試立Leaf学園の私闘「力と強さ」(4) 投稿者:佐藤 昌斗






>5月21日。
 午後1時15分。
 試立Leaf学園第二購買部店内。


                                    沙留斗。

 第二購買部と言うのは、様々な物を取り扱っている場所であった。
 それこそ、筆記用具から果ては、銃器等の非合法な品物まで。
 常日頃、現部長であるbeakerが、
「消しゴムから、核弾頭まで」
 と公言する程で、実際それも頷ける程の品物量を誇っている。
 しかも、値段は大方の物が通常の店より安く、また何故か一部の物は、大幅に安く売っ
ていると言う、ある意味凄く不思議な店であった。
 だが、だからと言っていつも引っ切り無しに客が訪れるとは、限らない。
 そして、今の時間も丁度客が一人も来ないと言う、店としては非常に嬉しくない状態な
のであった。
「……暇だ」
 カウンターに頬杖を付きながら、店番をしていた、何故か室内にもかかわらずマントを
した学生服の少年――沙留斗は、思わず呟いた。
 時間的に、と言うのもあるだろうが、それにしても誰も来ない。
 もう、そんな時間が1時間は続いている。
(師匠や、マスターなら、まだまだ甘い、とか言うんだろうなァ〜……)
 しかし、暇と感じるものは仕方ない。
 しかも、今日に限って在庫整理等の雑務も特に必要ではないと来ている。
 それと言うのも、昨日沙留斗と同じく暇を持て余した好恵が今日の分もしてしまったか
らなのだが、そんな事を知る由も無く、
「……暇だ」
 結局、呟いてしまう。
(あぁ〜……こうなれば、”沙耶香“に任せようかなぁ〜……)
 一瞬、もう一人の自分に任せようかと言う考えも浮かぶが、だがそれが無理な事を直ぐ
に思い出す。
「まぁ……まだ先だしなぁ〜」
 沙留斗が掛かったとある呪い。
 その呪いによって生まれた、もう一人の自分である沙耶香は月に一度だけ現れるのであ
る。
 そして、残念ながらその日はまだ先であった。
 さて、沙留斗がぼんやりとそんな事を考えている時、ある意味では待ちに待った者が現
れた。

 カランカラン。

 入り口の扉に備え付けてある、小さな鐘が軽やかな音を響かせる。
 それと同時に、第二購買部に入って来た人物が、声を出した。
「少し見させてもらいたいんだが、構わないかな?」
「いらっしゃいませ!」
 慌てて接客態度に戻る沙留斗が見る先にいたのは、源三郎であった。





>5月21日。
 午後1時28分。
 試立Leaf学園リズエル棟。


                                  柳川 裕也。

 昼休みと言うのは、学園でも活気の出る時間である。
 特に、共学ともなれば、その騒がしさはかなりのものだ。
 しかし、それとは無縁な人間と言うのもいるもので、彼――柳川裕也もそう言った中の
一人だった。 
 裕也は、楽しそうに語らう生徒や、生徒の中に混じり談笑する教師達をなんとなく、と
言った風に校舎の窓から眺めていた。
 と、そんな時。
「君も、あの中に入っていけばいいじゃないか。やはり、まだああ言うのは苦手か?」
「……お久しぶりです、長瀬さん」
 人が近づいて来ているのを知っていたらしく、そしてそれが旧知の人間である事にも別
段驚いた様子もなく、裕也は源三郎に言う。
「お久しぶり。ふむ……なかなか、似合っているじゃないかその格好」
 どうやら、裕也とは知り合いらしい源三郎は、裕也の素っ気無い挨拶にも気にした様子
もなく、微かな笑みを浮かべながら答えた。
「白衣(これ)の事ですか? まぁ、仕事着みたいなものですから。それより、こんな所
まで、仕事ですか? 相変わらずみたいですね」
「まぁ、この歳になるとそうそうは変われないからな。それにしても……ここは変わって
いるねぇ。何と言うか……全てが”異質“とでも言えば良いのかな?」
「異質……ですか?」
「そう。まるで違う世界に迷い込んだような、そんな気分だね。しかも、この世界では知
っている筈の”常識“というものが、実はまったくの非常識だったと思わされる」
「思わされる……確かに、長瀬さんからすればそうかもしれませんね」
「君は、違うという感じだな」
「自分はもう、ここに来て長いですからね」
「慣れた、ということかな?」
 裕也は源三郎のその言葉には答えず、窓越しに見える中庭の風景を眺めていた。
「そうそう。それから……ここでは、あれは普通なのかな?」
「あれ……ですか?」
 源三郎の言葉に裕也が振り返って見ると、そこでは源三郎が何やら天井の方を見上げて
いる。
「あぁ……警備カメラの事ですか」
 裕也は源三郎が見ているものを見て納得した。
「確かに、普通の学校の施設には警備カメラはないでしょうからね。ここの施設は来栖川
グループから派遣された警備チームがいますから、その関係と言ったところですか」
「あぁ、ホームメイドだっけ? あのロボットの警備チームか。……ん? 警備カメラ? 
”監視“カメラではなくて?」
「意味合い的には同じでしょうが……どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと……ね」
「……そうですか」
 そして、再び二人を沈黙が包む。
 二人は、黙ったまま窓から見える中庭の様子をただ静かに眺めていた。
 やがて、
「……君は、警察を辞めて良かったようだ。それじゃあ、多分また来るだろうけど元気で」
 無言の裕也の横顔をしばし眺めた後、それだけを言い残して源三郎は去って行った。
「……辞めて良かったか。確かに、そうかもしれんな」
 源三郎の去って行った方を向くと、裕也は誰に言うわけでもなくそう呟く。
(……監視カメラか。相変わらず、鋭い勘をしている)
 裕也は、まるで睨みつけるかのように天井に設置されている警備カメラを一瞥すると、
源三郎が去って行ったのとは反対の方向へと、歩き出した。
 時刻は、そろそろ昼休みが終わろうかと言う時間になっていた。





