緑葉帝暦73年某月某日、試立Leaf学園にて、内乱勃発。 同日。 学園内建築物。 作戦コード・・・α01ポイントにて。 締め切った電灯も点いていない部屋ではあるが、数台のパソコンのディスプレイがほの かな光源となっている。 それに照らされて浮かび上がる二つの人影。 一人はそのディスプレイの前に陣取り、もう一人がそれを後ろから見守っている。 「シッポ、現状は?」 「……芳しくありませんね。決して良いとは言えない状況です」 長身ではあるが痩せ型の男の問いに、平均よりやや小柄の、中肉中背の男がディスプレ イを睨みながら慎重に答えた。 そこに映し出されているのは学園内の光景だ。 どこに設置してあったものか、望遠カメラなどを使っての有線映像であるらしい。 各所で起こる激しい銃撃戦。 今もまた、生徒の一人が胸から赤い飛沫を散して倒れた。 「やはり格闘部が今もっとも優勢ですね。明らかに人数的な戦力が違います。それに予想 以上に動きが良い」 その光景を見ていてさえ、彼らは眉一つ動かそうとしない。 だがシッポと呼ばれた男の言葉に、痩せた男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。 「綾香のところか……」 「ええ。主将の指揮のもと、一致団結してますからね。私達といえども、油断すれば危な いでしょう」 「やっかいだな。……現状で確認されている銃器に関するSpecil skill保有 者は?」 「悠朔……つまり部長と、私。第二購買部のbeaker。それから……危険人物として 八希望です。他にも有象無象がわんさと居ますが、私が要注意と目しているのは以上です」 「なるほど……な。となると工作部は要注意だな」 「言うまでもなくジン先輩も入りますが……今回Dセリオは静観を決め込むようです」 「フン……。大方来栖川警備保障の意志だろう。今回はへーのきが上手く立ち回ったとい うところか……。でなきゃあのじゃじゃ馬姫がおとなしくしているはずもない。……隠密、 特にゲリラ戦の出来そうな奴は?」 「数え切れません」 「そんなに居るのか?」 軽い驚きを含む朔の声に、シッポは重々しく肯いた。 「音声魔術を習得しているものはほぼ全員それをやってのけるでしょうし、科学部や工作 部なら光学迷彩を実用化していても不思議とは思いません。魔術に姿隠しの呪文があるの は確認済みですし、忍者の末裔……を自称する秋山さんも、まあチェックしておくに超し たことはないでしょう。……同じ忍者でも、デコイさんとはえらい違いだな」 最後の部分は多分に独り言の要素が強かったが、朔の方にも異論はなかった。 「確かに……やっかいだな。だが今回は、勝ちは私達が頂く。銃撃戦のプロの恐ろしさを 思い知らせてやろう」 朔の瞳に鋭い光が宿る。 その目を見た者が敵対する事を躊躇するに足る、鋭さを伴った光が。 「出るんですか?」 「まだ早い。それより防御を固めるほうが先決だ。バリゲードの完成を急ぐ。情報収集は 任せたぞ。大きな動きがあればすぐさま知らせろ」 「イエッサ!」 退室する朔に敬礼し、それが済むとシッポは再びディスプレイを覗き込んだ。 「ん? ……これは?」 作戦コード・・・β10ポイント。 場所は弓道部道場前。 そこを制圧すべく、一つの集団が集っていた。 「駄目だわ……。綾香、むやみに突っ込んでも被害が出るだけよ。いったん作戦を練りま しょう」 「そうね……。射撃の命中率は、さすが弓道部ってところか……」 「感心してる場合!?」 「ちょっと好恵〜。耳元で怒鳴らないでよ。それより撤退の指示出して」 「あ、ゴメン」 坂下好恵の号令一下、部員達がわらわらと作戦指揮を取っていた綾香達周辺まで退いて くる。 「さて、どうしたものかしらね〜。確かにこのままじゃラチが開かないわ」 「さっきのでこっちに何人か被害が出たわよ。……初めての脱落者ね」 「……痛いわね」 建物の影となっているこの位置からも、大量に矢を打ち込まれた無惨な屍は、しっかり と見て取れる。 