赤十字美加香過去編後編(の後編)「ハッピーバースディ」 投稿者:風見 ひなた
 4月28日
『ついに計画が実行された。
 だが、必死の苦労にも関わらず私達は失敗した。
 一体何が足らないと言うのか。
 私達には彼女たちを目覚めさせることは出来ないのだろうか』


 美加香は荒い息を吐いて、魔法陣の中に崩れ落ちた。
 遠巻きに眺めていた研究者達は一斉に美加香に殺到する。
 何しろバックアップに芹香を含む魔道士数十名、かかったコスト数億、術者本人の死亡
率三割というとんでもない儀式だけあって周囲の心配は並ではない。
 芹香が言うには美加香の潜在魔力は常識を越えている、ということだったがそれでも彼
女を血を分けた娘のように育てた長瀬主任にとっては、それこそ一大事だった。
「美加香!美加香っ!起きろ……美加香!」
「うっ……くぅっ……」
 ぴくりと美加香の指が動く。
 おおーーっと周囲から感嘆の声が上がる中で、美加香は青白い顔をして顔を起こした。
「大丈夫か……?」
 英二が声を掛けると、美加香は弱々しく笑って見せた。
「ええ……魔力をごっそり持って行かれましたけど。これでもう魔術を使うことも出来ま
せんね。でも……」
 でも、そんなことなんてどうだっていい。
 これでレザムヘイムの座標は変わったはずだ。
 マルティーナの身体には魔法界から無限の魔力が流れ込む。
 自分の夢が、今こそ叶う……。
「ま……マルティーナは………!?」
 一同の視線が一斉にオペレーターに注がれた。
 彼は躊躇いがちに、ゆっくりと答えた。
「魔力ジェネレーター起動……エネルギー充電。………素体からリセットされました。
 マルティーナ……起動しません」
「……え?」
 沈黙が場を支配した。
 オペレーターはもう一度繰り返す。
「起動、しません」

 だんっ!

「なんで……なんでっ!」
 美加香は激しく壁を殴りつけた。
 綱板が軋み、大きく歪む。
 美加香の拳からは数滴の血が滲みだしている。
 それでも彼女は壁を叩き続けた。
「出来ることはみんなやったのに!レザムヘイムの座標は変えたのに!OLHさんの召還
は成功したのに!バグなんてどこにもないはずなのに!なんで……なんで起動しないの!?」
「美加香、止めろ!落ち着くんだ!」
「もう一度っ!もう一度よ!もう一度やってみて下さい!」
 長瀬に取り押さえられながらも、美加香は叫んだ。
 再びコントロールパネルが操作され、目の前のカプセルに入った三体の少女達に強力な
エネルギーが注ぎ込まれる。
 だが、それだけだった。
 エネルギーは満ちても、彼女たちには目覚めは訪れない。
 周囲が落胆の声を上げる中で、美加香はがくりと膝を突いた。
「何で……何で目覚めないの、あなた達は……。それとも……」
 彼女の周りで囂々と研究員達の声が上がる。
「だから俺は反対したんだっ!」
「どうするんだ!既に億単位で金を使ってるんだぞ!」
「ええい!パワーだ!もっとエネルギーをくみ出せええっ!」
 事の異様さに気付いた緒方がはっと顔色を変える。
「待てっ!これ以上のジェネレーターの起動はゲートを………!」
 だが所詮部外者でしかない緒方の言葉が聞き届けられるわけもなかった。
 制止の声も虚しくその場の雰囲気に引きずられた研究者達が管制を押しのけてコントロ
ールパネルをいじる。
「ば……馬鹿共が!とんでもないことになるぞ!」
 緒方の声すらもどこか遠くに聞きながら、美加香はカプセルの中の少女達を見つめてい
た。
「それとも……あなた達は目覚めたくないの?」

