Lファンタジア第五話「ロープレって後半のストーリー展開が早いよね」 投稿者:風見 ひなた
 戦争……。
 人間という種族が道具の進化の過程に置いて通らなくてはならなかった道。
 そこには正義も悪もない。
 ただ統一された意識と意識がエゴのためにぶつかり合うのだ。
 そう、こんな風に。

「敵主力部隊、陽動部隊を捉えました!敵陣営25000対陽動部隊4500!」
 水晶玉を覗き込んでいた少女が声を上げた。
 俺達はちらりとあぐらをかいて座り込んでいた男を見る。
 一介の傭兵から一国の王にのし上がった男だ。
 その周囲には彼の部下、というよりは仲間といえる一同が集っている。
 弱小国にしか過ぎなかったメイプルキングダムを人界最大の国家に仕立て上げた精鋭達
だ。何の比喩もなく、一騎当千の実力を持つ人々。
 琴音とアヤカ、そして何故か付いてきた沙耶香を加えた俺達四人を合わせれば、もう何
も恐れるものなどなかった。
 今動かせる全兵力全てを陽動につぎ込んでも、メイプルキングダムは勝利する。
 軍隊など必要ない。ただここにいる11人さえいれば。
 男が立ち上がり、腰の大剣を抜き放つ。
「………突撃!」
 その号令に従って、俺達は丘を駆け下りていった。
 丘の下には町があり、そしてその中央に王城がある。
 町を駆け抜けて、王城に走り込み、剣で、魔術で、炎で敵をなぎ倒し、俺達は一丸とな
って王宮に侵入した。
 泡を食った警備兵達が出てくるが、所詮俺達の敵ではない。
「貴姫さん、岩下さん、セリスさん……パートナーと共にここで敵を倒して下さい!アヤ
カさんと琴音さん、沙耶香さんは遊撃を!勇者殿と美加香は僕と一緒に!」
 号令と共に一同は持ち場に散る。
 俺はこの男とひたすらに前に進んだ。
 前からいくらでも湧いてでる兵士達はこの男の攻撃の前に敢えなく沈んで行く。
 そしていつしか俺達は王の謁見室に立っていた。
 王は魔法の武具に身を包み、憎々しげに俺達を睨み付けている。
「成り上がりのバカ王と悪逆非道の勇者もどきがっ!私とて一国の王、正々堂々と……」
 口上を無視して俺達は自分の武器を叩きつけた。
「我は放つあかりの白刃!」
「外道メテオ!」
 強烈な魔術に魔法の武具を吹っ飛ばされ、無数の武器に文字通り地面に縫いつけられ、
王は信じがたいといった表情をした。
「お……おのれっ……自ら敵城に乗り込み、一騎打ちに応じない…お約束を無視しおって
からにっ……」
「知ったことですか」
 その呟きと共に………男の大剣が王の身体を一刀両断に切り裂いた。
 そして一つ息を吐くと、彼は勢いよく宣言した。
「メイプルキングダムの王、カザミ=ヒナタと勇者智波がここに国王を討ち取ったりっ!」

 こうして部隊の接触から30分、全く関係ないところで150年の栄華を誇ったローゼ
ス帝国は滅亡した。
 人界の国家がわずか二つになった瞬間であった。


 Lファンタジア第五話「ロープレって後半のストーリー展開が早いよね」


 母さん、お元気ですか。
 俺は今ファンタジーな世界で勇者をやってます。
 最近では貴姫に連れられて、気が付けばひなたんの国で精鋭部隊やってました。
 なんだかもう水を得た魚のような勢いで、50近くあった国をあっという間に統合して
しまいました。もう残る国家はたった一つだけです。
 今の状況を一言で表現するなら……。

