オカ研騒乱記・「凶事到来」 「アンケート結果です」 ディルクセンが、校長に紙の束を差し出す。 『オカルト研究会についての考察』、そう銘打たれた表紙が見て取れる。 校長―柏木千鶴が一枚一枚をゆっくり捲りながら目を通していく、その間もディルクセ ンは直立不動を崩さない。 やがて、場に遠慮するかのように音を立てず、世論がその扉を閉じる。 「如何でしょうか?」 「………………」 「有能な人物がいるという事実は認めますが……学校に貢献しているという事実はあまり 見あたりませんでしたな、好感度は……あまり気にされてないレベル、ただ……不穏当な 噂が立っている」 口の端をわずかに持ち上げ先を続ける。 「必要でしょうか? オカルト研究会は」 「言いたいことはわかりますけど……これは私怨ではないの?」 「どういう意味ですか?」 千鶴が、微笑みを浮かべながら写真を取り出す。 「……これを何処で?」 「出所はともかく…… ここに写っているのは皆オカルト研究会のメンバーのようですが?」 『流れ弾(魔術)に当たる』 (顔面に衝撃を受けているディルクセンと、それを放ったと思われる神凪) 『ディルクセン呪われるの図』 (草陰で怪しげな人形に針を刺す神海と、その奥で蹲るディルクセン) (あの時の頭痛もこいつだったか!) 『サボり常習者捕り物にて』 (煤けたディルクセンと、捕縛直後の東西) 『ディルクセン、猫と戯れるの図』 (エーデルハイドの首をひっつかんで、顔をひっかかれているディルクセン) 全て些細なことではある、プライド高い人間には致命的なような気はするが…… 「言い分もわかりますが……私怨が入っていない、とは言いきれないのでは?」 「…………」 微笑みを浮かべる千鶴とは対照的に、ディルクセンは苦渋の表情である。 「だけど……これで貴方の意見を却下するのは不公平だと思いませんか?」 「!」 「しばらく、オカルト研究会に猶予を与えます。 このことを公表した上で、ある期間待ちましょう。」 パタン 緊迫した空気を解放する音が響く、 「案外あっさりと引き下がったんですね」 物陰、一人の人物が音がかき消えると共に現れる。 「あそこで自分の意見をごり押しするようなタイプは有能とは言えないわね。 引き際を知っている、それがまた有能である証拠よ。 風紀委員長はどうかしら? 貞本さん」 「彼女は彼女ですよ。 ですが、有能だと思うから、私は彼女についています。」 「有能……だからだけ?」 返答はない。 「広瀬さんも、いいお友達に恵まれたわね。 とにかく、後は、オカルト研究会が何とかするところを楽しみましょう」 千鶴が席を立ち、机から何かを取り出そうと身をかがめる。 「では、私はこれで……」 「貞本さん」 「はい?」 「お暇?」 「………は?」 「お手製のクッキーがあるんだけど……」 「忙しいです」 「じゃ、包むから……」 「いえ、耕一先生の喜ぶ分を奪うわけには……」 「耕一さんには渡してあるの、これは、べ・つ・く・ち♪」 「買い置きも沢山……」 「来客用にまわせば……」 「しかし…………」 「いいから……」 喧噪はかき消える…… 「と言うわけで、オカ研が潰れそうです」 瞬間、オカ研の部室が静まり返る。 「と言うワケじゃないでしょう!」 「横暴じゃないですか!」 いつもは、カーテンが引かれ、光を嫌う薬品やら、生物やらを保護している部室だが、 今は、カーテンを開け、人の世界にあることを強調している。 いきなりの廃部発表に、様々な感情からわき出る声が満ちる。 オカルト研究会のメンバーは、緊急事態と言うことで全て、りーずによって集められ、 りーずによってこの発表をうけている。 「それで……芹香さんは、あんな状態なんですね……」 沙耶香が、遠慮気味に目を窓際に向ける。 其処には、いつにも増して「ぽ〜」と、椅子に座り膝のエーデルハイドを撫でながら外 を眺めている芹香が居た。 当のエーデルハイドは、主人を見上げ、時折、小さな存在を主張するように、甘え、鳴 くだけである。 ざわめきが一瞬にして消える。 「さて……騒ぎが一段落ついたところで、本題をはじめましょうか」 りーずが注目を集める。 「まだ、潰れたわけではないです。