クリスマスも近くなると色々な方々が出没する。 世の中の男性には大きく分けようが小さく分けようが二種類しかない。 彼女が居る男と居ない男である。 まれに彼氏が居る男なんかもいるがまあそれはそれとして。 年の瀬である。師走である。 師匠も走るほど忙しいのである。 いや、風見の師匠はいつ見ても某女生徒の名を叫んで走っているのであるが。 あともういくつ寝るとお正月であり、その前にクリスマス。 彼女の居ない男達は泣きながらシャンパンを飲み、ケーキを貪りながらとりとめのない 夜を迎える。 それはそれで楽しいものだとは思うのだが、なんだかやっぱりアレだなと思う男達は必 死に東奔西走する。 すなわちそれは………………。 「そこの可愛い彼女、俺と一緒に茶」 がすっ。どさっ。 軽く掌底などキメながら、美加香は放り上げた紙袋をキャッチした。 「ふう。この時期になると増えますよねぇ…」 十二月の商店街での出来事である。 風見はこりこりと頭を掻きながら、崩れ落ちた男の頭を靴先で蹴った。 「ナンパか……クリスマス前だからな」 「いくらクリスマス前だからって、商店街で晩御飯買ってる人に声かけるのはなんだか間 違ってますよ」 美加香は呆れ顔で倒れた男をそのままに歩き出す。 風見はその後をずりずりと歩いていった。 「ふん、しかし勿体ないことをしたな。貴様がナンパされるなんて一生に一度あるかない かだぞ」 「べーっだ、そんなことありませんっ!」 振り返りもせずに言い返す美加香の言葉を受けながら、風見はすかさず美加香に声を掛 ける素振りをした青年を蹴り飛ばした。 「………この人、何で転けたんでしょう?」 「さあな。マッチでも売り疲れたんじゃないか?」 青年を見下ろす美加香に軽口を叩きながら、風見は両手の荷物をだらんと提げた。 重い。冗談じゃなく重い。 北風の吹く通りの中央で荒んだ眼をして両手の袋を見つめる。 試験も終わった休日に風見と美加香が連れ立って買い物をしているのには訳がある。 つまり、荷物持ち。女性と歩く際に男が一番疲れると言われるイベントである。 「さーて、次は何買わなくちゃいけないんだっけ……」 美加香の軽い一言に風見は少しよろけた。 「おい、まだ買うのか!?」 毒を込めて言った台詞だが、美加香はきょとんとして振り返る。 「え?だって、まだ晩御飯と工具しか買ってないじゃないですか。あと年末だから掃除用 具とかクリスマスの準備とか……ふぁ……くしゅん!」 「………風邪薬もか?」 美加香はてへっと舌を出して、頷く。 「なんだか鼻が詰まっちゃって……まぁそれはともかく、れっつらごぉ!」 「…………………………………」 風見はがくっとうなだれると、再びずりずりと歩き出した。 数キロはある晩御飯の袋を引きずりながら。 …馬鹿も風邪をひくらしい。 Lメモ外伝「赤十字美加香の日常3・お買い物編」 「それにしても商店街の真ん中でナンパするヤツって何考えてんだろな」 「そうですよねぇ。どうせなら繁華街に行けばいいのに」 気を取り直した風見と元から気にしてない美加香はほのぼのと歩き出す。 何はともあれ、こういう何気ない話題というのは楽しい。 「まぁ、そんなバカなんてそうそういるわけないか」 「当たり前ですよ。もし他にいるなら見てみた……」 「そこの家庭的なお嬢さん!もし良ければ僕と一休みに紅茶でもっ!」 がくうっ! 「い……言ってる側から……」 「どんなバカだ、おい」 二人は人混みの中を割って声の主を捜してみた。 いや、捜すまでもなく正体は分かっているのだが。 「……やっぱりよっしーさんですね」 美加香の声に風見はため息をついた。 学園有数の剣の使い手のくせに、相変わらずやることは軽薄この上ない男である。 今日はお使いの帰りか何からしい女の子に声を掛けているようだ。 二人が雑踏に紛れて様子を窺っていると、よっしーはさらに何か囁いていた。 やがて、買い物袋を下げた女の子がこくっと頷く。 よっしーはにこっと優しい笑みを向けると、その肩に手を回して歩き出した。 「……大成功みたいですねぇ」 美加香の言葉を聞きながら、風見は何か足りないものを感じていた。 