Lメモ私的奇譚「薔薇部と新たなお友達」(前編) 投稿者:ギャラ

 その日、りーふ学園に通う生徒たちは、いつものように大ピンチだった。
「魔法少女エルクゥユウヤ☆ 今日はコスプレで参上です☆」
 『サイキックハイスクール』の『レナ』というキャラのコスプレをしたエルクゥユウヤが
道行く生徒を片っ端から毒牙にかけて回っている。
 ハイレグバーン! Tバックボーン! 胸元ドーン!の強烈な衣装であった。健康な男子で
あれば、体中の血液が一カ所に集まってしまっても無理はあるまい。
 だが、それも真っ当な人が着ていれば、の話であった。
 エルクゥユウヤでは、血が集まるどころか、本来の流れを外れて口と耳から吹き出して
しまいそうな代物でしかなかった。しかも、色んな物がはみ出しまくっていて大変なことに
なっている。
 はっきり言って有害物。ロ○ア人なら迷うことなく日本海に捨てているであろう物質で
あった。
 そんな混乱の中を、一人の少女がひた走る。
 その手に、救いをもたらす愛の力を携えて。
「ジンさん、出番だよ!……って、あれ?」
 急いで三年生の教室に駆け込んできたティーナは、ジンの姿が見えないことに首を傾げた。
「ねぇねぇ、ジンさん知らない?」
 ほとんどの生徒が迎撃か避難に出てしまい閑散とした教室の中、一人平然と残っていた
生徒に尋ねてみる。
 その生徒――ギャラは、読んでいた薔○族を閉じると、しばらく考え込んでからこう答えた。
「たしか、デンドロビ○ムがどうとかおっしゃっていましたが……」



 その頃。
 ジン・ジャザムは、衛星軌道上に待機していたデンドロビ○ムと合体し、一路月軌道上を
目指して宇宙空間を逃走していた。
 伊達にSS使い最強と謳われているわけではない。
 危険を察知する嗅覚も、彼は最高のものを備えていたのである。



 エルクゥユウヤの出現で学園が大騒ぎになっている頃。
 陸奥崇は、十数年に及ぶ人生の中でも最大級の危機に直面していた。
 ――出そうなのだ。鼻血が。
 何しろ、避難する生徒たちで満員電車の様相を呈している廊下である。ただ歩いている
だけで、そのつもりがなくても色々な物――柔らかい肉まんのような感触のものとか――が
手に当たる。押された女子生徒がもたれかかってきたりもする。
 すでに、陸奥の鼻腔粘膜は限界寸前三秒前であった。
(――それだけは出来ない!)
 陸奥は心の中で絶叫した。
 セリオを見て鼻血を出すのはいい。まだ許容範囲内だ。それで『鼻血男』と呼ばれたと
しても我慢できる。てゆーか事実だし。
 だが。
 だがしかし、だ。
 『エルクゥユウヤを見て鼻血を出した男』。
 これは駄目だ。
 はっきり言って、一生モノの恥である。
 きっと同窓会なんかで会う度に、『そう言えば、お前は高校の時エルクゥユウヤを見て……』
なんて言われるに違いない。
 それどころか、就職しても会社の飲み会なんかで『僕の高校の時の知り合いが……』などと
話のネタにされてしまうかもしれない。
 そんな十字架を一生背負って生きるのか?
 嫌だ。
 そんな人生は嫌だ。
 鼻を押さえ、陸奥は必死に走る。
 早く、早く、遠くへ――!
 だが。

