Lメモ魔王大戦「硝子の現実」『第二幕』 投稿者:悠 朔
 冷め切った料理の並んだテーブルを前に腕を組みながら、佐藤昌斗は不機嫌に隆雨ひづ
きが帰って来るのを待っていた。
『今日はちょっと遅くなる』
 確かに彼の従兄妹はそう言っていた。
 しかし……。
 ――ちょっと……ちょっとだって? 今何時だと思ってるんだよ!?
 昌斗は不機嫌に、苛々しながらひづきの帰りを待っていた。
 せっかく腕によりをかけて作った料理も、冷めてしまっては味は半減してしまう。
 ――帰ってきたらまず怒鳴りつけてやる!
 その思考に、昌斗は苦笑した。
 ――怒鳴りつける……か。あいつがその程度でどうにかなるかよ。鼻で笑われて、「昌
兄ぃ、何怒ってんの?」……な〜んて言って誤魔化そうとするのがオチだ。
 それで誤魔化された振りをしないと後も恐い。
「それにしたって……遅いな。っと電話か……ひづきだったらやっぱり怒鳴りつける! 
そうだよ。いつも下手に出ているから舐められるんだ。一発ガツンと……」
 パタパタとスリッパの音を響かせながら駆け寄り、深呼吸して覚悟を決めると受話器を
取る。
「はい、佐藤ですが……………………え?」
 昌斗の覚悟は空振りに終わり、予想は大きく裏切られる事になった。
 突然鳴り出した電話こそ……悪夢の来訪音だった。


 一夜のうちに、Leaf学園の生徒に多くの死傷者、行方不明者が出ていた。
 斬殺されたEDGE、M・Kを筆頭に、Hi―wait、月島瑠香は同じ場所で見るも
無残な死体となって朝方発見された。月島拓也は自室で廃人となっていたし、それは路上
で保護された神岸あかり、長岡志保、佐藤雅史も同様だった。
 死亡が確認された人数に対し、行方の知れなくなった者の数はさらにそれを大きく上回
った。
 赤十字美加香、隆雨ひづき、姫川琴音、笛音、風見ひなた、神無月りーず、葛田玖逗夜、
結城光、藍原瑞穂、新城沙織、月島瑠璃子、長瀬祐介、ハイドラント、Fool、OLH。
 警察はHi−wait達の死体が発見された場所が、行方不明となった風見ひなた、赤
十字美加香の在所に近かった事。双方共に激しい戦闘の痕跡が残っている事。三人の友好
関係から、関連を調べている……。
 学園側はなんのコメントも出していないが、月島拓也や神岸あかり達の精神を破壊した
者は長瀬祐介ではないかという疑惑を抱き、調査を開始した。

 早朝教師達に招集がかけられ緊急会議が開かれたが、柳川裕也教師、篠塚弥生教師の姿
はその中に見られなかった。

 EDGE、M・K、Hi−wait、月島瑠香の葬儀は、遺族の希望により学園で共同
で行われる事になった。彼らの死は、身内を含む多くの人々に嘆きを以って迎えられた。

 病院に運び込まれた藤田浩之の意識は、未だ回復していない。



Lメモ魔王大戦
                                 「硝子の現実」
                        『第二幕   "虚" 鮮血の群像』



 生徒の殺害事件、及び大量失踪。
 確かに大きな事件ではあった。
 しかしそれは学校の敷地内で起こった事ではなかったし、校舎に被害があった訳でもな
い。
 だから彼女達の任務に変更はない。
 Dセリオの指揮のもと、Dマルチ、Dガーネット、Dボックスは、今日も変わらず校内
の見回りを行っていた。
 彼女達の任務が変わる時。それは守るべきこの学園が失われた時だ。そんなことは起こ
ってはならない。
 だから常日頃から、いや、普段に増して注意深く校内を見回る。
 それを様々な手段でバックアップするバイトの生徒――へーのき=つかさ、榊宗一――
の中に、OLHの姿は見られなかった。



