そんな事が許されるはずがない。 「………………セリ……ス? これが……これがセリスだと? こんな情けない姿を晒し ているのが……」 だが現実は残酷に、その希望を打ち砕いた。 「ジ、ジンさん……セ、セリスさんは……セリスさんは私を、私を庇って……」 「クッ」 呆然と呟くジンに答えようと、ボロボロと涙を流しながら必死で言葉を紡ぐマルチ。 いたたまれなくなったのか昂希が目を背ける。 その前に静かに、セリスは横たわっていた。 愛する人を最後まで守りきった誇りと、満足の笑みを口元に浮かべて。 「お前まで……お前まで俺を置いていくのか? 返事しろよ! この目を開けやがれ! お前は俺の『宿敵』じゃなかったのかよ!?」 胸の前で重ね合わされたセリスの手は冷たかった。 荒々しく揺り起こそうとしたジンの、鋼の腕よりも。 「セリス……この………………大馬鹿野郎!!」 戦士は涙を流さない。 ただ立ち尽くし、戦友の姿を見下ろす。 「馬鹿……野郎が…………」 どれほど肩を震わせ、どれほどその背が急に萎んで見えたとしても。彼の瞳から涙が零 れる事はなかった。 暗がりの中、男は退屈していた。それは久遠遙が予想していたことでもあるが、男にと ってそれはなんの意味もない事だ。 退屈を痛感しながら、男は部下の報告を聞いていた。 「フン……で? 面白い奴は残ったのだろうな?」 男の名はハイドラント。今は闇を統べる王座に座る者。 その前に畏まるのは篠塚弥生。 ハイドラントの傍らにあり、暗き闇の者を操る者。 「はい……幾人か、候補がありましたから」 「ほう? 誰だ? 名をあげて見ろ」 弥生は平然と、名をあげていった。 闇の剣士――YOSSYFLAME。 変幻自在の幻力使い――天神昂希。 最強の名を戴く鬼神――柏木耕一。 優れた魔法知識を持つ姉と、塔出身の魔術師である妹――来栖川姉妹。 天使の守護を受ける銃剣士――レッドテイル。 などなど……。 幾人もの生徒が倒れた。 けれど、未だ学園の優れた人材は両手両足の指を折っても足りないほど居る。 「なかでも一人、久遠さんが気にかけていた人がいます。もし来栖川の情報特捜部にいた 頃に、彼が上司か部下にいれば私はもっと楽ができただろう、と」 「あの男にそこまで言わせればたいしたものだ……。誰だ?」 弥生はそれまでと変わらぬ口調で、その男の名を告げた。 一切の経歴が不明の戦闘機乗り――YF−19。通称シッポ、と。 YF−19は苛立っていた。 ここまで何もしなかった事に。これほど被害が広がる前に動かなかった事に。 「失礼します!」 会議中という札のかかった扉を勢いよく開く。 居並ぶ教師達が驚愕し、視線を集中させる。 「あ、シッポ君だ。……どうかしたの?」 今がどんな状況かわかっているのかいないのか、河島はるかがのほほんと尋ねる。 YF−19はチラッとそちらに視線を向けたが、何も言わないままここにいる最高責任 者――柏木千鶴――を睨み付けた。 ポカンと、惚けたように目の前の机の平面を眺めているその姿は、まるで憑き物が落ち たかのようだ。 ここに居るのはわずかに残った義務感からだろうか? その瞳に何も写さないまま、千 鶴は何故こんなことになってしまったのか……そればかり考えていた。 痛ましい姿だった。 「今は会議中よ? またなにか……あったの?」 斎藤勇希が恐怖に顔を引き攣らせ、蒼白な顔で闖入者に尋ねる。 また。 そう、まただ。 図書館。カフェテリア。文学部部室。そして、ジャッジが本部として使用していた教室。 昼休みに起こった4つの、惨劇の場。 死傷者は膨大な数に登った。 恐らくこれ以後学園を運営していく事はできなくなるだろう。それだけの事が起こって しまったのだから。 特にカフェテリアの被害は大きかった。 ――あれは地獄絵図だ。 死体を見る事、死を看取る事に馴れたYF−19ですら、そう思う。 そしてその場で半狂乱に泣き叫ぶ千鶴を、彼は目にしている。 妹の名を呼ぶ、彼女の姿を。 「避難勧告を出して下さい」 言ってから、YF−19は歯を食いしばった。 ギリ、と嫌な音、不快な振動が、頭に響く。 ――もっと早く、この事を伝えていれば……誰かの死を防げたかもしれないのに。 そう、もしかしたら、澤倉美咲の命を救えたかもしれない。 「避難? 何が起こったの?」 小出由美子の疑問に、彼の感情は爆発しそうだった。 ――もう起こってる。起こっているんだ。今、ここで! 「耕一先生。