「……エディフェル……今……行く……」 息も絶え絶えなその男は、それでもなお、前へと踏み出した。 貫かれた腹から、大量の血が流れ出る。 呼吸するたびに、内蔵から血が逆流し、吐血する。 それでもなお男は、前へ前へと歩き続けた。 彼の仕える主、彼の愛する女の元へと。 「…………。」 滑稽ですらあるその男の背中を、黙って見つめる別の男がいた。 その男も傷だらけだった。 だが、そんな怪我などまったく痛まない。 痛いのは……血塗れの右腕。 たった今、親友の躰を貫いた、その腕。 親友の血に染まったその腕が、今は焼けるように痛い。 その親友は今、目の前を歩き続けている。 躰から腕を引き抜かれ自由になった後、もはや自分を殺そうとした男のことなど目に入 らぬかのように、ただただ主の元へと。 死にかけの彼の背中を見守っていた男は、その金色の瞳に深い哀しみを宿し、だが非情 にも宣告した。 「すまない、エイジ……俺はリズエル様の守護者なんだ……だから、お前を行かせるわけ にはいかない……。」 そう告げて、男は血塗れの右手を前に突き出す。 その掌に光弾が生まれた。 それは彼らの一族――彼らは自らをエルクゥと呼び、この星の民は彼らを鬼と呼ぶ。― ―の中でも使える者が僅かにしかいない力。 己のエルクゥを具現化し、破壊エネルギーへと変化する力。 男は光弾を放つ。 放たれた光弾は、まっすぐに死にかけの男を目がけ飛んでいき…… それが男の親友の、 レザムにおいて不敗を誇った男の、 皇家四姫のうちの一人、エディフェルに仕える守護者の、 あまりにも呆気ない、最期だった。 これは『雨月山の鬼』の伝説に隠された、もう一つの悲劇の物語。 自らの主を愛し、殉じていた4人の戦鬼の物語。 だが救国の英雄、次郎衛門の物語を語り継ぐ者はいても、 彼ら、守護者の物語を語り継ぐ者はいない。 誰にも知られることのないままに、 誰にも愛されることのないままに、 彼らは眠る。 ここ、隆山に。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 愛はいつもこの胸に 永遠に消えることはない ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「リズエル様が戻ったか……。」 冷徹な表情のエルクゥが、隣の若いエルクゥに語りかけた。 「あっ、ショウさん。ええ……つい先程。」 「……それで、リズエル様は何と、セツ?」 「『裏切り者』は始末したそうです……。」 セツと呼ばれた若いエルクゥの口調には、苦いものが混じっていた。 それはもう一人のエルクゥ、ショウの表情の中にも見て取れた。 『裏切り者』。 それは皇族四姫……彼ら『守護者』が護りし四姉妹の三女、エディフェル。 彼女はこともあろうか、この星の住人……つまり、彼らエルクゥにとっての『獲物』で ある男の命を救い、その男を愛し、一族を裏切ったのである。 それは気高き魂を持つ彼らエルクゥにとって、許される行為でなかった。 一族の掟に従い、彼女を処刑しなければならない。 そしてその任を命じられたのは、四姉妹のうちの長女リズエルだった。 掟とはいえ、それはあまりにも残酷すぎる決定だった。 だがリズエルは掟に従い、自らの妹を、最愛の家族の命をその手で断った。 総ては、一族のために。 「リズエル様は今、どうしている?」 「自室に閉じこもったきりです。それにアズエル様や、リネット様も……。」 「そうか……。」 2人の表情が沈む。 ショウはアズエルの守護者。 セツはリネットの守護者。 彼らは誰よりも彼女たちの近くにいて、彼女たちを理解している。 そう、彼女たちの心の痛みも、はっきりと。 「そう言えばイルクは?……エイジの奴を追っていったはずだが……いや、もういい。分 かった。」 途中まで聞きかけたショウは、セツの表情から全てを悟り、尋ねるのを止めた。 