Lメモ私的外伝7「静寂……嵐の前の一時」 投稿者:ハイドラント
  ダスト・リーフ計画  第二十六次中間報告  


資料十四 『塔』特殊研究機関で開発された強化人間について


第一項 『11スプリガン』(十一の魔人)

  プロトタイプ零型からラストタイプ終型に至る、十一体の実戦用強化人間。
  これらは総じて11スプリガンと呼ばれる。
  共通する特徴として、エルクゥ種族に匹敵する身体能力、魔術を始めとする
特殊攻撃に対する高い耐性、そして僅か数年という短い寿命、等が挙げられる。


【強化人間零型「始羅(シラ)」】
  実戦用強化人間のプロトタイプ。肉体の変質に精神が耐え切れず、完成直後
に狂死。精神制御システムを基本から再検討させるだけの結果に終わった。
  肉体は凍結され保存されていたが、研究機関壊滅の際、柏木賢志が回収。そ
の後、教え子のハイドラントに託される。
  現在は「計画」の実験サンプルとして使用されている。

【強化人間壱型「皇華(オウガ)」】
  強化人間のテストタイプ一号。強力な魔術を使う事が可能で、その戦闘能力
は強化人間中でも傑作と言われた弐型紫音・参型時雨に匹敵するが、精神制御
システムが完全に失敗した為、ろくにテストも出来ないうちに暴走、すぐに凍
結された。弐型紫音の試運転の際に標的として使われ、処分される。
  が、皇華は研究機関の予想をすら超える耐久能力・再生能力を発揮し、生存。
そこを強化人間の事を調査中だった柏木賢志に発見され、回収された。零型と
共にハイドラントに託される。
  なお、皇華は女性である。

【強化人間弐型「紫音(シオン)」】
  強化人間のテストタイプ二号にして、最初のパーフェクションタイプ。この
弐型で、懸案だった精神制御システムは(なお不安定ではあったが)一応の完
成を見た。
  参型時雨と共に強化人間の最高傑作と呼ばれ、その戦闘能力は、某国特殊部
隊の一個中隊を一人で壊滅させた事もあるほど。耐久能力も想像を絶し、来栖
川綾香の「禁呪」を受けても完全破壊されることはなかった。
  後に精神制御システムの支配を断ち切って『塔』から脱出、討伐隊として派
遣された魔術士を多数屠りつつ逃走するが、Runeとハイドラントの手でつ
いに殲滅された。この時も、戦闘訓練を受けた魔術士二人を殺し、ハイドラン
トに片腕を失う重傷を負わせている。
  その後、何故か精神がこの世に留まり、結城光に憑依する。

【強化人間参型「時雨(シグレ)」】
  強化人間パーフェクションタイプ。弐型紫音と並ぶ強化人間の双璧。
  研究機関壊滅の際、姿を消す。現在の所在は不明。

【強化人間肆型「村雨(ムラサメ)」】
  強化人間パーフェクションタイプ。女性。
  これも現在は行方不明。
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第二項 『アルファベットナンバー』

  アルファベットのナンバーを振られている強化人間は、11スプリガン以外
の実験体である。これらの実験体は実用を考慮されなかったため、多くは無茶
で強引な改造実験を受け、殆どが命を落とした。
  下に挙げたのは数少ない生き残りである。彼ら以外にも生存者がいるかどう
かは、不明。


【強化人間死型「四季(シキ)」】
  正式な型番はC型であるが、その異色の能力故に死型と呼ばれていた。又の
名を「式鬼使い(シキツカイ)」。
  肉体より精神の改造を重点的に施された強化人間。精神制御システムの実験
体であったが、実験の過程で半ば偶然的に特殊な精神操作能力を得た。他者の
精神を支配下に置き、そしてその潜在能力を引き出すという能力である。
  この能力は強化人間の開発に大きく関与した。
  また、自分の意志で性転換することが出来るという、特殊な肉体改造を受け
ている。これがいかなる意図の元に施された改造なのか、正確な所は不明。お
そらくは担当者の遊びだと思われる。

【強化人間F型「広瀬ゆかり」】
  彼女の場合、簡単な肉体強化を始めとする幾つかの実験の被験体として使わ
れた。
  久々野彰の妹から(非合法に)臓器移植を受けており、そのため久々野の復
讐を恐れた両親が、命は守るという条件で『塔』に引き渡し、強化人間の実験
体に使われたのである。
  現在、学園の風紀委員長。
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                          Lメモ私的外伝7




