SS探偵・風上日陰の事件簿4「彌図門の宴」問題編 投稿者:風見 ひなた


 お疲れ様でした、今回で一段落です(笑)

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 登場人物紹介

 風上日陰   ……十三歳の少年探偵。ちょっと悪どい女の子。
 ハイドラント ……十三歳マニアの助手。ツッコミの鬼。
 ジン・ジャザム……ちょっと粗暴なサイボーグ警部。ボロコップって言うな。
 京極beaker  ……言わずと知れたL学探偵元祖。超天才探偵。
 坂下好恵   ……被害者。折角の大富豪役なのに密室内で刺殺された。
 川越たける  ……坂下家のメイド。小悪魔。
 秋山登    ……坂下家の警備主任。筋肉。
 松原葵    ……好恵のライバル。来栖川葵氏とは無関係です。



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 事件の説明をしよう。
 生意気にも格闘家としてその名を轟かせていた大富豪、坂下好恵が自室内で刺殺
された。
 発見者は坂下家ガードマン、秋山登。彼は事件当夜、好恵の身辺警護のため一晩
中彼女の部屋前方の廊下を映すモニターを監視していたと証言。ただし途中小用の
ため、同家メイドの川越たけるに代理の見張りを一度だけ任せている。
 死亡推定時刻は川越嬢の見張っていた時刻に当たり、翌朝定時になっても起床し
ないことを訝しんだ秋山によって発見された時点では既に遺体は死後数時間を経過
していた。
 彼女を殺害する動機を持つ人物の内、最有力とされるのは生前のタイバルであっ
た松原葵。葵は被害者によって多数の嫌がらせを受けていたと証言した。
 しかし葵だけでなく、全ての犯人について監視の目を潜り抜け被害者を殺害した
方法は全くの闇に包まれている。
 ジン警部は事件解決のため、二人の探偵に声をかけた……。

「と、ゆーわけだ。大丈夫か、日陰?」
「任せて! あたしにかかれば次の犠牲者が出る前に犯人を挙げて見せるわ!!」
 日陰は今回もまた、いつもと同じく根拠のない自信をもって宣言した。
「……殺害現場で『次の犠牲者』とか言うなよ、縁起でもねー」
 ハイドのツッコミは耳に入ってない。
「ふっふっふ、探偵の血が騒ぐ事件だよねー♪」
 そんな浮かれる日陰とハイドの団欒に、一つの渋い声が割り込んできた。
「おっと…子供の出る幕ではありませんよ?」
「は、この声は!?」
 振り返って見れば、そこには黒い装束に黒い下駄、黒い頭巾に黒いグラサンを掛
けた全くの黒尽くめの男がいた。実に時代錯誤な格好だ。それはそれでなかなか決
まっているのだが、どうにもグラサンが全てを台無しにしていた。つまりダメ。
「あなたは京極beaker!!」
「やあ皆さん……良い夜ですね」
「いや、人が殺されてて全然良くないと思うんだが……」
 そうツッコミを入れつつハイドはジンを振り返り、beakerがここにいることへの
事情説明を求めた。ジンは小さく頷いて、頬を掻く。
「ああ…俺が呼んだ」
「どうして、警部!? こんな事件あたし一人で十分なのに!!」
 日陰が警部に食って掛かると、beakerは涼しげな笑みを浮かべてそこに割り込む。
「今回の事件は、君が今まで扱ってきたような軽いものではないのですよ。ここは
ベテランの私に任せることですね」
 そう言って、beakerはちらりとハイドの顔を見た。
「…君、今回の事件の真相を言い当ててごらんなさい」
「え? いや、俺助手なんだけど」
「まあ、そう言わずに。君とて助手ながらに推理もしているでしょう?」
「えーーーっと……」
 ハイドはちらりと日陰の顔色を伺った。思いきりやる気の顔だ。
 しゅっしゅっと挑発サインまで送っており、こいつに思い知らせてやれと言わん
ばかりの風情である。ちなみに失敗したら殺ス。
 ハイドは背中を冷や汗が伝うのを感じながら、仕方なく自分の考えを話すことに
した。
「んー……主犯は葵で、たけるは葵の共犯者だ。葵の通った事をわざと黙っていた
んだろう。もしくは秋山も共犯か? 何にしろ、秋山とたけるしか証言者がいない
んだからアリバイもへったくれもねえだろ。まあその点から言うと葵は関係なく、
秋山とたけるの共犯で、秋山が手を下したって考えも成り立つけどな」