リズエルがエディフェル抹殺の命を受け出発したとき、エイジもまたその後を追うよう に飛び出した。 理由は簡単だ。 エイジはエディフェルの守護者だった。 彼らはエディフェルを護るため、リズエルを止めようとしたのだ。 それがたとえ一族全てを敵に回すことを意味していても。 そして、彼はイルク、リズエルの守護者に……。 「イルクさんなら、リズエル様のところですよ……」 「そうか……今は……そっとしておくか。」 リズエルが最愛の妹を殺したように、イルクはその手で親友を殺した。 運命の不条理を感じる。 あるいはそれは、我々という侵略者に対する、この星の憤りなのか。 ・ ・ ・ 「……イルク?」 「はい……。」 「…………。」 「…………。」 「……何か用?」 「いえ、特に何も。」 「……そう。」 「はい……。」 「…………。」 「…………。」 「イルク……私は……」 「……はい?」 「…………。」 「…………。」 「いえ……何でもないわ。」 「……そうですか。」 「…………。」 「…………。」 「イルク。」 「はい……。」 「お願い……一人にさせて……」 「はい……貴女がそれを望むのでしたら……。」 イルクはリズエルの部屋を後にした。 『何処へ行くつもりだ……エイジ。』 胸に疼く焦燥。 『……リズエル様を止めに行く。』 血の匂いが拭えない右腕。 『何故だ? リズエル様は一族の掟に従っているだける止める必要など無い。』 愛する者の虚ろな瞳。 『俺はエディフェルの守護者だ。俺はあいつを護る……たとえ、一族を敵に回しても。』 そして 『何故……何故、そこまであの裏切り者にこだわる!? お前を捨てて、奴の元に逃げた、 あの女に!!』 心に重く、のしかかる 『……エディフェル……今……行く……』 後悔。 「俺は……」 いや、俺『こそ』が…… 「リズエル様を……止めるべきだったのかもしれない。」 だが、その問いの答えを知っていたかもしれない友は、もういない。 ・ ・ ・ 満月の夜。 夜の闇に踊り出る女の影。 女の瞳に、白銀の月が映る。 美しい月だ。 女は思った。 それに、懐かしい。 何故だろう? あの月を見ていると、レザムを思い出す。 もう二度と帰ることができないだろう、遠い故郷を。 感傷を振り払い、女は駆け出そうとする。 だが、 「アズエル。」 声が、彼女にとって最も近くにいる男の声が、彼女を止めた。 「……ショウ。」 アズエルは男の名を呼ぶ。 自らの守護者の名を。 「行くのだな、アズエル。」 アズエルの行く手を遮るように立っていたショウが、冷たい口調で語りかけた。 アズエルは強く頷く。 「ああ……エディフェルが命を賭してまで成そうとした、この星の民との共存。それをあ たしたちが継がなければいけないんだ。」 ショウに動揺はない。 ただ静かな表情で、自らの主を、愛する者を見つめている。 そして、その表情は決して崩さぬままに、 「そうか、アズエル。なら……私はお前を殺す。」 「…………。」 ショウの言葉に、アズエルもまた何の動揺を見せなかった。 分かっていた。 こうなることは。 自分だけが逃げるわけにはいかない。 リズエルも、エディフェルも、イルクも、エイジも、一族のため、己が痛みと戦った。 その痛みから、自分だけ逃げるなどと卑怯な真似は、あたしにはできない。 それはきっと、ショウも同じ思いのはずだ。 アズエルは身構える。 ショウも身構える。 ――一族の中には『術』を行使して、様々な超常現象を操れる者がいる。 ショウはその中でも最高の術師。 正面から戦って、アズエルが勝てる見込みは薄い。 (でも、それでも引くわけにはいかない!) アズエルは駆け出す。 術が完成するまでに、ショウの懐に飛び込めば……! 人間の目では捉えられないほどの素早さで、アズエルが迫る。 だが、 (……早い!?) ショウが術の行使のため、宙に描いた図式は、術師の望む世界を構築するべく、活動を 開始する。 