Lファンタジア第四話「誰か攻略本貸してくれっ!」 投稿者:風見 ひなた
 昨日は西に今日は東に。
 縦横無尽に大陸を駆けめぐる勇者智波。
 ああ、とらわれの姫は今いずこ……セリカ姫を捜して今日も勇者様ご一行は行く!
 行け、勇者智波!
 見事王女様を捜し出すその日まで!

「ところで勇者様」
「なんだ、吟遊詩人A」
 乗り合い馬車の同乗者吟遊詩人Aこと貴姫は目を覚ました俺に訊いた。
「勇者様達はどちらへ向かわれてるんですか?」
 …………………………………………………………………………………………。
「アヤカ?」
 振り返って俺はアヤカの方を見た。
 だがアヤカは遠くのお空を眺めてぼーっとしていた。
 眼が……遠い。
「…………まさか、俺達って行く当てのない放浪の旅をしてるんじゃ…………」
「…………………………………………………………………………………………」
 じわっとアヤカの額に汗が浮かんでいる。
 俺はアヤカの胸ぐらをひっつかむと半泣きになって絶叫した。
「ないんだな!?さては手がかりなんてなにもないんだな!?」
「それがないから諸国放浪して捜してるんじゃないぃぃぃ!」
 ああっ、もしかしてここ二週間にわたる俺達の冒険って………。
「時間の無駄ですね」
 琴音がぼそっと呟き………。
 俺は芹香様の名前を絶叫した。

 Lファンタジア第四話「誰か攻略本貸してくれっ!」

「考えたら俺って悪の魔道士の名前さえ知らないぞ!?」
 俺の声にアヤカはぱたぱたと内輪で自分の顔を仰いだ。
「いや……いくらなんでも一王家の総力つぎ込んで不明じゃかっこわるいじゃない」
 んなもんかっこわるいもかっこいいもねーだろが!
 畜生、飛んだ無駄足踏ませやがって!
「で、これから俺達はどこにいきゃ良いんだ!?」
「さあ」
 アヤカののほほんとした答えに俺は頭が痛くなった。
 お前なぁ、自分の国の王女様の命運がかかってんだから少しはまじめに考えろよ。
 そんな事を考えつつ、アヤカを睨み付けていると琴音がはいっと手を挙げた。
「もうさらわれてから二週間も経ってるんでしょう?今頃もうモンスターの餌や魔法実験
の材料にされてると思うんですけど」
 ………………………………………………………………………………………………。
「怖いことを言うなぁぁぁぁぁ!!!」
 ああっ畜生ぉぉぉ!必死で考えないようにしてたのにぃぃぃぃ!
 そーだよなそーだよなー。
 さらった奴の目的が何にしろそろそろやばいよなー。
 俺はがしがしと頭をかきかき考えた。
「うーん、とりあえずなんとかして情報を入手しなくちゃいけないんだよな」
 はっきり言って、ここまで情報がないと呆れて来るぞ。
 アヤカは行く先の情報屋の元締めを国家権力で脅して情報をいただこうという算段だっ
たらしいが、とことんまでもノーヒット。
 やっぱり大都市といえどもどっかの国レベルの情報機関じゃないと駄目なんじゃないだ
ろうか。
 そう思ったのだが、それくらいアヤカはもうとっくに考えていた。
 まず自国の情報機関で情報を得られなかったので、隣接国家の情報を分けて貰うことに
したらしいが、いかんせん小国のこと。
 どこも本腰入れて捜してはくれないし、友好国ですら手がかりはなかった。
「とゆうわけで密偵を諸国に放ったんだけど、やっぱり手がかり無しで……」
 仕方なく勇者自ら情報屋巡りというわけだ。
 俺は頭を抱えて馬車に転がった。
「だーーーっ、結局今のままやるしかねえのかぁぁっ!?」
 ……………………ん?
 まてよ?確かアヤカは巫女だったはず!
「そうだ!この世界には女神信仰があったよな!」
 俺はがばっと飛び起きるとアヤカに訊いた。
 アヤカはぱちくりと眼を瞬かせて、頷く。
「え?ええ、あるわよ?」
「んじゃ女神信仰の総本山にいきゃ全世界の情報が入ってくるだろ!?なんせ俺は予言の
勇者様だ、予言第一の本山が教えないわけにゃいかんだろ!?」
 そうだ、そうだよ!
