即興Lメモ 「人と人との間には」 投稿者:昂河

たとえば。
世界にたったひとり、自分しかいなかったとしたら。
存在意義など、あるのだろうか。




「なんだ昂河、ぼーっとして」
「ん……なんだ、藤田か」
「なんだはねえだろ」

 藤田浩之は、そう言って笑った。

「次の授業、移動教室だぜ。ぐずぐずしてるといい席なくなるぞ」
「ん……そうだな」

 立ち上がると、昂河は教室を見回した。もうほとんどの生徒は移動してしまった
らしく、閑散としている。

「藤田はまだ行かなかったのか?」
「いや、ちっと忘れ物してな」

 そう言って、浩之はペンケースを見せた。

「そうか」
「どうせだから、一緒に行こうぜ」
「ああ」

 うなずいて、昂河は次の授業の教科書とノートを持った。
 一応、用意はしていたのだが。

「で、何ぼーっとしてたんだ?」

 歩きながら、浩之がきいた。

「ん……なんか、疲れたかな」
「疲れたって?」
「うまく言えないんだけど……人生に」
「おいおい」

 浩之は苦笑した。

「お前、そりゃ早すぎだって。まだ高校生なのに疲れててどうすんだよ」
「それはそうなんだけどね」
「だいたいなあ、昂河は腹に溜めすぎなんだよ。表情に出すってことしねえだろ?」

 その言葉に、昂河は浩之を見た。

「……そうかな」
「そう思うぜ。何溜めてんだか分からねえけど、俺でよけりゃ話聞くぜ?」
「…………」

 昂河は浩之を見つめた。
 この男は。どうして、こうすんなりと人の事を考えられるのだろう。

「……人の愚痴を聞いて、いい気分にはならないと思うけど」
「あ?」

 一瞬首をかしげて、それから浩之はふん、と腕組みした。

「あのな、昂河。お前、自分の周りがちゃんと見えてるか?」
「え?」
「お前に元気がなけりゃ、心配する人間がいるんだ。お前だって、そうやって心配
する相手が何人かいるだろ?」
「…………」
「そういう時、話をしてほしいと思うことがあるだろ? お前だって。同じだ」

 そう言うと、浩之は頭をがしがしとかいた。

「ち……ほら、チャイムなるぞ。走るからな」
「あ……」

 走り出した浩之に続いて、昂河も走りだした。

「ああ、そうだ」

 走りながら、浩之は昂河を見た。

「お前の席、八塚がとっといてるからな」
「え……」
「感謝しろよ」

 にやりと笑って、浩之は前を向いた。

「…………」

 友達、というのは。

「……そっか」

 昂河は微笑んだ。
 いつも。この友人達は、昂河に大事なことを気づかせてくれる。

「心配させないように……しないとな」
「ばーか」

 そう言った浩之の頭を、軽くはたく。

「てっ」
「分かってるよ、そんなこと」

 にっと笑って、昂河は浩之の先を走っていった。