私的Lメモ「どこかでこんな夏休み」 投稿者:霜月祐依



みぃ〜ん、みんみんみん――

 チャポォン、ちゃぷちゃぷ…

みんみんみんみん――

 チリィーン。 チリリーン

みんみんみんジィィー

 スコォーーーーーーーーーーーーン!!

 壮大なセミの自己主張が一段楽したと同時に炸裂する、ある意味甲高い音。
 額を抑えてその場にうずくまるのはOLHその人。足元にはピンポイントで額を
攻撃したヒールが片足分転がっている。

「いってぇな! 何しやがんだ勇希!!」

 涙目になりつつもヒールを投げた人物、斎藤勇希に向かって声を張り上げる。

「誰が休んでいいって言ったのよ、続けなさいな」

 少しばかり高圧的な口調でOLHの前に近づくと、人差し指でOLHの顎をすくう
ような感じで持ち上げる。

 …ここの場面だけ見ると非常に倒錯的な雰囲気が感じられて、どっちが主でどっちが
従か非常にわかり易かったりするのだが。

(なんで俺がこんな無自覚女の我が侭に…)

 と、OLHがつい心の中で愚痴をこぼしたくなる。
 先ほど投げたヒールを拾い上げると、勇希は自分の席に座って腰掛ける。
 ここは私立Leaf学園職員室。職員室内にいるのはこの二人だけ。
 カーテンで窓が覆われ、外界と隔離された室内の勇希の席の足元には、子供用のミニ
プール。中には並々の水と、溶けかけたいくつかの氷がぷかぷかと。
 勇希の姿はというと、紺色のビキニ姿。

 そして、なんでOLHがこの場にいるのかとゆーと…

「ほらほら。ダークウインドをちょっとでも休むとたちまちこの室内が暑くなるんだか
ら、しっかりしてよね」

 ただの送風係だったりする。

「だぁーっから、窓とカーテン全開にすれば涼しい自然の風が入ってくるだろう!」
「やぁーよ、こんな格好でいるところ見られたくないし」
「だったら、水着じゃなきゃいいだろうが!」
「この水着だって脱いじゃいたいぐらい暑いのに、これ以上何か着ろっての?」
「で、なんで俺なんだ。他にも涼しそうな風出す奴いるだろうが!」
「他の子に頼んだらかわいそうじゃない」
「俺はかわいそうじゃないのか!!」
「その答え聞きたい?(にっこり)」

 ……てな問答が繰り広げられていたりする。

「もう知らん! 馬鹿馬鹿しい、俺は帰る!!」
「あ〜ら、いいの? バラすわよあの事…」
 勇希に背を向けたOLHの動きが止まる。
「な、なんのことだ…」
「あれはキミが小学校1年の頃の夏休み、笛音ちゃんやティーナちゃんと同じ年の頃
だったかしらねぇ――」

「だ、ダークウインドぅ…」

 がっくりとうなだれて、弱々しくも送風を開始するOLH。
 一体、二人の間に何があったのであろうか?

 勇希はニッコリ軽く微笑みを投げかけると、自分の席に着席して作業を再開した。
学校完全週休二日制が導入され、生徒にとっては休みが増えた。…が、教師にとっては
これまで認められていた自宅での研修が簡単には認められない状況となったのだ。

 要するに『夏休みも先生は学校に出て来い』と。

 っても、生徒が生徒なら先生も先生ということで、生徒以上に学園の実情を理解して
なければここでの教師は勤まらない。部活だのなんだのと理由をつけて、ほとんどの
教師が故障中で動かいエアコンしかない職員室から逃げ出したのだ。

 決して千鶴校長が耕一を拉…、もといバカンスに出かけたからでは無いと信じたいが。

 てなわけで資料の関係上職員室で作業をしなければならなかった勇希は、こんな格好で
お供にOLHを従えているのであった。

「さってと、ちょっと休憩にしようか」
 しばらくした後、一段落ついたのかおもむろに勇希は席を立つと職員用の冷蔵庫へと
向かっていった。
「はい、ご褒美☆」
 勇希は冷蔵庫から取り出したアイスキャンディーをOLHへと差し出す。
「…2時間にも及んだ労働の報酬がこれかよ」
「ふぁんか、ふぉんふえもあんの?」(何か文句でもあるの?)
 バニラのアイスキャンディーを咥えたまま言葉を返す。
「ふぁ〜ん、ふぁへぇちゃう、ふぁへぇちぇう」(あ〜ん、たれちゃう、たれちゃう)
 この暑さと口の熱で溶け、液体となってこぼれようとするアイスキャンディーを手で
拭おうとする勇希。
「ったく、だらしねぇ――って…」
 あまりにもはしたない姿に咎めようとしたOLHはある事に気づいた。

