Lメモ時代劇第三話「永劫に続く夜」(上) 投稿者:風見 ひなた
 闇の中を走ったのは剣士達だけではない
 彼等こそあの時代の真の主役だった
 三百年の泰安の夢
 夜こそが彼等の舞台
 ここに今一人の男が居る
 影に生きる者たちのうち時代に終止符を打つ一人


 Lメモ時代劇3「永劫に続く夜」


「誰もいない、か………」
 そう呟くと男は素早く鉤爪を伸ばして屋根にくくりつけた。
 そして素早く縄をたぐって屋根の上に登る。
 一分の隙もない身のこなしで男はそのまま窓の中に侵入した。
 高貴な女性の部屋らしく、部屋の隅には季節の花が活けてあった。
「どこだ?」
 そう呟きながら、男は部屋を漁って行く。
 その様子はいかにも手慣れたものであった。
 訓練と経験の成果だ……。
 男の名はルーン。
 13歳の時に近所のお姉さんの下着を盗んで以来すっかり味を占め前科45犯、まさに
下着ドロのプロとでも言うべき変態少年で是非一度精神鑑定を受ける必要が
「こら作者!嘘を付け、嘘をっ!」
  ちっ。まともに紹介してもつまらないじゃないか。
「つまるとかつまらんとかの問題か!?」
 仕方ないので本当のことを言う。
 男の名はルーン。
 幼少の頃より月島城において磨き上げられた腕を持ち、若干十五歳にして中忍の地位を
持つ天才的な忍者である。しかも、『魔術』と呼ばれる特殊な忍術を使うことが出来る。
 だが変態少年で今日も城に忍び込み下着を盗むべく
「殺すぞ」
 ……柏木城に潜入したのは城主柏木千鶴の所持して居るであろう柏木一族の謀反計画を
記した密書を探し出すためであった。
 そして彼は今もこうして千鶴の部屋に忍び込み、密書を捜している。
「初めからそうやって素直に紹介しろよ」
 でも、下着も捜してるんだよね?
「捜すかぁぁ!」
 捜さないの?
「あのなぁぁ!!!俺はSS使いじゃ珍しいくらい恋愛沙汰から遠い男なんだよ!変な噂
を流すんじゃねええええ!」
 ルーンがそう作者に大声を立てて抗議したとき、向こうの方からどたどたと足音がした。
「千鶴様の部屋から大声が!?」
「曲者だぁぁ!出会え、出会え!」
 どうやら詰めていた侍に見つかってしまったようだった。
「げげげげげげ!?」
 いやぁ、何で見つかったんだろうねぇ?
「てめえ作者……」
 ルーンは窓から飛び降りながら叫んだ。
「ブッ殺す!」


