クリスマスLメモ 「特別な匂いのする日常」 投稿者:昂河

 冷たい空気の中で、たくさんの光が暖かさを伴ってまたたいている。
 商店街は、そんな雰囲気で満ちていた。
 あと数日でクリスマスというこの時期。ショーウィンドウはどこもイルミネーション
で彩られ、クリスマスソングが途切れることなく耳をかすめてゆく。
「もうすっかりクリスマスだね」
 アーケードを歩きながら、吉田由紀は隣を歩いている桂木美和子に話しかけた。
「そうね。25日も近いしね」
 美和子は答えて、アーケードの天井から吊り下げられているサンタクロースの人形に
目をやった。
 そのすぐ前を歩いていた太田香奈子が、大げさにため息をついた。
「あーあ、またカップルが目に付く季節になったわねー」
「香奈子ちゃんてば」
 香奈子の隣にいた藍原瑞穂が、おかしそうにくすっと笑った。
 学校からの帰り道。この季節、放課後になる頃にはもう外は暗い。
「瑞穂はいいわよ。クリスマス、一緒に過ごす人がいるんじゃないの?」
「えっ!?そ、そんなこと‥‥」
 見る間に顔を赤くした瑞穂に、今度は香奈子がおかしそうに笑った。
「そういう香奈子だって、クリスマスプレゼントをあげたい人がいるんでしょ?」
「そういう由紀はどうなのよー?」
「私?うーん‥‥」
 茶目っ気たっぷりに言い返した香奈子に、由紀は考えるように視線を上に向けた。
「そういう特別な人はいないなぁ……」
「あらら、それを聞いたらがっかりする人がいるかもよ?」
「そうだといいなぁ」
 目を細めた由紀に、香奈子は穏やかな笑みを浮かべた。
「私も、クリスマスを一緒に過ごせたらなぁ‥‥」
 美和子が軽くうつむいて、小さくため息をついた。
「美和子は押しが弱いもんねぇ。思いきって誘ってみたら?可能性がないわけでもない
と思うよ?2人っきりってわけにはいかないかもしれないけど」
 言った由紀に、美和子は首を横に振った。
「ううん。きっと、家族水入らずでいたいと思うし」
「そっか。ま、めげないめげない」
「めげてないよ」
 美和子はにっこりと笑ってみせた。
 由紀もにっこりと笑い返すと、さっき香奈子がしたようにため息をついた。
「あーあ、瑞穂以外は、寂しいクリスマスかぁ」
「由紀ちゃんまでそういうこと言うんだから」
 瑞穂がむくれてみせる。
 アーケードの角にあるパン屋の前で、サンタの格好をした店員が、山積みのケーキを
前にして鐘を鳴らしている。
 それを見ながら、4人はその角を曲がって、別のアーケード通りに入った。
「あれ?」
 由紀が声をあげた。
「どしたの?」
「神岸さんと志保だ」
 由紀が示したのは、その通りを入ってすぐの所にある雑貨屋だった。白い壁に青いイ
ルミネーションを効果的に使ったショーウィンドーの前にいるのは、確かに同じ学年の
神岸あかりと長岡志保だった。
「あ、ほんと。声かけてみようか?」
「うん」
 4人は、その2人に近づいた。
「しーほ」
 声をかけたのは、由紀だった。その声に、2人が振り返る。
「あら、皆さんお揃いで」
 4人を見た志保が、笑顔を浮かべて言った。
「みんな、今帰り?」
 あかりも笑みを浮かべる。
「そ。2人とも寄り道?」
「うん。‥‥なんか、まっすぐ帰るのがもったいなくて」
 そう言ったあかりに、香奈子がうなずいた。
「そうよね。‥せっかく街中クリスマスだものね」
「あたし、このにぎやかな雰囲気、大好き」
 志保が楽しそうに笑った。
「ワクワクしちゃうじゃない?ただ歩いてるだけでもさ」
「そうだよねー」
 由紀があいづちを打つ。
「私も好きだな。こういう楽しい雰囲気」
「でしょでしょ?‥そうだ、ねえあかり。例のお店、どうせならみんなで行っちゃわな
い?」
「うん、そうだね」
「お店って?」
 きいた美和子に、志保はそのぱっちりとした瞳を向けた。
