Lファンタジア第六話「暗黒の下りる世界で」 投稿者:風見 ひなた
 辺境―――。
 見捨てられた土地に住まう者たちには数多の種類が存在する。
 中央に住むことが出来ない貧民。
 伝統ある土地を頑なに守り続ける一族。
 そして人を嫌う世捨て人に、何らかの理由で中央から逃げ出した者……。
 俺達は今辺境にたどり着く。
 そして見渡す限りの大平原を前に出た台詞は……。
「ど田舎」
「いや、単刀直入にそう言われても……」
 貴姫がつつっと汗を垂らしている。
 俺は彼女を横目で見て、訊いた。
「んで?俺達はこんなクソ田舎に何しに来たんだ?」
「クソ田舎……。ま、まあとりあえずこの先にある集落に行かなくてはなりません」
 うーん………大丈夫かよ。
 大体こいつらすっかりピクニック気分でやんの。
 もともと学者の琴音はいいとして、旅慣れたアヤカや沙耶香までのほほんとしやがって。
 ………特にアヤカ。もしかしてもう自暴自棄になってんじゃねえか?
 まぁアヤカが使い者にならなくてもなんとかなるよな。
 沙耶香は相変わらず無意味に上機嫌だ。……もしかして単なるバカか?
 で、琴音は……何の疑いも抱いてねえな。
 今こいつが持ってるサックに入ってる水筒は俺が昨日の晩にしくんだ特別製だ。
 ……そう、例の薬が盛ってある。あんなガキに脅迫されるのは癪だが命には代えられね
えからな。まぁ飲んだところで別には影響はなかろうが。
 まぁちょっとばかりは良心が痛んだりもするが……別にいいよな。
 はぁ。気が滅入る、早いとこ目的地に行こう。
 俺は抜けるような青空の下で歩みを進めていった。
 と、そのとき。
 突如空が暗くなったかと思うと、なにやら駆動音が聞こえてくる。
 この世界には存在しない音だ……。機械の音である。
 俺が空を見上げると、そこには巨大な船が浮かんでいた。
「な……なんだありゃ?」
「魔道船……?」
 俺の疑問に答えたわけでもなかろうが、琴音がぽつりと呟いた。
 そして、貴姫とアヤカがぎょっとしたように琴音を振り返る。
「ま、魔道船!?魔道船って言うと、魔道士教会の秘密兵器!?」
「古代遺跡から発掘されたっていう幻の空飛ぶ船よね!?」
 琴音は二人の声に重々しく頷いた。
「はい……でも、何でこんな所に?」
 魔道船はこのまま俺達の上を通過するかと思ったが、いきなりぴたっと静止した。
 なんとなく……俺には奴が何をしたいのか分かった。
「……撃つ気だ」
「へ?」
 そして数秒後……俺の予測を実証するように魔道船からレーザー砲が放たれた。

