「ところで風見、血相変えて一体どうしたんだ?」 まだ事情を知らないジンが呑気に問うてくる。 そんな彼に、いかにも煩わしそうに、 「なんでも僕に姉がいるらしいですよ、まったく……」 「何? お前に姉なんて初耳だな?」 「だから、いるわけないんですよ……」 「あ? いるのかいないのかどっちなんだよ」 ジンの質問を受けているうちに怒りを取り戻したのか、 「そう! あの女は僕の姉を騙っているんです!!」 その尋常ならぬ風見の態度に少しばかり気圧されるジン。 「僕には姉などいないのに…… 僕には、家族などいないのに……っ!」 「ところで風見くん」 さっきから車形態で走りながら横耳で聞いていたFENNEKが問い掛ける。 「その、君のお姉さんという女の人、名前はなんていうか聞いたかい?」 「名前ですか? たしか、風見鈴香と名乗っていましたが。 ……全く、とってつけたような名前を――」 「……………え?」 FENNEKの声色が凍りつく。 「……風見くん、すまないがもう一度だけ、言ってくれないか?」 「だから、風見鈴香って――」 「どしぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!?」 「い、一体何だフェネック!?」 「フェネック先輩、あの女に何か心当たりが?」 あまりのFENNEKのうろたえぶりに、慌てて問い詰めるジンと風見。 「す、すみません……、しかし、あの&洛ゥ鈴香なら、あるいは……」 明らかに何かを知っているFENNEK、しかも震えすら感じられる。 「フェネック先輩、あの女が一体?」 「参考になればいいのですが……、あの女、風見鈴香は、 その筋では知らぬもの無しの、有名な運び屋=c… 真心運ぶペンギン便。その真心があれば、人間だってお運びします をキャッチフレーズに、 通常の贈り物から、裏金、ニトロ、死刑囚、核ミサイルにいたるまで、 真心次第でありとあらゆるものを運ぶ、運び屋のプロ中のプロ。 その運転技術は、まさに神業。 ミス・ノーブレーキとつけられたその異名は、決して伊達ではありません……!」 たどたどしい口調で、知りうることを全て話し終えるFENNEK。 「正直彼女に一度狙われたら、逃げおおせることなど……………………ひいっ!!」 突如思い切り叫ぶFENNEK。 不審に思い、後ろを見てみると―― 真心運ぶペンギン便 「追ってきやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」 FENNEKのバックミラーには、まごうことなきペンギン便≠フエンブレムが。 「振り切ってください! フェネック先輩!!」 「相手は運転の天才ですよぉ! 勝てるわけないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「何うろたえてるんだよお前ら」 気が動転しまくってる風見とFENNEKに一喝を入れるはジン・ジャザム。 「フェネック。あの女がどれだけすごいかは知らないが、 あの女に勝てば、お前が走り屋チャンピオンじゃねえか」 「ジンさん……?」 「闘えフェネック! 闘って、ナンバーワンの座を掴め!!」 「ジンさん……」 「そうですよフェネック先輩! このチャンス、逃す手はないですよ!!」 「風見くん……、……そうかもしれない。 俺は走り屋ナンバーワンになる為に、この世に生を受けたんだ。 さすれば、彼女との闘いは運命!!」 「そうだフェネック! あいつを倒してお前が王者だ!!」 「フェネック先輩!!」 「……よし! 胆は据わりました! 俺は勝ちます! あの女、風見鈴香に!!」 決意のFENNEK、華麗なる足回りで進路変更! 勝負の場に高速道路を選び、気合を漲らせた! 「なんぼ鈴香が運転のプロといったって、所詮は宅配トラック。 ……来栖川自動車の逸品、2000GTには及ぶべくもない!!」 「鈴香さん! どうやらひなたさんたち、高速道路に逃げるみたいです!」 「そうですねぇ」 「そうですねって……車形態のフェネック先輩のスピードは、学園随一なんですよっ! 高速道路に逃げ込まれたら、この宅配トラックじゃ……!」 「美加香さん」 帽子の奥の鈴香の瞳が光る。 「いい機会だから見せてあげます。 ――人と人とを結ぶお仕事・運送のプロの実力ってヤツを」 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 気合なのか排気音なのかよくわからない咆哮を上げながら、ただただ爆走FENNEK。 「うひょお! こりゃいいや、ハッハーッ!!」 「ジン先輩、……実はただ単に自分が楽しみたかっただけなんじゃ?」 時速250kmで爆走するFENNEKのウィンドウを開け放ち、 痛いほどの風を顔に浴びご機嫌ジンと、そんな彼をジト目で見つめる風見。 「固いことを言うな風見。お前の望みも叶っただろう?」 「まあ、そうですが……」 後ろを見る風見。ペンギン便のトラックは、影も形もなくなっている。 さすがにあの宅配トラックでは、クルスガワ2000GTの馬力には遠く及ぶべくもなかったか。 一安心して、FENNEKの後部座席のソファーによりかかる風見。 ――!? 嫌な胸騒ぎ。 そう、修羅の世界に日頃から身を置く彼だからこそ感じる予感。 ――仮にあそこまでFENNEKをビビらせるようなあの女が、この程度で振りきられるものなのか―― 胸騒ぎはどんどん大きくなってくる。 そして胸騒ぎが破裂寸前のその時、 「来るぞ!!」 「何ですってえ!!?」 ジンの声に後ろを振り返る風見。そこにはまごうことなきペンギン便のエンブレム!! 「ば、馬鹿な!!」 驚愕のFENNEK。 クルスガワ2000GTの限界速度250km。 そこまでのスピードにも引き離されることなく、いや、むしろ徐々に差が縮まっている! 「馬鹿な! 馬鹿な!! 一体あのトラック、何百キロで走ってやがるんだ!? しかも、なんだ! あのフザケた走り方はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう〜〜〜〜〜!!」 「美加香さん、追いつくまでの辛抱ですから」 「は、はい〜〜〜血が偏りそうです〜〜〜〜〜」 平然と答える鈴香に対し、目を回しかけている美加香。 「最高速度せいぜい200キロのこのトラックで、時速250キロの2000GTに追いつくには、 これしかないんです。すみません、あとしばらく我慢してください」 パニック状態の美加香の身を案じる鈴香。しかしながら口元に笑みすら浮かべながら。 そう、鈴香いうところの2000GTに追いつくにはこれしかない方法 普通に走ればまず引き離される。 この宅配トラックで最高速度を上げるには、摩擦力を弱めるしかない。 さすれば、今すぐ摩擦力を最小限にまで押さえる唯一の方法―― 「慣れればすぐにできますよ。片輪走行」 「できるかそんなもなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 悲鳴混じりの大絶叫FENNEK。 宅配トラックの片輪走行など、見たことも聞いたこともない。 しかし、鈴香はそれを軽々とやってのけた。 普通なら絶対に追いつけないはずの自分に、パワーではなく技、運転技術そのもので追いついた鈴香。 「(これが、力の差なのか? これが、ミス・ノーブレーキ、風見鈴香の実力なのか……?)」 「面白え……」 「ジンさん?」 「フェネック、上に乗らせてもらうぞ」 FENNEKの了承をもらう前に、すでにバンパーの上に仁王立ちのジン。 「ひさびさに面白え相手に出会ったな……」 まるで豪華料理を目の前にしたかのように舌なめずりをするジン。 「フェネック、確かあの女の異名、ミス・ノーブレーキ≠チて言ったよな」 「ええ、そうですけど……ってジンさん、何を?」 FENNEKには見えていない。 ジンの相貌に危険な光が宿っていたことを。 「これでも尚、ブレーキを踏まずにいられるかな……?」 「ジン先輩、やめてください!!」 「……風見?」 「そこまでする必要はないでしょう! 相手は女ですよ!?」 さすがに冗談抜きで危ないと思ったのか、必死にジンを止めにかかる風見。 「風見」 「……!」 うってかわってジンの表情に真摯なものを見た風見。 「あの女が本当にお前の姉かどうか、これ以上もない試金石だと思わんか?」 「ジン先輩……」 ジンの真剣。風見の逡巡。 「さぁて、最近使ってねえから欲求不満なんだよなぁぁぁぁぁぁ、いっちょいくかぁぁぁぁぁぁぁぁ?」 「やっぱりアンタ楽しんでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「鈴香さん、トンネルですね」 「このトンネルの間に追いつきます。………ん?」 