「智波さん、私お弁当作ってきたんですけど………」
「何割りこんでんのよ。智波は今あたしの弁当食べてんの」
「あの……デザートなんて……」
(…ハーレムです)
 いやぁ、こんなに上手くいっていいのかなぁ………。
 ちなみに今の俺の待遇は国賓って事になっている。
 だが、はっきり言ってこのもてなし方はそんなものじゃない。
 どう考えても平和ボケした放蕩貴族並み。どっちかと言えばスルタンって感じだ。
 俺の道連れ三人も同等の扱いを受けている。
 それだけひなたんは俺を手放したくない……ってことなんだろう。
 なお、ひなたん自身や岩下、セリス、貴姫なんかはかなり質素な生活をしてるらしい。
 仮にも世界にただ二つの国の国王と重臣なんだからもっと贅沢してもいいとは思うが…
まあ人の勝手だけどな。
 そうそう、それから俺に弁当など作っているアヤカは既に帰る国がない。
 夜寝てる隙に投獄し、次の朝日が昇るまでにはしっかりとクルスガワ王国を打倒してい
た。アヤカにして見れば一晩の内に姫様から庶民以下にまで落とされてしまい、あの時は
錯乱して大変だったなぁ。
 結局戦闘力の高さを買われて現在もメイプルキングダムに仕えているが、肩書きはしっ
かりと「勇者様の第二夫人」になっている。
 早速逃げ出そうとしたのだが、俺が
「ふーん。別に出てってもいいけど……あー、でも今じゃ冒険者ギルドの実権はメイプル
キングダムが握ってるしなぁ。ひなたんがちょこっと口を聞いたら仕事回ってこなくなる
ばかりか賞金首になっちゃうかもなぁ。なんせひなたん暴君だもんなぁ。路頭に迷ってい
き倒れになるか売春宿で働くか……なーんて末路はあんまり嬉しくないよなぁ」……など
とちょっとジョークをかましてやると泣きそうな目をして俺を睨み付けたものだった。
 それが大体一週間前の話。
 今ではとうとう観念して俺に弁当など持ってきてくれるほどになった。
 人間変われば変わるもんだ。ひとえに俺の教育がいいからだな、うん。
 ……もっとも俺はまだキスもしてないぞ。
 しつこいようだが、俺が愛するのはセリカ様ただ一人である。
 当然第一夫人の座はセリカ様のために空けてあるのだ。
 そしてその日はもうすぐそこにある。
 世界最古にして最強最大の国家、レザムラントの王都に存在する魔道士教会…そこに封
印された魔界への門を開けば、にっくき誘拐犯との決着が待っているのだ。
 ふっふっふ……セリカ様、あなたの智波は今お側に参ります!


 暗い闇の向こうからかーん、かーんと響く音が聞こえてくる。
 その音は闇に閉ざされた王宮を埋め尽くさんばかりに響き続けている……。
「うるさい」
 魔王は耳を塞いで呟いた。
 その膝の上ではムラサキが魔王の真似をして耳を塞いでいる。
「魔王様ぁ……ムラサキ、お耳が痛いよぉ……」
 そんなムラサキの頭を軽く撫でると、魔王はぱんぱんと手を打った。
「誰か!誰かいないの!?」
 召還の命を受け、床に描かれた魔法陣が鈍く輝く。
 そこからは白い煙が吹きだし、やがて粉塵の中から一人の美女が現れた。
「魔王様……いかがなさいました?」
「どうしたもこうしたもないわよ。あの騒音は何?ムラサキがすっかり脅えちゃってるじ
ゃない」
 魔王の訴えに、ヤヨイは無表情のまま、しかしわずかに顔を伏せて応えた。
「我等の軍団長殿と勇者殿、それに剣士殿が勇者を呪殺すべく揃って最も原始的な呪術を
試みております」 
 呪殺系魔法が勇者に通じないのは既に分かっている。
 女神の祝福を受けているものにはあらゆる呪いは無効化されてしまうのだ。
 それを知っていて呪うとは、一体どういう意味か……。
 しばし考えてみて、魔王は結論にたどり着いた。
「つまり……好きな女の子取られて悔しい女々しい男共が揃いも揃って後ろ向きの友情を
発揮して憎い男の形代に怒りをぶつけているのね?」
「ご慧眼で」
 耳を押さえたままのムラサキが、魔王を見上げて口を挟む。
「ムラサキ知ってるよ。それって、『丑の刻参り』っていう呪殺魔法なんだよね」
「そう。ありとあらゆる呪殺の中で最も効果が出ない……ただの迷信よ」
 そう言いながら、魔王は眉をしかめている。
 ヤヨイはそんな主君の顔を見て、訊いた。
「いかが致しましょう」
「埋めてでも止めさせて」
「ではそのように取りはからいます」
 魔王の即答にてきぱきと応え、ヤヨイは後ろを向ける。
 ……と、目が不意にこちらに配られた。
「そうそう……人界で急激なスピードで統一が行われつつあるそうです」
 それを聞いて、魔王はぱっと顔を輝かせた。
「やっと来たのね?それで、今どの辺り?」
「残す国をレザムラントに留め、魔道士教会を占拠する準備に取りかかっています」
 魔王の顔がにいっと歪む。
「あと………少しね」
「はい。……報告を終了してよろしいですか?」
 魔王の無言の頷きで、ヤヨイはその場を後にする。
 後に残るのは魔王とその膝の上のムラサキ、そして響きわたる音のみ。
 突然闇の向こうから叫び声が三つ聞こえ、沈黙した。
「あっ……静かになったよ」
 ムラサキの無邪気な声に微笑みを返しながら、魔王は考えていた。
(さあ、魔道士教会を攻略できるか……それともレザムヘイムに敗れるか……)
 どちらにしても。
(嬉しいわ……ついにまみえるときが来たのよ……我が半身)
 魔王は無意識のうちに笑いをこぼす。
 それが自分に向けられたものだと思い、ムラサキは魔王にしがみついてゆく。
 その小動物がじゃれつくような動きを受け止めながら、魔王はしばしの愉悦を味わう。