 むにょん。

 無情にも、陸奥の腕に柔らかい感触が襲いかかってきた。
「――すみません、陸奥さん」
 彼の肩のすぐ横で、セリオが詫びの言葉を口にした。誰かに押されたのか、陸奥の腕に
体重をかけるような傾いた体勢になっている。
 そして、その顔の下の方から柔らかい感触が――。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 絶叫とともに、陸奥は廊下の窓へと頭から飛び込んだ。
 高い音を立ててガラスが砕け、陸奥の身体が五メートル下の地面へと落下する。
「――陸奥さんっ!?」
 セリオの驚いた声が遠く聞こえる。
 頭部の色んな所から――もちろん鼻からも血を流しながら、陸奥は歪んだ笑みを浮かべた。
「……木を隠すには、森の中……」
 がくり。
 陸奥の頭が、力を失って大地につっぷした。
 その顔には人生の勝利者としての笑顔が浮かんでいたと、伝承は語っている。
 合掌。ちーん。



 一方、その頃のジン・ジャザム。
「おっ、あんな所にスペースシャトルが……ア○リカのやつだな? おーーーい」
『隊長! 怪しげな飛行物体が本機に接近中です!』
『あれは……戦闘用か!? 某国の仕業か宇宙人かは知らんが、我々に向かってくるとは
 いい度胸だ! 正義の怒りを見せてやれ!』
「――うわっ! いきなり撃ってきやがった! てめぇ、いい度胸じゃねぇかぁっ!?」



「各人、任意の発砲を許可する! 生徒指導部の意地に賭けて、ここから先に通すなっ!!」
 ディルクセンの雄叫びが轟いた。
 その周囲には数十人の生徒指導部員の姿が見える。
 秩序のためなら命もかける、風紀委員選り抜きの決死隊であった。
「死を恐れるな! 我ら秩序の礎とならん!」
「「応っ!」」
 漢たちの叫びが空気を震わせる。
「薔薇を恐れるな! 貞操よりも秩序を救わん!」
「「おー」」
 ちょっと元気がなくなった。
 命は惜しくないが貞操は惜しいらしい。
「むぅ、やっぱりそうか……」
「大丈夫よ、兄さん! 兄さんが薔薇になったら橋本先輩とトレードして薔薇部に居場所を
 作ってあげるから!」
 松原美也の心暖まる声援に、ディルクセンは無言で「生徒指導部員勤務評定表」と書かれた
ノートを取り出し、『−30』と書き込んで閉じた。
 ついでに目も閉じ、空を仰いで瞑想する。
 ――保科……さらばだ。
 瞼の裏に映る想い人の姿にそっと別れを告げ、ディルクセンはくわっとばかりに目を
見開いた。
 もはやその目に迷いはない。
「秩序のためならば……我、薔薇に堕ちるとも悔いはなし! 突撃ぃぃぃ!!」
「「おおおおおおおっ!!」」
 ディルクセンの勢いに引きずられるように、決死隊もゴム弾を乱射しながら突撃した。
見る見るうちにエルクゥユウヤとの距離が縮まっていく。
 その時、ユウヤの顔に邪悪な笑みが浮かび上がった。
「あら、カメコくんがこんなにたくさん☆ ユウヤ、困っちゃう☆」
「「うおおおおっ!」」
 ゴム弾が雨霰と撃ち込まれるが、ユウヤは欠片ほどもこたえた様子はない。
 にやりと微笑むと――多分、本人はにっこり☆のつもりなのだろうが――腰に手を当て、
「そーれ、サービスポーズ☆」


          脳殺と書いて脳を殺す。


 ――ドナーカードに署名しておけばよかった。
 それが、ディルクセンが脳波停止の瞬間に浮かべた思考であった。



 でもって、その頃のジン・ジャザム。
「ストナァァァァ、サンシャァァァイィン!」
『ぐわああああああっ! ア○リカに栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
 ちゅどーーーん。



