超爆機動武闘伝ルーティ212 第一話「あの日のブランコ」
投稿者: 風上 日陰
あたしはHM−212b。
呼称はルーティって呼ばれてる。
来栖川重工の制作した三体の成長型メイドロボの内の一体だ。
ただし、あたしは欠陥品だ。
マール姉さんは頭脳重視、妹のティーナは家事能力優先。そしてあたしはパワー主体。
だが、マールねえさんがそこそこ、ティーナはばりばり家事をこなすのに対してあたし
はこれっぽっちも家事なんて出来ない。
いくらなんでも、これじゃあ本末転倒じゃないのか?
あたし、なんで生きてるんだろう。
家事が出来ないHMなんて、生きてる意味がないのに。
あたしは父さんとあかり母さんとひかりちゃんが車で出かけたのを見計らうと、そっと
家の中に入った。
マルチ母さんは洗濯機を回してるみたいだ。
あたしはどきどきしながら洗面台に近付くと、背伸びしてバケツに水を入れた。
ちょらららららら、と水がバケツに満たされていくのを聞きながら、洗面台の下を漁る。
石鹸の花の匂いが鼻を突き、あたしはくらくらしながら雑巾を一枚つかみ取った。
また背伸びして蛇口を掴むと、バケツの重さにびっくりしながら引きずるような感じで
洗面台からおろす。
と、あたしはわたたた、とバランスを崩して叫んだ。
危うくひっくり返すかと思ったけれど、幸いに手を離すのが早かったからバケツから水
はこぼれずに済んだ。
あたしは心臓を押さえ…いや、ロボットだから心臓なんてないけど一応こういうときの
癖として押さえると、ほっと息をついた。心臓はばくばくいってなかったけど、冷却ジェ
ネレーターはいつもよりスピードアップしてた。姉さんが言うには、びっくりすると回路
をさますために速く回るんだそうだ。よくわかんないけど。
あたしは自分で言うのも何だけどそれほど良くはない…スペックが足りないんじゃなく
て性格的にそれほど考えないように設定付けられた頭を高速回転させた。
お掃除しようとバケツに水を入れたらこぼれそうになった…ってことはこぼれるほど水
を入れたのが悪いのよね。じゃあもっと少なければ…こぼれない。でも少ないと足りない
かも…そのときは新しく入れ替えればいいんだ!
結論、もっと少なくしてこまめに換えればいい!
すごいぞあたし!これまでだとこの時点で無理矢理引っ張って水こぼしちゃってるぞ!
やったね、また一つ姉さんに近付いた!
………虚しい。馬鹿やってないで早く仕事しよっと。
あたしは背伸びしてざばばばーと水を捨てると、バケツを引っ張った。
今度はあっさりとバケツを洗面台から引き上げることが出来た。
内心それでもちょっと得意になりながら、あたしはバケツを床に置くと、雑巾をそのう
ちに掛けて歩き出した。
確か居間のフローリングがちょっと汚れてたから、あそこをお掃除しよう。
ぴっかぴかに磨いてみんなをびっくりさせてやるんだから。
それにしても、やっぱりちょっと重いなあ。
父さんはまだお前はその機体の能力を充分に生かし切れてない、って言うけど…どうす
ればいいのかなぁ。大体家庭用メイドロボットに腕力なんているのかな?
せいぜいお引っ越しの時にしか使わないと思うんだけど…。
うーん、それにしても重い。なんかぼたぼたって音も聞こえるし…。
ぼたぼた?
あたしはちらっとバケツを見てみた。
雑巾がバケツの水を吸って滴を落としている。
「あああ、折角掃除しようと思ったのにぃ!」あたしはそんなことを叫びつつ、ともかく
バケツを床に置こうと腰をかがめた。
つるっ!