 図書館のカフェテリア。
 ウェイトレスの川越たけるが注文された品をそれぞれの前に置き、お辞儀をして下がる。
「で、わざわざ呼び出していったい何の用?」
 学園の暗い雰囲気も手伝ってのことか、柏木梓は目の前のアップルジュースから面倒臭
そうに相手――秋山登――に視線を移した。
「わかってんだろ? 今は危険な時期なんだ! この学園の奴でなにか企んでる奴がいや
がるんだよ!! 誰かと一緒に居た方がいいんだ!」
 拳を握り締めて熱心に語る秋山に向けられる視線は、あまりにも冷たい。
「それでそのボディーガードをやらせてくれって? そんなのあたしには必要無いって、
そっちこそわかってるんじゃないの?」
 梓は遠い視線で嘆息した。
 『爪の塔』と呼ばれる組織出身者の中で、最強の破壊力を誇る女性。それが梓だ。
「"か弱い"っていう表現があたしほど似合わない奴なんて……いないんだからさ……」

「なんか大変そうだね……」
 カウンターに座った菅生誠治は二人の様子を盗み見ながら、グラスを磨くたけるにそう
言った。
 今日は趣向を変えてか、たけるはいつものメイド調の服ではなくウェイターの格好をし
ている。
 黒髪ロングの彼女には似合っているとは言えないかもしれないが、少女から女性に変わ
る時期独特の雰囲気が、それを可愛らしいものに見せていた。
「そうね。……でもこういうのは本人同士のことだし……」
 登を見るたけるの視線に寂しさが含まれていたような気がして、誠治はそれ以上言うの
を止めた。
 この学園の地下でたけるが登の世話になったというのは、さほど詳しくではないにして
も聞いてはいる。
 彼女が登を頼れる兄のように思っている事も。
「電芹の調子……どう?」
 何気ない様子でたけるが話を逸らした。もしかしたら逆に気を使わせてしまったのかも
しれない。誠治は動揺を押し殺し、出来るだけ明るく振る舞うよう心掛けながら、それに
合わせる事にする。
「ん? ああ。そんなに心配しないでも大丈夫だよ。こっちが勝手にやってる定期検査だ
し、今の所特に問題も出てないからね。あとは……パーソナルデータをチェックすれば終
わりかな? 大丈夫だとは思うけど、変なバグでも出てなきゃいいけどねぇ」
 感情学習型と言う事でHMシリーズの中でも電芹は一日のあいだに収集するデータ量は
群を抜いている。しかし情報を収集すると言う事は、そのデータを処理しなくてはならな
い事も示している。
 要不要を問わず集められるそれを、必要なものと不要なものを区分し、必要と判断され
たものだけを残して整理しなくてはならない。本来なら膨大な時間が必要なその作業を、
HMシリーズは極めて短時間(例としては昼休みなどだ)で行う。
 それによってどれほどの影響が出るかは未だ未知数。絶えずデータを収集し、誤動作の
出ないようチェックしなくてはならない。
 今の所は実験段階でも販売段階でも問題となるような事は起こっていない。しかし最良
を求める――か、完璧を求めるかは技師によるが――なら、データは集めるに超した事は
ないのだ。
「ご苦労様。……電芹は大事な友達だからなにかしてあげたいと思ってるんだけど……私
メカ音痴だから」
 テヘッと舌を出す。
「大丈夫。このコーヒー一杯があればおれは戦っていけるさ!」
 ふざけてそう言う誠治に、たけるは微笑みかけた。
「コーヒー、美味しいかな?」
「え? あ、ああ。美味いよ。たけるさんが入れたの?」
 たけるは満面に自信の笑みを浮かべて肯いた。



