―― Leaf学園・中庭 生徒が思い思いに、勉学の疲れを癒す昼休み。 たったったっ そんなゆったりとした時の流れの中、慌ただしく、それでも、柔らかみを含む音が聞こえる。 音の正体は……… 少女の足音、 その少女は、巫女服を着込み、駆け足で辺りを探りながら移動している。 「……… どこかな?」 一度止まって、何事も見逃さぬ為に、愛らしい目をいっぱいに開いてじっくりと辺りをうかがう。 と、ある一点で視線が止まる。 「あ、いた♪」 少女が嬉しそうに視線の先へと駆けていく。 Lメモ ― ある特別な日 「 感謝想贈 」 「………」 「………」 「あなた達……… いい加減にしたら?」 ロングヘアーの気の強そうな女性が、目の前の二人に呆れたような声を投げかける。 「これは俺達の問題だ………」 全身黒尽くめの男が敵意を目の前の人物に投げかけたまま応える。 「綾香、黙ってろ…… 今日こそ、こいつとの決着をつける」 白衣の、眼鏡をかけた男が、女性−来栖川 綾香に応える…… 当然、視線は目の前の人物から離さない。 「……… 悠……」 黒尽くめの男 = ハイドラントが、 「ハイドラント……」 白衣の男 = 悠 朔(はるか はじめ)が…… お互いの敵を確かめるようにお互いの名を呼ぶ。 緊張感が最高に高まる、ただ、綾香だけが肩を竦めている。 じゃり……… お互いが、間合いを詰める……… が、 (なに!?) いきなり悠がハイドラントの視界から消える。 「ママ〜、パパ借りてくねぇ〜」 呆気にとられるハイドラントと綾香に、先程の少女がその声を残し、悠を連れ去っていく。 引きずられていく悠もいまいち、事態が飲み込めず、呆然としている。 「………なんだ?」 「さぁ」 投げかけられたハイドラントの問いは、綾香にとっても分からない物だった。 ―― 校庭の片隅 柔らかな日射し、眠気を誘うような空気の中、二人の人物が芝生に座り込んでいる。 「………で、なんだ? 綾芽」 悠は、目の前の、自分を浚ってきた少女、悠 綾芽に問い掛ける。 「ねぇ、パパ、明後日、何の日か知ってる?」 にこにこしながら、綾芽が問いで返す。 (明後日?) 悠が思案する…… (休日だな…… 何か約束をしたか? 違うな……… ) 「明後日は『 母の日 』だよ!」 永らく思案に暮れる悠に、綾芽が多少不機嫌に答える。 (ああ、成る程………) 「………で?」 綾芽が頬を膨らませる。 「ママにプレゼントを贈るの!」 「成る程…… で、俺を浚ってきた理由は?」 「一緒にママのプレゼント選んで貰おうと思って、明日、何処かに買い物に行こう?」 「綾香にプレゼントか………」 悠 綾芽、彼女は一体どういった経緯でかは分からないが、 悠 朔を父、来栖川綾香を母とする、娘であるらしい。 そして、明日の「母の日」に、悠 朔と共に、綾香にプレゼントを贈る算段のようだ。 「ま、いいか…… わかった、明日、デパートで物色してみるか………」 綾芽が、嬉しそうに頷く。 「で、何がいいかな?」 「さぁ、お守りになる弾丸でいいんじゃないか?」 「冗談言ってないで本気で考えてよ、パパ」 (………いや、本気だったんだが…… ) 口に出すと綾芽の機嫌を損ねそうだったために、悠 朔は心中だけに押しとどめた。 いま、二人が歩いているのは、駅の近くにあるデパート。 白衣の男と、巫女服の女の子、人混みの中でも目を引く。 実際、何人かの男達が、綾芽を好奇の視線でじろじろと見ていくのだが、 悠の一睨みで退散していった。 「う〜ん、ママは何を贈ったら喜んでくれるかな?」 綾芽が通り過ぎていく店を眺めながら呟く。 「何でもいいんじゃないか?」 悠も綾芽と同じように、しかし、何処か適当という感じで店を眺めながら応える。 「真面目に考えてよ、パパ」 綾芽が歩を止めて悠 朔を睨む。 悠も歩を止める。 「真面目に考えているが?」 「真面目に考えてて、どうして「何でもいい」なんて言う選択肢が出てくるのよ?」 綾芽が詰め寄る。 「う、まぁ、言い方が悪かったな…… つまりだな、こういうプレゼントはな、感謝の気持ちがこもっていれば何でも良いと思うぞ」 「感謝の気持ち?」 