「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 それでもアズエルは止まらない。 そのまま、ショウ目がけて突撃する。 繰り出す拳。 そして、アズエルは アズエルの拳は ショウを、貫いた。 「……何で?」 アズエルは唖然として、自分の拳に心臓を貫かれたショウを見つめる。 ショウは、アズエルのすぐ目の前で微笑んでいる。 優しい、そして寂しげな表情で。 ショウが、血を吐きながら、それでもはっきりと答えた。 「私は……お前の守護者だ……お前を……殺せるはずがないだろ?」 その言葉を最期に、アズエルの守護者ショウは息絶えた。 ・ ・ ・ 紅の光景が広がる。 それは村が燃える炎の赤だったし、人が流した血の赤でもあった。 でも、それよりもイルクにとって鮮明だったのは、 村を襲う一族を止めようとして殺された、アズエルの流す血と 何よりも、彼が守護するべきはずだった女性リズエルの流す血の赤だった。 呆けたように、イルクはリズエルを抱きかかえる。 「リズエル……様?」 何も理解できなかった。 腕の中、急速に失われていく愛する人の温もりも。 自分の両手を染める、血の生暖かさも。 瞳を閉じたまま動かない、その寝顔も。 何もかもが非現実的で、虚ろだった。 ただ、あのとき。 一族の王ダリエリの爪がリズエルの腹部を裂いた瞬間、見た生命の炎。 それだけは、酷く綺麗だったことを覚えている。 この宇宙のどんな生き物よりも、そうあのエイジよりも、美しい炎。 あんなにも美しいものが、この世にあったなんて。 知らなかった。 「いつまで呆けている、イルク。狩りの時間は終わりだ。帰還するぞ。」 ダリエリの声に、イルクはようやく面を上げた。 死んだ表情に、僅かだが光が戻る。 「……ぜ……した……?」 聞き取れない言葉を紡ぐ。 「何だ、イルク?」 ダリエリが聞き返す。 イルクに戻った光は、その輝きを増し、憎しみの炎になっていく。 「何故……殺した!?」 「裏切り者だからな。」 ダリエリは横たわるアズエルとリズエルの骸を、汚らわしいものでも見るかの表情で一 瞥した。 イルクの憎しみが、心の臨界を超えた。 「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは ははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」 壊れたように笑い出す。 他の一族は黙って、壊れたイルクを見守っている。 彼らには理解できない。 略奪しかない彼らエルクゥには……守護者のように護るべきものを持たぬ彼らには、イ ルクの狂気などまったく。 イルクは続けた。鬼神の表情で。 「これが! 答えか!? これが! 貴様らの答えか!?」 大地にリズエルを寝かせて、イルクが立ち上がる。 ゆらりと。 「これが、一族のために尽くした者への! 一族のために、愛する者すら手にかけた彼女 への! これが! 貴様らの答えなんだな!!」 轟ッ!! 殺気が膨れ上がった。 そのあまりにも激しい殺気に、狩猟者たる一族の者すら怯んだ。 ただ一人、ダリエリだけは冷たい瞳でイルクを見下す。 「所詮、裏切り者の情夫もまた……裏切り者か。」 ダリエリの皮肉は、イルクの耳には届かなかった。 「ははははははは!! 笑ってくれ、エイジ!! 俺がお前を殺してまでも守ろうとした ものは、こんなにも……下らないものだった!!!!」 涙を流しながら、それでも笑い続ける。 自虐の笑い。 滑稽な自分が、あまりにも愉快すぎた。 「殺せ。」 ダリエリの命令と同時に、数匹のエルクゥがイルクに襲いかかった。 だが ――惨ッ! 次の瞬間、そのエルクゥたちは単なる肉片と化した。 血風の中、イルクが吠え、飛翔する。 「があああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 リズエルの守護者イルクがその生命の炎を散らしたのは、この場にいる同族の炎の3分 の2を道連れにした後だった。 ・ ・ ・ 闇の中、エルクゥの爪が月光を浴びて、煌めく。 爪はセツの左腕を切り落とした。 「セツ!?」 リネットの悲鳴があがる。 だが、セツはそれも厭わず、襲いかかってきたエルクゥの躰を袈裟切りにする。 生命の炎が散った。 セツはそのまま左肩の、腕の切断面を抑えながら、片膝を突く。 「セツ! セツぅぅぅぅぅぅ!!」 リネットは、涙目でセツに縋りつく。 セツは弱々しい笑顔をリネットに向ける。 「さあリネット様……お逃げ下さい。ここは僕が食い止めます。」 彼女の姉が皆、裏切り者として一族に処刑され、 姉たちの守護者が、己の信念のために散り、 残されたのは、リネットとセツの2人のみ。 そして、一族は全ての禍根を断つため、リネットとセツを抹殺することを決定する。 リネットを連れて逃げ出したセツは、これまでに十数人の追っ手を返り討ちにした。 だが、多勢に無勢。 セツの躰は傷だらけで、たった今、左腕も失った。 このまま無事で生き延びれる可能性は薄い。 「いや……いやぁ! セツを置いて逃げられないよぉ!」 「……駄々をこねないで下さい、リネット様……。」 セツが困ったような表情で、リネットを諭そうとする。 しかし、リネットは聞き分けなかった。 涙を流し、泣き叫ぶ。 「もう……もう、何処に逃げたって……こんな痛い目にあってまで逃げたって、無駄だよ ……! だから……だから、最期くらいはセツの側で……!」 ぱぁぁんっ! 「あっ……」 セツがリネットを頬を叩いた。 リネットは呆然と、怒ったセツを見つめている。 「諦めるんですか!? 姉君様方は必死に戦ったというのに、リネット様だけは諦めるの ですか!!!?」 「セツ……」 「リネット様……貴女が生き延びれば、我々は負けじゃないのです。貴女は、こんなとこ ろで終わってはいけないのです!」 セツを見つめていたリネットは、僅かに驚いた。 セツが……自分の前ではいつも頼れる兄を演じてくれたセツが……泣いている。 自分の弱さをさらけ出すように。 セツの右腕が、そっとリネットを抱き寄せた。 「リネット様……お願いです……お願いですから……姉君様方の死を……イルクさんたち の死を……無意味なものにしないで下さい!」 「……セツ……」 月の光を浴びながら、2人はしばし抱き合っていた。 しかし、セツの鋭敏な感覚が、新たなる追跡者たちの気配を感じ取ったとき、彼の戦士 の表情が戻った。 リネットを自分の腕の中から解放する。 「さあ……お行きなさい、リネット様。」 「セツ!」 「決して……決して諦めてはいけませんよ。何があっても貴女だけは……」 セツはリネットに背を向けて、走り出す。 リネットの視界で、セツの姿がエルクゥ本来の姿に変わっていくのが映った。 「セツ!」 「あの男の元へ! エディフェル様が信じたあの男の元へ逃げるのです! 僕らの血と、 この星の民の血を継ぐ、あの男なら!」 「セツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」 闇に消えた愛する者の背中を、リネットは一瞬、追いかけようとした。 だが、リネットは足を止める。 涙を浮かべ、何かに怯えるように震えながら、リネットはその場に立ち尽くした。 しかし、それも少しの間だけだった。 「うっ……く……ひく……」 リネットが振り返る。 セツの消えた方向とは反対の……希望の光へと続く闇を。 「うぅ……うあああ……」 一歩を踏み出す。 セツとの永遠の別離を意味する、その一歩を。 そして 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 駆け出した。 何度も躓き、転びながら、身体中を擦り傷だらけにしながら。 それでもリネットは一度も振り返らず、走り続けた。 それで良いのです、リネット様……貴女だけは……何があっても、貴女だけは…… 身体中が、痛い。 