Lメモ 「懐古想考」  投稿者:東西
 ここは一年のある教室、幾つかのグループに分かれて楽しげな会話が飛び交っている。
 その中の一つの話題に耳を傾けてみる。

「まぁ、いじめられっ子でしたから」

 短髪痩身の男がおどおどしながら言う。

「まっさかぁ、東西君、「精霊術」だっけ? 便利な能力あるのに?」

 その言葉をクラスメイトらしい者が否定する。

「そういう能力があったからですよ」

 東西と呼ばれた者が苦笑いを浮かべる。

「能力者というのは迫害の対象になる者を指すんですよ……昔からね」

 貫頭衣姿の人物が相槌を打つ。

「神凪さんもそういう経験あるんですか?」

「私は似た者が居る場で育ちましたから、そう言うことはありませんでした」

 神凪が肩を竦める。
 たわいない昔話はこれで決着がついた、また新たな話題が始まる。
 が、この話の輪から外れた位置に座る女性は、あまり良い表情をしていない。

(なんで東西さんは笑いながらあんな事を話せるんだろう……)

 姫川琴音、東西達と同じく、本来人が持ち得ない能力を生まれながらに持つ女性。

(私は……話せない…………)



   Lメモ 「懐古想考」



 ――放課後

 琴音は、二年生の学舎へと我知らず足を運んでいた。

「よっ、琴音ちゃん、どうしたの? 珍しいね」

 その言葉に、いや、声に琴音の歩みが止まる。
 振り向くと、多少目つきの悪い男性と、赤毛の女性が居た。

「どうかしたの?」

「いいえ、何にもありません、藤田さん」

 琴音が微笑むようにして、目つきの悪い男性―藤田浩之の言葉を否定する。

「………」

「姫川さん、何か相談事があるんじゃないの?」

 その隣の女性、神岸 あかりが浩之の表情を伺うように小声で言う。

「あ〜、あかり、今日は先帰ってくれ」

 あかりがきょとんとして、くすくす笑い出す。

「何がおかしいんだよ」

 浩之が憮然とした表情になる。

「今日はクラブだから一緒に帰れないって言ったばかりなのに……あう」

 あかりが額を抑える。
 浩之が、あかりの額にデコピンをくらわせたからである。

「あげ足取りは良いから行け!」

 浩之がそう言うとあかりは、琴音に手を振って、部室へと向かった。

「………いいんですか?」

「いつものことだから良いよ……じゃ、場所変えようか?」






「ふぅん……… 東西と琴音ちゃんの違いねぇ………」

 浩之が目を瞑ってしばし考え込む。
 中庭に場所を移した二人は、ベンチに座って話をしていた。
 まだ、夕焼けには間がある時間、校庭は、運動系クラブが活発に動き回っている。

「単純に言えば、気にしてないんだろうな。
 虐められてた事は昔のことと割り切ってるか、
 虐められるマイナスよりも大きなプラスがあったか……」

 浩之がそこで一息つく、目線は琴音に向けられる。

「琴音ちゃんさぁ……」

 今まで俯いていた琴音が浩之を見る。

「この学校……特異な能力者が沢山いる場所で皆が敬遠してた理由って考えたことある?」

 別に特異な能力を持っているのは、東西や琴音だけではない。
 特に、ここ、Leaf学園には他にも沢山の能力者が居る。

 その人達との違い……

「制御が出来ていなかった……」

 琴音の能力は「念動力」であったが、絶対の不幸を言い当てる「不幸の予知」と自分も、
周りも認識していた。
 そのような状態で、制御しろと言う方が無理である。

「ま、そうだな。
 東西は制御が出来ていた、自分の虐められる本当の理由を知っていたわけだ。
 そして、納得していた。
 大抵の連中のように、逆鱗というか、鍵がはっきりしてる分、皆に迷惑をかける比率が低か
ったわけだ」

 浩之が、頭の後ろで掌を組み、頭を乗せて空を仰ぎ見る。
 大きな雲が真上を通り、二人に影を落として行く。

「ま、納得しているのと、していないのとでは大きな違いがあるけど……
 『何をどう思っているのか』は本人にしかわからないからな。
 だけど、環境も違ったんだろう」

「…………」

 琴音が再び俯く。

「琴音ちゃんと違って、肯定する人達も結構いたらしいからな。
 聞いた話だけど、仮眠館の幻八さんとは小さい頃のなじみらしい……
 ああいう人が近くにいれば考え方もポジシブになるさ」