「エモノひとつゲットしたヨ〜!!」 道場の方から宮内レミィの勝ち誇った声が聞こえてくる。 それに合わせて、鬨の声が響き渡った。 「ガンマル。……可哀相に」 好恵はその姿に憐憫を抱いたが、綾香は迷いを振り切るように視線を外した。 「まさか弓相手に苦戦するなんてね……」 好恵が苛立った口調で呟いた。 「……守るより攻めるほうが難しいんだから、それは仕方ないけどね。それに思ったより 射程距離が良いわ」 「でも、いつまでもこんなところでうろちょろしてもいられないでしょ?」 「それは……そうだけど」 綾香も好恵も今は銃器――それぞれMP5KA4PDW、βスペツナズ――で武装して いる。 相手よりも明らかに有利な武器を手にしていながら、攻め込む目処さえつかない。 松原葵を初めとして、何人かを道場の方に残してあるとはいえ、そうそう本拠地を留守 にも出来ない。 「ここは俺達に任せてもらおうか」 悩む二人に、そう声をかけてきた人物が居た。 「昌斗?」 そう。 佐藤昌斗その人だ。 「抜刀隊並びに真選組! 抜剣!!」 シャラン……と、いくつかの澄んだ音が重なり、重奏となった。 きたみちもどる。 九条和馬。 ディアルト。 八塚崇乃。 T−star−reverse。 YOSSYFLAME。 そして剣道部の部員達。 それぞれが昌斗の声に答え、高々と刀を掲げる。 「いつも葵ちゃんには世話になってるからな。ここらで恩返ししとこうと思ってさ」 「昌斗……」 「無茶だよ! 蜂の巣にされたいのっ!?」 「無茶は承知! いくぜ! 総員突撃ィっ!!」 もどるの激に剣士達の声が唱和した。 「まずいな……」 シッポは一人ごちた。 ――剣道部と格闘部で手を組んだのか? それに兼部王Tはともかく、佐藤もきたみち も部外者だろう? 有志のボランティア如きにかき回されるのは面白くないが……。 そう考えているあいだにも、刀を振りかざした一団が迎撃の矢を切り払いながら道場に 突進していく。 『よおっしゃ〜!! 俺達も続くで!! 行け行けぇぇ!!』 勢いに乗って格闘部の部員達が後に続く。 剣道部部員が何人か倒れはしたものの、弓道部が瓦解するのは時間の問題だった。 「さて……」 廊下に構築されたバリゲードの中で、朔は自分の同志であり、今は部下という立場に居 る者達を見渡した。 普段も立場上は部下のはずだが、この部では何故か部下の方が総じて偉い。 閑話休題。 「この拠点を防衛する総員に告げる。今回のミッションで私が君達に期待しているのは同 士討ちをしない、ということだけだ」 映画などならここで笑いが湧くところだが、あいにくここに集っているのは訓練された 兵士ではない。それなりに真剣な面持ちで、司令官の次の言葉を待つ。 「我々は立地的に、極めて堅牢な拠点を得るに至った。確かに人員は少ない。だが、負け る要素は万に一つもないと覚えて欲しい」 と、そこで居並ぶ面々の一人が片手を上げた。 「なんだ? 志保」 「その映画のパクリみたいなセリフ、本気で言ってるワケ?」 「当然だろう? 俺の計画は完璧だぞ」 自信満々の朔の言葉に、志保は早くも敗北を確信した。 「ま、冗談抜きで、そう簡単にはここは陥ちない……はずだ」 「ちょっとちょっと〜。何よそれ。さっきの自信満々の態度は何処行ったのよ?」 「仕方ないだろう。10m先まで見渡せる廊下。堅牢に築いたバリゲード。窓の外からの 襲撃の心配も無いし、今回グレネードなどの爆発物が使用できない以上、敵の接近を許し さえしなければここは防げる。あとは無茶をしたり下手な欲を出してメンバーが減らなけ れば、充分持ちこたえられるのは間違い無い。懸念事項はお前達の射撃能力だけだ」 「理屈魔」 「ほっとけ。理屈が通っているなら問題あるまいが? ……ちょうどいいし、試してみる か?」 「え?」 「シッポから通信が入った。サッカー部のホープ、佐藤と垣本率いる突撃部隊が接近中だ そうだ。各員戦闘配備!!」 