あたしは垂れた滴を踏んづけたとたん、足を滑らせてしまった。
「な、なんのこれしきっ!」
足に渾身の力を込め、あたしは踏ん張る。
だが、バケツが勝手に空を泳いで…あので姉さんに聞いたところだとえんしんりょくっ
て言うらしいけど…とにかく、あたしはそのまますっころんだ。
頭から盛大に水を被ってしまう。
ずぶぬれになったあたしの頭の上に、バケツが落ちてきてこん、という音を立てた。
「う…」
泣いちゃだめだ泣いちゃだめだ、姉さんに心配させちゃう…。
でもそれでもあたしのカメラアイからは洗浄液が流れてきて…。
それが口に入ってきたとたん、結局あたしは大声で泣いてしまった。
姉さんはあたしを叱らなかった。
それどころかあたしの心配までしてくれた。
あたしの髪をタオルを拭いてくれた後で、姉さんは優しくあたしの頭を撫でた。
「ルーティ、よく頑張ったね」
それを聞くと、あたしは申し訳ないような情けないようなたまらない気持ちになって、
また眼から洗浄液が流れてくるのを感じた。
「あたし…あたし、失敗作なんだ。お掃除一つもろくに出来ないような役立たずなんだ。
あたしなんか、生きてる価値なんてなんてないんだ!生まれてこなければ良かったんだ!」 あたし、何言ってるんだろう。
これじゃ、まるで姉さんに慰めてもらいたがってるみたいじゃないか。
いつも姉さんに甘えるティーナを叱ってるのに、結局これじゃああたしティーナと変わ
らない…いや、自分で自分を傷つけてる分、ティーナよりたちが悪いじゃないか。
姉さんだってそれは充分分かっていたはずだ。
それに、どんな言い方をしてもあたしを慰めることなんか出来ないって事も。
姉さんはかすかに笑うと、あたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
そして、頭を撫でてくれる。
何も言わないでいてくれる姉さんに抱きしめられていると思うと、あたしはまた申し訳
ないと思った。
「ほらほら汚れてるわよ、シャワーを浴びてきなさい。片づけは私がやっておくから…」
あたしはこくっと頷くとその場をそっと立ち去った。
自分がしたことの始末も付けられないのか、と自分を責めながらも。
シャワーのお湯があたしの体を温めていく。
本当は冷却系に負担がかかるからあんまりお湯のお風呂には入らない方がいいんだけど、
なんとなくそうした。
シャワーを自分の顔に掛ける。
洗浄液が流れ落ちるのが分かった。
なんとなく、お湯があたしの涙を洗い流していっているみたいであたしはなんだか安ら
いだ気分になった。
ふと、気が付いた。
シャワーを浴びてこいってことは、あたしにしばらく一人っきりの時間をくれるって事
じゃないだろうか。
だから、姉さんの言うとおりあたしは泣いた。
大声で泣き続けた。
シャワーの音に紛れて響きわたるあたしの声は少しだけ恐かった。
外に出てみると、マルチ母さんとティーナが洗濯物を取り込んでいた。
母さんの足にとりついてせっせとお手伝いしているティーナを見ると、あたしはちょっ
ときつめの羨望を覚えた。
あの子はあたしがスポーツが得意で羨ましいと言う。
確かにあの子はどこか抜けているし、鈍くさい。
だけどあたしにとってはそれでも家事が得意な方が羨ましい。
家事があたし達の生まれた意味なのに、それを果たすことが出来なければあたし達は必
要ないのだ。
姉さんは、生まれてきて済まないとあかり母さんに思う、と言っていた。
あかり母さんと父さんの生活を邪魔して申し訳ないと、人間の喜びを削るHMなど生ま
れてきた意味がないと。
だが、あたしに言わせればあたしこそ意味がないHMだ。いや、HMですらない。
どこの世界に家事を嫌うHMがいるというのだろうか?