 所変わってレザムヘイム。
 すでに世界帝国と化したメイプルキングダムにただ一つ抗うことが出来る土地である。
 そして世界最古の伝統を誇るレザムヘイムに建設されたのが全世界を範囲とする魔道士
の統括組織魔道士教会の大教会である。
 魔道士達こそ女神の恩恵を最も強く受け継ぐものである、と説く彼等にとってメイプル
キングダムの王、そしてそれと手を組んだ勇者はまさに目の敵と言える。
 現在天下分け目の闘いに突入したレザムヘイムが魔道士教会と手を組まないわけがなか
った。
 そして弱ったりといえども魔道士教会とレザムヘイムの連合軍はメイプルキングダムを
凌駕して余りあるものであった。
 部屋に入った彼女を迎えたのは男の静かな声だった。
「よく来ました、千鶴殿………」
 そう言って男は彼女に向かって複雑な形に組んだ手印を見せる。
 魔道士教会の伝統ある祝福である。
 そしてこの形はその中でも最高位に当たるもの……教会の最高権力者に当たる教皇にの
み許された形であった。
 この十代半ばに見える男……この少年こそ全世界に広大なネットワークを持つ魔道士達
の互助機関の総帥なのである。
 だがその表情は穏やかで深い威厳に満ちている。
 かーんかーん。
 そしてそれに対する二十代前半と思われる美女の態度も気品に溢れたものだった。
 何故なら彼女こそこの人界に残ったただ二つの王国の片割れを統べるもの。
 魔法神族の一員にしてレザムヘイム女王、千鶴である。
「教皇、この両日中に戦況は変わります。ついに全人類を巻き込んだ決戦の時が参りまし
た。……お力添えはいただけるのでしょうか」
「無論です。私の号令によって世界各地の魔道士達が一斉蜂起を行うでしょう。メイプル
キングダムはレザムヘイム軍と剣を交えることもなく瓦解します」
 教皇の返答は自信に満ち満ちたものであった。
 それだけの力が、今この男にはあるのだ。
 かーんかーん。
 しかし千鶴は不安げに首を振る。
「いえ……話では、メイプルキングダムがここまで勝ち抜いてきたのは軍隊を使わずただ
王を初めとした精鋭部隊で敵の王を直接倒したからだとか。たとえ蜂起が行われたとして
も所詮は軍隊の足止め、勇者達は何の問題もなく私の王城に攻め入ってくるでしょう」
 確かにメイプルキングダムの戦い方はまともなものではなかった。
 常識を遥かに超越した国盗り……直接国主を殺されてしまえば命令系統を失った敵軍は
自然と瓦解してしまうものなのだ。後継者が立たない限り、この戦法で滅びない国はない。
 そしてメイプルキングダムの恐ろしいところは王自ら攻め入って敵王家の血族、重臣を
全員捕虜にしてしまうなり殺害してしまうなりすることで後継者を作らせないことだった。
 教皇は千鶴の言葉に笑いながら首を傾げた。
「これは面白いことを……あなたは魔法神族でしょう?あなたが負けるなんて事は、そう。
決してあり得ない」
「……敵の王と勇者は女神の加護を得ているそうです。もしや、とは思いますが私が負け
るようなことは……」
 千鶴がなおも不安を述べると、教皇はぽん、と足を叩いた。
「わかりました。そこまでおっしゃるのであれば我々の秘密兵器を出しましょう」
 かーんかーん。
「秘密兵器?」
 自信に溢れた教皇の声に千鶴は思わず聞き返した。
  教皇はにっこりと笑うと、繰り返す。
「はい。秘密兵器です」
 かーんかーん。
 そこまで密談を繰り広げてから、千鶴は眉をしかめた。
「ところでこの音は何なのですか?先ほどから頭に響いてくるのですが……」
 教皇ははあっ、と息を吐くとドアの向こうを眺めた。
「『暗黒を統べる者』が祈祷をしてるんですよ」
「えっ?……あの教会ナンバー2と言われる方が帰っていらっしゃるのですか?」
 千鶴は目を輝かせて訊いた。
 世界に広く名を轟かす彼の助けは、非常に大きなものとなる。
 だが教皇の顔色は優れず、なにやら不満そうにさえ見えた。
「ええ。勇者に一心不乱に呪術をかけているところです」