「ひるむなぁ!! ここで引いたら未来はないぞ!!」 たかが小人数と高を括っていた垣本の顔に焦りが浮かんでいた。 戦闘開始から数分経つが、双方ともに動きが取れず膠着状態だ。 壁の窪みなどを楯にして射撃を続けるが、バリゲードを築いているせいで相手にはかす りもしない。 ところが向こうには恐ろしく射撃の上手い奴がいるらしい。 まず迂闊に顔を出した者が立て続けに三人。致命傷を受け、倒れた。続けて一人、また 一人と脱落していく。 「フォー、キル!!」 倒れるたびにバリゲードの向こうから志保の快哉が聞こえる。 「うっきゅっきゅ〜!」 もしくは不可解な雄叫びが。 事態は深刻だ。 どうやら被害を受けているのはサッカー部だけらしい。 「くそう! あの女狐ぇ!! 相手は文科系サークルの、しかも最も弱小な情報特捜部だ っていうのに!」 垣本の持つ五六式小銃(和製AK−47)が激しく火を吹くが、それは虚しくバリゲー ドに弾痕を残すばかりだ。 「垣本! 無駄弾を撃っちゃ駄目だ!」 ステアーAUGミリタリーで援護射撃する佐藤雅史の助言を聞く間もあればこそ、垣本 の額が敵弾によって割られていた。 「……セブンヒット!! 天才志保ちゃんとお呼びっ!!」 「だ、ダメだ佐藤先輩! このままじゃこっちが全滅してしまいます!!」 サッカー部の一年部員が絶望的な顔色で指示を求めてくる。 部員達が一人、また一人と倒れていく。 サッカー部も部員が多いとはいえど、このままでは敗色は濃厚だ。攻め手である以上撤 退の選択は常に残されているが、脱落していった部員はあまりに多い。この拠点を落とさ ず撤退するには、もう被害が出過ぎていた。 垣本が言ったように、勝たねばならないのだ。この戦いは。 負けは勿論、引き分けも許されない。 勝たなければ、未来は無い。 「……突撃をかけよう」 「で、でも!」 「第二購買部から購入したジュラルミンのシールドを前面に押し立てて、突っ込む。近接 戦に持ち込んでバリゲードを無力化出来れば、人数で優るこっちに分があるはずだよ」 「でも情報特捜部の部長は剣士として有名な悠ですよ!?」 「一人や二人接近戦が得意な人が居たって、大勢に変化をもたらすのは難しいよ。大丈夫! なんとかなる! ……もうやるしかないんだ!!」 決死の覚悟を決めた雅史の表情に、その場に居た全員の目に光りが宿る。 「いくよ!!」 「応!!」 雅史の指示のもと、サッカー部は無謀な突撃を敢行した。 廊下の踊り場に、ジュラルミンシールドを片手に携え、もう片方の手に銃を構えたサッ カー部員達の列が並ぶ。 「……愚かだな」 グロック34レイルド・フレイム(50連装マガジン装備)を片手にバリゲードの影か らそれを覗いていた朔が、ポツリと呟いた。 「無理に抵抗する必要はない。近付きたければ近付かせてやれ」 「いいんですか?」 「構わんさ。問題無い」 姫川琴音の疑問に、冷笑を浮かべる。 怒号を響かせながら駆け寄るサッカー部員達がバリゲードまであと3mまで迫った時、 突如彼らの両サイドの壁が爆発した。 「うっ、うわわぁぁぁぁぁぁあああ!?」 「今だ! 一人も残すな!! 皆殺しにしろっ!!」 浮き足立ち陣形の崩れたサッカー部員達が、情け容赦無く特捜部部員達に蜂の巣にされ ていく。 「……撃ち方やめぇ!」 朔の指示がとんだ時には、もはやサッカー部員の中に動く者は見つけられなかった。 「死んだ振りの生き残りがいるかもしれないから、適当に掃射しておけ。それが終わった ら弾薬の補給を忘れないようにな。……シッポ」 部員達にそう指示を出し、コミュニケーターに呼びかける。 『イエッサ!』 「近隣に敵影は確認できるか?」 『ノーッサー! しばらく攻撃はないと思われます。お疲れさまでした』 「なにかあったらすぐに知らせてくれ」 『アイアイサー!! 早速ではありますが報告です。格闘部と剣道部が協力体制築いた模 様。弓道部を攻撃中です』 「……了解。