涙で何も見えない。 それでも、リネットは止まらない。止まれなかった。 幸せになって下さい……貴女の幸せ……それこそがきっと……僕たちの勝利。 どれだけ走れば、この闇は終わるのだろう? どれだけ待てば、この夜は開けるのだろう? 分からない。 分からないけど、走り続ける。 セツの言葉を……兄であり、恋人であった男の言葉を、ただ信じて。 「セツ!セツ!セツ!……セツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」 その後、リネットに追っ手が迫ることは、ただの一度さえもなかった。 ・ ・ ・ ――そして 「ダリエリィィィィィィィィィィィィィィィ!!」 「次郎衛門っっっっっっっっっっっっっっっ!!」 伝説は、生まれて―― ・ ・ ・ ぱたんっ 本が閉じられる。 人では理解できない文字で書かれた、古い古い本が。 「これが……語られなかった、もう一つの『雨月山の鬼』伝説です。」 少年の声が響く。 総ての知識が眠る、ここ、図書館に。 本を閉じた手の甲に、何かの紋章が輝いたように見えた。 それも、一瞬のことだったが。 「えっ? 語られないはずの物語の本が何故、書かれているか……ですか? ふふっ、こ この蔵書の量を嘗めてもらっては困りますよ。この図書館にはどんな本だってあります。 それこそ……『書かれなかった』本でもね。」 少年が、悪戯に成功した子供のように、無邪気に笑った。 実際、辺りには、紅茶を口にして倒れた人間が倒れているが……まあ、それは関係ない。 少年が続ける。 「複雑な表情をしていますね。ははっ、あなたは優しい人だですね。でも、そんなに悲し むこともないですよ?」 少年の顔に、今度は優しい笑顔が浮かぶ。 いつものように、どこか怪しいものを含んだ笑顔ではなく、本当の優しさに満ちた笑顔。 「確かに彼らの物語が、語り継がれることはありませんけどね……でも、彼らの想いは、 確実に継がれているのですよ。そう、今も……この学園にね。」 「ふははははは! どうした、ひなた!? 自ら膝を突くなど、勝負を捨てた者のするこ とぞ!」 西山英志の笑い声が、SS不敗の修行場に響いた。 見れば、風見ひなたが、ご丁寧にも『100トン』と刻まれた重りを背負って、苦しん でいる。 隣では結城光が、後頭部から流血しながら、パターン消失寸前。 多分、組み手でやられたのだろう。 いつものことだ。 「それが『キング・オブ・エディフェル』を継ぐ者の姿か!? ほぅら、立て! 立って みせい!」 「も、紋章は、あんたが勝手に押しつけたんでしょーが! 僕は別に……ぐっ!?」 講義するひなただが、叫んだ拍子に気が抜けて、重りに潰されそうになる。 自分の理不尽な運命に、何だか腹が立ってきた。 「ふはははは! そんなことでは、悪党は俺一人、倒せんぞ! この、馬鹿弟子がぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「……それよりも、西山先生……俺も……重いんだけど……。」 『馬の人』こと悠朔の声は、上機嫌な西山の耳には届かない。 その近くの樹のてっぺんには、何故かセリスがドイツ忍者な装束で「風見! 明鏡止水 だ! 思い出せ!」などと意味不明なことをほざいている。 いつもの、SS不敗の光景だ。 遠くで楓、美加香、EDGEの3人が、のほほ〜んと彼らを見守っている。 「ほ〜んと、男って馬鹿よね〜」 「ほ〜んとに、馬鹿ですよね〜☆」 EDGEの呟きに、美加香が相づちを打った。 西山に振り回されて、必死な弟子たちの姿も、彼女たちにとってみれば、平和の光景に 過ぎない。 「ね〜? 楓さんも、さう思うでしょ?」 EDGEが笑顔で、楓に同意を求める。 一瞬、びっくりした楓だが、すぐに笑顔になって答えた。 「……ええ……でも……」 「でも?」 ……でも……素敵な馬鹿かな? 