やはりここは、自分が買ってでなくてはなるまい。 風見はずいっと前に踏み出すと、爽やかに微笑んだ。 「やあ、よっしー!また女変えたのか!」 ぶっと吹き出して、YOSSYFLAMEは風見を睨み付ける。 その一瞬の隙をついて、女の子は思いきりYOSSYFLAMEの頬をぶっ叩いてつか つかと歩き出していった。 瞬間的に二重のショックを受けてうずくまるYOSSYの肩を、風見の手がぽんと叩く。 「落ち込むなよ。こんな日もあるさ、じゃあ僕はこれで!」 「まていっ!」 ぐわしっ。 「はっはっは、何かなよっしー君?」 「かぁ〜ざぁ〜みぃぃ〜〜!!!お前、俺を追いつめてそんなに楽しいかぁぁ〜〜!!!」 ぼたぼたと両目から本気で血涙が流れている。 しかし風見は、にこっと笑いながら頷いた。 「うん、とっても☆」 良い度胸である。 YOSSYはそんな風見の肩を掴みながら、怨念のオーラなど周囲に飛ばしつつ詰め寄 って行く。 「お前…今日の朝9時からひたすらここで女の子ひっかけて、ついに成功したと思った瞬 間に横からしゃしゃり出たダニに手をはたき落とされた俺の気持ちが分からないのか!?」 「分かりませんね。なにせナンパなんて軟弱な事したことありませんから」 いけしゃあしゃあと答える風見に、YOSSYは相手しても無駄だと悟ったらしくぱっ と手を離した。 「もういい!お前みたいな男の風上にも置けないヤツに話しかけた俺が馬鹿だった!」 「……ナンパなぞする方が男の風上に置けないと思うが」 「なにいっ!」 YOSSYはきゅきゅっ!と振り返ると風見に指を突きつけた。 気のせいか、背後には激しく波打つ玄界灘が見える。 「馬鹿野郎っ!ナンパは男の青春だ!人生だ!本能だーーーーーーーっ!」 「そこまで目一杯力入れながら情けないことを力説するなあっ!」 「どこが情けないとゆーんだっ!?男として生まれてきた以上女の子の二人や三人や十人 や二十人声を掛けるのが甲斐性!いや、美人に対する義務ってもんだろう!?」 「漢が女の子にコビ売れるかっ!漢なら黙って背中で語れっ!」 はあはあはあはあはあはあはあはあ。 二人は荒い息を吐くと、ほぼ同時に立ち直った。 「……どうやら貴様とは根本的に見解が違っているようだな」 「ふん、軟弱者と同一の思考回路をしてなくてほっとしましたよ」 『はっはっはっはっはっはっは』 …………………………………………。 「美加香、帰るぞ!」 「美加香ちゃん、君の可愛さが分からないヤツなんていつでも振っちゃっていいからね」 …なんだかそっくりな二人だと美加香は思った。 風見と美加香が立ち去ろうとするとき、向こうの方で黄色い声が上がった。 思わずYOSSYと顔を見合わせてしまった風見は、急いで雑踏のむこうへと駆けだし てゆく。 そこで二人が見たものは……。 「それじゃあ君たち、軽くお茶でも飲んでいこうか」 『は〜〜〜〜いっ!』 わらわらと少年に群がる女の子達の群だった。 しかも全員手に買い物袋を提げている。 風見はあまりの事態にだらだらと汗を流した。 「ば、馬鹿な……!みんな買い物途中だと!?そこまでの魅力が奴にはあるというのか!?」 「あっ、あれはっ!?」 YOSSYは震える手で女の子達の一人を指さす。 それは、先ほどYOSSYを殴った買い物少女であった! 「そんな……一度ナンパに気付けばそれから数日は警戒心が育つというのに……よりにも よって当日にナンパ成功だとっ!?」 愕然としてYOSSYは凍り付いたように動かなくなる。 風見とYOSSYの周りを、しばし寒すぎる北風が通り過ぎた。 (あれだけの数の女の子を自ら引き寄せる魅力を持つ男…一体、何者だ!?) (くそぉ、うまいことやりやがって…なんてぇテクニックなんだ!?) 似ているようで結構違う二人の思考回路である。 そんな二人に気付き、少年はゆっくりと近付いてくる。 「やぁ……エルクゥ同盟の風見君に……剣士YOSSYFLAME君か」 「!?貴様……」 「橋本!?」 二人は信じられない思いで橋本を見た。 