  今回は、強化人間戦役を描いた、結城光作「心と絆」の外伝です。
  勿論、強化人間編時空を前提にしています。あと、一応「塔」編時空も。
  時間的には、「心と絆」プロローグの直前です。
  強化人間編本編の設定的フォローの為に書いてみましたが……成功したかな?
  では、どーぞ。




                      「静寂……嵐の前の一時」




「ふん……」
  男は手にした書類の束に一通り目を通すと、小さく口元を歪めた。
「『11スプリガン』にこだわっているようだな……あの男は。」
「はっ…」
  男の呟きに、脇に控えていた者が答える。
「我々が密かに調べた所によると、かなりの数の調査員を各地に派遣している
ようです。」
「……愚か者め。既に野垂れ死んでいるかもしれぬ連中を探してどうしようと
いうのだ?」
  男は不愉快そうに鼻を鳴らすと、書類を乱暴に机の上に叩き付けた。
「あの男に伝えろ。ダウアーセリオとオーガセリオの開発を急げ、費用は必要
なだけ出してやる。
  ……焦らすのもいい加減にしておけ、とな。」
「ははっ!」
  部下が去った後、男は窓に歩み寄った。
  カーテンを開ける。
  月光が部屋に差し込み、男の体を白く照らす。
「まだだ……」
  満月を見上げつつ、彼は挑戦するように呟いた。
「まだ、強化人間計画は潰えた訳ではないぞ……柏木賢志!」


  結城光は、ベッドに寝転がったまま、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
  綺麗な円形を描く満月が、夜空の中で控えめに輝いている。
(……不吉だな)
  彼は内心でそう決め付けた。
  根拠は何もない。ただなんとなくそう思っただけだ。
  ……もしかすると、この胸の内の漠然とした不安を、とにかく何かのせいに
してしまいたかっただけなのかもしれない。
「紫音……」
  光は虚空に――いや、虚空に浮かぶ青白い光体に呼びかけた。
「……起きてます?」
(ああ。)
  光体からの返事は、すぐに返ってきた。
(眠れないのか?)
「紫音こそ……。もう寝ちゃってると思ってました。」
  光は少し嬉しそうな顔をして言う。
  紫音が側にいる……それを認識しただけで、不安感が和らいだような気がし
たからだ。
(早く寝ろよ……。明日も西山さんの所で修行だろ?)
「そうですけど……なんか寝付けなくて。紫音も?」
(……いや。今日はちょっと、昼寝してたもんでな。)
「いつ?」
(授業中。)
「駄目ですよ紫音。そろそろ試験なんだから、授業は聞いとかないと。」
(はいはい…)
「そういえば、今日の授業中……」

  紫音は光の話に相槌を打ちながら、胸の内の想念を追っていた。
  ……予感がする。
  今の平穏を崩してしまう、何者かの足音が聞こえる。
(光……お前もそれを感じているのか?)
  胸中で呟く。
  平穏。
  図書館は毎日のように爆発し、Dセリオとジンの戦闘は校庭を打ち砕き、エ
ルクゥ同盟とダーク十三使徒は小競り合いを繰り返す……。
  それでも破局は訪れない。穏やかな波のように、同じ事を繰り返す毎日。
  これが平穏でなくて何なのだろう。  
  だが今、大きな波が到来し、全てを押し流そうとしている……。
(……考え過ぎだ。)
  紫音は苦笑した。
  まだ事件が起こると決まった訳でもないのに、勝手な想像で憂鬱になっても
仕方がない。
  ふとベッドを見ると、何時の間にか光は穏やかな寝息を立てていた。
(光……)
  お前は、俺がいなくても大丈夫か……?
  嵐が来ようと来るまいと……俺がお前の側にいてやれる時間は、もう残り少
ない。
  残されたお前は、ちゃんと一人で立てるだろうか?
(光……どうかお前が強く生きられるように……)
  紫音は、知らず知らずの内に月を見上げていた。
  ……そして、ふと気付く。
  今、自分が、生まれて初めて、神に祈りを捧げた事に。  


  Leaf学園、第二茶道部部室。
  先日まで、「第二茶道部」の存在は、公的には認められていなかった。
  ある男が勝手に学園の一角に純和風の小邸を建て、第二茶道部を名乗ってい
ただけだ。
  生徒会は、顧問の教師がいなければ部活動として認可する事は出来ない、勝
手なことをしてもらっては困る、と通告したが、彼は全く聞く耳を持たなかっ
た。学校の規則などというものに、彼は晴れた日の傘ほどの価値も認めていな
かったのである。とにかく可能な限り物事を整理整頓してまとめておきたい生
徒会の事情など、なおさら知った事ではなかった。
  だがつい先頃、この部活の顧問に志願した奇特な教師が現れたため、生徒会
は公式団体として正式に認可したのである。
  ……彼にはどうでも良いことだったが。
  彼はただ、自分の趣味に合った落ち着ける場所を欲し、それを作らせただけ
なのだから。それを他の人間達がどう認識するかなどということは、完全に興
味の外であった。
  自分の欲求を満たす事――彼の行動原理は、ただそれのみであった。

