Lメモ私的外伝「我が娘に捧げる子守歌」ー伍の章ー 投稿者:きたみちもどる
闇。
漆黒の闇。
何もかもが見えなく、黒く覆い隠す世界。
人知れぬ場所にある世界。
何人もの存在がない世界。

だが、確かに「それ」はいた。
いや、「それ」ではない。
「それら」だ・・・。
「それら」は、その闇の中から染み出るように出てきた。
否、始めからここにいたのだ。
しばしの静寂・・・・・。
「それら」は物音や息もたてずにそこに立ちつくす。
まるで、死人の如く・・・・・。

やがて、誰かが口を開く。
「時は来た。今こそ我らの悲願を成就するとき」
重苦しくそれでいて威厳に満ちた声。
「今こそ我らの手に取り戻す」
抑揚のない声。
「我らの力を」
荒々しい声。
「我らの主を」
陰険そうな声。
「我らの『姉』を」
生真面目そうな声。
「我らの『姉』の真の姿を」
実直そうな声。
やがて、それらの声が一斉に唱和する。
「「「「「「我らのこの手で!」」」」」」
そして、一斉に気配を断つ。
まるで始めからそこに誰もいなかったかのように・・・・・。



「えいっ!」
かこん
「えいっ!!」
かこん
「え〜いっ!!!」
かこ〜ん
木々の間から朝の爽やかで眩しい光りが、木洩れ日となってこの場にいる二人を
照らし出す。
その木洩れ日を受けて、可愛らしいかけ声と共に、手にした小さな木刀を振る幼女。
その打ち込みを手にした木刀で受け止める青年。
「よ〜し、今日はここまで」
青年が、幼女にそう告げる。
その声と同時に幼女は、ふぅーとため息を一つもらし地面に腰を落とす。
「おつかれさま・・・・・、靜」
青年は優しい笑みを一つ幼女=靜に向ける。
「うん、ありがとう、父上」
にぱりんと、これまた極上の笑みを父上と呼ばれる青年=きたみちもどるに向ける。
その笑みを受けてもどるは微笑ましい物を感じ、さらに笑みを自らの娘に向ける。
靜もその笑みを受けてますます、にぱりんとした笑みを自分の父上に向ける。
さらに、靜に微笑み返すもどる。
負けじともどるに微笑み返す靜。
やがて二人ともどちらからともなく、声をあげて笑い出した。

「ねえねえ、父上?」
真っ白で太陽のにおいをたっぷり吸い込んだタオルで、自らの汗を拭きながら靜は
隣に腰掛けている自分の父上に話しかける。
「ん?どうかしたのかい、靜?」
もどるの方も、タオルで自らの汗を拭いながら靜に話しかける。
「お顔の方・・・・・大丈夫なの?」
すごく心配そうな声で靜は、もどるにたずねる。
よく見れば、もどるの顔には拳で殴られた痕があちらこちらにあった。
「ああ、別にこれぐらいどうでもないよ。回復力強いしね」
殴られた痕をさすりながら苦笑混じりに娘に答える。
「けどけど、昨日は本当にびっくりしたんだよ?いきなりぼろぼろの状態で戻って
きたりしたから・・・」
目の端に涙を溜ながら、靜はもどるに詰め寄るようにしてそういった。
「ああ、心配かけてごめんよ。本当にもう大丈夫だから、ね?もう泣かないで」
そう言って宥めるように、ぽんっと手を靜の頭に乗せ、もう片方の手で涙を拭ってやる。
「でも、でもぉ〜・・・」
その効果もなく、ますます泣く一方だった。
(・・・・・今日はやけに泣き止みませんね・・・・・)
そう思いながらも、靜が泣き止むまでしっかりと胸に抱きしめるのであった。