あの、薔薇部の橋本が……よりにもよって女の子にモテモテでやがる! 「な、何故だっ!?何故貴様がモテる!?」 YOSSYはがくがくと震えながら橋本を指さす。 橋本は、薄い笑いを浮かべながらYOSSYを見下ろしていた。 「ふっ……これでも元ナンパ王と呼ばれた俺だ。学園内では薔薇だのスケコマシだのでさ っぱり人気薄の俺だが……一度外に出ればこんなもんさ!YOSSY君、さんざん学園の 狩り場を荒らしてくれたようだが、所詮君の人気も学園の中だけのことなのだよ!」 「な、なにいっ!?俺が……俺が貴様に劣るというのかっ!?」 バックに雷鳴すら走ったYOSSYを、橋本はびしっ!と指さし、トドメの一言を放つ。 「そう!君はいわば大海を知らない蛙……いや、プールすら知らぬアメンボごとき存在な のだ!」 「そ、そんな馬鹿なぁぁぁぁっーーーーーーーーーーー!?」 馬鹿である。 いや、正直に言って。 そんなスパークするナンパバカ共を醒めた目で見て、風見はとっとと背中を向けた。 「……アホらしいにも程がある。僕はこれで失礼」 がしいっ! 突然襟を掴まれ、首が締まった風見は非難の目でYOSSYを振り返った。 「痛いだろっ!一体何を……」 「橋本ぉ!貴様に決闘を申し込む……ナンパ師の誇りにかけて!」 しかし、風見が眼にしたのは勢いよく橋本に指を突きつけるYOSSYの姿であった。 「ほぉ……ナンパ師の誇り、ね……。良い響きだ。それで、何を賭ける?」 「負けた方は一年間一切女の子と付き合ってはならない……今付き合っている女の子は勝 った方に差し出す!」 「……おーい、聴けよー」 風見は無視されている。 橋本はニヤリと笑って、頷いた。 「いいだろう!せめてものハンデだ、二人がかりでかかってくるがいい!」 「望むところだ、吠え面かくなよ!……とゆーわけで、頑張ろうぜひなたん!」 「待てやああああああああっ!」 風見の怒りのツッコミストレートがYOSSYの顔面をぶっとばした。 「はっはっは、痛いじゃないかひなたん」 「軽々しくかつさりげなくしかも爽やかに愛称で呼ぶなっ!何で僕がそんなくだらないバ カ合戦に参加しなくちゃいけないんだっ!?」 YOSSYはにっこりと笑いながら、すっと手を差し出す。 「僕たち友達じゃないか」 「勝手に人を友達リストに入れんじゃないっ!」 半眼でべちっと手をはたき落とす風見に、YOSSYはなおもにっこりと微笑む。 「……それは友情のガッツサインと受け取って良いのかな?」 「いい加減にしないと本気で殺すぞ大馬鹿野郎」 ちょっと本気だったりする。 YOSSYはしくしくと泣きながら、風見に向かって拝むポーズをした。 「うううっ、手伝ってくれよぉ。一人じゃ勝てないってばよぉ」 「勝てない勝負なら初めっから受けるなっ!大体僕がそんな軟派なことできるか!」 ……………………………。 YOSSYはしばしの沈黙の後、メモ帳を取り出した。 「実は元旦にさおりん達と待ち合わせして初詣に行く事になってるんだが……」 「…………」 ぴくぴく、と風見の耳が動く。 「待ち合わせ場所……知りたくないかい?」 「………………………………………………………」 風見はふるふると震えながら、電柱をがしっと掴んだ。 そして、気合いと共に連続で頭突きを連打する! 「うらあっ!離れろぉっ!煩悩めぇっ!おらおらおらおらおらああああああーーーっ!」 ぷしゅーーーーーーっ。 なんだかやけに紅い噴水を上げながら、風見はちっちっちっちと指を振った。 「女の子と初詣に行けるだぁ?そんな軟弱な理由でこの僕がポリシーを曲げるもんですか!」 ちょっぴし顔が蒼い。見上げた根性である。 馬鹿だけど。 YOSSYはふうっと息を吐くと、ひとりごちた。 「……このネタだけは使いたくなかったが……」 「……何?」 YOSSYはちらっと風見を横目で見ると、呟いた。 「千奈美ちゃん」 風見のこめかみがひきつる。 「な……何と言いました、貴様……」 「一目惚れ」 寸間を置かず、風見の手がYOSSYを壁際に叩きつける。 風見は真剣な殺気を湛えつつ、YOSSYの胸ぐらを掴んでいた。 