 何でこんな簡単なこと今まで考えつかなかったんだ!?
 俺は喜色満面にアヤカの同意を得ようとした。
 だが、アヤカは眉をひそめて不審そうな顔をしている。
「総本山……?そんなものないわよ」
「はあっ!?」
 俺はぎょっとしてアヤカを凝視した。
 ないわけないだろ、全世界レベルの宗教に!
「だ、だからほら世界各地の町々に教会があって、その元締めが……」
「だからそんなものないって。信仰の元締めは各国政府よ。だから国によって女神信仰の
詳細が異なるわけで」
 ……あのなぁ。
「じゃあ一体どうやって布教したんだ!?」
「はぁ?女神信仰は人類発生と共にあるんだから布教も何もあるわけないでしょ」
 ……どうやら俺は思い違いをしていたらしい。
 アヤカによるとこの世界の予言というのは95%くらいの確率で当たるらしい。
 だから予言は絶対視されているわけで……つまり、俺が悟ったのはこの世界には本当に
神が居ると言うことだ。
 つまり、この世界の人類は三人の女神様とやらが作った生物で、今も女神様はこの世界
を運営してると言うこと。
 この世界の住人の確固たる信仰のわけはこれだったってわけだ。
 にしても、かーーっ、女神だと!?何て趣味の悪い連中だよ!
 所詮人間はどんだけ暴れても所詮お釈迦様の掌の上の孫悟空かよ!
 俺はつくづくこの世界に生まれなくて良かったと思ったぜ。
 生まれてから死ぬまでコントロールされてる人生なんてまっぴらだ!
 予定説ってな考え方があるが、自分の意志で生きられねえ生き方なんかしたいかよ!?
 自分自身に自身がもてねえ軟弱野郎なら有り難く神様のお墨付きで生きるだろうが、他
人の思い通りに動かせられてる人生なんて俺にゃあ耐えられねえぜ!
 こいつら無気力人間の集まりか?よくまぁそれに甘んじてるもんだ。
 ま、生まれたときからそうしつけられてんだ、仕方ないっちゃ仕方ねえけどよ。
 ……とはいえ、芹香様助けねえわけにゃ行かないしな。
 王家乗っ取りもまだ捨てたわけじゃねえ。気にさえしなけりゃ神なんてこわかねしな。
「さて………どうする?」
 勇者様のご威光も所詮他人の国家に関すること、他の国は手伝ってくれない。
 やっぱり地道に当たるしかないのか?
 ああーーーーーーーっ、もう!こんなことしてたら芹香様がババアになっちまう!
 縁側で二人茶を啜る生活も理想ではあるけど、その前にまず若い生活だろ!?
 そう、憧れの新婚生活!愛欲にまみれたただれた青春!
 芹香様ぁぁぁぁぁ、智波はあなた様をお慕いしておりますぅぅぅぅぅ!!!
「あの……勇者様、大丈夫なんでしょうか?」
 貴姫が失礼にも床で煩悶して転がってる俺を指さした。
 ……何故そこで首を横に振りやがるお供ども?