「・・・・ねえ、父上?」
すっかり泣き止んでるが、まだ目の周りを赤く腫らしながら靜はもどるに尋ねる。
「なんだい?靜」
胸の中で、靜をあやしながらそう問い返す。
「父上は、なんで闘っているの?」
胸の中からひょこっと顔を出しながらそういった。
「う〜ん・・・、しいて言えば、この目に止まる人達を護る為かな?」
暫く考えながらもどるはそう答えた。
「けど、一体何のために?」
本当に解らないと言うような顔で靜は言う。
「う〜ん・・・・・、もし靜は目の前で子犬さんが虐められていたとしたらどうする?」
優しい口調で逆に靜に尋ね返す。
「え〜と、えと・・・子犬さんを虐めないでって子犬さんを庇うの」
暫く思い悩んでそう正直に答える。
「そうでしょ?そういう行動に出るでしょ。そういう気持ちが常にあるから僕は闘って
いるんだよ」
諭すようにそう靜にそう言った。
「?」
靜はきょとんとした顔でもどるの顔を見つめる。
そんな靜をちらっと見やり続けて
「靜も、これだけは覚えていて欲しいんだ。人は『力』を手に入れた時、その『力』を
使おうとするけど、その『力』を丸腰の人に使ったり、その『力』でなんでも解決しよう
とするのだけは、絶対にしちゃいけないよ」
と言った。
その表情には、苦々しいものが含まれていた。
だが靜は、それには気付かずに、その言葉を聞いてますますきょとんとする。
「ああ、悪いね・・・。解りやすく言うと『力』を手に入れたらその『力』に
振り回されちゃだめだよ。」
「どうすればいいの?」
靜はそう尋ねた。
「え〜と、それは・・・・・」
「それは?」
目をキラキラさせながら靜。
「『自分の一番大事な人を護りたい』という気持ちがあればいいんだよ。その気持ちさえ
常にあれば、『力』に振り回されることはないよ」
「『一番大事な人』?」
靜がそう問いかける。
「うん、靜が一番好きな人を護りたい気持ちがあればいいんだよ。わかるかな?」
笑みを浮かべてもどるはそう言った。
「うん、わかったよ♪」
靜は満面に笑みを浮かべて、にぱりんと笑う。
「だったら、靜はいつでも父上を護りたいと思ってればいいんだね♪」
その靜の言葉に苦笑を浮かべつつ
「ありがとうね、靜」
と言って、もどるは靜の体を抱きしめてやった。



同時刻、第二購買部。

「・・・・・って、いててててててて、もっと優しくして下さいよ・・・沙耶香」
顔面のあっちこっちを腫らしたbeakerがそう喚く。
「はいはい、兄様」
くすっと笑いながらbeakerの顔の傷に薬を塗っていく沙耶香。
「しかし、一体どうしたんだい?昨日きたみち先輩となにやら言い合ってたみたいだけど?」
朝練帰りの坂下好恵がbeakerにそう聞く。
「いえ、なんにもありませんでしたよ、好恵さん」
そうにこやかに答えるbeakerだったが、心の中では別なことを思っていた。
(ああまでして、一体何を隠してるんですかね。ますます興味が引かれてきますよ・・・」



同時刻、科学部。

「ふん、随分と派手にやられたみたいだな・・・」
柳川が『道具』を持ちながら手術台に横たわるジンに語りかける。
「おかげで、買い置きのパーツが底をついた・・・。」
愚痴ともとれる言葉をジンに向ける。
「仕方ねぇだろ?電撃系に弱いんだぜ、オレ?」
ジンが肩をすくめて言う。
「しかし、かなりの使い手だったぜ、あの男・・・」
「だろうな・・・おかげで重要な部品がほとんどショートしてしまっている。」
「それに・・・」
「それに・・・なんだ?」
「いや、なんでもねぇ・・・・・」
「なんだ?いきなり・・・。変なヤツだな・・・」
慌てて言いつくろったジンを訝しそうな目で柳川は見る。
へへっと苦笑を浮かべつつ、ジンは心の中で
(それに・・・靜の・・・『あの力』は一体何なんだ・・・?)
と、思わずにはいられなかった。


同時刻、とある場所。

「どうやら、その『刻』が来たようだな・・・・・」
一寸先も見えない暗闇の中で、一人の男がそう呟く。
しばしの沈黙。
やがて男は、やおら嘆息をつき、口を開く。
「これから、あの少年が・・・『人』としていられるか『獣』に落ちるか・・・・・。
まさしく・・・運命の分かれ道だな・・・・・」
そういって、口元で組んでいた指をほどき、椅子に落としていたその身をあげる。
「これまで育んできた『絆』が、正しく勝負の分かれ道。
貴女が、賭けたこの勝負・・・・・吉とでるか凶とでるか・・・・・
今がその時のようだ・・・・・」
まるで、遠いものを見るかのような視線と共にそう呟くと、その男は部屋を後にする。
ドアを開いたとき、僅かに光りが差す。
その光で照らし出されたその顔は、柏木賢治と呼ばれる男だった・・・・・。


再び、きたみち親娘。
彼らを遠くから見つめる『黒き影共』。
それらが一斉に動き出す。
「!!」
それと同時に、もどるの『鬼』が警告を発した。
もどるが身構えた瞬間、六つの『影共』が躍り出てきた。