「ほう……千鶴殿の部屋に密偵が?」
 灰土はそう言って、声の主を振り返った。
「ええ。灰土殿、分かっておられますわね?」
 柏木千鶴はそう言って、静かに微笑んだ。
 灰土は微かに笑みを漏らすと一つ頷いてみせる。
「当然だ。我等一族がこれまでどの派閥にも属さなかったのは全てこの計画のため……」
 わずかに、だが力強く灰土の手が膝の上で握りしめられた。
 しかしそれはほんのわずかな動きに過ぎない。
「『姫』を生贄に捧げるとき、大いなる獣王蘇る。そのとき鋼鉄の鬼神と揃いて世界は終
末の時を迎えるであろう……古より我等が一族に伝わりし予言」
 千鶴は鷹揚に頷き、呟いた。
「『異国の姫』は既に私達の手の中に……鋼鉄の鬼神さえ目覚めればいつでも儀式を始め
ることが出来ます」
「そう……そして、その計画……誰にも邪魔させはせぬよ」
 一瞬だけ灰土の眼が強く輝き、やがて闇の色と同化する。
 それは彼の強い決意を表しているのか。それとも……。
「計画の暁には……我等柏木一族がこの国を制する……分かっておられますね?」
 千鶴は穏やかな表情で灰土に問いかけた。
「無論だ。最初からその約束だったからな……世界を滅ぼした暁にはこの国をくれてやる」
 灰土は応えてから、ゆっくりと立ち上がった。
 闇色の衣装が本物の闇と溶け合い、見えなくなる。
「さて、曲者を倒して来てやるか」
 消える直前に、もう一度だけ灰土の眼が光った。
(愚か者め……世界を滅ぼすという意味が分かっているのか?我等が立つこの大地全てが
無に還るということなのだぞ)
 そして部屋は千鶴を残し、深い沈黙に満たされた。
 灰土が消えてから数拍の時。
 部屋の隅で影が動いた。
「捨てておいてよいのですか?あの男、何か企んでおりますぞ」
 千鶴は冷笑を浮かべると身動き一つすることなく嗤った。
「多少賢い者の方が扱いやすい……策士は策に溺れ、周囲が見えなくなりますからね」
 その答えを聞き、影は楽しそうに笑い声を上げた。
「恐ろしいお方だ……闇の忍軍として恐れられる『暗黒十三使徒』の頭領、灰土蘭斗を手
玉に取られるとは」
「無駄口が多いですよ、控えなさいbeaker」
 千鶴の声と同時に月影が部屋に差し込み影を照らした。
 そこに座っていたのはbeakerと呼ばれる男。
「これは失礼を……」
 beakerが恐縮したのを見て、千鶴は追い打ちをかけた。
「あなたは確か前回来栖川の綾香を捕らえようとして失敗して密書を持ち逃げされたので
はありませんでしたか?」
「何、ただの鼠です。奴等には所詮何もできません……それに、私が綾香を捕らえようと
したのも『姫』を捜すため。彼女が見つかり、我等の手の内にある以上もはや二の轍を踏
むことは有り得ません」
 beakerは頭を下げて敬服を表した。
 千鶴はため息をついてbeakerの顔を眺める。
「鼠も追いつめられると猫を噛みます。特に最近の猫は餌を与えられるばかりで大人しく
なっちゃったから運動不足で大変で……」
「あの、最近とはいつの話ですか」
 冷や汗を垂らしながら呟くbeakerに、千鶴ははっとして咳払いをした。
 時代考証を無視するなというのに。
「そ、そんなことより……鋼鉄の鬼神はどうなっているのです?」
「あ、それはですな」
 千鶴の振った強引な話題転換にやむなくbeakerも飛びついた。
 しかし、その表情は暗い。
「我々の呪力は充分なのですが……生憎と鬼神そのものを動かすだけの技術が足りないの
です。いかな我等が教主様といえども動かぬ物には……」
「考えておきましょう。下がって結構です」
 千鶴は一つ頷くと、しっしっとbeakerを追い払う仕草をした。
 beakerは一旦引き下がりかけたが、振り返って千鶴の方を見た。
「それよりもあなたが天下を取った暁には我等の宗教を国教に」
「くどいっ!」
 千鶴が座布団を投げつけたが、beakerは当たる前に消え失せた。
 やがてまた沈黙が戻ってくる。
 ただし今度は千鶴の荒い呼吸があることだけが違っていたが。
 あっ、そりゃすげえ差か。まあいいや。
 千鶴は呼吸を落ち着けると、ぱちんと指を鳴らした。
「刃!」
「ここにっ!」
 たちまち千鶴の前に一人の青年が現れた。
 この男も忍服を着ている。ただし、その意匠は少々変わっていた。
 前の方には『柏木千鶴親衛隊』という白文字がある。
 背中にでかでかと『ちーちゃんのだぞっ☆』と書かれた赤札が貼ってある。
 鉢巻には『千鶴命!』と書かれている。
 つまりは単なるハッピだった。
「刃、何故あなたを呼んだか分かる!?」
「御意!」
 刃はかしこまってきっぱりと答えた。
「さっぱりわかりません!」
「ちぇすとぉ!」

 ごきっ!

 千鶴ちゃんパンチによって刃の身体は軽く吹っ飛び、檜の壁にぶつかって首が直角に曲
がった。でも生きてた。
「おいっ!今『ごきっ』つったぞっ!?」
 涙と鮮血を大量にまき散らしながら刃は叫んだ。
 しかし、千鶴はあさっての方を向いてちっちっと指を振った。
「刃君はそのくらいで死なないでしょ!それより刃君!私があなたを呼んだのは重大な用
事があってのことなのよ!」
「面倒くせえなあ」
「ちぇすとぉ!!」

 がきごすっ!!