「この間見つけた喫茶店なんだけど、すっごくいい雰囲気なのよ。それで、今日行って
みようかって話してたのよね」
「へぇ‥‥」
「あのね、紅茶の種類がたくさんあるんだけど、それがおいしいの。この間はお茶を飲
んだだけだったから、今日はケーキも食べようって言ってたんだけど」
 あかりが志保の言葉を引き継いで言った。
「もしよかったら、みんなも一緒に行かない?人数多いほうが楽しいと思うし」
 その言葉に、4人は顔を見合わせた。
「そうそう、少し早いけど、即席のクリスマスパーティーってのはどう?」
 志保も誘う。
「‥‥私はいいけど。みんなは?」
「私もOKだよ」
「私も、大丈夫だけど」
「瑞穂は?」
「あんまり遅くならないなら、大丈夫だと思うけど」
「じゃ、決まりね」
 香奈子がみんなの意見をまとめる。
「そういうわけで、ご一緒しましょうか」
「うんうん、そうこなくっちゃ。じゃ、レッツゴー!」
「志保ったら」
 あかりが、「しょうがないな」というように笑った。
「いーじゃない、たまには女の子同士でぱーっと、ね」
「それもいいよね」
 微笑んだあかりの横で、由紀がうなずいた。
「やっぱ、女の子同士じゃないとできない話もあるしねー」
「由紀、分かってるぅ」
「‥‥長岡さんがいると、やっぱり場が盛り上がるわね」
「そうだね」
 香奈子の言葉に、瑞穂が笑顔でうなずいた。
「えーと、あっちだったよね、あかり」
「うん、そうだよ」
「じゃ、行こ行こ」
 6人は志保を先頭に歩き出した。
 この通りもクリスマス一色である。クリスマスソングが流れ、電飾が店の前や中を飾
っている。サンタの格好の店員がいる店も多い。
「ね、志保と神岸さんはクリスマスはどう過ごすの?」
 由紀がきいた。
「あたしは、デートかなぁ」
「えっ、志保、デートって誰と?!」
 あかりがびっくりしてきく。
「やーだ、あかりってば。あくまで予定よ、予定。予定は未定ってね」
「それって……実は決まってないんじゃ……」
「なによぅ、いいじゃないの。誰かがこの志保ちゃんの魅力に気付いて、クリスマスを
僕と一緒に過ごそうって言ってくる予定なんだからぁ」
「長岡さんて、楽観的ねぇ」
「それが志保ちゃんのいいところなのよ、太田さん」
 志保は指を立ててみせた。
「自分で言ってる‥‥」
「あっ、由紀、なによぉ」
「あ、見てあれ」
 瑞穂の声に、みんなはその視線の先を見た。
 そこはアーケードの途切れ目で、広い通りに通じる細い道が間を通っている。
 にぎやかな所からは離れていて、人通りも少ないその道の途中に、どこかの店の前に
飾られているのか、クリスマスツリーが1本置いてあった。
 冷たい夜の空気の中、ツリーは静かに様々な色の光をまたたかせている。
「きれいだね‥‥」
「うん」
 6人はしばらく立ち止まって、ツリーを見ていた。
「にぎやかなのもいいけど、ひっそりとツリーが光ってるのもいいよね」
「そうね‥‥」
 瑞穂の言葉にうなずく美和子の息は、白い。
「さ、そろそろ行こっ」
 そう言った志保の息もまた白い。
 6人は、また人ごみの中を歩き出した。
「寒いね‥‥」
 あかりが手袋をした手にさらに息を吹きかけた。
「だって、もうクリスマスだもん。‥‥今年はホワイトクリスマスになるのかな」
「本当はあんまり降ってほしくないんだけど、やっぱりクリスマスくらいは降ってほし
いわよね」
 由紀の言葉に、香奈子がそう言った。
「あ、ここだよ」
 あかりが指し示した。
 2階なのだが、外から見ると可愛らしい感じにまとめられた窓の飾りが印象的な店だ。
「じゃ、さっそくパーティーといきましょうか」
 志保が勇んで店に入っていく。5人も談笑しながらその後に続いた。



 それは、特別な日のほんの少し前の、まだ特別じゃない日。
 特別な匂いがほんの少し鼻をかすめていく、そんなふうな日。
 予感が漂う日常の、それはいつもの出来事。