 俺はむすっとして起きあがると、ぱんぱんと服の汚れを払った。
 そんな俺を見て、お供2号こと琴音がすっと手を挙げた。
「私、良い考えがあります」
「ほぅ、言ってみな?」
 琴音はにっこりと笑って、言った。
「はい!魔道士教会本部に行くというのはどうでしょうか!」
 ぶーーーっっとアヤカが吹いた。
 がばっと起きあがると、烈火のような勢いで琴音に詰め寄る。
「あんたねぇっ!んなとこ行ったら勇者の智波なんて真っ先に処刑されちゃうわよ!」
「だから、智波さんには勇者を辞めていただくんです」
 琴音はこともなげに言った。
「本部なら情報も入っているはずです。勇者の資格を誰か他の方に譲って、得た情報を元
にその新しい勇者の方を形だけでも連れて智波さんが悪の魔道士を倒せば見事勇者のパー
ティーがセリカ姫を助け出したことになるじゃないですか」
 ………まぁ、そりゃそうだが。
 アヤカは呆れたような表情で琴音を眺めた。
「あんた、勇者の存在を認めないんじゃなかったの?」
「それはそれ、これはこれです」
 澄ました顔でのうのうとのたまう辺り、この女も流石だ。
 確かに勇者と姫が結ばれると決まったわけじゃない。
 勇者より大活躍した奴が勇者より讃えられて姫をいただいても良いじゃないか。
 でも………。
「どうせ便宜を図ってやるからお前の助手になれとか言うんだろが」
「あっ、やっぱり分かっちゃいました?えへへ、やっぱり私達の心は通じ合ってるんです
ね」そう言って琴音はぺろっと舌を出して照れ笑いを浮かべた。
 冗談じゃねえぞこの女…………。
「却下だ!姫と俺が結ばれなきゃ意味がねえっ!!」
「……別に私、二号さんでも構いませんよ?」
 そう言うと琴音はにっこりと笑った。
 うーむ、俺が王家を乗っ取ったら妾のこいつは一王国をパトロンに出来る。
 考えると目端が利く奴だな……。
「純粋に好意を持ってくれてるとは考えないんですね……」
 ジト眼で呟いたのは貴姫だった。
 てめえも人の考えを読むなっ!
「どっちみち、魔道士教会に借りを作ることになる!俺が王家を乗っ取ったときに甚だ不
都合だ………却下!」
「あ、あんたそんなこと考えてたの………?」
 アヤカは俺の台詞に反応して、つつっと汗を垂らした。
 あっ……しまった!?
 そういえばアヤカは俺の王家乗っ取り計画を知らないんだった!
 俺はつつっと汗を垂らしながら、あはははははと開き直って笑った。
「わっはっは!アヤカ、俺が王位に就いた暁には重臣に加えてやっても……」
「まぁ別にあたしはあんたを兄さんと呼んでも良いんだけどね」
 俺の言葉を無視してアヤカは呟いた。
 ………へ?
 訝しげな表情の俺の顔を見て、アヤカ、琴音、貴姫はつつっと汗を垂らした。
「…………勇者様…………まさかアヤカさんがセリカ姫の妹君と知らなかったのですか?」
 貴姫の呆れたような口調の一言で俺はげげんと口を開いた。
「え?ええっ?アヤカ、お前も王女だったのか!?」
 考えりゃそりゃそうだわな。綾香は芹香様の妹だ。
 この世界じゃ当然姫の妹も姫だ!
 うーーん、姫君とは思えねえくらいがさつなんで気付かなかった……。
 アヤカはそんな俺を見てひくひくとこめかみをひくつかせた。
「悪かったわね、がさつでっ!」
「だから人の考えを読むなっっ!!!」
 それにしても良かった……こいつに下手なこと言わなくて。
 ……って、そういや今こいつ兄と呼んでも構わないって言ったな。
 それって事実上の…………………。
「家族の承認って奴!?」
 や……やったぞ、おい!俺ってば理想の未来に大きく一歩近付いたぞ!!
 見ていやがれ学園の馬鹿ども!俺の野望が叶う日が来たぁぁぁぁぁ!!!
「………アヤカさん、考え直された方が………」
「私も止めた方がいいんじゃないかと………」
「う……うーーーん」
 俺は何故か不気味なモノを見る目で俺を見ているアヤカの手をしっかと握った。
「よーし妹よ!これからは俺のことをお兄さまと呼んで結構だ!」
「姉さん助け出してからにして、お願い………」
 疲れた顔でアヤカが呟いた台詞で俺は現実に帰った。 
 そうか、そう言えば芹香様をまだ助け出していなかったな。
 そのとき吟遊詩人Aがひょいと手を挙げた。
「そうそう、そう言えば私にあるコネがあります。聞きますか?」
 ん?名もなき脇役の言葉だが……まぁいい聞いてやるか。
「んじゃ言ってみな」
 そう俺が答えると、脇役Aはにやっと不思議な笑みを浮かべた。
「本当にいいですか?もし聞いたら……引き返せなくなりますよ」
 ………そう言われると聞きたくなるのが人の常。
 俺がさらに促すと、彼女は懐から一枚のメダルを取りだした。
 別にどうって事ないただのメダルだ。何か葉っぱのような紋章が彫られているが…。
 俺は首を傾げたが、アヤカと琴音の反応は違った。
 二人は露骨に驚愕と畏怖の入り交じった視線を脇役Aに向けていた。
「あ、あなたその紋章は……!?」
「まさかあなたはっ…………………!」
「……なんだってんだ、吟遊詩人A?」
 俺の台詞に彼女は冷静に一言返した。
「貴姫です」
「……なんだってんだ、貴姫?」
 貴姫はくすくすと笑いながらメダルを弄ぶ。
「そちらの二人はご承知のようですね。これは……」
「智波!聞いちゃ駄目よ!」
「そうです!本当に引き返せなくなっちゃいます!」
 だーーーっ、うっせーなお供二人!