貴方ならもう、わかっているんじゃないですか? ここ数日の空気の変化に」 「………………」 苦虫を噛み潰したような表情のまま、耕一は答えない。 かわりに口を開いたのは藤井冬弥だった。 「ずっと……忘れたと思っていた。……忘れていたかったよ」 目を細め、立ち上がる。 「これは戦場の空気だ。……そうだろう?」 確信を含んだ冬弥の問い。その場にいる総ての人間の視線がYF−19に集中する。 YF−19は臆することなく、もう一度言葉を繰り返した。 「避難勧告を……出して下さい。遅れれば遅れるだけ、きっと死体が増える事になる」 第二購買部に、一つの危機が訪れていた。 今の学園の雰囲気ゆえか客足は遠のき、この二日間の売り上げは完全に落ち込んでいる。 そしてそれ以上に深刻な問題は……。 「もう……三週間……か。やっぱり……何かあったのか?」 バイトに来たものの、結局暇を持て余す事になってしまった坂下好恵は、カウンターの 上に腕を組み、その上に頭を乗せて物憂げに呟いた。 beakerが沙留斗を伴ってトレジャーハンターに出かけるのは別に珍しい事でもな んでもない。しかし最近は学業優先と言う事で学園地下のダンジョンにしか行っていない し、それが二週間以上になる事は今までなかった。 beaker独自のルートで調達される商品の数々。その納入にはbeakerの立ち 会いが必要だったし、品質の確認などバイトの手に負えるものではない。 納入は滞り、品物は出ていく一方。 生徒からの依頼にも応えられず、予約してもいつ納品されるかさえわからない。 加えて斎藤勇希は昨日今日と職員会議に出席しており席を外す事はできない。そしてデ コイの原因不明の失踪。 駄目押しのような購買部四天王の不在。 それは第二購買部に予想以上のダメージを与えていた。 どれだけ仕事が出来る気になっていても、それは所詮は店番のバイトでしかない。ただ の売店であればそれでよかったかもしれないが、ここはbeakerが『世界のありとあ らゆるものをお届けする』と豪語して憚らないLeaf学園第二購買部なのだ。 「あの馬鹿いつになったら帰ってくる気なんだろ……」 好恵は大きく溜め息を吐いた。 しかし結局それは、心細さを埋める事にはならなかった。 「やっぱ……止めときますか?」 第二購買部の様子を廊下の死角から伺っていたYOSSYFLAMEは藤田浩之と八塚 崇乃の方に向き直るなりそう言った。 「……そーだな。そーだ……よな? 今伝えなくても……いいか」 「え? でも……」 浩之はあっさりと納得したが、崇乃は不満を示した。 「一人は彼女の恋人で……もう一人も親しい人だったんでしょう?」 「ああ」 浩之は肯いた。それは確かにその通りだったし、それに関して反論する気は浩之には無 い。 第二購買部という比較的目立つ場所にいるせいか、彼女の事は学校でも結構知れ渡って いる。beakerと付き合っている事も。購買部の関係者と親しくしている事も勿論。 「じゃ、何故です? 話すべきだと思いますが……」 「あのよ……」 言い出しにくそうに浩之が口篭もる。 その代りを買って出たというつもりでもなかったろうが、YOSSYFLAMEが言葉 を継いだ。 「死体を見せ付けられて諦めろって言うのと、死んだと聞かされてもそれを信じないで帰 りを待ち続けるのと、どっちが残酷だと思います?」 「それは……」 「この場合は……死体の写真ですけどね……」 崇乃には答えられなかった。 それを選ぶのは結局当人次第なのだ。第三者が決められる事ではない。 言葉に詰まる崇乃に、或いは自分に言い聞かせるように、浩之は閉じていた口を再び開 いた。 「今はまだちょっとした不安があるだけだろーな。で、遅かれ早かれわかっちまう事かも しれねえ。でもよ……どんな顔してあいつに言えばいいんだ? "お前の恋人とダチは殺 されて、学園の地下に今も転がっているかもしれません。これがその証拠の写真です" な んてよ……」 浩之はやりきれない様子で、購買部から離れる方向に歩きはじめる。 釣られるようにYOSSYFLAMEと崇乃もそれに付いて歩き出した。浩之はこれで 会話を打ち切りたかったのだろう。 しかしそれでも崇乃には納得出来なかった。だから歩きながらでも続けて問う。 「でもそれは結局逃げでしょう? 彼女の性格なら、多分乗り込むって言いますよ?」 「そうだろうな……。だからこれは逃げだ。で、それがどうしたよ? 嘘かホントかもわ かんねえ、敵から貰った情報だぜ? そんなもんで坂下を動揺させてどうすんだよ?」 