 千鶴ちゃん踵落としによって刃の頭は檜の床に叩きつけられ、顎が砕けたばかりか頭蓋
骨が一寸ほど縮んだ。
「顎が、顎がぁぁぁ!?その上頭蓋骨がへこんだぞっ、一寸ってのは三センチの事なんだ
ぞ!?」
「刃君が口答えするからでしょ!?それに本当に顎が砕けてたら喋れないはずよっ!」
 それ以前に頭が三センチへこんだら死んでます。
 それとも脳味噌が少ないのか、おい。
「作者殺す」
 刃は冷静な顔で呟いた。
 これ以上追及したら本気で殺されるみたいである。
 千鶴はぐぐっと拳を握りしめ、刃に叫んだ。
「それよりもっ!私はある重大な用事があって刃君を呼んだのよ!」
「御意!!」
「ストレス解消に殴らせてちぇすとぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「やっぱりそれかいっっっっ!!」

 ごぐしゃばすきっ!!!

 千鶴ちゃんアトミックパワーボムによって刃の身体は床を突き破って落下し、全身六十
三カ所に複雑骨折を起こした。
「いくら何でも死ぬわぁぁぁ!!!美加香じゃあるまいしっ!!」
 エルクゥより頑丈な美加香。
 さすがガメラが踏んでも壊れないと称されるだけのことはある。
 でも刃も死んでなかった。
 千鶴は晴れ晴れとした顔で手をはたいた。
「あー、すっきり☆」
 子分は死にかけてるぞ。
 いいのか。
「うん」
 ………………。
「よくねぇぇぇ!!!」
 刃は怒濤の涙を流しながら再生した。
「千鶴さんっ!あんた本当にそれだけの理由で俺を呼びつけたのかっ!?」
「本当はそれだけじゃなかったんだけど」
 千鶴は俄に真剣な表情を作ると、刃に向かって厳かに言った。
「刃……私の頼みを聞いてくれますか?」
「はっ、貴女のおっしゃられることなら何なりと」
「んじゃ侵入者をブチ殺してきてぴょーん☆」
 内容はマトモではなかった。
 だが、刃は諦めきったのか真剣な態度を崩さずに訊く。
「侵入者……ですか」
 千鶴が頷いたのを見て、刃は左腕を天井に向けた。
 その腕には手首より先がない。代わりに一つの穴が開いていた。
「それは、こういう者のことで?」
 言葉と同時に腕が火を噴き、内部に仕込まれていた砲丸が勢い良く天井を突き破る。
「わわわわっ!?」
 ぐしゃっという音と細かい木片と共に男は床に墜落した。
 その腕の中には何故か大量の食物が抱え込まれている。
 千鶴は驚きの声を挙げて男を指さした。
「あーーーっ!私がおやつに食べようととっといたプリンっ!」
 刃はお約束通り律儀にコケた。
「違うだろーーーっ!?千鶴様、曲者だ、曲者っ!」
 刃の絶叫に千鶴はぽんと手を打ち鳴らせた。
「おおっ!曲者っ!」
 ルーンは不敵な笑みを浮かべると食物を心持ち名残惜しそうに眺めつつ、窓に向かって
駆けだした。
「ふん、見られたからには仕方ねえ……だがお前達の謀反、しかと聞かせて貰ったぜ!」
「刃、逃してはいけません!」
 千鶴の声に刃は腕大砲をルーンに向けた。
「御意!」
「喰らうかっ!あばよっ!!」
 ルーンが窓をくぐった瞬間、背後で強烈な爆発が襲いかかってきた……。


(姫……異国の姫、か。もしそれがある人物のことを指しているとすれば……彼女を何処
に隠す?)
 自分ならば間違いなく城の部屋のどこかに住まわせておくだろう。
 それが監視目的、衛生管理、いずれにしても最も安全だからだ。
 もしくは城に隠さずに城の近辺の家屋に住まわせておく。
 間違っても牢獄に繋いだりはしないだろう。
 常識的に考えれば。
 ルーンは天守閣から転落しながらそんなことを考えていた。
 どうやら落ちる場所は堀の上らしい。
 残念ながら、この高さでは助からないだろう。
 では一体どうすればいいのか。
 浮遊魔術ではあまりにも体力を消費してしまうし、これだけのスピードを止められない
かも知れない。
(考えるまでもねえよな)
「我は流すうっとおしい過去ログ!」
 なんだか若干違っているような気もするが、気にしてはいけない。
 作者が覚えていないだけである。
 ともかく下に向かって放たれた突風はルーンの身体を落下速度を減速した。
 そして、ルーンは水の中へと五体満足で沈んでいった。
(やれやれ……ここから出るのが一苦労だ)
 ルーンは濁った水の中から泥に足を取られないよう注意して浮上しようと足を動かした。
 そのとき、水の中に巻き上がる泥の煙の隙間に小さな灯りが見えるのを確かにルーンは
見た。
(……なるほど)