 非常に一般的な推理だった。あまりにも一般的過ぎるだろうが。
 こんな当たり前の考えが正解なわきゃねーよな、とハイドは思った。
 だってつまんないもん。
 それを裏付けるように、ジンは苦い表情で頭を振った。
「違うな…秋山はトイレで紙がねえと叫んでるところを数名の同僚が目撃している。
それに監視室にいたのはたけるだけじゃなく、他のガードマンも一緒だった。
 たける以外にも画面を見ていたガードマンはいたんだ。そいつらも又、画面には
異常がなかったって言ってる」
 ジンがそう言った瞬間、後ろのドアが開いてメイド姿のたけるが飛び出してきた。
出刃包丁片手に。
「うわーんひどいよひどいよ導師ったら私を疑うなんてひどいよいじわるだよ悪だよ
エルクゥだよっていうか私は犯人じゃないもんっ!!」
「うわーっ、分かった!! 分かったから包丁握ってぽかぽかするんじゃねーっ!!」
 ハイドはたけるの持つ出刃包丁を紙一重で避けながら泣き叫んだ。
 それを見ていた一同はつつっと冷や汗を垂らす。
『うっわ、なんて犯人らしい奴だ!!』
 共通の見解であった。
「うーむ、あれだと日陰が殺すまでもねえな……」
 ジンは目を細めてそう呟いた。
 その背後に、凄まじく暑苦しい肉のシルエットが現れる。
「ふぬうううっ!! ジンさん、俺は犯人じゃねえぞぉぉぉぉぉぉっ!!」
「秋山ああああっ!? わ、分かったからお前もポーズとって迫……あうううっ!?」
 言ってる側からジンは熱烈抱擁された。可哀想に。むしろ口実を作って無理矢理
抱きついた、という気もしないではなかったが。
「あー、それで、君の推理はもう終わりなのかね?」
 何とか気を取りなおしたbeakerは、冷静を装って服をズタズタにされたハイドに
訊いた。
「え? あっと、それから犯人が昼なんかの監視してない間にこの部屋の中に入っ
て隠れてた…って可能性もあるかな」
「そいつはありえねえぞ」
 ジンは秋山の顔面に至近距離からロケットパンチをキメつつ言った。
「この部屋は事件発生から現在までずっと監視されてた。この部屋から出てきた奴
は誰もいねえんだ。誰も入れず、誰も出られない……一種の密室殺人なんだよ」
 ちなみにこの場面は好恵の部屋なのである。現在は好恵の代わりに秋山が額から
大量出血して横たわっている。
「じゃあ…自殺か? まさか前々回みたくタイムマシンで入ってきて殺して帰った、
なんてオチを繰り返すわけねーし…マロールの呪文とかは禁じ手だよな……」
「自殺はねーだろ。背中を一突きで即死だし。ところで何でリルガミンサーガにな
ってから『マロール』は『マラー』って読むようになったんだろな?」
「いや、俺に言われても」
 ハイドは困惑した表情で呟いた。
 それを見たbeakerはフッと笑って肩を竦めた。
「どうやらここら辺が君達の限界のようですね」
「いや、これはマスターの限界であってあたしの限界では……」
 弁解しようとする日陰を無視して、beakerは尊大な口調で言った。
「この事件は妖怪の仕業だあっ!!」
「いきなり何だあんたもっ!!」
 ハイドがつっこむと、beakerは世にも楽しそうな表情で高笑いをあげた。
「この事件は妖怪『彌図門』の仕業だ!! よって今から憑物落としを行う!!」
「やかましい、寝言は寝てから言えっ!!」
 ハイドは速攻でbeakerをどつき倒そうとしたが、その肩をジンが押さえる。
「待てハイド!! 一見ただのキ○ガイに見えるが、これがこいつの探偵術だ!!」
「だって警部、なんか『精神病はおばけの仕業だ』と断言するどこぞのトンデモ
精神科医と大差ないぞ今の発言は!?」
「ほらよく言うじゃねえか、『天才とキ○ガイは紙一重』って!!」
 beakerは、ふはははと笑いながら錫杖を打ち鳴らして叫ぶ。
「なんだか凄く失礼な事を言われてる気もするがまあいいでしょう!! さあ警部、
関係者をこの部屋に集めてくれっ!!」
「いや、集めるも何も既に全員ここにいるんだけどな!!」
 暴れるハイドを取り押さえつつジンは叫んだ。
「あ、すみません私も既に居るんです」
 今までちょこんと座っていたにも関わらず、何も喋らなかった葵が申し訳なさそう
に言う。
「それはますます好都合!! さあ、つつつ憑物っ、憑物落としをぉぉぉーーっ!!」
 なんかbeakerの目がヤバいし。ぜぃぜぃと荒い息を吐きながら蝋燭をそこらに立て