「梓先ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっっっっ!」 「梓ぁぁぁぁ! 俺を殴ってくれぇぇぇぇぇぇ!」 「だあああ! こっちに来るな!」 梓が、かおりと秋山登に追いかけれられている。 こちらもなかなか、お馴染みの光景だ。 「なんで、あたしの周りには、こんなのしか寄ってこないんだぁぁぁぁ!」 思わず泣き叫ぶ梓……無理もないが。 「梓先輩! 私とらぶらぶな一時をぉぉぉぉ!」 「何おぅ! そんなのより、俺と苦痛と官能に満ちた一時をっっっっ!」 ぷっつん。 梓が切れた。 「お前ら! いい加減に……しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 その叫びを媒体に、魔術が発動。 爆発が2人を、廊下ごと吹っ飛ばした。 「……また、誰かが暴れてるな……。」 爆音を聞きながら、久々野彰は屋上のフェンスに寄りかかっていた。 ふと、自分の手の甲を見つめる。 そこには、『エルクゥ同盟』の、そして梓の守護者の証、『ジャック・イン・アズエル』 の紋章が輝いていた。 「でも……そろそろ、この紋章にも見放されるかな?」 一人、呟く。 仕方ない……全部、自分が引き起こしたことだ。 自分には、梓の守護者たる資格は、もう無い。 だが…… 「久々野さん。」 「セリオかい? ……ん……今、戻るよ。」 フェンスから身体を離し、歩きながら、久々野は思った。 だが、自分がこの学園を退学するまで、『ジャック・イン・アズエル』の後継が決まる までくらいは、自分が守護者であることを許されるだろうと。 「は、初音ちゃん! た、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「ゆ、ゆきちゃん!? ど、どうしたの?」 学校の中庭。 泣きながら走ってきたゆきは、初音に縋り付いた。 わけも分からずに初音は混乱したが、理由はすぐに分かった。 「ゆ〜き〜、そう嫌がるな。ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっとだけ、『実験』に付き合ってもら うだけじゃないか☆(にたり)」 後ろからジン・ジャザムが、何やらでっかいバズーカーを背負って、やってきたからで ある。 顔がやたら嬉しそうだ。 「嫌だぁぁぁぁぁぁ! 初音ちゃぁぁぁぁん! 助けてぇぇぇぇぇぇ!」 ゆきも必死だ。 初音は困って、おろおろとする。 「ゆき……都合のいいときばっかり、女の子に頼って、情けなくないのかな〜? ばい・ 葛城○サト☆」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「あ、あ、あ、あの、ゆきちゃんも、ジンお兄ちゃんも落ち着いて……!」 大混乱に陥る3人。 そこに…… 「ジン君〜、ご飯作ったんだけど、毒……もとい味見してくれるかな〜☆」 「ゲゲッ! ち、千鶴さん!?」 さらなる騒動の種。 「あ、いや、その、あの、そうそう、忙しくて、俺! あっ、そのかわりに、ゆきを置い ていきますから、こいつ好きにしちゃって下さい! では……って、あべしっ!」 「くっくっくっ……逃がしませんよ、ジン先輩……」 ゆきに足首をしっかりと掴まれ、ジンは転んだ。 倒れたまま、ジンは必死の表情でゆきを睨む。 「ゆき! 貴様、裏切る気か!?」 「死なば、もろとも……ジン先輩、日頃の恨み、しっかりと晴らさせてもらいますよ…… (にやり)」 「ゆき!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「は〜い、ジン君。あ〜〜〜〜んっ☆」 「い……いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」 惨劇。 初音は千鶴たちを呆然と見つめていたが、やがて疲れたように溜め息を吐いた。 