『大変だっ!かつてない数の魔的反応がっ!』
『警報だっ!早くあのバケモノを呼べっ!』
『ぐずぐずするなっ!この為だけにあいつは生かされてるんだからな……』

「………ゲスどもが」

 緒方の魔術がその場にいた研究員達数名をこの世から消滅させた。

『な、なんだお前はっ!?』
『お前も……お前もあのバケモノの仲間か!?』
『こ、殺せっ!射殺しろ!』

 緒方はにいっと笑うと、手首を銃を構えた研究員に向けた。
「そうだな。お前達よりはずっと彼に近い人間だ。
 だが……お前達に近いよりは遥かにマシだと思うがな」


 そんな異常な空気の中で……風見は解き放たれた。

(滅ぼす)

 もはや彼にはそれしかなかった。


 内蔵を撃ち抜かれたもの。
 脳髄をミンチにされたもの。
 頭から両断されて転がったもの。
 呪詛の声を放ちながら死んでいったもの。
 人でないモノでも殺したら罪になるんだろうか。
 もうどうだっていい、そんなこと。
 心は今までにないほど澄んでいる。
 当たり前だろう。僕はもう殺すしかないんだから。
 殺すことにしか生きる意味などないのだから。
 もう要らない。優しさも友達も守る物も僕が大事にしてきた物なんて何も意味はない。
 僕は狩猟者。
 この身はエルクゥにあらずとも、僕の心は狩猟者の物。
 修羅?羅刹?邪鬼?天魔?鬼神?
 なんでもいい。とにかく……殺すことに集中していれば……この身もじわじわ鬼になる。
 殺すより他に意味のない、名もなければ価値もない、じわじわ鬼になっていく。
 いつしかそれが自然であるように……僕は死と一体になって……息の根を止めて行く。
 恐怖の叫びを上げるもの……彼にも死を与えてやろう。
 この夢が終われば僕は再び人となって死と隣り合わせの苦しみを味わうだろう。
 だけどそれならそれでいい。
 我は闇、我は魔。
 しばしこの身を鮮血の美酒に………。


 そしていつしか彼はそこにいた。
 美加香はゆっくりと彼に近付いて行く。
 手に握られているのはいつもどおりの鎮痛剤。
 風見はそれをはたき落とした。
 ばりん、と音を立てて……薬が床一面にぶちまけられる。
 だがその色は分からなかった。風見と緒方から滴った鮮血の池の中にこぼれ落ちたから。
「もういいよ……もういいんだ」
「……ひなたさん?」
 風見は哀しく笑うと、美加香の肩に手を掛けてその場に崩れ落ちた。
「もう……もう……僕は人じゃない……。僕は……死ぬから……」
「…………ごめんなさい。私……取り返しの付かないことを」
 今更……何を。
 こんな。こんな役にも立たない実験のために。
 私は、この人を――――――。
「ごめんなさい……」
「もう…いいんだ。もう、何も…言わなくたって……」
 風見の残りの台詞は嗚咽となって聞こえなかった。
 ぽたりぽたりと涙がこぼれたが、その色も判別することは出来なかった。
 その泪は一つ残らず、鮮血の中に埋もれていった……。


「哀れだな……あの少年は今一時『人』ではなく『魔』だった……」
 緒方はそう一人呟いた。
 彼の周囲には彼が裁いた者達の遺体が転がっている。
「動くな…!来栖川警備保障の名に置いて、貴様を拘束する!」
 ちらりと緒方は彼らに視線を走らせると、ふっと笑って両手を掲げた。
(それにしても……気になるのはあのゲートだ。今回のことでゲートは酷く傷んだ。
 そしてあの中には群れの親玉は居なかった。……まずいな)
「……来るぞ」



