「犯人はあなたよ!!」 日陰が指差した先にいた者は……。 誰も居なかった。日陰の指は何もない虚空へと向けられていた。 「日陰…? お前、何やってるんだ?」 訝しげなハイドの声に日陰はふうっと息をつきながら答えた。 「そう、マスターには見えないのね。好恵さんを殺した後、大胆にもこの部屋から一歩も 出ず、ひたすら誰かが濡れ衣を着せられるのを待っていた男が……」 「そんな奴いたのか!? 登場人物表に載ってないぞ!?」 ハイドの叫びに、日陰はわずかな笑みを浮かべて答えた。 「ちゃんと載ってるわ。葵ちゃんの下に反転文字でね!!」 「えっ、嘘っ!?」 …………………………………………………………………………………………………………。 「オイ、出ねーぞ?」 「うっそぴょーん☆」 「読者様バカにしてんのかてめえはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 さあ、慌てて上のほうに戻ってドラッグしてしまい混乱してここまで帰ってきてくれた人。 作者が日陰に代わってお礼を言います。引っかかってくれてありがとうです!! 「ドラッグ云々は冗談だけど、ここには本当に真犯人がいるのよ!!」 「もう騙されるかっ!! 毎回毎回いい加減なコトばっかり言いやがって!!」 「本当だよ、マスターだって正体を知れば納得するわ!!」 「ふん、じゃあその犯人とやらの名前を言ってみろ!!」 ハイドの言葉に、日陰は真剣な口調で答えた。 「ガンマル」 「先に言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 「てゆーか反則じゃねーか透明人間オチーーーッ!!」 ハイドとジンの絶叫が部屋に響き渡った。 その時である。突如何もない空間から怒声が響いてきた。 「くそう、誰が透明人間だぁぁぁぁぁっ!! 俺はここにおるわぁぁぁぁぁっ!!」 「あっ、ホントだ声がした。でも姿は見えんな」 「畜生っ、見えないって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 でも見えないもんは見えんし。 日陰はびしっ、と虚空に指をつきつけて叫んだ。 「ガンマルさん…あなたは自分の姿が人に見えない事を良い事に、堂々とカメラの前 を通って好恵さんを殺したんでしょ? 更には用心深く『殺人者』としての肩書きの せいでモニターに映る可能性を考え、ずっとここに隠れ秋山さんか葵ちゃんが冤罪で 逮捕されるのを待っていたのね!!」 「違うよー」 呑気な返事と共に、ぱたぱたと音がした。手を振って否定しているらしい。 「……え?」 「いや、誰かが止めてくれると思ってカメラの前通ったんだけど、誰も気付いてくれ ないからついついそのまま殺しちゃって。その上気が弱いからさ、血を見てうっかり 今まで気絶しちゃった、てへ☆」 間の悪い沈黙が部屋中に満ちた。まるで全員が悪い夢でも見ているかのような表情 で虚空を見つめている。 恐る恐る、といった風情で日陰は問うた。 「あの……なんで好恵さんを殺したの?」 「ああ、それか……」 ガンマルの声に若干の憂いが混じる。一同はほっとして、少しはシリアスな方向に 持っていける事を期待した。 「憎かったんだ……」 ガンマルの声が震える。よしよし、良い調子だ。 「憎かったんだよっ! 初期は背景だったくせにbeakerさんにキスされて以来段々と メジャー街道を上り詰めていく彼女が……僕はずっと背景なのに!! キスくらいで!!」 「忘れやがれ畜生ーーーーーーーっ!!」 beakerの涙混じりの絶叫が部屋中に響いた。 ハイドは秋山とたけるに向かってぼそぼそと囁く。 「……なあ、好恵ってメジャーか?」 「いや、絶対にメジャーとは言い難いと思うぞ」 「言っちゃ悪いよ、きっとあの人から見たら激メジャーなんだよ」 日陰はあまりといえばあまりの理由に硬直している。 そんな彼等を押しのけ、ジンは苦々しい口調でガンマルがいると思しき空間に叫んだ。 「馬鹿野郎…馬鹿野郎が! お前が背景でなくなったら何だ? ただの生徒Aだろうが!! 名もなき生徒Aよりも名のある背景のほうがよっぽど出番があるって、何でわからねえんだ!!」 「ジンさんに分かるもんか!! エキストラ全員をカバーする僕の気持ちなんて!!」 しばし、ガンマルの悲痛な叫びが場に満ちる。 「…だからって」 静寂の後、張り詰めた空気を破る事を恐れるような、beakerの肩を震わす声が紡がれる。 