「……許せ……許せよ……ジン……」 闇の中、柳川祐也は歩む。 もはや完全に潰れ、動かなくなった右脚を引きずるように、ゆっくりと。 柳川の通った道に点々と血の痕が続く。 見れば、柳川は右脚だけではない、満身創痍だった。 流れる血が白衣と地面を汚す。 それでも柳川は歩き続ける……下半身を吹き飛ばされた少女の骸(?)を抱いて。 「報いは……受けよう……お前が……お前の運命に勝てるだけの力を与えられなかった… …俺の罪の報いは……。」 割れた眼鏡の向こうに、金色の輝きがあった。 それは狩猟者たる鬼の瞳。 人の心を捨てた復讐鬼の瞳。 「だが……!」 柳川が立ち止まる。 辿り着いたのだ……何処かに。 彼以外の誰も知る者のいない、何処かに。 柳川はその何処かで叫ぶ。 恩讐に満ちた、悲痛なる声で。 世界総てを呪詛するかの如く。 「俺には、まだやらねばならないことがある! ……渡すものか! この世界をあんな愚 劣な人間どもに渡してなるものか! あいつを生贄を捧げることで生き延びた連中にも! 苦痛と絶望の狭間で必死に戦い抜いた男1人愛せなかったあの女にも! 滅びこそが救い などとほざき、自らの脆弱さと戦うことを放棄した連中にも! この世界を! あいつの 愛した世界を渡してなるものか!」 金色の双眸から涙がこぼれ落ちる。 紅い、紅い涙が。 もはや人として泣くことを許されない鬼が、それでも涙を流さなくてはならないときに 流れ落ちる雫。 魂の血涙。 「身の程を知るが良い! 貴様らに与えられるのは、平穏でも慈愛でも滅びでもない! 貴様らに相応しきは地獄! 死することも狂うことも決して許されぬ絶望! 凌辱の嵐! さあ……せめて足掻くがいい罪人どもよ! 安息への僅かな希望に群がる亡者のように! それが切れるべき宿命にある、一縷の蜘蛛の糸であることにも気付かずにな!!」 そこまで叫ぶと、柳川は腕の中の少女を愛おしそうに見つめた。 柳川の唇が少女の唇に、軽く、触れる。 「さあ、我々を導いてくれ『凌辱者』よ。最後の日……『最後の審判(ザ・ラスト・ジャ ッジメント)』へと!」 カッ! 稲光が、柳川のいる何処かの闇を、一瞬だが照らした。 雷光に浮かび上がる、何処か。 それは……Leaf学園。 滅びたはずのLeaf学園。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『望まれぬ生命』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――幽鬼―― 「第3隔壁、突破されました!」 「第7警備部隊、全滅!」 「敵主力、L−429に侵入! 止められません!」 へーのき=つかさは舌打ちした。 次々と入る報告の内容を聞くまでもなく、状況は最悪だった。 一般には存在が隠されているはずの、この『プラント』に唐突と侵入してきた謎の敵は 来栖川最先端の防衛システムをいとも容易く突破し、『プラント』最深部であるこの場所 に迫ってきていた。 へーのきの身体に緊張が走る。 敵の目的は明確だ。 この最深部に眠る『トエレブ』。 人類の生命線。 何としても守り抜かねばならない。 さもなくば、世界の何分の一かが確実に消滅する。 「へーのきさん……来ます。」 隣りに立つメイドロボ――HM−13シリーズの最高傑作にして、最強の戦闘力を有す る機体Dセリオが正面を見据えたまま、へーのきに語りかける。 その後ろにはDマルチ、Dガーネット、Dボックスも控えていた。 かつてはLeaf学園を守っていた彼女たちも、守るべき学園がなくなった今では、来 栖川の最重要施設である『プラント』の守護に回されている。 最強の彼女たちが守らねばならないものがここにはあり、現に今、守らなければならな い状況に追い込まれている。 へーのきも戦闘態勢に入り、来るべき敵に備える。 ……10秒。 ……20秒。 そして…… びぃぃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉんっっっっっっ!!!! 正面の特殊金属で造られた扉をぶち抜き、ビーム砲が彼女たちに迫ってきた。 「マグネティック・フィールド!」 とっさにDセリオがフィールドを展開し、ビームを弾く。 直後フィールドを消去し、即座に反撃に転じる。 