 俺が何しようが俺の勝手だろうが!
「その紋章が何だ!?」
「これはメイプルキングダムの紋章……勇者智波、私はあなたをスカウトに来た密偵です」
 ああーーっ、と後ろで二人が絶望したような表情を浮かべた。
 全く、ホントに何だってんだよ。
「メイプルキングダム?」
「はい。我が王があなたに大変興味を抱かれ、是非一度城に呼びたいと」
 スカウトねえ……それってつまり、呼びつけといて「俺に従え」てことだろ?
 好きじゃないねえ、そういうの。
 俺の表情を見て、貴姫の顔がにっと笑う。
「王は最高のもてなしをするとのこと。あらゆる協力も惜しまないそうです…情報面でも」
 情報………!?
 それはつまり、メイプルキングダムって国の情報機関は姫の居場所を知ってるって事か!?
「智波、やめときなさい!あの国は世界一の嫌われ者よ!」
「そうです、魔道士教会とまで対立してるんですから!」
 ……ふむ。
 そう言われると………却って興味が出てくるな。
 そこまで嫌われる王というのも一度あって見たい。
 それに、なんと言っても今のとこ情報を握ってるのはそこだけみたいだしな。
「……で、その国はどこにあるんだ?」
「ち、智波!?」
「何て事を…!」
 後ろの二人の狼狽ぶりとは対照的に貴姫はにっこりと余裕のを持って笑った。
「実はもう領内に入っております」
「えっ!?」
 アヤカの叫びと同時にばっ!と布がはためく音がした。
 琴音がハッとして立ち上がる。
「この馬車……乗り合い馬車じゃない!?」
 もくもくと馬から煙が上がり、みすぼらしかった老馬が精悍な軍馬へと変貌する。
 いつの間にか御者は農夫もどきから軽装歩兵へと変わっていた。
 幻術をかけてやがったのか!?
 気が付けば俺達の乗った馬車は王家の紋章の入った馬車となっていた。
 貴姫は涼しい顔でリュートをかき鳴らした。
「まぁ賞金稼ぎ達がうるさいですからね、それなりの武装ということで……。どうですか、
着くまでの間に一曲」
 うーん、こういうことするか。
 俺はニカッと笑うと、言った。
「やっぱ気が変わった。降りさせてもらうよ」
「おやおや」
 くすくすと貴姫は笑う。
「困りましたねぇ。私が怒られてしまいます」
「悪いけど……他人に追いかけられたら逃げたくなる趣味なんだよな、俺」
 俺の声に、ばっとアヤカと琴音が身構える音がした。
 戦闘を予感しての反射的な行動だ。
 もちろん俺も貴姫に腕を突き出している。
「馬車を止めろ。降りたいんだ」
「……………ふう。仕方ありませんね」
 そう呟くと、貴姫はリュートの弦を鳴らした。
「まぁ、一曲歌わせて下さいな………それから止めます」
 ……何だ?
 急にまぶた………が?
「♪すれ違う 毎日が 増えてゆくけれど お互いの 気持ちはいつも 側にいるよ」
 ね………眠い………!?呪歌かっ……!
「♪ふたり会えなくても 平気だなんて 強がり言うけれど ため息混じりね」
 し……しかも本物より音程合ってやがる!?
 まずい、このままだと……眠っ………て………。
「♪過ぎて行く季節に 置いてきた宝物 大切なピースの 欠けた パズルだね」
 だめだ……アヤカと琴音の……倒れる音が聞こえ……て……っ。
「♪白い雪が街に 優しく降り積もるように アルバムのぉぉっっ!?」
 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎいーーーーーっっっ!!!