「風見の奴がそうそう誰かに遅れを取るとは思えないが……な。過大な評価だとは思えん
し、相手は相当な手練だと思うが……」
 天神昂希は腕を組んで部屋の壁にもたれかかり、目を閉じたまま今はいないメンバーの
事を思う。
 ジャッジ。
 学園の治安維持をボランティアで行う武装組織。
 武装、といってもあくまで素手による組み打ちで、相手を無力化するのが基本的な手段
となっている。……手から紫炎を出したり、霊波刀を出したり、幻力を使ったりもするが。
「Hi−waitが死んだ……。彼だって学園の猛者を相手にしてきたんだ」
 セリスは今は亡き正義の戦士にしばしの黙祷を捧げた。彼は彼なりの正義を信じて戦っ
てきたのだ。それはある意味においては、セリスにも共感できる。
「遺体は酷い状態だったと言う事ですよ……」
 憔悴しきった顔で、岩下信が呟く。
 誰もそれを責めはしなかった。
 藍原瑞穂が行方不明者の中に名を連ねているのを皆が知っていたから。彼らの仲睦まじ
い様子を見ていれば、彼の心中は察して余りある。
「彼が無関係でなければ……目的はなんだ? Hi−waitの死と、風見ひなた達の失
踪。接点はどこにある?」
 昂希の眼光はあくまで鋭い。
 ――加えて一年女子の惨殺、二年生の廃人化事件。月島拓也が廃人となった今、それが
可能なのは長瀬祐介……か? あるいは廃人となる前に月島が動いたのか……? 月島拓
也と長瀬祐介。これがいずれ劣らぬ電波使いが争った結果だとすれば? ……電波への対
策は……ある。電磁の幻力を使えばある程度はなんとかなるだろう。なら……。
「……調べて……みるか」
 言い終えると同時に昂希の姿が掻き消えた。
「テレポートか。相変わらず単独行動の好きな人だな」
 セリスが苦笑する。
 彼の付き合いの悪さは折り紙付きだ。
 彼が心を開いているのはマルチに対してだけだ。二年生の悠朔とはお互い共感する部分
が有るせいか、彼がジャッジに協力している時は多少は親しくしているようだが、日常で
の接点はない。
 あと友人と呼べるのはジャッジのメンバーを除けば、マルチを介して知り合った結城光、
紫音くらいである。
「マルチが泣いているのに出て行くとはね……。でも、頼りにはなる……か」
 セリスは部屋の隅で泣いている少女達――マルチ、桂木美和子、吉田由紀――に視線を
向けた。
 彼にとって泣いているマルチを見るのは胸が張り裂けそうに辛い事だった。
 しかし今慰める訳にはいかない。それは誰もしてはならない事だ。死を悼む涙を流す事
を止めるなど……そんな事は誰にも許されない。
 許されるのは共に涙を流すか、黙って見守る事だけ……。
「EDGEさんやM・Kさんには……世話になってたみたいだしな……」
 姉御肌だった彼女達に、マルチはよく面倒を見てもらっていた。
 神岸あかりにはそれなりに人望もあったし、料理研の先輩でもあった。美和子や由紀も
同学年なら面識もあっただろう。回復が絶望視されている状態では泣くなと言う方が無理
かもしれない。
「誰がいったいなんのために……それに"あの"風見が倒されたって言うのか? いったい
……どうやって?」
 風見ひなたは勝つ為なら手段を選ばない。勝つ事に対する執念はもはや妄執とさえ呼べ
るものだ。
 ――それを倒すだって? それなら体勢を立て直す為に逃げた……? そう考える方が
自然か?
「少なくとも、彼が負けたなんて……信じられないな」
「では信じさせてやろう」
「? 信?」
 独白に答えた信に、セリスが訝しげに振り返ろうとしたその刹那。彼の胸に熱い、ヤキ
ゴテを押し付けられたような激痛が襲った。
「え?」
 光り輝く、閃光の刃。
 セリスの持つ霊波刀をはるかに上回る破壊の力を秘めたそれは、彼の背を貫き、胸から
生えて鋭い輝きを放っていた。
「セ、セ、セ……セリスさん!」
 瞳を見開いて叫ぶマルチの声は、あまりに遠かった。
「ほんのわずかでも仲間意識があれば、油断もしよう」
 言い放ち、傷口を押し広げながら無造作に閃光の剣を引き抜く。
「信……? 何故……だ?」
「死ぬ時に理由が重要でもあるまいが……フム。矮小な人間には必要な事なのかも知れん
な」
 血を吹き出し、床を真っ赤に染めながらも、セリスはそれでも立ち上がり構えを取ろう
とする。
「見事よ。人の身でありながら驚嘆すべき精神力……しかし惜しいのぅ。所詮は人と言う
事か……」
 持ち主の戦う意志に反し霊波刀は現れなかった。
 この重傷ではほんの少しでも"力"を使えば死ぬ。その事を意志ではなく肉体が知ってい
た。だから刃は現れなかった。
「貴様……オロチィィィィィィィィィ!!!!」
「いかにも! さあ若者よ。その力で我を止めてみよ!! ……それがウヌの今為すべき
仕事だ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 勝ち目が無くなっているのはとっくにわかっていた。不意打ちで受けた傷はあまりに大
きかった。ほんの少しの"力"さえ使えない今の状態で、勝ち目などあろうはずが無かった。
 それでもセリスは引かない。引けない理由があった。
 重心を落としダッシュ。オロチの腰に強烈なタックルを仕掛ける。
「マルチ!! 逃げろぉぉぉ!!!!」
 それこそが血に染まった彼に出来た最善であったろう。
 オロチは体勢を崩したし、それはマルチが逃げ出す時間を稼ぐ事に直結する。
「あううぅぅ。出来ませんよぉぉぉ。セリスさんを置いてなんて……」
 ただ、それを実行するにはマルチはあまりにも優しすぎた。
「馬鹿! セリス先輩の想いを無駄にする気!?」
「早く!!」
 美和子と由紀は説得などというまどろっこしい手は使わなかった。それは貴重な時間を
浪費する。即座に美和子がマルチを抱え上げ、部屋を走り出ていった。
「邪魔だ!」
 タックルを即座に俵投げの要領で押し退け、後を追うためにオロチは歩を進めた。セリ
スの命は尽きかけている。今放っておいても止めはいつでも刺せる。
「行かせない!」
 オロチの背後を取る。
 そこから身体を抱え上げ、後ろに頭から叩き落とす。
「チィ!」
 片手で首筋を押さえながらオロチが立ち上がった時には、セリスは扉の前に立ちふさが
っていた。
 もう足音も、マルチの泣き声も聞こえてこない。
 ――逃がしたか……。
「それほどあの人形が大事か。所詮は作られた体とプログラムが生み出した心だというの
に」
「マルチを人形だなんて言うな! 彼女は誰よりも一生懸命、誰よりもその一瞬を大切に
生きている……誰よりも人間らしい娘だ!」
 フン、とオロチが鼻を鳴らす。
 そのセリスの弁を嘲笑ったのか、それとも言い負かされて悔しかったのかは、オロチに
しかわからない事だ。
「お主が守る為に立つというのなら、それもいいだろう……しかし」
「………………」
「弱い者同士庇い会う……。それはそれで美しいのかも知れんが少々不快じゃな。あくま
で剣ではなく楯として立つと言うのなら、最後まで付き合って………………?」
 オロチは戦う為の構えをゆっくりと解いた。
 守るべきものを守り切ったセリスの瞳に、もう光は宿っていない。全身を朱に染め、拳
を固めたまま、彼はすでに事切れていた。
「我が前に立ち塞がったまま逝く……か。"戦士"セリス…………忘れまい」