鈴香の瞳は、標的のバンパーの上に立つ人影を捉えていた。 「美加香さん。なんでしょう、あれ?」 「え? …………あ、あれはジンさんっ!?」 一瞬で顔面が蒼白になる美加香。 「鈴香さん、逃げましょう! 殺されます!」 「殺されるって、大袈裟な」 「大袈裟でもなんでもないんです! 冗談抜きで吹き飛ばされちゃいますっ!」 「大丈夫ですよ美加香さん。死ぬことが怖くて運送業はできませんから」 「あああこの人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 絶叫しながらも美加香は、もし鈴香が本当に風見の姉だとしたら、この性格、この度胸。 「(すっごく似てる)」 そう思った刹那、 「喰らえ!! ナイトメア・オブ・ソロモン!!!」 「うきゃぁぁぁぁぁぁ!! よりによってナイソロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」 勝手に略しながら慌てふためる美加香。 「す、鈴香さんっ!!」 ここは狭いトンネル。 眼前に迫り来る無数のミサイル群。 躱す術などどこにもない。 「美加香さん」 「なななななんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「舌を噛まないでくださいね」 瞬間、鈴香は右足で、思いきりアクセルを踏み込んだ! 「いきます!! 必殺、コーク・スクリュー・ドライビング!!!」 刹那、トラックが路肩に乗り上げる! いや、トンネルの壁を昇るかのごとく進んでゆく! 「ダメ押しっ!」 トドメにアクセルを踏み込みハンドルを切りまくる! 二重三重の加速プラス時速200キロのスピードは、ついにトラックで天井を駆け上がるまでに! 「もうひとつ!」 さらにアクセルを踏み込み、ハンドルを切りまくる! トンネル内をさながら曲乗りのように進む鈴香! 200キロの運送トラックの曲乗りからなる空気の歪みが、トンネル内に空気の渦を巻き起こす! 「何ぃっ!?」 ジンの口から漏れる驚愕の声。 ナイトメア・オブ・ソロモンのミサイル群が、空気の渦に吸い込まれゆく! 「ば……馬鹿な……」 「そんなことが……ありえるんですか……?」 奇しくも同じことを、風見と美加香は思っていた。 「――チェック・メイトです」 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……! 鈴香がトンネルから出たと同時に、ジンのミサイル群は渦に巻き込まれ自爆した。 「すごい……」 「ま、運送のためには、これくらいの技は身につけておかないと」 呆気にとられる美加香に、しかしながらしれっと鈴香は答えた。 「それで、ふと思い出したんですけど」 「はい?」 「風見」 「何です、ジン先輩?」 「あの女、本当にお前の姉かもな」 先程とはうってかわって真剣な表情で話すジン。 「な、何を言ってるんですか!?」 慌てて反抗する風見だが、ジンのいつもとは違う眼に気圧される。 「だいたいだ。お前の姉を名乗ることが、あいつにとって何かメリットがあるのか?」 「うっ……」 ジンの言う通りだ。 神戸のお嬢の美加香の姉を名乗るならまだしも、自分の姉を名乗るメリットなど皆無。 「それに、あの度胸、あの判断力。お前らソックリ」 「う……」 「なあ、風見」 「……………」 「いっぺんだけでもちゃんと話をしたらどうだ?」 「望まなくてもそうせざるを得ないよ、風見くん。…………追いつかれた」 「え……」 気がつけばFENNEK車形態は、既に停められていた。 目の前に停まっている、よくみればそれほど大きくもない宅配トラックに。 「まいった、完敗です。……さすがミス・ノーブレーキ=v ふう、とためいきをつくFENNEK。 「でも、この借りはいつか返させてもらいますよ。鈴香さん」 鈴香にそれを聞かせることなく、FENNEKは一人呟いた。 バタム…… 宅配トラックからゆっくりと降りる鈴香。 目の前にいるのは、すでにFENNEKから降りている風見。 どちらからともなく近づく二人。 「ひなたさん……」 宅配トラックによりかかり、手のひらに汗を滲ませ、成り行きを見守ることしか出来ない美加香。 「ひなたちゃん」 「……………」 同じくらいの背丈の二人。 真摯な表情の鈴香に対し、やや目をあわせづらいらしい風見。 