 琴音からの返答はない、

「ま、最近とはいえ、琴音ちゃんのことを信じた人間は居て、琴音ちゃん
が明るくなったんだから、この理由はわかるか」

 首だけを捻り、あさっての方向を向いて浩之が言う。
 そこで琴音がここに来て初めて微笑む。

(結局の所、それなのかもしれない……信じてくれる人、支えてくれる人……
 東西さんには、幻八先輩が居て、『命』ちゃんが居た……
 私よりも早くに出会えていた。)

「しかし、力って、不便だよなぁ」

 浩之が呟く。

「あれば便利なような気がするけど、本人を苦しめるときもある……周りも苦しめる」

「だけど……欲しがる人が多いですよね。
 私も以前、思いました……
 何もできない中途半端が嫌だったから、なくなるのならそっちの方が良かった。
 でも、なくならないのなら、全てを見通せる力が欲しかった……」

「俺にはわかりませんよ、欲しがる人の心境なんて」

 二人の後ろからいきなり声がした、驚いて振り返った先には………

「なんだ、馬か」

「馬と違います!」

「JJさん、こんにちは……何時から其処にいたんですか?」

「藤田先輩の、「力って〜」て、所から……
 ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

 JJが苦笑いを浮かべながら、二人の前へと移動する。

「それから、東西と神凪さんが嘆いてたよ、琴音ちゃんが避けてるみたいだってね」

「そうですか……」

(考え込んでたから、お返事がおざなりになってたかも……)

 琴音が再び考え込んだのを横目で見て浩之が、JJに声をかける。

「お前は、力は要らないって言うのか? 馬」

「だ〜か〜ら〜、馬と違います! フーイナムです! JJって言う名前もあります!」

「いいから、答えろって」

  ふぅ

 JJが溜息をつく。

「力があるから誰かが傷付くなら、要らないでしょう? 力なんて」

「じゃあ、守るための力は?」

「攻めるための力がないなら要らないでしょ? 守る力も」

 したり顔で、JJが答える。

「成る程な……だが、世の中そう甘いもんじゃないんだな、これが」

 浩之がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
 JJが、怪訝な表情を浮かべる。
 浩之が、JJの後ろを指さすのと同時に、

  トスッ

 JJの左側、数センチ外れただけの地面に矢が刺さる。

「ひっ」

 琴音、JJが悲鳴を漏らす。

「Hey!今日こそ、狩ってみせるネ!」

 木の陰から姿を現したのは、金髪に弓道着姿、目がイっちゃってる女性。

「またあんたか、レミィーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 言うが早いか、全速力で駆け出すJJ、
 しかし、人とは思えない速さでそれを追うレミィ、

「暴走する力なんて最低だぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!」

 姿は見えなくなっても声だけが届く………

「身を守るくらいの力は必要なんだよ、今はな!」

 浩之が大声で、今は姿が見えなくなったJJに向かって叫ぶ。

「JJさんを、助けないんですか?」

「ああ、あの程度なら大丈夫だろ? 誰かが都合良く見つけて助けるって」

 その考えに微塵も疑問を持たない表情である、琴音がくすくす笑う。

「で、琴音ちゃんは今でも欲しい? 今以上の力が……」

 浩之がまじめな顔で問い掛ける。

「いえ、充分です」

 琴音が、にっこりと笑いながら、淀みなく答える。

(今は、力に振り回されることもない……それに、困ったときがあっても……)

「困ったときがあっても、俺や、あかり……琴音ちゃんの周りの人間が手伝うから大丈夫だ」

 琴音が心で思ったことを浩之が言い放つ、かなりつっけんどんではあるが、その言葉はとて
も優しかった。

「はい」

 何気なく浩之が校舎の方に目をやると、一つの集団がこちらへと向かってくる。
 あかりが手を振りながら走ってくる。

「えらく早かったじゃないか、どうしたんだ?」

 あかりが弾む息を正している、その間に、他の部員達も追いつく。

「おばさんが、侵入してたのよ」

 M.Kが、ふくれっつらを作る。

「まぁ、まぁ……千鶴ちゃん(さん、でないところがミソ(笑))が、僕たちより先に
来てて修羅場を作ってたんです」

 お料理研究会唯一の男性=東雲 忍が、M.Kを宥め、より細かい事情を浩之に伝える。

「それから、梓先輩が乱入してきてさらに………」

 落ち着いたあかりが、いつも通りの展開を思い出し苦笑する。

「ふぅん……」

 と言っても、浩之は興味なさそうに相槌を打ち、

「じゃ、今日の用事はもう済んだわけだ」

 浩之の問いかけに、あかりが曖昧な笑みを浮かべる。

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「これから、クラブのみんなで遊びに出かけるんだけど……」

