「日常、あるいは平穏な日々」 【愛の平行四辺形】 某月某日。 図書館前は例によって戦場であった。 「柏木千鶴! 今日こそは耕一さんを解放してもらうわ!」 「えーい黙りなさい、このドロボー猫!」 EDGE、そして柏木千鶴。 愛に燃える、二人の女が対峙している。 それは美しさと共に、どこか哀しみめいたものを見る者に感じさせる光景で あった。 その哀しみは、美しい女性が相争うということに対するやるせなさから来る ものなのか。 それとも、ロープで縛られて猿轡をかけられ、何故か「賞品」とかいう札を 貼られている耕一の姿が涙を誘うのであろーか。 「うーうー!(涙)」 「ほら、聞いたでしょ? 耕一さんも『この鬼婆から僕を解放してくれ、美しい EDGEさん』って言ってるじゃない!」 「何を聞いてたのよあなたはっ! 耕一さんは今『そこにいる愛の障害を排除す るんだ、最愛の千鶴さん』って言ったのよ! そういう訳だから覚悟しなさい!」 「・・・『助けてくれ』って言ったんじゃねーかな、今の。」 「うむ。私も同意見だ。」 熱い女達から少し離れた所で二人の人間、てゆーか一体のロボットと一人の 怪人がぼそぼそと呟き合っていたが、取り敢えず彼女らには聞こえなかった様 である。 「あ、暴力に訴えるつもりね、この鬼婆! あなたと違って私はか弱いのに。 とゆーわけで殺戮狂的魔道怪人ハイド君、出番よ!」 「あの、師匠・・・じゃなかったEDGEさん、その呼び方やめてくれるとちょっ と嬉しかったりするんですけど・・・」 「そっちがそう来るのなら、こっちも爆熱暴走破壊兵器を使わせて貰います! さあ、ジン君!」 「・・・らぢゃー・・・」 女達に代わり、その下僕というかアイテムというか、ちょっとひねって愛の 小道具という感じの二人が前に出て対峙する。 そして、すぐさま戦闘態勢に移行した。 「・・・・・・!」 「・・・・・・!」 二人は、何も言葉を発しなかった。 戦士に言葉は必要ない。 なぜなら、戦士は剣によって会話するからだ。 あなたには聞こえるか? かれらの魂の叫びが! 痛みの声が! 「ロケットパーンチ!」 おら死ね! いーから死ね! ここで負けたら俺には明日がねーんだっ! 「プアヌークの邪剣よ!」 それはこっちも同じだっ! 貴様こそ私の幸福の為の犠牲になれっ! 「バスターミサイル!」 ふざけんな! よりによってお前みたいな変態怪人の犠牲になってたまるかっ! 「黒い牙!」 ロボット三等兵の分際で、人間様の役に立てるだけでも有り難いと思えっ! 「ブレストファイアー!」 やかましい真っ黒黒助! 大体何が人間様だ、お前に比べりゃ俺の方がよっぽ ど人間に近いわい! 「エルクゥの拳よ!」 全身の95パーセントが無機物のくせに何言ってやがる! ・ ・ ・ ・ 「んっふっふ。情報によれば、今頃は千鶴先生とEDGEさんが戦っているは ず・・・。二人が疲れきった所を不意打ちして始末してしまえば・・・ああ! 晴れて耕一さんは私のもの〜♪」 「お前・・・ほんとに陰険だな・・・」 二人の人間が図書館に向かっている。 ゆきとM・Kの兄妹であった。 「ああ・・・許してねEDGEさん。所詮友情は愛の前には無力なのよ・・・」 「・・・口元の笑いに誠意がないぞ、おい。」 「ああ聞こえない。何も聞こえないの〜♪」 などと言い合いながら、二人が図書館前に到着した時。 やたらと気合の篭った二つの叫びが轟いたのは、その瞬間であった。 「いっけええええええええええ! 二十連装ミサイルゥゥゥゥゥ!!!」 「おどりゃあああああああ! 全力魔術・ガディムの叫びよぉぉぉぉぉ!!!」 「・・・え?」 「・・・はい?」 白い光が、全てを飲み込んだ。 「L学園放送より、臨時ニュースをお知らせします。 先ほど図書館前にて、ジン・ジャザムの撃った二十連LRMと、ハイドラン トの放った攻城戦術級魔術が激突し、図書館が全壊。 