彼──昂河晶は、少し悩んでいた。 朝起きてみたら、体に異変が起こっていたのである。 「うーん…」 改めて、その異変に触れてみる。 ふわふわしていた。ちょっと暖かいし。 鏡を見ながら、それを動かしてみる。 ぴこぴこ。 それは目に見えて動いた。 かりかり、と昂河は頭をかいた。なんでこうなってしまったのか、まったく見当が つかない。 しばらく鏡とにらめっこして── 「ま、いいか。学校行こ」 昂河はこの異変を追求するのを、あっさりとあきらめた。 「昂河ぁ?!なんだ、その格好」 昂河が教室の自分の席についた時、そんな声が横からかけられた。 「おはよう、藤田」 「よっ…って、だからなんだそれ?」 いつもはやや細い目を丸くして、藤田浩之はきいた。 「これかい?」 昂河は異変の起きている場所を指差した。 「昂河くん……わりと可愛いよ」 神岸あかりが、ほわっと笑顔を浮かべた。 「可愛い…かな」 昂河は苦笑した。 「…で、なんでその格好なんだ?」 「うん。なんか、朝起きたらこうなってたんだ」 異変に目を向けたままの浩之に、昂河はさらっと答えた。 「こうなってたって…お前なぁ」 浩之は呆れたような顔をした。 昂河の頭の上には、ふわふわの物体が2個あった。正確に言うと、丸くて茶色いぬ いぐるみのような動物の耳が生えているのだ。 「なんの耳かな?」 「たぶん、熊じゃないかと思うんだ。だって、しっぽ丸いしさ」 「しっぽぉ?」 「ほら」 昂河は立ち上がって後ろを向いてみせた。 茶色くて丸いふわふわの物体が、おしりにちょこんとついている。 「…ほんとだ…っていうか、生えてる……のか?」 「そうみたいだ。」 「熊?わぁ、熊なの?!」 あかりが目をきらきらさせた。 「すごいすごい!ねえ、さわってもいい?」 「ああ、いいよ」 「おいおい」 呆れ顔の浩之にかまわず、あかりはそっと昂河の熊耳らしきものにさわった。 「わぁ、ぬいぐるみみたいにふわふわ」 「……なんかくすぐったい…」 嬉しそうなあかりに、昂河はぽりぽりと頬をかいた。 「それにしても昂河、お前‥その格好でよく学校まで来たな」 「最初はどうしようかと思ったんだけどね。でも、家に居てもしょうがないし、学校 の方が元に戻る方法とか分かりそうだから」 「あー、まあ、それはそうかもしれねえけどな」 「あ」 頭に手をやった浩之の後ろに見慣れた顔を見て、昂河は軽く手を上げた。 「おはよう、吉田さん」 声をかけられて、吉田由紀は笑顔を向けて、それから目をぱちくりさせた。 「おはよう、昂河くん。…あの、その頭?」 「うん、なぜかこうなんだ」 由紀は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。 「なんか、似合ってる。うん、かわいいよ」 「あはは、ありがとう」 「礼言ってる場合じゃねえって」 浩之が突っ込む。 「‥でも、昂河くんもこうなってるなんて…」 「え?」 由紀の言葉に、昂河は首をかしげた。 「僕も、って…他にも誰か熊耳が?」 「えっ、他にもいるの?」 あかりが目をぱちくりさせる。 「熊じゃないんだけど‥八希君がね」 「八希君?」 「ひょっとして、あの人だかりか?」 浩之が教室の後ろを指差した。 そこには、女生徒が10人くらい集まっていた。その中心に、無邪気な笑みを浮か べた八希望がいた。彼の頭には、ぴんと立った、三角形の動物の耳らしきものが見え る。 「彼、登校してきた途端に女の子達に捕まっちゃって。すごく似合ってるんだもん、 犬耳。とってもかわいいの。しっぽもあるんだよ」 由紀が説明する。 「なるほど。それで僕の方はかすんじゃってるんだな」 「なんだ昂河、お前もちやほやされたいのかぁ?」 からかうように言った浩之に、昂河はにやりと笑みを浮かべた。 「僕は吉田さんと神岸さんにほめてもらったから、それでいいよ」 「うん、昂河くんも可愛いよ。