 Lファンタジア第六話「暗黒の下りる世界で」

「ふふふ……トラトラトラ!見たか勇者めっ!」
 そう叫ぶと、OLHは得意げに胸を張った。
「所詮貴様ごとき猿がこの俺に勝てるはずもなかったのだ!わはははははははっ!」
 なんだかもう綺麗さっぱり、といった表情である。
 そりゃここ一ヶ月ずっと頭を悩ませてくれた恋敵が居なくなった男の気持ちったらこん
なもんだろう。
 その横の座席に座っていた少年が、少しばかり不満げに呟いた。
「……これ、私の船なんだけどなぁ」
 この船は古代文明の産物、魔道船である。
 空を飛び強力な砲撃を放つことが出来る魔道士教会の秘蔵であり、この船に搭乗する
艦長こと冬月は古代遺跡に眠っていた古代人の生き残りであった。
 OLHは振り返るとばんばん、と少年の肩を叩く。
「ありがとう冬月君!君のおかげで勇者は倒された!さあ、早速琴音を迎えにメイプルキ
ングダムへ向かおう!」
 だが、冬月は怪訝そうにOLHを眺めていた。
「……迎えに行くって……琴音様は吹き飛んでしまわれたじゃないですか」
「何いっ!馬鹿な、どこのどいつがいつの間に!?」
 …………………この人、本気で言ってるんだろうか。
 冬月が言い出しかねていると、その横に座っていた麗がぽつりと言った。
「先ほどの砲撃で勇者智波、アヤカ、琴音、貴姫、沙耶香の消滅を確認しました」
 ひきっ、とOLHの肩が震える。
 冬月はおそるおそる、といった表情でOLHに言った。
「あのぉ……さっき勇者を見つけ次第何があっても砲撃しろ、と言われたので……」
「……ほぉ」
 無表情にOLHは頷くと……。
「貴様ぁぁぁ!!!琴音さんの仇だ、この場で死にやがれぇぇぇぇぇ!!!!!」
「うぎゃあああっ、苦しいっ!死ぬ、死んでしまいますっ!」
「きゃーーっ!?船のコントロールがぁぁぁ!?」
 どたばたと暴れる三人をよそに、笛音は一人拳を握りしめていた。
「やった……」
 ふるふると身体が震える。
「これでお兄ちゃんは私だけのものーーーーーーーっ!!!!!!!!」
 このクソガキ様は母親が死んだことよりも恋人をゲットできる方が嬉しいらしい。
 非常に危険なお子様である。
 と、そのとき笛音の喉から音がした。
「……ひっく」
 しゃっくりというわけではない。
 それではがたがたと身体を走る寒気が説明できない。
 一体この震えは何なのか……考えて、笛音ははっとする。
 これは……もしや、あの勇者に持たせた……。
 次の瞬間、笛音はつかつかとOLHの側まで行くと、思いっきりその頬をひっぱたいて
いた。
「大っっっっっっっ嫌い!!!!!!!!」
 空間が静寂に包まれる。
 そしてOLHは叫んでいた。
「嘘だぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 とぽとぽ……と琴音の口に水筒の水を注ぎ込むと、アヤカはため息をついた。
(………これで目を覚ましてくれないとやばいかも………)
 周囲を見渡し、ため息をまた一つ。
 空が青い。
 山肌は茶色い。
 そして太陽はさんさんと光を地に喰らわし続ける。
 ……どこだ、ここ。
 鳥も動物もこの荒野には見えない。
 貴姫は側でぐったりと倒れている。
 思い切り遭難しているなぁ……。
 あの魔道船に砲撃を喰らって吹っ飛ばされ、気が付けば三人で倒れていたのである。
 智波と沙耶香は何処に行ったものか姿も見えない。
(ホントに………あのバカはっ!)
 ぎりっ、と手に持った水筒が軋んだ。
(まったくあのアホに出会ってから私の人生ケチのつきっぱなしじゃない!あちこち引き
ずり回されるわ王国は潰されるわ……挙げ句の果てに第二婦人?)
「ふざけんなあの浮気勇者ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 怒りの余りアヤカは思いっきり怒鳴った。
 本気で一度痛い目を見せてやらなければ気が済まない。
(見てなさいよ、いつか復讐して……)
 そのときどどどどどどどど……という音が近付いてきているのが聞こえた。
 アヤカはぎくっとしてきょろきょろと周囲を見渡す。
 そして一つの方角から凄まじい勢いで土煙が上がってくるのが見えた。
「あ………えーと?」
 どこにでも居る悪人の活用形。
 海にいる盗賊は海賊。山にいる盗賊は山賊。砂漠にいる盗賊は砂賊で……。
 荒野にいる盗賊はやっぱり盗賊なのだった。
「おうおう、可愛い姉ちゃんが三人も行き倒れてるぜ!」
「早速アニキに献上だっ!」
 最悪。
 アヤカはくらくらと目眩がするのを感じた。


