Lメモ 「幼誓遂刻・後編」 投稿者:東西
 ――草原
 其処は絵本に出てくるような何処までも緑の絨毯が続く場所。

 上から望むと、一ヶ所だけに小さな………

 草原の広さに比べればとても小さな白いアクセントがあることに気が付くだろう。

 ……それはテーブル、湯気立つカップを持ったまま主を待つテーブル。




  Lメモ 「幼誓遂刻・後編」




「で、あの小人はなんと言っていたんですか?」

 小人(本の精霊)との内緒話が終わった東西を、りーずが問いつめる。

 言葉を発したのはりーずだが、その他のメンバーも目が問い掛けていた。

「そ、その前に!

 取り敢えず、沙耶香さんと綾香さんを残してみんな部屋からでてください」

「?」

 皆が揃って怪訝な顔をする。

「と、とにかくお願いします! 事情は後で説明しますから!」

「わ、わかりました……」

 沙耶香、綾香を残して皆、納得しない顔で退出する。

  パタン……

 扉が閉じるのを確認して、

「実はお二人にお話があるんですよ………」

 東西が声を潜めて語り出す………


「聞こえますか?」

 T−star−reverseの問いかけに、神凪が首を振る。

「何話してるんでしょうね……」

「………………」

 智波がりーずに話を振るが壁にもたれ掛かったまま黙り込んでいる。

  ぎぃ……

 扉が開く、

「神凪さん、ティーさん……ちょっと中に入って下さい………」

 沙耶香が二人を手招きする。

 二人とも顔を見合わせ、

「私達……ですか?」

「はい、智波さん、りーずさん、トリプルGさんはもうしばらく………」

 沙耶香がすまなさそうに告げる。

「何で僕たちだけが待たされるんです! 手伝うことはないんですか!?」

「今はありません……

 後程、直接的なことをお願いしますから、今は休んでいて下さい」

 そう言って、さっさと神凪、T−star−reverseの二人を中に入れて、

  きぃ……

 扉を閉じる。

 同時に、

  ドン!