>5月21日。
 午後1時16分。
 試立Leaf学園リズエル棟天井裏。


                                 葛田 玖逗夜。

 彼は、この学園において、何処にでもいて、何処にもいない存在だった。
 彼は、この学園において、何処にもいないが、何処にでもいる存在だった。
 だからこそ、彼――葛田玖逗夜(くずた くずや)が今ここにいる事は不思議ではない。
「……見ぃ〜っけ。また一個発見と……」
 玖逗夜は今、Leaf学園リズエル棟の天井裏にいた。
 何故、今現在この場所にいるのかは、彼の所属する学園組織――ダーク十三使徒と呼ば
れる組織と、深い関係があった。
 玖逗夜は、この十三使徒と言う組織内部で高い地位を持ち、そして、十三使徒のトップ
(十三使徒では首長と呼ばれる)である、ハイドラントを心から尊敬していた。
 そして今、天井裏を移動しあるモノを探しているのは、ハイドより直々に言い渡された
事であった。
 一見、少女にも見える顔や黒い学生服を、蜘蛛の巣や埃で汚す事に一欠片の躊躇(ちゅ
うちょ)も見せず、いや、むしろ嬉々として玖逗夜は、ハイドから命ぜられたモノを探す
為に天井裏をゆく。
 首長である、ハイドの為に。
 全ては、ハイドに対する愛の為に。
 後、尊敬と趣味なのも少々。
 それらの、特に”愛“の為に、玖逗夜は天井裏をゆくのである。
「……あっ、あそこにも……」
 そう呟いた玖逗夜が見る先には、まるで隠れるかのように設置された、”警備“カメラ
があった。





>5月21日。
 午後7時51分。
 隆山町内路地裏。


                                    ????

 獲物は何処だ。
 そろそろ狩らねば、渇いてしまう。
 渇くのは嫌だ。
 乾くのは嫌だ。
 あぁ、獲物は何処だ。
 獲物は……何処だ。
 あぁ、渇いてきた。
 あぁ、乾いてきた。
 獲物は……何処だ!
「――ひッ」
 ……見ぃつけた。





>5月21日。
 午後7時53分。
 隆山町内路地裏。


                                 小出 由美子。

「――ひッ」
 彼女は後悔していた。
 近道にと、今いるこの路地裏に来た事に。
 走り抜ければ、大丈夫だと考えた自分自身に。
 走った事で少しずれた眼鏡と、乱れた髪を少しだけ気にしながら、彼女――小出由美子
は、目の前にいるものを見て、今この場所にいる事を後悔した。
 それは、暗がりにいながらも、まるで自身から光を放っているように、不気味とその姿
をはっきりと映し出していた。
 いや。
 そう見えるだけなのかもしれない。
「あ、あの……どうかしたの?」
 由美子は、危険だと告げる本能を、間違いであって欲しいと思いながら、目の前に立つ
モノに恐る恐る声を掛けた。
 それは、彼女の教師と言う職業意識が、そうさせたのかも知れなかった。
 何故なら、相手は少年なのだから。
 そう。
 少なくとも外見は。
「……モノ」
「……はいっ?」
「エモ……」
「えぇ〜っと……何?」
「……エモノっ」
「……えもの?? えっ?」
「エモノっ!」
「きゃあッ!!」
 やはり、人と言えど生物である。
 その本能が告げる危機感と言うのは信じられるらしい。
 眼前に迫る、光を放つモノを見て、由美子はそう思った。
 そして、由美子がそんな事を思いながらも、両の瞼を閉じた瞬間。