 身体が痛い………。
 どこだ、ここは…?
 俺は一体…………………………。
「う………」
 微かに口から声が漏れる。
 目の前が暗くなった。
 意識が途切れてきたのではなく、誰かが俺の顔を見下ろしているのだ。
「気がつかれました?」
 女の……声? 
 俺はどうしようもないのどの渇きにじりじりと迫られ、呟いた。
「み……水を……」
「ミミズですね、どうぞ」
 にょろにょろ。
 ……………………………………………………………………………………。
「ぶ、ぶん殴っていいか?」
 女は俺の目の前に差し出したミミズをひょいとひっこめるとくそまじめな顔で言った。
「安心して下さい、気付けの冗談です」
「安心できるかっ!」
 俺はがばっと飛び起きた。
 ったく何でこの話に出てくる連中はそろいもそろって人の精神をさかなでして……。
 あれ?
「か……楓?」
「はい」
 俺にちょっとお茶目な冗談をかまして心臓を止めようとしたのは俺も結構よく知ってい
る著名人、柏木楓だった。もっともどんな風に精神がねじれているか知れたもんじゃない
が。
 俺が反応に困っていると、がらりと奥の扉が開く。
 いや……扉というか……襖だ。
 よく見ればこの部屋、全体的に日本建築である。
 しかも楓も入ってきた男も、純和風の着物を着ており……。
「客人、気が付かれたかな?」
「疲れたよ、思いっきり」
 俺が半眼で言い返すと、西山は嬉しそうに笑った。
「ははは、客人もシャレが分かる人のようだな。結構結構……全くそれに引き替え弟子共
ときたら……」
 わからねえよっ!
 あーっ、畜生!何でこう次から次へと訳の分からないことばっかりおこるんだ!?
「一体ここはどこだよ!?何で俺はここに居るんだ!?それにみんなは……」
 みんなは………。
 おい。ちょっと待て、あのうるさい道連れ共は何処に行きやがった!?
 そんな俺を見て、西山はにわかに真剣な顔を作った。
「君は荒野の真ん中に倒れておったのだぞ?そこをこの楓が拾って助けてくれたというわ
けだ。生憎と君の他に倒れていたのは……」
 西山がそう言ったとき、再び襖が開いた。
 正座してしずしずと入ってくるのは、人形のように美しく清楚な、そしてどこか愛らし
さも備えた着物美人で……。
 あれ……。この人どっかで見たような……。
「智波さん、お体の方は大丈夫ですか?」
 そして彼女はにこりと俺に微笑み掛けた。
 ……まさかっ!?
「さ、沙耶香!?沙耶香なのか!?」
「はい」
 着物を着て俺の前に現れた沙耶香は、いつものトレジャーハンターの服を着ているとき
よりも何倍も可愛らしく見えた。
 ……なんか、悔しいぞ。
「話は沙耶香殿から聞かせて貰った。新婚旅行の途中でひどい目にあったな」
 西山はうんうん、と俺達を眺めて、言った。
 ……………………………。
 えっ?
「ちょ、ちょっと待った!なんだその新婚旅行ってのは!?」
「照れるな照れるな。ま、怪我が完治するまでゆっくりと休まれよ。…では水入らずでな」
 おいこら待てっ!何を勝手に納得してやがる!?
 俺は文句を言おうと立ち上がろうとした。
 だが、右腕をぐいと引っ張られて少しバランスを崩す。
 振り返ると、沙耶香が目に涙を浮かべて俺を見上げていた。
 ……こ、このアングルからの涙目攻撃に耐えきれる男なんて居るのか……?
 そして俺が迷っている間に、楓ががらっと襖を閉めてしまった。


 廊下に出た二人は、目配せを交わし合った。
「あなた……どうやら、あの方々はメイプルキングダムの……」
 楓がうって変わって不安そうな表情を浮かべている。
 西山は一つ頷くと、そのおかっぱ頭をそっと抱き寄せた。
「ああ…カザミ達の使者だろう」
「どうなさいますか?私……私、折角レザムヘイムも御姉様達も捨てて参りましたのに…」
 涙を浮かべる楓の涙をふき取るように、西山はその小さな身体を抱き留める。
「しばらく様子を見よう……大丈夫だ、必ずお前だけは私が守ってみせよう……」
「英志さん………」
 二人は廊下の前でひしっと抱き合っていた。
 しばらくの時が流れて……。
 やがて西山は身体を離した。
「さて、もう一人のお客人の相手もせねばならん。行くぞ、楓」
「……はい、あなた」
 そう言って、楓はにっこりと笑った。


 上空……。
 魔道戦艦冬月はゆっくりと旋回を続けていた。
「遅いなぁ……OLH様達」
 冬月がぼやくと、お茶を運んできた麗が慰めるように肩を叩いた。
「大変ですね、魔道士教会の使い走りは」
「そんな私に使われる君はより大変だと思うが……」
「全くです」麗はそう言って真顔で頷いた。
 笛音が突然暴れ出して救命ポッドで船から飛びだしてから、OLHも慌てて後を追った。
 おかげで冬月達は上空で延々と待ちぼうけする羽目になってしまったのであった。
「あーあ、ホントにもう……」冬月はもう何十回も繰り返した言葉を呟いた。
「早く帰ってこないかなぁ」
 と、そこにびーっ、という電子音が響いた。
 戦艦搭載の索敵装置が何か異変を感知したらしい。この装置は周囲に存在する魔道エネ
ルギーの高低によって敵の位置を判別する。
 もっともこの時代、すでに通常のこの船の敵たる魔道船が存在するわけはない。
 ではこのエネルギーを放射している敵とは……?
 冬月は軍人の顔になると、情報の分析を急いだ。
「一体何事だ!?」
「突然高エネルギーを持つ物体が現れました!十時方向300、高度−20!」
 麗の報告に、冬月は顔を曇らせた。
「こんな場所に一体何が………?」
 そんな冬月に、麗が緊張した面もちで呟いた。
「お忘れですか………?我々の時代の末期に世界を破滅に導きかけたヤツのことを!」
「ま、まさかっ!?ヤツが再び蘇るというのかっ!?」
 とてつもなく邪悪な空気を周囲にまき散らしつつ、反応はますます大きくなる。
 そんな事態にありながら、二人はただただ黙って現状を見守るしかないのだった。