「ひなたちゃん」 「……鈴香、さん」 突如、意を決して鈴香と真正面に向かい合う風見。 「ひなたちゃん、ごめんなさい」 先程とはうってかわってしおらしい鈴香。 「でも私は、どうしてもあなたに言わなくちゃならないことがあるの」 ドクン。 ドクン。 ドクン。ドクン。 風見の胸が意図せず高鳴る。 止めようと思っても止められない。 天涯孤独だった自分。その境遇を憎んでいた自分。 今は違う。今は美加香がいる。マルティーナがいる。そして学園の仲間が、ライバルがいる。 そして、自分自身の記憶にすらなかった姉の面影。 手に汗が滲む。胸が高鳴る。押しつぶされそうな衝動を押さえるので精一杯。 「ひなたちゃん。ごめんなさい、今まで」 鈴香の顔が上がる。ついに―― 「実は―― ――人違いだったみたいです。ごめんなさい」 「………………………………………………は?」 「えっと、よく考えてみたら、私の生き別れのひなたちゃんって、女の子だったんです。 ひなたという名前が珍しかったから、勘違いしちゃいましたけど。本当にごめんなさい」 ペコリと頭を下げる鈴香。 しかし、風見にはもう、何も見えも、何も聞こえもしなかった。 その日の風見家の夜。 「ひ、ひなたさん、くすぐったい……、一体どうしちゃったの?」 「ルーティ。今日だけは勘弁してあげて、ね?」 異常な程にルーティを猫かわいがりしたり、異常な程に美加香に甘える風見の姿があったとか。 「(ひなたさん。私達、家族ですよね)」 甘え疲れて美加香の膝の上で眠る風見の頭を、美加香は優しく撫で続けた。 いつまでも、いつまでも。 「へぇ、結局人違いか。つまんねえの」 「死にますか貴様」 数日後、ようやくダメージから回復した風見と、彼に付き添う美加香、 それにYOSSYFLAMEが、珍しく一緒に昼飯を食べていた。 「でもいいんじゃねえのか? 結局、元のサヤにもどっただけだろ?」 「……確かに、そうですよね」 「……………」 YOSSYと風見の他愛のないやりとりを、微笑みながら見ていた美加香。 ギュロロロロロロロ…………! 「え……」 「こ、この排気音は……」 「?」 見覚えのある排気音。そして見覚えのあるエンブレム。そしてウィンドウを開け声をかけてきた見覚えのある―― 「ひなたちゃん、美加香さん、お元気ですか?」 「風見鈴香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 「フルネームで呼ばなくても。鈴香でいいですよ」 「……貴様、今度は何しに来やがりましたか」 「そんなに怖い顔で睨まなくてもいいじゃないですか。今日はただのお仕事ですよ」 「お仕事って、学園にですか?」 「はい。実はこの学園の御用達を目指してるんです。運びがいのある品物がわんさわんさですからね」 帽子の奥の瞳をきらきら輝かせる鈴香。 「そういうわけで、しばらくご厄介になりますので。 ひなたちゃん、美加香さんも、よろしくお願いしますね」 ぺこり。 ブロロロロロロロ…… 風のように現れ風のように去っていった、ミス・ノーブレーキ&洛ゥ鈴香。 鼻の上にバンソウコウをはっつけた、ボーイッシュな魅力溢れる女性に、風見ひなたは叫ばずにいられなかった。 「二度と来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ============================================== こんにちは、YOSSYFLAMEです。 今回は、「こみっくぱーてぃーで主人公にお花を届ける宅配少女」風見鈴香ちゃん主役のLを ティーさんに続く第2弾として書いてみましたが、どうでしたでしょうか? 特に、FENNEKさんのセリフにある、 「参考になればいいのですが……、あの女、風見鈴香は、 その筋では知らぬもの無しの、有名な運び屋=c… 真心運ぶペンギン便。その真心があれば、人間だってお運びします をキャッチフレーズに、 通常の贈り物から、裏金、ニトロ、死刑囚、核ミサイルにいたるまで、 真心次第でありとあらゆるものを運ぶ、運び屋のプロ中のプロ。 その運転技術は、まさに神業。 ミス・ノーブレーキとつけられたその異名は、決して伊達ではありません……!」 を、強調したLを書ければ、結構汎用性があるのではと思っています。 個人的に結構気にいっているキャラなので、 これからも折りあれば書いていきますので、よろしくお願いいたします。