「………………"現物"が出たら……どうなると思いますか?」 現物――つまりはbeakerと、沙留斗の遺体――を見れば坂下は? 「多分、何も出来なくなるでしょうねぇ。普段強がっている人は……脆いですよ」 「それでも……先を決めるのは本人にしか出来ないじゃないですか。知らせるべきだと、 私は思います」 崇乃の言葉に、二人は沈痛な表情を浮かべた。 「……誰もが貴方のように、強く生きれる訳ではないんですよ」 YOSSYFLAMEの言葉を最後に、皆口を閉ざした。 三人の靴音が、嫌に廊下に響く。 「誰を犠牲にしようと……俺は進むしか、もう進むしかねえ……。そう覚悟を決めたつも りだったんだけど……な」 その重圧に耐え兼ねたのか、浩之がポツリと呟いた。 「ま、いいか。オレ一人になったってよ……やること自体は変わらねえさ……」 結局、目を覚ました浩之を待っていたのは一緒に遊びに行った五人の友達のうち二人の 訃報と、残り三人が昏睡したまま恐らく二度と目覚める事はないだろう、という事実だっ た。 学園最強の電波使いと言われる祐介が人間の精神を壊す、その為に放った電波をモロに 受けたのだ。回復が絶望視されるのもあるいは当然であったかもしれない。 それを知っていたからこそ、浩之は夢の世界に逃避し、現実から目を背けた。 どれほど今浩之がそのことを恥じようと、それが傷ついた心の、たった一つの救済措置 であったといえど、その事実は消えない。 それを許せなかった人間が浩之のもとを訪ねてきたのは、目を覚まし、YOSSYFL AMEやT−star−reverseと話している途中のことだった。 ノックもせず扉を開け、無言のまま浩之のもとへ歩み寄り……いきなりぶん殴る。 「デ………………デコイ?」 呆気に取られて見上げる浩之を、デコイは涙に濡れた瞳で見下ろしていた。 「どうしてだ?」 「え………………?」 殴られた衝撃でベッドに倒れ込んだ浩之の襟首を掴み、引きずり起こす。 「どうして……守ってやれなかったんだよ!! どうしてお前だけが目を覚ます? どう して!!」 ――志保のことだ。 そう直感するのに時間はかからなかった。 デコイは中学時代、志保のパートナーだった。 友人、ではなく主人と部下といった関係だったらしいが、それが恐らく気弱な青年の精 一杯であったのだろうということは、浩之も薄々気が付いていた。 「俺は無力な人間だ。強敵と戦う力も無ければ勇気も無い。……けどお前は……浩之、お 前なら……」 浩之の襟首を掴んだまま泣き崩れるデコイ。 ずっと張り続けてきた緊張の糸が切れた。そんな感じだった。 彼もまた、この二日間戦い続けてきた。 事件の起こった場所での聞き込み。現場で撮った写真からの証拠の割り出しなど、浩之 が目を覚ますまで彼は事件の犯人を追うのに必死だった。 女の子と普通に話すことさえ苦手な青年が警察に邪魔だと邪険にされてまで必死になっ て犯人を追い求めたのは……彼自身必死になることで、志保がもう目覚めないという事実 と向き合うことを避けていたのかもしれない。 ずっと、感情をぶつける先を探していたのかもしれない。 けれど……。 「仕方なかったんだ……。オレには何も……どうすることも出来なかったんだからよ……」 感情に訴えるのではなく、むしろ淡々と、浩之は告げた。 「オレだって同じだ。あの時のオレには……なんの力もなかった。本当に何も出来なかっ た。あかりも、雅史も志保も苦しんでた。EDGEちゃんとM・Kちゃんが斬り殺された のも目の前だった。ひづきちゃんがさらわれていくのに、オレは何も出来なかったんだ」 人は"死"というものに対する悲しみに包まれた時、驚く程無力で、そのショックから抜 け出すのに長い時間が必要になる。 しかしそこから一瞬で立ち直る時がある。 悲しみは、人が持つ感情の中で最も強いものの一つにその姿を変える。 「けどよ」 ぽつりと、浩之が告げる。 臥せられた顔に浮かぶ秘めたる強固な意志。 それを表に出すために言葉を紡ぐ。 「このまま終わるわけには……いかねえよな? そうだろ?」 体育館。 戦って果てた者。命を落とした者達が眠る場所。 「誰が……やった?」 ボソリと呟くようなジンの言葉に、マルチがビクッと身を震わせる。 冥府の底から響くような、その声に圧倒されて。 「俺の戦友(とも)を! 宿敵を! 俺の手から奪っていったのは、誰だ!!」 復讐。 その甘美な響きに酔うのもまた、人の業。 