私的Lメモ海岸編(1)「海に向かない人たち」 投稿者:霜月 祐依

 事の始まりは…ただ単に
「千鶴さん、みんなで海にでも行きたいね〜。…休みどころじゃないけど」
 と耕一が珍しく愚痴をこぼしたのに始まったのだが。

「……と、言うことで明日は全校で臨海学校でぇ〜す(はぁと)」
 これぞ千鶴校長必殺兵器、強権発動だったりする。

Case.1:海に向いているハズの人

「あっ…」
「ん? どうした瑞穂くん」
 学園一らぶらぶカップルである、岩下信と藍原瑞穂のペアはここでも仲睦まじい。
お互いのちょっとした変化も読みとれる程だ。そして、瑞穂が海岸に到着した時に
少しだけ顔をしかめたのを信は見逃さなかった。
「ちょっと、岩場の方から腐ったような臭いが」
「そうだな、海独特の臭いとは少し違うようだな。気になるから見に行ってみるか」
 信は鼻をヒクヒクさせながら臭いを確認すると、念のために確認しに行くことにした。

「こっちのようですね…」
「そうだな、段々とキツくなっているが、あれは?」
 臭いの発生源に近づくにつれ、臭いもきつくなり瑞穂はハンカチで鼻を覆っている。
そして、岩場の陰にあった『それ』を見つけたとき、二人は思わず息をのむ。

「「さかな・・・?」」

「魚が朽ちて打ち上げられているだけか。にしちゃぁ、手と足は生えているし…」
「これって、もしかして真藤さんではないでしょうか?」
「真藤君? 生徒指導部の?」
 信は思わず首を傾げる。確かに生徒指導部の真藤誠二は魚人であり、こういった
姿になるとの報告も受けた覚えはある。しかし、彼もれっきとしたSS使いであるし、
なにより魚人である以上こんな所でうち捨てられているとは考えにくい。
「そういえば、真藤さんは海に行くのを躊躇っていたような」
 それを聞いて信はますますわからなくなった。海ならば魚人である利点を最大限
生かして、泳ぎでヒーローになれるチャンスではないか。しかし、彼ともそれほど
親しくないので、信はこれ以上考えるのをやめてさっさとこの場を立ち去ることを
考えた。
「どちらにしろ、このままという訳にもいくまい。せめて臭いが残らないように
火葬にしてやるか」
 そう言うと信は瑞穂を遠ざけてから、目標に向かって自分の炎を投げつける。
するとたちまち朽ちた魚人は炎に包まれ、今度は香ばしい臭いが漂ってくる。

「ネェー、こっちのほうなの? XY−MEN」
「ああ、プンプン臭ってくるよ」
 しばらくすると、砂浜の方から誰かがやってくる。声からするとレミィとXY−MEN
のようだ。
「お、ここだここだ。…と、邪魔したか?」
 二人の前に現れたXY−MENは、ちょっとニヤ付きながら二人に話しかける。
その後ろをかけてきたレミィは弓矢を携えている所から、砂浜でハンティングの最中
だったのであろうか。砂浜をかけていたために乱れた呼吸を整える。
 当然の事ながら、レミィの水着はビキニで色は白! レミィが呼吸を整えようとする
度に胸は上下する。そらもぅ、バイン・ボインと書き文字が一杯に浮かぶぐらいに。
 それを見た瑞穂は、ワンピースの水着にさらにパーカーを着込んでいるので露出も
何もあったものではないが、ちょっとその場で小さくジャンプしてみる。
「ん、どうした瑞穂君」
「いえ、なんでも…」
 消え入りそうな声で答える瑞穂。いくららぶらぶカップルといえども微妙な女心まで
は見抜けないようだ(笑)
 呼吸も落ち着いたレミィが二人に話しかける。
「Hay. シンにミズホー。こっちにターゲットこなかった?」
 てっきり、信と瑞穂の逢瀬を邪魔したと思っているXY−MENとは対照的に、
レミィは二人のことで変な気遣いすら見せる様子もない。
「ターゲット?」
 聞き返す、信と瑞穂。
「Yes. 折角海に来たのだから、海の幸もゲットしないとネー」
「ということで、真藤がこっちの方に逃げたと思うんだが見なかったか? あいつ、
砂浜を散々走り回って追いつめたと思ったら、急に魚人に変化してこっちのほうに
泳いでいったんだけど」
「それって…」
 信が蒼い顔をしながら後ろを向く。
「こちらの方でしょうか?」
 瑞穂も後ろを向いてレミィとXY−MENを促す。