「うぉぉぉぉおのれぇぇぇぇええっ、智波ぃぃぃぃぃ!」
 自室では教会ナンバー2と言われる男が喚き散らしながらわら人形に五寸釘を叩き込ん
でいた。
 その横では紫色の髪をした少女がぶつぶつと鏡に向かって囁いている。
 鏡はメイプルキングダムの王城を映していた。


 ここは………どこだったか?
 俺は、確かしつこくつきまとってくる三人を振り切って……。
 なんだか記憶がはっきりしない。
 それになんだか…足下がふらふらと傾いているような……。
「そうだよ」
 不意に聞こえてきた声に、俺は反射的に振り返った。
 そこに立っているのは黒いローブに身を包んだちっぽけな人影……。
 俺はこいつを……見たことがある。
「笛……音?」
 俺が呟くと、笛音は怒ったようにぷーーっと顔を膨らませた。
「ひどいよ、もうあれから二週間は経ったのにまだお母さんに薬を持ってくれてないんだ」
 そう言われて、俺はハッと思いだした。
 毎日のように繰り広げられる戦争にすっかり忘れていたが、俺はこの子と契約を取り交
わしていた。この子の母、すなわち琴音に嫌われ薬を飲ませてしまわねばならないのだ。
 さもなけば、俺は……。
 その瞬間、ぎりぎりと首が見えない何かに思い切り締め付けられた。
「がっ……!?」
「もう待たないよ。目が覚めたらすぐにでも薬をお母さんに飲ませてね。さもないと……
殺しちゃうから」
 その表情は俺が総毛立つほどあどけなく、酷薄で…………。

 俺は全身から叫び声を絞り出すように叫び、慌てて飛び起きた。
 体中が気持ち悪く粘り着くような汗で覆われている。
 首に手を伸ばせばヨークのタリスマンが俺の首に巻き付いていた。
「………薬、か」
 俺は立ち上がると自室の机の中を漁った。
 殆ど使っても居ない机だが……引き出しからは例の気味悪い薬が出てくる。
 見たくもない色をしていた。
 これを琴音に飲ませるのか……。
 そんなことを思っていると、突然ドアがノックされ無様にも俺は飛び上がった。
 引き出しに薬を放り込み、ドアに向き直る。
「はい、どうぞっ!」
「失礼します」
 ドアの向こうに立っていたのは貴姫だった。
 吟遊詩人の仮面を被った魔道士兼占い師であり………実は隠密だったりもする。
 はっきり言って実に正体不明な奴だ。
「なんだ?俺の寝床にでも忍んできたか?」
 我ながら低俗なジョークをかますと、貴姫をからかうような目で見る。
 すると、貴姫は顔を真っ赤に染めて慌てたように両手をぶんぶんと身体の前で振って見
せた。
「いっ、いえ!そんなわけでは……」
(あれ?)
 てっきり冷徹な顔をして「まさか」とかぽつりと呟く……なんてリアクション取ると思
ってたんだが………まあいいか。
 どうせ俺の貞操はセリカ様だけのもんだしなっ。
「んじゃ何のようだ?俺も忙しいから早く言ってくれよ」
「は、はい……」
 貴姫はこほん、とまだ紅い顔で咳をすると、言った。
「勇者様、王から直々の頼みです。ただちに旅支度をして下さい」
 その言葉と同時にドアの影から思い思いの服装をした三人の少女達がどっと雪崩れ込ん
でいた。
「………お前等………」
 なんか、また変なことに巻き込まれそーだな…………はぁ。