「……11スプリガンについては以上です。次に、BHMX−13Zについて
ですが……」
  月明かりに照らされている庭を眺めつつ、ハイドラントは黙って茶を啜って
いた。
  その後ろで、第二茶道部顧問・飯塚弥生が、報告書を読み上げている。
  表向きの立場は生徒と教師……そして裏の立場は、十三使徒の首長とその副
官。
  十三使徒。
  既成の価値観とは異なる、「ダーク」の価値観に基づく理想社会の建設を目
指す百人余りの構成員からなる集団……と、一般には知られている。
  だがハイドラントの真の目的が、それとは全く別のものである事を知ってい
る者は、極めて少ない。
  十三使徒の長は、心の内を窺わせない無表情のまま、弥生の言葉に耳を傾け
ている。
「特殊改造を施したHM−13と『壱型』の複合は、ほぼ安定しました。精神
にも問題はありません。HM形態・壱型形態間の変性も、自在にすることが可
能です。
  ……第一段階は、ほぼ満足のいく成功を収めたと言って良いかと。」
「…………」
  ハイドラントは黙って頷いた。
  手を傾けて茶を飲み干し、空になった碗を弥生の方に差し出す。
「もう一杯頼む。」
「……はい。」
  かちゃ……
  かしゃかしゃ……
  慣れた手つきで茶を点てる様子を眺めつつ……ハイドラントはふと天井を見
上げた。
「……葛田か」
「はい」
  彼の呼びかけに、天井裏に潜む者が答える。
  葛田玖逗夜。使徒見習いであり、密偵・伝令の任を負うことが多い。
  今日の役目は伝令であった。
「上の連中は何と言ってきた?」
「開発を急げ、と。それと……焦らすな、だそうです。
  こちらが11スプリガンの調査に多くの人員を割いている事に、ようやく気
付いたようですね、連中は。」
  天井裏の声が笑みを含む。
「ふん……別に焦らしている訳ではないさ」
  ハイドラントは小さく鼻を鳴らすと、弥生が差し出した茶碗を手に取った。
「11スプリガンの方が優先事項……そう判断したまでのこと。
  それに、事を急ぎ過ぎれば失敗するという事が、まだ分かっていないらしい
な。前の強化人間計画の失敗を忘れたのか、奴は……」
「では、どうします?」
「決まっている。11スプリガンの調査を続行。ようやく奴らの足取りが見え
てきたのに、ここでやめる訳にはいかん。
  上の連中には……ダウアーセリオの試作機を一体回しておけ。当分はそれで
満足するだろう。」
「了解、そのように処理します。では……」
  天井裏の気配が消える。
  ハイドラントはそれを見送るようにしばし天井を見上げていたが、やがて顔
を下ろすと茶碗を口元に寄せた。
  心地よい苦さが口の中に広がる。
  彼は一つ息をつくと、再び庭を眺め、そしてその上の夜空に目を向けた。
  満月が晧晧と輝いている。
「……望月の欠けたることもなしと思えば……」
  古い和歌の一節を口ずさむ。
  千年前、ある傲慢な男が、自分の権勢を誇って詠んだ歌だ。
「ふん……この世は我が世、か。幸福な奴だ……」
  彼は嘲るように笑った。
  その嘲りは、傲慢な貴族に向けられたものか、それとも――
「いつだってそうだ。手に入るもので満足出来る者だけが、幸福になれる。
  手に入らないものを望む者は……常に不幸だ。」
  それとも、自分に向けられたものか――
「そうは思わないか、弥生さん……」
「…………」
  弥生は答えず、ただ彼の後ろで静かに月を見詰めていた。


  嵐の前の静けさ……
  それも、その静寂の中にいる者にとっては、ただの平穏でしかない。
  後になって、あれは嵐の前触れであったと気付くのだ。
  ……だが、嵐が訪れる前にその姿を感じ取れる者もいる……

  柏木耕一は、自室でひとり、瞑目して座っていた。
  血が、騒ぐ。体の奥で、力が蠢く。
  鬼の血を伝える一族、柏木家の中でも最大の力。
  耕一の中に眠る地上最強の力が、満月の光のためか、それとも迫り来る嵐を
感じ取っているためか……大きく脈動している。
「…………」
  これから何が起ころうと……彼がする事は一つ。
  千鶴、梓、楓、初音。
  彼女たちを守る。
「そう…それだけだ……!」
  絶対の意志を込めて、彼は呟いた。