 扉を閉じる沙耶香の耳に壁を叩く音が届く。



  ちっ、ちっ、ちっ…………

 廊下の突き当たりに掛けてある時計の音がイヤに大きく聞こえる……

 トリプルGは廊下をうろうろとし、

 智波は、座り込んでいる……時折床をこつこつと指で叩いている。

 それに比べ、一人だけ目を閉じ、廊下に出てから一言も発していないりーずは対照的だ。


  ちっ、ちっ、ちっ……きぃ………

 時計の規則正しい音の中に、異音が混じる。

「お待たせしました……ここから先はあなた方にお任せします……」

 三人が、部屋の奥に視線を向ける………


「この奥に芹香さんは居ます……」

 そう言って、東西が示した空間には穴が空いていた。

「フェアリーゲートの応用、および、先の「本の精霊」の協力で、

 本の中に形成された仮想空間、結界のような物に直結させました」

「そして、それを維持するために私達三人は東西さんと共にこちら側に残ります」

 神凪が付け足す。

「だから、あなた達に、芹香さんの救出に向かって貰います」

「……あちら側の情報は?」

「ありません、精霊も中には入れていないそうです」

 りーずの問いに東西が答える。

「これは、他の方々の助力で道を強引に繋げました……だから……」

「続きは良いです、あなた方を信用しますよ……」

 りーずが微笑みながら告げる。

「ご苦労様でした……後は私達が受け持ちます」

 静かな、それでも、強い意志を込めた言葉……

「綾香さんはどうします?」

 智波が尋ねる。

「私は遠慮するわ、足手まといにはなりたくないの」

 肩を竦める綾香に、智波は違和感を感じる……

 しかし、この先がどうなっているのかもわからない所に、

 綾香を連れていくのは危険と判断し、忘れる。

「急ぎましょう!」

 トリプルGの言葉に皆は頷かず、穴をくぐるという行動で答えた。

『え?』

 穴をくぐった三人の声が図らずも揃う。

 三人は、歩いていくのでは無しに堕ちていった……

「さて、これで僕たちの仕事は終わりましたね……

 じゃ、いきましょうか?」

 今までの緊迫した様子を微塵も残さず、東西が皆に告げる。




 三人は、立っていた……

 ゲートをくぐって、下に落ちた後、気を失った……

 それから、意識が何故かぼやける……夢の中にいるように……

 その仮定を肯定するように目の前の光景は現実離れしていた……


 ……目の前に深紅の道がある。

 厳かな空気の中、映えるそれはさながら人生の軌跡のようにも見える。

 その道の先には、純白のタキシードとドレス……

 ここは教会……そして、祝福を受けるのは……

 三人が求めてきた存在、来栖川芹香……

(これは夢……)

 各々はそう思っていた……しかし、芹香の存在感はいつものように、

 希薄なようで、それでも何故かどのような人間にも見逃させない確固たるモノとして存在する。

 頭が靄がかる、次いで自然と自分たちが次になす事を探し出す。

 三人は、芹香の隣に立っていないことを意識し、自分たちの立場を創り出す……

 それぞれが、自分たちの場所へと動き始めた……




 ある人物は、最前列、そして、芹香と名も知れぬ男が通ってきた道に一番近い席に座る。

――貴方は何故そこにいるのですか?

 席に座ると、頭の中に声が響く……

――私は、彼女が伴侶にも言えない悩みを持ったとき、それを聞いてあげられる位置にいたいんです。

――そして、誰よりも近くで彼女の幸せを見ていたい。

――私は、彼女の親友としてこれからもありたい……




 ある人物は、最後列、そして、一番道から遠い場所に座る。

――貴方は何故芹香から距離を開けるのですか?

 腕を組み、目を瞑っていると頭に声が響いてくる……

――私は、彼女と距離を開けたのではありません。

――家庭で彼女の隣にいるのは私ではないが、志を共にする者としていつも近くにいるのは私です。

――私は、彼女と共に探求者としての道を歩むのです。




 ある人物は、芹香に背を向けて教会を去ろうとする。

――何故貴方は芹香を祝福しないのですか?