その際、近くにいた柏木千鶴先生、EDGE、ゆき、M・Kらが巻き込まれ た模様です・・・」 追記。 この後、ジンは千鶴の手によって、簀巻きにされた上校舎の屋上から逆さ吊 りの刑に処された。 追記2。 ハイドラントはコンクリートの塊と一緒に海に放り込まれた。 追記3。保健室。 「兄さんをこんな目に合わせて! 許さないわ、あの二人!」 「とっさに実の兄を盾にしやがって・・・こいつは・・・」 そこには、怒りに燃えるM・Kと包帯まみれのゆきがいた。 【最強図書館の誕生】 「やれやれ・・・どうしたもんか・・・。」 榊宗一は悩んでいた。 彼が勤めている図書館の事である。 「いくら図書館のスペアがいくらでもあるからって、毎日毎日壊されるのは困 るんだよな。後始末するのは俺だし、まさた館長に怒られるのも何故か俺だし。 何とかならないかな・・・ならないよな、やっぱり。」 はう。 思わず溜め息をついた榊に、とことこと近づいて来た影が一つ。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「ん・・・ああ、木風か。何でもないよ。」 心配そうな顔の少女に、榊は疲れた声で笑ってみせた。 「世の中には、どうにもならない事がある。それは分かっているんだけど、時々 愚痴の一つもこぼしたくなるんだ。 ・・・なんて言っても分からないか、木風には。」 「・・・ううん、分かるよ、お兄ちゃん。」 (つまりお兄ちゃんは、図書館をいつもいつも壊されちゃうことで困ってるん だね。なら、わたしが助けてあげなくちゃ。) 「木風?」 「・・・うん。大丈夫、お兄ちゃん。木風に任せておいて!」 「ほほう・・・それで、私の力を借りたいと言うのだな?」 「うん。先生なら、何とか出来るでしょ?」 「ふふふ、丁度いい。一つ試してみたい事があったのだ・・・。」 数日後。 「いないな、ジン先輩。」 「ええ。場所はここでいいはずなのですが・・・」 へーのきとDセリオ。 例によってというべきか、ジンからの挑戦を受け、図書館前にやってきたの だが。 「そういえばこの図書館、なんか最近壊れなくなったって聞いたな。 以前は一日一度は壊されてたのに。」 「噂に聞いたのですが、何でも防衛施設が整えられたとか・・・」 「防衛施設?」 「――その通り!」 へーのきの声に答えたのは、Dセリオではなかった。 「柳川先生!?」 「ふふふ、その防衛施設を整えたのはこの私だ。 詳しい話を聞きたいようだな?」 「いいえ」 「ちっとも」 「よかろう! では説明しよう! 私はある者から、毎日毎日図書館が壊されるのを何とかしてくれと相談を受 けた。 そこで私は考えた――図書館を破壊から守るためにはどうすれば良いか? 答えは一つ! 図書館自体が戦闘能力を持てば良い!」 「・・・はあ・・・」 「後は論より証拠! これを見るがいい! ――メカ図書館、トランスフォーメーション!!!」 「・・・はあ!?」 「・・・はい!?」 がこん! 柳川が叫ぶや否や、図書館が突然鳴動を始めた。 ごがが・・・ どごん! がががが・・・・ じゃきん! ずがががが・・・・ ごぎん! ――数十秒後。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 巨大な人型メカに変形した図書館が雄叫びを上げた。 「見たか!」 柳川が歓喜の声を上げる。 「これこそ、汎用人型決戦図書館、ジン・ジャザム=マシンGX!」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「ふっ、二人とも驚愕と恐怖のあまり声も出ないようだな。まあ無理も無いが。 さあ、ジン! 今日こそ屈辱を晴らすのだ!」 「おおおおおおお! Dセリオ、勝負ぅぅぅぅぅ!!」 気勢を上げるジン。 それを見ながら、へーのきがぼんやりと言った。 