 メラメラメラ・・・・・・

「「「・・・・・・」」」

「え〜と?」
「ちょっと腐ってて臭いがきつかったから。急な運動な後に泳いだから足が吊った
のかな〜」
「もしかして、真藤さんは淡水種だったんじゃぁ」
 XY−MENの冷たい視線に、理由になってない理由を付ける信と瑞穂。どちらも
説得力ゼロであるのは間違いない。ところが、
「Great! ハントした獲物をその場で料理するのはハンティングの常識ネ!!」
 どこからかサバイバルナイフを取り出して、早速バラしにかかるレミィ。確かに
ちょうどいい焼き加減らしく、美味しそうに焼けている。
「わ〜、レミィストップ、ストップ」
「Why? 今が食べ頃ネ。焦げると美味しくないヨ−」
 慌てて、止めに入った信にレミィは不思議そうな顔をする。
「ほら、魚人は食べ合わせが悪いって言うし」
 なんの食べ合わせだ一体。
「ほら、まだターゲッドが2匹残っているじゃないか、そっちをハントしようぜ。な」
 XY−MENの言葉にレミィは渋々了承する。
「ところで、あと2匹っていうのは…?」
 瑞穂が恐る恐る訪ねる。
「Uh−。河童と蟹ネ」

Case.2:やっぱ海には向いてなかった人

「み、水…」
 もうこの言葉を呟くのは何度目だろうか。無駄だとわかっているのに無意識に
この言葉がでてしまう。確かに振り向けば『そこ』にあるわずか十数mの距離だ。
だが、それは自分にとって『死』を意味する。甘い誘惑の向こうには死神が手招き
しているのがよくわかる。

 ザッ

 まとわりつく砂に負けそうになるのをこらえながら歩を進める。立ち止まっては
ならない。立ち止まる事も『死』を意味するのだ。
 体力は既に限界、身体中の関節が悲鳴を上げている。だが『生』を得るには進ま
なければならない。あと100mがとても長く感じる。

「カチワリいかがっスかぁ〜」

 遙か遠くに聞こえる声、確か、クラスメートのバタ子とか言ったか。自分がまだ
元気だった頃は目の前にいたのに、今は遙か遠くに。命の源を運んでくれる有り難き
存在だというのに、その時に話しかけなかった自分を悔やむ。
 今、目の前にいたらどんな手を使ってでも奪い取るであろう。それは後に卑怯だと
罵られるかも知れない。しかし、自分は『狩られる』対象なのだ。

 何もしなくても、『死』を迎えてしまう。もしくは『狩られる』であろう。ならば
少ない可能性でも『生』に賭けたいのだ。

「あとちょっと…」

 目指すそれは目前に迫っている。
「第二購買部特製ミネラルウォーター大特価販売中だよ〜」
 このご時世だ、自分以外にも求めている奴は数多いる。急がないとなくなる。

「わ〜、さおりんナイスレシーブ!!」
 自分のすぐ脇ではビーチバレーに興じる者達。中には、自分の知った顔も混じって
いる。
「お〜ぃ、どこいくんだ?」
 見知った顔が、自分に声をかけるがそれに答える気力など既に残っていない。
そんな体力があったら、目前に迫ったそこへ歩を進める事しか思いつかない。
 あと、わずか。自分に気がついた店員が営業スマイルを浮かべる。
「いらっしゃいませ。ミネラルウォーターですね」
 足下を見るような口調に少々腹は立つが、命の恩人となる人物だ。逆らっては
元も子もない。
「そこにある奴、全財産…」
 これで、助かる。自分はわずかの確率しかなかった『生』への道を得ることが出来た。
 そう思った瞬間。

「火ぃのー玉ースパイク!!」
「黒助、危ない!!」

 ゴウッ! スコーーーーーン!!

 ガッシャァァン!!

「おぃ、黒助大丈夫か? って、見事に皿が割れてるなぁ」
「皿の蓋忘れたんですかねぇ。 どちらにしろ焼かれた上に皿が割れたんじゃどうし
ようもありませんねぇ」

Case.3:論外の人(笑)