ね、吉田さん」 「そうだね。私はいいと思うな」 女の子2人は笑顔で言った。 「ちぇっ。もててるじゃねーか、昂河」 「浩之ちゃん、すねてる」 ふてくされたように言う浩之に、あかりが小さく笑った。 「くぉら、あかり!」 浩之があかりにデコピンする。 「あっ」 「2人とも、仲がいいね」 由紀がくすくす笑う。 昂河は、相変わらず囲まれている望の方に目をやった。 「に、しても……同じ現象か?僕のと、八希君のと‥」 「きいてみたら?」 「…そうだね」 由紀の言葉にうなずくと、昂河は立ち上がって人だかりに近づいた。 望は、にこにこして女生徒達と話をしていた。今の状態を楽しがっているらしいの が見てとれる。 「八希君」 声をかけると、望は顔を昂河に向けた。 「あっ」 一瞬目をみはって、次の瞬間、ぱあっと顔が明るくなった。 「昂河君も?ひょっとしてその耳?」 「ああ、朝起きたらこうなってて…」 「わーい、仲間だねっ!」 望はにこっと笑った。 「じゃあ、八希君も今朝?」 「うん、朝起きたらこうなってたんだ」 「そう、か…」 昂河は考え込むような仕種をした。 その時、教室の扉がガラッと乱暴に開いた。 「ちょっとちょっと、大ニュースぅ!」 転がり込んできたのは、長岡志保だった。 教室の生徒達が、何事かとそちらを見る。 「特ダネ、特ダネ!まあ見てみなさいってば、みんな!」 そう騒ぎたてると、志保は自分が持っていた誰かの手をぐい、と引っ張った。 「ちょ、ちょっと!やめて言うてるやろ!」 「ほらっ、みんな!見て見て!」 勢いよく引っ張られて、転びそうになりながら教室に入ってきたのは、委員長こと 保科智子だった。 だが、その姿は…… 「智子さん?!」 「保科さん‥君も?!」 望と昂河が、同時に声を上げた。 「まったく、人を見世物にせんといて!…って、あっ?!八希くんと昂河くん?!」 智子は2人を見て、目を丸くした。 その頭には柔らかそうな三角形の耳が生えている。後ろからは、すらりと長いしっ ぽが見えている。耳としっぽの柄は三毛だ。 「あ〜ら〜ら……先客がいたわけねぇ〜」 志保も望と昂河を見て、目を丸くした。 智子は志保の手をはずすと、2人に近寄った。 「二人とも、どうして…」 「智子さんこそ」 「なんや知らんけど、今朝起きたらこうなってて…」 「君もか」 3人は顔を見合わせた。 「私と八希くんと昂河くん…。偶然とは思えんね」 「僕らに共通することっていうと……」 智子の言葉に、望が首をかしげる。 「思い当たるのは1つ、か。……よし、他のメンバーも探してみよう」 昂河がまじめな顔で提案した。とはいえ、熊耳のおかげでどこか間抜けだったが。 「もしかしたら、みんなこうなってるかもしれない」 「そうやな。行こ、八希くん」 「あっ、うん」 「ちょっと、待ちなさいよ!どこ行くのよ?」 志保が声をかけたが、昂河達はさっさと教室を出ていってしまった。 「……あの3人に共通すること?」 「うーん…やっぱりあれかな?」 浩之の疑問に、由紀が片手の人差し指を頬に当てた。 「吉田、あれって?」 「それはね……」 「や、やっぱりそうやったんか」 「…なんというか…」 「みんな一緒だね〜」 工作部部室の中に入った3人の口から、それぞれ言葉がこぼれ出た。 「みなさんも…ですか?」 振り返った赤十字美加香が、3人を見て目をみはった。 彼女の頭には、白いちぢれ毛のたれた耳がついている。そして同じく白いちぢれ毛 のしっぽ。どうやら羊らしい。 「どうやら、工作部全員か?」 菅生誠治が呆れたように言った。彼の頭には、白くて長いうさぎ耳がついている。 きっと、白くて丸いプリティーなしっぽもついていることだろう。 「あはは、みんな一緒かぁ。ちょっとほっとしました」 頭をかいたのは、陸奥崇だった。