あたしから見ればティーナこそあたし達三体の中で優れたHMだと思うのだ。
ティーナがこちらを見た。
あたしはどきっとして後じさる。
「お姉ちゃん、ちょっと手伝ってよぉ!」
あたしは逃げ出した。
失敗が恐かった。
また失敗してみんなに迷惑を掛けることも恐かったけれど、それ以上に自分が失敗作だ
と自覚してしまうことが何よりも恐かったのだ。
気が付けばあたしは来栖川のラボの辺りまで来ていた。
何でこんな所まで歩いてきたんだろう?
あたしには分からない。ただ何となく、こちらの方に逃げてきていただけの話だ。
もしかすると生まれた場所に帰りたかったのかも知れない。
あたしの生まれた研究室のカプセルの中に。
「ルーティちゃん?」
あたしははっとして振り向いた。
黒い髪のお姉さんがこちらを見つめていた。
それが誰かあたしは記憶回路を必死に探る。
はっとひらめいてあたしは頷いた。
「美加香さん。赤十字美加香さんでしょう?」
来栖川HMラボの技術者の一人だ。
高校時代に佐藤雅史さんっていう先輩…今はやっぱり技術者だけど…に一目惚れしてそ
のまま技術者になってしまって、今じゃ指折りのメカニックになったちょっと変わった経
歴の持ち主だ。あたし達の整備もこの人が行っている。
ちなみに肝心の雅史さんには全然振り向いてもらえず、28になる今年もまだまだ未婚。
それでもまだアタックを続けてるのは凄いと思う。大人になったらあたしもこんな恋愛を
してみたい。実らないってのもそれなりに問題があるような気がするけど。
美加香さんはちょっと傷ついたような顔をして笑った。
「思い出すのに時間がかかりすぎだぞ。もっと早く思い出して欲しかったな」
「あ、すみません…」
そんなあたしを見て美加香さんはまた笑う。
「冗談よ。こんな所でどうしたの?」
あたしは黙りこんだ。ある可能性に気が付いたのだ。
もしここで…あたしを解体して下さい、といえば…この人はそうしてくれるだろうか?
あたしがどきどきしながらそう考えていると、美加香さんの声が降ってきた。
「ちょっと、そこの公園ででもお話ししない?」
美加香さんとあたしは二人でずっとブランコに乗っていた。
夕日の中で、ひたすらにブランコを漕いでいた。
はたから見ても奇妙な光景だったと思う。
無表情に大きくブランコを漕ぐ小学生と、白衣をはためかせてブランコに乗る美人と。
美加香さんはお話ししよう、と言ったのに何も喋ろうとはしなかった。
ただ前を向いて白衣を風になびかせるだけだ。
先に沈黙に耐えきれなくなったのはもちろんあたしだった。
あたしは生憎と静寂に耐えきれるほどおしとやかな設定はなされていない。
「死んじゃった方がいいのかな、あたし」
美加香さんははっとしてこちらを振り向いた。
あたしは少し笑った。
「ルーティちゃんは自分が嫌いなの?」美加香さんは問いかけてきた。
あたしはくすっと笑うと、
「まさか。軽い冗談ですよ」と答えた。
嘘つきだ、あたし。
本当は構ってもらいたくてどうしようもないくせに、相手が近付いてくるとそうやって
逃げる。その方が相手の同情が深くなるって知ってるから。
大っ嫌い。
ふう、と美加香さんが息を付いて前を向いた。
「ルーティちゃんがもし死ななきゃいけないような状況に立ったとき、死んじゃいたいよ
うな気分に気分になるなら…その原因は何かしらね?」
美加香さんは前を向いたままでそう聞いてきた。
あたしは「さあ、そんな状況に立ったことはないので分かりませんね」と答えようとし
て、やめた。
ここで逃げたらもう二度と彼女は相談に乗ってくれないような気がした。
「多分、自分が嫌いになったときでしょうね」
あたしは大きく地面を蹴った。力を込めれば気恥ずかしさが消えるような気がした。
「何で、そのときのルーティちゃんは自分が嫌いになるのかしら?」
美加香さんの声が下の方から聞こえる。
あたしは一度すれ違い、二度すれ違い、三度すれ違うときに答えた。
「自分に意味がないと思うから。自分に生きる価値が見いだせないから…自分が一度死ん
じゃって、違う自分がこの体で生きた方がずっと価値を見いだせると思うから」
美加香さんはちょっと笑った。
「そっか。じゃあもし一度ルーティちゃんのDVDをフォーマットして全然違う人がその
体の持ち主になったら…」
あたしはどきっとして胸を押さえた。
自分で考えたこととはいえ、他人に言われてこれほど心に辛い言葉はなかった。
あたしが全然違う他人になる。あたしはきれいさっぱり消えてしまう。
これほどおぞましい想像があるだろうか?