 カサカサ…カサカサ…

「やだぁ、何あれ」
「父上〜。かにさんだよ」
「静、近づくんじゃありません」

 多くの人でごったがえしている砂浜が、まるでモーゼの十戒の如くまっぷたつに
割れていく。但し海に対して水平に。
「まいったなぁ。玲子さんはどこに行ったんだろう」
 その正体は『蟹』。但し高さ1m、幅2mに渡る巨大な蟹。その中にいるのは
学園随一の着ぐるみ氏、雅ノボルその人であった。
 今回のコンセプトは『海』と言うことで、芳賀玲子と二人でペアのコスプレを
して渚の話題をかっさらう予定だったのが。玲子が雅をおいてさっさと行ってし
まったのである。
 仕方がないので一人で砂浜に出たところ、レミィの格好の標的とされてしまい
命辛々逃げてきたのである。よく見ると8本の足は傷つき、甲羅には矢が数本刺
さっている。平家ガニという表現がぴったりくるであろうか。
「早く、着替えないと命に関わる…」
 と言うわけで、雅は更衣室に戻る最中だったのである。少なくとも、別の衣装に
着替えればレミィにハンティングされなくてすむ。が、蟹の衣装が今回はアダとな
った。前に進めないのである。直線距離とすればわずか10mと迫った更衣室まで
の道のりも、横方向にしか進めない雅はかれこれ十数分もジグザグ移動を続けていた。
 その場でとりあえず脱げばいいじゃないかという突っ込みも聞こえそうだが、
着ぐるみ氏たる以上、人前で素肌を晒すのは耐え難い屈辱である。それこそ、
タイガーマスクの素顔とは比較にならないくらい。だからといって、奇跡の光で
鉄柱をアメのように曲げたり、どぶ川が綺麗になったりはしないが。
 そうこうしている間に、雅は更衣室の入り口にまでたどり着いた。が、
「し、しまった…」
 思わず呟いてからの、次の言葉が出てこない。雅の前に立ちふさがっていたのは
高さ70cm、3段に渡る木製の階段である。3歳児でも登れるなんてことはない
階段だが、今の雅は蟹である。そぅ、蟹にとっは相当の難関である。
「帰りの事、考えてなかった…」
 行きはひっくり返らないように気をつけて飛び降り、帰りは玲子に抱きかかえて
もらおうかとちょっとだけ邪な考えを持っていただけであるが。
 ぐずぐずしているといつレミィがやってくるかわからない。とりあえずバランス
に気をつけて一段一段登ることに決めた。

「よっこいせ…」

 ギィ…

 まず一歩、左側の足が階段に乗せる。着ぐるみを含めた、雅の過重が加わる
事によって木製の階段が軋みをあげる。

「もいっこ…」

 その状態で、器用に右側の足を動かして階段に接近し、左側の足に力を込めて
右側の足を階段に乗せる。なんとかうまくいく。だが、一番不安定な状態である
ことは間違いない。早く左側の足を階段の上へ乗せないと、という焦りも生じる。

「あと一歩…」

 左側の足が階段の上にかかろうとしたその時。

 メリメリ、バキィッッ!!

 ついに木製の階段が雅+着ぐるみの重さに耐えきれずに崩壊した。受け身も
取れずに砂浜に叩きつけられる雅。まぁ、砂だからダメージはないだろうけど。
「あいたたた、腐ってたのかな…。っえ?」
 とりあえず、起きあがろうとした雅は自分の置かれた状況を瞬時に理解した。
そう、雅は仰向けにひっくりかえっていたのである。
「起きあがれない…」
 とりあえずジタバタしてみるが、起きあがれるわけがない。もしかしたらと
思って徹夜で作った泡噴射装置で、泡を吹いてみたがどうにでもなるものでもない。

「あ〜! なんて事してくれたのよ!!」

 不意に階段の上から声がかかる。なんとか、二つの目を声のした方に向けると
相田響子の姿があった。
「そうか、更衣室の隣は救護室だったんだっけ」
 問題児だらけの生徒が大挙を為して訪れたものだから、万が一という日常茶飯事の
事態に備えて、学園専用の救護室が設置されていた。そしてそこには保険教師である
響子が常駐しているのであった。
「あんた、ここの建物は地元の人の好意で貸してもらってる建物なのよ。それを
あっさりと壊してくれて…」
「…大体、あんた達がこんな事ばかりしてるから、全然遊びにも行けないじゃない」
 まだひっくり返ったままの雅に向かって延々と説教をたれていたはずがいつの間に
か愚痴に変わっていた。とりあえず雅は一言。

「海での出会いを期待するのはわかるんですけど、その水着はちょっと似合わ…」

 ゲシィッ!!