「・・・・・いい加減、姿を現したらどうです?」
beakerが、柱の影に潜む者達に声をかける。
「やれやれ、どうやらバレバレだったようだな」
と言いながら、筋肉質の忍者装束の男が出てくる。
「だって、あっきーって、結構威圧感バリバリだもんね」
と笑いながら、一緒に出てきた少女がそう言う。
「これはこれは、秋山さんに、たけるさん、ようこそ第二購買部へ」
歓迎するかのように両手を広げて、beakerがそう言った。
「それで、例の件は調べがついたんですか?」
beakerが、そう秋山に尋ねる。
「ああ、そのことか・・・・・」
すると、彼には珍しく言いよどんだ。
「何があったんですか?」
「別にないって言えばないんだが・・・」
「一体どうしたんですか!!」
これまた珍しく、beakerが感情的になる。
「まぁ、そうムキになるなって。これをみてくれや・・・」
といって、秋山は懐から紙を取り出す。
beakerは、ひとまずそれを受け取ることにした。
「それを手にするのによ、結構苦労したんだぜ?
敵の攻撃は厳しいは、複雑なつくりだはで、そりゃもう大変だったんだぜ?」
秋山がやれやれといった表情でそうぼやく。
「その割には、結構嬉しそうだったね、あっきー?」
にこにこと、笑いながら川越たけるがそう言った。
紙を広げながら、その時のことを容易に想像できて、beakerは、
『犠牲』となった人達に哀れさを感じた。
そして、紙に目を落とす。
「!?」
beakerの顔に驚愕が走った。
それを黙って、見守る秋山と、たける。
「こ・・・これに書かれていることは・・・・本当ですか?」
ゆっくりと、顔を上げて二人の顔を見ながらbeakerが尋ねる。
紙を持つその手が微かに震えている。
二人は真剣な表情で頷く。
「こんな・・・こんなことって・・・・・」
beakerは、愕然とした顔になり、力無く椅子にもたれかかる。
「そこに書かれていることは、真実だ。
それこそが、あんたが知りたがっていた全ての事だ。」
そう呟く秋山の顔には少しばかりの非難が込められていた。
「だから・・・だから・・・彼は・・・」
「それよりも、どうやら、『お客さん』が来てるようだぜ?
彼の元によ・・・・・」
呆然としているbeakerに秋山が苦笑を浮かべて言った。