結果が出たら、知らせてくれ」 『アイ、サー』 無線を切った朔は、琴音がなにか言いたそうにしている事に気付いた。 「? どうかしたか?」 「いえ……。その、今回は爆発物の使用は禁止だったんじゃ……」 「爆発はしてない」 「でも……」 「あれは指向性のクレイモア地雷と言って、火薬の力で中に詰まったベアリング弾を発射 し、対象を死傷させるものだ。爆破の被害は一切無い」 そこまで言って肩を竦める。 「ま、一種のブービートラップだな」 「……ずるいですね」 「戦争は頭使ってやるもんだからな〜」 琴音の冷ややかな視線が朔を襲う。が、それは能天気にカンラカンラと笑う部長の厚い 面の皮を滑っただけだった。 銃撃戦の戦果は、時として絶対的な差を生み出すこともある。 戦闘を開始した時の状態が五分でなければ、それは殊更明確となる。 それは狡さであり、卑怯であるかもしれない。 だが、それを知る者はその行いを戦術と呼ぶ。 ……ハズ、だが。 まだ情報特捜部を襲ったサッカー部は幸せだったと言えるかもしれない。何故ならオカ ルト研を襲撃した二年生のエース矢島率いるバスケ部は、まともに戦う機会さえ与えられ なかったのだから。 早くからオカルト研が部室に立て篭もっているのを確認していた彼らは、周到に配置を 行い、万全を期して戦いを挑んだ。 矢島の合図で乱暴な音を立てて蹴り開けられた部室の扉に、まず三人が同時に飛び込む。 一人が右に。 一人が左に。 一人が床に滑り込みながら。 そして扉を蹴り開けたものがその場で銃を構える。M16A4カービン。セミアサルト、 屋内戦に適した、もっとも標準的に出回っている銃だ。 急に暗転した視界で、誰何の判別がつかないまま、人影を確認した瞬間に四人はトリガ ーを絞った。 その瞬間に彼らは勝ちを確信した。 そもそも踏み込まれた時点で勝敗は決するのだから、扉の前に人を配置していない事が 愚かだったのだ。 そう信じ、疑いもしなかった。 それぞれが標的と定めた人影の足元に、オカルト研部長、来栖川芹香の描いた防御障壁 の魔方陣が輝いている事を確認するまでは。 反撃が始まった。 『魔弾の射手は敵を狩る! ただ猟犬を放ちて弓を撃つ!』 高速言語で唱えられた呪文が力を宿し、神無月りーずの持つFA−MASスーパーバー ジョンが唸りを上げた。 呪文を付与された弾丸は自ら標的を定め射貫く。 無論、敵は一人ではない。 並み居る敵。迫り来る敵を打ち倒すため、りーずは続けて呪文を放つ。 『走れ走れ猟犬よ! 更に速く! 更に鋭く! 更に的確に!!』 マガジンが空になる瞬間を見切り、再装填。 更に撃つ。 『魔弾の射手は敵を逃がさぬ!!』 討ち果たす為のスペルを唱えながら歩を進める。 廊下に踏み出し弾丸をばら撒く。 死角に逃げ込んだ敵も逃しはしない。りーずが視界の端にでも捕らえた瞬間、その標的 はロックされる。光の速さで迫るターゲットサイトから、逃れる手段などありはしない。 余さず弾薬を使いきり、三つ目のマガジンを装填し終えた段階で、りーずは油断なく周 囲を見回した。 口元に笑みを浮かべる。 楽な仕事だ。 「でも……真に敵を討つのは、僕の役目ではないですからね。自重は肝要」 呪文の詠唱の通りに、目視しうる範囲の敵をたった一人で殲滅した事を確認したりーず はFA−MASを肩に担ぐと、拠点であるオカルト研究部の部室へと一時撤退した。 「とりあえず第一陣は駆逐できたようですよ、芹香君。この調子で防御を固めて、あとは 東西君達の活躍に期待しましょう」 「…………」 芹香は何も言わず。硬い表情で静かに頷いた。 基本的に戦闘というものは、先ほど綾香が言っていたように拠点を防御する側が有利で ある。防壁の有無だけで雲泥の差があるし、事前に罠を張る事も可能だ。わざわざ物資を 調達する必要もない。 工作部のボスとして君臨する菅生誠二は、実にその事をよくわきまえていた。 拠点の周辺には新旧取り揃えたトラップを山のように設置。自動迎撃システムを完備。 