『師匠、今日のご指導は!』
『風見よ、今日はお前に『心』を教えようと思う』
『心……ですか?』
『ああ。お前も武闘家を志した以上は、畳の上で死ぬことを望んではならぬ。いつ何時で
も死ねるように心を鍛えるのだ』
『ええっ?師匠、僕は死ぬために身体を鍛えるのですか?僕は大切な人を守りたいと思っ
て武術を学ぼうと思ったのに……』
『いや、勘違いしてはならん。確かに我等がSS不敗流は誰かを守るための拳だ。だがな、
風見よ。仮にお前が命を賭してでも守りたい人が居ても……いざというときに命を賭ける
覚悟をしておらねば守りきれん。それでは意味がなかろう?』
『うーん。つまり……死ぬ覚悟で物事に臨む訓練をしろ、ということですか?』
『そう解釈してもかまわん。要は、常に死を目前にして生きよ、ということだ』
『はいっ!……でも、見つかるでしょうか……僕が命より大事な人……』
『見つからなければ物事や理想でもいい。武闘家にとってただ一つ報われる死とは、何か
のために満足して死ぬことだ』
『……はい!』
『いい返事だ。よし……今日は一つねぎらいの意味も込めて麓で飯を食うか』
『やったあ!師匠、僕はいつでも師匠のために命を捧げますね!』
『ふふっ……それは嬉しいが……』


「……嫌な夢」


 4月29日
『私はこの日のことを一生忘れない。
 この日は奇跡が起こった記念日でもあり……そして私が贖罪を誓った日でもある。
 いつか私がこの日のことを忘れることがあっても、きっとそのときの心はこの日の私と
同じに違いない。
 ……ハッピーバースディ』



 僕は全身の痛みを堪えて起きあがった。
 あのまま気絶してしまったらしい。
 どうせ僕の命も長くないことだし……体面なんてどうだっていいことだ。
 だが……この痛みは耐え難い。
 どうせ死ぬのならもっと安らかに死にたいものだ。
 鎮痛剤が欲しいところだが…どうもこの部屋にはおいてないようだ。
 僕が管理している部屋なのだから当たり前だが。
 美加香に……鎮痛剤を貰おう。
 それにしても…あさましいことだ。
 やはりなんのかのと言ったところで……所詮痛みを誤魔化すための口実だ。
 まあいい……。
 僕はドアを開けて外に出た。
 妖魔が溢れかえっていた廊下もすっかり綺麗に清掃されている。
 それでも壁の返り血までは拭いきれなかったようで、そこが却って生々しさを増幅する。
 階段を下りたところでごほんと咳をしたら掌にべったりと血が付いた。
 苦しかったが、何故か笑いが止まらず僕は壁に手を付き血糊を増やした。
 美加香……美加香は何処だ。
 地下か…そうだな。
 それにしても、彼女は僕にとってどういう存在だったんだろう。
 パートナー…師匠はそう言った。
 お前達の精神の一部は結びつけられて互いのことが常に一部分かるのだと。
 それはつまり、赤い糸の強力版みたいなものなんだろうか。
 確かに可愛いとは思ったけれど…どうせならもうちょっとマシな出会いをしたかった。
 出会った直後に師匠に裏切られ、僕は美加香に連れられてこんな汚れ仕事。
 好感を持てと言う方が不思議だ。
 もし来世で巡り会うことがあったら虐めて虐めて虐め抜いてやろう。
 ……僕も本気で長くないな……こんなことを考えるなんてね。
 まぁいいさ。死に土産だ。
 僕は勘で美加香の場所を探った。
 部屋には居ないようだ。長瀬主任のラボにも居ない。
 どこだ……。
 いや。今あいつが行きそうな所なんて一つしかない。
 そう……あの妙なカプセルの部屋。
 今日初めて見た、三人の女の子がぷかぷか浮いてるカプセルの部屋。
 どうやらあれはHMのようだ。耳カバーがあった。
 あいつが作った物らしいが……僕には関係ない。
 ともかく…鎮痛剤を貰わないことには……くっ。まずいな。
 眼が……霞む……。
 こんな所を誰かに見られようものなら……。