 響子の左足が、蟹の着ぐるみの下腹部に炸裂する。
「何か、言った?」
 老い先短い(爆)響子にとって、ここは貴重な出会いの場。響子の水着はビキニ
タイプではあるのだが、大人の魅力で攻めようとして赤紫を選択するセンス。だか
らといって救護室での実務性も重視したためにビキニはビキニでも露出の少ない
スポーティーな水着であるため、どっちにしろ空振りに終わりそうだが。
 だが、雅の言葉は響子の逆鱗に触れてしまったようだ。
「どうせ、大人の魅力で言ったら弥生先生には勝てませんよ。胸のサイズも外国産
はおろか、国内産にだって負けますよ」
 愚痴の方向性が微妙にすり替わる中も、響子の強烈な踏みつけは続く。中の雅は
響子の踏みつけに対し、もう一度泡を吹いては見たが勘弁してくれそうにもないの
でただ受け止めていた。
「あっ、あっ、この感触まんざらでも…」
 …もっとも着ぐるみ越しなのでダメージとしては大したことはないが、着ぐるみ
越しに雅が踏みつけを受ける場所が大問題。ちょっとどころか、かなり危ない世界へと
旅立てそうな予感がしてくる。

「あ〜、もぅムカツク!!」

 パカッ

 一際大きな声と共に放たれた響子の踏みつけにより、蟹の腹部に当たる部分が
音を立てて外れたのである。

「・・・・・・(み、見られた!!)」
「・・・・・・(アラ、わりかしイイ男じゃない)」

着ぐるみの中の雅と視線が合い、沈黙の時が流れる。まぁ、なんだかんだで男を
見る目だけはLeaf学園随一の響子にとって、雅の素顔は合格点のようだ。

「いたぞ、レミィこっちの方だ!」
「Hay、今夜は蟹鍋ネー」

 沈黙は突然の来襲者によって妨げられる。雅が逃げてきたそもそもの相手、
レミィとXY−MENの二人に見つかってしまったのだ。慌てて、外れた部分を
装着し、助けを請う雅。が、
「フゴッフゴッ、フモッフ」
「?」
(しまった、ボイスチェンジャーが壊れた!)
 先ほどまでの響子の踏みつけによってボイスチェンジャーが故障してしまったの
である。仕方がないのでどこからか取り出したカンバンにマジックで手早く書き込む。

『オワレテル タスケテ』

 蟹のハサミで器用にこれだけ書けるのなら、どーして階段が登れないものかとも
思ってしまうが、とりあえず響子に意志は伝わった。
「じゃぁ、階段を壊してくれた例もあることだし…」
 右足を大きく後ろに振り上げた響子を見て、雅は着ぐるみ越しに必死にやめてと
懇願する。泡もこれまで以上に吹いてみる。
「とっととこの場から立ち去りなさぁ〜い!!」

 ドゴォォン! ピュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…

「レミィ、あれ!」
「動くマトは百発百中デェース!!」



 −数日後−

 職員会も終わり、第一保健室に戻った響子を出迎えていたのは熊の着ぐるみを
まとった雅であった。しかも、両手一杯に花束を抱えて。
「ど、どしたの雅君」
「響子センセ、この前の海で僕の…素顔」
 珍しく、言葉が尻切れトンボになる雅。
「ああ、かっこいいじゃない。素顔の君だったらきっと女の子にモテモテよ」
 てっきり、雅がいつも着ぐるみを着ているのは、対人恐怖症か何かと思った
響子は、自信をつけさせるつもりで雅を励ます。
「やっぱ、見たんですね…」
「ええ、見たけど…」
 重苦しい雅の言葉に、響子はただならぬ者を感じ、思わず後ずさる。

「響子センセ、僕と結婚してください!!」
「へ?」

 唐突な雅の言葉に、素っ頓狂な声をだす響子。
「……ちょ、ちょっと」
 狼狽える響子に花束をずいっと押しつける雅。
「雅家では生まれて最初に纏うのは毛布でも、母親の腕でもなく、着ぐるみです。
そして、素顔を見れるのは母親以外では生涯の伴侶だけだと決まっています」
「それが…って、私が雅クンの顔を見たから?」
 おぼろげながら状況を理解しだす響子。
「僕の素顔を最初に見るのは玲子さんだと思っていましたが、これも運命! 
響子先生、結婚してください!!」
「あの、ちょっと質問いかしら?」
「なんですか? 響子センセ」
「もし、素顔をみた相手が男だったらどうするの? それと、相手に断られたら」
「素顔を見られたのが女性ならば、生涯の伴侶とすべし。もし、男性ならば…」
 着ぐるみごしだが、ちょっと雅に殺気が隠る。
「男性ならば?」

「死を持って秘密を守るべし」

 着ぐるみの両手にある爪が鋭い音を立てて伸びる。思わず息を飲む響子。
「まさか、響子センセにそんなことするわけがないじゃないですか〜」
 一転、気味悪いまでに明るい雅の声が一層真実味を増す。
「わ、私は…。な、なんで、こんなのばっかりなのよ〜」
「ちょっと、響子センセ!?」
 雅の声も聞かずに一目散に走り去る響子。

 相田響子、2ピー歳崖っぷち。 春はまだ先のようである。

                                   Fin.