「ほほぅ、あれがエルクゥユウヤか……」
 意味もなく校舎の屋上に登り、騒ぎの中心を見下ろす人影が一つ。
「ふっ、だが、しょせん吾輩の敵ではないなっ!」
 意味もなくふんぞり返る男。
 それは、紛れもなく九品仏大志であった。
「……敵でないって、具体的にはどうするつもりなんだ?」
 その大志に声をかける男がいる。
 その名を、
「……はて、誰であったか?」
「忘れるなっ! 千堂和樹だ、せ・ん・ど・う・か・ず・きっ!!」
 額に青筋たてて和樹が怒鳴った。今ひとつ迫力はないが。
「ふっ、冗談だ、まい同志和樹。例え学園生徒が全て敵にまわろうとも、吾輩だけは貴様の
 味方だとも」
「学園全てが……って、まさかそんなことがあるわけないだろーが」
「ふっ、知らないとは幸せなことだ……貴様、自分が青姦大魔王と呼ばれているのを知らん
 のだな?」
「――何だそりゃあああああああああああああああっ!!」
 青筋を立てすぎて血を吹き出させながら和樹が叫んだ。
 もっとも、否定できない辺りが情けないが。
 祐介、耕一、浩之はおろか外道の呼び声も高い冬弥ですらなし得なかった、公園やこみパ
会場での行為をいたした男、千堂和樹。
 まさに真の漢であった。
 てゆーか、絶対覗かれてたり盗撮されてたりすると筆者は思うのだが、どうだろうか露出狂?
「うがあああああああああああっ!!」
「ふっ、心配するなセニョール。吾輩は性的嗜好で人間を差別するような愚行には走らんとも。
 かく言う吾輩自身、三次元の存在には興味も覚えんからなっ!」
「お前と一緒にするなっ!」
 和樹が大志の頭をはたく。
 目くそ鼻くそ何とやら、であった。
「……そんなことより、あんた達、よくあんなの直視できるわね……」
 呆れたような声が、二人の後ろから聞こえた。見れば、長い髪を少し変わったポニーテール
のようにまとめた女性が目をつぶって立っていた。
 彼女の名は、高瀬瑞希。
 この三バカトリオの唯一の良心である。
「つまり、まい同志瑞希がドロンジョ様。吾輩がボヤッキーでまい同志和樹がトンズラーで
 あるな」
「いや、どっちかと言うとお前がドロンジョ様のような気もするが……」
「わけの分からない話に走るんじゃなぁいっ!」
 瑞希の鉄拳が二人の頭に飛んだ。
「ぐう……はっ! そう言えば、エルクゥユウヤの話であったな」
 殴られた拍子に神経がつながったのか、大志が元の話に戻る。
 安物のテレビのような脳味噌であった。
 ポイントは斜め四十五度だ。
「そう、つまりあの程度の輩など吾輩の敵ではないっ!」
「だから、具体的にどうするんだ?」
 青姦大魔王が訊ねる。それに対して、大志は鼻で笑って答えた。
「ふっ、知れたこと……来たれっ、我が下僕A、B!」
「「ははっ!」」
 大志の叫びに答えて、空気が揺れた。その背後に、二つの黒い影が舞い降りる。
「来たでござるよ、ヤングメン!」
「カ、カ、カメラ撮影なら、まかせるんだな!」
「こいつらかあああああああああああっ!」
 またもや絶叫する和樹。よくまあ喉が枯れないものである。
「何よこれ……」
 瑞希も露骨に顔をしかめた。
 そう。
 そこに立っていたのは、こみパ会場で出現する謎のおたくA、Bであった!
「ぼ、僕たちが来たからには、もう安心して大丈夫なんだな」
「大船に乗った気でいるでござるよ、ニンニン」
 如何にも前日テント張って徹夜しました、というような外見の連中にそんなこと言われても、
安心できるわけがない。
 ぱっと見ただけでも、ほとんどのパラメータが平均以下に思える。ちなみに、カリスマは
最低の3だ。
「さあ行くのだ二人とも! あのコスプレイヤーを写真責めにして動きを止めてやれっ!」
「「おうっ!」」
 だが、そんな二人の表情を気にするような神経の持ち主はいなかった。気にするようなら
まだ救いはあるのかもしれないが。
 カメラを抱えた二人組が、ばしばしと写真を撮りまくりながらエルクゥユウヤに向かって
いく。
「ふっ、見るがいい同志たち。あの勇ましい姿を」
 大志がご満悦の表情でそんなことをのたもうた。
「いや、勇ましいかどうかは知らないけど……あんなのを写真に撮るなんて正気なの?」
「それがおたくと言うものだ、セニョリータ。今のあの二人の目には、レナのコスチュームしか
 映っておらん! 後で冷静になった時後悔するかもしれんが、それも人生の糧なのだ!」
「てゆーか、お前他人事だからどうでもいいとか思ってるだろ……」
 和樹が冷たい視線の洗礼を大志に浴びせた。
「まい同志和樹。そういう風情のない言い方はよくないぞ」
 だが、ジン・ジャザムのロケットパンチを弾き返すとさえ言われる大志の面の皮には通用
しなかった。
「ともあれ、これでエルクゥユウヤの行動はしばらく止まるに違いあるまい。カメラを
 向けられて悪い気のするコスプレイヤーもそうそうおるまいしな」
 たしかに、あの二人とユウヤならば場所など気にせず撮影会を始めるに違いない。周囲を
気にするだけの常識の持ち主がいないことが、今回は幸いした。
「そうすると、吾輩は学園を救った英雄ということになるな……くくくくくっ」
「……でも、なんだかあの二人ピンチみたいよ?」
 妖しい笑いを漏らす大志の横で、どうでもよさそうに瑞希が呟いた。
「なにっ!?」
 慌てて振り向く大志。
「きゃーん☆ ユウヤ、感激のエンブレイス☆」
「うぎゃあああああああああっ!!」
 その視線の先で、ユウヤに抱きつかれたおたくAがもがいていた。あまりの力で抱き締め
られたため、背骨が曲がってキングアラジンと化している。
 その横には、同じく泡を吹いているBが倒れていた。
「ぬぅ、これは予想外だな……」
「予想外だな、じゃなくてどうする気なんだ……?」
 和樹の追求に、顎を撫でていた大志の手が止まった。
 しばらく悩む。
「やむを得まい。明日の勝利を信じて、吾輩は戦略的転進を敢行する!」
 そう言い捨てて、大志は素早く姿を消した。
 彼の決断力は、このような状況でも遺憾なく発揮されるのである。