「支えていってあげようか、少年」
「……え?」
「気にするな。死に土産だ」
「…………………どうも」

 僕は妙な男に肩を貸され、ふらふらと歩いていった。
 眼がよく見えないから……誰か分からない。
 だが、どうも研究者ではないようだ……。
「ほら、ここだ少年。おっと、声は立てるなよ」
 男はしーっと小さな音を立てつつ、僕を離した。
 僕は礼を言おうと振り返ったが、そこには何の影も見えなかった。
 ……消えた?
 まぁ…いい。
 死神の最後の情けかも知れない。
 僕は気を取り直し、再び部屋の中を向いた。
 その瞬間……視界が晴れた。

 美加香は明かりをともさず部屋の中で佇んでいた。
 地下なので月光は入らない。そもそも今は月の光は薄い。
 だが代わりに窓から地下プラントの常夜灯の灯りが差し込み、部屋の中を薄ぼんやりと
照らしていた。
 そこで、美加香はカプセルに入った三体のHMを見つめていた。
 僕は声を掛けようとして……止めた。
 その場が何か冒しがたい、神聖な物に思えたから。
 身体の芯から襲いかかる痛みは徐々に大きくなっていたけれど、そんなことは今更どう
だっていいことだった。
 美加香はそっとカプセルに手を触れると、呟いた。
「とうとうあなた達は目覚めてくれなかったね…。やっぱり動機が不純だったのかな……?
きっとみんなの事を考えなかったからばちが当たったんだね。ごめんね……」
 三人の……三体の少女は答えない。
 ただカプセルの中で静かに眠るだけだ。
 美加香はそんな彼女たちに向かって語りかけ続けた。
「あなた達はこれからどうなるんだろう…。私は来栖川を追われるけど、後に残ったあな
た達がただ一つの心残りだよ……。スクラップにされちゃうのかな。それとも普通のHM
に改造されるのかな。どちらにしても…私の知らないところで……」
 美加香は一つ一つのカプセルを愛しげに撫でながら、眼を細めた。
「改造されたらどうなるのかな。マルチをお母さんって呼ぶんだろうね。そうだよね。
初めから……その予定だったもんね」
 美加香………。
 お前は……………………。
 泣いてるのか……………………。
「そうだよ……もし実験が上手く行ってても……あなた達のお母さんはマルチなんだよ。
私は単なるエンジニアだから……あなた達の心はマルチの分割だから……私とあなた達の
間には何の繋がりもないから……私は……」
 ぽたりと美加香の手の甲に落ちるのは泪の雫だ。
 とめどもなく……したたって行く。
 それがライトの光に照らされてきらきらとこぼれ落ちる。
 僕はその光景を……綺麗だと思った。
 美加香は不意にカプセルの前にくずれた。
 肩を振るわせながら、手を付いて、泣いていた。
「ごめんね…ごめんねぇ。私……あなた達にお母さんだよって言ってあげられない。あな
た達を抱きしめて頬摺りすることも、ご飯を作って上げることも、悩みの相談にも乗って
上げられない。悪いお母さんだよね……私なんて……お母さんになれないよね……」
 僕は息を止めて、美加香を見つめていた。
 ただそこだけは永遠に時間が止まったように、特別な空間のように感じた。
「せめて……守ってあげたかったんだよ。あなた達が成長する姿を、見ていたかったんだ
よ……。お誕生日にはこっそりケーキをあげて、お母さんに言えない相談に乗って、テス
トがいい点数なら良くできたねって誉めてあげて……でも、それすらも出来ないんだよ。
ごめんね……許してねっ……」
(…………見ちゃいけない)
 僕はきびすを返すと、足早にそこを離れた。
 鎮痛剤なんてもう必要もない。
 どっちにしろ……今の僕の顔を見せられるもんか……!