果ては3D投影像であたかもその場に居るように見せかける事までやってのけたのだ。保 科智子や昴河晶、陸奥崇、FENNEKといった優秀なサポートがあったとしても、なか なかそこまで出来るものではない。 加えて工作部の最後の砦を守る八希望が持つ『意思を与える』という能力は、余人の追 随を許さない凄まじい火力と迎撃能力を銃器そのものに与えてしまった。 難攻不落の要塞。 それを築き得たのはひとえに、誠二の辣腕によるところが大きい。 そもそも攻め手は守り手の最低三倍の兵力を必要とすると言われているのだ。 寡兵でその戦力差を埋めるのは、非常に困難と言える。 無論その事実も、攻め手と守り手の勝敗が常に結果が変わらないという事を意味するも のではない。 そういったケースの中でも悲惨だったのは、やはり柏木梓や日吉かおりが所属する陸上 部だろう。こういった状況で有効に使えるような能力の保有者が居るわけでもなく、何よ り相手が悪かった。 「お前達とは志が違うのだ!! 私は義によって立っているからなぁっ!! オラオラァ! 命の惜しくない者から、前に出やがれっ!!」 両肩に二門。両腕に各二門。計六門のガトリング砲を装備した戦鬼。歩く重戦車ジン・ ジャザム。 バックパックには一見ドラム缶かと思うほど、たっぷりの弾薬を背負っている。 弾が切れるまで、彼を止める事はままならないだろう。 無人の野を行くが如く、敵を粉砕し突き進む。 『風の精霊よ……。右手(めて)に宿り荒れ狂う障壁となり、我と彼らの身を守り給え。 左手(ゆんで)に宿り、我らの鏃に敵を貫く力を貸し与え給え』 「ひめろくさんもミサイル・プロテクションとシュート・アローかけたから、ガンガン撃 ってくださいね」 精霊使い、東西。 一発必中のスナイパー・ライフル、PSG−1を肩に吊ってはいるが、攻撃は二人に任 せてサポートに徹している。 呪文をブーストしてくれる生命の精霊、命(みのり)を肩に乗せ、両の手は視覚化する ほど高密度の精霊力を纏わせ、ゆったりと歩く。 言うまでもないがそのサポートの効果は絶大だ。 「はいは〜い。え〜と、悪いんですけど当たると痛いですよ〜」 片腕をサイボーグ化した小柄なその少年はというと、のんびりとした口調でやる事は極 悪である。 その手にあるのはM134ミニガン。 ミニガンなどという可愛らしい名前ではあるが、分類は重火器。定置、または艦載で使 用されるガトリング砲である。本来ならば。というより、通常ならば人が携行出来るよう な代物ではない。 恐らくは科学部顧問、柳川祐也の仕業だろうが、ミニガンとひめろくのアーム部を結合 し、完全に一体化している。バランスが悪いはずだが、ひめろくの足運びは実にスムーズ だ。祐也の技量が光る仕事ぶりと言える。 彼らの猛攻の前に、運動部はほんの一瞬のうちに陥落した。 「ち、畜生!」 「フ……。オマエらの首級は頂いて行く! ジオン……もとい、科学部再興の為に!!」 倒れ伏し、悔しげに唇を噛み締める梓を勝者の余裕で見下ろし、ジンは冷然とそう言い 放った。 作戦コード・・・λ25ポイント。 運動部戦略拠点。 「…………」 「…………」 その様子を見守っていた朔とシッポは言葉を失って立ち尽くしていた。 「……あ〜」 「……うん」 「……なんか、こう、バルカン・ファランクス(艦載型対空ガトリング砲)が並んで歩い てるみたいだな」 「東西さんが居ますから、より悪いです。言うなればイージス艦が二隻並んでるみたいな ものですね」 「……まぁ、あれだな」 「……あれですよね」 「……防御っていうのも重要だよな」 「そう。そうですよね。ここを守らないと帰る場所がなくなってしまいますからね」 「そうそう。そういうことに、しておこうな」 「そういうことにしておきましょう」 人間、誰だって勝ち目のない戦いはしたくないものである。 学園各所で激しい戦闘が行われた。 