「美咲さん……逃げ…………」
「砂を噛む思いというのは今の貴方を指すのかもしれませんね」
 根暗い光を瞳に宿した戦乙女が満身創痍の七瀬彰の背骨を踏み折った。
 悲鳴を上げる事もままならず、血反吐を吐き絶命する。
 しかし篠塚弥生の見つめる先にあるのはそれではない。文学部顧問、澤倉美咲。美咲の
楼閣の創立者。
「篠塚さん……どうしてこんな事を?」
 血に染まった教室。
 この教室を染め上げたモノが、床に、無造作に転がっている。
 七瀬彰、Ruen、鈴木静、dye、来栖川わるちの……遺体が。
「偶然……です。偶然今日この時間Runeさんが訪れたのがここで、あなた方がここに
居た。それだけのことです……。私達の計画に穴を開ける可能性があるのが偶然Rune
さんであった。それを私達が看過しなかった。……本当に、ただそれだけのことですよ」
「そんな……たった……たったそれだけの事で、貴方達は人の命を奪うの? どうして?
私達はただ、普通に生活していただけなのに……」
 血を吐くような言葉。
 どんな弾劾も、彼女達には通じない。そんな事は美咲にもわかっている。
「貴方達はどうして……私達をそっとしておいてくれなかったの……?」
「彼女が……果たすべき使命を放棄したのが始まりとも言えますね」
 詩の教師小林芳美が、13人の、闇のヴァルキューレの手で死者の列に入る。弥生が召
喚した殺戮を殊のほか好む戦乙女達。
 その戦闘能力は想像を絶するものだった。特にそのコンビネーション。そして不死であ
るが故の、苛烈な、捨て身の攻撃を耐えられる者などいなかった。
 涙に濡れた美咲の頬。
 七瀬彰の遺体を抱き上げ、座り込む。自分を最後まで庇おうとしてくれた、優しい後輩
を。
「私達はただ……静かに暮らしたかっただけだったのに」
 彼女の背後で振り上げられる刃。
 その刃の持ち主が放つ疑問の視線に、弥生は諾のサインを送る。
 狙い逸れるはずもなく、それは心臓へと吸い込まれ、一つの命を奪った。
「情けだ……せめて葬ってやろう。……むらさき、どけ」
「ぶー! 紫音嫌〜い。命令される覚えなんかないぞぉ」
「巻き込まれて消えたいというなら、私が遠慮する理由など無い。消えろむらさき」
「わ、わ!? ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」
 むらさきが美咲の身体から大鎌を引き抜き待避するのと、紫音が闇の波動を放ったのは
ほぼ同時だった。
 かつて文学部部室と呼ばれていたそこは、闇の閃光に呑まれ、その闇は総てを瓦解させ、
破砕し……。
 無へと帰った。
 破壊の轟音の後、何も無い空間に、ただ……沈黙だけが残った。