 ヒュン。
 バシッ。

「おい、無事か? 由美子」
 その声に、恐怖で思わず閉じた眼を開くと、目の前に迫った日本刀らしき刃に巻き付い
た鞭らしきものと、そしてそれを放った紫の髪の長髪の女性。
 由美子の勤めるLeaf学園の同僚――サラ・フリートがそこにいたのだった。





>5月21日。
 午後7時59分。
 隆山町内路地裏。


                                サラ・フリート。

「見つけたぜ、やっとな」
 サラはそう言いながら、日本刀に絡まった自らが放った鞭を、力を込め手繰り寄せ始め
た。
「おい、由美子! とっととずらかれッて」
 そして、事態が飲み込めず呆けたようにしている由美子に向かって檄を飛ばす。
「――えっ?! え、ええ! だ、誰か呼んでくるから!」
 由美子は、サラの言葉に我を取り戻すとそう言い残し、路地裏から抜け出す為に駆けて
行く。
「さぁ〜て……これで、安心してヤレるッてもんだぜ」
 街灯から外れ、暗闇の中へと消えて行く由美子を横目で見送ると、まるで舌舐めずりす
るかのように、舌で唇を舐め、サラは不敵な笑みを浮かべた。
「ウっ……ガぁっ!」
「へぇ〜……エモノを取られたんで、アタマにきてんのか? へっ、悔しかったらかかっ
てきなよ!」
 明かに殺意を込めた眼差しを向けてくる少年に、だが少しも臆する事なく、サラは変わ
らず不敵な笑みを浮かべ、それどころか挑発するように言い放つ。
 もし、仮に誰かがこの場にいたとして、果たして今のやり取りをどう思うだろうか?
 いくら鞭を持っているとは言え、サラは女性である。
 そして、相手はどう見ても少年だが、何処か雰囲気がおかしく、更には刃物を持ってい
る。
 となれば、当然逃げるのが常識であろう。
 まして、相手を挑発するなど、とても正気とは思えない。
 こう思うのではないだろうか?
 だが、サラはいわゆる普通の女性ではなかった。
「こねーなら、こっちからいくぜ!?」
 そう言うが速いか、サラは今まで日本刀に絡め引っ張っていた鞭を解き、一瞬で手元に
戻すと、少年に向かって駆け出した。
 それは、明らかに普通の女性の出せる速さではない。
 まるで、風の如く一瞬でサラは少年との距離を詰める。
「もらった! こいつで終わらせてやるぜッ」
 サラは、今から放つ攻撃が必ず少年に決まると確信していた。
 実際、このまま行っていればサラの攻撃は確実に少年に決まっていた事だろう。
 だが。
「ガぁっ!」
 一声、まるで叫ぶかのように言い、少年が手にした日本刀をアスファルトの覆う地面に
突き立てると、アスファルトを突き破りいきなり大量の”泥“が噴出し、少年とサラの間
を遮る壁のように立ちはだかった。
「――なんだと?! う、わわっ!?」
 サラはいきなりの事に驚きながらも、常人なら確実にこのまま泥の壁に激突するところ
を、近くの街灯に鞭を巻き付け自身の勢いを殺し、そして直ぐさま後方へ跳躍する事で身
体に来る反動を消す。
 そしてそのまま跳ぶ勢いに任せ、少年との距離を置く。
 まさに、驚くべき運動能力であった。
「まさか、魔法か?!」
 着地すると同時に油断なく構え直すと、今までと異なる顔つきで、サラは少年のいる方
だけでなく、周囲にも気を配る。
(あの泥が出るのを止めたとき、しかけて来るッ!)
 だが。
「……ん? もしかして……逃げられたってのか?」
 泥の噴出が終わるとそこには、予想に反して誰もおらず、ただアスファルトが砕け噴出
した泥が広がる地面を、街灯が照らすのみであった。
「くそッ! このサラ様とあろうものが――まさか、由美子を?!」
 悪態を付くのもそこそこに、サラの頭に最悪の光景が浮かぶ。
「サラさん! 無事!?」
 が。
「……由美子?」
 その時息を切らせながら、その由美子が戻って来たのだった。