 教会の扉をくぐる直前、頭に咎めの声が響く。

――私も祝福をしています。

――彼女と共に歩めないのなら私は生きてはいられません。

――去ることが私の祝福です……

――私は、彼女の想い出として共にいます。


 三人がいる空間が歪む……いや、とけていく……

 教会の中の情景は、水でとける紙のように消えて無くなる。

 後に取り残されたのは四人……

「ごめんなさいね……あなた達を試すようなことをして……」

 老婆、そう、とける教会の情景と共に現れたのは、軟らかい表情の老婆。

 三人とも狐に抓まれたような表情である。

「芹香との約束でね……いえ、私の我が侭ね……

 芹香を好いてくれる殿方を少し試してみたの……ごめんなさいね」

 謝ってはいるが、老婆の表情はニコニコと陽気だ。

「あなたは?」

「私は、来栖川芹香の祖母です」

 問い掛けたりーずが絶句する、と、共にこのような現象に納得もしたようである。

「あなたは、既にこの世を去られています……理解できていますか?」

 老婆が頷く。

「しかし、私は約束を守るために残りました。

 もっとも、私の日記に憑いていてくれた者と、あなた方のお友達が協力してくれたんですけどね」

 りーずたちの側の協力者……

 その言葉に、三者共に、眼鏡をかけたとぼけ者を思い浮かべる……

 が、この場にいないので取り敢えず、記憶の底に沈める。

「で、ご満足しましたか?」

 智波が、問う。

 今までのことが全て茶番であると聞き安心感と少しの怒りで複雑な表情になっている。

「そうですね……あの時、ただおどおどするだけの人というのが一番嫌いですからね。

 皆さんが何かしらの次の立場を見つけてくれて………

 心が強い方達で良かったですよ……

 ………貴方は……少し特殊でしたけどね……」

 老婆が、哀れみをたたえた瞳を智波に向ける。

「では、芹香さんを帰していただけますね?」

 トリプルGが―こちらは単純に声が陽気になっている―が尋ねる。

「そうですね……他の皆さんも来てらっしゃる事ですし………」

 そう言って、

  パンパン

 手を続けて二回叩く、また風景が変わる。

 ――草原

 何処までも続く草原に皆は、御茶を飲みながらくつろいでいた。

 当然ながら、綾香もいる。

「あ、来ましたね」

 白いテーブルを囲むメンバーの内、沙耶香が四人の姿を認めたようだ。

 その言葉に皆が三人を見る。

「…………東西さんも居ますね……」

「と言うか、やはりみんなグルだったと思うのが妥当でしょう……」

「人数多いですね……首謀者だけにしときましょう……」

 テーブルでくつろぐ皆に歩み寄る三人の会話は何処か物騒だ……

 東西の勘の通り……酷い目に遭いそうですな……一人だけが…………



「…………………………」

「『満足いただけましたか?』

 そうね……いい人達ね……大事にしなさいな……」

 歩み去っていく三人を眺める二人……いつの間にか老婆の側に佇む芹香……

「さて、私はそろそろ消えますか………元々思念だけだったんですからね……

 本当の私はとっくに、天国でゆっくり暮らして居るんでしょう……」

 そういうと、彼女の姿が徐々に消えていく。

「私の日記に……この子にお礼を言っておいておくれね……

 それから、お祖父様、あなた方のお父様、お母様にもよろしくね……」

 芹香が頷くのを満足そうに見て、彼女の姿は霧散する……

 しかし、それは再び形を持つ、小学生くらいの背を持つ少年に、

 その少年は東西が呼び出した「本に住まう小人」であった………

 芹香は、その少年の頭に手を置くと優しく撫でた。

 少年は、俯いて時折嗚咽を交えながらその手の暖かさに感謝していた……




「そうか……あいつがなぁ………」

「……………」

「はっはっは、儂によろしく……か…………」

 芹香と、その祖父が事件の舞台となった書斎のソファーで話をしている。

「わかった……お前も疲れただろう、もう休みなさい……」

「…………」

「ああ、おやすみ……」

 芹香が部屋を出ていった。

 彼は、ソファーに座ったままだったが、しばらくすると窓の前の机へと移り、椅子に座り込む。

「…………」

 無言で今回の事件を引き起こした本を優しく撫でる。

「まったく……儂と孫達の憩いの邪魔をしおって………

 かわらんな……お前は……かなわんよ…………」

 しばしの沈黙……

「それからな、直接言いに来なさい……言伝をたのまんとな………」

 そう言うと、明かりを消し、青白く輝く月のもと、遠い過去へと思いを馳せた……






「………………」

「ふふふ、そう、芹香は私にお婿さんを見せてくれるの?

 じゃ、私が試して上げましょうね。

 その人が貴方に見合う人かどうかを……」

 幼い芹香が頷く。

「じゃあ、約束ね……」

「……………」

 芹香が小指を差し出す。

「本気ね……いいわ」

 嬉しそうに、老婆が小指を絡める。

「「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんの〜ます」」


     遠い……

        遠い昔の約束………………



               了

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 東西:と、言うわけで! やっと終わりました、「幼誓遂刻」!
『命』:なんか……色々ありましたね………
 東西:FDフォーマットしちゃって一稿が消えちゃうしねぇ(涙)
『命』:自分の責任でしょう……
 東西:ゲームは面白いし……
『命』:喜びなさいな……
 東西:まぁ、多分細かい突っ込みとか沢山あるでしょう!
    来栖川祖父母とか(汗)
『命』:一応、話を作るために不自由しないだけの設定は作ったんですね……
 東西:自己満足だな……
『命』:第一稿の元すらないような気がします……
 東西:時は移ろう物なんだよ……(遠い眼)
『命』:鳥頭………
    さて、書くために必要な「急かし」をくれた方々……
 東西:本当に有り難う御座います!
    読んでくれてるんだなぁ、と実感できる一言でした!
    そして、りーずさん、智波さん、トリプルGさん、心境というか、
    芹香先輩に対する立場は勝手に解釈させていただきました。
    違ったら申し訳ありません!
『命』:では………今回はこれで幕引きとさせていただきます……
 東西:次回を楽しみにして下さい……

                          99/04/28