 一睡も……しなかった。
 ただ来るのをじっと待ち続けていた。
 感覚だけを開き、ただじっとベッドの上に座り込んでいた。
 そして昼も過ぎる頃……そいつは来た。


『来ました……!これまでを大きく上回る魔的反応……!!』
「……私が直に撃って出ます。風見さんは待機させて下さい」
 美加香の発言に、長瀬はぎょっとして美加香を止めた。
「いかん!お前の魔力はもう殆ど残っていないんだぞ!?」
「……だからといってひなたさんを……もうこれ以上………苦しめられない!自分の責任
は、自分で取ります!マルティーナのプラントに先回りして、迎え撃ちます!」
 美加香が決意に満ちた声で叫ぶ。
 そのとき、オペレーターが困惑したような調子で頭を掻いた。
『あ……あれ?』
「……どうした、オペレーターさん?」
 長瀬が見逃さず声を掛けると、オペレーターは訝しげにモニターを眺めた。
『は、はぁ……画面がぶれたかと思うと、風見さんと緒方の部屋がもぬけの空に……?』
 美加香と長瀬はどきっとして顔を見合わせた。
「ま、まさか……!」
「偽画像……!?」


「始まったか……!」
 緒方は腕を前に向け、向かってくる雑魚達を迎撃する構えに出た。
 脱獄は昨晩の内に済ませている。
 予め仕込んでいた偽画像が役に立ったようだ。
 元々研究所だけにロクな拘束用設備がない。
「親玉は彼に任すとしようか……存分に踊ってくれよ!」
 そうひとりごちると、緒方は第一射を放った。


 心が例えようもなく澄んでいるのが分かる。
 昨日の澄み方とは違う。
 殺気に心が支配されているのではない。
 怒り、悲しみ、絶望、殺気。それら全てを支配しているが故の心の静寂。
 以前のような陽の感情を使用しての力は使えないものの、心はそれよりも揺るがない。
 こうやって限界を超えて走っていても、微塵の乱れもない。
 みるみるうちに僕の身体は三人の少女が眠る部屋へと降り立つ。
 そこで腕を振りかざして、今にもケースを叩き割ろうとしていた影が振り返る。
 それはまさしく妖魔共の親玉。
 常人が見れば発狂しそうなまでの不可解なフォルム。
 闇よりも深い魔の凝縮。
 通常の者では戦うことも及ぶまい。
 だが、今の僕は違う。
 魔に心を占められながらも、かつその魔をすら支配する者。
 これこそがもう一つのSS不敗流の極致。
 陽の九鬼流、陰の裂鬼流。
 その二つは同じにしてなお異なるもの。
 九鬼流が愛を重んじ魔を砕く拳なら、裂鬼流は愛のため自ら魔となり魔を葬る拳。
 混じりのない光が闇に染まらぬように、至高の闇は他の闇に染まることはない。
 死を前にしてのみ、命を賭けて守るべきを得たときのみ、人はその身を魔に投じること
が出来る。
『常に死を目の前にして』
『命を賭してでも守るべき者を』
 師匠……今なら分かります。
 あなたが言いたかったことを!
「この命に代えて……汝を断つ!」
 妖魔が腕を振るう。
 一撃で僕を砕くことの出来る必殺の攻撃を。
 だが恐れるまい。もはや我が命に……未練はない!

『せめて……守ってあげたかったんだよ』

「裂鬼流裏奥義……『風舞一葉』」


 カゼニマフヒトヒラ。
 その名の通り静寂と共に放たれた僕の手刀が無数の鎌鼬となり……。
 僕の最後の命と共に妖魔を細かい肉片と化し、闇に消えた。

『武闘家にとってただ一つ報われる死とは、何かのために満足して死ぬことだ』
 ああ……本当に……そうですね……師匠。

『魔的反応の消滅を確認……。風見さんの生存反応も………途絶えました……』
 オペレーターの言葉が終わらない内に、美加香は駆けだしていた。
「待てっ!美加香っ!」
 長瀬の制止の声も耳に入らない。
 美加香は必死に走っていた。
 謝らなくちゃいけないことがある。
 詫びなければいけないことがある。
 それで許されるとは思っていないけれど……。
 許されなければなんでもするから。
 一生あなたのために仕えて、死んでもいいから。
 産めと言われればあなたの子供だって産むし、なれと言われればあなたの奴隷にだって
なるから。
 あなたに使わせた一生分を、きっと返すから。
 だから、だから死なないで。
 ひなたさん――――――――