>5月21日。
 午後11時47分。
 隆山町内。


                                  気弱な少年。

「痛ぇ、痛ぇよぅ……」
「勘弁してください、勘弁してください……」
「ゆ、許して……」
 気が付くと、そこはまた一面の紅(あか)だった。
 鮮やかに広がる赤色。
 人から流れる、赤い色。
 それは、血の紅。
 人間から流れ出る、赤い血。
「――??!!」
 気弱な少年は、その事に気が付くと声にならない叫びを上げて、そして夜の街中を走り
出す。
 何処かへと。
 ここでない何処かへと。
 気弱な少年は、ただただ怖くて走り出した。





>5月22日。
 午前7時27分。
 試立Leaf学園第二購買部部室。


                                    beaker。

「……結構、大事になってしまいましたね、これは」
 Leaf学園第二購買部の一室で、手にした新聞の記事を読み、beakerは呟いた。
「何か言った? beaker」
「いえ、何も。あぁ、そうだ。今日もちょっと出てきますんで、店番よろしくお願いしま
す」
 beakerの傍らにいた好恵に何気ない口調で声を掛ける。
「ま、またぁ?!」
 だが、beakerが予想した通り、好恵の反応は良いとは言えなかった。
 どうやら、前回の店番で相当懲りたらしい。
「そこを何とか、お願いしますよ」
 beakerはそっと手を取り、そして真剣な眼差しで好恵の瞳を見つめながら言う。
「な、何よ?! きゅ、急にこんな事されても、だ、騙されないわよ!」
 そう答えながらも、明らかに好恵は動揺してしまっていた。
 そして思わず、赤らんだ頬を隠すかのように、そっぽを向いてしまう。
「じゃあ、頼みましたよ、好恵さん」
「――えっ?」
 聞こえて来るbeakerの声が、少し離れた所から聞こえて来る事に訝しく思い、好恵が視
線を戻すと、
「あっ、お土産買って来ますんで、期待しててください」
 丁度、beakerが扉を潜り出て行くところであった。
「ちょッ! ……もう! 帰ってきたら酷いからッ」
 憤慨する好恵だけが取り残された第二購買部では、beakerが読んだ状態のまま新聞が広
げられており、そしてその紙面には、連続障害事件の記事が載っていた。
(まったく……じいさんも、厄介な事を持ってくるもんだ。好恵さん、怒ってるだろうな。
……どうしよ?)
 beakerはそんな事を考えながら、祖父に頼まれた用事を片付ける為に、足早に廊下を進
んで行った。





>5月22日。
 午後12時50分。
 試立Leaf学園リネット棟一年生教室。


                                  姫川 琴音。

「んだよ、アイツ今日来てねーのかよ。パン買いにいかせようとしたのによぉ」
「アイツ来てないと、不便だよな〜」
「そーそー。あいつ、パシリにちょーどイイしよ」
 そんな事を言い合い笑うクラスメイトの姿を見て、ほっそりとした体型に薄紫色の長髪
の少女――姫川琴音は、ふと少し前の自分を思い出した。
 この学園では、普通と違う人間はある意味、普通の人間であった。
 この学園での普通ではない人間”達“は、常日頃から各々の持つ不思議な力を当然のよ
うに使っている。
 だからなのか、この学園では普通の人間は持たない筈の力と言うものが、ほぼ毎日見ら
れる事によって、学園に通う人間の大半が力に慣れてしまっていた。
 結果として、普通でない筈の力も日常(ふつう)になってしまい、そしてその事実を知
り、力を持つ人間が学園へと集まるようになり……今の学園のように、力を持つもの達が
多く通うと言う、異様な事態へとなっていた。
 そして、琴音もそんな中の一人であり、少し前までは、孤独だった。
 それと言うのも、琴音の力が問題だったからだ。
 力を持つ事は、この学園では特に問題とはされない。
 だが、琴音の力――本当の力は、まったく別の力だったのだが――は、不幸を予知する
と言うものだった。
 始めは不幸を言い当て、その不幸を回避させた事によって皆から慕われた。
 だが、段々と気味悪がられ、一人また一人と離れて行った。
 気が付けば琴音の周りには誰もいなくなり、そして近寄ろうとする人間も、いなくなっ
ていたのである。
 もっとも、その後色々あって力が予知ではなく、念動力だった事が判明し、それなりに
友人もできたが。
 だからなのか琴音は、少年達を見てそんな頃の自分を、ふと思い返したのだった。
 そして、その少年達の言う少年を思い出す。
(……今度、声をかけてみよう)
 琴音は、そんな事を思い、主(あるじ)のいない寂し気な席を見つめた。