弓道場に押し入った格闘部&剣道部連合が、撤退に次ぐ撤退の果てに沙耶香の作成した 魔導器のトラップに捕らえられ、綾香を含む戦力の大半を失うという大惨事に見舞われた ものの、副将坂下の冷静な対処で被害を最小限に食い止め戦闘を続行している。 突出した能力を持たないなりに、ダークホース千鶴ちゃんを筆頭に、個々に奮戦するお 料理研究会の面々。 文科系と体育会系の、意地を賭けた抗争もあった。 戦闘を避けた者達も居た。 Leaf学園が誇る巨大図書館の地下迷宮深くに拠点を据えた葛田玖豆夜率いる生物部 の元へは誰も辿り着けなかったし、茶道部は誰も攻撃を仕掛けようとしなかった。さもあ りなん。誰だって藪(柏木楓)を突ついて蛇(西山英志)を出したくなんかない。 そんな中、総員10名に満たぬバレー部はとーるの指揮のもと、懸命に戦線を維持して いた。維持できていた事の方が奇跡に近かった。 生き残った誰もが憔悴しきっていた。 防壁にもたれうずくまる者。次に備えてか疲労のためか、仮眠を取っているのか俯いて いる者。皆思い思いに過ごしている。 共通しているのは口をきく事さえ億劫だという一点。 弾薬も尽きようとしている今、新たな敵が現れれば、それで終わり。 その事に誰もが気付いていた。 だが、その胸に絶望は無い。 それを抱く時期は、もうとっくに過ぎ去ってしまった。 今皆を包んでいるのは奇妙な満足感だけだ。 「……すいません、沙織さん。私の力が及ばないばっかりに」 それでも、だ。 それでもとーるはそのセリフを口にせずには居られなかった。 もうこの場所を、彼女を守ることは出来ないのだ。 これを嘆かずに何を嘆けと言うのか? そんなとーるの心情を余所に、新城沙織はまっすぐにとーるを見据え、そして穏やかに 微笑みながら首を左右に振った。 「そんな事ないよとーるくん。とーるくんが居たから今までやってこれたんだよ。私達だ けだったら、きっとこの戦いが始まった頃にやられちゃってた。とーるくんが居てくれた から、今まで頑張ってこれたんだよ」 「そうそう。それに諦める必要なんて無いですって! まだ僕達は戦えます。そうですよ ね?」 ヘルメットのふちを持ち上げ、makkeiが漢くさい笑みを浮かべ辺りに視線を向け る。 「あったりまえだよ! 覆面忍者エックスに鍛えられてきたのは伊達じゃないんだよ。ね、 電芹」 「それはあきや……。いえ、失礼。私だってたけるさんを残して戦闘を放棄する事なんて できません」 川越たけると電芹が並んで、顔を見合わせ、そして笑みを浮かべた。 お互いがお互いを大切に思う二人。 二人とも最初から身代わりになる覚悟くらいはあったのかもしれない。 「ま、ここまで来たんだからもう少し。本当に最後の最後まで足掻いてみてもいいんじゃ ないか? makkeiが言った通り、諦めるのはまだ早いだろ?」 そう言って城下和樹が、不器用に片目を瞑って見せた。 和樹は上級生が去り、男子部員がたった一人になった時も退部せずに居たという実績が ある。 それは諦めなかった者の言葉だった。 皆の顔に笑みが浮かび、笑い声がこぼれた。 満足そうな、それでいてしぶとさを備えた、そんな笑いだった。 大勢が移動してくる足音に気付き、表情を悲壮に変えるまでの僅かな時間だったが、確 かに彼らはそんな笑みを浮かべていた。 そして無慈悲に。 誰もに平等に。 それは終末を告げたのだ。 『キ〜〜ン コ〜〜ン カ〜〜ン コ〜〜ン、キ〜〜ン コ〜〜ン カ〜〜ン コ〜〜ン』 『え〜。以上をもちまして、部費争奪部活対抗サバイバル・フラッグ戦を終了致します。 皆様お疲れ様でした。繰り返します。以上をもちまして、部費争奪部活対抗サバイバル・ フラッグ戦を終了致します。皆様お疲れ様でした〜。チャイムが鳴り終わった瞬間から現 状を維持してください。え〜。チャイムが鳴り終わった時点で終了です。それ以降に取っ たフラッグは無効になり……』 その瞬間、学園の各所で悲喜交々の歓声が響き渡った。 END? ======================================== ※フラッグ戦 サバイバル・ゲームのルールのひとつ。 