きたみち親娘を取り囲むように六つの影共が舞い降りる。
「一体何者ですか?あなた達は・・・・・?」
だが、影共はそれに答えずに身構えた。
もどるも、娘を庇うように彼らに相対する。
その瞬間、細かい礫が、もどるに襲いかかった。
「!?」
声にならない叫びをあげて、もどるが、蹌踉めく。
「ちちうえっ!?」
靜が、もどるに寄り添う。
「我が名は、ライチョウ。命が惜しくば、素直にその娘を渡すのだ・・・」
礫を放ってきた、陰険そうな男がそういう。
「・・・!?ま・・・まさか・・・・・」
「それに答える義理はないな・・・」
ライチョウと名乗った男の隣にいた、生真面目そうな男がそう言う。
そして、それと同時に、袈裟斬りに手刀を振るう。
「ちっ!!・・・・・・・・・っ・・・・・・・」
咄嗟にかわそうとするが、先程の傷のせいで思うように身体が動かない。
「ほう・・・かわしたか・・・・だが、あまいっ!!」
その言葉と同時に、手刀の軌道上から血が吹きあがる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
あたりを血の海にしながら、もどるが、地に伏す。
「ちちうえっ!ちちうえっ!!」
靜が必死になって、もどるにすがりつく。
「さぁ、娘・・・そなたを縛るものは無くなった。我らと共に来るがよい・・・」
ライチョウがそう言いながら手を伸ばす。
だが、靜は、顔を伏したまま上げようとしない。
「さぁっ!!」
焦れた、ライチョウがさらに詰め寄る。
その時、一陣の風が吹いた。
それと同時に、靜が顔を上げる。
「!?」
影共の顔に驚愕が走った。
明らかに彼女の『貌』が変わったからだ・・・・。
その瞳に映るは、憎しみの炎。
風に煽られ髪が逆立つ。
それは、彼女の『力』が発動する前兆でもあった。
「お前達なんか・・・・お前達なんか消えちゃえぇ〜っ!!」
そういって、『力』を発動させようとする。
だが、
「悪いが、少しの間、眠ってもらうぞ・・・」
いつの間にか靜の後ろに移動したリーダー格の男が当て身を喰らわせる。
くぅっと微かなうめき声を上げて、靜が崩れる。
それを抱き留め、リーダー格の男が
「目的は達成された・・・・・。引き上げるぞ・・・・」
残りの影共にそう告げる。
そして、この場を去ろうとするが、
「ま・・・まて・・・・・」
手にした刀を杖代わりに、もどるが立ち上がってきた。
「貴様っ!!」
「まだっ!!」
いきり立つ影共を制して
「貴公・・・。その傷でまだやるつもりか?」
リーダーが問いかける。
「お・・・俺は・・・もう、大事な人を失うわけには行かない・・・」
傷を押さえながら、苦しい表情を見せながらもそうきっぱりと告げる。
「そうか・・・・・、ならば、丁重に相手をしよう」
その言葉と同時に、影共の中から一人が進み出てくる。
「我が名は、ギヘイ!!我が鉄拳、喰らうがよいっ!!」
そういって、唸りと共にその巨大な腕を振るう。
「がふっ!!」
まともに喰らい、吹っ飛ばされ、巨木をへし折りつつ地面に叩きつけられる。
それでも、かろうじて起きあがろうとするもどるを、さらなる攻撃が襲う。
「よくここまで、闘った。我がギケイの雷を受けて、眠るが良い・・・・」
抑揚のない声がしたかと思うと、もどるの身に雷が落ちる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ぶすぶすと、身を焦がすような匂いが辺り一面に漂う。
「とどめを、くれてやろう」
実直そうな男が、手を翳してそれを一気に振り下ろす。
其は、光の矢となって、もどるを穿つ。
「ぐはっ!!」
その攻撃を受けてもどるは、完全に沈黙した。
薄れゆく意識の中で、もどるは
(ま・・・また・・・俺は・・・大事な人を・・・護れなかったのか・・・。
また・・・・失うのか・・・・・)
そんなことを思いつつ、意識が闇の中に落ちていった・・・・・。
「よくぞ・・ここまで持ったな」
実直そうな男がそういうと、
「いや、まだだな・・・・」
リーダー格の男が頭を振った。
その言葉と同時に、もどるが再び立ち上がる。
「!?」
影共は一斉に目を見張った。
「こ・・・この男・・・、さっきまでと『氣』が違う・・・」
「どうやら、己の心に封じた『鬼』の血を目覚めさせたようだが・・・。
ギチュウ・・・この娘を頼む。」
リーダー格の男が、傍らにいた実直そうな男に靜を預ける。
そして、その目を『覚醒』したもどる=健(たける)に向ける。
「テメェら、・・・・まとめてぶっ殺してやるぜっ!!」
そういって、手にした刀=逆刃刀を返してリーダー格の男に斬りかかる。
目に見えぬ程の振り。
刹那の煌めきを残しつつ確実に、その男の脳天を捕らえている。
だが・・・・・・

がきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん

高い金属音があたりに響く。
「テ・・テメェ・・・俺の攻撃を・・・」
その男は、身に付けていた手甲で、健の攻撃を防いだのである。
なんの、前振りもみせずに・・・・・。
「ふっ!貴公のような『紛い物の鬼』が、我を殺れるとでも思ったか?
哀れだな・・・・」
「紛い物だとっ!!」
「ともかく、貴公はもう寝ろっ!!」
そういうと、男は、健の鳩尾に拳を叩き込む。
「ぐはぁっ!!」
あまりにも強力な一撃に、『鬼』と言えども、耐えられなかった。
再び、意識が、フェイドアウトする。
「し・・・しずか・・・・・・・」
薄れゆく意識の中でそう言葉を漏らしたのは、
もどるか、健か、其れは誰にもわからなかった。


(続く)
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えーと、どうも、お久しぶりです。
きたみちもどるです。
えーと、色々とゴタゴタがあったので(笑)、なかなか書けなかったこのシリーズ。
ようやく、再開の運びとなりました。
ちょっと、独りよがりで、戦闘が多い描写ですけど、
あくまでも基本は、『きたみちもどる』という人間の『絆』を書くことにあります。
その話もやっと、ターニングポイントを迎え、後はラストまで突っ走るのみです。
ですから、もう少しこのヨタ話につきあっていただければ幸いです。
では、このシリーズは一月ごとに書ければいいと思ってますので、このシリーズは
一月後ということで・・・・(笑)。
でわ、また・・・・・・