でも……本人たちは必死だが、これも平穏な学園の日常だった。 そんな平穏の中に今、当たり前のように、初音たちはいる。 それは初音の心のどこかに、触れるものがあった。 ふわっ…… 風が吹く。 新緑の匂いを運ぶ風だ。 初音は風に舞う髪を押さえながら、初音は雲一つ無い空を見上げる。 ジンたちの悲鳴と、千鶴の楽しげな声はまだ聞こえる。 そんな平穏が、 そんな日常が、 初音には、かけがえのないものに思えた。 ふわっ…… また、風が吹く。 そして、その風に乗せて ……幸せか? そんな声が聞こえたような気がした。 それは身近な声のような気がしたし、懐かしい声のような気もした。 その声は優しく、初音を包む込む。 だから、初音は答えた。 その優しい声の主たちに。 はるか遠くの、愛する人たちに。 「うん……幸せだよ……私たち。」 語り継がれることのない悲劇。 愛されることのない物語。 でも、それにどれほどの意味があるのか? だって、この想いは、 この暖かな想いは、確かにここにある。 ……そう。 愛はいつもこの胸に 永遠に消えることはない。 終わり ………………………………………………………………………………………………………… というワケで、初のLメモシリアス編、『愛はいつもこの胸に 永遠に消えることはな い』お届けしました。 皆様はろはろ。 ジン・ジャザムです。 ちなみにタイトルの元ネタは『Gガンダム』の初期OP曲のフレーズから戴きました。 以後、俺の『エルクゥ同盟』編はすべてGガン関係のタイトルとなります(『エルクゥ 同盟』の元ネタが『シャッフル同盟』だしね) 今回は当初の予定とはまったく変わって(爆)、同盟の誕生秘話……つーか、過去編も 過去編、なんか超過去編という内容になりました(核爆) なお、誤解が無いように言っておきますが、 「現在の『エルクゥ同盟』メンバーの前世が、セツたち『守護者』というワケではありま せん。」 そこら辺はあえて突っ込まず、ぼかしてあります。 だから、ジンの前世がイルクかどうかは、俺にも分かりません(笑) 同盟が継いだのは、あくまで彼らの『愛する人を護りたいという想い』であるといった ところでしょうか。 ちなみに前世パートの『守護者』たちの名前は ●エイジ→西山「英志」の読み方を変えただけ。 ●イルク→たしか「ロードス」で風の精霊王(つまり「ジン」)の名前が「イルク」だっ た記憶があるから(爆) ●ショウ→久々野「彰」から。説明不要ですな。 ●セツ→「ゆき」が「雪」で音読み(笑) という由来です……安直ですな。 さてさて、ここまで読んで、 「おいおい。じゃあ『ブラック・カオリ』はどうしたんだよっ!?」 とか 「なんで西山さんは紋章を捨てたんだよっ!?」 とかで、疑問がたくさんのお方(笑) その答えは『エルクゥ同盟』編、次回作。 『燃えよ闘志 忌まわしき宿命を越えて』 で、明らかになる予定(核爆) しかし設定が、当初の予定から相当変わったので、時間かかりそう(ハイドさん、御免 よぅ……汗) まっ、頑張って書きますので(汗汗) では、次回予告!(変更の可能性もあり(爆)) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 次回予告(っていうか、台詞だけ) 「何故だ?……何故、エルクゥ以外の者が、紋章に選ばれる?」 「何?……このプレッシャーは!?」 「これが、紋章の真の意味なのか!?」 「耕一! 貴様さえいなければぁぁぁぁぁぁ!!」 「フルパワー! エディフェル!天狂拳!!!!」 「まだ、分からないのですか? 貴方は次郎衛門に敗れたわけではない……」 Lメモエルクゥ同盟編 『燃えよ闘志 忌まわしき宿命を越えて』 「俺は! こんなことのために、強くなったんじゃあねぇぇぇぇぇ!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ……意味不明(爆)