『こ……これは!?』
「今度は何だっ!」
 長瀬の声に、画面を食い入るように見つめていたオペレーターは我に返り、報告した。
『し…信じられません。こ……こちらが何もしていないのに………!』
「だから、何があったんだっ!」
『魔道ジェネレーター起動!マルティーナにエネルギーが猛烈な勢いで流れ込んでいます!
き……起動!マルティーナ、起動します!』
 しばし長瀬は言葉を失い、一拍遅れて叫び声を上げた。
「な……なにぃぃぃ!?」


「な……なんだ……?妖魔共が退散して行く……いや、ゲートに吸い込まれて行く?」
 緒方はごくりと唾を飲むと、慌てて走り出した。
「何だ!何が起こっている!?」



 ねぇ……起きちゃうの?
 うん。この人が心配だから。
 そうね。この人は私達を守ってくれたものね。
 わかったよ。ボクも起きるよ。
 ねぇ、この人起きないよ。壊れちゃったのかな。
 人間は壊れないわ。でも、心は壊れるのよ。
 心?
 心は壊れるの?
 ええ。辛いこと、恐いこと、そんな生きているのが嫌になることに会うと壊れるの。
 じゃあこの人は生きてるのが嫌になったの?
 このまま死んじゃった方がいいの?
 この人は違うわ。この人は満足して死んだのよ。
 満足?
 どうして?
 人間はね、誰かのために死ぬことを誇りに思える生き物なのよ。
 ええ……?わかんないな。
 あたしは分かるよ。この人は凄い人なんだね。
 そうね。本当にそうすることは難しいことだから。
 結局、どうするの?満足してるなら生き返らせない方がいいの?
 姉さん、どうするの?
 ……この人のために泣いている人が居る。
 え?
 泣いている人?
 ……その人を守ってこの人は死んだのに、この人の死によってその人は悲しんでしまう。
 じゃあ。
 生き返らせるんだね!
 ええ。
 でも、泣いてる人って誰なの?
 この人は誰を守って死んだの?
 それはね……私達のお母さんよ。
 お母さん?
 お母さん……初めて聞くのに……懐かしい……。
 さあ、ティーナ、ルーティ、手をかざして。いっせーのーで、でいくわよ。
 うん!
 よぉーし!
 いっせーのーで!


 私がそこに着いたとき……。
 私の三人の娘達がひなたさんを囲んでいました。
 娘達は私を見てにっこり笑うと、ひなたさんに光を注ぎ込みました。
 あまりの閃光に私が思わず眼を閉じると……。
 ぴん、と私のおでこを指で弾いた人がいました。
「おいおい、目の前で奇跡が起こってるっていうのに眼を閉じるヤツがあるか」
「……ひなたさん」
 私が思わず呟くと、ひなたさんはにっと笑って親指を突き出しました。
「ただいま」
「…………ごめんなさい」
 ぴんっ。
「でこぴん2。謝られても嬉しくないな。それより言うことがあるだろ?」
 だから、私は、最高の笑顔を浮かべて、言いました。
「お帰りなさい。それから……ありがとう」
 それから、私は16歳に設定したはずなのに何故か7歳くらいに縮んでしまっている子
供達を抱きしめて、頬摺りしながら言いました。
「……ハッピーバースディ」