「ああ……私は囚われのカワイソーなお姫様……」
 少女は暗い牢獄の中で我知らず呟いた。
「でも、私泣かない。だって素敵な素敵なお方がいつかきっと来てくれるって信じてるも
の。だからちょっぴりセンチな気分であのお星様に向かって呟くノ」
 そう言うと、少女は立ち上がり小窓に向かって顔を近づけた。
 そして、少しだけ息を吸い込み中指を立てて叫んだ。
「Hey,Fackin’ lucky star! Make me free,or
I shall stick……」
「夜中に大声で下品な台詞を叫ぶなボケェェェェェ!!!」
「Ouch!?」
 鉄格子の隙間から飛んできた光線に少女は三回転半ほどもんどりうって倒れた。
 灰土はぜぃぜぃと荒い息を吐いて倒れた少女を睨み付けている。
 少女は黒こげになりながらも結構平気な感じで起きあがって灰土を見た。
「……ダメ?」
「お前や作者は良くても全国のレミィファンが切れるわっ!!」
「………………」
 レミィはしばし何かを考えているようだったが、やがて何かに気が付いたらしくぽんと
手を叩いた。
「オラくそったれの幸運のお星さまっ!とっととワタシを自由にせんかいっ!さもなきゃ
てめえのケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ――――」
「関西弁で言っても一緒だアホがぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!」
 レミィはまた焼かれたが、やっぱりなんだか平気な感じだった。
「だって夢見る少女は時々凶暴な気分になったりすることがあるノ☆」
「てめえはいつでもバーサーカーだろうがっ!」
 灰土はしゃがみ込んで泣き出してしまった。
「ううっ、もうやだよう……何でこんなヤツが外国のお姫様なんだよう……」
「お客さん、ワタシ本物ヨ。羊頭狗肉じゃないヨ。何なら血統書見るネ?」
「てめえは韓○系の怪しいブローカーかっ!」
 全然懲りてないレミィにツッコミにもなってないツッコミを入れる灰土だった。

「う、うーん……ヤツが『異国の姫』か……一応助けないとまずいだろうなー」
 背後から様子を窺っていたルーンは音を立てずに一歩踏み出しかけた。
 だが、次の一歩でもう一度同じ場所に帰る。
「い、いやしかし……いくら仕事とはいえヤツと一緒にいて果たして脳味噌が破壊されず
に済むだろーか……」
 迷って当たり前である。
 ルーンは先立つ不孝を郷里の両親に呟いてから、決死の覚悟で灰土の背後に忍び寄った。
 背筋の腱に向かい、自分でもどうなったかよく分からない動きのまま掌打を繰り出す。
 ただ、その動きだけは全力で……。
「甘いッ!」
 灰土が振り返り手刀を繰り出してきたとき避けることもできない……。
 はずだった。
 ルーンはにやりと笑って手刀を紙一重でかわすと、その腹に向かって掌を突きつけた。
「我は放つあかりの白刃!」
「がっ!?」
 灰土はルーンの直撃を受け、壁に向かって吹っ飛ばされた。
 それでもすぐさま腕を壁に付けて立とうとする。が、やはり立つことは出来ないようだ。
 すかさずルーンは脳天に踵落としを見舞い、灰土を昏倒させた。
「ふう」
 ルーンは微かに額ににじんだ汗をぬぐうと、気絶した灰土に向かって呟いた。
「……全力で繰り出されたフェイントを避けることは出来ても、その次に待つ全力から二
番目の攻撃を避けることは誰にもできねえんだぜ…………さて」
 頭をレミィの方に向けて、ルーンは頭を掻いた。
「待たせたな。今助けてやる」