「だからって好恵を殺す理由にはならないだろう!?」 「それ以前に好恵が背景ってL学じゃなくて久々野さんのデンパマンじゃねーのか?」 全く脈絡のないハイドの声がこれまでの空気を一撃で粉砕した。 「し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 ガンマルのいると思しき空間からショックに満ち溢れた叫び声が聞こえてきた。 おかしいなあ、確かにL学初期には好恵も背景だったはずなんだが。 ジンはうっうっと涙しながら、しみじみした口調で言った。 「お前も……苦労したんだな」 「け、警部さん……僕、自首しますっ!!」 ガンマルは涙混じりの声で叫んだ。 「好恵さんを殺したら、大人しく捕まろうって決めてました。さあ、僕に手錠をっ!!」 「いや、腕どこだよお前」 とことんまで困った犯人である。 しかしここまで犯人が変だと、探偵も負けていられない。 我に返った日陰は、熱く燃える瞳でガンマルに指を突きつけた。 「ちょっと待った!! あなた、まさかそのまま捕まるつもりじゃないでしょうね!?」 「え? いや、勿論そのつもりで……」 「おい日陰、折角話がまとまりかけてるのに……」 ハイドはそう言いかけて、日陰の意図を悟った。 困惑するガンマルに向かって、日陰はびしっと厳しい口調で叫ぶ。 「前後編、しかも最終回にしてあっさり捕まろうなんてそれでもあなた真犯人!?」 「そ、そんな事言われても……」 「くっ…あくまでもすんなりお縄につく気ね!? かくなる上は主役の意地にかけて あなたを最終回にふさわしくしてあげるんだからっ!!」 そう叫ぶと、日陰はいきなりクラウチングスタートの態勢をとった。 ハイドはそれを見ながら、わざとらしく口メガホンをつけて叫ぶ。 「『ああっ、日陰っ!! 危ないっっ!!』」 一瞬その場の人々は何が始まったのか分からなかった。 だが、すぐさま彼等の意図を解して同様にわざとらしい悲鳴を上げる。 「『た、探偵さんっ!!』」 「『日陰ーーーっ!!』」 日陰はそんな叫びに包まれながら、まっすぐガンマルの方を睨みつけダッシュを切る。 「レディ、GO!! とぉりゃああああああああ!!!」 「へっ!?」 この部屋の中で、ただガンマルだけが何が起ころうとしているのか理解できてなかった。 自分に向かって主人公が一目散に駆け寄ってくる。 いや、違う。自分に向かって来ているのではない。 自分の握っている、包丁に向かって突っ込んで来ているのだ。 「ちょ、ちょっと一体何を―――!? 「『き、きゃーーーーーーーーっ!?』」 ぶすっ。ぽたぽたっ。 腹部から出血し、力なく日陰が床に崩れ落ちる。 ガンマルは自分の手に握られた包丁に主人公の身体が突き立っているのを見た。 「え…えええええええっ!?」 日陰はわざとらしく、弱々しい声を挙げた。 「『あたしとしたことがドジっちゃった……マスター、あとよろしくね……』」 「『ひかげ…? 日陰、日陰ーーーーっ!!』」 ハイドは繰り返し探偵の名を呼びながら、ニヤリとガンマルに笑いかける。 既にガンマルの身体は透き通ってはいない。今や彼は主人公を殺した大悪役である。 「え? ちょ…見てただろ!? 今のは日陰ちゃんが勝手につっこんできて……」 「『よくも、よくも日陰を!! 許さねえ、許さねえぞ貴様ぁぁぁっ!!』」 言いながらハイドの目は笑っている。間違っても悲しんでいる目ではない。 そこでようやくガンマルは全てを理解した。 まさか、まさか……! 「まさか無理矢理に僕を凶悪犯に仕立てあげる気かぁぁぁぁーーーーーっ!?」 「ザッツ・ライトォォォォーーーーーッ!!!」 そう叫び、ハイドは思いきり右手を突きつけた。瞬く間に魔術構成が組みあがる。 「ちょっ……警部さんっ!? こ、この人達おかしいんですけどぉぉぉっ!?」 ジンはぽんとその肩を叩いて、大きく跳びずさりながら叫んだ。 「諦めろっ!! その身をもって最終回の華となれぇぇぇぇぇっ!!」 「い、いやああああーっ!?」 ハイドは非常に楽しそうに右手を構え、叫んだ。 「『日陰のカタキーーーーーーーーっ!!』 プアヌークの……邪剣よぉぉぉぉぉ!!」 「のがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 どっこぉぉぉぉぉん。 