ならば、存続を認めさせればいいわけです」 りーずが、黒板に白い線の組み合わせを描いていく。 『オカルト研究会を存続させて、 ちょっと部費を多めに貰えるようにする計画を立てよう』 「と言うことを考えてみましょう!」 …………………………… 「あの〜」 「なんですか? 東西君」 「いえ、前半はわかるんです……」 「なら問題ありません、後半部分も理解しましょう」 ぴしゃりと言い放たれ、何も言えず引っ込む。 「……東西さん、私、日が浅いんでこう言うのはどうにも鈍いんですけど……」 皇 日輪が、掌で口許を隠して静かに話しかける。 「はぁ……」 「困ってるんですか?」 そう言って、皇は人差し指と親指で円形を作る。 「そうだったらしいですね……」 費用の掛からない一部の人間を余所に、メンバーは活気を持ち始める。 「で、何か案がある人は居ますか?」 『は〜い!』 「こら! 知音!」 神凪の肩の妖精が元気な声を上げる。 「まぁまぁ、で、どんな意見ですか?」 『こう言うのは、人気取りが一番だと思うの』 「そうですね、で、具体案はありますか?」 『この学園には軟派者が多いので、対男結界を配布すればいいと思います♪』 「なるほど……なかなか良い意見ですが、本音は?」 『誰にも邪魔されずに、ガールハントできる〜♪』 「却下」 『なんで〜〜〜!!!???』 「いきなり潰されます!」 知音、期間中厳重監視下に置かれることが決定 「しかし、人気取りは、良いと思えますよ」 神凪が知音を瓶詰めにしながら言う。 知音は、ガラスの壁を強く叩き、言葉を発しているようだが聞き取ることは出来ない、 癇癪を起こす前に会議を終了させないと、皆ここで寝込むことになりかねない。 「う〜ん、『何でも屋』でもしてみますか?」 神海が、何気なく呟く。 「来栖川さんの占いをメインに大きく宣伝するとか……」 悪徳商法の一環? 抱きかかえ販売とか…… 商売に重点を置く彼のことである、自分の仕事のアピールは忘れないことであろう。 (そうすれば、俺の方も一緒に儲かるかも) やはり……小躍りしだしそうな心境らしい、 そして、そんな神海の味方をするかのように、今まで一塊りの輪から外れ、事の成り 行きを観察していたT−star−reverseが厳かに言葉を紡ぐ、 「場を開くというのは良いことですね。 今までが閉鎖すぎた、とも言える。 閉じた場に滞った空気は悪い気を発し、災厄を招く」 普段は普通の学生とそう変わらない彼も、このような時には、老成した、芹香とはま た異質の存在感を醸し出す。 「奇しくも、今がその状況ですか……」 T−star−reverseが、苦笑を浮かべながら頷く、 「空気が滞るというなら、風を吹かせればいいこと。 もっとも、吹く方向によっては新たな災厄も招きますがね」 「方針を練れと言うことですね」 りーずが視線を集まりに向けると、一同が次々に口を開く、 「物品、安全な薬物の流通は?」 「安全性の事を考えるとそう言うことはなるべく抑えたいですね。 それに、『第二購買部』との摩擦は抑えたいです」 「なら、そっちは、第二購買部を窓口にするようにして、 今までおろしてない薬物の注文を受けるようにすれば?」 「それより、占いなんかはどうですか? 今まで以上に宣伝すれば十分な戦力に成るんじゃ?」 「猫町君は? 彼ともぶつかることになりますよ?」 「猫町さん、来栖川さんは占いの手法が違うと思います。 特に問題ないと思いますが」 「……………」 「あ、じゃあ、相場を考えないと……」 唐突に神海が嬉々とした表情で言葉を発する。 場は、彼に味方するかのように思えたが…… 「………無料にしましょう。 人気取りというなら、そっちの方が得策ですし、猫町君との差別化も図れます。 これなら、趣味的なモノを信用しない人は猫町君に流れるでしょうからね」 脆くも崩れ去る神海の野望…… 「マジですか?」 少なくとも期間中は我慢しましょう、いいだしっぺ。 ここまでの話し合いの中、ろくに言葉を発しなかった者が居る。 俯き、一人考え込んでいたトリプルGである。彼は今の状況が多少気に入らないようである。 (何故だれも、芹香さんに声をかけないのだろう?) その注意は芹香にのみ向けられている。そして、彼女を無視しているような周りの人間 に多少の憤りすら覚えているようだが、そんなことは露ほども表に出さない。