まず最初に敵味方のフラッグを設置し、先にフラッグを奪うか敵を全滅させる事が勝利 条件となる。 攻守のバランスとタイミングを掴むのが勝利への道。 尚、本来ならば装備品に当たった場合もヒットにカウントされるのだが、今回は特別ル ールとしてブレード及びシールドのみ除外とした。 ======================================== その後の話――其の壹―― 「なんとか生き残ったな」 「無事済みましたねぇ」 朔とシッポは顔を見合わせ、大きく嘆息した。 情報特捜部と放送部の連合軍(兼部者多数)は、最後までフラッグを奪われる事はなか った。フラッグを奪いにこそ行けなかったが、部の人数的に考えれば無難なところと納得 できる範囲だ。 小規模の部としては充分な戦果と言える。 なにより、Gun Mastarとしての尊厳を損ねることが無かったというのが大き い。 「流石に今回は緊張したなぁ」 「そうですねぇ」 「ああ、気付かなかったな。平和って……素晴らしいものなんだな」 「ええ……。改めて見直すまで気付きませんでした。世界はこんなにも、美しいものだっ たんですねぇ」 朔とシッポは、小市民的な満足を謳歌した。 幸せとは、得てしてささやかなもので、ちょっとしたきっかけで得られる物なのである。 「スケールがちっちゃいわねぇ」 志保には呆れられたが。 その後の話――其の貳―― beakerはそろばんを弾いていた。 「……工作部に設置したトラップの工費が……で、銃の貸与で出た利益が……。まったく 菅生さんは割とがっちり財布を締めてますねぇ」 中古市場を巡って買い集めたぶん仕入れは安く済んでいるから、それをもう一度流せば 元は取れないでもないですかね。 そんな事を呟きながらパチパチとそろばんを弾く。 「え〜と、次がサッカー部か。コルトM4A1R.I.S.バージョンが1丁39800 円(税抜)。五六式小銃が58000円(税抜)。ステアーAUGミリタリー・バージョ ンが34800円(税抜)……」 少し考える。 「流石に定価でというのは良心的ではありませんし、市場価格を考えれば2割程度は値引 きするところですか」 ――あともう少し引いても、儲けにはなってますね。 「第二購買部謹製ペイント弾1000発入り、1300円(税抜)が……」 結局この部費争奪戦で最も儲かったのはbeakerの第二購買部であった。のだが、 争奪戦の敗北により支払いが滞る部が続出。 部活の破産の申告を学園側が承認するか否か、熱い戦いの幕が、今まさに切って落とさ れようとしていた。 その後の話――其の参―― 「バカなっ! 何故オレ達が集めたフラッグが認められん!?」 「え〜。ですから……顧問が柳川先生。これは結構です。で、部長がジン・ジャザムさん。 部員が東西さん、ゆきさん、ひめろくさん。部員数が四人ですので部として存在する最低 部員数である五人に到達していないことになります」 「!!!!」 ジンの精神に雷が落ちた瞬間だった。 「ゆきさんが茶道部。東西さんがオカルト研究会に所属してますから、貴方がたの取得し たフラッグは二等分してそれぞれに分割するという事に……。あの、聞いてます?」 科学部にKoseki、ジン・ジャザム専用メカニックガールズの4名が入る前の、冬 の時代の話である。 その後の話――其の肆(続其の参)―― 「すまなかったな……。お前達の奮闘を無駄にしちまってよ」 憔悴し、項垂れながらもジンが科学部のメンバーに謝罪する。 「しょうがないですよ。ここに居る誰も、人数が足りないことに気付いてなかったんです から」 「ジン先輩だけの責任じゃないですって」 「だいたい前もってわかっていても、名前だけでもウチに在籍してくれる人が居たかどう か」 ひめろく、東西、ゆきが次々に慰める。 尤も、ゆきのセリフはなんの慰めにもなっていないが。 マッドサイエンティストとして名を馳せる柳川祐也が顧問では、無理も無い。 