「『日陰……見てたか、お前のカタキは取ったぞ……』」 ハイドは最終回フェイスを気取りながら、そう静かに呟いた。 そのすぐ前ではぷすぷすと黒い炭が燃えている。 良く考えたらこれって私刑なのだが、誰もツッコまなかった。最終回だし。 日陰はむくっと立ちあがり、出血を続ける腹を押さえる。 「ふう、痛かったぁ☆」 その割にはあんまり痛くなさそうなのだが。 beakerはあんぐりと大口を開け、そんな彼等を呆然と見ていた。 「あ……あ……」 「あれ? どうしたのbeakerさん?」 そんなbeakerに向かって、日陰は不思議そうに訊いた。 どうしたもこうしたもないだろうが。 「あ……あんたら、アホかっ!? わざわざ他人邪魔して無茶な推理して、その上 自分から腹刺されてまでドラマ作るか!? 死んだらどうすんだっ!?」 beakerが叫ぶと、日陰はあははと心から楽しそうに笑った。 「何がおかしいんだ?」 「おかしいよー。だって、探偵なんて……」 日陰は一点の曇りもない目で断言した。 「探偵なんて、最終回で死んでなんぼだものっ!!」 それは僅かばかりの疑いさえ挟む余地のない、心の底からの信念。 この言葉を聞いたとき、beakerはついに理解した。 初めから、自分がこいつらに勝てるわけなどなかったのだ。 何故なら……!! 「こいつらスパークする探偵バカだぁぁぁぁぁぁーーっ!?」 しかも島本級に!! 「そう!! 探偵バカに勝てる探偵なんてこの世のどこにもいないのよっ!!」 「その通りだあああああああああああっっ!!!」 beakerの言葉を聞いた日陰とハイドは、そう言って胸を反らした。 リアクションのしようがなく立ち竦むbeakerの肩を、ジンが叩く。 「……beaker。驚きついでに俺、もう一つ言うべき事があるんだ」 「……何です?」 ジンはばっとマントを翻しながら叫んだ。 「実は警部ジン・ジャザムとは仮の姿で俺正体は改ジン二十面相だったんだぁぁーーーっ!!」 「さ、最終回が終わってから言うなぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」 beakerの絶叫は虚しく響き渡ったのだった。 =========================================== エピローグ そして、その後どうなったのかというと。 日陰はちゃんと生き返った。元から死んでないんだから当然である。 どうやら事前に自分に巨額の保険金をかけていたらしく、当分食うに困らないと喜んでいる。 それって保険金サギじゃないのかとツッコむと、保険会社の人にも同じ事を言われたと言って いた。一体どうやって説得したのかを考えるとちょっと怖いので、考えないことにしている。 ガンマルは俺にボコボコにされた後、正体を表したジン警部に忘れ去られたまま数日後西山 警部補に発見されるまで干からびていた。 beakerは日陰にやられたのが相当悔しかったらしく、リベンジを企んでいるらしい。 改ジン二十面相やジャンヌ萩島も、日陰に対抗するために腕を磨いているようで、これからも 帝都は忙しくなりそうだ。 そして、俺ことハイドラントは……。 「おいしー! あんみつおかわりー!!」 「むらさきももう一杯ーー!!」 「はぁ…お前等、食い過ぎだ」 俺は頭痛をこらえながら、相変わらずよく食う二人を見ていた。 「待っててねー、もうすぐたけるさんスペシャルあんみつを作るから♪」 たけるはそう言って嬉しそうにあんみつを作っている。この前の事件の後、その腕を見込んで 雇ったのだ。相棒の秋山も一緒に、である。 こいつらは日陰やむらさきと同じく、全く言う事を聞かないので困っている。 「いいじゃない、どーせこの食費はこの前の保険金から出てるんだし♪」 「やれやれ、保険会社も大損だ。また潰れても知らんぞ」 「別に潰れてもあたしは困んないもーん♪」 澄ましてやがる。 そんな日陰の前にたけるがとん、と特大あんみつを置いた。 「はい、召し上がれー」 「わーい、いただきまーすっ!!」 夢中になってあんみつを食う日陰を見ていると、何故だか自然と笑みが浮かんでくる。 そんな俺の顔を見て、日陰は不思議そうに言った。 「マスター、何がおかしいの?」 「ん……死のうが生きかえろうが、お前はちっとも変わらないんだな」 「そりゃそうだよ、だって……」 日陰はナプキンで口の周りのあんを拭うと、極上の笑みを浮かべて言った。 「馬鹿は死んでも治らないんだよっ☆」 俺は日陰を見ながら、こんな生活もいいなと思っている。 