Lメモ外伝「子供の日革命」 投稿者:風見 ひなた
 子供の頃、思いませんでしたか?
 5月5日は端午の節句、こどもの日です。
 柏餅にちまき、鯉のぼりと三点揃った子供グッズ。
 あとはこれに菖蒲湯が加わればばっちりのこどもの日。
 子供のためのお休みです。
 でも何故女の子もこどもの日を祝うのでしょうか?
 女の子には3月3日の雛祭りがあるのに。
 これでは男の子は1日損してるではありませんか。
 と、ゆーわけで。

「我々はぁ!!断固として女子の子供の日の参加を阻止することをここに宣言するぅぅ!」


 Lメモ外伝「子供の日革命」


「今年ももうこの季節がやってきたんだねぇ」
 長瀬教諭はずずーーっと湯飲みに入ったお茶を啜った。
 高等部職員室の窓から見える初等科のグラウンドでは男女に分かれた生徒達が学年別に
整列している。
 緒方は初めて見る異様な光景に目を丸くしていた。
「何なんですか、これは?」
「ああ、先生は初めてでしたか」
 長瀬はぱりんと煎餅を割りながら呟いた。
「毎年恒例の『革命』ですよ」
「革命……ですか?」
「ええ。子供の日の所有権を巡って男女が戦うんです」
 緒方は唖然とした表情でその光景を見つめていた。


 ――男子陣営

「みんな!!今年こそは勝って子供の日を男子専用のお祭りにするぞーーーっ!!」
『おーーーっ!!』
 6年生の勝ち鬨の声に初等科男子一同は奮い立った。
 その中央に囲まれた場所には一回り周囲より小さな児童が立っている。
 額には大きく『総大将』と書かれた白鉢巻きを締めている。
 試立Leaf学園の男子の代表、てぃーくんだった。
「みんな、僕の宝貝が付いてるぞ!!負けはない、存分にかかれーーっ!!」
『おーーーーーっ!!』

 ――女子陣営

「子供の日も私達の大事なお休みよ!!それを奪う男子は絶対に許せないわ!!」
『おーーっ!!』
 こちらでも6年生女子が全員に活を入れている。
 やはり同様に小さな女の子がその中央に座っているが、こちらは男子とは違って幾分か
大人しかった。
「ううっ……私が総大将だなんて……」
「笛音ちゃん、心配ないって!!ボクがついてるから!!」
 今年の女子総大将は笛音だった。
 くじ引きで決めたのだが、幾分かそこに誰かの思惑が絡んでいることは明白だった。
 はめられたと笛音が思っている以上、この地位は非常に不快なものだった。
 ずる休みしようとしたのだが、ティーナに無理矢理引きずられてしまったのである。
  ティーナはぐぐっと拳を握りしめると笛音に代わって全員に檄を飛ばした。
「みんな!!頑張って女の子の力を見せて上げようね!!」
『おーーーっ!!』


 そして……戦いは始まった。

 子供達の群が互いの総大将の首を狙って激突する。
 もっとも敵の鉢巻きを奪えば勝ち、という単純なルールでその上先生も所々で監督する
ためそうそう怪我人は出ない。
 男子が力任せに女子の鉢巻きを奪おうとすれば女子は素早く身をかわして男子の額を鋭
く狙う。
 中には洗濯糊を浸したモップを構えて突撃する者も居て、戦術的な団体戦となっていた。
 そしてその中で最も活躍できるのはもちろん元々戦術用コンピュータの雛形として開発
されたマールの思考回路だった。
「2年5番隊、前へ!3年6番隊は後退して後に4年26番隊と合流!1年生部隊は6年
部隊と離れないように!!」
 本拠地からトランシーバーを通して鋭く指令が飛ぶ。
 その反対に男子には力はあっても命令系統が薄い。
 戦術戦になったときどちらが有利かは火を見るよりも明らかだった。
 また女子は1年生の大群で男子の6年生を封じ、その隙に女子6年生が鉢巻きを奪うと
いう戦法を多用していた。
 そのために主力の6年部隊は次々に倒れて行く。
 また1年生でも強い者はどんどん男子から鉢巻きを奪っていった。
「うりゃうりゃうりゃうりゃーーーっ!!あたしに近付くときは鉢巻きを二重に締めてか
ら来ぉおおおいっ!!」
 ルーティの右腕には既に50本以上の鉢巻きが結ばれていた。