結局科学部は抗議活動を起こすも部として認められず、同好会としてスズメの涙ほどの 活動資金を受け取るに留まった。 「さて……と」 科学部の面々と別れ、東西は意気揚揚とオカルト研の本部拠点へ足を運んだ。 「ただ今戻りました〜。あ、来栖川先輩。じゃ〜ん! 見て下さい、今日の戦果!」 ゆきと分配したフラッグの半分を手に、自慢げに東西が胸を張る。 それを見て来栖川芹香は目を見張った。 「! …………」 「すごいですね? いや〜、作戦がバッチリ上手く行きまして」 「…………」 「どういった作戦ですか? ええ、名付けて『漁夫の利作戦』。コツは欲張らない事です ね」 そう言って東西は片目を瞑った。 どちらの部活に重きを置いているかということかもしれないが、策士東西、まごうこと なき鬼である。 その後の話――其の伍―― 「フ、愚かな……」 審判グループに抗議している科学部の面々を眺め、西山英志は不適に笑った。 「人数が足りない事を指摘されるなど、少し考えればすぐに気付く事! 名ばかりの幽霊 部員であろうが引き入れておくのが道理というものだ! なぁ、ハイドラント」 「それはまったく同感だが……この手はなんだ?」 ハイドラントは難しい表情で自分の肩に置かれた手を見やった。 うむ、と英志が頷く。 「お前の役目は終わった。いろいろと感謝する。以降はそのあたりを踏まえて、部活動を 続けてくれ」 「…………」 「…………」 「……どういう、意味だ?」 「? 難しすぎたか? ではお前にも理解できるよう、簡潔かつわかりやすく言ってやろ う」 英志はにこやかな表情のまま親指で首を掻っ切るしぐさをし、そのままその指を大地へ と向けた。 「私と楓の至福のひとときの邪魔だから、以降茶道部部室には近づくな」 「……う、裏切ったんだな!? 僕の心(革命的楓解放戦線)を裏切ったんだな!!」 「裏切ったとは心外だなぁ。……単に利用したんだ」 「き、貴様ぁっ!!」 ハイドラントの顔が赤黒く怒りに染まる。 だがそれに水を差したのは、議論の渦中にある一人の少女の声だった。 「英志さん……」 「か、楓!? なぜここに……。!! いや、ち、違うんだ楓。これは……」 それまで不適に笑っていた英志の表情に、初めて焦りが浮かんだ。言い訳にもならぬ言 葉の羅列に、驚きを浮かべていた楓の瞳が潤み、ゆっくりと俯いた。 「冷徹な英志さんも、その、素敵です……」 ハイドラントは自爆した。 この後ハイドラントは第二茶道部を発足。 後に部員でもないダーク十三使徒の溜まり場となる。 創設の理由は『茶道部は作法にこだわり仰々しすぎ、茶の真の楽しみを理解し難いもの としている。茶の文化から日本人の心のゆとりを学び、己のものとするのが本義であるは ずだ』との事だが、実のところ茶道部への単なる対抗意識だったのではないかと噂されて いる。 噂の真偽のほどは、定かではない。 END. ======================================== 長らくご無沙汰しておりました。悠朔です。 最初にこれを書こうと思ったのはずいぶん前。下手したらL書き始めてすぐだったはず です。サバイバル・ゲーム仲間で中学時代からの友人Sと会話している途中、 「学校とか立体駐車場(車あり)とかでサバ・ゲーやったら楽しいだろなぁ」 この一言がきっかけでした。 二人して西部警察の影響を多分に受けているだけ、という気もしますが(笑) さて、書くにあたって調べてみたところ、兼部している人間が多く、その割に部活に入 ってる人自体は意外に少ないという事実に直面。 執筆は頓挫していました。 が、気がついたらずいぶん(名前だけの人も含めて)増えてたんだなぁ。 しみじみとそんな事を思ってしまいました。 ここに書いたのは大げさに言えば私の叶わぬであろう夢です(京都の方に屋内戦用の施 設があるとの事ですはありますが)。 読んだ人が楽しんでくれたなら、嬉しいなぁ。 2002.11.23