私的Lメモ海岸編(3)「海でも似合う人たち(の続き)」 投稿者:霜月祐依


Case.2:オブジェクトが似合う人

 ザザーン……

 耳に飛び込んでくるのは波の音と、戯れる人々の声。
 奏でられる自然と人のハーモニーは自分のすぐ側から飛び込んでくるが、瞼に映るの
は七色の空。
 ハーモニーを奏でる様はきっと素晴らしいものであろうが、七色の空からその光景に
切り替わる事は叶わぬ願いなのだろうか。
 それは自分の一つの願いを叶えた時からわかっていたことなのだが…。

「ちくしょう、弥生さん騙しやがったな!!」

 ダーク13使徒首長ハイドラントが1時間後に導き出した結論である。



「…ったく、『ここの海岸の砂は由緒正しき砂風呂として有名な砂なのでいかがですか』
なんていうから……」
 今更語るまでも無いのだが、ハイドラントのイメージカラーは黒。だからという訳で
もないのだが、彼は普段から黒の服装を好んでいる。
 んでもって、5月の衣替え前後から9月の終わりごろまでの雨天以外は、ほぼ毎日の
ように暑さでダレきっている。せめて第二茶道部にいる時ぐらいは、黒い服をやめてス
テテコ・半袖姿もいいではないかと思うのだが。似合ってそうだし。
 てな事情も手伝っている人物が、ポリシーを貫いたまま臨海学校で海に来たらどうな
るかだ。
 ついた早々に暑さで溶けていたハイドラントに、ここの砂風呂は夏バテに効果がある
と勧めたのは他ならぬ篠塚弥生その人。
 今考えてみればどこにもそれらしい施設もないのに、思考能力の低下した状態で了承
してしまったが最後、他の13使徒幹部は一致団結してハイドラントを埋め…もとい砂
風呂作成に協力した。
 ベネディネクトなんかは、一生懸命鉄板並の硬さにまで砂を固めていたし。

 ハイドラントが砂人形のオブジェクトとして埋め…もとい、砂風呂状態になったのを
見届けた面々は、安心したのか飽きたのか皆どこかへと行ってしまった。
 皇華が直射日光を浴びないように、と差していったパラソルがせめてもの救いだ。
「このガラはどーにかなんなかったのかなぁ…」
 やたら目立ちまくるレインボーカラーのパラソルは、ちょっと勘弁して欲しいなと
思ってみたり。それに先ほどから薔薇部の矢島・橋本が通りすがりに熱い視線を投げか
けていったのも気になる。

「姿みないなぁって思ったらこんな所で何やってるのよ、ハイド」
「ん? おぉ綾香か」

 声のした方向になんとか頭をもたげてみると、綾香がこちらに近づいてきた。
「あんたが大人しく砂人形になるなんて、めずらしい事もあるのね」
「俺の懐の広さという奴だな」
「はいはぃ…」
 綾香はため息をつくとパラソルの中に入って座り込む。
「綾香はいままでどーしてたんだ?」
「ん? さっきまで沖の小島まで泳いできたところよ」
 はるか沖合いにある小島を指差す。
 が、砂人形状態のハイドラントには見えるわけが無い。
「み、見えん…」
「無理しないの。あ、タオル借りるわね」
 と言うと、荷物の上に置かれていたタオルで自分の髪を拭く。
 ハイドラントは、水であがったばかりで全身濡れそぼった綾香の姿に…見とれた。
「ねぇ、飲み物ない?」
「荷物の中にクーラーボックスがあったと思うが、そこに何かなかったか?」
「ああ、これね……」
 綾香はクーラーボックスの中から瓶ラムネを取り出す。
 蓋を開けた途端に勢いよく噴出す泡に、慌てて口をつける。

(こ、これは!)
 ハイドラントの瞼に飛び込んできたそんな綾香の姿、一気に再起動したハイドラント
の頭脳が次の指令を下すのは凄まじく早かった。
「俺にもラムネを貰えると有り難いのだが」
 再び座り込んでラムネを飲み干そうとした綾香への切なる願い。
「しょうがないわねぇ、最初に言ってくくればよかったのに」
 こちらもご機嫌なのか、素直に応じる。
 ちょうど手が届くか届かないかの距離にあったクーラーボックスへラムネを取るべく、
四つんばいになるような格好で手を伸ばしてラムネ瓶を手に取る。
(でかしたぞ、俺! さすがだぞ、俺! 予想通りだ!!)
 ハイドラントが気付かれないように、なんとか頭を動かして飛び込んできた光景。

 綾香の後姿――。
 お尻をこっちに向けて――。
 先ほどまで座っていた部分の砂も付着して――。

 ミシッ…
 
「はい、ハイドの分」
 ハイドラントの中で発生しかけた脳内麻薬が引いていき、急速に現実に戻る。
 既に綾香が瓶ラムネをもってこちらを向いていた。
「ってその状態でどうやって飲むのよ」
「出来れば飲ませてくれると有り難い」
「却下」
 即座に棄却される、次なる願い。
「しかしこのままではっ…」
「砂から出ればいいでしょうが」
 ここで砂から出たら、こんな美味しいシチュエーションは拝めなくなってしまう。
なんだかんだで他人を放っておけない性格の綾香だからこそ、一年にあるかないかの
優しさで接してくれているのだ。
 …まぁ、その推理はあながち間違ってはいないが。
「そ、そうだ、ストローがあっただろ。それでいいから、頼む」
「しょうがないわねぇ…」
 荷物の中にあったストローを一本取ると、蓋を開けたラムネ瓶の中に突き刺す。
「はい、これでいいでしょ」
 ハイドラントの眼前でしゃがみこんで、顔の側にラムネ瓶を置いてストローを口へと
もっていく綾香。
 顔を綾香のほうに向けてストローを口にしようとしたハイドラントに飛び込んできた
光景。
(Yes! Yes!! BerryYes!!!
 Fine ThankYou! and You!?)

