>5月22日。 午後7時9分。 隆山市丸山公園園内。 ???? 『それ』が、その事に気が付いたのは、つい先程の事だった。 おぉ、嬉や自由に動く。 おぉ、嬉や邪魔されぬ。 それは、それの操る者に今まで何度も邪魔されていた。 獲物に止めを刺そうとした時。 目の前に獲物がいた時。 それは、己の欲求を満たそうとした。 だが、何度も何度も邪魔された。 自分が操る者以外にも、邪魔された。 しかし、一番邪魔したのは、自分が操る者だった。 そして、何度も自分を押し込めた。 弱い癖に、何度も何度も押し込めた。 操る者は、何度も勝手に行動した。 弱い癖に。 弱い癖に、自分の支配を逃れてだ。 あぁ、悔しや弱い癖に。 あぁ、恨めしや弱い癖に。 その時の事を考えると、そんな感情が、渦を巻く。 ぐるぐると。 己の中で、ぐるぐると暗く深い渦を巻く。 だが、それもたった今終わった。 もう、自分は押し返される事はない。 もう、この身体が逆らう事はない。 後は、ただ己の欲を満たすだけ。 後は、ただ獲物を狩ってゆくだけ。 おぉ、嬉や自由に動く。 おぉ、嬉や邪魔されぬ。 さぁ、狩ろうぞ弱き者を。 さぁ、喰らおうぞ弱き心を。 さぁ、啜(すす)ろうぞ弱き者の血を。 さあっ! 「見つけたぞ!」 ……邪魔が来た? >5月22日。 午後7時11分。 隆山市丸山公園園内。 きたみちもどる。 「見つけたぞ!」 そう勇ましく言い、眼鏡を掛け、長めの髪を後ろで縛った黒い学生服の少年――きたみ ちもどるは、手にした逆刃の刀を右に構えた。 「君を、これ以上野放しにはできない……少し、お仕置きさせてもらう!」 その刹那。 ビュオォ――。 風を切り裂くように、もどるが翔(と)んだ。 そして、その事に相手の少年が気が付いたのは、手にある黒い刃で、 「はぁッ!」 ガキイュィ! もどるの気合の声と共に、上空より振り下ろされた逆刃を、激しい金属音と共に辛うじ て受け止めた時であった。 「今のを止めたか。……やはり、君を野放しにはできない。次で決めさせてもらうッ!」 油断なく着地し、もどるは次なる技を繰り出すべく、構えに入る。 そして、一歩を踏み込んだその時。 ザクッ。 少年が黒い刃を地面に突き立てた。 すると、刃を突き立て場所から、外灯に照らされた地面の色が見る間に変色し、何か液 体らしきものが地面に染み込んで行くのが判った。 「何だ? ……これは――!」 もどるが怪訝として見ていると、やがて地面から次々と泥の塊が盛り上がり、それが次 々と人型を取り始める。 そして、それは完全に人の形になると、まるで導かれるように一斉にもどるに襲い掛か って来た。 「ふ……ッ!」 ズバッ。 力強く息を吐き出しながら、もどるは冷静に手短な泥人形の胴に逆刃を打ち込んだ。 すると、拍子抜けするぐらい簡単に、もどるの一撃は泥人形を半分に両断する。 「弱い? これなら!」 もどるは、泥人形があまり強くは無いと判断すると、一気に倒す事にした。 「はぁぁぁあぁあッ!」 ブュュン……。 そう叫ぶと共に、もどるは身体をその場で素早く回転させ、同時に逆刃を振るう。 ズバッ、ズビュッ、ズブゥ……。 まるで、独楽か何かのような速さでもどるが回転する度に、襲い掛かった泥人形達が次 々と両断され、吹き飛ばされて行く。 やがて、もどるが回転を止めるとそこには、斬られ地面に転がる泥人形の破片と、そし て黒い刃を持つ少年だけが残された。 「後は、君だけだ。さぁ、どうする!?」 そう言い放ち、眼前の少年に逆刃を付き付ける。 この時のもどるは、自分の勝ちを確信していた。 眼前の少年が繰り出した泥人形は、恐らく逃走までの時間稼ぎと言ったところだったの だろう。 