「くっ……さすが今年の女子1年には名将が多いようだ」
 男子陣では敗退の知らせが戦闘開始直後から矢継ぎ早に届いてきている。
「どうする、てぃーくん!?」
 副大将の言葉にてぃーくんはゆっくりと立ち上がると、懐に手を入れて何かをしっかり
と握りしめた。
「仕方ない、宝貝を使うよ!」
「おおっ!!」
 てぃーくんの言葉に一同はどよめいた。
 ついに男子の切り札が使用されるときが来たのである。
 彼は笛を取り出すとそれを思い切り吹き鳴らした。
 戦場に満ちた男子全員にその笛の音が届く。
 そして……彼等の動きに変化が起こった。
 男子達の動きが画一的に統制され、息のあったチームワークを取り始める。
 突然の波状攻撃に女子はあっと言う間に鉢巻きを取り返されていった。
 まるで一つの意志に突き動かされるように男子達は女子をじりじりと押し返していく。
 戦術用宝貝『波乗笛』の能力だった。
 これを吹き鳴らせば味方陣営の意志は統一され完璧な波状攻撃を繰り出すことが可能に
なる。ただしその場合には波状攻撃以外の一切の命令を下すことが出来なくなり、味方は
コントロールを失ってしまうという欠点も持っていた。
 女子が波状攻撃のリズムを見切る前に敵陣に押し入れば何とかなる。
「本陣全員突撃用意!!女子が波状攻撃に応対している隙に少数精鋭を持って敵本陣に向
かいこれを突破するよ!!」
『おーーっ!!』
 軍師としての才能の方が高いてぃーくんだった。
 問題はマールがこの動きに気付くかどうかということだったが……。

 もちろんマールはそれを見切っていた。
 波状攻撃のリズムも既に解析してある。
 しかしそれを一体どうやってこちら側に伝えるかという事で悩んでいたが、ただそれだ
けだった。
 恐らく敵の狙いは敵本営全体でこちらの本営に総力戦を挑むこと。
 それならば大丈夫、十分に対応が可能だ。ならば問題は波状攻撃の方だろう。
 マールは敵本営の突撃よりも波状攻撃の方にわずかに気を取られ、敵の突撃からの対抗
策を伝えるのが遅れた。
 それが命取りとなり、強烈な突風がマールを襲った。

「いっけぇぇぇぇ、芭蕉扇!!」
 てぃーくんが繰り出したのは西遊記に登場する宝貝芭蕉扇のレプリカだった。
 もちろんレプリカなので威力も耐久度も低く、たった一度しか使えない。
 しかし至近距離でこれを敵の本隊に使えば散り散りになって到着までに復活できなくな
ることは明らかだ。たった一回使えればそれで勝てる自信があった。
 生み出された強烈な突風は前にいた味方もろともに敵陣を粉砕する。
 てぃーくんの狙いは総力戦ではなく自らの手で総大将と決着を付けることだった。
 彼の後ろにいた6年生達がかろうじて踏みとどまった女子6年生へと突撃していく。

「きゃーーーっ!!」
「うわーーーっ!!」
 マールとルーティの悲鳴が遠くに聞こえる。
 ティーナは女子6年生の壁のさらに向こうで笛音を庇っていた。
 敵が来る!!
 きっと前を見据えるとティーナは琴音を後ろにして敵を迎え討つ。
 後少し防衛すれば近くの援軍が駆けつける、それまでの辛抱だ。
 女子6年の壁を乗り越えて敵が攻めてきたとき、ティーナはきゅっと唇を噛むと飛び上
がって敵の鉢巻きを奪い取った。
(ルーティお姉ちゃん、ボクに力を!!)
「ボクがいる限り笛音ちゃんには指一本ふれさせないんだから!!」
 そう宣言すると同時に6年の壁が破られる。
 そしてその向こうから現れたのはたった一騎の敵……てぃーくんだった。
「そうはいかないよティーナちゃん!笛音ちゃんの鉢巻きは僕が貰う!!」
「させないんだから!!」
 勝負は一瞬。
 てぃーくんとティーナの身体がすれ違い、しゅっと鋭い音が互いの額に走る。
「取った!」
「ああっ!」
 ティーナは悲鳴を上げてその場に倒れた。
 笛音は脅えた眼で、しかし勇気を奮い起こしててぃーくんを見つめている。
「……私だって総大将だもん、やらなくっちゃ……!!」
「笛音ちゃん……鉢巻きを貰うよ」
 てぃーくんは全力で笛音に走る!
 笛音は目を瞑りたくなる衝動を必死に抑えてそれを向かい討とうと身構える!
 二人の身体が接触する瞬間に、怒濤の衝撃が二人を包み込んだ。