「そのときは、ティーナちゃんたちがさぞ悲しむでしょうね」
あたしははっとした。
ブランコを止める。
美加香さんの言葉がずっしりと心に響いた。
そうだ。もしそうなったら、姉さんやティーナやマルチ母さんはどう思うだろう。
見知っているはずの家族が誰とも知れない者になったとき、みんなは変わらずそいつを
愛せるだろうか?そいつを見て、元の家族を偲ばないなんてあり得るだろうか?
絶対にない、とあたしは思う。
自分への買いかぶりでもなんでもない。姉さん達のことはあたしが一番良く知っている。
そのとき姉さんはあたしを見てこういうのだ。
「ルーティは昔の方が可愛かったね」、と。
美加香さんはあたしの方を見て、首を傾げた。
「違う?」
違わない。
あたしは二、三回首を振った。
美加香さんはあたしの頭をゆっくりと撫でた。
「ルーティちゃんは一人で生きてるわけじゃないのよ。あなた一人なら死のうが消えよう
が誰も何も言わないけど…そうじゃないのなら、あなたの後ろに誰かがいるんだから」
それから、わかった?というようにしゃがみ込んで、あたしの顔を見上げた。
あたしは苦笑するしかない。
まだ。まだ、自分に自信がもてない。
そうも言えず、あたしは黙り込んだ。
美加香さんは突然眼を細めてあたしの顔を見ると、ふうとため息をついた。
「ルーティちゃんの悩みは、家事能力がないことでしょう?」
どきっとしてあたしはブランコから立ち上がる。
美加香さんはしばらく黙り込んでいた。
長い沈黙が流れる。
あたしはその間ずっと美加香さんの顔を期待に溢れた顔で眺めた。
美加香さんならあたしの家事能力を引き上げてくれるかも知れない。
彼女は悩んでいたようだったが、やがてはあっと息をついた。
「まさか今言うことになろうとはね…いいわ。教えてあげます」
教える?
あたしはその言葉に違和感を抱いた。それは、家事能力は引き上げてもらえないって事
なんだろうか。
美加香さんはあたしの顔をしっかりと見つめると、語りだした。
「技術的に言うと、あなたの家事能力を引き上げることは可能です。ですが、それはしま
せん」
「なんで!?家事能力がないよりは有った方が良いに決まってるじゃないですか!」
でも美加香さんはゆっくりと首を振ると、あたしの意見を否定した。
「ルーティちゃんは家事能力がないほうがいい…いえ、有るのが異常なのよ」
あたしははっとして美加香さんを眺めた。
HMに家事能力がないほうがいい!?
「いい、しっかり聞くのよ。あなたはHMであってHMではないの!」
あたしは絶句した。
HMじゃない?じゃあ、あたしは何?
「でも、あたしがHMじゃなかったら姉さんや妹は?みんなもHMじゃないの?」
美加香さんはこくっと頷いた。
「あなたたちの中ではHMはティーナちゃんだけ…マールちゃんとあなたはHMではない
の」
あたしは胸苦しさを覚えた。
何かが、変わろうとしている。あたしは知ってはいけないことを知ろうとしている!