しかし、それはもどるが一蹴してしまった。 これで、少年は完全に逃げる機会を失ってしまったのは、間違い無い。 何故なら、もどるに少年を逃すつもりは無いし、まして逃げられる事も無いからだ。 これは、もどるが先程少年と撃ち合って得た、確信であった。 自分は、あの少年よりも強い。 そして、自分は逃がす隙を見せはしないと。 そう、もどるは確信していたのである。 だが、その確信はある意味では慢心であった。 何故なら、もどるは完全に見落としていたからだ。 だからこそ、もどるは背後からの一撃を防ぎ損ねてしまったのだった。 ゴスッ。 「これで、靜(しずか)も安心して――なッ! ……に……?」 それは、いきなりの衝撃だった。 気配も殺気も感じさせず、その一撃はもどるの後頭部を襲った。 衝撃で脳が揺れもどるは、無様に地面へと倒れ込む。 剣士としての勘のお蔭か、一撃で気絶と言う致命傷は避けられたが、元々打たれ弱い事 もあり、視界が歪み感覚が揺れ、地面に倒れた事も一瞬気が付かず、どうやら直ぐに起き 上がれそうも無い。 戦いにおいて、これは敗北を意味していた。 「な……に……? 何故……」 どうにか起き上がろうともがく視界の中に、先程倒した筈の泥人形の姿が映る。 それは、一体だけでは無かった。 もどるが倒した筈の全てが、次々と起き上がって来ている。 やがて公園には、もどるが倒れている事以外、少し前と変わらぬ光景が広がった。 「くっ、ふふゃふぁやはははははっ!」 今まで無言だった少年が、その時高らかに笑い出した。 何処か、ずれた感じのする、だが聞くものを不安とそして不快にする笑い声が、夜の公 園に木霊する。 そして、その笑いに呼応するかの如く一斉に泥人形が、起き上がろうとするもどるに群 がり、蹴る殴るを繰り返す。 ゴスッ、ドスッ、ガスッ……。 「ぐっ! がッ、はぐッ……!」 泥人形は、淡々と同じ動作を繰り返し、ただ同じ調子でもどるを蹴り殴り続ける。 もどるは意識がはっきりとしないせいもあり、泥人形達の繰り出す足や腕を避ける事も できず、次々と身体に受け、うめく事しかできない。 (そうか……泥人形だから、気配も無ければ殺気も無い。そして、その泥人形を生み出し た存在は健在なのだから、バラバラにしたところで、再生しても不思議じゃない……か) 油断と言えば、それまでだろう。 だが、その油断が戦闘においてどう言う意味を持つか、もどるは熟知しているつもりで あった。 そして、その結果が今のこの状況である。 (あぁ……そう言えば、靜はちゃんと留守番してるかな。……僕がこのまま帰らなかった ら、やっぱり、泣くんだろうか?) 途切れ掛ける意識の中で、もどるは一人の少女の事を脳裏に想い描いた。 その少女は、短く揃えた黒髪に着物姿のまるで、日本人形を想わせる少女だった。 そして、もどるはその時、 「父上、はやく帰ってきてね。やくそくだよ」 靜の笑みと共に出掛けに交わした約束を思い出した。 常日頃から、自分は靜に何と言っていた? 「いいかい、靜。約束したら、きちんと守らないといけないよ?」 そうだ。 約束は……守らねばならない。 (約束……したじゃないか。靜と……僕は、約束したじゃないかッ!) では、どうすれば良い? (決まっている。こいつらを……片付けるッ!) では、身体は動くのか? (動く。いや……動いて見せるッ!) では、刀は持っているか? (あぁ……当たり前だ。あれは、僕の信念だッ!) ならば。 「ならばッ! 実行あるのみッ!!」 その瞬間、正に神速とも言うべき速さで振るわれた逆刃が、全ての泥人形を吹き飛ばし た。 「悪いが……もう、終わりにさせてもらうぞ。