「カザミ君……果たしてレザムヘイムに勝てるだろうか……?」
 セリスの言葉に、カザミはゆっくりと頭を振った。
「無理ですね。僕たちの戦力ではとても千鶴さんに勝つことは出来ない………」
 岩下は冷静に返答するカザミを見ながら、頭を抱えた。
「ミズホの計算でもとてもじゃないが勝てない、という計算が出ている」
 アイハラ=ミズホは古代遺跡から発掘された人型自動人形であり、高度な演算能力をも
つ岩下のパートナーのであった。
 その彼女が断言するのである、カザミの予測は覆りそうにもなかった。
 もっとも誰が考えても勝てるとはとても思えないのだが。
 それほどまでに千鶴の強さは群を抜いているのである。
 加えて、魔道士教会が何の援助もしないはずはなかった。
 こちらの状況は極めて不利にある。
「智波殿の仲間に魔法神族がいただろう?彼女の助けを借りれば……」
 セリスが提案するが、すぐさま残りの二人が却下する。
「駄目だ。千鶴さんの力は魔法神族でも群を抜いている。全然力不足だ」
「彼女にカザミ君、勇者殿の力を合わせても勝つのは難しいだろう……」
 三人の口から同時にため息が漏れた。
 はやり、残された手は一つしかないようだ。
「ここはあのお方の力を借りるしかないか……!」
「そうだね。僕たちの師の力なら何とかなるかも知れない」
「だがそれでも五分には遠い。まだ……何か、必要だ……」
 カザミは立ち上がると、窓の外を眺めた。
 雷雲がいつの間にか近付いてきている。
「ここは賭に出るしかないか……」
「賭?」
 聞き返した岩下に、カザミは言った。
「そう。僕たちはレザムヘイム城下で待機して、勇者どのがあのお方を連れてきたらすぐ
さま襲撃をかける。二、三日は捜索の手を逃れられるだろう。敵も僕たちが町の外から突
撃してくると思ってるだろうから、城下から城にかけてが手薄になるに違いない」
「……もし……連れて来れなかったら?」
 セリスが最悪の仮定を口にする。
 ぴしっ、と部屋中に雷光が轟いた。
 轟音が響く中でカザミは言い切る。
「負ける」
 ごくっ、と唾を飲み込む音。
 そして、雷光。
「どっちみち…魔王を倒せないのなら僕たちがここまで来た意味なんてないんだ」
 カザミが続けたその言葉に、残った二人は深く頷いた。


「あーーーっ、たるいなぁ……雷が落ちてるじゃねえか」
 俺はちらっと部屋の中に目をやってから、はあっとため息をついた。
「沙耶香ちゃんったらお菓子持ちすぎよ」
「だって、非常食は大事ですし……」
「あっ、じゃあ私も何か持って参りましょう」
「あの、バナナはおやつに入りますか?」
 部屋の中にはきゃいきゃいとはしゃいでいるアヤカ、琴音、沙耶香のいつものトリオ。
 そしてその中にすっかり貴姫も溶け込んでしまっている。
 やめてくれよ、頼むから。
 俺はお菓子を捜しに部屋を出てくる貴姫の腕をぐいっと掴むと、ドアの影に引っ張り込
んだ。
 剣呑な眼を作って貴姫に囁く。
「……何でお前まで付いてくんだよ?」
「案内役です」
 しれっとして答えやがって……。
「私が居ないと目的地に着けないじゃありませんか」
「大人しくお目付役だって言えばどうだ?」
 俺がすごんでみせると、貴姫はにっこりと笑った。
「そういえばそんな役目もあったような気がしますね」
 ………………俺、こういう奴苦手かも。
 俺が渋い表情をしているのが見えたのだろう、貴姫はクスクスと笑いだした。
「何がおかしいんだよ……」
 抗議する俺にに貴姫は笑顔を寄せてくる。
「いえ……考え違いをされているようなので」
「はぁ?」
 貴姫はぽんぽんと俺の肩を叩くと、ひそひそと囁く。
「私が案内役に志願したのは決して嫌がらせでも何でもなく……」
「何だよ?」
 俺が呟くと、貴姫は悪戯っぽい笑みを浮かべて素早く俺に身体を寄せる。
「勇者様に興味があるからですよ♪」
 ちゅっ、と小鳥のさえずりのような音が頬に響く。
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?)
 一瞬思考回路がスパークして……。
 気が付けば、貴姫は俺を残して走り去ってしまっていたのだった。
 あーあ、ホントに……厄介なことになってきやがったぜ。

 そんな智波を廊下の曲がり角から見つめる一つの影があった……。
「おのれ勇者……おれの貴姫さんに〜〜〜!!」
 男の名はSage。
 彼の握りしめる壁は怒りのあまりみしみしと音を立てていたのであった。


 そんなわけでまたまた旅に出ることになった勇者智波!
 又一人女の心を魅了して、男の恨みを買っていく!
 進め、勇者智波!旅立て、勇者智波!
 これで恨み買った男の数は五人目だっ!
 いつか背中から刺されるぞ、勇者智波!!

               つづくかもしんない