美加香さんはごくっとのどを鳴らすと、あたしの顔を見つめた。
「あなたはホームメイドロボではなく…」
「そこまでだ!」
美加香さんははっとして声の方を振り向いた。
白衣を着た男の人が美加香さんを睨み付けていた。
「美加香、それ以上は喋るな!」
「雅史先輩!?」
あたしは恐い顔で美加香さんを睨んでいる人を思いだした。佐藤雅史。
美加香さんの長年の片思いの相手だ。
雅史さんは美加香さんに指を突きつけていた。
「それ以上はその子達には教えるなと長瀬主任の命令が出ていただろう!」
「でも、この子達は当事者です!本人に教えることもなく戦闘に投下する気ですか!?」
あたしは混乱した。
一体何なんだろう。あたしは、一体何で、どうすれば良いんだろう。
「何度も言うようだが、この子達は幼い…今教えれば人格が耐えきれないぞ!」
「この子は知りたがっています!自分の運命を知ることもなく戦えば、それこそ破綻を…」
あたしは、何なんだ!?あたしが壊れるほどの秘密って何だ!?
あたしは…私は…?
(負荷増大…回路切断…リセット…自己冬眠に移行…)
頭脳の中でシステムが進行しているのが分かる。
聞き慣れた頭脳回路の判断が聞こえてくる。
だが、そのとき襲った
(いらっしゃい…)
その声と同時にあたしは気を失った。
あの声が誰の声か考えていた。
どこかで聞いたような、不思議な声。
思い出す。
あたし自身だ。
きれいなお姉さんが眠っていた。
あたしは長い長い回廊を通ってその薄暗い部屋にたどり着くと、その顔をのぞき込む。
すごく綺麗な人だ。
あたしはこの人を知っている。
この人はいつもドジを踏み、いつもあたしを叱り、いつもあたしに甘え、いつもあたし
と笑い、いつもあたしと一緒にいる…。
それはつまりマルチ母さんであり姉さんでありティーナであり…だけどやっぱり何かが
違う。
確かに顔は姉さんにそっくりで、姉さんが大きくなればこんな感じの人に成ると思われ
たけれどどこかが違っていた。
髪の色に注目する。茶色がかった髪は短く切られていた。
この髪の色は…あたし?
そう思った瞬間、ばちっと火花が跳び、あたしは驚いて女の人から跳び下がった。
女の人は気が付けばあたしのずっと頭の上の方に浮かんでおり、じっとこちらを見つめ
ていた。
「お早うルーティ、ようやく目が覚めたのね?」
あたしは、はあ?と思って彼女を見つめた。
「目が覚めたのはあたしじゃなくてあなたでしょ?」
彼女はこくっと頷く。
「そう。だから、ルーティが目を覚ましたのよ」
何を言ってるんだろう、この人は?
「ルーティはあたしだよ!目が覚めたのはあなた!」
しかし彼女はちっちっと指を振って見せた。
わかってないなぁ、と言う顔で。
「ぶっぶー!違います!あなたは今相対的に自分を見ています。つまり、あなたはあたし
が目を覚ましたように見えて実は自分が目を覚ましたことに気付いているのです」
な、何それ!?
わけわかんないこと言ってるよこの人…危ない人なのかな?
「七歳児には難しすぎるかな?」
あたしはこくこくと頷いた。
でも、彼女はぷっと吹き出すとまたまた指を振った。
「それはあなたがまだ自分がHM−212cであることにこだわっているからです。今あ
たしはルーティであるからしてあなたもまたルーティなのです」
だから、分からないこと言わないでよ…あたし、七歳児…あれ?
あたし、何歳だっけ?17のような気もするし、7のような気もするし…ああ、わかん
ない!