「・・・取り敢えず・・・Vセリオで戦おーか・・・」 「そーですね・・・」 Dセリオもぼんやりと答えた。 なお、このジン・ジャザム=マシンGXは。 なんと、Vセリオの攻撃を二十七秒もの間耐え抜いたそうである。 ついでに。 榊宗一は、反省房に放り込まれた。 【影なる戦い】 「・・・dye君ですか。」 ある日の午後。 執務中の久々野彰は、突然背後に現れた気配に、振り向きもせず声を投げか けた。 「ええ。少々報告したいことが・・・」 dye。 久々野の手足とも言うべき、「草」の一員である。 彼の言葉を聞き、久々野はぴくりと眉を動かした。 「・・・ダーク十三使徒の事ですか?」 「はい。」 ダーク十三使徒――ハイドラントが率いる謎の集団。 久々野は、それに対して最初は大した関心も寄せてはいなかったが、一応「草」 を派遣して調査に当たらせていた。 が、十三使徒の首長ハイドラントは、久々野と同じく「塔」で柏木賢志の教 えを受け、彼から暗殺技術と共に諜報技術を受け継いだ者である。 その情報プロテクトは予想以上に堅く、さしもの「草」も、これまでめぼし い情報を掴む事が出来ずにいた。 「どんな情報ですか?」 「密書を手に入れました。おそらくは、ハイドラントが使徒見習いの葛田に宛 てたものかと。」 そう言って、dyeは久々野に封書を手渡した。 確かに、宛名は「葛田君」となっている。 封は切られていない。 「中を見てはいないのですね?」 「無論です。」 dyeはきっぱりと言った。 (ただの昼行灯かと思っていたが・・・意外に使える男だな。) 久々野は満足そうに頷くと、鋏で封書を切り開く。 そして中の手紙を読んでみる。 (やれやれ・・・) その久々野の前で、dyeは胸中で一息ついていた。 (これでしばらくは怠けてられるな・・・。たっぷり昼寝しよ。) ・・・そんな事を思っていたdyeは、久々野の表情の変化に気付かなかっ た。 「・・・dye君。」 「はい?」 突然呼ばれ、dyeは顔を上げた。 久々野はにっこりと笑っている。 「読め。」 「は?」 「いいから読みなさい。」 「? は、はあ・・・。」 訳が分からなかったが、dyeは手紙を受け取った。 取り敢えず、声に出して読んでみる。 「えーと・・・。 『やあ、久しぶりだね久々野君。 このところ、十三使徒の事を色々と調べてくれているようで有り難う。 しかし、dye君と言ったかな? 中々面白い部下を持っているね。 私の近辺を探るのに、ゴジラの着ぐるみを着たり、カーネルおじさんの格好 をしたりと、実に面白い変装を見せてくれた。 郵便ポストの格好をしながら私の後を尾行してきた時は、面白すぎて自爆し そうになってしまったよ、はっはっは。 あまりに愉快だったもので、この手紙をdye君のポストに投函してみたの だが、ちゃんと君の許に届いただろうか? では、アディオース!』」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 久々野は笑顔のままである。 仕方ないので、dyeも笑顔を浮かべた。 にっこりと、久々野が聞いてくる。 「で?」 「・・・で?」 「で、この状況で、私はどうするべきだろうか? dye君の意見を是非とも聞 きたいね。」 「えーと・・・」 dyeは――久々野の視線が自分の喉笛に集中しているのを感じつつ――暫 く考えて、言った。 「取り敢えず昼寝して、今あったことを全て夢にしてしまうというのはどうで しょう?」 「素晴らしいね。」 そう言って―― 久々野は、机の上のボタンを押した。 がこん。 「へ?」 dyeの足元の床が開く。 「あー・・・・・・・・」 ごきゃ。 床下から、首の骨が折れたかのような鈍い音がした。 その後。 久々野は精神安定剤を飲んで昼寝した。 Lメモいんたーみっしょん2「日常あるいは平穏な日々」END