「始まった? ……いえ、終わったのでしょうか?」
 振動を感知し、鮮血に染まった二刀剣士は呟いた。
「どうでもいいか……。ほんの少し時間が短くなっただけですしね」
「ゆーさくサン……ジャないミタイで〜すネ」
 二刀剣士が微笑みを浮かべた。
 いつもの、何かを企んでいる笑みでも、皮肉げな笑みでもない、純粋無垢な少年のよう
な笑みを。
「御名答。だから……TaSさんって油断ならないんですよね」
「……ドシテこんなことするんでーすか? まさたサンもゆかたサンも困った人だったけ
どとてもいい人ネ?」
 二人――図書館館長まさたと、その助手の少女着物ゆかた――の亡骸に視線を落とすT
aSに、剣士は悲し気に肯いた。
「うん……。そうですね。殺さなくても済むならそれにこした事はなかったんです。でも
……彼はこの『世界』図書館の主。私達の驚異となる知識を有しているかもしれません。
障害となる可能性があるなら排除しなければなりません」
 そして……と、剣士は言葉を続ける。
「今回の私のターゲットは……貴方ですから」
「Oh! Why?」
「本来なら私達は表立って行動はしません。闇は常に光の影で有る筈ですから」
 自分で言っておいてその言葉が気に入ったらしい。剣士はクスクスと笑った。
「けど"彼"は結果しか求めない。計画を立てる事はしない人です。今回の事だってゲーム
としか考えてないんですよ。困った事に。……なら、私達が動かなくてはならないでしょ
う? 障害を排除し、計画が出来る限り無事に進むようにしなくてはなりません」
 剣士は微笑みを絶やさない。まるでそれが義務であるかのように。
「今回の私達の目的は"頭"を潰す事……。恐ろしいのは強い力を有する者ではありません。
計画を察知し、それを壊せる者……それだけの頭脳を有した者。その一人であると私が判
断したのが、『図書館の亡霊』……つまり貴方ですよ、TaSさん」
 クスクス笑う剣士が指差す先に立ち、TaSの緊張が目に見えて高まる。
「アナタ……いったい何者デ〜ス?」
 油断無く構えながら、普段温和なTaSの表情に険が浮かんでいく。
「自己紹介が遅れましたね。遙です。久遠遙。貴方と同じ肉体をアイテールで……ああ失
礼。それ以上の高次要素で構成していたモノです。でも記憶は共有してるんですよ? だ
から私が悠朔だと言えない事もないですね」
 アイテール……エーテルとも呼ばれる第五要素。
 古来魔術師達はアイテールと『地・風・火・水』の四大要素が組み合わさる時、あらゆ
る自然現象、自然物質が構成されると説いてきた。
 それを媒介として魔術を行使するのだと。
 しかし現代。魔術師はそうは説かない。
 アイテールのさらに高次の物質が存在すると説く。
「でもその正体はこの肉体の主に取り付いていた、性悪な魔……というところですか」
 それこそが神の……あるいは悪魔の肉体を構成しているのだ、と。
「肉体を支配している者が入れ替わった訳です。……紫音君と同じですね。……さて、お
しゃべりが過ぎました。そろそろ始めましょうか?」
 気負った様子も無く、遙は構えた。
「どうしてもヤルんで〜スカ?」
「"彼"と一緒にゲームを楽しむ為には、貴方は邪魔なんです……りーず!!」
「What!?」
 TaSが振り向いた先に破壊神シヴァを従え立つ神無月りーず。
 りーずの召喚が無事に済むまでその存在に気付かなかったのがTaSの敗因。気付かせ
なかったのが二人の勝因だった。
「行け、シヴァ! 神鳴る力を見せるがいい!!」
『マハ・ジオンガ!』
 雷撃が、TaSへと躍りかかった。
 天空を焼き尽くすと伝えられるシヴァ神の神の光。
 神話において、妻パールヴァティーが戯れにその両目を背後から覆い隠した時、光が失
われたと勘違いしたシヴァは第三の瞳を開いた。宇宙は活動を停止し世界は闇に包まれ、
その第三眼から放たれた閃光は視界を一瞬のうちに焦土に変えたと言う。
「シィ〜〜〜〜ット!!」
 目も眩むような雷光。
 爆音が響く中、ほんのかすかな、乾いたなにかがこすれる音が鳴った。
 一瞬煌く銀の光と……。
 そして……。
「いくら幽霊といえども清め済みの霊刀で首を落とされては"場"を維持出来ないでしょう。
お別れですね……TaSさん」
 雷撃が収まり、静かに刀を納める遙。
「それはいいですけど……シヴァを見せ技に使うなんて、ちょっと贅沢じゃないですか? 
ただでさえ入手困難なマグネタイトを大食いするのに……」
 霧のように、崩れ去りながら消え行くTaSを見つめ、りーずは不満の表情を浮かべて
遙に愚痴を言い始めた。
 マグネタイト=生体エネルギー(生命磁場)は大気プラズマの一種とされているがその
詳細はわかっていない。目に見えずエーテルに無限に封ずる事が出来る。マグネタイトを
封じてあるエーテルは緑色に発光するが、封じてあるマグネタイトの量でその光量が変化
するなど、一例を挙げただけでも謎な部分が多い。
 しかしマグネタイトを使用して召喚を行う者にとって、それがどういった物であるかは
実の所たいした問題ではない。それがどういった効果をあげるかが重要なのだ。
 魔術とはエーテル(アイテール)に働きかける手段。
 魔術を使う者を魔術師と呼ぶ。
 けれど魔術師と呼ばれている者でさえ、その手段がどのような原理を経て結果へと繋が
るのかを知る者がどれほどいるのか、はなはだ疑問だ。
 閑話休題。
「申し訳ありません。しかし今の私の肉体の技術では、正直この学園の生徒と単独で戦う
のは難しいものですから」
 恭しく頭を下げる遙。
 彼にとって闇の者達は仕えるべき主。
 批難されれば謝罪して当然なのだ。
「TaSさんに驚異と感じてもらい注意を逸らす為と、電撃で動きと目を封じる為にはシ
ヴァが適任だったんです。どうかお許しください。……それに」
「それに?」
 遙が穏やかに微笑んで見せた。
「マグネタイトならこれからいくらでも、すぐに用意出来るようになります」
「!!」
 この時初めてりーずは後悔した。
 マグネタイトとは命の力そのもの。それを集める手段はほとんど無い。……奪い取ると
いう極めて単純な手段を除けば。
 遙のそれは、大量虐殺の宣言に他ならないものだった。
「さ。そろそろ学園に留まるのは危険でしょう。私はあと2〜3の仕事をしてから帰りま
すので、りーず様は先にお帰りください」
 何も無い空間から、まるで魔法のように出現した黒い棒状の物体。
 ゴトンと、それは床に打ち付けられ重い音を響かせた。
 1.6m前後の長大な、そして5cmという巨大な銃口を誇るライフルを手にした遙に、
りーずは蒼白な表情で肯いた。