彼の頭にも茶色く丸い耳がついている。昂河の熊 耳と似たような耳だが、見えているしっぽは、しま模様でもこもこと太く長い。あら いぐまかもしれない。 「うわぁ、みなさん可愛いですぅ」 動物の耳としっぽの生えた一同を見て、ちびまるが目を輝かせて言った。 それを見ながら、智子が溜息をついた。 「何なんやろなぁ」 「さてね。朝起きたらこうなっていて…。みんなもそうらしいな」 「みたいですね」 誠治の言葉に、昂河がうなずく。 「結局、工作部の全員がこの状態なんですね?」 壁に寄りかかって見ていた風見ひなたが、念を押した。彼の頭には、動物の耳は生 えていない。 「ああ、そのようだ」 「思いつく原因はなんです?」 「分からんよ。…みんな、心当たりはあるか?」 誠治の問いに、皆一様に考える表情をした。 「とにかく、この状況はどうにかしてほしいですね。こんなあやしい格好の人間と一 緒にいるのは、恥ずかしいですから」 「ひなたさん、ひどいです〜。ルーティは可愛いって言ってくれたのにぃ」 「貴様の格好のどこが可愛いんですか。ただの変態でしょう?」 「みゅうう〜(泣)」 いつものようなやり取りをする二人の横で、智子が首をかしげた。 「あれ?FENNEK先輩はいないん?」 「ああ、FENNEKか……」 誠治はぽりぽりと頬をかいた。 「彼はちょっとショックを受けていてな。ガレージにいるが」 「ショック?‥耳やらしっぽやらが生えたからですか?」 昂河がきく。 「まあ、そうなんだが、それがなぁ‥」 「人の形じゃないのに生えてるんですよ、これが」 美加香が続けた。 「へ?」 「人の形じゃない‥ってことは」 昂河と望は顔を見合わせると、うなずきあってガレージに向かった。 「おい、君達…」 「みんな同じ境遇なんですから、一人だけこもっててもしょうがないでしょう」 声をかけた誠治にそう答えると、昂河はガレージに通じる扉を開けた。 「失礼しますよ」 「FENNEK先輩〜…って」 ガレージに入った二人の動きが止まる。 「来るなよぉ〜」 情けない声でFENNEKは言った。 「…………」 「先輩…」 絶句する二人。 「なんや、どうしたん?」 智子が後ろからのぞきこんで……目を丸くした。 「な、なんやその格好……」 ガレージの中には、銀色のボディも鮮やかな2000GTがあった。その屋根に、 その体長に相応しい、大きな三角形のふわふわの耳が一対生えていた。トランクの 下あたりからはふさふさの長いしっぽが、これまた見合う大きさで生えている。 「大きな耳ですねぇ……」 「すごいなぁ……」 昂河と望が感心する。 「…ぷっ…FENNEK先輩、すごい格好やな」 「だから来るなって言っただろ〜」 くすくす笑いながら言った智子に、FENNEKの大きなしっぽがいらだたしげに パタパタと動いた。 「でも、なんの耳だろ?こんな大きい耳の動物っていたかな?」 望が考えるように首をかしげた。隣で、昂河も首をひねる。 「うーん、大きさは体に合わせてるんじゃないかな?これはきつねかな……いや、F ENNEKさんなだけにフェネックかも」 「あはは、そうかも」 「笑うなって〜〜」 泣きが入っているようなFENNEKの台詞に、三人は小さく笑った。 それからしばらくして、工作部全員が同じ状態だと聞いたFENNEKも人型にな って出てきて、全員そろったところで対策会議が始まった。 「どうして僕達だけなんでしょうね?」 崇が首をかしげる。 「そこが問題だろうね」 誠治はあごに手を当てた。長いうさ耳がぴくぴく動いている。 「俺達工作部全員に共通した出来事があるはずだ。それが分かれば、原因も分かるか もしれない」 「と言っても、何かあったかなぁ」 望が考えるように視線を天井に向けた。 智子が猫しっぽをぱたぱたやりながら口を開いた。 「そうやなぁ…。