ヴァオンッッ! Dセリオの放ったビームが、破壊された扉の向こうの影に命中する。 爆発。 だが、敵が倒れた様子はない。 警戒したまま、爆風の向こうの影を観察するへーのき。 そして、爆風が晴れたとき……へーのきは、いやDセリオも驚愕した。 そこには、彼女たちがよく知っている、懐かしい顔があった。 あるはずのない顔がそこにあった。 震える声で、Dセリオが呟いた。 「あ……貴方は……!?」 Dセリオの呟きに応えるかのように、その人物がにたりと笑った。 そして右手を前面に構える……Dセリオたちに向けて。 Dマルチは、その掌に高密度のエネルギーが収束していくのに気付いた。 「この攻撃は……いけない! Dセリオさん、はやくこの場を離脱しないと……!」 だが、Dマルチの叫びが終わる前に ぐごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 爆発が『プラント』最深部を包み込んだ。 ・ ・ ・ 隆山市の全景が見渡せる山の上。 かつては雨月山と呼ばれていた伝説の地。 ここには今、全世界に広がる黄昏の光景はない。 昔のままに生命溢れる、緑の光景。 そして、そこに小さな墓がある。 誰にも気付かれないようにひっそりと、だけど、まるで隆山を守るかのように。 その墓の前に1人の女性が立っている。 長い黒髪の美女。 凛とした、だけど、酷く儚げな美女。 美女は何をするわけでもなく、ただ墓の前に立っていた。 大切な何かが抜け落ちた表情で。 「千鶴さん……。」 不意に背後から、彼女を呼ぶ声がした。 美女――柏木千鶴は声の方を振り返る。 そこには見慣れた青年が立っていた。 彼女に付き添い、その身を護る者が。 千鶴は己の守護者の名前を呼ぶ。 「……忍君。」 東雲忍。 元は鶴来屋専属の運び屋として働いていた青年である。 かつては、不幸な過去によって感情のほとんどを失っていた彼も、Leaf学園での生 活と5年前の戦いを通じて、それを克服。本当の自分を取り戻していた。 そして、学園の崩壊後は、その力を鶴来屋と千鶴のために振るっていた。 現在の、実質的な千鶴の守護者と言えるだろう。 そう、何故ならば 「また、ここにいたんですね。千鶴さん。」 「ええ。だって、ああ見えて結構寂しがり屋なのよ……」 彼女の本当の守護者は 「ジン君は。」 この墓の下で眠っているのだから。 「もう……5年になるんですね。あの戦いから。」 忍が千鶴の横に並び、墓を見つめる。 千鶴が頷いた。 「そう……もう5年ね。長すぎる5年。そして、短すぎる5年……。」 5年前。 第2次SGY大戦。 多くの犠牲と悲劇を生みだした、最悪の戦争。 その戦死者の1人が、今、彼女たちの目の前の墓で眠るジン・ジャザムである。 「……とは言っても遺体は残らなかったから、お墓の下は空っぽだけどね。」 彼の他にも多くの者が戦死した。 その中には風見ひなたやFoolなど、名の聞こえたSS使いたちも多く含まれている。 それ程までにSGYの力は強大だった。 それでもLeaf学園生徒たちは戦い抜いた。 自らの愛する人の明日のために。 失われた戦友たちの鎮魂のために。 そして、ついには勝利する……その代償はあまりにも大きすぎたが。 まずは学園の崩壊。 学園を支えていたヨークの死。 それによる学園時空間の消滅、現世との空間衝突。 大災厄。 地軸の変動、『冬』の到来など物理的な災厄のみならず、世界の構成そのものを支える 運命と秩序の崩壊。 Leaf学園の生き残りと来栖川、鶴来屋が物質的、魔術的対策を取らねば、世界は 『無』ですらない永劫の混沌へと堕ちることになっていただろう。 ――彼らの『秘策』によって、世界は崩壊から救われた。 だが、総ての崩壊を食い止めることは出来ず、人口は20分の1にまで激減。人類の生 存可能な領域も、極東を中心とした極々狭い範囲だけとなった。 それ以外の地域は廠気によって、その空気に触れるだけで死滅する、何ものも寄せ付け ない死の砂漠である。 もはや人類にかつての栄華は、無い。 「……それでも人は生きています。人が生きている限り、希望もまた潰えません。」 忍が千鶴を労るように語る。 だが、忍のその言葉は千鶴に哀しみの影を落とした。 「希望……それもまた、犠牲の上に成り立つもの……。」 「……千鶴さん?」 忍の声に、千鶴がはっとなる。 