 場所は戻って再び図書館カフェテリア。
「また誰か騒ぎを起こしたのか? まったく……不謹慎だな」
 菅生誠治は憤慨しながらコーヒーをすすった。
 先程の振動は学園全域に及んでいた。爆音や振動はこの学園では日常茶飯事だったが、
喪の雰囲気に沈んでいる学園でわざわざ騒ぎを起こす必要がどこにあるというのだろう?
 それは友人の死を悼む者達を嘲笑った行為であるように思えて、誠治はひどく気分を害
していた。
「ホントにね。みんなせっかちなんだから。これじゃ私も急がないといけなくなっちゃっ
たよ」
「え?」
 川越たけるの相槌に誠治は不穏なものを感じ取り、怪訝そうにたけるの表情を伺う。
 彼女の様子に特に妙なところはない。いつものように微笑を浮かべている。それは接客
のためのものではなく、誠治を親しい友人として認識している本当の微笑み……であるは
ずだった。
 奇妙な違和感。
「たける……さん?」
 惨劇は秋山登が突如血を吐いて倒れた事に始まった。
「ウ、ア、ア……? 俺の、体が……崩れる? そんな……そんな馬鹿な!」
「あ。やっぱり超再生能力持ってると血の巡りも早いのかな?」
 床に転がり、動揺し、錯乱する登を見ながら、酷く嬉しそうにたけるが言った。
 ――遅効性の毒!? まさか……たけるさんがいったい何故!?
 バタバタと登の後を追うように生徒達が倒れていく。その中には梓も含まれていた。
「あず……さ……。梓ー!!」
 必死でにじり寄ろうとした登の右腕が、根元から崩れ床に転がる。
「うそ……あたし、こんな所で死ぬの?」
 その言葉を最後に、梓は動きを止めた。
 それは悪夢のような光景。
 しかしそれが現実である事は疑いようの無い事実だ。現に誠治の持つナノマシンが体内
に入った毒素を排出する為に動いている。
「何故……何故なんだ! たけるさ……え?」
 ピン、と、額にかすかな痛みがあった。それがなんなのか理解するのにわずかな時間を
要する。
 ――髪の……毛?
 鋼の如く硬質化したたけるの髪の毛。それが鋼線となって、誠治の頭を正面から貫いて
いた。
「どうし……て?」
 疑問が口から流れ出る。視線が訴えかける。
 それでもたけるは止まらない。もう止められない。
「普通なら死んじゃうと思うけど、治っちゃったら困るから……えい!」
 髪の毛が束となり、それは日本刀の鋭さを持つ刃物へと姿を変える。
 掛け声はいっそ可愛らしいと表現しても良いものだったかもしれない。しかしその声と
同時に、誠治の首は両断されていた。