  西山英志も、平穏の終わりを……「変化」の予兆を感じ取っていた。
  だが、彼の心が波立つ事はない。
  彼の拳は、常にただ一つのものを守る為にある。
  ……柏木楓。
  学園がどう変化しようと、それだけは決して変わる事はないのだ。  

「いい月だ……」
  柳川裕也は、月を見上げて笑っていた。
「絶好の狩猟日和だな……」

  ジン・ジャザムは豪快にいびきを立てて眠っていた。
  常に戦いと共にある彼にとって、これから来る嵐もその一つに過ぎないのだ。

  来栖川綾香は、静かに窓の外を眺めていた。
  月を見て何を思うのか、その表情から窺い知ることは出来ない。

  へーのき=つかさは、Dシリーズの整備の真っ最中だった。
  今夜は徹夜である。急いで済ませなければならないような気がしたからだ。
  なぜ自分がそんなに焦っているのか、彼自身良く分かっていなかった。

「瑠璃子……」
  月島拓也が思う事は、どんな時でも一つだけだ。

  きたみちもどるは、なかなか寝付かない静に苦労していた。
「いつもは、布団に入ればすぐに寝るのになぁ……」
  それが、彼が感じている不安を彼女も感じているからだとは知る由もない。

  佐藤昌斗は、一心に愛刀の手入れをしていた。

  久々野彰は一向に訪れない眠気を待ちながら、手にした本のページをめくっ
ていた。

  風見ひなたは、自分とその周りの事について考えていた。
  師匠の事、弟弟子のこと。
  そして、一つの決意を固めつつあった。

「式鬼使い」の四季。
  かつて強化人間死型と呼ばれた者には、不安はあっても迷いはなかった。
  今の彼――いや彼女には、守るべき者がいたからだ。

  第二茶道部部室の最奥……
  そこに置かれた培養漕の中に、一人の少女がいる。
  歳は十二、三というところ。
  真紅の髪。猫科の獣を思わせる、金色の瞳。
  そして――「誰か」に似ている、その顔立ち。
『BHMX−13Z 試作型掃討戦用HM オーガセリオ』
  培養漕に貼られたラベルには、そう記されていた。
  何もない虚空に向けて、彼女は小さく呟く。
「兄様……私も戦わねばならないのですか…?」


  ……一方。
  嵐を運ぶ者達は……

「時は来た」
  とある場所、とある一室。
  一人の男が、七人の仲間を前に宣言していた。
  彼の名は時雨(シグレ)。
  強化人間参型「時雨」。
「Leaf学園を襲撃する。優れていたのは我らである事を証明するために。」
  彼の宣言に、仲間たちは無言で賛意を示す。
  肆型「村雨(ムラサメ)」は、小さく首を頷かせた。
  伍型「牙王(ガオウ)」は、鋭い犬歯を剥き出してみせた。
  陸型「轟炎(ゴウエン)」は、拳を掲げた。
  漆型「凶馬(キョウマ)」は、大きく口元を歪めた。
  捌型「幻翔(ゲンショウ)」は、不敵に笑った。
  玖型「蒼虎(ソウコ)」は、目だけで頷いた。
  そして……
  彼らから少し離れた所に置かれた椅子にも、一人の魔人が腰掛けていた。
  それは、時雨の言葉に何らの反応も示さなかった。
  終型――最強の強化人間は、ただ静かに、七人の仲間を見守っている。


  役者が揃い、
  舞台が整い、
  そして、時が来る。

「強化人間戦役」の幕開けは、目前に迫っていた。




                     Lメモ私的外伝7「静寂……嵐の前の一時」 END


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  SS使い、全員出せなかったぁ……。
  一度全員参加Lメモってのを書いてみようかと思ったんですが。
  佐藤さんを書いた辺りで表現能力が限界に達しました(笑)。
  やはり無謀だったか。

  本当は、今回は春夏さんへのお礼SS書くつもりだったんですけど……。
  設定がないから挫折(笑)。

  今回の話、強化人間編の外伝ではありますが、いずれ書く(はずの)Lメモ
悪夢編の伏線も張っています。
  十三使徒を初めとするダーク属性の持ち主が暴走しまくり、キャラが死にま
くる話ですが……書き始めるのはかなり先のことになるでしょう。
  東鳩SSと強化人間編が完結した後になると思います、おそらく。

  最後に。
  光君、はよ本編書け(笑)。