靜が待っているんだッ!」 今度こそ、微塵の油断も無く、立ち上がったもどるは、逆刃を少年に向け構え直す。 「ぐぅうううううううううううぅうううッ!!!!」 今までと明らかに違い、焦りと憎悪を込めた視線でもどるを睨み付けながら、少年が吠 えた。 そして、それに釣られるように急速に泥人形が再生して行く。 「さぁ! 来いッ!!」 「がぁぁあああッ!!」 もどるの叫びと、少年の咆哮がほぼ同時に放たれ、そして決戦が始まる――。 「ちょぉーーーーーーーっと、待ったッ!!!!」 ――のは、もう少し後のようだ。 >5月22日。 午後7時21分。 隆山市丸山公園園内。 エリア・ノース。 「ちょぉーーーーーーっと、待ったッ!!!!」 あわやと言うところで、現れたのはティリア、サラ、beaker、そして、柔かな感じのす る金色の髪を短髪にしヘアバンドをした少女――エリア・ノースであった。 「勇者様御一行、とおまけの一名参上ッ!」 「あの〜……おまけって、僕ですか?」 「そりゃ、そーだろ?」 「ははぁ、あれが例のカタナ、ですか」 四人は、登場するや口々に勝手な事を言い合いながら、まるで緊張感の無い様子だった。 「……ぼ、僕のシリアスは何処に……?」 あまりの登場に、もどるも少年もそして泥人形までもが、ただ呆然と四人を見つめてし まっていた。 「そこのあなた、覚悟してもらうわッ!」 「もう逃がさねぇからな、おとなしくしなッ!」 「あっ、きたみちさん、大丈夫ですか? いやぁ〜結構やられましたねぇ」 「あの、良かったら回復魔法かけましょうか?」 強引に己の土俵に持って行くその姿は、確かに勇者と言えるだろう。 ティリアは手にした両刃の剣を。 サラは鞭を。 beakerは黄金の二丁拳銃を。 そして、エリアは緑色の球の付いた杖を構える。 その瞬間、一転して四人の表情がはっきりと変わった。 「エリア、援護よろしく! あっ、beakerは適当にね。サラ、行くわよッ!」 ティリアの言葉に、皆が一斉に動き出す。 「まかせなッて、ティリア」 サラは、ティリアと共に、近くの泥人形に向かう。 「えぇ〜っと……んじゃあ、まぁ適当に」 beakerは、手にした黄金の二丁拳銃でティリア達の向かったのとは反対方向の泥人形を。 「はい。まずは……優しき生命の輝きよ、その輝きの一欠片を、かの者に与えよ! ヒー ラ!」 エリアは、傷付いたもどるに向かって杖を向け何事かを唱える。 すると、柔らかく暖かい光がもどるに降り注ぎ、まるで消えてゆく光がもどるの傷を持 ち去ったかのように、光が止むともどるの身体は元通りになっていた。 「これが……魔法の力……。ありがとうございます」 「いえいえ。それより、来ましたよ?」 魔法の力に軽い感動を覚えながら礼を言うもどるに、エリアは笑顔で答え、だが直ぐに 真剣な表情になると、敵の接近を告げた。 「今度は、負けないッ!」 もどるは、近づく泥人形を逆刃の一振りで斬り飛ばすと、少年に向かって駆け出す。 エリアは、ティリアやサラ、そして武器をショットガンに換え、撃ち放つbeakerと合流 したもどるが泥人形を斬り、打ち飛ばす様子をじっと観察してみた。 (しかし……時間稼ぎにしても、何故こんなに弱いんでしょう? あのカタナは、結構強 いパワーがあるみたいなのに……) そう思い、もどるに斬り伏せられた泥人形を良く調べようとして手を伸ばし、その手を 驚きと共に止めた。 「もう、再生してる?! ……風よ、悠久の流れを行く風よ、今ひととき我が刃となりて 吹きすさべ! ウィンド!」 ビュゥ……ズババッ! エリアの声に応え、瞬時に巻き起こった真空の刃が連なり、眼前の泥人形を細々に切り 裂く。 (泥だから、地面からパーツを補充した? いえ、そんな素振りは……そう言えば、なぜ ”泥“なんでしょう? それに、数が増えたわけでも……あっ!) その時、エリアの頭に閃くものがあった。 エリアは自分の仮説を裏付けする為に、目の前の泥人形に集中し、より詳しく魔力を探 知した。 すると、エリアの予想通りに、結果は現れる。 「……やっぱり!」 目の前の泥人形から、全身に点の状態に広がり魔力が感じ取れたのだ。 「みなさん! そのゴーレムの本体は、土に含まれてる水分の方です!」 そう叫びながら、エリアは成る程と、思っていた。 何故、魔の物であるのにティリアの持つ魔を払う神の剣――フィルスソードで斬り裂い ても、サラやもどると同じように直ぐ様再生してくるのか? と思っていたが、確かにこ こまで分散し、本体と呼べるモノが小さければ、いくらフィルスソードと言えど、せいぜ い数滴の本体にしか届いていないだろう。 そして、この泥人形達の役割とは、壁であろうと予測される。 しかも、いくら斬り裂こうが直ぐに再生してくる、とても柔らかく強固な。 だが。 「タネがわかかれば、こっちのものよ!」 そう、仕掛が解かれば後は、 「反撃、開始です」 である。 >5月22日。 午後7時41分。 隆山市丸山公園園内。 気弱な少年。 気が付くと、少年は目覚めていた。 いや、正確には違うのかも知れない。 しかし、少年の意識がはっきりとしている事は事実だった。 だが、少年の身体は何一つ自由にはならなかった。 自分の身体であるのに、だ。 少年は、数度身体を動かそうと思ったが、無理な事が解かると諦めた気持ちで、改めて 現状を見てみる事にした。 「エリア、ハデにいくよ!」 「サラさん、派手にし過ぎないでくださいね?」 鞭を持つ長髪の女性と、杖を持つ短髪の少女が、そんな事を言い合いながら、何かに集 中している。 その間も、多数の泥の人形が2人に襲い掛かろうとしているようだったが、お下げ髪の 女性が振るう両刃の剣や、逆刃の刀を振るう少年、そして銃を撃ち放つ少年達によって、 近づく事ができないでいるらしい。 そして、その事に対して今現在少年を動かしてる何か意思のようなものは、酷く焦って いるようだった。 やがて、その意思の足掻きも虚しく――そう、その意思は文字通りに足掻いていた。 何かから逃れようと。 何かを満たそうと。 だが、そんな足掻きも虚しく、 「太陽さえ凍てつく永久凍土の女王よ、かの者達に汝の寵愛を――」 「嵐よ、荒れ狂う破壊の嵐よ、刃の渦となり、立ちふさがる全てを斬り刻め――」 「「――最小の力にて、コルドウィルド!」」 その言葉と共に長髪の女性と、短髪の少女を中心に、力ある何かが解き放たれる。 その力は、荒れ狂う氷の息吹となって、辺りを瞬時に包み込む。 そして数秒後、辺りには出来の悪い氷の彫像と化した泥人形達の姿があった。 「サラ、エリア、うまく行ったわね。さあ、残るはあなただけよ!」 お下げ髪の女性の言葉の通り、あれだけ多くいた筈の泥人形は全て凍りついており、い くら少年を動かす意思が操ろうとしても、泥人形が動く気配はまるでない。 だが、明らかに窮地に追い込まれたと見えるのに、少年の中の意思はまだ諦めてはいな かった。 「あぁアぁァぁぁぁあアアああアああああァあああぁああぁぁあぁあアっ!!!!」 力の限りに叫ぶと、地面に刺した黒い刀身から大量の黒い水が溢れ、そして染み込み出 す。 染みは、ある程度まで広がると、そこより大きな泥の柱を噴出し、見る間にそれは巨大 な泥人形へと姿を変貌させた。 「数でダメなら、今度はこれですか……しかし、大きいですねぇ〜」 「いや、beakerくん。