あれから数時間後。 完全に夜の闇に包まれた道をbeakerと沙留斗が歩いている。 「しかし、なかなか楽しい夕食でしたね、マスター?」 「そうですね、あんなに大勢で食事するのは久々でしたね」 「けど、突然あの大人数で押しかけて大変だったでしょうねぇ・・・、きたみちさん」 多少の苦笑を交えて、沙留斗が言う。 「そうですね。けど、その割には嬉しそうだったけど・・・」 こちらも、苦笑混じりでbeakerがそう言った。 「まぁ・・・なんだかんだ言って、きっちりとやってましたからね」 「災難だったのは、あの直後に千鶴さんが乱入してきたことでしょう・・・」 恐々と話すbeaker。 なんのことのない、千鶴はただ単にジンと耕一を「迎え」に来たのだが・・・。 「ええ・・・家をしっちゃかめっちゃかにされて、顔面蒼白にして泣いてましたからねぇ・・・」 その時の惨状を思い出しつつ、沙留斗はあの親子に憐れみを感じるのであった。 「まっ、それは兎も角として、沙留斗君。君に頼みたいことがあるのです」 顔を真剣な表情に戻し、beaker。 その顔から何かを感じ取ったのか、沙留斗もまた表情を改めて、 「一体なんでしょうか?マスター」 と真剣な顔で言った。 beakerは、すっと胸ポケットからさっきのハンカチを取り出し、 「このハンカチに染み付いている『薬』の分析をお願いしたいんですよ」 と言った。 「別に構いませんけど、こういうのは得意じゃ・・・」 ここで、次の言葉を飲み込む沙留斗。 そして、真意を探るかのようにじっと、beakerの方を見る。 「ま・まさか・・・。ねぇ、マスター・・・」 明らかに狼狽ぶりをしめす沙留斗。 「そう、その『まさか』ですよ」 対照的に妙に嬉しそうにbeaker。 その笑みを見て、ガクッと肩を落とし、今にも立ち消えそうな声で 「わかりました・・・」 と、少し泣きが入った様子で沙留斗がそう言った。 その肩を軽く、ポンと叩いて、 「期待してますよ」 とにこやかに、beakerは言った。 さて、翌日の昼。そして、今は昼休み。ということは、昼飯争奪戦の時間帯でもある。 今日もまた、 「カツはいやぁぁぁぁ〜〜〜!!」 とか、 「外道メテオォォォォォ〜〜〜!!!」 や、 「マルチの邪魔だぁ!テメェら!!」 または、 「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!」 等、少しばかり、関係の無い叫びが混じっているが、昼飯時に怒号が飛び交うのはもはや、この学園の常識(?)である。 そんな騒ぎをよそに、着物を着た五歳ぐらいの女の子=靜が、包を抱えながら 中庭をとことこと歩いている。 そこへ、神岸あかりと、そのお供の男子生徒A(浩之「オイ!」)が声をかけてくる。 「こんにちは、靜ちゃん」 「よお!靜」 「あ、あかりおねえちゃん。こんにちは〜」 にぱ、と笑いながら、靜はあかりだけににおじぎする。 「いつみ、礼儀正しいんだね。これから、どこへ行くの?」 靜につられたのか、あかりもまた、クスと笑いながら問い掛ける。 「うんとね、今からbeakerおにいちゃんのとこへ行ってね、父上にお弁当届けてくるの」 いかにも、幸せそうに靜はそう言う。 「そうなんだ?それじゃあ、気を付けてね」 「うん。あっそうだ。あかりおねえちゃん、また今度お料理教えてね?」 にぱっと、笑いながら靜。 「うん、いいよ。いつでも部室に来てね」 軽く微笑みながらあかり。 「うん♪。それじゃあねぇ〜あかりおねえちゃん」 包を落とさぬよう気を付けながら、手を振りながら、小走りに去る靜。 それに答えるべく軽く手を振るあかり。 その時、横にいた男子生徒Aが、 「なぁ、あかり・・・」 と、あかりに問い掛ける。 「うん、何?浩之ちゃん?」 「なんか、俺のこと無視つーか、いないように振る舞っていなかったか・・・あの子・・・?」 なんだか不思議そうに尋ねる。 「そりゃあ、そうだよ。あの子に嫌われてるんだもん、浩之ちゃん」 「げぇ!なんでだよ〜。なんで俺ばっか嫌われるんだぁ〜!?」 俺が何か悪いことしたか?といわんばかりに浩之は唸る。 「さあ?どうしてだろうね?