「……何を……どこまで知っているっ……!」 「さあな……」 うそぶくYOSSYに、風見は低く笑いかけた。 「そのネタ、貴様の他に誰が知っている?」 「放送部だ。このこと…美加香ちゃんは知っているのか?」 風見は硬直した後、ばっとYOSSYから手を離した。 「……一回だけだ。後は知らないからな」 そう答えてから、風見は橋本を睨み付ける。 「話はまとまったかい?」 YOSSYが静かに頷くと、橋本は再び薄い笑いを浮かべた。 「それではこれから三十分に……」 「ひなたさーん!」 話の腰を折られ、橋本はムッとするように声の主を見た。 美加香が、山のような荷物を持って風見の方に駆けてくる。 これまでずっと買い物をしていたらしい。 「すみません、お待たせしちゃって……さ、帰りましょう!」 「……悪い。美加香、先に帰っててくれ」 「へ?」 美加香は不自然に殺気を込めている風見を見て、不思議そうな顔をした。 「いいんじゃないか、話してあげても。彼女は賞品なんだしな」 橋本がにやりと笑いながら声を掛ける。 そんな彼を見て、美加香は不快感を露にした。 「何があったんですか、ひなたさん?」 だが、風見は答えず、代わりに橋本に怒気を込めて言葉を叩きつける。 「橋本っ!美加香は関係ないっ!」 「……本人にその気はなくても端から見てると……」 風見は無言でYOSSYに裏拳を叩き込んだ。 「ひなたさん、どうしたんです!?賞品って!?なんで橋本先輩と向かい合ってるんです!」 美加香は必死に風見の袖を引っ張る。 黙り込む風見を見ながら、橋本は酷薄な笑いを浮かべながら言った。 「赤十字君……君の恋人は、君を賭の対象にしたんだよ。ナンパ勝負の、ね!」 「ひなたさんっ!?嘘でしょう!?」 美加香はゆさゆさと風見の肩を揺さぶる。 だが、風見には否定することは出来なかった。 「…本当だ」 北風が止まった。 美加香は震える手で風見の頬に触ると、叫んだ。 「ひなたさんの……馬鹿ーーっ!」 強力すぎるスナップが風見の頬を蒼く染めた。 美加香は涙をこぼしながら、風見の顔を眺め続ける。 「信じてたのに……ひなたさんはもっとストイックな人だと信じてたのにっ……!」 そして、大きな荷物を落としながら、走り去って行く。 そんな後ろ姿を、風見はじっと哀しい眼で見つめ続けていた。 さすがにYOSSYも、そっと声を掛ける。 「……あの、ちょっと悪かったかなとか思ったりもするんだが……」 「よっしー」 「…………はい」 「漢には馬鹿だと思っても進まなければならないときがあるらしい」 無表情に放たれた台詞に、YOSSYは冷や汗を流した。 既に死刑は宣告された。とりあえず、勝たなければ確実に死ぬ。 期せずして背水の陣に立ったYOSSYは覚悟を決めるのであった。 ……15分経過。 YOSSY&風見ペア獲得人数、0名。 「あああああっ、一人も捕まらないいっ!?」 生命の危機にさらされ、YOSSYは悲鳴を上げた。 「くそぉ……やっぱり馴れないことはするもんじゃありませんね……」 風見は美加香にぶたれた頬をさすりつつ、電柱にもたれかかる。 それ以前に風見の凶悪な目つきでは集まる者も集まらない。 YOSSYなどは背水の陣をしいているため眼がマジなので、女の子の方から逃げてい ってしまう。 そもそもこんな鬼気迫った雰囲気を漂わせている男に誰がついていくか。 「……と文句を垂れたところで、勝たなきゃ美加香が……ちっ」 そう呻きつつ、再び歩き出す風見。 YOSSYがちらりと目をやると、すでに橋本は十数人ほど軽く集めている。 (すまん、風見……) そう思いつつ、YOSSYはちゃきっと刀を鳴らした。 いざとなれば『外道狩り』も辞さない覚悟である。 ひなたさんの馬鹿。 ひなたさんの馬鹿。 ひなたさんの馬鹿。 美加香は目に涙を溜めながら商店街を歩いていた。 風見が自分を賭の対象にしたことはまあいい。 それよりも、心にトラウマを持つ美加香としては風見が軟派なんぞに手を出したことが 許せないのだった。 西山や風見、誠治など親しい人には硬派でいて欲しかったのである。 (……でも西山さんは楓さんを追い回してるし……誠治さんは電芹や貴姫さんにちょっか いかけて回ってるしなぁ……) 一瞬しょうがないことなのか、と考えてやはり否定する。 (別にひなたさんがナンパに走ったからって私には関係ないことなんだけど……) 関係ないはずなんだけど……。 そこまで考えて、美加香はぶんぶんと頭を振った。 (でも雅史先輩は女の子に見向きもしないし……やっぱりナンパする男の子なんてっ!) 「あっ、美加香ねーちゃん!」 「わったったったったぁ!?」 自分の世界に入っていたところを無理矢理中断され、美加香は思わず重い荷物によろけ てしまった。 「あ……ごめん」 少年は、呟きながら美加香の荷物を支えた。 美加香はほっと息を吐きながら、にこっと笑いかけた。 「ううん、気にしないで。てぃーくんなら許せちゃうから」 「そお?……よかった。ところで美加香ねーちゃん」 美加香は小首を傾げててぃーくんの言葉を促した。 「……なんで笑顔がひきつってるの?」 「えっ、嘘っ!」 美加香は慌てて自分の顔を押さえた。 もちろん両手一杯の荷物は腕から外れて……。 どがらぐしゃあくわんくわんくわん。 「…………あ」 「あわわわっ、ねーちゃんごめんっ!」 「あーあ……仕方ありませんねぇ」 聞き慣れない声がして見上げると、一人の青年がにこっと笑いかけていた。 「どうも、てぃーくんの保護者です」 「Tさんもお買い物ですか?」 ようやく荷物を拾い集めた美加香は、T−star−reserveに訊いた。 「ええ。知り合いがやっている店が界隈にありましてね……」 「へえ…何のお店です?」 T−star−reserveは何かを言いかけて、苦笑した。 「普通の人間には行けない場所にある、普通の人間には買えない物を売る店ですよ」 「ああ。あっちのお店なんですね」 商店街のどこかに、魔族の店があるという。 強い魔力を秘めたアイテムを手に入れる代わりに、客はそれなりの代償を支払わねばな らない。そして、その代償は多くの場合金よりも遥かに重い……。 そんな噂を美加香は聞いたことがあった。もう昔の話だが。 「まぁ、そんなところです。美加香さんはお一人でお買い物に?」 「え…えっと……」 美加香は聞き返され、口ごもった。 そして、天啓のように素晴らしいことを思いついた。 「そうだ、Tさん!お願いがあるんですけど……」 「これまた唐突ですね。てぃーくんの粗相のお詫びです、出来ることなら何でも」 T−star−reserveの笑顔に、美加香はほっとして続けた。 「女の子にもてるようになる宝貝はありますか?」 25分経過。 「だ……駄目だ。一人も集まらないっ……!」 YOSSYは絶望した声を上げた。 風見はぐったりとしてしゃがみ込んでいる。 向こうの方では橋本が三十人ほどの女の子に囲まれているようだ。 なにせ女の子の塀でどこにいるのかはっきりしない。 YOSSYはこのまま5分が過ぎたら……と考えてみた。 (えーっと、メモ帳に載ってる女の子全部盗られるのは良いとしても……美加香ちゃんを 盗られた風見は確実に殺しに来る。勝つかどうかは五分にしてももし怒りのあまり日陰ち ゃんなんか召還された日には……) そこで、YOSSYは固い唾を飲み下した。 「……考えない。今は取り合えず一人でも多く……一人でも……」 すでにうわごとである。 「ひなたさーーん!」 YOSSYははっとして、風見を揺り動かした。 「おいっ!風見、美加香ちゃんだぞ!」 美加香は何か小さな瓶を持って、全速力で駆けつけてきた。 だが風見の目は……死んでいる。 「美加香か……何しに来た?」 (……よりにもよって何て事を言うかな……) YOSSYは頭を押さえて息を吐く。 しかし美加香はそんな風見の手に持っていた瓶を掴ませると、屈託なく微笑み掛けた。 「これ、女の子にもてるようになる魔法の香水です!使って下さい!」 「ええええっ!?」 声を上げたのはYOSSYの方だった。 「ほ、本当にっ!?これを付けるだけでもてるようになるのっ!?」 「はいっ!」 YOSSYはごくっと唾を飲むと、風見の手から香水をひったくった。 