そして無理に笑顔を作って、忍に語りかけた。 「何でもないわ。帰りましょう……そういえば、恋ちゃんは元気?」 「えっ? は、はい。本当に少しずつですが、5年前の後遺症も治ってきて……」 2人が墓の前から去ろうとした、そのとき。 「!?」 忍は何者かの気配に気付いた。 戦闘態勢を取りつつ、千鶴を後ろに庇う。 「何者だ!!?」 忍のその叫びに応えるように、数多のビームが忍たちに降り注いだ。 忍は咄嗟に千鶴を抱き、その場から飛び退く。 そして、攻撃が飛んできた先、近く樹の上を見る。 そこに人影があった。 その人物は忍たちと目が合うと、にたりと笑う。 その顔に2人とも見覚えがあった。 2人の瞳が驚愕に――とりわけ千鶴の方は特に――見開かれる。 「あ、貴方は……」 ・ ・ ・ 「……だ、大丈夫ですか、へーのきさん?」 「な、なんとかね……」 爆発から何とか逃れたDシリーズとへーのきが、ボロボロになりながらも何とか立ち上 がる。 「それよりも……敵は? それに『トエレブ』は?」 「……『トエレブ』は既に敵の手よって持ち出されてしまったようです。」 Dマルチが冷静に状況を報告する。 「何てことだ! このままでは、この辺りも廠気に飲まれてしまう……!」 へーのきが近くの壁を叩き、悔しがった。 それを見ながら、Dセリオも口を開く。 「しかもあのとき、ここに攻めてきたのは……間違いありません。死んだはずのあの人で す。そう……」 ・ ・ ・ 「貴方は……」 ・ ・ ・ 「あの人は……」 ・ ・ ・ 「……ジン・ジャザム……!」 つづく ………………………………………………………………………………………………………… 俺シリアス強化月間(爆) みなさま、あろはぁ。 ジン・ジャザムでございます。 というワケで今回は、ジン・ジャザム未来編『望まれぬ命』だぁ! ……って、んなモン書いてないで、さっさとエルクゥ同盟編やらメカニック編やら、S GY2if書け、俺ぇぇぇぇぇぇ!(核爆) あうあう。 でも書いてみたかったんだよ〜、俺未来のダーク版。 ネタも急速に閃いたし。 しかも、ちゃっかりSGY2ifの続編になっている(超核爆) ただ、一つだけ断っておきますが、これがSGY2ifの正式な続編ではありません。 だいたいにして、前に投稿したパイロットフィルム版で話が進むと、1人除いて全員死 にます(超新星爆) このSSは、その最悪の結末から中途半端に免れた未来。 でも、もしかしたらこっちの方がよっぽど救われないかもしれない未来です(爆) 世界観は『トライガン』やら『トーキョーN◎VA』やら『真ゲッター』やらが中途半 端に混じっています(汗) 基本的にノー・フューチャー。 話自体はすぐに終わる予定です。 連載というよりも、『劇場版Lメモ』ってなノリですね(爆) 俺シリアス強化月間ということで、この話、俺が最高にカッコイイです(爆) まあ、ここらでシリアスな俺を見せておいた方がいいだろうと……別に、この前言われ たことを根に持っているワケではないですぞ、悠朔さま<私信(笑) しかし、俺が俺でシリアスを書くことを決意した以上、皆さん覚悟して下さい。 ……惚れさせちゃる(宇宙創造的爆) 今回はダークな俺で、そしていつか熱血な俺で(笑) 大風呂敷は広げてこそ価値があるってモンですね☆(<そろそろ止めれ、この馬鹿を) なお、今回は柳川先生救済計画も同時に進めております。 エルクゥユウヤではない、カッコええ柳川先生を堪能して下さい(笑) ………………………………………………………………………………………………………… 次回予告 5年前。 第2次SGY大戦。 救われない人間たちによる、救われない戦争。 多くの救われない魂の犠牲によって、その救われない戦争は終結した。 救われない結末とともに。 それでも、黙示録を生き延びた人間たちは、絶望の果ての小さな希望を信じた。 「夜は明けた。」 「今度こそ人類の再建が始まる。」と。 だが…… 「終わっていないのだよ……『最後の審判』は! 裁きの日はこれからなのだ!」 柳川にとっての、そしてジン・ジャザムにとっての、救われない戦争は終結していなか った。 地獄から蘇った幽鬼たちが、救われない戦争を繰り返す。 その先に待つ、救われない勝利のために。 次回『望まれぬ生命 ――百鬼――』 「敵は……Leaf学園にあり!!」