 そのとき起こった事態を説明するのはさほど難しくはない。
 マールという司令塔を失った女子は男子の波状攻撃の前に撤退を余儀なくされ、大きく
後退した。彼女たちは本営が既に壊滅していることを知らなかったため、本営で止めてく
れるだろうと群をなして移動する。
 その止めようのない波の動きがぶつかり合う二人の総大将に激突したのだった。
 しかし言うのは簡単でもてぃーくんと笛音にとってはあまりにもいきなりすぎる衝撃で、
思わず二人はごろごろと転がった。

「笛音ちゃん………!」
 てぃーくんにしても深い考えがあったわけではない。
 ただ彼女を守ろうと全力で彼女を抱きしめた。
 男の義務とかそういうこととは全く別に、そうしたいと、自分の身体を犠牲にしてでも
彼女を守らねばならないと思っていた。
 眼を閉じてがたがたと震える笛音の顔を見つめると、てぃーくんは優しく呟いた。
「大丈夫だよ、笛音ちゃん。僕が……守るから」
「………」
 笛音は無言でてぃーくんにしがみついた。
 その震える身体がとても小さいような気がして、とても愛おしいと感じて、もしかして
これでもう全て終わりなのかも知れないと思って、笛音が誰より大事だと信じて、てぃー
くんはちょっとだけ泣いた。
「てぃーくん……」
 笛音の聞こえないほど微かな呟きが耳に入る。
 それだけで十分だとてぃーくんは思った。


「止まれーーーっ!!止まれーーーっ!!総大将を潰す気かっ!?」
「だーーっ、みんなストーーップ!!これ以上は進むなーーっ!!」
「おいお前等止まれよ、危ないだろ!」
「何言ってんのよ、こんないい光景を見逃すつもりなの!?」

 周囲がざわめいている。
 襲いかかるはずの圧力はどうなったんだろうか。
 それとももう既にみんなは僕の上を通過してしまったのか?
 僕達は……死んだのか?
 そうやって僕達、と考えたところでてぃーくんは自分の抱きしめた者の柔らかさに気付
いた。
 笛音は未だにがたがたと震えて自分に抱きついている。
 その温かさにてぃーくんは思わず真っ赤になってしまった。
「あーーっ、惜しい!気付いちゃったぞ!」
「てぃーくんもう一押し!!そのままゴー!」
「こらてぃーくん!!笛音ちゃんから離れろよ!!」
「何よ、あんた折角のシーンを邪魔する気!?」
 てぃーくんがゆっくりと周囲を見ると、全校生徒が自分たちの抱擁を興味津々に観察し
ていた。
「み……みんな?」
 自分の声で笛音も気が付いたらしく、そろそろと身体を離すと真っ赤になって周囲を見
つめていた。
「笛音ちゃんったらもうやるんだからぁ☆」
 いつの間にか起きあがったらしいティーナが悪戯っぽい小悪魔の笑顔を浮かべて自分た
ちを最前列で見下ろしていた。
 マールもわくわくした表情でこちらを見ており、ルーティは顔こそ背けてはいるものの
やはり最前列でちらちらとこちらを見ている。
「な、な、ななななななななな!?」
 てぃーくんは顔どころか全身真っ赤になって周囲のやっかみの視線に晒されていた。
 笛音は消えてしまいたい、というふうにもじもじと縮こまっている。
「やれやれ……今年もジンクス達成か」
 男子副大将がこりこりと頭を掻くと、女子の副大将がくすくすと笑った。
「まあまあ、このジンクスが守られてるから毎年こうやって祭りを繰り返すんでしょ?」
「ま、俺達もその恩恵受けた身だから滅多なこた言わないけどさ」
 副隊長の呟きにてぃーくんは慌てた口調で聞いた。
「先輩、何なんだよジンクスって!?」
「てぃーくん、お前額に手を当ててみな」
「え?」
 てぃーくんが言われたとおり上気した額に触れてみると、そこにあるはずの白鉢巻きが
なくなってしまっていた。
 笛音を見ると、同じように赤鉢巻きが消えてしまっている。
 副大将はしみじみと頷くと、ふうっとため息を吐いた。
「今年も祭りは引き分けだよ」