綾芽がきょとんとする。 「お前、さっきから高そうな店ばかり覗いてたろ?」 「うん」 先程から綾芽が覗いている店は、 貴金属店、 装飾品店、 それらの中でも、高価な物が並んでいる店であった。 「綾香がお前に負担をかけることを喜ぶと思うか?」 しばし、考え込んで首を横に振る。 「適当に選んだ物を贈っても喜ばれるってわけでも無い、 だから、気持ちを込めて選んだ物がいい…… そう言うわけだ」 「わかった、で、何が良いと思う?」 綾芽がにこにこしながら聞いてくる。 「お前が贈るんだから自分で考えろよ………」 悠 朔から溜息が漏れる。 「あれ?」 「ん?藤田に、佐藤、神岸さんに、志保……… あいつら、なにをしてるんだ?」 二人がさらに歩き回った先で、例のようにセットで行動している四人を見つける。 あかり、志保が、店の入り口でショーウィンドを覗いているのを、 浩之と、雅史が眺めているという図である。 「よう」 悠が、取り敢えず男性陣に声をかけてみる。 「おう、悠」 浩之が悠に気付き返事をする、 「こんにちは」 雅史もにこりと笑いかけながら挨拶をする。 「買い物か?」 「ああ、「母の日」のプレゼントだと…… 俺達も付き合わされた」 そう言うと、浩之が右手に持っている小さな紙袋を上げる、 雅史もそれに習う、ただし二袋持っている。 「何故、お前は二つも持ってるんだ?」 同じ人に贈るのなら一々分ける必要はない、それを思い、悠が尋ねる。 「姉さんにもね、贈ろうと思って……姉さんも家事を手伝ってるから」 雅史が、少しだけはにかんだ顔で答える。 「ふ〜ん…… で、彼女たちは?」 「品は決まったらしいんだが、柄を選んでるんだと…… たく、これだから女の買い物は……」 浩之が、頭をかきながら愚痴る。 「いいじゃない、それだけ二人とも感謝の気持ちを込めてるって事だよ」 雅史がなだめるが、まだぐちぐちいっている。 「綾芽、お前も……… あれ?」 悠が綾芽が居た方を向くとその姿はなかった。 「綾芽ちゃんなら、ほら」 雅史が苦笑しながら、あかりと志保が居る方を指す。 「いつの間に…………」 其処には既に、二人に混じって、品定めをしている綾芽が居た。 「ま、ゆっくり待とうか」 浩之がニヤニヤしながら悠に話しかける。 「いいのがあって良かったね」 「ちょっと、私としては不満が残る物だったんだけどな〜、これよりいいのなかったし……」 「でも、綺麗な柄ですよ、長岡さんやっぱり見る目があるんですね」 「じゃあ、私のは?」 「も、もちろん、神岸さんもです」 「ふふ、ありがとう」 自らの買った品物についての品評会、女性陣の話は弾む。 「1時間か………」 「何であれだけ迷えるんだ?」 「まだ、早いほうじゃないかな?」 「待ってる方が絶対に疲れてるように見えるんだが………」 「そんなモノじゃない?」 「そんなものなのか………」 男性陣は完全に沈んでいた、苦笑ぐらいしか浮かばない。 皆、ファーストフードを食べて談笑しているが、その笑いは女性と男性、まったく異質な物であった。 「パパ、ばいば〜い」 「ああ」 大きく影を引き連れた綾芽が手を振り屋敷に入っていく、悠も手を振って応える。 綾芽が屋敷に入ったのを確認すると、 「さて………」 既に辺りは夕陽に照らされ紅くなり、じきに星が見え始める。 四人と別れ、綾芽を何事もなく送り終え、悠は、その歩を自分の帰るべき場へと向ける。 しばし歩いたところにある、一件の店の前でふとあることに気付く。 「そういえば…… 綾芽、アレを忘れてたな…………」 店を眺めながらしばし考え込み、 「ま、これくらいしといてやるか………」 悠は、片づけを始めようとしている店員に話しかけた。 ――翌日 「さて……… 今日はどうしようか………」 (まず、簡単にジョギングでもして汗流して、シャワー浴びて…… それから、好恵と葵を誘って、ショッピングにでも行こうかな? たまには、息抜きもいるだろうし……) 綾香が、家族よりも早めの朝食を取りながら今日の予定を考えている。 