大きさよりも、斬っても直ぐに再生するあの身体がやっかいだ」 拳銃の少年と逆刃の少年が言い合うのが見える。 だが、それが何処かおかしい。 どうも見え方に違和感を感じる。 少年はしばらく考えて、そして気が付いた。 あぁ。ぼくは今この泥人形の中にいるのか。 「ヴォォォヴォアァアァァアアアアぁ!」 泥の巨人が、その大きな腕を咆哮と共に少年達目掛け振り下ろす。 ガゴォン! 泥の巨人の一撃で、地面が陥没し、辺りに土煙が上がる。 だが、その強大な一撃も、当たらなければ意味は無い。 ゆっくりと引き上げるその腕の下には、誰の姿も無かった。 「トロい上に、動作がでかいんだよ! そんなんじゃあ、あたし達にゃ、当てれないよ!」 長髪の女性が言う通り、その後何度も腕を振り、振り落とそうとも、泥の巨人は地面を 陥没させる事しかできなかった。 しかし、泥の巨人の方も斬られ、打たれ、焼かれ、撃たれても直ぐに再生し、戦いは膠 着状態へと――いや、いかに避け易いとは言え泥の巨人の一撃は威力がある。 こちらは、相手の攻撃を避けなくても良いが、相手は避けなければならない。 この差は大きく、そして次第にその差が現れだした。 「ティリアさん、このままでは!」 杖の少女の言葉に、やがて両刃の剣の女性が泥の巨人から、大きく離れ足を止めた。 「ゴォォガァオァッォオオオォオア!!」 ここぞとばかりに、泥の巨人が咆哮し、走り寄る。 だが、両刃の剣の女性はそれが見えてないかのように、何かに集中しているようだった。 やがて、泥の巨人が腕を振り下ろせば当たる位置まで来たその時。 それは、完成した。 「開け異界の門! 無限の輝きに満ちし世界より、すべてを焼き尽くす浄化の光を招かん!」 そして、その言葉と共に、 「シャインクルス!」 光が全てを覆い隠した。 >5月22日。 午後7時59分。 隆山市丸山公園園内。 長瀬 祐介。 光が収まると、そこは暗闇だった。 前に一度来た時と、そこは同じ感じだった。 いや、違う。 直ぐに、祐介は思った。 月島さんの中は、こんな感じだったけど、でも違う。 ここは、あの時よりも圧迫するような静かさがあるし、それに――。 そこまで考えた時だった。 目の前に、ここの主(あるじ)とも言うべき人物の姿が見えた。 「何してるんだい?」 祐介は、取りあえず声を掛けてみた。 「……テレビ、みてるんだ」 「テレビ?」 膝を抱え、そう言う7歳くらいの少年の目の前に、確かにテレビモニターが置いてある。 「一緒に、見てもいいかな?」 「……うん」 祐介の言葉に、やや間を置いてから少年は頷いて答えた。 そのテレビの中では、”外“の光景が映し出されていた。 「あれ? なにか画面が安定しないね。壊れてるのかな?」 「……うんん。もう、ふらふらなんだ。あのおねーちゃんに、いたい事されたから」 少年の言葉に、祐介は成る程と思った。 確かに、祐介が丁度ここに来る時、ほぼ同時に大きな光が放たれていた。 多分、それで大きく弱っているのだろう。 そして、その御蔭でこうして簡単に少年に会えたのだろうとも祐介は思った。 「もう、いい加減にしなさい! 貴方に逃げ道はないわよ!」 ふらふらに成りながらも、尚も出鱈目に黒刃を振り回し、公園から逃げようとするが、 直ぐに回り込まれてしまう。 しかし、それでも諦めずに違う方向へとよろよろと歩き出す。 「……さっきから、ずっとこうしてるんだ」 「そうなの?」 「うん。もう、あきらめちゃえばいいのに。……強いやつには、どうやったってさからえ ないんだ」 「君は、そう思うの?」 「だって、そうじゃないか!」 その時、始めて祐介の方を少年が見た。 「どうして、そう思うの?」 