完 ========================================== とゆーわけで長のお付き合いありがとうございました!(笑) 案の定、何がどーなって終わりってオチではないですね。 もっともたった4回しかやってないからそんなオチの方が難しいですが。 ネタ的にはあとトレイン、叙述、怪奇、論理などのパロが残っていましたが、これ以上続け るとミステリーパロじゃなくなっちゃうのでここで止めておきます(笑) 本当はこの後、改ジン二十面相との決着とか弥生さん登場とか色々あるはずなのですが、 そこら辺は想像して楽しんでください(笑) あくまでもストーリーメインのシリーズでは ありませんので(苦笑) それにしても日陰とハイドさん、キャラ全然違うな(笑) 勝手に殺されたり犯人にされたり奇妙な探偵にされたりといった目にあった方々、並びに ミステリー大好きでこれを読んで気分を害された方、申し訳ありませんでした。 特に祝賀会でお世話になったガンマルさん、恩を仇で返してごめんなさい(汗) 僕なりの愛情表現と受けとって下さいませ(汗) それでは恒例のおまけを付けて幕としましょう。 お付き合い戴いた皆様、どうも有難う御座いました。 ========================================== おまけ1「ボツバージョンのハイドさん」 (説明) 旧バージョンでは日陰が死ぬのは演技ではなく本当で、それをハイドが助け起こすという シーンがありました。このバージョンではガンマルさんシリアス悪人(笑) ハイド「日陰…日陰ぇぇぇぇぇっ!! 目を開けろよ…起きてくれよぉぉぉぉぉ!!」 日陰「……………………」 ハイド「くそっ…くそぉぉぉぉぉぉっ!! 日陰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 ジン「ハイド……」 beaker「好きなようにさせておきましょう。全ては彼自身で解決すること……」 ハイド「日陰…なんでも好きなもの買ってやる。何でも食わしてやるからさ」 日陰「………」 ハイド「だからさ…目を開けてくれよ、日陰っ……!!」 日陰「じゃあパフェとあんみつとアイス」 ハイド「ああ、買ってやるとも……だから……」 日陰「そいから焼き芋とケーキと、あと鳴門うず芋とかずんだモチとかササニシキアイスとか」 ハイド「ああ、地方特産品だって何でも買ってやるから……」 日陰「え、まだいいの? それじゃね、杏仁豆腐とパンナコッタと13アイス全種と、」 ハイド「あー、それはさすがに予算オーバーかな」 日陰「なーんだ、がっかり」 ハイド「……って日陰っ!? 起きてやがったのか!?」 日陰「えへへ、生き返っちゃった。ねえ、今の全部食べさせてくれるんでしょ!?(キラキラ)」 ハイド「はっ……冗談っ! お前が死んだら墓前に備えてやるって話だったんだよ!!」 日陰「あっ、じゃあ今からもっかい死ぬから備えて☆」 ハイド「働かない奴に食わすメシはねえっ!!」 日陰「ねー、マスター!!」 ハイド「……魔王相手に食い物で交渉するのも俺くらいだよな」(←結局奢らされた) beaker「ははは、つまり貴方は逆に日陰嬢に食い物にされてるのですね」 ハイド「黙れ」 beaker「ははは、そして貴方は本当の意味で食い物にされているのだね」 ジン「ブチ殺すぞ似非紳士」 なんとなくラブコメなオチ(笑) ============================================= おまけ2「撮影後のbeakerさん」 beaker「くそう、何でこの僕があんな狂った演技せにゃならんのか(苦笑)」 冬弥「ご苦労さまでした。どうぞ、コーヒーです」 beaker「やあどうも。先生もAD、大変でしたね」 冬弥「なに久しぶりにやると良いもんです。……ところで、あの、手紙が……」 beaker「……『奴』か」 『beakerさんが今回出て来たのはやっぱり被害者役の好恵さんラブだからですか? ぶっちゅぅぅぅ〜でラブラブですぅ〜〜、うきゅ☆ 水野響』 beaker「…先生、僕妖怪ミズモン対策にどんなミズモンも一撃でぶった切る、 聖剣ミズモンスレイヤーを手に入れたんですが使っていいですか?」 冬弥「……使っても良いけど殺さない程度にね」 beaker「ええ、そりゃあもうッ!!」 冬弥先生、既に慣れたようです。