 真っ赤なビキニによく似合うバスト――。
 しゃがんでいるから寄せて上げて挟まれそうで――。
 両目から30cmと迫った胸が動くたびにプルルンと揺れて――。

 ミシミシッ…

 再び活性化される脳内麻薬。
 先ほどから、妙な亀裂音がするが全く気にするところではない。
「どう、美味しい?」
「ああ、最高だ……」
 心の底からのハイドラントの表現は、もちろん複数の意味が込められている。
最も、その真の意味を綾香に気付かれたらオシマイなのだが。
(ここで満足しては真の漢たるや! 漢にはやらねばならぬ事もある!!)
 そう決意したハイドラントは綾香が立ち上がり視線が別のところを向いた瞬間、
肺にありったけの空気を溜め込んで胸元辺りの砂山に吹き付けた。
「わっ、ペッ、あ、綾香、砂が崩れて顔に掛かった! ペッ、ちょ、とょっと掃って…」
「もぉ〜、なにやってるのよ」
 再びハイドラントの眼前へとしゃがみこんで、顔についた砂を払う綾香。
 格闘技をやっているにも関わらず柔らかく繊細な指先が、顔をというよりハイドラント
の脳内麻薬を刺激する。
「また、砂が掛かったらかなわん。ちょっとこの辺の砂を固めてくれないか」
 と顎をしゃくるように動かす。
「はいはいもー…、わかりましたわかりました」
 そろそろ嫌々が入っているものの、しゃがんだままの体制で軽く砂を押さえつける。
(フハハハハハハハハハハッ!!
 見たまえ! 我々は全ての賭けに勝ったのだ!! 勝利者だ! Winnerだ!!
 この光景を! 天からの恵みを!! 消える事なき脳の記憶に焼き付けるのだ!!!)
 三度、ハイドラントに飛び込んできた光景。

 ビキニパンツも紛う事なき、真紅――。
 人類の半分が常に追い求めてきた、栄光の地点――。
 嗚呼、私は綾香の股間にしぶとく残っている砂になりたい――。

 ミシミシミシミシミシ………

「ん?」
 ハイドラントの暴発一歩手前の脳内麻薬。
 本人は脳内麻薬が発散されすぎて気が付いてなかったが、外から見ていた綾香には
よくわかる。
「ハイド、ここにも亀裂が――」

 ミシミシミシィッッッッ!!!

 綾香がハイドラントの砂人形に生じた亀裂に気がついた。
 段々と大きくなる亀裂を直そうとして、ふとハイドラントの顔をみやる。
 そこには脳内麻薬大発散中で、トリップしている顔。
 口から少し涎がでそうなぐらいのにやけた表情と、亀裂の位置を確認する。

「―――………!?」

 そして、ハイドの視線と今までの自分の体制が結びついた途端に真っ赤になる顔。
「ハァ〜イィ〜ドォ〜!?」
「おおぅ、今日はもう死んだって……って、おい綾香何を、えっ、ち、ちょっと…」

 ドカ、バキ、ゴス、ドカ、バキ、ゴス、グシャッ……

「…ったく信じらんない。
 あ、おーい、ゆーさく〜!」
 綾香が去ったその後にはスコップと、『完全なる砂人形』が残される事となった。

 一方、亀裂の方はというと…

 ミシミシッ…ボコッ!!
「導師見てください! この砂浜の中でウミガメの卵を見つけましたよ!!
あれ? 導師? おっかしいなぁ、出るところ間違えたかなぁ…」


Case.3:背景が似合う人(爆)

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 じゃ、そーゆーことで。
「待て待て待て!」
 おや、どーしましたか?
「どーしたかじゃない! まさか、『背景が似合う人』ってこれだけで片付ける気か?」
 はぁ、そうですが…。
「海岸編だろ? 俺が海でおぼれた女の子を助けるとか、夕日が沈む海岸でのラブ
ストーリーとかあるだろうが」
 でも、背景が似合う人に話し掛けているとしたらそれは電波入ってますよ。
「電波だぁ? んなもん、そこでいつも受信し…」

 バキィッ!

「うちのルリコを馬鹿にするなルリコォォォーーーーッ!!」

 あ〜ぁ、下手に自我を主張するから。
 背景なら、ちょっと遠巻きに奇異の目で見ててもそれだけだったのに。
「うるせー」
 それに背景も捨てたもんじゃないですよ。ほら、あれを御覧なさい。
「んぁ?」

『もぉ〜やだぁ、こんな所でスルのぉ?』
『こんな所だから、燃えるんじゃないか』
『あん☆ そんな所揉まないでぇ。はぁっ、あっ…』

「………………スゲェ」
 ねっ、いいでしょ?
 これだけ堂々と覗いていてもバレないんですよ。周りを気にする事無く覗きが出来る
んですから。
「そうだなぁ……って、ちょっと待て」
 どうかしましたか?
「するってぇと、俺は何も出来ないじゃないか」
 あなたはギャラリーなんだから、踊り子さんに手を出すのはタブーですよ。
「だから、俺はギャラリーでも背景でもなくって、一個人としてだなぁ…」
 ま、いいじゃありませんか。
「ちっとも良くない!」
 そーゆー訳なんで、頑張ってくださいねぇ〜。
「どーゆー訳だ! ってーか、俺はこのままか? おぃ、せめて俺の名前……」
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                           とーとつに終わり(笑)