て回ってるし。
「離せーーっ、黄色い救急車を呼ぶんだーーーっ!!」
「落ち着け、落ち着くんだーーーっ!!」
「包丁ーーーっ!!」
「筋肉ーーーーっ!!」
 警部と助手と容疑者二名は嬉しそうに遊んでるし。
「最終回だってのに今回あたし出番ない感じ……あたしが主役なのに」
 日陰は混沌とする部屋の中を眺めながら、つまらなさそうにぷーっと膨れた。
「こうなったら、思いきり邪魔しちゃうんだから……!!」

「それでは憑物落としを始めましょうか。さて、始めるにあたってまず言わなければ
ならない事があります」
 暗闇の中、beakerは低い声でそう切り出した。闇は実に人の恐怖心煽る。その中で
聞こえるbeakerの声はまるで此岸と彼岸の境の中で、かろうじて常世と繋がる命綱の
ように感ぜられるのであった。さっきまで発作を起こしていた人物の声とは思えない。
「……それはこの事件は非常に偶発的なもので、被害者にとっても加害者にとっても
不幸な事件であったという事にしておいたほうが角も立たずに良い感じだということ
です。……そう、それから確かめなければならない事もありましたね。たけるさん」
 beakerはたけるの方を向いて、厳かな口調で呼びかけた。
「何かな?」
「貴方は、そこの葵さんと面識はありませんね?」
「うん、初対面だけどな」
「私もたけるさんには初めてお会いしますよ」
 二人の証言を確認し、beakerはもっともらしく頷いた。
「分かりました。これで全ての謎は繋がりましたね」
「おい、京極! 一人だけ分かっても仕方ねえぞ!!」
 ジンは立場上、木場っぽく野次を飛ばした。
「まあ、待ちたまえ。……この事件はね、結局のところ偶然の産物なんだよ」
「偶然? 京極、何が偶然だというんだい?」
 ハイドが立場上関口っぽく訊くと、beakerはどことなく沈痛な口調で答えた。
「我々人類は本質的にひどく鈍感な動物なんだよ。僕達は目の前で起こった現象ですら、
その意味を理解する事がで気なければそのままその出来事自体も知覚出来なくなるんだ。
犯人は多分、捕まる事を覚悟の上で被害者を殺害しようとしたんだろうが……」
「何だって!? 捕まる事を予期して殺したっていうのか!?」
 ハイドは我ながら間抜けっぽい質問だなあと思いながら言った。
 でもこのくだりは京極パロなんだから仕方ないよね。知らない人はごめんなさい。
「そう。元々犯人は殺した後、大人しく捕まるはずだったんだよ。ところが思いがけな
い事が起こった。正々堂々と正面から侵入して殺し、出てきたはずなのに何故科捕まる
ことはなかったんだ」
「だけど、たけるさんは犯人を見ていない! そのトリックを捜してたんだろう!?」
「トリック? そんなものはなかったんだよ…最初からね。君達はこのSSが探偵モノ
だという既成概念にとりつかれ、ありもしない『トリック』を見ていたのさ。仮にこれ
を妖怪『彌図門』……『ミズモン』と呼ぼう」
「何故『ミズモン』がーーーっ!?」
 ハイドはいつものようにガビーンとなった。でもbeakerは聞いてない。
「僕の役目はこの妖怪『ミズモン』を祓うことだ。そもそも、このミズモンという妖怪
は何なのか? 残念ながらその本質に迫る文献は存在しません」
 beakerは訥々と話し続ける。
「しかし今日まで残る文献を合わせると、おぼろげにその真の姿が見えてくる。宗代の
書物『水野抄』にはこんな一文があります。『水野は其れ水の如く野の如く、しかして
目に映らぬ響の如く、森羅万象悉くにして、水の精野の精響の精求むれば即ち其なり』
これはミズモンが何者でもあり、同時に何物をも指すということを示しています。
また明治末期に風産比奈汰という学者が記した『うきゅうきゅ水野全集』を紐解けば、
『何時の間にか我が頭上に妖あり。うきゅうきゅと鳴く。菓子を与うれば悦ぶ。珍獣なり』
とあるし、漢代に宮廷画師として知られた程星逆の作品にはこのように、少年の頭の
上に陣取っているミズモンの姿が描かれています」
「……暗くて見えねーんだが」
 ジンの呟きを無視して、beakerは続けた。
「平安期に赤地氏三日家という女流書家が記した『ミズモン元気でちゅー』を見れば、
浴場に行ったところ水もミズモン、タイルもミズモン、オケもミズモンとなりやがて