浩之ちゃん」 対するあかりは「いつも」の笑顔でにっこりと浩之に微笑んだ。 その様子を影から見ている「存在」があった。 「それ」は陰に潜み、ある一点に集中している。その一点にいる「少女」が、自分の「目標」 の特徴と一致した時、「それ」は口の端をにやりと上げ、また影から影へと渡っていった。 自分の「目標」である、少女を捕まえるために・・・。 同時刻。第二購買部。 昼時、しかも期末試験前とあって、色々と賑わっている。 やがて、それも潮が引くように徐々にと消えていき、そして、(お客は)誰もいなくなった。 「ふう〜、やれやれですね」 何とはなしにそんな言葉が出てしまう。 一息ついていると、彼は後ろの方から人の気配がするのに気付いた。 そして、 「兄様(あにさま)・・・」 と、鈴が鳴るような少女の声がした。 「沙耶香(さやか)かい?」 beakerは、「気配」の方へ声をかける。 「はい、兄様。お久しゅうございます」 物陰からすっと現れたのは、長い黒髪を持った、和服のようなものを身につけた、見た目十四歳ぐらいの少女だった。 「ああ、沙耶香。久しぶりだね」 と、beakerは、きゅっと沙耶香を抱きしめながらそう言った。 「あ、兄様・・・」 沙耶香は、ほおを赤らめながらも、自分が『兄』と慕う『男性』に抱きしめられて 『ある種』の快感を得ていた。 だが、それもすぐに終わる。 beakerは優しく沙耶香の肩に手を置き、そっと自分の体から引き離す。 そして、 「『例のもの』の分析は終わりましたか?」 顔に優しい笑みを浮かべながら、沙耶香に尋ねる。 沙耶香は、多少名残惜しそうにしていたが、やがてそれも奥にしまいこみ 「はい、終わりました。やはり兄様が懸念した通りの結果が出ました」 と、「真剣」な 表情で、beakerに報告書を読み上げる。 「そうですか・・・。やっぱり・・・」 ある程度は予測していたのか、たいして驚いた様子も見せない。 「ええ、強い魔術反応を検出しましたし、そして非常に希な薬草の類も検出できました。 そして、何より「人魚の血」が検出されました。以上のことから、あの薬には、 芹香さんに売ったものが大量に使われております」 ある程度読み上げてから、報告書をbeakerに渡す。 その報告書を手に取るbeaker。 「これは、あくまで私の予測ですが、これは一種の『成長遅延薬』とでも言うべき物だと思います」 と沙耶香が言う。 「しかし・・・何故そこまでして、『あの娘』の成長を遅らせようとするんだ・・・?」 とbeakerは、心で思った疑問を口にした。 中庭から第二購買部へと続く道を小走り気味に歩く靜。 すると、前方に黒ずくめの格好をした少年が立っているのが見えた。 (ハイドラントおにいちゃんかな?) だが、それは、ハイドラントと異なる『存在』であった。でも、どことなく同じ『におい』がした。 そのせいか、目の前の少年に心を許した。 「おにいちゃんだあれ?ハイドおにいちゃんのお知り合い?」 にこやかな笑みを満面に浮かべて、目の前の少年に尋ねる。 だが少年はそれに答えず、能面のように冷たい顔の眉一つ動かさず、靜に近付き、そして、むんずとその肩を掴む。 「えっ?えっ?えっ?」 突然の行為に驚き戸惑う靜。 「我とともに来てもらおうか」 少年が抑揚の無い声を上げる。少年は、靜の体を引き寄せ、上空へ「翔ぶ」動作を見せる。 その少年に何かしらの「恐怖」を覚えた靜は、その手から逃れようと試みるが、いかんせん 子供の力では、逃れることは出来ない。彼女に残された手段は、 「ちちうえ〜!助けてぇ〜!!ちちうえ〜!!!」 と、助けを呼ぶ事だけだった。 その呼び声が届いたのか、 「ロケットパァ〜〜〜ンチ!!!」 という叫び声とともに 轟ぅ!! 唸りを上げて、鉄(くろがね)の腕が飛来してきて、少年のみをピンポイント攻撃する。 「くっ!」 少年は、幽かなうめき声を発し、大量の血の華を咲かしながら吹き飛び地に降れ伏す。 「ふっ!人様の子供を誘拐しようとは。なんて不届き旋盤な野郎だ!そんな野郎は たとえ天が許してもこのオレが許さねぇ!というわけで、ジン・ジャザム、 とーとつに見!参!」 高らかな叫びとともに、ジン・ジャザムが姿をあらわす。 