 祭りの後片付けが終わり、夕方。
 ようやく下校の時間である。
 グラウンドの中央まで全員で一緒に歩いてきたところでティーナは突然にやっと笑って
てぃーくんに言った。
「ねえてぃーくん、知ってる?男子の副大将と女子の副大将って付き合ってるんだよ」
「えっ?そうなの!?」
 てぃーくんが驚いた表情を見ると、ティーナとマールはクスクスと笑いだした。
 ルーティも後ろを向いてぷっと噴き出している。
 何故笑い出すのか分からずに
「みんな、何がそんなにおかしいの?」
 てぃーくんがきょとんとして訊くと、ティーナは笑いを堪えずに言った。
「あのね、あの人達も1年生の時総大将をやったんだって!その前の副大将もさらにその
前の副大将も、みんな1年の時に総大将を経験してるんだよ!」
「え!?副大将って世襲制だったの!?」
 てぃーくんの反応にティーナ達の笑いは一層大きくなった。
「鈍いなあ!知らなかったの、副大将はその年のベストカップルが選ばれるんだよ!」
「え?え?え?」
 副大将はベストカップルで、その二人は元総大将で……?
 そのときてぃーくんの脳裏にジンクス、という言葉がぱっと甦った。
「まさか、ジンクスって!?」
「そーゆーこと!てぃーくん、5年後の副大将頑張ってね!!」
 そう言うとティーナ達はぱっと走り出していった。
「じゃあ今日の所は邪魔しちゃ悪いから先に帰るね!じゃ、そゆことで!!」
「ちょっと、みんな!?」
 ティーナ達はもう行ってしまった。
 残されたてぃーくんが硬直して固まる中で、さっきからずっと黙っていた笛音が呟いた。
「あの、てぃーくん……」
 てぃーくんは更に緊張した動きでゆっくりと振り向いた。


「毎年この時期になると行われるこの祭り……ジンクスがありましてね」
 校庭を見下ろしていた長瀬は口元にわずかに笑いを浮かべながら言った。
「そんなジンクスです?」
 校庭を見下ろしていた緒方もまた興味深げに聞く。
 長瀬はふふっと笑うと緒方の方を振り向いて告げた。
「この戦いには勝者が存在しない、いつも引き分けで終わるんです。それともう一つ……」
「はい」
「総大将をやった二人は必ず最高の恋人同士になる、そんなジンクスですよ……」
「そいつは素晴らしい」
 緒方はそう言ってやはり笑顔を浮かべた。
 いい笑顔だった。


「ありがとう、てぃーくん……」
「…………………………!!!」
 がちがちに固まったてぃーくんにそっと身を寄せ、琴音は眼を閉じた。
 そのまま背伸びして、てぃーくんの頬に軽くキスするとたたっと走り出していく。
 てぃーくんはその後頬に手を当てたまましばらく校庭に佇んでいた。
 残された彼の頬が紅かったのは夕日のせいだけではもちろんない……。


 こうして毎年恒例の革命祭は今年も決着が付かないまま無事に幕を閉じた。
 別名『春の運動会』とも呼ばれるこの祭りは毎年恋人達を生み出して今に至っている…。

                   おしまい

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ひ:ティーさん約束は守りましたよー!
み:子供の日SSですね!
ひ:今回の挑戦は「戦術」でしたっ!
み:このSSの欠点はLキャラが登場していないことですかねぇ……
ひ:小学校だからね。良太を出そうかとも思ったんだが折角のラブラブ指数が下がるしな。
み:とゆーわけでLキャラは未登場、すみません!!
ひ:さあ、残る問題はOLHさんの鉄槌だけだ!!
み:ティーさんの方は問題ないですね(笑)
ひ:とゆーわけで今日はここまで!!
み:「ああ、結局休みらしくもない休みだった……」赤十字美加香と!!
ひ:「最近僕のSSってラブラブ指数高いよな」風見ひなたがお送りしました!!