「だいぶ分かってきたようね。つまり今あなたはルーティという存在そのものなわけよ。
で、あなたは今自分全体と相対的に語り合ってるわけ。もっともあなた=あたしと言うわ
けではないんだけど…」
あたしはなんとなく彼女の言いたいことを理解できるようになっていった。
つまり、あたしは彼女の一部なのだ。
そして彼女はルーティという存在そのもの。
今こうして考えている自分は全ての平行世界にまたがって存在するルーティのうちHM
−212Bと名乗っている存在なのだ。
「あ、分かってるわね?そうそう、今あたしはあなたをあくまでもHM−212Bルーテ
ィに留めているわ。意識が拡散しちゃったら固めるのが一苦労なんだから」
あたしはぎょっとして慌てて自分を強くイメージした。
HM−212Bを軸に思考能力だけを17歳まで高める。
「というわけで、あなたはロボット兵士の雛形のわけよ」
…いきなり言われたってわけわかんないよ…!
「ああ、そうかもね。つまりあなたはこれまでHMとして生きてきたけど、本当は来栖川
重工が作り出したロボット兵士なの。将来あなたをオリジナルとしたロボット兵士が全世
界で戦争に使用されるわ」
いきなり、なんつうシビアな話題をかるーく言い始めるかな、こいつは…。
本人はショックを受けてるってのに…。
「あんたにショックは似合わない…と言いたいところだけど、あたしにしては珍しく結構
苦悩するタイプね。少数派よ、あなたみたいなのは」
どうせなら悩みがないあたしに生まれたかったわよ!
「まあ、そう言うモンじゃないわ。そうやって悩むのもあなただから、まあ自分に自信を
持つ事ね」
大体なんだってあたしはあなたと話してるわけ?
「さっき、自分が何か知りたいっていったじゃない。だから、おしえてあげよーとわざわ
ざあなたに話しかけてるのよ」
頼んでない!
「頼んだんだってば。で、まあ自己を追求させてるわけ。禅問答よね!」
………だからってどうして話しかけてこれるのよ、非常識な!
「ああ、それね。あなたの姉と妹が今魔法を使ってるのよ。時間航行と夢中遊歩ね。で、
共鳴したあなたが自己討論出来てるのよ。もともとあなた達一つなんだから共鳴して当然
だけど」
あ、頭痛い…。
まさか禅問答がここまでかるーいモンだったとは思いもしなかったわよ!
「そりゃあたしの中の比率じゃあなたみたいなタイプより軽いタイプの方が抜群に多いもの。統合人格ってのもある意味民主主義よね」
民主主義は少数を圧殺するモンじゃなかったよーな…
「細かいことは気にしない!まあともかく…」彼女はきりっと表情を引き締めた。
「あなたは自分が何のために生きてるのか分かる?」
いきなり…そんなの、分かるわけないじゃない!
「じゃあ仕方ないわね。さよなら」
ち、ちょっと!いきなりそこで帰っちゃうの!?
「分からないんならいくら考えても無駄よ。あたし、気が短いもの」
えーと…自分が何者か探るため、かな?
「目的と結論が重なってるわよ。不許可ね」
じゃあ、自分が満足できる死に方を探すため。
「あんたDVD入ってるの?死ぬために生きてちゃ意味ないでしょが」
HMとして生きるためとか。
「だからあなたはHMじゃなくてロボット兵士だと言ったでしょう」
じゃあ人を殺す…まさか!あたしは人殺しなんてしたくないわよ!
「まあ、あたしの中には殺人鬼もいたけどね。じゃあ、何なわけ?」
あたしは…あたしは…。
「どんな答えでもそれはあなた自身の決定よ。頑張る事ね」
(自分一人で生きてるわけじゃないでしょう?)
そうだ、美加香さんが言ってた…あたし、みんなの為に生きてるんだ!
「ふーん。じゃあ、どの辺がみんなの為なの?みんなに甘えること?みんなを虐めるとこ?
姉さんを困らせるとこ?」
あたしは…あたしは、そう!戦う力でみんなを守る!
自分で考えるのも何だけど…結構、良い考えかも!そう思わない!?
「さあね。知ったこっちゃないわよ。あたしは何も答えない。ただ聞くだけの事よ。でも、
それは甘えじゃないの?あなたは他人がなければ何も考えられないの?」
だって、あたしの後ろには姉さんもティーナもいるもの。いるものはしょうがないじゃ
ない!みんながいることひっくるめてあたしなんだもん!
