Lメモ涼風譚12話「群青色の青春」(2) 投稿者:昂河

「ふうううううん」

 にやりと笑った崇乃に、昂河は軽く口をとがらせた。

「なんだよ、その顔は」
「いいや? 吉田さんも大変だなあ、と思ってさ」
「確かにダイエットってのはとてつもなく根気のいることだけどさ」

 商店街アーケードのCD店の中。
 昂河達は目当てのCDを探して陳列棚の前にいた。

「それにしても、鈴花。なんでいきなり吉田さんにそんなことを?」

 きいた崇乃に、昂河の頭の上の鈴花は得意げに胸を反らせた。

「昂河しゃんのためでしよ」
「……え?」
「晶のため……ねえ」

 昂河は目だけを頭の上に向け──無論、頭の上までは見えない──、崇乃は
考えるような顔をした。

「好きな女の子がプロポーションがいいのは、幸せなことだと言ってたでし」
「僕はそんなこと言ってないよ」
「言っていたのは陸奥しゃんでしよ」

 鈴花の口から出てきたのは、昂河の工作部の後輩の名前だ。

「セリオしゃんに、そう言っていたでしよ」
「…………」

 確かに、その場に昂河も居合わせた。
 そう言われたセリオは戸惑ったような表情を浮かべて、陸奥を大慌てさせた
のだったが。

「だから、晶もそうじゃないかと思ったのか?」
「はいでし」
「それ、もしかして……その、マナさんにもダイエットすすめたりとか、した
のか?」
「してないでしよ」

 平然と言った鈴花に、崇乃は頭をかりかりとかいた。

「よかった。マナさんは今のままで十分──」
「十分、なに?」
「魅力的………………って、うわあっ!?」

 ずざざっ、と後ろに下がった崇乃が陳列台にぶつかる。
 台はほんの少し、ぐらりと揺れた。

「はっはーん。やっぱり、八塚くんって観月さんのこと好きなのねえ」
「来栖川さんっ?! あ、いや、そのっ……」
「うふふ、大丈夫。言ったりしないから安心してよ。そして、昂河くんは吉田
さんが好き、と」
「来栖川さん……な、なんで」
「だって、ねえ?」

 来栖川綾香は、後ろに立つオレンジ色の髪の少女を振り向いた。

「──はい。今までの言動から推察する事は可能です」
「ほら、セリオに言われちゃうんだから」

 にやり、という形容がぴったりの笑みを浮かべた綾香に、男2人は赤面した。

「鈴花ちゃんが気を使うのも当然よねー」
「分かってくれるでしか?」
「ええ。だって分かりやすいもの」

 当然、と言った顔で綾香は笑った。

「でも……どうしていきなり……」
「んー、セリオの話が耳に入ったからね。この子、それでちょっと悩んでて」
「悩む?」

 昂河は不思議そうにセリオの顔を見た。
 セリオは、いつものように無表情だ。
 ……ちょっと見は。

「悩んでるって、なんで?」
「それがねえ……」

 きいた崇乃に、綾香はちょっと考えるような顔をした。

「2人とも、時間ある?」
「ん、ちょっと待ってくれるかな。CD買えば用事はすむから」
「どれ探してるの?」

 それに答えて、崇乃と昂河がそれぞれの目当てのCDの名を言うと、綾香は
セリオを促すように見た。

「──検索は終了しています。八塚さんのお探しのCDはそちらの棚の2段目
にあります。昂河さんのお探しのCDは、あちらの特設コーナーにあります」
「すごいな……店の中のことまで分かるんだ?」
「──はい。この店は来栖川のデータベースに店内のデータを公開しています。
そのデータから検索しました」
「そっか。鈴花にはそこまでできないからなあ」
「仕方ないでし。スペックの違いでし」

 崇乃の言葉に、鈴花はしょんぼりと肩を落とした。

「気にすることはないさ。それは仕方ないことだよ」
「昂河しゃん……」

 ふにゃあ、と鈴花は昂河の頭の上に転がった。
 つ、と白い手が昂河の頭の上に伸びる。

「え?」
「ふみ……」

 セリオが、鈴花の頭をなでなでしていた。

「…………」

 昂河は、目の前にいるセリオの顔を見た。
 セリオは無表情だ。いつもの表情。
 その目にはなんの感情も浮かんでいない。
 けれど、その手は優しく鈴花をなでていた。

「さ、それじゃ手早く目的を果たしてくれる? ちょっと相談したいことがあ
るのよ」
「相談って、俺達に?」
「そう。メイドロボのマスターと工作部員くんにね」

 綾香はそう言ってにこっと笑った。