とりあえず、昨日はなんともなかったんだから、まず昨日何があっ たかやな」 「うーん……」 考え込む一同。 長いしっぽを持っている者のしっぽが考えるように揺れ動く。耳が小さく動いてい る者もいる。 「しかし、なんというか奇妙な光景ですねぇ」 ひなたがつぶやいた。 「いいじゃないですか、可愛くて」 「だから、可愛くなんぞないですって。男のうさ耳見て、楽しいわけないじゃないで すか」 「好きでなっているわけじゃないんだがなぁ」 美加香に言い返すひなたに、誠治が苦笑を浮かべる。 「それより、みんな思い当たることはないのか?」 「そう改めて言われてもな〜」 「こんなことになった原因…ねぇ…」 みんな一様に首をひねる。 「誰かの呪いとか」 「呪われるようなことしたかな?」 「うーん、心当たりがない……わけでもないなぁ」 「あるんかいっ!」 「いや、でも部には関係ないしなぁ」 「どっかの実験に巻き込まれたとか…」 「でも、何も変わった事はなかったけど」 今度は口々に思った事を言い合ってみたりしている。 「やれやれ、このままじゃ埒があかないな。…ちびまる、昨日の俺達の動きをたどっ てみてくれないか?」 誠治の台詞に、みんなの視線が一斉にちびまるに向いた。 「はい、どこからですかぁ?」 その視線に臆することなく、ちびまるはにこにこときいた。 「そうだな、昨日の部活動からでいい」 「はい。……えーと、昨日はFENNEKさんとぶちょーが最初にいらっしゃって、 部室の準備をして、ともねえちゃんと望さんがいらっしゃった後に晶さんが崇乃さん と鈴花さんを連れていらっしゃって、崇乃さんはすぐにお帰りになって、ともねえち ゃんとぶちょーが鈴花さんのメンテナンスの用意をしている間に、崇さんがセリオさ んと一緒にいらっしゃって……」 ちびまるは、次々と部活動であった出来事をあげていく。一同は真剣に耳をかたむ けた。 「……みなさんが一休みしたところに、美加香さんがいらっしゃって、お料理研究会 で作ったお菓子を差し入れて下さって、それから‥」 「ちょっと待って下さい」 口をはさんだのは、ひなただった。 「それ、あやしいですよ」 「お菓子が原因だって言うんですか、ひなたさん?」 美加香が抗議するように言う。ひなたは片眉を上げて美加香を見た。 「可能性がないとは言えないでしょう。そのお菓子は誰が作ったんですか?」 「お料理研のみんなで作ったんですよ。味が変なのはなかったはずですし‥」 「ふむ、全員で食べたのは確かだな」 「誠治さんまで?」 美加香の小さな羊耳が、ぴこぴこと動いた。 「いや、ほら、一人いるじゃないか。無茶な料理をする人が。 あの人が手を加えていたなら、まともそうに見えてもこうなるようなお菓子になって いておかしくはない」 「……昨日は一人で作ってたようでしたけど…でも、誰も食べてはいないはずで…」 「彼女を甘く見てはいけませんよ、美加香。あの人は素早い動きが得意なんですから」 「…そう言われると、自信が…」 ひなたの言葉に、美加香は軽く頭に手をやった。 「でも、お料理研の人でこうなっている人はいないみたいですよ」 昂河が言ったが、誠治は首を軽く横に振った。 「俺達が食べた物だけがあの人の手作りだった可能性はある。美加香ちゃん、工作部 用に取り分けた後、目を離したかい?」 「あ、はい…5分くらい」 「じゃあ、それかもしれないな」 「あの…わざわざそんなことする人がいるんですか?」 崇が遠慮がちにきいた。 「ああ、自分の料理を食べて欲しいと思っている人がいてな。頼みもしないのに、料 理を手伝ってくれたり、作った物を食べさせてくれたりするんだ」 「めちゃくちゃ善意の人じゃないですか」 「いやまあ、善意には違いないんだがなぁ……」 誠治は苦笑いを浮かべた。事情が分かる者達もためいきをつく。 「…とりあえず、彼女のところに行ってみます?