「サンキュー美加香ちゃん!有り難く使わせて貰うよっ!」 「はい。頭に直接数滴振りかけて下さい」 言われたとおり、YOSSYはすぐさま頭に液体を垂らした。 風見は、にこにこと微笑む美加香を見てじわっと眼に何かが潤むのを感じた。 「美加香…お前って奴は……!」 「気にしないで下さい、ひなたさん」 美加香は相変わらずにこにこと笑顔を向けてくれている。 (泣きやがって……素直じゃない奴だ) YOSSYはそんな事を思いつつも、風見に香水を振りかけた。 美加香は改めてくすっと笑うと、一言呟いた。 「それで許したげます」 …………………………………………。 『へ?』 二人の男が間抜けた声を上げた瞬間、周囲から黄色い声が上がった。 「きゃーーーっ!可愛いーーーっ!」 「やーん、素敵な人っ!」 「かっこいいーっ!」 みるみるうちに、わらわらと買い物客の女性達が集まってくる。 たちまち二人の周囲は人の輪で一杯になった。 「……凄い効果だな」 「……うん」 女性達の輪はさらに大きく広がってゆく。 「あ、ちょっと君達っ!?」 橋本の周りにいた女の子達も一人、また一人と居なくなって行く。 「ば……馬鹿なっ!?一体…一体何がっ!?」 その叫びと重なるようにして…どこからともなく騒がしい騒音がやってくる。 『ワンワンワンワン!!!!キューンキューン!!!フニャアアアアアアン!』 無数の犬猫達が二人に向かって突撃をかけてきた! さすがにびびった女性達は我先に道を譲り、二人はあっと言う間に動物達の海に埋もれ てしまった。 「でええええっ!?なんだなんだーーーっ!?」 「風見!何か、次が来るぞ!?」 YOSSYが指さす先から、黒い生き物達がカーペットを形成しながら走り寄ってくる。 『きゅぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーっっっ!!』 「ぺ……」 「ペンギソだああああっ!?」 ここまで来ると、次に何が来るかはもうお見通しである。 ずしん……ずしん……ずしん……ずしん……ずしんっ!! さあ、読者の皆さんもご一緒に。 かもーん!超ペンギソーーーーーーーーーーーーーーーっ! 『きゅぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!』「あ…」 「あああああっ……」 『あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』 ずしんっ…ずしんっ…ずしんっ…ずしん……ずしん………。 ドップラー効果を起こしながら遠ざかって行く超ペンギソ沙織。 「美加香ぁぁぁ!僕が悪かったぁぁぁ!助けてくれぇぇーーーっ!!!」 それにくわえられて連れ去られて行く風見の声を聞きながら、美加香はハンカチを振っ ていた。 「今日は帰ってこなくていいですからねーーーーーーーーーーーーーーっ!」 その後ろから、呆れたような声が被さる。 「いいんですか、あんなことして」 「いいんです。これに懲りて、二度とナンパに手を出さなくなるでしょうから」 「……そういうものですか」 「そーゆーもんです」 T−star−reserveに応えつつ、美加香は大きく伸びをした。 なんだかさっぱりしたらしい。 「さて!ひなたさんの分の材料浮いちゃったから……Tさん、ご飯食べていきません?」 一瞬躊躇するT−star−reserveだったが、てぃーくんが裾を掴んでいるの を見るとふっと息を吐いた。 「……呼ばれましょうか」 (まだまだ…人の心は難しい物だ……) 「きゅぴ☆きゅぴ☆」 沙織が捕食してくる巨大ミミズを払いのけながら、YOSSYは風見に噛み付いていた。 「風見ぃ!お前、一体これからどーやって逃げ出す気だっ!?」 「さあ…香水が切れるのを待つしかないんじゃないですか?」 「んな悠長な……」 YOSSYの罵声を聞きながら、風見はごろんと超ペンギソの巣に横になった。 「案外ここの方が……家よりも安全かも知れないしね……」 その晩、風見家では頭を掻いて照れ笑いをする美加香の姿があった。 