「…まあ、そりゃそうね、せいぜいがんばんなさいよ」
へーんだ!もう、あなたが何言おうと動じないよ!
あたしはあたしなんだからね!
「あー、自分の一部ながらやな奴!なんでこんな奴もあたしなの!」
へへへーだ!
「もういい、あたしは帰るわよ!ったく、こいつが次のあたしか…」
…え?ちょっと待って!?
あなた、本当は誰なの!?
「…なんだ、やっと気付いたの。あたしはルーティ、名目上はルーティという存在のなり
うる全ての存在の集合体。だけど、可能性から生まれた存在は常に一つしか存在しないわ。ルーティは同時に一人しか存在しえないのよ」
じゃあ、本当のあなたは…?
「あたしの前はティーナと戦ったあたし。今のあたしは壊れちゃったマルチ母さんと23
00年代に過ごしたあたし…」
じゃあ、あたしは…?
「あなたはルーティという存在全てを代弁するあたし!頑張りなさい、あなたが存在する
限り!」
それにどう答えたかは覚えていない。
気が付けばあたしはブランコに乗ったまま美加香さんと雅史さんのにらみ合いを見つめ
ていた。
「教えるわけにはいかないんだ…この子の人格を破壊しないためには!」
「教えなければいつか破綻します。なら、早い方がいい!」
………ぷっ!
あたしはおかしくなってしまって吹き出した。
ぎょっとして雅史さんと美加香さんはこっちを見た。
あたしはケタケタと笑いながら、目尻を拭った。
「あー、おかし…もういいよ、二人とも。あたし、分かっちゃったから」
二人はぽかんとしてこっちを見ていた。
その眼は何を?とは聞いてはいなかった。
それでもあたしは答えた。
「あたし、ロボット兵士何でしょ?」
「ぶっ!?」
「なんで知ってんだ!?」
二人は同時に吹き出した。
あたしは夕焼けを眺めながら、頬杖を突いた。
「なーんか、分かっちゃったんだよねぇ…」
で、決めちゃったわけだ。
「あたし、ロボット兵士なんかにはならないよ!頑張って姉さんやティーナを守る正義の
味方になるんだ!」
正義の味方だって。我ながら陳腐な表現!
だけど、それ以外言い方がないもん、しょうがないよね。
雅史さんはまだ何か言いたそうだったけど、美加香さんはなんだか納得してしまったら
しい。
「そっかぁ、正義の味方か!なれるよ、ルーティちゃんなら。誰にも負けないつっよぉい
正義になれる!」そう言ってさっさとあたしの隣のブランコに座ってしまった。
白衣をはためかせて、高く高くブランコを漕ぐ。
「だって今、君はこれ以上なく正しいもの!」
それは照れ隠しの動作だったのかも知れない。
でもあたしにはどうだって良かった、美加香さんの応援が心に聞こえてきたから。
夕日が沈む公園で、あたしはブランコに座ってちょっと不思議な体験をした。
誰ともなしに呟く。
「あたし、自分が大嫌いだ。あたしなんか生きていても意味がないんだ…」そう言って足
をぶらつかせる。
そのあたしの背中は大層小さく見えただろう。
あたしは大きく地面を蹴ると、ブランコの限界の高さまで上がった。
だけど、今なら!
「あたし、自分がちょっとだけ好きになれそう!」
そして、彼女の物語はこれから始まる。
第一話 おしまい
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ひかげ:というわけでHM三姉妹物語これにて完結でございます〜
リンクの計算にちょっと手間取ってしまいました。
みかか:ってちょっと待って下さいよ!何なんですかこのタイトル!?
ひ:ん、だから第一話。
み:第一話って…
ひ:ふっふっふ…待たせましたね、ハイドラントさん…
み:そ、その不敵な笑みはもしや…
ひ:そう!次回からばりばりのアクションサスペンスが始まるのです!