 勇希の口からこぼれているのはバニラのアイスキャンディーが溶けた液体である。
 手ですくおうとして、指にもちょっと白色の液体がついちゃりしてるもんだから――。

「もぉ〜、このアイスキャンディー溶けるの早すぎ…」

 アイスキャンディーを咥える事を止めた勇希であったが、指にかかった液体や
アイスキャンディーから再びこぼれ落ちようとしている液体を舐め取る。

「ん? どしたの?」
「いや、この部屋暑くてなぁ〜」

 一段楽したようで勇希は、自分に背を向けて首筋を叩いているOLHに声をかける。

(ったく、なんて姿を見せるんだか。そーいや霜月の奴、こんなシチュが大好きだって――)
「しまった!!」

 警備保障の同僚である霜月のことを思い出した瞬間、思わず声に出してしまったOLH。

「なにがしまったなの?」
「い、いや…なんでもない」

(長岡の奴ならともかく、霜月の奴が曲がりなりにもこんなおいしい状況――
 いや、俺にとってはおいしくないんだが――
 そうじゃなくって、あいつが見逃すはずがない!!)

 そこまで考えてから、OLHは周囲の気配を探る。

(一つ、二つ、三つ…あいつ『等』かぁ)

「どーたのよ、考え込んじゃって…。ってアイス溶けてる溶けてる」
 勇希はアイスキャンディーの棒を握り締めたまま、自分の手にたれてきているのにも
気づいていないOLHに駆け寄る。
「もったいないわねぇ…食べちゃお☆」
 勇希がアイスキャンディーを持っているOLHの手に顔を近づけて、舌を伸ばす。

「ダークウインド!!」

 瞬間、真上の天井で動いた気配に向かって全力でダークウインドを叩き込む。格子状に
ラインが入っているその天井はちょうどその一角だけを粉砕し、どっかで見たような警備
保障の腕章の一部がひらひらと舞い落ちてくる。

「ちょっと急に腕を動かさないでよ」

 アイスキャンディーを持っている手も今の行動の反動で動いてしまい、手に垂れていた
溶けたアイスキャンディーの液体が勇希の顔に掛かっていた。

「やぁ〜ん、もうベトベトじゃない…」

 勇希はそう言うなり、タオルを自分の机からとってこようと立ち上がる。

「ダークトルネード!!」

 OLHは腕を窓に向かって突き出すと、かすかにそよいでいたカーテンを
ダークトルネードで打ち抜く。カーテンがめくれる事によって、一瞬だけ映った外の
景色の中には空中でくるくると回っているどっかで見た木刀も捉えることが出来た。

「あれ…タオルどこにいったっけぇ」

 そんな勇希の声を尻目にOLHはゆっくりと手の平を床に置く。
 そして静かに呟く。

「ダークフレア」

 やがて、床から髪の毛が焦げるようなにおいと黒い煙が継ぎ目から浮かんでくる。

「ふっ、悪は滅びる運命にあるのさ…」

 なんてセリフをちょっとカッコつけていってみた。が、さすがに締め切った室内の
足元でダークフレアを使っている以上、自分自身も十分に暑い。気が付いたらけっこう
汗だくであった事に気がついた。
(見つかりそうな要因は排除したし、大丈夫か)
 一人納得すると、上着とズボンを脱いで短パン一丁になる。
「はいタオル。OLH君も汗ふいたら」
 そこへタオルをもってきた勇希が戻ってくる。

「…ありがとね」
「突然なんだよ」
「私のワガママに突き合わせちゃって。汗だくになるのも仕方ないか」

 突然しおらしくなった勇希にドキッとしてしまうOLH。
 軽口の中で気遣われることは多いが、面と向かって女の子らしく心配される姿は彼に
とってあまり記憶に無い。

「汗ふいてあげるね。ちょっとじっとしてて」
「お、おぃ…」

 戸惑いながらも勇希にその身を預ける。
 その時、外から一陣の風がカーテン(カーテンはしてあるものの窓ガラスは開いている)
をなびかせる。真っ暗な室内に一瞬だけ光が差し、甲斐甲斐しくOLHの汗を拭う勇希の
顔がはっきり写る。

「ん、どうしたの?」
「な、なんでもないやぃ」
「んもぅ、てぇれちゃってぇ〜♪」
「ち、ちがわぁ!!」
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 パシャリ

「う〜ん、屋上でスコープの調整をしていたら思わず見えたから撮ってしまったのだが。
俺もジャーナリストの端くれってコトなのかなぁ…。
 デコイの奴も撮ってないはずが無かろうが、志保に見せてみるか」

 シッポによってもたらされた『OLH真夏の情事』は、夏休み中にもかかわらず情報特捜部
史上屈指の反響をもたらすこととなった。相手の女性(写真はビキニ姿の女性の後姿としか
判断できない)の憶測が憶測を呼んだが、何故かエルクェユウヤが名乗り出てしまった為に
詳細は闇へと葬られることとなった。
 尚、OLHは幼妻ティーナ・笛音によってご飯抜きの刑7日間という新記録にチャレンジ
することになったとか。

                                     End.