「ああ〜、ジンおにいちゃん!」 満面に笑みを浮かべてジンに駆け寄る靜。 「よっ!靜。どーやら無事のようだな。あとはオレに任せて後ろにでも隠れてな」 「うん!」 と、元気よく肯き木陰に身を潜める靜。 ジンは、それを見届けてから、やおら少年の方をみやり、 「オイ!アレだけでくたばっちまった訳じゃねぇーだろ?さあ!とっとと起き上がってみやがれ!」 と、桧山○之な声で叫ぶ。 その声が聞こえたかどうかは知らないが、少年はゆっくりと立ち上がる。 だが、驚くべき事に、少年のからだはダメージを受けていなかった。先ほど、あれだけのダメージを、血を吐いていながらだ・・・。 「おいおい・・・。マジかよ?」 少々、呆れ口調でジン。 「我の体は不死身だ。いかに貴殿の力が強かろうとも、我には通用せぬ」 相変わらず、抑揚の無い声で語る少年。 「へっ、ジョーダンにも程があるぜ!何が不死身だ!そんなもんはまやかしだぁ〜!!」 と叫びつつ、ロケットパンチ・メテオ(十段階改造済み)を発射するジン。 驟雨のごとく地面に降り注ぐロケットパンチの群れ。地面が削れ、クレーターを形成していく。 これならば、いかに不死身といえどもたちどころではない。ジンは勝利を確信した。 だが・・・。 「遅いな・・・」 例の抑揚の無い声が後ろからした。 「何!?」 ジンが振り向いた瞬間 涛!! 激しい閃光と衝撃がジンの体を貫く。 「うわっ!」 という叫びとともに地にひれ伏すジン。 「我の力は『雷』。貴殿の機械の体にはさぞや堪えるであろう」 相変わらず抑揚の無い声でいう少年。 そして、そのまま靜の元に近付こうとする少年。 「待ちやがれ!」 自分の体を引きずるように立ち上がるジン。 「まだ、勝負はついてないぞ!」 「・・・貴殿の意志力には、敬意を表するが、その体でどうするつもりだ?」 と少年は再び、雷をジンに当てる。 「ぐわぁ!」 またも倒れるジン。 「・・・このまま、また起き上がられるのも面倒だ。一思いに楽にしてやろう・・・」 力を集中させる少年。 そこへ、 光っ! 眩い光が少年を直撃し、そのまま、校舎の壁に叩き付ける。 「な、なんだ!?今のは・・・」 驚いたジンが慌てて、体を起こす。 そして、ジンが見た光景は・・・。 そこには、両手を前にかざし、少年の方を睨む靜がいた。 「し・靜?」 「じんおにいちゃんを・・・やらせたりはしないよ!」 普段の靜からは考えられないほどの大声で叫んでいる。 がらっと、がれきの中から少年が立ち上がる。痛々しいほどの火傷が体を覆っていた。 「さすがは、プロトタイプ。この場は・・・引き上げよう。だが次は・・・必ずや・・・」 といって、この場を去ろうとする。 「まてぇ!お前は・・・お前はなにものだぁ!」 ジンが、やっぱり桧山修○な声で叫ぶ。 「我はギケイ・・・。強化人間の一種と覚えてもらおうか?ジン殿」 と、ジンに問い掛ける。 「では、さらばだ・・・」 といって、凄まじい跳躍力でこのばを去るギケイ。 「まちやがれぇ!」 慌てて、追いかけようとするジン。 だが、それと同時に、靜が倒れる。 「おい?大丈夫か?しずかぁぁ!!?」 同時刻。第二購買部。 今日もまた、仕事をするために、ここに来た、きたみち。 そして、いつものように扉を開く。そして、いつものように、正面にbeakerが座っている。 「いらっしゃい、お待ちしていましたよ、きたみちさん。あなたにお聞きしたい事が有りましてね・・・」 顔は笑みを浮かべながらも、目には鋭利な刃物を思わせる光を漂わせながら、 beakerはきたみちに言った。 (以下続く) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− はい、いかがだったでしょうか?相変わらず、意味不明で、複線ばっか張りまくってます(笑)。 はたして、きっちり解けるかどうか不安です、はい(苦笑)。 ようやく、半分ぐらいまで書けました。これからは、少し、ダークかつすこし、悲惨な 方向に行くと思いますが、「最後はハッピーエンド」が僕の基本なんで、石投げないでね(笑)。 特に、靜フアンの方。 それでは、今日は、この辺で・・・