全てがミズモンと化したという記述がある。思うに、ミズモンとは思惟の内にある物
を別の物と取り違えさせる……そんな妖怪なのでしょう」
「平安時代に浴場やタイルってあったっけ……?」
 たけるの声を無視して、beakerはしみじみと呟いた。
「げに恐ろしきはミズモン、といったところでしょうか……」
「それで…そのミズモンが今回の事件を引き起こしたってーのかよ?」
 ジンの言葉にbeakerは頷いた。都合の良い言葉は聞こえるらしい。
「君達捜査陣達は、ミズモンに憑かれてありもしないトリックを見た。そしてたける
さん、貴方もやはりミズモンに憑かれ……今度は逆に目隠しされたんだ」
「え? どういうこと?」
 たけるはひどく驚いた声を挙げた。
 逆にハイドとジンは一発で分かったらしい。
「それはまさか……!?」
「冗談だろオイ!?」
 しかし二人の声を受け、beakerは頷く。
「そう…たけるさんには、犯人が見えていなかったんだよ!!」
 どこからか雷鳴が轟いた。今日は快晴のはずなのだが。
 たけるは悲鳴にすら似た叫び声を挙げた。
「そんな!! あたしちゃんと見てたよ寝てなかったよホントだよ!!」
「beaker……もしかしてお前、人間はいつまでも一つの物を見つづける事は出来ない、
ということを言ってるのか? でもモニターを見てたのはたけるだけじゃ……」
 ハイドの言葉をbeakerは違うね、と一蹴した。なんかむかつく。
「きっとたけるさんは見てたんだろう。だがね、『知覚』と『認識』…いや、もっと
簡単に『見える』のと『理解できる』のは違うんだよ。人間の脳は理解出来ない物は
『そこには何も存在しない』と数えてしまう。それに加えてたけるさんにはもう一つ、
重大な特徴があった。…たけるさん」
 beakerはたけるの方を見て、静かに聞いた。
「川越たけるさん、貴方は…『SS使い』ですね?」
「うん、そうだけど?」
 たけるはあっさりと頷いた。
 その瞬間、暗闇の中に二つのあっ、という叫びが響いた。
「そう、君達もようやく分かったようだね。犯人は包丁を持って……大方スキップして
鼻歌でも歌いながらしかもその歌は『にんげんっていいな』で頭の上には花でも付けて
たんだろう」
「何でそこまで具体的に分かるんですか?」
 beakerは葵の質問を無視して続けた。
「たけるさんは当然それを見ていたはずなんだが、彼女にはその存在の意味が理解でき
なかった。つまり、たけるさんの脳は許容出来ない存在に対し、無意識下で防衛規制を
働かせてそこには何もいなかったことにしてしまった。更に悪いことに、たけるさんは
SS使い……その影響は周囲のガードマンにすら及び、モニター室からは何も見えなか
ったことにしてしまった……実際そこに犯人がいたにも関わらず、だ!!」
「すげえ、すげえ推理だぜbeaker!! 何となくもっともらしい!!」
 beakerの推理にジンは素直に感動した。
 一方のハイドはがびーん、とポーズを取りながら叫んでいた。
「んなワケねーだろがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あるんだよ、そういうことは!!」
「ねえよ」
 しかしbeakerは敢えて無視し、強引に話をまとめにかかった。
「そして犯人は計らずも誰にも発見されず殺害を果たす事が出来た。しかしその内心は
今この瞬間までいつ真相を言い当てられるか、生きた心地もしなかった事でしょうね。
その意味では、犯人もまた被害者なのです…そう、妖怪ミズモンのね。さあ…自首して
くれますね?……秋山登さん」
 beakerの穏やかな声に突き動かされるように、一同は秋山の座る方向を見つめた。
 彼はどんなにか恐ろしかったことだろう。憑物落としの間ずっと沈黙を守り続けて来
た秋山を気遣うように、一同は彼の動きを待った。
 そして……空気が動く。入り口のドアが強引に蹴破られ、眩い逆光と共に二つの影が
高笑いを挙げながら世にも得意そうな声で宣告した。
「はっずれー☆」
「はははははははははは、違うんだなコレがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そのシルエットこそ、先ほどの憑物落としの最中一言も発しなかった登場人物、我等
の主人公風上日陰と重要参考人秋山登だった!!