「なんだ、じゃ、オレ達も連れてけよ」

 浩之が琴音の肩に手を置いて提案する。
 別に皆から異存は出てこなかった。
 ただ、琴音が、遠慮しがちだったことと、忍が家事を理由に抜けようとしたところを
皆が強引に連れ去ったことを除けばとても平和だった。






 ――翌日

「だから! 僕も何も知らないんです!」

「馬鹿言うな! 朝は普通だったぞ!?」

 うるさい……朝の静謐な静寂も何のその、朝から教室で騒ぎ立てる二人、

「ほら! 授業始まっちゃいますよ! いんですか!? OLHさん!」

「うるさい! 琴音ちゃんの元気のなかった理由を聞くまで動けるか!
 お前達が関与してるに決まってるんだからな!」

 そう言って、OLHが、
 東西と、その斜め後ろで我関せずに徹していた神凪を指す。
 JJの報告にはなかったが、OLHも琴音に無視されていたようである。

「私達だって気になってるんですよ、理由は本当にわからないんですって」

 教室の入り口の方に気を配りながら何度目かの言葉をOLHに投げかける。
 ちなみに、この教室に机を並べる他の人間は、大概避難している。
 喧嘩が何時破壊活動を含めた戦争に変わるかわからないからである。
 それでも物陰から面白半分に眺めているのだから良い度胸である。

「聞き分けないと、三年の学舎まで風でお送りしますよ?」

「ほう……」

 東西が、「風の精霊」を肩に乗せ、静かな風をその身に纏う。
 OLHも、東西とは趣の異なる風を纏う。

「……コーパルの残量少ないんで、なるべくなら、使いたくないんですが……
 始めたら止めますよ?
 お金掛かるんですよ……私の場合……」

 ぶつぶつと言いながら、コーパルを懐から探り出す。

「何してるんですか?」

 緊張が走った空気に凛とした声が響く。

「「「琴音さん(ちゃん)」」」

 声は発すれども、皆一様に、琴音の方へは首が回っていない。

『あれ?』

 三者から間の抜けた声が出る。

「動けませんよ……私が抑えてるんですから、暴れられると周りのみんなに迷惑
が掛かります。
 皆さん、廊下に運んじゃって下さい」

 琴音の呼びかけに、男子が幾人かで三人を運ぶ。
 言い訳無用で廊下に運び出される三人。
 下手に騒ごうモノなら、窓の外から放り出されかねないので泣き言は言っても、
運んでいる生徒への罵倒はない。

「姫川さん、ありがとう。
 また、教室が荒らされる所だった」

「あの三人、かたまると平気で教室一つ潰しかねないんだから……」

「姫川さんがいれば、無茶しないけどね〜」

「でも、姫川さんが止めにはいるって珍しいよね?
 眠くなるんでしょ? 大丈夫?」

 感謝の言葉、茶化し、そして、気遣う言葉。
 その全ての言葉の中心に、そして、人だかりの中心に琴音はいる。
 少し眠たげな、少しだけ困ったような笑みを浮かべながら……




「じゃ、俺出直すわ」

 軽い口調で、神凪と東西に声をかけて自分の学舎へとさっさと走り去るOLH。
 教室の扉が閉じられた途端に琴音の戒めは解けていた。

「卑怯者! 帰ってきて一緒に謝りましょうよ!」

「東西さん、無駄です……
 あの人より先に謝れることを、幸運に思いましょう」

 開き直ることが出来た者、特有の爽やかげな笑みを見せながら神凪が扉に手をか
ける。

「うう……神凪さん、空元気が見え見えです……」

「空元気も元気です、私の場合あなた方を止めるつもりだったのに……」

「謝り倒しますか……でも、口きいてくれると嬉しいかな?」

「……早く許して貰えるよう頑張りましょう……」

 二人が扉を開く……





 人が発する言葉に圧力を感じる。
 以前は自分を閉じこめるモノに思えた。
 でも、今は……
 今感じる圧力は、背中を押してくれるモノのように感じる。




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今回、この一言に尽きると思います……
こんな感じの琴音ちゃん如何でしょ?



                           99/07/08