 緒方は呆然としてその光景を見つめていた。
「人を……生き返らせる……!?それこそ……奇跡だが」
 だが実際に風見はこうして生き返った。精神を粉々にされたはずなのに。
 それは……人の業ではない。
「俺達は…いや、赤十字美加香、君は……何を作ったんだ……?」
『私…神様を創りたいんです』
 まさか本当に神を創ったのか。
 あの三体のHMは異界の女神の依り代にしか過ぎなかったのではないのか。
 自分は気まぐれに…とんでもないことに手を貸してしまったのではないだろうか。
「奇跡……か。緒方君、君は神様は信じるかね?」
「……まさか。俺はニヒリストです」
 長瀬はにかっと笑うと、言った。
「私も信じちゃいないが……あんな可愛い神様なら居てもいいと思うね」


 11月15日
『今日、押入を掃除したら昔の開発日誌が出てきた。
 マルティーナがこの世に生まれてからもう半年が経っている。
 それにしてもつくづく思うのは、幸せだ、ということだ……』




 私がこの学園に来てからもう半年近くになる……。
 倫理の教鞭を執り茶を飲んで過ごしているとまるでもう十年くらいここにいるような気
分になるから不思議だ。
 マルティーナの謎を解明するためにこの学園に潜り込んだが……。
 なんだか今ではどうでも良くなってしまった。
 とりあえず理菜が身の回りの世話を焼いてくれるし……。
 生活に不自由することもない。
 考えて見れば私もすでに27、もう高校生から見たらおじさんだ。
 ここいらで隠居というのも悪くはないかも知れない。
 それにしても……平穏だ。
 おや、向こうを歩いているのは風見君と美加香ちゃんか。
 美加香ちゃんは幸せそうだな……なによりだ。
 とりあえず私には何も言うこともないが……まぁ、仲良くやってくれ。
 ふぅ……学園は今日も……平和だ。

              おしまい

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
み:今回のテーマは!?
ひ:「グロいダーク」
み:実行されてますかっ!?
ひ:かなり(にやり)
み:自信ありげですね?
ひ:久々に自分が納得できるものを書いたって気分だねぃ。
  んー、骨の髄までダークな僕。
み:ところで今回三人称と一人称が恐ろしいくらい入り交じってるんですが。
ひ:効果です。
み:…………あくまでも自分の罪を認めない気かぃ(汗)
ひ:狙ったんだってば!読みにくいかも知れないけど、「良い台詞」を前に出した書き方
  をしてる(つもり)なので勘弁して下さいな、と。
  さて……今回のごめんなさい大賞はっ!?
み:OLHさんに決定でーーす!(どんどんぱふぱふ……)って、出てないじゃないです
  か!
ひ:ちょびっと出てるぞ。
  いつまでも書いてくんないからとうとう自分で書いちゃったい。
み:身勝手な……
ひ:締め切りのばすあんたが悪い(断言)
み:謝る気は無しかい。
ひ:さっき謝ったからいいのだっ!
み:何て人。
ひ:………………………生意気だな(ぼそり)
み:びくっ!?
ひ:タイトルになってるからっていい気になってんじゃねえぞこの貧乳!
み:ああっ、再びっ!?
ひ:貧乳貧乳貧乳貧乳ーーーっ!この貧乳体型がっ!でもってミサイル娘ーーっ!
  貴様なんぞ二つ合わせて「ミサイル体型娘」だぁぁーーっ!!!
み:合わせるなぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!(号泣)
ひ:さーて気持ちよく虐めたところでっ!
み:……ううっ、又来週ですっ……
ひ:ではでは「学童疎開中」風見ひなたと!
み:「付き合わされてる不幸者……」赤十字美加香がお送りしましたっ!

 追伸1
 実はこの話のサブタイトルは
「ごめんねOLH書かないからかいちゃったよてへ☆」
 である。

 追伸2
 マルチの誕生日は「緑の日」で、なんか計算が合わない。
 そりゃ娘三人も同じ日に生まれてるもんなぁ……
 とゆーわけで深く問わないように。
 Lメモは時間がループしてるしねぇ……。