 突然馬車が揺れ、不協和音によって俺は眠気から解放された。
 がばっと素早く起きあがるとアヤカと琴音の手をひっつかむ。
「な、何が起こったんですか!?」
「貴姫様、何者かが凄い力で馬車をひっつかんで…………!」
 チャンスだ!俺はふたりの手を取って馬車から飛び降りた。
 すたんと地面に着地し……た俺の頭上を巨大な戦斧が通り過ぎた!
「………避けましたね」
 ああっ、どこかで聞いたこの台詞はぁっ!?
 振り返ると沙耶香が片手で戦斧を地面に突き刺しており、そして片一方は……。
 馬車のへりを素手で掴んで動きを完全に止めていた。
「お、お前は人間かっ!?」
「ひどい!こんなに可愛い女の子を捕まえといて何て事言うんです!」
「片手で斧ぶんまわして馬車をひっつかむなんてことが人間に出来るかぁぁ!」
 俺は絶叫すると、今度こそ容赦なく右手を沙耶香に向けた。
 しつこく出てくるお前が悪いんだからな!
「我は呼ぶ異界の炎!」
 無人の荒野に業火が吹き荒れる!
 俺は至近距離から女の子に攻撃したことに若干の罪悪感を覚えながら汗を拭った。
 これは、死んだな……。
「ああっ、顔に火傷したらどうするんですかっ!」
 ええええええええええっ!?
 ちりちりする炎の海から飛びだしてきたのは相変わらずぴんぴんしてる沙耶香だった。
 なんか全くダメージを受けてないように見えるぞ!?
 俺は胸のタリスマンをひっつかむと、気合いを込めて右手を突き出した。
 まだ完全には制御できないが、魔力放出量の制御はかろうじて出来る!
「喰らえええええっ、悪焼き尽くせソドムの炎!」
 パワー数倍の儀式魔術だぁぁぁ!
 数本の巨大な火柱が連続で立ち上り、効果範囲内に存在する全ての物を焼き尽くす。
 鉄をも溶かす火炎、これならさすがにひとたまりもないだろう!?
 俺は我ながらあまりの威力に押され、ととっと数歩下がった。
 これを喰らって生きてるようなら、人間じゃ……。
「熱い熱い熱いーーーーっっっ!」
 沙耶香はどろどろに溶けた戦斧を持って火炎地獄の中から飛びだしてきた。
 武器はもはや原形をとどめてないのに本人は多少煤けているもののまだ元気だ。
 って、お前真剣に人間じゃないな!?
「実はお前メタルスライムだろ!?」
「だれがメタスラですか!熱かったんですからね!」
 熱かったで済ますなっっっ!!
「お前の体の中の構成素はどうなってるんだよ!」
「ちゃんと十人並みの身体です!」
 嘘吐けえええええっっ!
 馬車から転がり出た貴姫がそんな沙耶香を見てぎょっとした表情をする。
「彼女……まさか神族!?」
「えっ!?」
 アヤカと琴音は心底驚いた表情で沙耶香を見た。
 神族だかなんだか知らないがこんな得体の知れない生き物とは戦いたくない!
 俺は沙耶香に背を向けるとだだっと走り出した。
 もちろんアヤカと琴音も一緒だ。
「逃げるぞ!あんなモノに付き合ってられない!」
「智波、待って!たとえ相手がどんなに強力でもあなたには勝てるはずよ!」
 アヤカは横を走りながら叫んだ。
 はぁっ!?さっきやって駄目だったじゃねえか!
「神族は魔族以上に強力な力を持ってるけど、勇者の力を解放すれば互角に戦えるはずよ!」
「なんだよ勇者の力って!?」
 俺が聞き返すと、琴音がアヤカに食ってかかった。
「アヤカさん!そんな迷信で智波さんの命を危機にさらさせないで下さい!」
「うるさいわね背教者!これは昔から伝わる勇者の法則よ!」
 ああああっ、またわけのわかんないこと言いやがってえええっ!
 俺は内心腹を立てながらアヤカをと併走した。
 沙耶香のスピードは俺達と同じだ。これで足まで速かったら溜まったもんじゃない。
 ん……?荒野の向こうに何か見えるような………?