もっとも、 周りの人間も時々芹香の方に注意を向けてはいる、ただ、かける言葉が見つからないだけ であるのだが……そんなことにも気がつかないほど今のトリプルGの頭の中は芹香のこと で一杯になってしまっている。 (どうすればいい?) 自問自答する。 (芹香さんを元に戻すにはどうすればいい?) 理由そのものは分かっている、この議論の元となる事件以外、彼女が心を痛めることは 伺えないのだから、しかし…… (話しかけることが出来ない、芹香さんが望む言葉が見つからない……) 歯痒い……それ以外の何者でもなかった、自分は何をしていたのだろう? いままで、 自分は「オカルト研究会」という場で何時も彼女を見てきたのではないのか? 想いを第 三者……いや、本人にすら気取られることはないような……そんな、想い方ではあるが、 自分は彼女を想い、見てきていた。 彼女の事はそれなりに理解できていると思っていた。 (それなり……だったと言うことですか……) 自覚する、自分の愚かさを…… しかし……それを踏まえて、改めて何かして上げたい…… やがて、トリプルGが、ちらりと芹香の方を視線だけで窺い、声を出す。 「えっと……方針は固まったようですが、こう言うことで支持を受けるなら、目に 見えるモノが欲しいですよね、保証というか……」 「目に……見えるモノですか?」 「ええ、あった方が目安になるでしょう」 「成る程……そうなると……なにがいいかな?」 『あの〜』 「『命』ちゃん、なにか?」 『署名なんてどうでしょうか?』 「署名ですか?」 『ええ、お悩み相談とかで、クライアントがご満足頂けた場合に頂くようにすれば如何で しょうか』 「ふむ……」 「署名なら、取り敢えず、知人に当たって普通に集めることもできますよね」 東西が、『命』の言葉の後を継ぐ。 「そうですね……報酬代わりに頂きましょうか。 ただし、書く書かないはクライアントの意思に任せることだけは決めておきましょう」 りーずが部員をぐるりと見回す。 「異論は?」 誰も口を開かない、かわりに口許を引き締める。 「では、はじめましょうか。 滅多に起こらないオカ研の催し物をね」 会議後、四つの影が其処に残っている。 変わらぬ姿勢で外を眺める 来栖川芹香、 その膝の上で、主人を見上げながら エーデルハイド、 声をかけるかどうかを躊躇う トリプルG、 そして、今まで、芹香がやるべき役を演じていた 神無月りーず、 「りーずさん、ご苦労様です」 トリプルGが、りーずに声をかける。 その声は、注意を向けさせるために発したと言うよりも、雰囲気を変えるために投じた 石のようにも思える。 「取り敢えず終わりましたね」 「終わった?」 りーずが眉を顰める。 「始まったんですよ。 T−star−reverse君の言葉を借りるなら、風を入れるための窓開けがね」 もちろん、トリプルGは会議のことを指して「終わった」と言ったのであるが、りーず は、それを理解しながらも対象を曲げて返答した。会議の間、ずっと芹香を見上げていた エーデルハイドが二人を見渡す。 かりそめに降り立ちし支配者は朱き静寂(しじま)…… 時の流れすら否定するような世界を破るのは…… 「皆が動き出したよ、芹香君」 「君はいつまでそうしてるつもりだい?」 「大事な物がなくなってからでは遅い、僕らは勝手にやらせて貰うよ。 願わくば、君が生き残ったオカ研で今まで通り責任者であることを認められる人物であ ることを祈るよ」 「りーずさん!!」 「フゥー!!!!」 「やれやれ」 何処か馬鹿にしたようにりーずが部屋を後にする。 部屋に残った者達は、今まで通り何かしらを見つめ出す。 時が動くのを待ちわびるように…… 開幕 ======================================== 東西:オカ研育成話「オカ研騒乱記」が始まりました。 オカ研の人間関係を明かす、そして、オカ研という組織を開かせるという目的を オカ研の皆さんの協力の下、始めました。 『命』:書き終わるまでご協力下さった方々、有り難う御座いました。 書き終わったと言っても、これはまだ始まり…… 東西:以降のご協力もお願いいたします(笑)