「だって、わかるじゃないか! お兄ちゃんには、わからないよ! いじめられてないか ら、そんなこといえるんだ!! 強いやつには、さからえないって、力があるやつには!!」 涙を浮かべながら叫ぶ少年に、やや間を空けて、 「僕は……僕は、力を持ってる事が、強さじゃないと思う」 と、静かに言った。 「力があるてっことは、強いってことじゃないか!」 「そうかな? 僕は知ってるよ。その人は、とても大きな力を持っていた。君の言う”力“ をね。でも……その人は、とても弱かった。弱かったんだ」 祐介の言葉に、少年はとても不思議そうな顔をしていた。 良く理解できないと言う、そんな顔だ。 「どう言う事だと思う?」 祐介は、そんな少年に尋ねた。 「……わかんない、わかんないよ! 力と強さってちがうの?? 力がなかったから、ぼ くはいじめられてたんじゃないか!!」 「僕は、虐められた事がないからこうだ、って事は言えない。でも強さってなんなのかは 少しだけ、解かるつもりだ」 「じゃあ、教えてよ! 強さって、なに? なんなの!?」 「……僕もね、昔は――と言っても、ほんの少し前なんだけど、僕も弱かったんだ」 「え……?」 少年は面喰っていた。 祐介が言う事が、自分の思うものと違ったから。 だが……不思議と少年は祐介の言葉をそのまま聞いていた。 「その頃の僕には、色がなかった」 「色?」 「そう。自分の周りが全部、白黒の無声映画のように見えたんだ。周りの事全てをくだら ないと思い込んで、何も見ようとも聞こうともしなかった。でも、こう思うのは特別じゃ ないって、言ってくれた。これじゃ駄目だって、気付かせてくれた。世界には、色も音も あるんだって教えてくれた。そして……今のままだとどうなるかを、教えてくれた。皆が そう、僕に教えてくれたんだ。だから、僕は少しだけど強くなれた」 「それが……強さなの?」 「そうだと、僕は思ってる」 「そんなの、そんなのどこが強さなのさ!」 「強さって言うのは、きっと心の強さの事を言うと思うんだ」 「こころ?」 「そう。どんなに強い力だって、心が弱ければそれは強い事にはならない。そう、僕は思 う」 「……だったら、ぼくはだめだよ。だって……」 「大丈夫」 「えっ?」 「きっと、大丈夫だよ。だって、君はずっと戦ってきたじゃないか」 「……たたかった? ぼく……が?」 「うん。君に取り憑いてる奴と、君はずっと戦ってたじゃないか」 「でも……」 「大丈夫。今なら僕も手伝える。それに、だいぶ弱ってきてる。だから今、君が追い出す んだ。君の中から」 「ぼくが……ぼくが?」 「そう。君が」 祐介の言葉に少年は、泣きそうになった。 だが、それでも少年は、 「……うん。やってみる」 そう、祐介に答えたのだった。 「でも、どうするの?」 「簡単だよ。ここから、出て行け! って、思うんだ。思いっきりね」 「それだけで……いいの?」 「そう。それだけ。いいかい? 行くよ! 他の事は考えずに、いいね? せーの……」 ((ここから、でていけ!!)) その瞬間、少年は自分の中から確かに、何かの意思が出て行くのを感じた。 >5月22日。 午後8時1分。 隆山市丸山公園園内。 ????。 おのれ、おのれ!! 弱い癖に、弱い癖に追い出すのか?! あぁ、力が抜けて行く。 嫌だ。 嫌だ。 死ぬのは嫌だ。 消えるのは嫌だ。 暗いのも、辛いのも、苦しいのも嫌だ。 あぁ、乾く。 乾いてゆくゥゥウウウウ!! 弱い癖に、おのれ、弱い癖にィ!!!! 「はぁぁあああああああぁ! フィルスソード、閃光斬り!!」 パキッィン。 その時。 魔を払う神の刃が、黒い刀身をその怨念共々断ち斬った。