「あははは、すみません。よく考えたら私、今風邪引いて鼻が詰まってたんですよね。ひ ょっとしたら変な味になってるかも知れないんで調味料適当に振って……あれ?」 誰も調味料を取る者はいなかった。 T−star−reserveはどうやれば人間の限界を超えた味が出せるのかと不思 議に思いながら、てぃーくんやルーティと同じように意識を失った。 その後、三人がどうなったのかは定かではない……。 「畜生……畜生!完敗だ!俺には出来ない……種族を越えたナンパだとっ!?」 橋本ははいつくばり、ぶるぶると震えながら涙をこぼした。 「もう駄目だ……俺は、俺はもう女の子をナンパできないっ!一生!」 ざっ…。 「先輩。俺が…俺が居ます」 橋本は涙を目に浮かべつつ、頭上を見上げた。 「矢島……!」 「先輩……!」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお おーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーっ!」 寒空の下で熱く吠える男達の心からの叫びは……。 『うるせーーーっ!靜が眠れないだろがーーーーっ!』 ざしゅっ!!!! 某近所の住人の心よりの祝福により幕を閉じたとさ。 つるかめつるかめ 宝貝:誘来香 振りかけると異性を引きつける効果がある香水。 人間以外にも有効だが、そもそもこれは深山などで獲物を引き寄せるための狩りの宝貝 である。 欠点は対象があまりにも大量に集まり、懐きすぎること。 懐かれてしまうと殺すに殺せず、それでは狩りの意味がない。 ちなみに鼻が詰まっていると何故か効かないらしい。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ひ:寒くなりました。皆様、お風邪はお召しになられておりませんでしょうか? み:……ひなたさん ひ:僕の方も元気でやっています。模試の結果はDだったけど。 み:…ひなたさん、ちょっと ひ:まぁそんなこんなでなんとかなるでしょう。それでは皆様この辺で…… み:おいっ!きけやあっ! ひ:えーい、なんだうるさい! み:ひなたさん。私、この前掲示板で一ヶ月ほどSSを書かないと言う書き込みを見たよ うな気がするんですが。 ひ:気の迷い。 み:その書き込みにはあなたの署名がしてあったような。 ひ:目の錯覚。 み:その後簡易チャットできっぱり宣言した覚えが。 ひ:記憶の混乱。UFO改造手術。イラク軍の妨害工作(やばいかな?)。 み:大人しく認めなさい。 ひ:うい。えーっと、実はこのSSはずっと前に書いてた未発表作品です。マル。 み:なーんだ、そうだったのかぁ!あっはっは……って、詭弁もいいとこですね ひ:本当にね み:でもなんで作中季節が「12月17日」なんでしょうか。 ひ:………………。 み:………………………。 ひ:さーて、来週のサ○エさんはッ! み:ごまかすなぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!! ひ:(無視)今回のサブタイトルは「よっしーさんいつも出してくれてありがとね」でし た! み:はぁ……あくまでも無視する気ですね。ところで気になったことがあるんですが… ひ:今度は何だ? み:Tさんがなんだか『ドラ○もん』しちゃってるような……。 ひ:………………(汗) み:………………………(冷汗) ひ:そんなTさんには出演感謝の意味を込めて「L学のドラ○もん」の称号をプレゼント! み:開き直るなぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっ! ひ:いらないかっ!? み:誰が喜ぶんです、伏せ字になった称号なんて! ひ:ちっ!まぁそれはともかく勝手に出演ごめんなさい&ありがとうでした! み:ではでは『過去ログは見ることが出来る範囲かな?』赤十字美加香と! ひ:『これから一ヶ月本気でSS読めないかも……』風見ひなたがお送りしました!