怨讐という名の鐘が……今高らかに鳴り響く。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ここでちょっと、今まで起こったことを整理してみます。 一日目:藤田浩之と共に遊びに行ったメンバー………襲撃を受け殺害、或いは植物人間に。 (浩之を除く) 隆雨ひづき.他大勢……………………………誘拐、あるいは行方不明。 ダーク陣営………………………………………本格的に活動を開始。 二日目:Hi―wait、月島瑠香……………………早朝死体で発見される。 学校………………………………………………緊急会議。 前述の四名の通夜が執り行われる。 三日目:図書館、カフェテリア、ジャッジ本部………襲撃され、多くの死傷者を出す。 昼休みのことだった。 謎の少女(?)…………………………………5〜6の休み時間に狙撃される。 第三幕を経て、現在三日目の夕刻。 二日目に比べて一日目と三日目が過密スケジュールですが、こんなところでしょうか? ……二日目と三日目の切り替えシーンがない事に気付いた方は……鋭い(汗笑) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― **************************************** 綾香「……ねぇ? 遊想笛の欠点は?」 朔 「非常にやかましい。……そんなものを横でかき鳴らしていられたら眠ってられない ほどに(笑) 文中で書こうとは思ったんですが……雰囲気を壊すかな? と思った ので省略……したらまずいか(汗) どうしましょうかね? 本当は第二購買部前に はT−star−reverseさんと行ってもらうつもりだったのに、どんどんシ リアスに話が進むから……(汗)」 綾香「そういえば……出てないわね」 朔 「ん?」 綾香「ヒロインだって言ってなかったっけ?」 朔 「あ……すまん。予定が変わった」 綾香「出番あるの?」 朔 「現段階では非常に怪しい。出てきても泣いてるだけの可能性有り」 ===+++=== RuneさんとICQで会話した事を実行に移そうか、本気で検討中(笑) 知りたかっ たら私に聞いてみてね。相手によっては教える事が出来ると思います。多分誰も知りたか ないと思いますが(笑) ===+++=== 綾香「泣いてる?」 朔 「そういう役どころに落ち着きそうです、ハイ」 綾香「ちょっと……なんでわたしが泣かなきゃならないのよ? まさか……姉さんになに かする気じゃないでしょうね?」 朔 「く、首を絞めるな! 落ち着け! 今説明する!!」 綾香「へえ? 聞かせてもらいましょう?」 朔 「フ………………待て! 次号!!」 綾香「……それだけ?」 朔 「そお、それだけ。(しかも予定・爆) それでは、再見!」 綾香「あ、こら! 次回予告はどうしたのよ!?」 朔 「おっとそうだった!」 >次回予告!>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> 朔 「戦いの幕開け……しかしそれは同時に敵の強大な力を思い知るものだった。不動の 玉座に座したままであった闇の覇王が動いたとき、混沌と闇が学園を襲う」 『ハイドラント 「指揮官としては賢明だったのだろうが……これはいくらなんでも無粋というものだ ろう。……なあ? そう思わないか? 皇華」 ジン・ジャザム 「まさたと秋山の弔い合戦……俺のこの手でケリをつけてやらぁ! 首を洗って待っ ていやがれ、ハイドラント!!」 ? 「もう時間はない……。私に残された時間は……残り僅か……」 YOSSYFLAME 「お前は……生きたかったか?」』 綾香「2つの裏切りが学園にわずかな波紋を呼びかける。それは彼らのささやかな、そし て命を懸けた運命への反乱だった。 次回。Lメモ魔王大戦 硝子の現実 『第四幕 "執着" 誇りの報酬』」 朔 「生き残るのは、果たして誰なのか?」 綾香「ハイド。あなたはいったい、何を望むの……? 答えてよ……ハイド」 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> 綾香「……これ定番にするの?」 朔 「TVアニメみたいだろ?(笑) ま、それはまた気が向いたらということで。では! 今宵はここまでにいたしとうございます……(毎度のことながら後書き……絶対朔の セリフじゃないよな〜(^ ^;)」 綾香「またね〜」