「ひ、日陰ぇぇぇぇぇ!?」
「お前等全然喋らねえと思ったらエスケープしてやがったのかっ!?」
 ハイドとジンが叫ぶその後ろで、beakerはワナワナと震えていた。
「し、しまった!! 暗闇の中だと犯人逃げてもわかんない!!」
「ボケかお前はーーーーーーーっ!!」
 ジンは今度こそ思いきりbeakerの後頭部をどつき倒した。
 それはともかく、日陰はぽんと秋山の片手に抱かれた箱を叩いてにこっと微笑んだ。
「ふっふっふ、残念ねbeakerさん! 秋山さんが犯人じゃない証拠を取って来たわ!!」
「日陰……すまん。俺、てっきり単にうざいから引き立て役をハブったと思ってた」
「いや、それもあるんだけどね」
「あるんかい!?」
 ハイドはがびーん、といつものポーズを取った。
 そんな日陰に向かってbeakerがつかつかと歩み寄ってくる。
「コラ、そこ!! よくも僕の憑物落としの邪魔してくれましたね!! 折角犯人を
特定して、後は自首させるだけだったのにっっ!!」
「だってあたし主人公だもーん♪ 全ての探偵はあたしの引き立て役なんだもーん♪」
 そう言って日陰は不敵な笑みを漏らした。
 ああ、なんて悪辣な主人公。
 beakerはひきひきと笑いながら、日陰に向かって険悪な声を挙げる。
「いくら主人公でも普通他人の邪魔するかオイ!?」
「だってあたし少年探偵だもん。大人の常識なんて関係ないよー」
「そういうのを『厨房』ってんだ知ってっかコラ!!」
「そんなこと言われてもあたし13歳だから本物のC学生だもん」
 ハイドは滅茶苦茶な理屈を並べる日陰に同意して、深く頷いた。
「beaker、至高なる13歳様に逆らってはならぬ。ましてや日陰は永遠の13歳!!」
 その瞳にはうっすらと涙の跡が輝いている。
「おのれ13歳を甘やかす悪魔の手先がっ!!」
「何を!? 貴様13歳を、13歳を馬鹿にするのか!? この売国奴め!!」
「どこの国だ!?」
「神聖13歳帝国に決まってるだろ!!」
「僕はそんな爛れた帝国の国民になった覚えはない!!」
「あーはいはいはいはいはい」
 ジンは際限なく馬鹿な争いを続けるbeakerとハイドを押しのけた。
「全くキリがねえぞ。日陰、それでその秋山の無実の証明は?」
「うん、このテープを見て」
 日陰はそう言って、秋山の持っていたデッキとテープを取りだした。
 警察が証拠品として押収したはずの監視カメラのテープである。
「お前、こりゃたけるさんが室内にいたときのテープか?」
「そう。ねえたけるさん、もう一度このテープを見てくれるかな?」
「うん、いいよ?」
 日陰は秋山にテープの準備をさせた。一応容疑者である秋山にここまでやらせる、
ということは日陰は秋山が犯人だとは全く思っていないのだろう。
「さあ…たけるさん、よく見ててね?」
 言いながら日陰はビデオを再生した。たけるだけでなく、全員がモニターを見つ
める。しかしモニターに変化はなく、まるで静止画像のようにただ廊下だけが映っていた。
 十分が経ち、二十分が経ち、そして三十分が経ってビデオは終わった。
 結局何も起こらなかった。
 日陰はたけるの方を向いて、くすくす笑いながら訊いた。
「どう? 何か見えた?」
「ううん…何も、変化はなかったと思うけど……」
 当惑するたけるの言葉に、日陰は頷いた。
「そういうことよ。beakerさんの推理は間違いだって証明されたわ」
「え? 何で今のが証明になるんだ?」
 ハイドの質問に、日陰はぎょっとした視線を送った。
「マスター、まさか京極パロやってるうちに脳まで関口君になっちゃったの?」
「うわぁ、なんかすっごくバカにされたような表現だ」