「ママ」 (葵は、ちょっと誘うのに苦労するかな? …… ま、多分頼めばついて来てくれるだろうけど) 「マ〜マ」 「ん、なに? 綾芽」 二度目の綾芽の呼びかけにやっと反応する綾香。 綾芽の手には紙袋が握られている。 「はい、これ、いつもありがとう」 綾香に紙袋を渡し、にっこり笑って、去っていく。 「なに? これ………」 綾香が、受け取った紙袋を弄びながら呟く。 ―― 芹香の部屋 色々な、魔道関係のアクセサリーが並ぶ部屋の、 清潔なシーツが引かれたベッドに、上半身だけを起こした芹香と、 ジョギングの予定を変更した綾香がそのベッドに腰掛けて話している。 「で、ハンカチだったんだけど ……… 何でだと思う?」 「……………………」 「 『 わかるでしょう? 』 あ〜、本当にわかんないんだけど………」 芹香が、困った子、とでも言うような、それでも優しい微笑みを顔に乗せる。 その芹香の表情に綾香は、なお顔をしかめる。 表情の意味を尋ねようと口を開きかけたとき。 トントン 「お嬢様、失礼してよろしいでしょうか?」 「……………」 「では、失礼いたします」 ( いつも思うけど扉越しによく聞こえるわねぇ ) 扉を開けて入ってきた人物は、長瀬 源四郎長きにわたり来栖川家の執事として働いている老人。 「やはりこちらにおいででしたか、綾香お嬢様」 「なに?私にようなわけ、長瀬さん」 「……………」 なにも応えない。 ふぅ 綾香が溜息を一つつく、 「セバスチャン、どんなよう?」 「は、悠 朔様がおいでになっております」 「わかったわ、応接間?」 「はい」 (たくっ、セバスチャンって呼ばないと、用事も伝えてくれないなんて) 綾香は、セバスチャンの返事を聞くと、部屋を出ていった。 ――応接間 悠が、ソファーに座り、ゆったりと紅茶を味わっていた。 トントン、ガチャ (ノックの意味がないだろう) 悠が、苦笑しながら、部屋に入ってきた人物に目を向ける。 「よう」 「朝の挨拶はおはようでしょ」 「俺とお前の仲でかたいこと言うな」 悠が笑いながら、今回の来訪の対象、綾香に言う。 「まったく、何のよう? 貴方が家に来るなんて珍しいわね」 綾香が苦笑しながら向かいのソファーに腰を沈める。 「ん、綾芽の忘れ物を届けにな」 「忘れ物?」 綾香が眉を寄せる。 悠が懐から一輪の華を出し、綾香に差し出す。 「カーネーション?」 「綾芽からプレゼントは貰ったか?」 (ああ、そっか……… 今日は「 母の日 」か………) 「多分お前のことだから、いきなりプレゼントだけ貰ってもわからんだろうと思ってな」 悠が、悪戯を成功させたような笑顔を見せる。 「まったくね」 綾香が苦笑しながら、カーネーションを受け取る。 「じゃ、これでお暇するわ」 「もう帰るの?」 「ああ、用事は終わったからな」 そう言うと、悠は、さっさと出ていってしまった。 「そっか……… 私も出かけようかな」 綾香が、にこにこしながら立つ。 (さて、綾芽と、姉さんと、あと、あの二人にもついてきて貰うか………… あ、でも、今日のこと忘れてるの私だけだとちょっと嫌だな……… 姉さんは絶対気付いてる、というか、気付いたわよね、綾芽は言わずもがな…… 二人はどうだろう? ……… ま、いいや、覚えてても、ゆっくり付き合ってもらお、私に教えなかった罰に♪) そして、軽い足取りで応接間を後にする。 来栖川綾香の本日の予定は決まったようである。 ========================================= 東西 :と言うわけで、全国のお母様がた毎日ご苦労様です。 『命』:毎日ご苦労様です。 東西 :今回、ご出演いただいた方、有り難う御座います。 ところで……… 『命』:はい? 東西 :この時期のカーネーションって高いような気がしない? 『命』:………(滅多に花屋を覗かない人間が何を……) 終幕 ハイドラントさん、悠 朔さん、来栖川芹香さん、綾香さん、悠綾芽さん、 藤田浩之さん、神岸あかりさん、佐藤雅史さん、長岡志保さん、セバスチャンさん ご出演有り難う御座いました。