原因だけでも分かれば、なんとかな るかもしれませんし」 ひなたが提案した。 「我々がこういう状態だしな…追求するだけ無駄かもしれないが、行ってみるか」 誠治の言葉に、全員がうなずいた。 耳としっぽを生やした一同(除く1名)がやってきたのは、第一保健室だった。 耕一が現在授業中なのは確認しているので、ここの主は一人でいるはずだ。 「失礼します」 こんこん、と叩いてから、誠治は戸を開けた。 全員が誠治に続いてわらわらと部屋の中に入る。 部屋の中ほどに置いてある机の前に座っていた人物が、こちらを振り向く。 「あら、どうしたの大勢で」 白衣を着た美女こと柏木千鶴教諭は、一同を見て目を丸くした。 「……みんなで仮装大会かしら?」 「違います」 誠治は少々憮然とした面持ちで言った。 その隣で、美加香が遠慮がちに口を開いた。 「あの、千鶴先生。昨日のお料理研究会のことなんですけど‥」 「はい、なぁに?」 「その…千鶴先生、昨日一緒にお菓子を作りましたよね…?」 「ええ」 にっこり笑顔の千鶴。 「それで、そのお菓子、どうしました?」 「え?私の作ったお菓子?」 「そうです」 千鶴は一瞬きょとんとして、考えるような表情を作ってから、笑顔に戻った。 「みんなのと一緒に並べようとしたら、梓が止めたじゃない?だから、後で食べても らおうと思って、分けてあった方と一緒にしたんだけど…」 「「「それだぁ!」」」 全員が声をあげた。 「食べちゃったじゃないですか!」 FENNEKが軽く詰め寄った。 「あら、みんなが食べてくれたの?どうだった?」 期待に目をきらきらさせて、千鶴は嬉しそうにきいた。 「いや、どうだったって……」 「味はよかったですよ、千鶴先生。」 口ごもるFENNEKに続けて、昂河が言った。 「そう?よかった!今回は本の通りにうまくできたと思ったのよ」 「でも、あの……本当に、本の通りに作ったんですか?」 「え?」 その言葉に、千鶴は笑顔のまま首をかしげた。 「そのつもりだけど……どうかした?」 「いえ、あの……」 「材料に余分な物を入れたりはしませんでしたか?」 歯切れの悪い昂河をさえぎって、ひなたがきいた。 「えっ?」 にこやかに聞き返した千鶴の頬が一瞬ぴくっとしたのを、ひなたは見逃さなかった。 「なんのことかしら?」 「……入れたんですね?」 「え、えーっと……」 「怒りませんから言って下さい」 千鶴は困ったような表情をしたが、やがて軽く下を向いた。 「……えっと、あのね、もう一味あったほうがいいかなーって……」 もじもじとする千鶴。 「…何を入れたんです?」 「あの、キノコを干した粉なんだけど……」 「何のキノコです?」 「ちゃんとお店で買ったのよ、お買い得だって言ってたんだから」 「それはいいんですけど、どんなキノコですか?」 「それはね……」 千鶴は真面目な顔をした。 皆が千鶴に注目する。 「分からないの☆」 てへっ、と千鶴は照れてみせた。 その返事に、皆ずっこける。 「ああっ、分かってはいたけどっ!」 「やっぱりぃ〜」 「っていうか、お約束?」 それも言わないお約束☆ 「なんでそんなもの、お菓子に入れるんですかぁ?」 「というか、なんでそんなものが家庭科室に?」 美加香と崇が続けて言う。 「学校にある物だけじゃ足りないかな〜と思って、家から調味料とかをいくつか持っ て来てるのよ。この部屋にもいくつか置いてあるけど」 「……チェックはしないのか?」 「だって顧問ですし……」 誠治の問いに、美加香は小さく答えた。 もともとたれている美加香の羊耳はともかく、誠治のうさ耳は思いっきりしょげて いる。 「とにかく、そのキノコが原因なんやな。先生、その粉貸してくれますか?」 智子がきいた。 「ええ、いいわよ。でも、返してね?また使うから」 その言葉に、全員が「絶対に返すわけにはいかない」と思った。