 血の惨劇の場と化したカフェテリアを後に、たけるは全身を返り血で染めて工作室へと
足を進めていた。
 おろおろと動き回るちびまるを完全に無視し、コンピューターに繋がれた電芹へと手を
伸ばす。
 たけるは顔に満足げな微笑みを浮かべ、ようやく辿り着いたのだと実感していた。
「電芹……」
 愛しい者と会う為に。
「ずっと……一緒にいようねぇ? 誰も邪魔しない場所で……私達だけで……」
 親友。
 それだけでは済まないかもしれない。今誰よりも何よりも大切な、パートナー。
「いらないよ……他の人の記憶なんて……電芹は私だけを見てくれたらいいんだよ……」
 電芹が繋がれた端末に向かい、ブツブツと呟くたける。
 今その瞳を覗き込む事が出来たなら、きっと誰もが気付いたろう。それが"壊れた者の瞳"
であることに。誠治が感じた違和感が"それ"であったことに。
 マウスを動かし、指示が打ち込まれる。
 たけるが持ってきたMOからの指令が今、実行された。
「さぁ起きて電芹。一緒に行こう?」
 優しさに満ち溢れた、慈母の様に微笑み見守るたけるの目の前で、電芹が身体を起こす。
「――おはようございます」
「電芹! 私だよ! たけるだよ! わかる?」
「――ユーザー登録。たける……様ですね?」
「うん! 電芹! よかったぁ……」
「――呼称、『グレース』から『電芹』に変更いたします」
 まったく噛み合っていない会話。感情を無くしてしまった、主に従うだけになってしま
った電芹の言葉遣い。
 しかしたけるは満足そうな笑顔を崩そうとはしなかった。
「ずっと一緒にいようねぇ……」
「――はい。たける様がそう望むのであれば……」
 電芹と共にという彼女の願いは、叶えられたのだから。