み:ええええ!?HM三姉妹はみんなに希望を与えるほのぼのシリーズでは!?
ひ:誰がそんなことを言いましたか。これまでのHMシリーズは次の段階へのステップに
過ぎなかったのです!
み:じ…じゃあ、ひなたRなんてはじめっから…
ひ:おうぅ!大嘘だ!そんなに簡単にこの僕が改心するわけないでしょう!
全てはロリHMが血沸き肉踊るバトルを書くための布石なのです!
み:み、みんなを騙したんですね!?
ひ:そのとーり!
み:恥ずかしくありませんか!?
ひ:だから、恥ずかしくないものを書く!(どどおーん!)
み:は、眼がマヂ!?
ひ:ハイドラントさん…ね、裏切ったでしょ?(くっくっく、あのメールはまだもってる
かな?)
み:せ、性格悪い〜〜〜!
ひ:いや、しかしこれまでのあらすじを忘れている方もいらっしゃるかも知れない…特に
新顔の方は…
み:私が誰かも分かりませんねぇ。
ひ:よし、ここらでいっちょあらすじでも…
これまでのHMシリーズのあらすじ。
マルチと引き裂かれた浩之の元に現れた謎のHM少女HMー712Cティーナ。彼女は
未来世界からの暗殺者から浩之を守るためにやってきたのだという。そして現れる暗殺者
の正体。それはティーナの姉妹機、HMー712Bルーティであった。そのうえ、彼女た
ちは未来世界で浩之の死を目撃したために精神を三つに引き裂かれたマルチの意識の片割
れ達なのだという。戦い合うティーナとルーティであったが、浩之の命をすんでで救った
ことにより和解。浩之もあかりとくっついたところで変化した未来に帰っていった。
さて、それから13年、浩之30歳。
マルチとあかりを妻に迎えた浩之はマルチから分割した意識の成長体HM三姉妹を娘に
もうけていた。
が、この三姉妹なかなか素直には育ってくれない。
なまじ賢いばかりに結構いろいろ悩んだりしているわけである…
み:これだけ?
ひ:これ以上に書きようがありますか?まあ詳しくは図書館の作品群参照って事で。
み:いい加減だなぁ…
ひ:ちなみに「風見ひなた」の欄を調べるようにね。
み:大体の人は分かってますよ。
ひ:いやあ、しかし西山師匠はさすが人気ありますね。
み:そうですね。またまた弟子志望の方がいらっしゃいましたもんね。
ひ:弟弟子はこれで二人目かな?
み:…なんか、痕をさっぱりかかない一番弟子よりは弟弟子の方がいいのでは?
ひ:はっ!?もしや、捨てられる!?
み:そこでなんで日陰さんがびびるんですか?一番弟子はひなたさんでしょう?
ひ:あぅぅぅ…
(妄想中)
西山:風見、貴様を後継者にするわけにはいかん!
風見:な…何故でございますか!?
西山:なぜなら風見!貴様、楓ヒロインの話を書いたことがあるか!?
風見:はっ!?(がーーーーん!)
西山:そういうことだ!よって後継者は一番弟子の貴様ではない!
風見:そ、そんなぁぁ!
ひ:うわぁぁぁぁぁん、そんなのいやぁぁぁぁぁ!
み:もう…ところで、今回の私ですが…28歳ですか、いきなり。性格違いません?
ひ:今の貴様は14歳。あれはさらに14年過ぎて、人生の深みを増したお姉さま美加香。
み:ところでSSじゃ分からないんですが…私は出るとこ出てますか?
ひ:(じーーーーーっ)…さあ、どうでしょう。幼児体型でこそ美加香って気もしますね。
み:ううう、気になるよぉ………
ひ:この続きは次回!
み:あ、でもあんまりプレッシャー掛けないで下さいね。ひなた…いえ、日陰さんは最近
プレッシャーに弱いんで…