「はっはっは!僕こそは恋愛勇者カレル!無能な浮気勇者よ、大人しくアヤカを僕に」
「黙れえええええっ!」
 俺は問答無用で爽やかな笑みを浮かべているカレルレンに熱波魔術を喰らわした。
 一度は吹っ飛んだが、再び起きあがる。
 にっこりと笑いながら、剣に手を掛けた。
「ほぉ……やってくれたね?アヤカじゃないから手加減は無用だ。……女神の加護発動!」
 じゃきっ!と剣を振り上げカレルレンは迫る俺を睨み付けている。
「超必殺!ラブラブブレイブハートスラーーッッッシュ!」
 叫びと共に振り下ろされた剣からは光り輝くエネルギー波が飛びだした。
 って、まずい。
 これは………死ぬ!
 見ただけで、超破壊力を持つ攻撃だと分かる。
 俺は死を覚悟してタリスマンを握りしめた。
「俺が勇者って言うんならその証拠でもみせやがれ女神共ぉぉぉぉ!!!」
 やけくそで防御魔術を張り巡らす。
 そして、俺は信じられないモノを見た。
 絶対に避けられないはずのカレルレンの攻撃が俺の周囲でがくんと逸れて後方へ飛んで
いったのだ。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
 代わりに攻撃を受けたのは沙耶香だった。
 彼女は光を受けると遥か遠くまで吹っ飛ばされていく。
 やがてかなり離れた地点で破壊的なエネルギーの巨大なドームが生まれたのが判った。
 カレルレンはちっと舌打ちすると再び剣を構えた。
「勇者の力で避けたか……やるね。だが、次は外さない」
 外さない、って今の何だよ!?
 沙耶香があっと言う間に瞬殺されちまったじゃないか!?
 カレルレンは困惑する俺に構わず剣を振り上げた。
「さらばだ、浮気勇者ぁぁぁっっっ!」
「あんたいい加減にしなさいっ!」
 めきっとアヤカの蹴りがカレルレンの延髄にめり込み……。
 恋愛勇者はあっけなく崩れ落ちた。
「こいつ、何故かあたしにだけは弱いのよ」
 ……気付かれてないのか。不憫な奴………。
 俺は内心でカレルレンに合掌しながらふっと息を吐いた。
「後はここから逃げるだけだな」
「そうは行きません」
 いい加減にしつこいなぁ、お前も。
 貴姫はぜーぜーと息を切らしながら、俺に詰め寄った。
「さあ、メイプルキングダムへ!」
「イヤだ」
「そんな事言うと……人質がどうなっても知りませんよ」
 そう言うと、貴姫はぱちんと指を鳴らした。
 はぁ?人質だぁ?
 冗談、アヤカも琴音もちゃんといるぜ。
 一体何を勘違いしてるのやら……。
 そう思っていると、貴姫はずいっと目を回している女の子を突き出した。
 勇者の攻撃でぼろぼろになった沙耶香である。
「言うことを聞いてくれないと、この子を起こしてけしかけますよ!」
 …………………おい。
 ぎゅっと琴音が俺の腕を取った。
 脅えまくっている。当たり前だ、俺も怖い!
 もちろん、俺達三人は同時にこくこくと頷いた。
 そして……その瞬間沙耶香がぱちっと目を覚ます。
 彼女は俺をじーーっと凝視して、ぽっと頬を赤く染めた。
「勇者様……私のために自らを犠牲に?」
 あまりにも嫌すぎる予感にひきっと俺と琴音が固まる。
 アヤカと貴姫がそんな俺に同情の視線を向け……。
 とりあえず今回の話は終わる。
 ……沙耶香の猛烈な勘違いを残して。

 なんだかいい加減作者も疲れてきたこのシリーズ!
 そろそろ突然終わりそうな予感と共にいざメイプルキングダムへ!
 果たしてそこで何が待つのか!?(ばればれ)
 行け智波、沙耶香と琴音の熱烈な愛に挟まれながら!
 負けるな智波、ハイドとカレルとハルカとOLHの猛烈な嫉妬に襲われながら!
 ようやく目的地を見いだして、勇者の旅は後少し続く!(多分)