 闇の居城の最奥に三つの影があった。
「………………つまらないな」
 影の一つ。長瀬祐介はポツリと呟いた。
「つまらない仕掛けだよ……。あんな事しなくても別に良かったんじゃないかな? たけ
るちゃんを壊して菅生さんを殺させる、なんてさ」
「くだらんな。過ぎた事だ。それにお前がしたのはたがを外しただけだ。狂気の芽はすで
にたけるの中にあった」
 拗ねた少年のように愚痴を言う祐介を一顧だにせず、もう一つの影――ハイドラントが
断言する。
「貴様にもわかっている事だと思ったがな?」
「確かにたけるちゃんには何故か電波は効きにくかったけどね……甘くはみないで欲しい
な」
 祐介とハイドラントの視線は交わる事もない。しかし熾烈な敵意のやり取りが場に重く
圧し掛かる。
 そんな中で、最後の一人は沈黙を保っていた。
 しかしその肩は震えている。恐らくは歓喜に。
「………………」
「どうした? 皇華……」
「聞こえるんです。心と命が壊れる音が……」
 黄金の瞳を持つセリオ――皇華。
 ハイドラントの最強にして最凶の、最後の壁として控えるガーディアン。
 この城の守りを任された守護のブレイン。
 どこから見てもセリオタイプでありながら、その瞳には知性の輝きがあった。そして人
としての意志の光が。
 ハイドラントの唇が歪み、それが笑みへと転化していく。
「ほう……それは私も聞いてみたいものだな。お前が震えるほどの……甘美な響きを」
 ハイドラントが皇華を抱き寄せる。ごく自然に。
 皇華もそれに逆らおうとはしなかった。
 二人の唇が、静かに重なる……。

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朔 「おかしい……」
綾香「どうしたの?」
朔 「この幕でマルチを殺すはずだったのに妨害されてしまった! なんてこった! 恐
  るべし、マルチを守護する者(爆) 量にしたって予定より増えてるし」
綾香「……あのね(汗)」
朔 「しかも今回TaSさんに天罰を落とそうとして属性聞いたのに、結局マハ・ジオン
  ガに逃げたし」
綾香「天罰落としたら自分も巻き込まれるからしょうがないんじゃない? シヴァだから
  ……Light−Chaos以外の属性に大ダメージっていう攻撃でしょ?」
朔 「そう。文中ではマハ・ジオンガの破壊力を説明する事で必死で言い訳してますが(笑)
  朔なら多分……属性はLight−Chaosだと思うんですが……遙はDark−
  Low……かなぁ?」
綾香「まるっきり正反対ね」
朔 「はい(笑) あ、文中でヴァルキューレが13人登場していますが、これは青土社
  の北欧神話物語を参考にしています。名を挙げると『振るう者』『霧』『斧の時代』
  『激怒する者』『戦士』『力』『鋭く叫ぶ者』『軍勢の足かせ』『金切り声を出す者』
  『槍を持つ者』『楯を持つ者』『計画を壊す者』『神々の神族』です。篠塚弥生さん
  が普段これほど多くの戦乙女を召喚出来るか? と聞かれれば答えはNoだとは思い
  ますが、今回は闇の陣営は極端に力を得ていますのでご了承下さい」
綾香「………………北欧神話物語じゃ、ヴァルキューリってなってるけど?」
朔 「あ、ヴァルキューレにしたのは私の趣味(笑) 及びハイドラントさんのss参照」
綾香「趣味……ねぇ(呆れ) ハイドのss確認する前にヴァルキューレにしてたってい
  うの、ちょっと問題じゃない?」
朔 「う……(汗)」
綾香「……ところで気になってたんだけど、"りーず"って"ろーず"じゃないの?」
朔 「あ、それは違う(あっさり)」
綾香「え?」
朔 「彼は人格を統合してます。自分の真実に気付いた。……それが本来許されない事で
  ある事にも。だからダーク陣営にいるという訳です」
綾香「……書き分けが面倒だった……とか言わないでしょうね? それに玖逗夜の設定っ
  て、ろーずと相思相愛だっけ?」
朔 「(滝汗) ………………さて! だらだらやってもしょうがないですし、今回はこ
  こまでと言う事で」
綾香「ちょっと何よ!? その露骨な……」
朔 「皆様さようなら〜」
綾香「あ! ゆーさく! 待ちなさ〜い!!」
(フェードアウト)