 俺はただただ放心したような表情で天井を見つめていた。
 むきだしになった胸にはうっとりとした顔の沙耶香が顔を寄せている。
 沙耶香もやっぱり服を脱いでいた。
「私、幸せです……智波さん」
 そう言って沙耶香はほうっと息を吐いた。
 そんな幸せ真っ盛りの沙耶香とは裏腹に俺はここに至った過程をぼんやりと思い返し
ていた。
 別に……こうなるような事は何もなかったはずだ。
 ただ沙耶香に何故嘘を言ったのかを問いつめただけだ。
 そしてその健気さに少しくらくらきてしまっただけだ。
 で、沙耶香の身の上話を聞かされて、ほろりときたところにすがるような目で
「私に……勇気を下さい」
 などとすがるような目で囁かれて……………。
(あああああああっ、俺のばかばかばかばか!)
 思いっきりこうなって当然のシチュエーションじゃねえかーっ!
(セリカ様ぁぁぁ、智波は……智波は裏切り者ですぅぅぅぅぅっ!!!)
 しくしくしく、セリカ様は今でも俺の助けを暗い牢獄で待っているはずなのにーっ!
 ……あ。
 沙耶香が俺を見つめてる。
「あの………後悔されてますか?」
 うううううううっ………可愛いっ………可愛すぎるっっっ!
「いや…後悔するような軟弱な気持ちで抱いたわけじゃない」
(大ウソつきーーーーーーーーーーーーっ!)
 あああああっ、沙耶香がいかにも嬉しそうな顔で俺を見てるっ!?
 こ…こいつはもう泥沼ってヤツではぁっ!?
 ひーーっ、俺の馬鹿野郎っ!
 これじゃあ学校に帰ってもまともに沙耶香の顔が見れねえぞ!?
 ……いや、帰らなきゃいいだけの話だけど。
 しかし、これから……どうすりゃいいんだ?
 俺が迷っていると、がらっと襖が音を立てて開かれた。
「ついに見つけたぞ、勇者智波ぃぃぃぃっ!!!ここで見たが百年目、今日こそ…」
 そいつは見覚えがある奴だった。二週間ほど前に俺に襲撃を賭けてきた身の程知らずだ。
「OLH……今、取り込み中なんだが」
「……すまん」
 俺が半眼で呟くと、以外にあっさりとOLHは襖を閉めた。
 ……結構、いい奴かも。
 俺はさっさと服を着ると、沙耶香に囁いた。
「んじゃ、行くか」
「え?」
 俺はこそこそと沙耶香の手を引いて、反対側の襖を開けると部屋を出ていった。
 ………………。
「ふう、ここまで来れば一安心♪」
 俺は廊下に出ると額の汗を拭った。
「んなわけあるかーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 どかっ、と襖が蹴破られてOLHが飛びだしてくる。
 ちっ、しつこい奴だ。
「てめえ勇者!どこまで俺をなめりゃ気がすみやがる!?」
「いや、お前がつきまとうのを止めてくれればすぐにでも関係なくなるんだが」
 俺が冷静に指摘すると、OLHは顔を真っ赤にして抗議の声を上げた。
「ふざけんなっ!俺の琴音さんをかどかわしたあげく…笛音に一服盛りやがったな!?」
「は?」
 こいつ、何の話をしてやがるんだ?
 俺あのクソガキに何かしたっけか?
「とぼけるな!笛音に俺を嫌いになる薬を飲ませやがったろ!?」
「いや、俺が飲ませたのは笛音にじゃなく琴音にだが……」
 言ってからどれだけこの発言がやばいものだったかに気付いた。
 沙耶香を抱いちまった事で多少混乱していたのか……。
 案の定、OLHは額一杯に青筋を浮かべ、ぶるぶると怒りの余り震えだした。
「こ……こ……殺す!てめえ、絶対にぶち殺してやるっ………!」
「し、しまった!?」
 俺の超大馬鹿野郎ーーー!
 よりにもよってOLH本人に「OLHを嫌いになる薬を飲ませた」なんて言う奴がある
か!怒るに決まってんだろが、何考えてんだ俺は!?
 大方笛音はもともと琴音の一部だから、薬が琴音から笛音に精神をつながって効いたん
だと思うが……今はそんなことどーだっていい!
「ま、ま、待てっ!そんなら琴音に惚れ薬飲ませりゃいいだろ!?」
 俺は必死に説得を試みたが、それはまたしても逆効果だったらしい。
 OLHはさらに怒りを濃くして、俺を睨み付けた。
「お…おのれっ…!さらに琴音さんの恋心をも踏みにじるつもりかぁっ!?」
 ああああっ、逆効果!?
 何を言っても無駄モードに突入したOLHは全力で叫んだ。
「智波ぃぃぃぃーーーーーーーーっ!死ねぇぇぇーーーーーーーーーーっっ!!」
 その瞬間……世界が暗黒に閉ざされた。


             すまん……また続くかも