「じゃあちゃんと元に戻ってね♪」
 日陰は、ぽんとハイドの頭を撫でて言った。
「beakerさんの推理だとたけるさんはその意味不明な存在の正体が犯人だと理解出来
なかったから何も見えなかった、って事だったんでしょ? でも今たけるさんは犯人
がこのモニターに映っていると分かっていたのに何も見えなかった。つまり…」
「そうか…だからbeakerさんの推理は外れてることになるのか!?」
 ハイドの声に大いに精神を逆撫でされたらしく、beakerはだんだんと地面を踏み鳴
らした。
「ええいっ、じゃあ犯人だけでも当ててやる!! 犯人は葵さん、貴方だっ!!」
「へ? 私ですか?」
 葵はぱちぱちと瞬きしてから、ふるふると首を振った。
「違いますよ。もしも殺すなら、私の場合包丁より素手のほうが確実だし」
 何ともあっさりした応答である。しかしキレたbeakerには通用しなかった。
「嘘だぁっ!! ここまで嘘くさい認識論ブチまけて当たらないワケあるかぁぁっ!!
大体僕の推理が当たってないんならこれまでの数ページは何だったんだ!? 読者様に
申し訳ないと思わないのかぁぁぁぁ!?」
「そ、そんな事言われてもやってないものはやってませんよう」
「やかましい!! 吐け!! 吐くんだっ!! は、もしや貴様葵じゃないなマルチだろ!!」
「び、beakerさん目がイっちゃってるぅぅぅ!?」
「また前々回と同じようにタイムマシンで入ってきてペンキ頭から被って変装したんだろぉぉ!!
おのれポンコツの分際で人間様のフリするとは!! 青いといえども不届き者めぇぇぇぇぇ!!」
「きゃーーーっ!? 誰かぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
 だだだだだだだだ………………。 
「青いっていうなぁーーーーーーっ!!!」
「ポンコツっていうなぁーーーーーーーっ!!!」
「げがふぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
 beakerはどこからともなく現れた程星逆ことティーとセリスに思いっきり殴られた。
「この作者も、beakerさんは元マルチ萌えなんだからこんな行動させるなよ……」
 そう言いながらちゃっかりハイドは黄色い救急車を呼んでいた。
 ジンはふーとため息を吐きながら、のんびり見物する日陰に目をやった。
「で、日陰よ。beakerの推理が間違いだって言うんなら、当然犯人分かってるんだろうな?」
「当然じゃない、バッチリよ」
 日陰は自信たっぷりに頷いた。その動作はあまりに自然で、一瞬質問した方が虚を突かれる
ほどだった。
「え……? 本当に分かったのか? 犯人もトリックも、全て解けたっていうのか!?」
「うん、解けてるよ。坂下好恵殺しの犯人は……この部屋の中にいるわ!!」
「何だって!? 犯人は……登場人物表に入ってるのか!?」
 beakerを取り押さえたハイドは、慌てて部屋の中を見渡した。
 日陰はそんな彼を見てにっと笑い、大きく頷くと……ある方向に指を突きつけた。
「犯人は、あなたよ!!」

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 読者への挑戦状

 賢明な読者はもう分かっただろう。犯人はあの人物である。
 とはいえL学参加者の70%は既に予想がついていることだろう。
 別に分からなかったからといって明日からの生活に支障も出ないし困る事もないだろうが、
出来ないとちょっと悔しいので解いておきたいよね。もうこのネタやらないだろうし。