 またもやその頃のジン・ジャザム。
「へっ……Win○owsでウイルスを流せるような宇宙人と一緒にするんじゃねぇよ」
『Hi、ソコの人! ドコのドナタか知りませんが、ワタシたちの同盟国ア○リカにFight
 をするとはイイ度胸デース!』
「何っ!? ――っ! てめぇらはっ!」



 ばさばさと、風がマントをなびかせる。
 校舎の上空を吹く強い風に煽られながら、その人物は顔色一つ変えるでもなく校庭を
見下ろしていた。
「あれが、エルクゥユウヤ……」
 静かなその声は瞬く間に風に散らされたが、それに応える声もまたあった。
「……どう思う?」
 人影の足下、校舎の屋上に立ったポールの根元に少女が立っている。声は、その少女の
ものであった。
 少女の服装は、人影のものとはまるで異なっている。マントもなく、肩当てもなく、
シンプルなセーラー服のスカートを押さえている。だが、その二人には何処か似た印象が
あった。
「……そろそろ行きましょう」
 そして、さらに二人。
 彼らを招くように屋上の扉を開け、佇む少女達がいた。
 人影はその声に応え、無言で頷くと宙に身を踊らせる。一瞬の後、その身体は風に運ばれ
扉の横に降り立っていた。
「さあ、行きましょう――彼らに正しい道を教えるために」



 だからその頃のジン・ジャザムだってば。
『Oh! アナタはレミィのschoolの……!』
「へへっ……そういうことか。まさかア○リカとミヤウチ星人が組んでやがったとはな……
 M○Rもびっくりだぜ。終わったけどな」
『ソノコトを知られたからには生かしておけマセーン! おとなしくHuntされナサーイ!』
「やれるもんなら……やってみやがれぇぇぇぇぇ!」